日本障害者歯科学会雑誌
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44 巻, 2 号
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講座
宿題報告
原著
  • 鈴木 香保利, 小笠原 正, 増田 裕次
    2023 年 44 巻 2 号 p. 131-142
    発行日: 2023/06/30
    公開日: 2023/10/31
    ジャーナル フリー

    初診時に口腔内診査をスムーズに受け入れることができなかった自閉スペクトラム症者(以下ASD者)に対して行動療法を用いたトレーニングを行い,トレーニング効果の要因について検討した.対象者は2019年4月から2022年12月までに来院した初診のASD者81名とし,そのうち,口腔内診査をスムーズに受け入れられなかった41名をトレーニング対象とした.暦年齢,性別,発達年齢,強度行動障害,障害特性,過去の歯科治療経験,医科治療経験について調査し,「車から出る」から「口腔内診査」「歯科器具」までの13ステップのトレーニングを行い,行動を観察し評価した.Fisherの直接確率計算と決定木分析により分析し,検討した.分析の結果,トレーニングの「完了/未完了」には発達年齢のすべての項目,強度行動障害の総合点数,「奇声」「常同行動」「感覚過敏」「医科抑制経験」が影響していた.言語理解の発達年齢が2歳7.5カ月以上で「常同行動」のない者全員がトレーニングを「完了」することができ,未知の器具への理解と過去の「医科抑制経験」による恐怖心を消去できる可能性が示唆された.決定木分析の結果,ASD者のトレーニングの可否は,発達年齢が最も重要な条件で障害特性が可否に影響していた.ASD者において,口腔内診査やポリッシングができれば定期健診を地域の歯科医院で身体抑制(以下抑制)されることなく受けられ,口腔衛生指導を受け,口腔衛生状態を改善する機会ができる.

症例報告
  • 大野 由夏, 髙木 沙央理, 長谷川 彰彦, 小長谷 光
    2023 年 44 巻 2 号 p. 143-150
    発行日: 2023/06/30
    公開日: 2023/10/31
    ジャーナル フリー

    中等症大動脈弁狭窄症を有する超高齢者の全身麻酔を経験した.

    患者は100歳女性,身長132.5cm,体重44.3kg.既往歴に高血圧症があった.失神,胸痛既往,歩行時の息切れはなかった.右側口蓋部に腫瘍を認め全身麻酔下口蓋腫瘍切除術を予定した.心臓超音波検査で重症に近い中等症大動脈弁狭窄症,軽症僧帽弁閉鎖不全症,左室壁運動軽度低下,左室駆出率軽度低下(50%)を認めた.胸部エックス線写真で軽度心拡大,血液検査で脳性ナトリウム利尿ペプチド上昇(63.2pg/ml)を認めた.全身麻酔は静脈路よりミダゾラム1mg,レミフェンタニル塩酸塩0.25µg/kg/min,ドパミン塩酸塩5.9µg/kg/min持続投与,1%デスフルランでマスク導入し就眠した.血圧低下に対しドブタミン塩酸塩5.0µg/kg/minの持続投与を開始したところ頻脈を生じたため投与中止し,ノルアドレナリン0.08µg/kg/minの持続投与を開始した.維持をデスフルランからプロポフォールに変更し術中循環動態を保つことができた.術後経過良好で術3日後に退院した.

    平均寿命の延長に伴い高齢者の手術は増加している.高齢者に対する手術適応は年齢,全身状態と合併症,術式などの要素によって決定される.患者の意欲,日常生活動作を重視し,手術適応や術式の妥当性を考慮したうえで全身麻酔を施行し原疾患を治療することは,患者の生活の質向上につながる可能性がある.

  • 髙木 沙央理, 安藤 槙之介, 森山 詩織, 南淵 翔平, 原田 達也, 大野 由夏, 小長谷 光
    2023 年 44 巻 2 号 p. 151-158
    発行日: 2023/06/30
    公開日: 2023/10/31
    ジャーナル フリー

    高齢発症てんかん発作の既往を有する認知症高齢患者に対して複数回の静脈内鎮静法管理を行い,術後てんかん様発作の対応に苦慮した症例を報告する.本症例は認知症によって歯科治療に非協力となり,静脈内鎮静法を併用することとなった.全9回の静脈内鎮静法下歯科治療のうち3回で,てんかん様発作が生じた.1回目のてんかん様発作は,3回目の歯科治療診療後の麻酔からの覚醒時に認められた.フルマゼニル使用による離脱症状が疑われたため,4回目の歯科治療ではフルマゼニルを使用せず,覚醒中にてんかん様発作を生じた.プロポフォール使用による神経興奮作用によりてんかん様発作が誘発された可能性を疑い,5回目以降はプロポフォールを使用せずに麻酔管理を行った.8回目の歯科治療では7mgのミダゾラム投与が必要となった.麻酔覚醒不十分のためフルマゼニルを使用したところ,てんかん様発作を生じた.てんかん発作を有する患者へのプロポフォールおよびフルマゼニルの使用は,てんかん発作の誘因となる可能性がある.

  • 高井 経之
    2023 年 44 巻 2 号 p. 159-165
    発行日: 2023/06/30
    公開日: 2023/10/31
    ジャーナル フリー

    筋機能訓練装置であるムーシールド®は,既製品として販売されているためそのまますぐに使用が開始でき,印象採得による拒否行動の誘発や装置作製のための時間的ロスもないため,障害児に対しても適用可能な症例があると思われる.今回,前歯部交叉咬合となった自閉スペクトラム症児の3症例について本装置にて被蓋関係の改善を試みたので報告する.

    3症例とも発達年齢は3~4歳台で口腔内診査は受け入れる状態であり,極度の口腔周囲の過敏性や悪習癖などもなかった.最初に本装置をTSD法にて見せて,触らせてから口腔内に挿入した.着脱のトレーニングを数回させた後に,1分間口腔内に保持させた状態で口唇閉鎖や鼻呼吸が可能なことを確認してから使用を開始した.

    3症例中2症例は就寝時の使用が困難で日中に1~2時間程度の使用にとどまったが,母親の協力により毎日使用を継続し1年程度で被蓋が改善した.もう1症例は使用開始から1週間後には就寝時の使用が可能になったため2カ月で被蓋が改善した.

    自閉スペクトラム症児で前歯部交叉咬合がみられた場合には,本装置を第1選択として試みる価値があると思われた.日中に数時間程度でも使用が可能であれば矯正治療への慣らしトレーニングを兼ねて1年程度を目途に使用を継続し,さらに就寝時に使用できた場合には,早期に被蓋改善が見込めることが示唆された.

  • 加藤 陽子, 田村 文誉, 高橋 賢晃, 水上 美樹, 菊谷 武
    2023 年 44 巻 2 号 p. 166-172
    発行日: 2023/06/30
    公開日: 2023/10/31
    ジャーナル フリー

    脳性麻痺(以下,CP)において流涎や嚥下障害の有病率は半数程度とされ,軽度CP児であっても咽頭期嚥下障害は多くみられるが,CPの摂食嚥下障害に対する介入エビデンスは限られている.上喉頭神経への刺激による嚥下反射惹起を目的とした干渉波電気刺激法(以下,IFC)は,成人においては嚥下反射を改善したとする報告が複数あるが,小児における報告は少なく,持続吸引器を必要とする重度嚥下障害の医療的ケア児についてはさらに限られている.本症例では,嚥下反射惹起不全があり持続吸引下でも唾液の処理が困難であった重度嚥下障害のCP児に対して,初診時年齢0歳6カ月から摂食機能療法を開始し,介入2カ月目(0歳8カ月)からIFCを併用して週1回,味覚刺激訓練や直接訓練を行った.その結果,むせに伴うSpO2の低下や流涎が改善し,徐々に持続吸引器からの離脱時間が増加し,介入22カ月目(2歳4カ月)に一部経口摂取が可能なレベルの嚥下機能を獲得するにいたった.

    本症例を通じて,持続吸引を必要とする重度嚥下障害児において,上喉頭神経を刺激するIFCを併用した摂食機能療法が有用である可能性が示唆された.

臨床集計
  • 吉田 結梨子, 高橋 久雄, 坪井 信二, 島田 裟彩, 小園 知佳, 尾田 友紀, 小笠原 正, 岡田 芳幸
    2023 年 44 巻 2 号 p. 173-179
    発行日: 2023/06/30
    公開日: 2023/10/31
    ジャーナル フリー

    スペシャルオリンピックス(SO)は知的障害のある人にスポーツを行う機会を与え,スポーツを通じて地域社会とつながる場を提供する国際的なスポーツ組織であり,知的障害のある人にスポーツを行う機会とスポーツを通じて地域社会とつながる場を提供している.さらに,SOは競技会開催時に健康診断の機会を設けるなど,知的障害のある人の健康維持を目的とした活動も行っている.本研究では2022年に開催されたSO夏季ナショナルゲームでの歯科健診にボランティアとして参加した歯科医療従事者に対して行った調査から,ボランティア活動が知的障害のある人に対する心のバリアに与える影響について若干の知見が得られたので報告する.

    調査項目のうち「心のバリアの変化」を問う項目では76.6%が「心のバリア」が「もともとない」もしくは「心のバリア」が「なくなった/少なくなった」と回答した.また,「知的障害のある人と関わるイベントにまた参加したいか」という設問に対しては「とてもそう思う/ややそう思う」と回答した者が78.7%であり,知的障害のある人に対するイメージはボランティア活動後で有意に好意的な結果を示した.

    本研究結果から,SOでの歯科健診ボランティア活動により知的障害のある人に対する心のバリアが軽減されることが示された.以上から,知的障害者のある人と交流をもつことは精神的バリアを軽減させる方法として有効であると考えられた.

  • 名和 弘幸, 森 真弓, 加古 駿輔, 林 勇輝, 堀部 森崇, 上村 治
    2023 年 44 巻 2 号 p. 180-186
    発行日: 2023/06/30
    公開日: 2023/10/31
    ジャーナル フリー

    重症心身障害児・者入所施設における入所者の口腔ケアは,全身の健康管理において重要であることは周知されており,日々の口腔ケアは歯科専門職でない施設職員により実施されていることが多い.そこで今回,施設職員の口腔ケアに関する意識調査を行い,口腔衛生指導や口腔ケアの課題について検討した.

    対象はA療育センターに勤務する職員104名.アンケートの回答率は97.1%(101名,うち看護師45名,療育員56名).入職前の口腔ケア経験の有無は,看護師82.2%,療育員37.5%で,療育員が有意に少なかった.口腔ケアにかける時間は看護師に対し療育員が有意に短かった.口腔ケアに対する課題の有無については,看護師が有意に多く,「人手不足」で40%以上,「他の業務が優先」で20%以上の看護師が業務環境に関する問題点を挙げていた.口腔ケア時に気を付けていることの有無および口腔ケアの困難さについては,90%以上の職員があると回答していた.気を付けている項目としては「口臭」や「全身の状態」で,療育員が有意に少なかった.口腔ケア指導を受けた職員は95%以上で,指導後の変化として,「粘膜排除」が看護師で有意に多かった.

    今回の調査から,入職時の口腔衛生指導研修会は職員の意識変化に寄与していること,定期的に口腔衛生指導研修会を実施し,職員間の口腔ケアのスキルの差を少なくする必要があることが示唆された.

委員会報告
  • 中川 弘, 福田 謙一, 望月 亮, 阿部 洋子, 森 貴幸, 菊池 和子, 緒方 哲朗
    2023 年 44 巻 2 号 p. 187-196
    発行日: 2023/06/30
    公開日: 2023/10/31
    ジャーナル フリー

    はじめに:日本障害者歯科学会用語委員会は,2018年2月の発足当初より学術用語解説集の作成に取り組んできました.また,2018年12月に発行された日本歯科医学会学術用語集第2版の障害者歯科学関連用語の選定作業にも携わり,昨年度には日本障害者歯科学会用語集の改訂作業を終了いたしました.

    そこで,今年度より用語集の中から学術用語解説集に掲載すべき障害者歯科学の最重要用語を選定し,日本障害者歯科学会雑誌の44巻2号から46巻1号まで,各号50用語ずつ,計300用語の解説文を掲載する運びとなりました.

    本号の50用語は,連載1回目であり,発足当初に学会員の皆様に解説文の作成を依頼し,その後用語委員会で加筆・修正したものです.解説文の作成にご協力いただいた先生方には,この場をお借りして心よりお礼申し上げます.また,次号以降の解説文についても,学会員(主に代議員)の皆様に改めて執筆のお願いを差し上げる予定です.その際には,ご協力のほど何卒よろしくお願いいたします.

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