血液透析を導入し, 長期生存中の有馬症候群の1例を経験したので報告する。症例は25歳の女性。出生時より筋緊張低下を認めた。0歳時に後頭蓋窩嚢胞切除術を受けた際, 小脳虫部欠損を認め Dandy-Walker 症候群と診断された。精神運動発達遅滞を認めたが, 言語理解可能で有意発語あり, 7歳時に独歩可能となった。11歳時に多発性嚢胞腎を指摘されたが, 16歳時に食道静脈瘤破裂で入院となり, この際有馬症候群と診断された。腎機能は徐々に増悪し透析導入のため23歳時に腎臓内科入院となった。会話可能で小学校入学程度の知能を有し, 理学所見で低身長, 右眼瞼下垂, 眼角解離, 鼻根部平坦で口唇が閉じない特徴的顔貌を認めた。検査所見では汎血球減少, 肝障害, 腎障害を認めた。脳MRIでは小脳虫部欠損, 腹部CTで著明な肝脾腫と両腎萎縮を認めた。網膜電図は低電位であり, 眼底に網膜色素変性を認めた。血液透析は出血傾向のためメシル酸ナファモスタットを抗凝固剤として用い, 導入経過は順調であった。
有馬症候群は脳-眼-肝-腎症候群とも呼ばれ, 小脳虫部欠損が疾患概念の中核をなし, 重度の精神運動発達遅滞と視力障害, 眼瞼下垂を含む特徴的顔貌, 肝線維症, 腎障害など多臓器の病変を呈する。本症例は既報告例に比し精神発達遅滞, 視力障害が軽度であり, ある程度自立できた。本症候群患者は10代前半までに腎不全で死亡することが多く, 精神運動遅滞などの他の合併症状を考慮して透析療法を考慮することが患者のQOLの向上および延命につながると考えられた。
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