症例は71歳男性。発熱を契機に急速に腎機能が低下したため入院となる。既往歴としてうつ病, アルツハイマー型痴呆があった。顕微鏡的血尿と蛋白尿を定量で約0.45g/day認めた。血液生化学検査では, 強い炎症所見(CRP18.2mg/dL) とCr5.4mg/dL, BUN64.6mg/dLと著しい腎機能障害を認めた。また, 正球性正色素性貧血と低蛋白血症を認めた。MPO-ANCAが285EUと高値を示していた。胸部X線, 胸部CT検査では心嚢水貯留による心陰影拡大 (心胸比60%) と両下肺野の線維化像が認められた。心電図は3:1の心房粗動を示していた。MPO-ANCAが285EUと高値を示し, 発熱, 進行性の腎機能障害, 心房粗動, 心嚢水貯留, 両下肺線維化など全身性の障害が認められたため, 顕微鏡的多発血管炎 (MPA) と診断した。高度痴呆を認めていたため, 腎生検を含めた病理組織診断は施行しえなかった。MPAに対しステロイドパルス療法を開始し, 後療法はプレドニゾロン1mg/kg (60mg/body) の内服とした。これにより速やかに解熱し, 炎症所見, 腎機能の改善傾向を認めた。また, 心嚢水貯留, 心房粗動も改善した。しかし, 第18病日より右肺に結節状陰影が出現, 徐々に空洞形成を伴い増大した。β-Dグルカン異常高値 (999pg/mL以上) を認めたため, ミカファンギン (MCFG) 75mg/dayで投与を開始し, 300mg/dayまで増量したが効果乏しく, 第26病日に呼吸不全のため死亡した。
剖検所見: 肺右上葉に4.0×3.0×3.0cm大の空洞を認めた。空洞周囲の膿瘍内にY字型に分岐し隔壁を有するアスペルギルスの菌糸を多数認めた。また, 全肺野においてサイトメガロ染色陽性の核内封入体を認め, サイトメガロウイルス感染が示唆された。
腎: 大部分の糸球体に細胞性の半月体形成を認めた。
結語: 高齢者の免疫抑制療法では, 感染症の併発を危惧し, その投与量に十分配慮する必要がある。
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