昭和13年から昭和35年までの23年間に診察した急(発)性糸球腎炎(以下単に腎炎と略記す)患者1095人について,またはその内より観察の前年末に発病せしもの15人を除き,または全経過判明せる541人のみについて9または所要治癒期間明らかなる361人のみについて次の事項を調査した。 I腎炎は内科医のもとでは,6~15才の子供にもつとも多く,年をとる人程少なく,しかし老年者にも僅数:見られた。 腎炎は絶対数も相対数(男女各総患者数に対する男女各腎炎患者の%数)も男子に多い。年令別に分けると,15才までは男児に多く,50才以上ではいちじるしく男子に多いが,15~50才の間は男女同率に発生する(第1表と図)。 II23年間の各年度中の腎炎発生数を年度順にならべ曲線を作ると,2つの高い山とその間に1つの低い谷を整然と作つた。第1の山頂は昭和14年,谷底は24量年,第2の山頂は31年である。なお参考のためこれに観察期(昭和13年)前の毎年の腎炎患者数を見たところ,観察期間内のような大なる山や谷を見出さなかつた(第2表と図)。III腎炎発生は平均して,冬季最多,夏季最少,春秋はその中間である(第3表)。 IV腎炎の原病を8別した。各頻度は1)扁桃炎後腎炎最多,つぎに2)感冒,両者併せて6割強,3)化膿性疾患,4)その他の炎症性疾患,5)猩紅熱+6)猩紅熱様発疹,7)紫斑病の順である。8)原因不明のものは全体の約1/4あつた。(第4表百分率)。 15才以下の子供に対し15才以上をここでは「大供」または大人と呼ぶ。子供と大人とで腎炎の原病の頻度が相異なつている。扁桃炎後腎炎は大供に多いが,その他の原病による腎炎は子供にいちじるしく多い。(第5表の転帰判明者の列子供大供の数比較)。 原病発生から腎炎発生までの間隔日数が,各原病について大凡定められ,各原病により間隔日数いちじるしく多きものと少きものとある(第4表太線)。 V腎炎の3転帰経過判明せる541人について,治癒(尿変化消失を以つて治癒と看倣す)441人(89.7%),未治39人(7.3/),死亡17人(3.1%)(第5表最下轂参照)。 A治癒者について (1)治癒率から見た予後イ)一般治癒率は上記のごとく89.7%。ロ)治癒率の年令差は子供(93%)の方が大人(86%)より高い(第5表治癒者最下毀参照)。ハ)性別差は女子にやや高い(89%対91%),(第5表附属A表)。 (2)所要治癒期間から見た予後イ)全例(361人)については,1ヵ月以内と2ヵ月以内の治癒者最多,月を重ねて治る人程少なくなり,計1力年内治癒率87.2%となつた。ロ)1力年内治癒率は子供は90%大人は83%で子供に高い(第5表附属B表)。ハ)男女では差がない(第5表附属B表)。 (3)原病から見た予後イ)原病の異なるにより腎炎の治癒率が多少異なる。ただ紫斑病の腎炎では5人中3人死亡した(第5表紫斑病の列率参照)。ロ)各原病別腎炎の所要治癒期間の相異はいちじるしくない。ただ猩紅熱,紫斑病後の腎炎は長くかかつて治つている(第5表附属C表)。 B未治者について 上記のごとく,転帰判明者541入中39人(7.3%)。この39人中子供12人,大人27人(第5表)。男26人,女13人(第5表附属A表)。高血圧所有者は5人あり(男4人女1人,子供1人,大人尋人)。 C死亡者について 上記のごとく,死亡者総数17人(3.王%)わその内子供5人,大人12人。男10人,女7人。死因は尿毒症9人(この内亜急性腎炎7人)。原病不明の腎炎,紫斑病後腎炎に死者多きこと,その他について述べた。 VI追加調査(第6表AI.II,B)手紙での問合せに対する返事は,治癒者よりはより多く,未治者・死亡者(その家族)よりはより少なく集り,それにより予後が実際より良くなる怖れあるに鑑み,直接診察して定めた患者のみについて,3転帰またはその見込を出して見た。結果は却つて予後一層良好となり,問合せによる予後の良くなることは無きものと認めた。 終に臨み本講演の機会を与えられたる会長慶大名誉教授大森憲太博士に感謝の意を表します。
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