日本障害者歯科学会雑誌
Online ISSN : 2188-9708
Print ISSN : 0913-1663
ISSN-L : 0913-1663
40 巻, 4 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
原著
  • 二宮 静香, 平塚 正雄
    2019 年 40 巻 4 号 p. 461-469
    発行日: 2019/10/31
    公開日: 2020/02/29
    ジャーナル フリー

    脳卒中回復期患者を対象に,日常生活動作(Activities of daily living;ADL)の程度の差により,口腔状態や栄養状態に相違があるのかを明らかにする目的で調査した.対象は2016年10月1日~2018年3月31日までの期間に回復期の某リハビリテーション病院に入院した脳卒中患者166名とした.対象者の入院時ADLをFunctional Independence Measure(FIM)で評価し,FIMの程度の差により3群に分けて比較した.入院時の口腔状態はOral Health Assessment Tool日本語版(OHAT-J)を用いて評価した.

    入院時にADLが低い重度障害の脳卒中患者は,栄養状態が悪く,65歳以上の高齢者が多かった.OHAT-Jによる口腔状態の評価では,ADLが低い重度障害の脳卒中患者において,OHAT-Jの合計スコア,口唇,舌,唾液および口腔清掃の各スコアが有意に高値を示し,口腔状態は不良であった.重回帰分析では,入院時OHAT-Jに関連する独立因子として,経口摂取,FIM(運動項目)および血清Alb値が抽出された.

    脳卒中回復期患者では,入院時に低活動の状態にあり,経口摂取ができていない症例においては,口腔状態が不良で低栄養の状態にあることが示唆された.

  • 森 貴幸, 野島 靖子, 関 愛子, 村田 尚道, 山本 昌直, 田尻 絢子, 東 倫子, 江草 正彦
    2019 年 40 巻 4 号 p. 470-477
    発行日: 2019/10/31
    公開日: 2020/02/29
    ジャーナル フリー

    障害者の歯科疾患管理を的確に行うことは,障害者の食に関するQOLの維持・増進のために重要である.今回われわれは,15年以上の観察期間を有する患者を対象として,長期の歯科疾患管理が口腔状態に及ぼす影響を評価することを目的とした研究を行った.健全歯数を口腔状態の指標として,調査期間における健全歯減少数の実態と受診内容の影響について,回顧的調査および統計解析を行った.

    対象患者は121名で,初診時年齢の中央値は22歳であった.初診時健全歯数の中央値は17歯であった.

    15年間の個人受診数の中央値は95回,各対象者の受診のうち,麻酔管理下で処置が行われた割合の中央値は2.3%であった.1年間以上の中断があった対象者は63名(52.1%)であった.健全歯減少数は,中央値が5歯であった.

    解析は,健全歯減少数が中央値以上であった群を減少数が多かったとして,多項ロジスティック回帰分析を行った.15年間の健全歯減少数に影響した要因は,受診期間中の中断期間の有無の影響が最も強く,次いで,麻酔管理下受診の割合であった.

    この結果は,長期中断がないように診療を行うこと,歯科受診に麻酔管理が必要な者の口腔衛生に特に注意する必要があることを示唆している.

  • 大西 智之, 久木 富美子, 浜田 尚香, 金高 洋子, 藤原 富江, 田井 ひとみ, 角谷 久美代, 畔栁 知恵子, 前田 有加, 苦木 ...
    2019 年 40 巻 4 号 p. 478-484
    発行日: 2019/10/31
    公開日: 2020/02/29
    ジャーナル フリー

    自閉スペクトラム症(Autistic Spectrum Disorder,以下ASD)児は,定型発達児と比較して歯磨きへの適応が困難である,こだわりにより食べる物が制限される,うがいができないためにフッ化物含有の歯磨剤を使用できないなどさまざまな理由によりう蝕予防が困難なことが多い.今回,4~5歳のASD児に対する初診時の口腔内診査と医療面接の結果から,食生活習慣および刷掃習慣に関係する因子とう蝕の有無あるいはう蝕の重症度との関連性について統計学的な検索を行った.その結果,う蝕のない者,軽度う蝕のみを有する者,重度う蝕を有する者の3群間で有意な差を示したのは,間食回数,夕食後の間食の有無,間食の規則性,甘い間食が多いか,こだわりで甘い物を選ぶか,食べ物・飲み物へのこだわりの有無,歯磨きへの協力性,触覚の敏感性の有無であった(Kruskal-Wallis検定).それらの項目を説明変数とした数量化II類の結果,う蝕の有無と関連性が強かったのは間食回数で,う蝕の重症度と関連性が強かったのは歯磨きへの協力性,食べ物・飲み物へのこだわりの有無,間食回数であった.以上の結果から,ASD児のう蝕予防においても定型発達児と同様に間食の管理が重要であるが,歯磨きに協力できなかったり,食べ物や飲み物へのこだわりを有したりする場合は,う蝕が重症化しないようにリコール間隔を短くするなどのサポートが必要であることが示唆された.

  • 松村 康平, 小笠原 正, 宮原 康太, 荘司 舞, 朝比奈 滉直, 秋枝 俊江, 島田 茂, 嶋田 勝光, 長谷川 博雅, 柿木 保明
    2020 年 40 巻 4 号 p. 485-492
    発行日: 2019/10/31
    公開日: 2020/02/29
    ジャーナル フリー

    剥離上皮膜を形成しやすい要介護高齢者に対する口腔ケアの間隔を検討するために,口蓋の剥離上皮膜の形成過程と口腔ケアに要した時間を検討した.

    経管栄養の要介護高齢者のうち口腔乾燥の臨床診断基準(柿木)の1度以上の17名を調査対象者とした.入院記録より年齢,疾患,栄養摂取状況,寝たきり度を確認し,Japan Coma Scale,意思疎通の有無,発語の可否,介助歯磨きと粘膜ケアの頻度を担当看護師から聴取した.歯科医師あるいは歯科衛生士による専門的口腔ケア(歯面清掃と粘膜ケア)を実施してから3時間後,6時間後,12時間後,24時間後,48時間後に口蓋の付着物を観察するとともに一部を採取し,「なし」「粘液物」「粘稠物」「膜状物」の4種類に分類した.なお調査期間中は,病院職員による口腔ケアを中止した.通法に従い付着物のヘマトキシリンエオジン染色(HE染色)標本を作製し,上皮成分が認められたものを剥離上皮膜と診断した.さらに介助歯磨きと口蓋の付着物の除去を含めた粘膜ケアを行い,ケア時間を測定した.

    付着物の種類ごとにおける上皮成分面積率の中央値は,膜状物が84.2%,粘稠物が45.0%,粘液物が0%で,すべての組み合わせで有意差が認められ,膜状物が最も上皮成分の面積率が高く,粘液物が最も低かった.粘膜ケアを行ってから3時間後は,52.9%に粘液物を認め,6時間後は35.3%に粘稠物,11.8%に膜状物を認めた.12時間後に膜状物は23.5%,24時間後に47.1%,48時間後に52.9%の者に認めた.膜状物は粘液物の形成時間より有意に長いことが認められた.膜状物を除去することを含めた口腔ケアの時間は粘液物よりも有意に長くかかることが認められた.口腔乾燥傾向のある経管栄養の要介護高齢者の粘膜ケアは,6~12時間の間で1回行うことが妥当であると判断できた.

症例報告
  • 梅澤 幸司, 仁平 暢子, 野本 たかと
    2020 年 40 巻 4 号 p. 493-498
    発行日: 2019/10/31
    公開日: 2020/02/29
    ジャーナル フリー

    7pトリソミー症候群は7番染色体短腕の部分過剰を認める染色体異常で,重度の知的能力障害や多岐にわたる顔貌の特徴を有する症候群であり,歯科では報告例のないきわめてまれな疾患である.今回,6年間にわたる継続的な歯科管理を経験したため報告する.本症例は24歳男性で,18歳時に学校検診で虫歯を指摘され当大学歯学部付属病院特殊歯科に来院した.本症例における7pトリソミーは親の7番染色体短腕と15番染色体長腕の相互転座に由来しており,全身所見は低身長,大きな額,両眼隔離,短い鉤鼻,耳介異形成を認めた.口腔所見は高口蓋,下顎左右側第二大臼歯にう蝕があり,口腔清掃状態不良で下顎前歯唇舌側歯頸部に歯石を認めた.また,パノラマエックス線写真より湾曲が小さい歯根をもつ上顎大臼歯とその髄室の拡大を認めた.経過としては2011年の初診から3回のオリエンテーションを実施したものの体動に変化を認めなかったため,ベルトと父親による徒手抑制下で開口器を用いて下顎左右側第二大臼歯のコンポジットレジン充塡処置を実施した.その後,2カ月ごとの口腔ケアを実施し保護者にホームケア指導を実施するも,2015年2月に上顎左側側切歯の歯肉腫脹と動揺を認め,同年9月に抜歯,以降,慢性辺縁性歯周炎により3本の抜歯をした.

    本症例は抜歯以前には前歯部叢生もあり形態的に問題があるうえ,重度知的能力障害があり,歯列弓幅径ならびに歯列弓長径が小さく,口唇,頰の緊張も強く,ホームケアが困難であった.さらに,上顎大臼歯は湾曲が小さい歯根のため容易に歯の動揺をきたす形態であることから,本疾患は早期に歯周病が重症化する可能性が示唆された.

臨床集計
  • 半沢 篤, 大久保 真衣, 三浦 慶奈, 大多和 由美, 石田 瞭, 福田 謙一
    2020 年 40 巻 4 号 p. 499-503
    発行日: 2019/10/31
    公開日: 2020/02/29
    ジャーナル フリー

    社会の急激な高齢化とそれに伴う地域包括医療の推進によって,要介護者や有病者への対応の必要性が高まり,さらに周術期口腔機能管理の保険診療導入を契機に,医科歯科連携体制構築の重要性が注目されている.しかしながら,歯科関連の診療科を併設していない病院もいまだ数多く存在し,それらの病院との医科歯科連携体制の構築は急務と考える.そこでわれわれ,本学スペシャルニーズ歯科と摂食嚥下リハビリテーション科は,歯科医師と歯科衛生士による口腔機能管理,口腔衛生管理と摂食嚥下リハビリテーションの介入により,医科歯科連携を推進することを目的とし,2017年5月より歯科関連の診療科を併設していない病院の入院患者への訪問診療を開始した.今回われわれは,開始から2年間の現状を調査し今後の方針について検討を行った.

    対象は26歳から101歳までの180人で後ろ向きの調査を行った.診療依頼元で最も多かったのは腫瘍内科で,主な原疾患は悪性新生物82人が最も多かった.延べ症例数は666例で,月別の推移では変動はあるものの1年目に緩やかに増加し2年目に横ばいとなったが,医科側からの要請はいまだ増加傾向にある.診療内容では口腔衛生管理265例が最も多くなった.

    今後,ますます医科からのニーズの増加が予想される.医科歯科連携に適切な対応,診療が行えるように,歯科として常に知識と技術を更新し,準備をしておくべきであると思われた.

  • 中嶋 真理子, 中山 朋子, 前濱 和佳奈, 緒方 麻記, 尾崎 茜, 水谷 慎介, 小島 寛
    2020 年 40 巻 4 号 p. 504-510
    発行日: 2019/10/31
    公開日: 2020/02/29
    ジャーナル フリー

    目的:障害者が歯を喪失する原因を調査した.

    対象と方法:知的能力障害,発達障害,身体障害,精神障害を有し,2015年4月から2018年3月までに当科に来院した患者を対象とし,第三大臼歯や過剰歯を除く歯を抜去した患者を抽出した.抜去した歯の診断は,う蝕(著しい歯冠崩壊または根尖性歯周炎),歯周疾患,その他(歯の破折,外傷など)に分類した.

    結果:調査期間中に来院した障害を有する者は897人で,20歳未満が242人,20~39歳が438人,40~59歳が177人,60歳以上が40人であった.抜歯処置を受けた患者と来院した患者の数は,知的能力障害が51/361人(14.1%),Down症候群が7/90人(7.8%),自閉スペクトラム症が15/238人(6.3%),その他の発達障害が6/25人(24.0%),身体障害が17/138人(12.3%),精神障害が18/45人(40.0%)であった.知的能力障害,Down症候群,自閉スペクトラム症,その他の発達障害における抜歯原因は161歯(83%)がう蝕,19歯(9.8%)が歯周疾患,14歯(7.2%)がその他であった.身体障害,精神障害では,49歯(62%)がう蝕,22歯(27.8%)が歯周疾患,8歯(10.1%)がその他であった.

    結論:抜歯原因はう蝕が多くを占め,知的能力障害,Down症候群,自閉スペクトラム症,その他の発達障害でその傾向が強かった.

feedback
Top