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喜多 和子, 佐藤 哲生, 陳 仕萍, 佟 暁波, 菅谷 茂, 杉田 克生, 鈴木 信夫
セッションID: OB-1-5
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/20
会議録・要旨集
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[目的] ヒト癌組織由来細胞から細胞外に放出される様々な因子が、浸潤・転移、抗癌剤耐性化メカニズムに関与していることが報告されている。本研究では、膵臓癌由来細胞などにおいて、培養液の上清中に含まれる蛋白質の中から、放射線や抗癌剤感受性にかかわるものを探求した。
[方法] 膵臓癌由来細胞BxPC-1、AsPC-1、KP-4、MiaPaCa-2 およびPanc-1、子宮頸癌由来細胞HeLaおよび非癌細胞としてRSa細胞を用いた。各細胞に血清無添加培地を加え、5時間培養した後に回収した培養液の遠心上清を培養液サンプルとした。培養液サンプルに存在するタンパク質を質量分析法とウエスタンブロット法により解析同定した。X線と抗癌剤への感受性をクリスタルバイオレット法とコロニーサバイバル法で、アポトーシス誘導関連分子の量をウエスタン解析で調べた。
[結果と考察] BxPC-1以外の膵臓癌細胞の培養液上清中にannexin II が検出された。HeLa細胞とRSa細胞では検出されなかった。recombinant annexin II(rANX II)を培養液中に添加したところ、低線量のX線と抗癌剤であるcisplatin, 5-fluorouracilおよびgemcitabineに対し、細胞の致死抵抗化が認められた。また、cisplatinによるcaspase-3活性化が抑制され、Bcl-2/Bax比は上昇した。一方、PI3K阻害剤とMEK阻害剤は、rANX II によるcisplatin抵抗化を抑制した。
以上の結果から、膵臓癌細胞において、細胞外にannexin IIが放出されること、および、細胞外annexin II が、PI3KおよびMEKシグナルを介してアポトーシス誘導を抑制することが示唆された。また、膵臓癌細胞において、細胞外放出annexin IIが放射線や抗癌剤への抵抗化などの癌の悪性化に関わる可能性が示された。
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橋本 優実, PANKAJ KAMDAR Radhika, 松井 理, 橋本 光正, 松本 義久, 岩淵 邦芳
セッションID: OB-2-1
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/20
会議録・要旨集
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アポトーシスに陥った細胞において、XRCC4はカスパーゼ3あるいは7で切断され、DNA ligase IV結合領域を含むが核移行シグナルを欠いた35 kDaのN末断片(以下pN35)となることが知られている。本研究では、XRCC4断片化のアポトーシスにおける役割を調べた。
マウスリンパ腫L5178Y細胞由来XRCC4欠損細胞株M10細胞をスタウロスポリン(以下STS)で処理してアポトーシスを誘導した。アポトーシスは、カスパーゼ3の活性化あるいはアポトーシス特異的DNA断片化(TUNEL法)を指標に検出した。
M10細胞に野生型XRCC4を発現させた細胞株(M10-XRCC4)をSTS処理すると、pN35が検出されたが、カスパーゼで切断されない変異型XRCC4(XRCC4 D265A)を発現させた細胞株(M10-D265A)ではこの断片は検出されなかった。このときM10-XRCC4でのみ、アポトーシスの増強と、カスパーゼ3上流に位置するカスパーゼ8および9の活性化体の増加がみられた。STSによるアポトーシスに対する増強効果は、M10細胞にpN35を発現させても認められなかったが、核移行シグナルを付加したpN35を発現させると認められた。M10-XRCC4と M10-D265Aの両細胞において、 XRCC4とDNA ligase IVは、アポトーシスの進行に伴い核から核外へ移行した。
以上より、カスパーゼによるXRCC4のN末断片化はアポトーシスに必要であることが確かめられた。pN35は核内に存在する時にアポトーシス増強作用を発揮することが明らかとなった。アポトーシス増強の機序としては、pN35によるカスパーゼ8および9の活性化の促進が考えられた。一方、アポトーシスの進行に伴うXRCC4とDNA ligase IVの核外移行には、XRCC4のN末断片化は必要ないことが示された。
なお、M10細胞は文部科学省ナショナルバイオリソースプロジェクトを介して理研BRCから提供された。
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張 添翼, 漆原 佑介, 尾田 正二, 三谷 啓志
セッションID: OB-2-2
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/20
会議録・要旨集
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p53遺伝子は、哺乳類において細胞の恒常性の維持に不可欠であることが知られている。魚類では、p53遺伝子の存在が報告されているが、配列や機能ドメイン、活性部位等については未だに多くのことが明らかとなっていない。ゼブラフィッシュではp53をノックアウトすると、アポトーシスが起こりにくく、癌化しやすくなることが明らかとなっている[Berghmans S, Proc Natl Acad Sci U S A. 2005 Jan 11] 。メダカにおいてもp53をノックアウトすることで、アポトーシスが起こりにくく、癌化を起こしやすいことが明らかとなっている[Genome Biology 2006, 7:R116]。本研究では、メダカp53遺伝子の機能について明らかにするために、メダカp53-/-系統由来細胞の表現型を野生型細胞と比較解析、またp53の発現プラスミドの導入によるp53機能回復実験から、メダカp53遺伝子の機能を解明することを目指している。まず初めに、CAB、HdrRの二つの近郊系メダカ由来のp53-/-細胞について、アポトーシス細胞をAnnexinVにより標識し、FACSを用いて定量的に解析した。その結果、両系統ともにp53-/-細胞では非照射、照射(5Gy, 10Gy)後のアポトーシス細胞割合が野生型細胞に比べて顕著に低下していることが明らかとなった。また、野生型細胞にマウスp53阻害剤であるPifithrin-α. Hydrobromideを投与したところ、p53-/-細胞と同程度までアポトーシス細胞割合が低下した。このことから、メダカにおいてもPifithrin-αがp53阻害作用を持つことが明らかとなった。p53遺伝子はDNA修復に関与しているという報告がある。そこで、次にコメットアッセイを用いて、γ線照射後に生じるDNA二本鎖切断(DSBs)の修復能力を解析した。その結果、野生型細胞はγ線照射1h、2h後にtail momentが顕著に低下し、DSBが修復されたことを確認できたが、p53-/-細胞ではtail momentの低下に遅延が見られた。このことから、p53-/-細胞ではDNA修復力が弱いことが示唆された。DNA修復過程ではいち早くヒストンH2AXがリン酸化されることが知られていることから、p53との関係を調べるために、γH2AXフォーカスアッセイを行った。その結果、野生型細胞とp53-/-細胞の間に有意差は見られなかった。このことからp53はH2AXリン酸化には関与しておらず、脱リン酸化やさらに下流の因子と関わってあると考えられる。現在、p53過剰発現ベクターを導入したp53欠損細胞でレスキュー実験を行い、アポトーシスやDSB修復能の回復状況を解析している。
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保田 隆子, 尾田 正二, 李 智, 朽名 夏麿, 木森 義隆, 三谷 啓志
セッションID: OB-2-3
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/20
会議録・要旨集
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メダカ精巣は、哺乳類と異なり、精原幹細胞から精子に至る全ての分化段階の細胞がシストの袋に包まれその中でクローナルに分裂するため、分化段階を容易に判別することができる利点を有している。
p53(-/-)メダカ精巣組織内では、精原幹細胞が位置する場所に、野生型には見られない細胞核の電子密度が明らかに低く、核小体が鮮明である他の細胞と形態が大きく異なる細胞が存在する。γ線照射を行うと、これらの細胞が3日後から増加し始め、1~2週間後細胞の大きさも大きくなり数も急激に増加する。しかし、照射1カ月後には非照射の精巣と同様に少数の小さな細胞がある状態に戻ることを報告した(2010年度本学会発表)。
この細胞の形態的特徴的は、卵母細胞とよく似ていたため、卵母細胞に特異的に発現する遺伝子42Sp50の発現をRT-PCRにより確認した。その結果、p53(-/-)非照射、および照射1週間後の精巣に、42Sp50遺伝子の発現を確認し、これらの細胞が精巣卵であることを確認した。
さらに、電子顕微鏡を用いて照射7日後のp53(-/-)メダカ精巣組織について詳細な形態観察を行ったところ、これらの精巣卵には、減数分裂の厚糸期に特徴的な相同染色体各対の中央に観察されるシナプトネマ複合体が観察された。HE染色された組織の光学顕微鏡観察において、精巣卵の細胞質がエオジンに濃染される細胞は全く観察されないことから、ランプブラシ染色体が形成される複糸期にまで至る卵母細胞は存在しないことが判明した。つまり、これらの精巣卵は照射によって大きく成長するが、複糸期に至るまでに排除される。核濃縮を起こした細胞は、照射1日後には全く観察されないが、照射3日後から照射1週間後に至るまで観察される。照射1週間後の精巣組織を活性化caspase3免疫染色したところ、精巣卵に活性化caspase3陽性細胞が認められたので、照射により異常な増殖を起こした大型の精巣卵もp53を経由しないアポトーシスにより排除されることが判明した。
p53の機能欠損が生殖細胞分化の異常を顕在化させるという報告は哺乳類でもあるが、放射線が雄性生殖細胞の性転換を増加させ、それらは、p53依存性、非依存性の2種類のアポトーシス経路で排除されるという報告はこれまで見当たらず、p53遺伝子の働きの新しい知見となる。
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内田 孝俊, 森田 明典, 大谷 聡一郎, 花屋 堅悟, 王 冰, 田中 薫, 細井 義夫, 青木 伸, 池北 雅彦
セッションID: OB-2-4
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/20
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p53依存性アポトーシス経路には、p53の標的遺伝子の転写活性化を介した「転写依存性経路」だけでなく、ミトコンドリアのBcl-2ファミリー分子とp53が直接結合することでアポトーシスが誘導される「転写非依存性経路」と呼ばれる分岐経路があることが知られている。しかしながら、細胞や組織における両経路の寄与の割合はいまだ不明な点が多い。
両経路の寄与の程度を明らかにするためには、一方の経路を特異的に阻害する薬剤の開発が不可欠であるが、このようなp53阻害剤は、これ迄のところ、転写非依存性経路の特異的阻害剤とされるピフィスリンµ(PFTµ)だけであった。また、PFTµは、骨髄死相当線量の放射線からマウスを防護することも報告されているが、我々が行った追試では、全身照射マウスの放射線防護効果は認められず、転写非依存性経路の抑制が放射線防護上、重要であるか否かについて確定的な結論が得られていなかった。
亜鉛キレート化剤の一部は、p53のDNA結合ドメイン中に配位する亜鉛イオンに作用し、p53を不活性化させることが報告されている。我々は、p53標的遺伝子の発現誘導に影響を及ぼさず、転写非依存性経路を抑制する亜鉛キレート化剤として、5,7-bis(N,N-dimethylaminosulfonyl)-8-quinolinol (bis(DMAS)-QOH)を見出した。さらに、PFTµとの比較では、bis(DMAS)-QOHは、PFTµよりも低い細胞毒性、高いアポトーシス抑制効果を示した。これらの結果は、bis(DMAS)-QOHが、PFTµよりも優れた転写非依存性経路阻害剤となる可能性を示していると考えられ、この分岐経路の役割の解明に有用な阻害剤・防護剤となることが期待される。今後はマウスモデルでの放射線防護効果の検証及びbis(DAMS)-QOHの転写非依存性経路への特異性に関する機構を詳細に解明していく予定である。
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大谷 聡一郎, 森田 明典, モハマド ズルキフリ, 伊石 安里, 王 冰, 田中 薫, 岡崎 遥奈, 吉野 美那子, 細井 義夫, 青木 ...
セッションID: OB-2-5
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/20
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我々は、オルトバナジン酸ナトリウム(バナデート)が、p53転写依存性・非依存性の両経路を抑制する阻害剤として機能し、腸死を克服できる初めてのp53阻害剤であることを明らかにしている。放射線防護効果が報告されている他のp53阻害剤としては、ピフィスリンαやピフィスリンµが知られているが、これら3つの阻害剤の内、防護効果の最も高いバナデートのみがp53変性作用を有していることを見出した。我々は、このp53変性作用をバナデートの特徴と捉え、p53変性作用を有する新しい阻害剤の探索を進めた。一方、p53変性作用は、p53分子内に存在する金属イオン結合部位に配位する亜鉛イオンの解離によって生じることが報告されていた。
そこで本研究では、p53依存性の放射線誘発アポトーシスを引き起こすMOLT-4細胞を用いて、亜鉛キレート化剤のp53阻害剤としての有効性評価を行った。その結果、検討した5種のキレート化剤の内、2種がアポトーシス抑制効果を示した。アポトーシス抑制効果が最も高かったBispicenは、バナデートと同様にp53変性作用を示し、転写依存性・非依存性両経路のアポトーシス過程を抑制した。さらに、p53ノックダウン細胞株やp53変異体株、p53欠損細胞株での比較から、Bispicenのアポトーシス抑制効果がp53特異的であることも明らかとなった。現在、p53特異性の向上を目指し、Bispicenにp53特異的ペプチドを付加したハイブリッド化合物の活性評価を進めているところである。
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澤尻 昌彦, 野村 雄二, 錦織 良, 滝波 修一, 丸山 耕一.
セッションID: OB-3-1
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/20
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悪性腫瘍の進行に伴って高頻度で発症する高カルシウム血症は腫瘍の骨破壊によって骨に存在するカルシウムの血中への流入が主要な原因と考えられている。そこで本研究では骨浸潤性腫瘍細胞に対して放射線を照射し, 腫瘍細胞の骨破壊能の変化を解析することで,腫瘍の骨浸潤予防策について検討することを目的とした。
骨浸潤性の乳がん細胞に炭素線あるいはガンマ線を照射して,照射後産生される主要な骨破壊因子とされるPTHrPの発現状態を計測した。さらにPTHrPなど骨破壊因子を含むと考えられる乳がん細胞を培養した培地をcondition mediaとして,骨芽細胞培養と骨芽細胞/骨髄細胞共存培養に添加して破骨細胞誘導能におよぼす影響を調査した。
非照射乳がん細胞から採取したcondition mediaを用いて培養された骨芽細胞は破骨細胞誘導因子の増加が認められた。さらに骨髄細胞との共存培養では破骨細胞の誘導が新鮮培地培養に比べて増強された。しかし,炭素線あるいはガンマ線照射によってRANKLなど破骨細胞の誘導因子産生と破骨細胞の分化/誘導は抑制された。また炭素線はガンマ線に比較して破骨細胞の誘導因子の産生,および骨髄細胞との共存培養による破骨細胞の誘導が強力に抑制された。
炭素線照射は,がん細胞から骨芽細胞を経由して破骨細胞の増殖と成熟を誘導する経路を阻害することで腫瘍の骨浸潤,骨破壊の阻害に有効である可能性が示唆された。
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志村 勉, 落合 泰史, 野間 直十, 及川 利幸, 桑原 義和, 福本 学
セッションID: OB-3-2
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/20
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がんの三大療法の1つである放射線治療は、様々ながんを治療対象とし、臓器の機能温存性に優れている利点を持つ。放射線治療における最大の難問は、治療効果が望めない放射線耐性のがん細胞である。放射線耐性には、自己複製能と腫瘍形成能を併せ持つ細胞群、がん幹細胞が重要な役割を担っていると考えられている。
我々は、肝がん細胞株HepG2と神経膠芽腫細胞株A172に0.5GyのX線を一日2回のスケジュールで約2月半照射し、長期分割照射細胞を作成した。長期分割照射細胞ではがん幹細胞マーカーCD133や抗がん剤耐性に関わるABCトランスポーターの発現亢進が観察された。さらに、これらの細胞をヌードマウスに移植し、腫瘍形成能を持つことを明らかにした。以上の結果は、長期分割照射によってがん幹細胞が濃縮されることを示唆している。
我々が濃縮したがん幹細胞は、親株と比較し、放射線に耐性を示した。放射線応答の解析から、がん幹細胞では5Gyの照射で細胞の生存シグナルAKT経路が活性化され、サイクリンD1の発現が亢進し、細胞増殖が観察された。一方、親株では同様の照射後、AKTの活性化は起こらず、細胞死が誘導された。がん幹細胞の放射線耐性には、AKT経路が重要であり、放射線とAKT阻害剤の併用で放射線耐性は抑制された。
以上より、AKT経路を標的にがん幹細胞の放射線耐性は抑制可能であることを明らかにした。
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榎本 敦, 伊藤 道彦, 高松 信彦, 宮川 清
セッションID: OB-3-3
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/20
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17-AAGは、シャペロン複合体を形成し、活性化されたHSP90を標的とした分子標的薬剤である。そして放射線照射と組み合わせることにより、高い抗腫瘍効果が得られることが報告されている。一方、我々は、これまでに活性酸素やX線などの酸化ストレスによって活性化し、細胞死を抑制するタンパク質としてSTK38 (Serine Threonine Kinase 38)について解析を進めてきた。今回、STK38の相互作用分子としてHSP90を質量分析法により同定した。STK38とHSP90との関連を解析するため、17-AAGによるSTK38活性・発現への影響を解析した。その結果、17-AAGは、タンパク質レベルだけではなく転写レベルにおいてもSTK38の発現を顕著に抑制し、その活性も低下させた。またSTK38のノックダウンは、放射線増感を誘導した。これらのことから、17-AAGによる放射線増感には、STK38のdown-regulationを介して引き起こされる経路が存在することが考えられる。今大会では、17-AAGのSTK38遺伝子の転写制御機構のメカニズムについてプロモーター解析を含めて発表を行う予定である。
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鈴木 正敏, 鈴木 啓司, 山下 俊一
セッションID: OB-3-4
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/20
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老化様増殖停止は細胞老化特異的特徴の発現を伴った長期間にわたる細胞周期停止状態として定義され、多くの固形腫瘍由来細胞株において誘導される主要な放射線誘発細胞死形態である。本研究では老化様増殖停止が誘導される過程の細胞周期を調べるために、細胞周期マーカーを導入したヒト乳がん細胞株MCF-7を樹立し、生細胞ライブイメージングによる細胞系譜解析を行った。10 GyのX線照射後にG1、あるいはG2期にあった細胞のうち、それぞれ17.8%、あるいは69.4%が分裂期特異的な形態変化を示さずに次の細胞周期へ移行する、いわゆる分裂期のスキッピングが観察された。特に、G2期照射後に分裂期へ進行しなかった全ての細胞で分裂期のスキッピングが誘導されていた。分裂期を経ないG1期への移行は蛍光免疫染色によるサイクリンEの核内蓄積によって評価され、その細胞ではG2期マーカーであるmAG-hGeminin、あるいはCENP-Fの核内蓄積が検出されなかった。分裂期のスキッピング後、細胞周期はG1期でとどまっており、その90%以上が老化マーカー (SA-ß-gal)に対して陽性を示した。一方、shRNAによるp53の発現、加えて放射線照射後の蓄積を抑制すると、G2期照射後に観察された分裂期のスキッピングが著しく抑制される一方で、分裂期の出現頻度が上昇した。以上の結果より、放射線照射後のヒト乳がん細胞では分裂期のスキッピングを介してG1期における老化様増殖停止の誘導経路が明らかとなり、分裂期のスキッピングはp53の存在下で顕著に誘導されることが示された。
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松井 理, 橋本 優実, 橋本 光正, 岩淵 邦芳
セッションID: OB-3-5
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/20
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53BP1は電離放射線照射によって誘発されたDNA二本鎖切断部位に集積し、その後の細胞周期停止(DNA損傷チェックポイント)、およびDNA二本鎖切断修復に関与する。
53BP1はその名の由来の通り、我々が癌抑制遺伝子産物p53と結合する蛋白質の一つとして初めて同定したものであり、両者は、53BP1のBRCTドメインとp53のDNA結合ドメイン、および53BP1のTudorドメインとp53のジメチル化Lys382を介してそれぞれ結合する。しかしながら、これまでに53BP1とp53の機能上の関連性については、あまり明らかにされていない。そこで我々は、53BP1がp53の機能にどのように関わっているのかを明らかにするため、正常なp53を持ついくつかのヒト癌細胞株について、RNAiによる53BP1のノックダウン後、X線照射によるp53の蛋白量の増加、p53のSer15のリン酸化、およびp21の発現を調べた。その結果、いずれの場合も53BP1のノックダウンにより阻害が認められた。また、この時、ATMのSer1981のリン酸化は、53BP1ノックダウンにおいて、ほとんど影響が認められなかった。
以上より、53BP1はp53活性化シグナル経路において、ATMの下流、p53の上流で働いていることが示唆された。
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浜田 信行, 野村 崇治
セッションID: OB-4-1
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/20
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白内障とは、透明な水晶体が混濁することである。近年の疫学研究から、従来考えられていたよりも低線量、低線量率の放射線によって水晶体が混濁することが、明らかになってきている。しかし、放射線白内障が誘発されるメカニズムは知られていない。本発表では、マウス水晶体とヒト水晶体上皮細胞の放射線応答に関する予備的な解析結果を示す。
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河合 秀彦, 曹 麗麗, 飯塚 大輔, 松井 啓隆, 金井 昭教, 稲葉 俊哉, 増田 雄司, 笹谷 めぐみ, 神谷 研二, 鈴木 文男
セッションID: OB-4-2
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/20
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放射線の生物影響は、被ばく線量に依存して現れる。これまでの様々な研究によって、一時的な放射線被ばくに対する影響については、非常に多くの知見が得られてきた。その一方、恒常的な放射線被ばくに対する生物影響については、未だ明らかにされていない部分が多い。我々は、恒常的な放射線被ばくが生体に与える影響を明らかにする事を目的として、単位時間あたりの放射線の照射線量率が異なる環境で、様々なヒト細胞を培養し、線量率に依存して現れる細胞応答現象とその分子機構について解析を行った。
137Csを線源とした異なる線量率(0.007-0.694 mGy/min)のγ線照射条件下で、正常ヒト二倍体線維芽細胞、
hTERTで不死化したヒト二倍体線維芽細胞、異なる組織由来のがん細胞株を培養し、照射線量率に依存した細胞増殖や生存率に対する放射線影響とストレス応答因子の動態について解析した。その結果、0.0694 mGy/min以上のγ線照射下で培養されたヒト線維芽細胞は線量率依存的に細胞増殖が有意に阻害され、DNA損傷応答因子群の活性化及び局在変化などが検出された。また、γ線照射された細胞の生存率をコロニー形成法で解析した結果、0.347 mGy/min以下の線量率で144時間までの培養では生存率の低下はほとんど見られなかったが、0.694 mGy/min以上では48時間以降で顕著に生存率が低下する事が明らかとなった。また、γ線照射線量率に依存した細胞内因子の動態変化を網羅的に解析する事を目的として、次世代シーケンサを用いて、γ線照射下のヒト正常二倍体線維芽細胞の遺伝子発現量を解析し、線量率間で比較検討した。その結果、実験条件中で最も低い線量率である0.007 mGy/minにおいても、24時間で多数の遺伝子発現に変化が検出される事が明らかとなった。特に、p53経路の活性化が照射24時間で線量率依存的に顕著に確認された。
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吉田 由香里, 石内 勝吾, 高橋 昭久, 大野 達也, 中野 隆史
セッションID: OB-4-3
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/20
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放射線治療は高精度放射線治療技術の発達により、腫瘍の局所制御は向上したものの、浸潤制御は未だ満足のいく成果は得られていない。放射線照射によって腫瘍細胞の遊走能が亢進するという報告はあるが、その分子機構についてはよくわかっていなかった。そこで、悪性度の高い神経膠芽腫細胞におけるX線誘導遊走能の分子機構を解明することを本研究の目的とした。
ヒト神経膠芽腫細胞(CGNH-PM, U251)に対し、X線照射(200 kVp, 14.6 mA)を行った。X線照射24時間後にwound-healing assay法を用いて解析した結果、細胞の遊走能は線量依存的に亢進した。照射後24時間以内に培養液中に放出されるグルタミン酸量を測定した結果、線量依存的に増加した。そこで、グルタミン酸受容体の1つであるα-amino-3-hydroxy-5-methyl-4-isoxazolepropionate (AMPA) 型グルタミン酸受容体の拮抗薬を添加し、1時間後にX線照射したところ、遊走能の亢進が抑制された。
以上の結果から、X線照射による神経膠芽腫細胞の遊走能の亢進にはグルタミン酸が関与していることが示唆された。現在、グルタミン酸を介したX線誘導遊走能と細胞接着因子との関連を詳細に解析中である。
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藤田 英俊, 中渡 美也子, 中村 悦子, 森竹 浩之, 下川 卓志, 今井 高志
セッションID: OB-4-4
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/20
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放射線治療において重篤な肺晩期障害の一つに肺線維症がある。我々はこれまで、マウスにおいて炭素イオン線照射による肺線維症の発症に系統差があることを報告してきた。この系統差の原因を明らかにすることは、個人差を考慮した炭素イオン線誘発肺線維症の予防や治療法の開発に有効であると考えられる。ブレオマイシンにより誘発される肺線維化モデルでは、肺のリモデリングに関わるMMP2, MMP9, TIMP1の発現バランスが崩れている事が報告されているが、放射線による晩発期に発症する線維化においては、これらタンパク質の関与は未だ明らかではない。本研究では、炭素イオン線照射誘発肺線維症におけるMMP2, MMP9, TIMP1の発現をマウス2系統間で比較した。
炭素イオン線10Gyを2系統のマウス(C57Bl/6J, C3H/He)の肺に照射し経時観察を行った。C57Bl/6Jでは照射後24週から肺の線維化が認められ、28週では5匹中5匹で線維化が観察された。一方で、C3H/Heでは24週で線維化が5匹中3匹観察されたが、28週では線維化が観察されなかった。この結果は、C57Bl/6J は経時的に線維化が進行していくが、C3H/Heでは一過性に線維化が起こりその後改善されたことを示している。そこで、この2系統間でのMMP2, MMP9, TIMP1の発現をリアルタイムPCRと免疫染色にて比較解析した。その結果、MMP2, TIMP1は線維化した肺での発現亢進が両系統で同様に認められたが、MMP9の線維化部位における発現量は、2系統で大きく異なっていた。本学会では炭素線誘発肺線維症の進行とMMP発現に関する系統間比較解析の結果について報告する。
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ヴァレス ギヨーム, 王 冰, 田中 薫, 柿本 彩菜, 江口-笠井 清美, 根井 充
セッションID: OB-4-5
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/20
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Adaptive response (AR) and bystander effect are two important phenomena involved in biological responses to low doses of ionizing radiation (IR). Furthermore, there is a strong interest in better understanding the biological effects of high-LET radiation. In this study, we assessed in vitro the ability of priming low doses (0.01-0.1 Gy) of X-rays and heavy-ion radiation to induce an AR to a subsequent challenging dose (1-4 Gy) of high-LET IR (carbon-ion: 20 and 40 keV/µm, neon-ion: 150 keV/µm) in cultured lymphoblastoid TK6, AHH-1 and NH32 cells. Pre-exposure of p53-competent cells (both with low-dose X-rays and high-LET IR) resulted in decreased mutation frequencies at Hypoxanthine-guanine phosphoribosyl transferase (HPRT) locus and different H2AX phosphorylation kinetics, as compared to cells exposed to challenging radiation alone. This phenomenon was independent of radiation-induced apoptosis or cell cycle effects. Taken together, our results suggested the existence of an AR to mutagenic effects of heavy-ion radiation in lymphoblastoid cells and the involvement of double-strand break repair mechanisms. Even though the cells directly hit by heavy-ion beams (even at low doses) are likely to suffer significant damage, our results constitute the first report to date indicating that low doses of high-LET radiation can nevertheless induce protective effects against subsequent high-LET irradiation. Taking inter-individual variability into account, these results might have interesting implications for high-LET radiation therapy and space research.
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古澤 之裕, 魏 政立, 櫻井 宏明, 田渕 圭章, 李 鵬, 趙 慶利, 野村 崇治, 済木 育夫, 近藤 隆
セッションID: OB-5-1
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/20
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Transforming growth factor beta 1 activated kinase 1 (TAK1) は、NF-kappa B, p38 MAPK, JNKなどのリン酸化に関与し,種々のストレスに対して細胞保護的な役割をなすことが知られている.しかしながら,放射線照射下におけるTAK1の役割については不明な点が多い.そこで我々は,TAK1を安定的に発現抑制したHeLa細胞株を用いて,放射線感受性および遺伝子発現変化について検討を行った.細胞死はコロニー形成法により検討を行った.アポトーシスをカスパーゼ3の切断とSubG1期の細胞の割合を指標として定量した.細胞周期の変化はフローサイトメトリーにて検討した.また遺伝子発現変化をGeneChipを用いたマイクロアレイにて解析した.TAK1の安定的ノックダウンは,放射線によるコロニー形成能の低下とカスパーゼ3の切断を促進し,SubG1期の細胞の割合も増加させた.またTAK1ノックダウンにより,放射線により誘発される細胞周期の停止が部分的に抑制されたことから,放射線感受性増加の一因としてTAK1ノックダウンによるチェックポイント機構の抑制が考えられた.一方でTAK1の下流分子とされるNF-kappa B, p38 MAPK, ERKリン酸化の誘導に関しては,TAK1ノックダウンによる抑制は見られず,TAK1ノックダウンによる放射線感受性の増加は他の標的分子が役割を担っていると考えられた.GeneChipによる網羅的遺伝子解析手法により,TAK1ノックダウン細胞とコントロール細胞において,放射線照射による細胞周期関連遺伝子の発現変化に差が見られた.バイオインフォマティクスツールを用いてネットワーク解析を試みたところ,CDKN1A (p21) を中心とした遺伝子ネットワークがコントロール細胞で同定された一方,TAK1ノックダウン細胞ではネットワークが断片的であった.実際にコントロール細胞において,p21の発現をsiRNAにより抑制したところ,放射線による細胞周期の停止を抑制し,SubG1期の細胞の割合を増加させた.以上の結果より,TAK1はNF-kappa B, p 38 MAPK, ERKのリン酸化状態にかかわらず,p21の転写を介して,放射線誘発細胞死に対して防御的に働いているものと推測される.
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永根 大幹, 安井 博宣, 山盛 徹, 中村 秀夫, 稲波 修
セッションID: OB-5-2
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/20
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【目的】古くから腫瘍組織の放射線に対する反応として、腫瘍低酸素領域の再酸素化という現象が知られているが、この再酸素化の詳細な動態およびメカニズムは未だ明らかではない。そこで本研究では、二種類の低酸素集積性化合物を用いた免疫組織化学的手法と酸素感受性プローブを用いた電子スピン共鳴法(ESR)により、放射線照射後の腫瘍内酸素環境の変動と再酸素化に関与する因子を明らかにすることを目的とし、研究を行った。
【方法】移植腫瘍モデルとしてマウス扁平上皮癌SCCVII細胞を使用した。低酸素領域の変化を描出するために、X線照射前の低酸素領域をpimonidazoleにより標識し、X線照射後の低酸素領域をEF5により標識した。X線照射後、経時的に酸素分圧を測定するため、酸素感受性ESRプローブであるLiNc-BuOを用いた
in vivo ESRにより酸素分圧を測定した。腫瘍組織における血流量変化を評価するため、Hoechst33342による組織灌流量試験を行った。また一酸化窒素(NO˙)の再酸素化への関与を検討するため、NO˙合成酵素阻害薬であるL-NAMEを使用した。
【結果】X線照射前の低酸素領域と比較して、照射24時間後の低酸素領域は有意に減少していた。その後、照射48時間後では低酸素領域の回復が観察された。
in vivo ESRによる酸素分圧測定では照射24時間でピークとなり、48時間以降は照射前と比較して高い水準で安定するという二相性の再酸素化が観察された。また、照射24、48時間後において組織灌流量は有意に増加した。L-NAMEの投与により照射24時間後の再酸素化ピークは消失し、組織灌流量も減少した。以上の結果から、放射線照射後の再酸素化には二相性の変化が生じること、およびNO˙が第一相の再酸素化の原因である可能性が示唆された。
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飯塚 大輔, 河合 秀彦, 鈴木 文男
セッションID: OB-5-3
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/20
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【目的】マイクロRNA(miRNA)は非コードRNAの一員であり,相補的な配列を持つ遺伝子(主に3’ UTR)に相互作用し,その遺伝子発現を抑制する機能を持つ。これまでがんを含む多くの疾患でmiRNA発現異常が報告されている。2008年に血清中でのmiRNA量と腫瘍との関連性が発見されて以降,乳汁や尿などの体液中でもmiRNAが見出されている。本研究では血液中のmiRNAに注目し,放射線被ばくのバイオマーカーを同定することを目的としている。
【方法】9週齢B6C3F1マウス(♂)に対し,γ線を照射し,血漿を採取した。50μlの血漿を用い,miRNeasy Mini Kit (Qiagen) にてmiRNAを抽出した。血漿中miRNAの網羅的解析はTaqMan Array MicroRNA Card (ABI)を用いて行った。また,それぞれのmiRNA定量はTaqMan MicroRNA Assaysを用いて行った。血漿中では内部標準となるmiRNAがまだ確立されていないため,線虫由来のmiRNA(cel-miR-39)をRNA抽出時に添加し,それを基準にして定量を行った。
【結果】γ線4 Gy照射後24時間での網羅的miRNA発現解析により,非照射群に比べ多くのmiRNAの発現量が変動していた。その内,最も発現量の変動の大きかったmiRNAに関し,線量依存性の有無や継時変化などの解析を行ったので紹介したい。
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森田 明典, 佐藤 元俊, 谷本 圭司, 細井 義夫
セッションID: OB-5-4
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/20
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ヒト放射線高感受性遺伝病、毛細血管拡張性運動失調症(ataxia telangiectasia : AT)の原因遺伝子産物ATMは放射線によるDNA二本鎖切断により活性化され、DNA修復と細胞周期の停止を誘導する。近年、過酸化水素(H
2O
2)によってもATMが活性化することや、ATM欠損細胞でH
2O
2に対する高感受性が報告されている。このH
2O
2によるATM活性化は、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVECs)において細胞膜に位置するPDGF受容体を介することが報告されている。本研究では、H
2O
2によるATMの活性化がヒトT細胞性白血病細胞株MOLT-4でも認められることを確認したうえで、放射線によるATM活性化と比較しながらその情報伝達経路を明らかにすることを目的とした。
Annexin V-FITC/PI二重染色法によるアポトーシス測定の結果、H
2O
2によるアポトーシス誘導効果は、200 µMでプラトーに達し、その致死効果はγ線5 Gy照射とほぼ同程度であった。また、MOLT-4細胞のp53ノックダウン細胞株を用いた感受性比較では、ノックダウン細胞株はH
2O
2誘導アポトーシスに抵抗性を示したことから、このアポトーシスがp53依存性であることも明らかとなった。さらに、H
2O
2感受性は、p53の蓄積量よりもp53 Ser-15のリン酸化量やATM自己リン酸化量と良好な相関関係を示したことから、ATMを介したp53 Ser-15のリン酸化とアポトーシスの間に強い相関があることが示唆された。今後は、H
2O
2によるATMシグナル活性化経路が損傷を受けた細胞膜とDNAのどちらを起点としているのかについて詳細に解明していく予定である。
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田野 恵三, 玉利 勇樹, 縄田 寿克, 井上 絵里, 菓子野 元郎, 関 政幸, 榎本 武美, 渡邉 正己
セッションID: OB-5-5
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/20
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[背景] スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)は、有害活性酸素種であるスーパーオキシドを過酸化水素に触媒する。高等真核細胞では細胞内局在性が異なる3種のSODが知られており、SOD1は主に細胞質と一部ミトコンドリア内膜間に、SOD2はミトコンドリアのマトリックスに局在することが知られている。我々はニワトリDT40細胞を用いたConditionalなSOD1,SOD2ノックアウト細胞を作成し、以下を報告した。1)SOD1 は細胞の生存に必須の遺伝子である。SOD2は生存に必須ではないが、細胞増殖機能には重要な役割を担っている。2)SOD1枯渇による致死効果はNAC,TIRON,TROLOX, メルカプトエタノールでは抑制することが出来ず、アスコルビン酸(APM)でしか抑制できない。
[結果] SOD1,SOD2枯渇が細胞内の活性酸素代謝にどのような異常をもたらすのか、また、APMはそれら異常を抑制できるのかを明らかにするために、種々のROSプローブを用いて解析した。1)既に報告しているように、SOD1枯渇細胞では細胞質性のスーパーオキシド量は増加するが、SOD2枯渇細胞では増加は認められなかった。2)ミトコンドリアに存在するスーパーオキシドは、SOD1枯渇とSOD2枯渇のいずれでも増加し、アスコルビン酸により、これらの増加が抑制された。3)ミトコンドリア機能の指標であるミトコンドリア膜電位は、SOD2枯渇細胞においてのみ異常な亢進が見られ、この亢進もアスコルビン酸で抑制された。4)細胞内の酸化ストレスレベルは、SOD1枯渇、SOD2枯渇細胞とも増加し、これらも APMで完全に抑制された。
[考察] 以上の結果より、今回認められた全ての異常をAPMが抑制したことから、細胞質でも、ミトコンドリア内でも、APMはSODを完全にMimicしていると考えられる。
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岡? 龍史, 大津山 彰
セッションID: OC-1-1
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/20
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【目的】以前当学会で、8週齢のマウスに3Gy照射した後の遅延型突然変異には、p53遺伝子が関与していると報告した。今回、マウスの青年期および壮年期に照射を行ない、老年期におけるアポトーシス、p53タンパク、p53遺伝子の解析を行なった。【方法】p53(+/-)マウスを用いて、28週齢および40週齢に3Gy照射し,TCR MFは60週齢まで解析し、また60週齢におけるアポトーシス活性、p53,p53ser15及びp21タンパクの発現、p53アレル及びメチル化の解析を行なった。【結果】前回、p53(+/-)マウスを8週齢で3Gy137Csγ線を照射すると、T Cell Receptor変異頻度(TCR MF)は約10週でピークとなり、約20週で正常レベルに戻り、40週から再上昇した、と報告した。60週齢におけるTCR MF及びp53メチル化は、40週齢で照射したマウスでは、28週齢で照射したマウスよりも高値であった。アポトーシス、p53,p53ser15及びp21タンパクの発現は、40週齢で照射したマウスでは、28週齢で照射したマウスよりも低値であった。【考察】40週齢よりも28週齢で照射した場合の方が、TCR MF及びp53メチル化は低く、p53、p53 ser15、p21タンパクが多く発現していることから、中年期で被曝した方が、壮年期で被曝するよりも放射線によるp53活性に対する晩発影響に関しては少ないと考えられた。より高齢で被曝した方が、加齢に伴うp53遺伝子の異常に加えて、放射線照射によるダメージがより多く残ると考えられた。
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縄田 寿克, 田野 恵三, 菓子野 元郎, 臺野 和広, 島田 義也, 渡邉 正己
セッションID: OC-1-2
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/20
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【目的】染色体の数の異常は90%以上のがんで見つかっていながら、発がん過程における役割がほとんど解明されていない。本研究はその役割を解明することを目的とした。
【方法】p53 (-/-)マウスの13日齢胎仔から分離した初代培養細胞から、染色体数が二倍体、三倍体、および四倍体となっている細胞群を選別し本研究に用いた。各細胞は、10%牛胎児血清を含むイーグルスMEM培養液で培養した。それぞれの細胞について、染色体の異数化ががん形質発現に寄与するかどうかを調べるために、(1)足場非依存性、(2)造腫瘍性、(3) 微小核形成率、(4) H2AX-53BP1フォーカス形成、(5) 染色体構造異常、(6)DCFH試験による細胞内酸化度、(7)細胞増殖速度および、(8)DNAマイクロアレイによる網羅的な遺伝子発現の変化を調べた。
【結果】足場非依存性増殖能および造腫瘍性は三倍体細胞で観察されたが二、四倍体細胞では観察されなかった。また、三倍体細胞は二および四倍体細胞に比べて微小核形成率、H2AX-53BP1 フォーカスの数、染色体構造異常が有意に増加していた。一方、細胞内酸化度は三倍体細胞においてのみ大きく低下していた。細胞増殖速度は、三倍体細胞では二倍体細胞に比べて有意な変化はなかったが、四倍体細胞は二倍体細胞に比べて有意に低下していた。マイクロアレイ解析の結果、二倍体細胞群に比べて10倍以上遺伝子発現が変化している遺伝子の数は、四倍体細胞群で14個、三倍体細胞群で130個であった。三倍体細胞は二および四倍体細胞に比べて細胞内酸化度が低下しているにも関わらず、染色体構造異常やDNA二重鎖切断が多く発生していることがわかった。
【結論】染色体の三倍体化は、染色体やDNAレベルにおける不安定化を誘起し、遺伝子発現の大規模な変化を起こし、細胞をがん化することが明確になった。
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河井 一明, 李 云善, 宋 明芬, 葛西 宏
セッションID: OC-1-3
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/20
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100mSv 以上の放射線被曝によるがんの増加が、疫学調査等により明らかとされている。しかし、それ以下の低線量曝露による発がん率への影響は明確でない。本研究では、発がんと関わりが深いとされている酸化的DNA損傷と照射線量との関係、特に障害が現れる閾値について検討した。実験は、マウスにX線照射を行い、代表的な酸化的DNA損傷である8-ヒドロキシデオキシグアノシン(8-OHdG) の組織DNAおよび尿中レベルをHPLC-ECD法により測定した。これとは別に、DNAあるいはデオキシグアノシン(dG)の水溶液にγ線を照射したところ、20 – 300 mGy の範囲で直線的に8-OHdGの生成が見られた。8-OHdGは放射線被曝による鋭敏な酸化的DNA損傷マーカーと言える。これに対して、マウスにX線を全身照射した場合、肝臓DNAならびに尿中の8-OHdGレベルは、0.5 Gyの照射でわずかな増加を認めた。このことは、生体は様々な防御機構によって酸化的DNA損傷を防いでいる事を示している。8-OHdGを放射線被曝による放射線影響マーカーと考えれば、発がんと関わりがあるとされる酸化的DNA損傷に対する閾値の存在が示唆される。より低線量域の結果と合わせて報告したい。
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葛城 美徳, 坂牧 遼, 小幡 美貴, 三嶋 行雄, 木南 凌
セッションID: OC-1-4
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/20
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クリプトに幹細胞や前駆細胞を含むマウス腸上皮細胞では放射線による影響が調べられてきた。腸上皮幹細胞は2種類、すなわちクリプト底部から+4の位置にあるBrdU長期保持細胞(+4 LRCs)とクリプト底部にあるLgr5陽性のCBC細胞に分類される。転写調節因子
Bcl11bはがん抑制遺伝子であり、これらの細胞での発現が認められた。今回我々は
Bcl11bの片アリル欠損がγ線照射後の腸上皮細胞の再構築に影響を与えることを示す。まずBrdUパルスチェイス実験によりクリプトからビリへの腸上皮細胞の移動度を調べた結果、非照射の場合は
Bcl11bKO/+と
Bcl11b+/+ の間で移動度や細胞増殖に大きな差は認められなかったが、γ線照射した場合はその差が認められ、照射後は
Bcl11bKO/+よりも
Bcl11b+/+ のマウスの方がBrdU+細胞の分布が低かった。同様に、照射後16時間におけるBrdU の取り込みは
Bcl11bKO/+のCBC細胞の方が多かったことから、
Bcl11bKO/+のCBC細胞は放射線照射による細胞周期停止に対して抵抗性が高いことがわかった。放射線照射後、DNA損傷チェックポイントの要であるp53を調べたところ、
Bcl11bKO/+ではクリプト内の細胞における活性化が低下していた。以上の結果から、
Bcl11b の片アリル欠損が放射線照射後の一過的な活性化を増強させる、あるいは放射線感受性を上昇させることによって、幹細胞の増殖を促進することを示唆する。
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郷 梨江香, 木南 凌
セッションID: OC-1-5
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/20
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ヒトの急性T細胞性白血病(T-ALLs)では、約16%に
Bcl11b遺伝子の変異があることが報告されている。放射線誘発のマウス胸腺リンパ腫においても、約半分に
Bcl11b欠失が見られる。我々は、
Bcl11bKO/+マウスを用いた実験から、
Bcl11b遺伝子の片アレル欠失が前がん細胞のクローナル増殖に重要な役割を果たすことを示した。しかしながら、発がん母体となる細胞が、胸腺内に存在する分化途中の細胞に由来するのか、あるいは骨髄のより未分化な細胞に由来するのか、は不明なままである。発がん母体細胞の由来を調べるため、我々は、
Lck-Cre;Bcl11bflox/+モデルマウスを作製して実験を行った。このマウスでは、胸腺内の特定の分化段階から
Bcl11b-KO/+となる。8週齢のマウスに放射線3Gyを照射後、胸腺細胞に見られる前がん細胞の特徴ついて解析した。その結果、
Lck-Cre;Bcl11bflox/+マウスにおいて、クローナル増殖する前がん細胞の存在が示された。さらに、その前がん細胞の多くはTCRβ発現の高いCD8SP細胞由来であることが示唆された。今回の結果は、未分化な骨髄細胞ではなく、胸腺内の分化細胞がリンパ腫の発がん母体細胞となることを示し、分化細胞が放射線のターゲットとなる可能性を示している。
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小野 哲也, 上原 芳彦, 池畑 広伸, 小村 潤一郎
セッションID: OC-2-1
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/20
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放射線による発癌、寿命短縮、染色体異常などの誘発効果は被曝時の個体のエイジによって左右されることが分かっているが、そのメカニズムはまだよく分かっていない。本研究では、突然変異検出用に開発された lacZ トランスジェニックマウスを使い、放射線による突然変異誘発効率が胎仔期から成熟期にかけて変化するかどうかを調べた。臓器は癌誘発について強いエイジ効果が見出されている肝臓を用いた (S. Sasaki, J. Radiat. Res., 32(Suppl. 2), 73-83 (1991))。
材料と方法:lacZ 遺伝子をもった Muta マウスに 0, 10, 20 Gy の X 線 (0.72 Gy/min) を照射し3日後に肝臓を摘出して DNA を抽出。その中に含まれる lacZ 遺伝子上での変異頻度を大腸菌を用いて分析した。照射した時期は 15.5 日齢胎仔、生後2、7日齢及び 8 週令。
結果と考察:変異頻度の線量依存性はどのエイジでもほぼ直線的な増加であったのでその傾きから1Gy 当たりの変異誘発効率を求めた。その結果、2ヶ月齢では 1.32x10
-5/Gyであったのに対し胎仔では 0.507x10
-5/Gy であった。2日齢と7日齢ではその中間の値を示した。これは胎仔期及び生後間もない時期では放射線による突然変異誘発は起こりにくいことを示している。この原因としては DNA 二重鎖切断が胎仔期には error-free な homologous recombination repair で修復され、成熟すると error-prone な non-homologous end joining で修復されるようになることが考えられる。
放射線の肝腫瘍誘発効果は出生直後から7日齢までが高くそれ以外の時期には低いことが分かっているが(上記文献)、今回の結果からはそのエイジ依存性の原因が突然変異以外にあることが示唆される。
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平野 しのぶ, 柿沼 志津子, 甘崎 佳子, 西村 まゆみ, 今岡 達彦, 藤本 真慈, 樋野 興夫, 島田 義也
セッションID: OC-2-2
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/20
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【目的】現代のがん治療や診断には放射線が幅広く用いられている。さらに、ヒトは生活環境中に存在する様々な発がん因子に常に曝露されている。よって、放射線被ばくによる発がんは、放射線と生活環境中の発がん因子との同時複合曝露の結果としてとらえる必要がある。しかし、同時複合曝露による発がんリスクやメカニズムに関する研究はほとんどなされていない。本研究ではX線とエチルニトロソウレア(ENU)を同時複合曝露しマウス胸腺リンパ腫(thymic lymphoma:TL)を誘発させ、TLの原因遺伝子であるIkaros、Notch1、p53とKrasの変異解析を行い、同時複合曝露の発がんメカニズムを明らかにすることを目的とした。
【材料・方法】4週齢のB6C3F1雌マウスにX線(0.8,1.0Gy)を1週間間隔で4回全身照射し、同時期にENU(100,200ppm)を飲料水として4週間投与してTLを誘発した。さらにTLの発生率とがん関連遺伝子の変異頻度と変異スペクトラムを調べた。
【結果】同時複合曝露では、各単独曝露と比べてTL発生率の相乗的増加と潜伏期間の有意な短縮が見られた。遺伝子変異解析の結果、同時複合曝露ではIkarosの変異頻度が各単独曝露に比べて有意に増加した(複合 50.9%, X線 25.8%, ENU 0%)。Ikarosの変異にはスプライシング異常、欠失・挿入変異と点突然変異が見られ、同時複合曝露では特に点突然変異頻度が各単独曝露に比べて有意に増加した(複合 47.2%, X線12.9%, ENU 0%, P<0.01)。同時複合曝露で見られたIkarosの点突然変異には、ヘテロ接合性の消失(loss of heterozygosity: LOH) を伴うX線タイプ(10/25: 40%)、LOHを伴わないENUタイプ(12/25: 48%)の2つのタイプがあり、さらに片側アリルに挿入やスプライシング異常を伴うタイプも見られた(3/25: 12%)。Notch1の変異頻度は全ての曝露条件で高く(~84.6%)、TLの発生に必須であることが示唆された。一方p53とKrasの変異頻度は低かった(~23%)。
【結論】同時複合曝露ではX線とENU両者の変異メカニズムが作用し、Ikarosの不活化を促進していた。よって、Ikarosは同時複合曝露における標的遺伝子であり、Ikarosの変異頻度の増加が複合曝露におけるTL発生率の相乗的増加に寄与していることが示唆された。
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岩田 健一, 山田 裕, 中田 章史, 小木曽 洋一, 土居 主尚, 森岡 孝満, 西村 まゆみ, 柿沼 志津子, 島田 義也
セッションID: OC-2-3
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/20
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【目的】肺がんの主な要因は多くのアルキル化剤を含むタバコである。一方、胸部CT、特に小児CTの利用拡大により、将来の肺がんリスクに対する関心が高まっている。そこで我々は幼児期のX線照射とそれに引き続くアルキル化剤投与の影響をラットを用いて調べた。
【材料と方法】1週齢、5週齢、22週齢のWistarラット(各群20-23匹)に、X線(3.18Gy)を胸部照射し、1週間後、あるいは23週齢時に、 N-nitrosobis(2-hydroxypropyl)amine(BHP)を1g/kg body weightで腹腔内投与し、90週齢打ち切りで肺腫瘍発生への影響を調べた。得られた肺腫瘍組織の病理解析、免疫染色、がん関連遺伝子の変異解析を行った。
【結果】(1)肺腫瘍誘発発生率は、X線照射群では年齢と共に僅かに増加し、腺がんは22週齢照射でのみ観察された。BHP投与群では2週齢投与で肺腫瘍発生率が高く、6週齢、23週齢では低かった。つまり、X線とBHPでは年齢依存性の傾向が逆になっていた。(2)複合曝露群では肺腫瘍発生率が単独曝露群よりも増加し、年齢依存性は見られなくなった。(3)X線照射とBHP投与の間隔が長くなると発がん効果は少し低下した。(4)得られた肺腫瘍は、僅かな扁平上皮がんを除き、全てSP-A陽性であり、肺胞上皮_II_型細胞に由来すると考えられた。調べた全ての腺がんでK-ras、EGFRの変異は検出されず、pERK陽性細胞は約半数の腺がんで局所的に観察された。
【考察】以上の結果は若齢時の放射線被ばくの影響が長期間維持され、化学物質による発がんリスクの増加に寄与することを示している。このような長期間の放射線影響の維持は、肺上皮細胞の更新に長時間を要することによる可能性がある。また、X線、BHP共に肺胞上皮_II_型細胞を発がんのターゲットとしていることが、複合曝露による肺腫瘍発生割合の上昇に寄与していると考えられた。
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柿沼 志津子, 滝本 美咲, 藤本 真慈, 甘崎 佳子, 平野 しのぶ, 鬼頭 靖司, 太田 有紀, 福士 政広, 島田 義也
セッションID: OC-2-4
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/20
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【目的】胎児期被ばくによる小児白血病の増加が報告されているが、実際には環境因子や遺伝的因子あるいは放射線とこれらの因子との複合影響についても検討する必要がある。MLH1遺伝子は、DNAミスマッチ修復遺伝子の一つで、そのヘテロ欠損は家族性非腺腫性大腸がんを、ホモ欠損は幼児期にTまたはB細胞白血病を発症することが報告されている。本研究では、遺伝的に胸腺リンパ腫になりやすいMlh1欠損マウスを用いて、胸腺リンパ腫と脾臓リンパ腫の発生および原因遺伝子であるIkarosとp53の変異のスペクトラムを解析することで、胎児期被ばくの特徴を明らかにすることを目的とした。
【方法・結果】Mlh1欠損マウスの非照射群および胎生17日にX線2Gyを照射したマウスから発生した胸腺リンパ腫と脾臓リンパ腫を解析した。これらのリンパ腫の表面マーカーの解析から、脾臓リンパ腫はT系列とB系列の二つのグループに分類された。リンパ腫の原因遺伝子Ikarosとp53の変異解析から、胸腺リンパ腫ではIkaros、脾臓リンパ腫ではp53がフレームシフト変異していた。照射群では、これらの遺伝子の点突然変異の頻度が増加した。興味深いことに、胎児期照射で誘発したB系列の脾臓リンパ腫では、非照射群に比べて潜伏期間の短縮が認められたが、T系列の脾臓リンパ腫や胸腺リンパ腫では認められなかった。すなわち、Mlh1欠損マウスの胎児期被ばくは、B系列脾臓リンパ腫の発生を促進するが、胸腺リンパ腫やT系列の脾臓リンパ腫には影響しないことが明らかになった。以上の結果は、ミスマッチ修復遺伝子欠損の体質の場合には、胎児期被ばくによる影響に注意が必要があることを示唆している。
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野田 朝男, 末盛 博文, 平井 裕子, 児玉 喜明, 中村 典
セッションID: OC-2-5
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/20
会議録・要旨集
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目的:個体レベルでの放射線による遺伝影響や遺伝的不安定性を測定するモデルマウスの作製をめざしてふたつの実験系を試みている。細胞内在性遺伝子の変異に伴って細胞が生きたまま蛍光を発する仕組みを作り、ES細胞での検証を行った後にマウスを作製することをくり返している。方法:Gene targeting法を用いて蛍光タンパク質遺伝子を特定の遺伝子座に持ち込む手法を2種類行った。(1)内在性HPRT遺伝子のエクソン5-9部分を重複させ、その直後にin frameでGFPを結合した組換えES細胞を作製し(HPRT-dupGFP)、復帰変異に伴いHPRT-GFP融合蛋白質の発現により細胞が光る系とした。(2)tetracyclin operator をプロモーター中に持つCMV-tetO-GFPユニットを導入して恒常的にGFPが発現する細胞を作った。この細胞のHPRT遺伝子の第3イントロン中にtet-repressor 発現ユニット挿入して、tet repressor(TetR)の恒常的発現によりGFP発現が完全に抑えられるES細胞を作製した(HP-TetR-RT細胞)。この細胞では、tet R発現ユニットを含むHPRT遺伝子座にどのようなサイズの失活性突然変異が生じても細胞が光る。結果:(1)ノックインシステムの改良が必要であったが、個体レベルで全身の細胞の変異がin situ で測定できるマウスが誕生した。現在、各種臓器細胞における突然変異率を測定している。(2)HP-TetR-RTとtetO-GFP発現の複合システムは、マウス個体レベルではうまく機能しない。組織ごとにtransgeneの発現が異なるために非変異細胞でもGFP発現の漏れが起こるという問題に直面している。
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西山 祐一, 片岡 隆浩, 寺岡 准一, 迫田 晃弘, 大和 恵子, 石森 有, 山岡 聖典
セッションID: OD-1-1
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/20
会議録・要旨集
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【目的】我々はこれまでに,事前のラドン吸入によりマウス諸臓器中の抗酸化機能が亢進し,四塩化炭素(CCl
4)誘導肝障害などの酸化障害が抑制されることを報告してきた。しかし,事前吸入と事後吸入による酸化障害抑制効果を比較した報告はない。本研究ではマウスの脳・心臓・肺・肝臓・腎臓を対象にCCl
4誘導酸化障害の抑制効果に関するラドンの事前と事後の吸入による比較検討した。【方法】BALB/cマウス(7週齢・雄)にラドン(18,000Bq/m
3)を6時間吸入させ,その直後にCCl
4(5% in オリーブオイル,4ml/kg体重)を腹腔内投与した(事前吸入)。同様に,CCl
4投与から18時間後にラドンを6時間吸入させた(事後吸入)。それぞれ投与から24時間後に屠殺・解剖し,脳・心臓・肺・肝臓・腎臓を試料に供した。指標として酸化障害は過酸化脂質(LPO)量を,抗酸化機能はtotal glutathione (t-GSH)量,superoxide dismutase (SOD)活性,catalase (CAT)活性に着目し,それぞれ定法に従い分析した。【結果例と考察】1) CCl
4投与により増加した肺・肝臓・腎臓中のLPO量に対し,事前・事後のラドン吸入はいずれもSham吸入に比べ増加幅を有意に小さくしたが,両者に有意差はなかった。2)同様に,有意に減少した肝臓中のt-GSH量,脳中のSOD活性に対し,事前吸入では肝臓中のt-GSH量の減少幅はSham吸入に比べ有意に小さく,事後吸入に比べても有意に小さかった。他方,事後吸入では,脳中のSOD活性の減少幅はSham吸入に比べ有意に小さく,事前吸入に比べても有意に小さかった。以上の所見より,ラドンの事前吸入と事後吸入はいずれも抗酸化機能を亢進させ酸化障害を抑制するが,酸化の受け易さの異なる臓器により程度に差のあることが示唆された。
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深尾 光佑, 迫田 晃弘, 石森 有, 片岡 隆浩, 花元 克巳, 川辺 睦, 光延 文裕, 山岡 聖典
セッションID: OD-1-2
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/20
会議録・要旨集
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【目的】これまで我々は,ラドン療法のメカニズム解明の一環として,マウスを用いたラドン吸入実験を実施してきた。ラドンは気体であるため大半が体外に排出されるが,ラドンの子孫核種は固体であるため,呼吸器への沈着し曝露が生じる。本研究では,マウスにおけるラドン子孫核種吸入による肺への沈着率や吸収線量率を解析し,ラットやヒトの結果と比較検討した。【方法】使用したマウスの肺モデル(Oldham et al., Anat. Rec., 2007)は,肺を23に区分しており,下気道領域(区分1~16。区分1は気管),肺胞領域(区分17~23)に大別できる。先ず吸入率と上気道領域への沈着率を,次いで,慣性衝突,重力沈降,拡散を考慮して肺における沈着率を計算した。また,粒子クリアランスと標的細胞へのα線エネルギー吸収割合を評価した後,吸収線量率を求めた。【結果と考察】粒子径の対象範囲である0.5nm~5μmにおいて,下気道領域の粒子沈着率は20nmと5μmで,また肺胞領域では80nmと3μmでそれぞれピークがあった。次に,平衡ファクター0.4,非付着成分比0.01,および粒径分布(非付着成分:幾何平均 1 nm,幾何標準偏差 1,付着成分:幾何平均250 nm,幾何標準偏差2.5)の条件下でのマウス肺の吸収線量率は,下気道と肺胞領域における吸収線量率は51.6,4.6 nGy/h/(Bq/m
3)であり,全肺としては35.9 nGy/h/(Bq/m
3)になる。ここで,濃度は平衡等価ラドン濃度を意味する。さらに同様にしてえられたラットとヒトの吸収線量率と比較した結果,マウスの線量はラットの約2倍,ヒトの約7倍に高いことが分かった。
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小倉 啓司, 根岸 秀和, 藤川 勝義, 田中 聡, 田中-ブラガ イグナシア III, 一戸 一晃, 田中 公夫
セッションID: OD-1-3
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/20
会議録・要旨集
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ラッセルらによって1980年代までに仔マウスに生じた毛の色などの表現型を指標として、オス親マウスへの高線量率域から低線量率域放射線の影響が調べられてきた。しかし、低線量率域においては放射線の影響がほとんど認められていない。最近のゲノム解析技術の発展により、より詳細なゲノム変異解析が可能になりつつある。私達はオス親マウス(C57BL/6J)への低線量率(20 mGy/22h/day;0.91mGy/h)γ線の長期間(400日間)連続照射(総線量8000 mGy)が仔マウスのゲノムに及ぼす影響をアジレント社のアレイシステムを用いたオリゴマイクロアレイCGH法を用いて仔マウスに見られるゲノム変異の頻度を調べている。これまでに合計107匹(内訳は低線量率照射群のオス親、メス親各6匹とその仔マウス32匹、さらに非照射対照群のオス親、メス親各7匹とその仔マウス49匹)のマウスについて解析している。その結果、低線量率(20 mGy/22h/day)照射群では、親に見られない変異が4匹の仔マウスでそれぞれ1個体あたり1ヶ所、さらに、別の4匹のマウスにおいては1個体あたり3~35ヶ所と数多くのゲノム領域に変異が検出された。一方、非照射群では変異が5匹の仔マウスにおいてそれぞれ1ヶ所のみ検出された。以上の結果から低線量率(20 mGy/22h/day)γ線を8000 mGyになるまで照射した群(2.09ヶ所/ゲノム)では非照射群(0.10ヶ所/ゲノム)よりも有意に高い頻度でゲノム変異が生じていることが判った。本研究は、青森県からの受託事業により得られた成果の一部である。
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松田 尚樹, 三浦 美和
セッションID: OD-1-4
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/20
会議録・要旨集
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外部急性被ばくによる放射線生物学的知見はこれまで多く得られているが、内部被ばくについては解明すべき点が極めて多く残されている。本研究では、培養細胞を用いた放射線の内部被ばく評価のモデルシステム構築を目指し、その予備的検討として、培養細胞に放射性核種を取り込ませた後に凍結して長期照射を行い、細胞致死と細胞内シグナル分子の応答を調べた。H1299細胞をI-125 deoxyuridine(81.4TBq/mmol)またはH-3 deoxyuridine(740TBq/mmol)の存在下で24時間培養することにより放射性核種を取り込ませた細胞を、非放射性の培養液とともに液体窒素内で凍結状態としたものを細胞内照射、細胞を上記の放射性核種を含む培養液とともに凍結状態にしたものを細胞外照射とすると、I-125の細胞内照射では、内部取り込み開始24時間後から生存率は速やかに低下し、1週後(凍結照射開始6日後、凍結中の細胞内総崩壊数10.94decays/cell)では、Cs-137外部線源によるガンマ線4Gy照射と同程度の生存率約40%に達し、その後も緩やかに低下した。このとき、細胞内ではp53、ERK-MEK系、およびp38の明確なリン酸化が観察された。一方、I-125による細胞外照射によっても細胞生存率は照射時間にほぼ比例して低下したが、照射開始8週後においても約70%の生存率を示した。H-3の場合は細胞内、細胞外照射ともに照射開始8週(細胞内照射では2.24decays/cell)までにおいて生存率に変化を及ぼさなかった。以上のような、細胞を凍結状態におき長期にわたり細胞内を行う基本的な系を用いて、次に甲状腺細胞とI-131 NaIの組み合わせによる本実験に移行する。
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小嶋 光明, 伊藤 麻実, 甲斐 倫明
セッションID: OD-1-5
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/20
会議録・要旨集
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【緒言】同じ線量の放射線であっても、照射時の線量率が低ければ生物影響は小さくなる。この現象は線量率効果といい、放射線の健康リスクを明らかにする上で非常に重要な現象である。本研究では、線量率効果のメカニズムを明らかにするために下記の仮説を立て実験によって検証した。
【仮説・目的】線量率効果を分割線量の繰り返し照射による効果として捉える。例えば、40mGyを一回で照射するよりも、20mGyずつ二回に分けて照射した方が一回目の照射で生成される損傷も少なくなるので、二回目の照射までの間に損傷は修復される。よって、同じ40mGyでも分割して照射した方が損傷は少なくなると考えた。そこで、本研究では線量の分割により生じる影響の程度が一定の法則で異なるという仮説を立て検証することを目的とした。
【方法】まず、コンフレントまで培養したMRC-5(ヒト胎児肺線維芽細胞)に40mGyのX線を照射し、DNA損傷数を53BP1のフォーカスを指標として観察した。次に、一定時間間隔の繰り返し照射によるDNA損傷数の変化を調べるために、コンフレントまで培養したMRC-5に20mGyのX線を0~30分の時間間隔で2回繰り返し照射を行い、DNA損傷数を観察した。
【結果・考察】40mGyで生成される細胞1個あたりのDNA損傷数は2.62個となることが分かった。これに対して、20mGyを0分毎に2回照射した場合は2.56個、3分毎では2.50個、5分毎では2.10個、10分毎では2.03個、15分毎では1.82個、 30分毎には1.63個になることが分かった。20mGyを1回照射した場合のDNA損傷数は1.57個であるから、20mGyを0~3分の時間間隔で繰り返し照射した場合はDNA損傷数が蓄積されていることが分かった。しかし、それ以降の時間間隔では損傷の蓄積がみられなかった。以上の本研究の結果より、繰り返し照射によるDNA損傷の蓄積性は照射と照射の間の時間によって変化することが分かった。
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広部 知久, 江口ー笠井 清美, 菅谷 公彦, 村上 正弘
セッションID: OD-2-1
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/20
会議録・要旨集
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胎生期マウスの発生や細胞の分化に対する低線量重粒子線の影響については不明な点が多い。神経冠由来のメラノサイトは胎児期の増殖が盛んな点と分化マーカーとしてメラニンという黒色色素を持つため、細胞の増殖・分化に対する重粒子線の影響を調べるのに適している。胎生18日のマウスの皮膚は、メラノサイトの前駆細胞であるメラノブラストが表皮に多く存在し、表皮メラノサイトの分化も始まっていて、さらに、メラノサイトの最終分化形である毛球メラノサイトも多数見られることから、重粒子線のメラノサイトの分化に対する影響を調べるのに適している。そこで本研究では、神経冠細胞の移動が始まる胎生9日に、低線量域を含む様々な線量(0.1, 0.25, 0.5, 0.75 Gy)の重粒子線をC57BL/10Jマウスに全身照射(線量率0.3 Gy/min)し、胎生18日の胎児の発生や表皮メラノブラスト、メラノサイトおよび毛球メラノサイトを解析することで、胎生期マウスの発生や細胞の分化に対する重粒子線の影響を調べた。その結果、尾曲や短尾、小眼球症、無眼球症等の奇形は線量やLETに依存して増加したのに対し、四肢奇形や内出血ではLETによる差がなかった。表皮メラノブラスト数やメラノサイト数ならびに毛球メラノサイト数も0.1 Gy照射群から線量に応じて有意に減少し、背側より腹側の方が効果が大きかった。表皮メラノブラスト数やメラノサイト数の減少は重粒子線もガンマ線も変わらなかったが、毛球メラノサイト数の減少は重粒子線のLETに依存していた。これらの結果から、重粒子線は低線量でもメラノブラスト・メラノサイトならびに他の細胞の細胞死あるいは増殖・分化抑制を引き起こし、その効果は背側より腹側の方が大きいこと、影響が現れやすい組織があることがわかった。
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王 冰, 田中 薫, 季 斌, 小野 麻衣子, 方 雅群, 二宮 康晴, 丸山 耕一, 中島 菜花子, 尚 奕, ベゴム ナスリン, 樋口 ...
セッションID: OD-2-2
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/20
会議録・要旨集
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アルツハイマー病(AD)は最も多い認知症タイプであり、その原因と疾患進行には未だ不明な点が多い。低線量照射による認知機能への影響は、生体の放射線被ばく研究にとって重要な関心事項である。動物を用いた最新の研究では、脳内のAD関連遺伝子の転写活性は低線量X線照射(0.1Gy)により変化した。これは照射による脳内分子ネットワーク及び分子経路への影響が、ADの進行や認知機能、そして加齢に関連している可能性があることを示している。低線量照射による認知機能やAD病理への影響を検討するために、C57BL/6Jマウスに対してX線(0.1Gy)または炭素線(0.05Gyまたは0.1Gy)で全身照射を行った後、海馬を採取し、AD関連遺伝子の発現を解析した。また、学習や記憶機能はモーリス水迷路テストを用いて評価した。アミロイドβペプチド(Aβ)の沈着はPETによるアミロイドイメージングを用いて評価した。ADの病理学的変化はアミロイド前駆タンパク(APP)、Aβ、タウ蛋白並びにリン酸化タウ蛋白の免疫染色により評価した。その結果、照射後4時間で、いくつかのAD関連遺伝子の転写レベルの顕著な変化が検出されたが、1年後、その変化は認められなかった。また、学習や記憶機能に変化はなかった。アミロイドの沈着や、APP、Aβ、タウ及びリン酸化タウの発現には、照射後の4ヶ月及び2年においても有意な変化が認められなかった。これらの結果から、低線量単回照射は、AD関連遺伝子に転写レベルの変化を誘導するが、認知機能やAD病理に有意な変化を起こすことはない事が示された。
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片岡 隆浩, 寺岡 准一, 西山 祐一, 迫田 晃弘, 大和 恵子, 石森 有, 野村 崇治, 田口 勇仁, 山岡 聖典
セッションID: OD-2-3
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/20
会議録・要旨集
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【目的】我々はこれまでに,ラドン吸入によりマウス諸臓器中の抗酸化機能が亢進し,酸化障害が抑制されることを報告してきた。本研究ではラドン吸入によるカラゲニン誘導炎症性マウス足浮腫の抑制効果を検討した。【方法】2400Bq/m
3のラドン濃度が調節可能な新規開発した循環型ラドン吸入装置を用いた。ICRマウス(8週齢・雌)に2000Bq/m
3のラドンを24時間吸入し,その直後に1%カラゲニン(50μl)を後足に皮下投与し炎症性足浮腫を誘導した。投与2時間後に屠殺・採血し,足と血清を試料に供した。【結果例と考察】1)カラゲニン投与により誘導される浮腫の大きさがラドン吸入群の方がSham吸入群に比べ有意に小さいことから,ラドン吸入はカラゲニン誘導浮腫を抑制することが示唆できた。2)血清中のtumor necrosis factor-α(TNF-α)とnitric oxide(NO)はカラゲニンを投与するとそれぞれ有意に増加した。これに対し,ラドン吸入群の方がSham吸入群に比べいずれも増加幅が有意に小さいことから,ラドン吸入には抗炎症作用のあることが示唆できた3)カラゲニン投与により足中のsuperoxide dismutase (SOD)活性やカタラーゼ活性は有意に減少した。これに対し,ラドンを吸入した方がSham吸入群に比べ両活性の減少幅が有意に小さいことから,ラドン吸入は抗酸化機能の亢進によりカラゲニン誘導浮腫を抑制することが示唆できた。4)カラゲニン投与により炎症部位に炎症性白血球の遊走が認められた。これに対し,ラドン吸入により抑制されることが示唆できた。以上の所見より,ラドン吸入は抗酸化機能を亢進させ,カラゲニン誘導炎症性足浮腫を抑制する可能性が示唆できた。
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大和 恵子, 片岡 隆浩, 西山 祐一, 寺岡 准一, 森井 佑至, 田口 勇仁, 山岡 聖典
セッションID: OD-2-4
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/20
会議録・要旨集
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【目的】ラドン療法は関節リウマチなどの疼痛疾患に効果のあることが報告されている。しかし,疼痛軽減に関する機序は明らかにされていない。本研究では,マウスのホルマリン誘発性炎症性疼痛におけるラドン吸入の疼痛緩和効果の有無について検討した。【方法】8-9週齢のICRマウス(雄,雌)にラドン(1000 Bq/m
3または2000 Bq/m
3,24時間)吸入後,後肢の足蹠皮下へ0.5%ホルムアルデヒドを20μl投与し,2相性の疼痛様行動を示す一過性炎症性疼痛モデルを作製した。その後,40分間後肢を舐める行動(licking),噛む行動(biting),振り回す行動(flinching)による疼痛様行動の時間を測定した。また,ホルマリン投与30分後に屠殺・採血し,血清と足を試料に供した。【結果例と考察】1)ホルマリン投与直後から5分後までホルマリンの直接刺激による疼痛(第1相)が,投与後10分から30分まで炎症性疼痛(第2相)が,それぞれ誘導されることが確認できた。1000 Bq/m
3,2000 Bq/m
3いずれのラドン吸入でも第1相の疼痛は緩和されなかったが,2000 Bq/m
3のラドン吸入により第2相の疼痛が有意に緩和された。これより,ラドン吸入がモルヒネなどの麻薬性鎮痛薬的効果を示すのではなく,非ステロイド系抗炎症薬などに似た鎮痛効果を示すことが示唆された。2)ホルマリン投与部位に炎症性白血球の遊走が認められたが,事前のラドン吸入により炎症性白血球の遊走が抑制される可能性が示唆された。本報告では,病理観察,抗酸化機能,炎症性メディエータなどの変化特性についても言及する。
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寺岡 准一, 片岡 隆浩, 西山 祐一, 森井 佑至, 大和 恵子, 迫田 晃弘, 石森 有, 田口 勇仁, 山岡 聖典
セッションID: OD-2-5
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/20
会議録・要旨集
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【目的】我々はラドン吸入によりマウスにおいて諸臓器中の抗酸化機能が亢進し,四塩化炭素(CCl
4)誘導の肝障害や腎障害が抑制されることを報告してきた。他方,アスコルビン酸などの抗酸化物質でも同様の効果が認められると報告されている。本研究では,CCl
4誘導マウス酸化障害におけるラドンとアスコルビン酸の各抗酸化作用を比較検討した。【方法】8週齢・ICRマウスにラドン(1000 Bq/m
3,2000 Bq/m
3)をそれぞれ24時間吸入させ,その直後にCCl
4(4ml/kg体重,5% in オリーブオイル)を腹腔内投与した。他方,アスコルビン酸(100mg/kg,300mg/kg,500mg/kg)をそれぞれ腹腔内投与し,その直後に同様にCCl
4を腹腔内投与した。CCl
4投与24時間後に屠殺・解剖し,肝臓と腎臓と血清を試料に供した。【結果例と考察】1)ラドン吸入,アスコルビン酸投与のいずれもCCl
4誘導肝障害を抑制した。また,肝機能の指標である血清中のglutamate oxaloacetate transaminase(GOT),glutamate pyruvate transaminase(GPT),triglyceride(TG),total cholesterol (T-CHO)の各レベルで比較すると,ラドン吸入による抑制の程度はアスコルビン酸300 mg/kgのそれに相当することがわかった。2)肝臓中のsuperoxide dismutase(SOD)とcatalase(CAT)の両活性は,CCl
4投与により減少した。これに対し,両活性の減少幅はラドン吸入群の方がアスコルビン酸投与群よりも有意に小さいことから,ラドン吸入による抗酸化作用はアスコルビン酸のそれより効果的であることが示唆できた。
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桑原 義和, 及川 利幸, 福本 基, 志村 勉, 福本 学
セッションID: OE-1-1
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/20
会議録・要旨集
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目的 放射線耐性細胞の出現や存在は、放射線療法の予後を左右する解決すべき課題である。より有効な放射線療法を開発するために、標準的な放射線療法である2Gy/日のX線を30日以上照射し続けても増殖する臨床的放射線耐性(clinically relevant radioresistant; CRR)細胞を樹立した。放射線耐性の要因を明らかにするために、放射線耐性と交叉耐性を示す抗がん剤のスクリーニングを行ったところ、CRR細胞は微小管脱重合阻害剤であるドセタキセル(docetaxel; DOC)に耐性を示すことが分かった。DOC耐性の要因として、MDR1などの薬剤排出ポンプやベータチューブリンの過剰発現が知られているが、解析の結果どちらの関与も否定された。本研究では、なぜCRR細胞がDOCに耐性なのかを活性酸素種(ROS)関与の視点から明らかにしようとした。
方法 ヒト肝がん細胞株HepG2とヒト口腔がん細胞株SAS及びそのCRR細胞であるHepG2-8960-RとSAS-Rを解析に用いた。細胞のH2O2への感受性はMTT assayで評価した。また、細胞内のROSの量は、蛍光色素で解析した。
結果 DOC処理により、細胞内にROSが発生することから、DOC耐性の要因の一つとして、ROSへの耐性が知られている。そこで、放射線耐性細胞はH2O2に耐性であるのかを解析した。はじめに、DOC処理により細胞内にROSが発生するのかを蛍光色素で検出すると、ROSの発生が認められた。次に、CRR細胞のH2O2への感受性を解析したところ、明らかに親株に比べてH2O2へ耐性を示した。
考察 CRR細胞がDOCに交叉耐性を示すのは、DOC処理により発生するROSに耐性であるからだということが示唆された。
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坂東 真一, 秦野 修, 竹森 洋, 窪田 宜夫, 大西 健
セッションID: OE-1-2
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/20
会議録・要旨集
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【目的】
植物由来生理活性物質は、フラボノイド類だけでも7,000種以上存在するが、その生理活性作用は未知な部分が多い。我々はこれまで約40種のフラボノイド類のスクリーニングを行い、放射線増感作用あるいは細胞致死作用を示すいくつかのフラボノイドを新たに見出した。その中のフラボノイドA(仮称)はそれ自身の細胞致死作用は非常に弱いにも関わらず、ヒトがん細胞に対して放射線増感作用を明確に示した。今回、フラボノイドAの正常細胞に対する放射線増感作用および細胞致死作用について検討した。
【方法】
使用細胞:正常細胞(ヒト肺線維芽細胞HFL-_III_、マウス線維芽細胞C3H10T1/2)、がん細胞(ヒト肺がん細胞H1299、C3H/10T1/2由来マウスがん細胞C3H/MCA Clone 15)
X線照射:10 MeV、4 Gy/min、linear accelerator (Mitsubishi Medical Linac)
解析法:細胞生存率、コロニーアッセイ法
【結果・考察】
フラボノイドA(20 μM)による放射線増感率(enhancement ratio at D10)は正常細胞(HFL-_III_、C3H/10T1/2)よりもがん細胞(H1299、C3H/MCA Clone 15)の方が高い値を示した。この結果から、フラボノイドAの放射線増感作用は、正常細胞よりもがん細胞の方が強い傾向のあることが示唆された。フラボノイドAは、単独での細胞致死作用が非常に弱く、しかも正常細胞への増感作用が弱いため、放射線増感剤として優れた特性を備えていることが分かった。
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女池 俊介, 山盛 徹, 安井 博宣, 稲波 修
セッションID: OE-1-3
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/20
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【目的】小胞体ストレス応答は、細胞内ストレスに対する適応応答であり、生体の恒常性を維持するうえで重要な役割を担っている。腫瘍細胞において小胞体ストレスは、低酸素や低グルコースなどの環境における細胞生存に関与する一方で、過度のストレスは細胞死を誘導することが報告されている。このため、小胞体ストレス応答を標的とした治療は新たな腫瘍の治療戦略として期待できると考えられるが、まだ十分な検討はされてきていない。そこで、本研究において我々は小胞体ストレスがDNA損傷修復機構に及ぼす影響という点に着目し、小胞体ストレスによるDNA損傷修復への影響の評価及び放射線との併用による増感効果の可能性について検討を行った。
【方法】小胞体ストレスの誘導には糖鎖修飾阻害剤であるtunicamycin(TM)及び小胞体Ca
2+-ATPase (SERCA)阻害剤であるthapsigargin(TG)を用いた。細胞はヒト肺がん由来A549細胞を用いた。タンパク質発現の検討はウエスタンブロット法を用いて、mRNA発現の検討はRT-PCR法を用いて行った。また、細胞増殖死の評価はコロニー形成法により行った。
【結果】TM処理によりDNA相同組換え修復に関わるタンパク質であるRad51発現の時間依存的な抑制が観察された。そこで、Rad51のmRNAについて検討したところ、TM処理によるmRNAレベルの変化は観察されなかった。プロテアソーム阻害剤であるMG132とTMまたはTGとの併用処置を行ったところ、小胞体ストレス誘導剤によるRad51の発現抑制が解除された。さらに、TMを前処理した細胞では、放射線誘導細胞増殖死の増強が観察された。以上の結果から、小胞体ストレスが、ユビキチン‐プロテアソーム系を介したRad51の分解を誘導し、DNA修復能を阻害することで放射線増感作用を引き起こした可能性が示唆された。
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武島 嗣英, 脇田 大功, 角田 健太郎, 佐藤 崇之, 北村 秀光, 西村 孝司, 白土 博樹
セッションID: OE-1-4
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/20
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腫瘍内に存在する癌細胞以外の細胞群(間質細胞)は腫瘍内微小環境を形成する上で重要だが、放射線治療後にはその細胞群の構成が変化し、それらが腫瘍の治療効果に大きく関わることが予想される。本研究で我々は、担癌マウスの腫瘍へ単回照射後、腫瘍内好中球が一過性に増加し、この好中球が腫瘍増殖抑制に働いていることを見出したので報告する。C57BL/6マウスに1x10
6個のLLC-OVA(OVA gene-transfected LLC)を脚部に皮内移植し、腫瘍の大きさが8mm程度になったところで腫瘍へX線を11Gy照射した。照射後の腫瘍塊を採取し、腫瘍内好中球(CD11b
+Gr-1
+high細胞)の割合をフローサイトメトリーにて測定したところ、照射36時間後にこれらが増加しており、それらの多くが分葉核球であることを確認した。続いて、この好中球の治療効果への関与を調べるために、X線照射前に抗Gr-1抗体を1回投与する群(好中球除去)とcontrol抗体投与群(好中球存在)を用意し、X線照射後の腫瘍の大きさを比較した。抗Gr-1抗体では腫瘍を殺傷する活性化キラーT細胞も除去されるので、抗Gr-1抗体と同時に抗CD8抗体も投与し、キラーT細胞が存在しない状態での好中球有無による腫瘍の大きさを比較した。その結果、好中球が存在しない場合、腫瘍が増大しX線治療効果が減弱することがわかった。次にX線照射後・腫瘍内好中球と未照射・腫瘍内好中球を単離し、それぞれをLLC-OVAと混合して別マウスへ移植したところ、X線照射後・好中球を混合した腫瘍は増殖が遅くなることを確認した。さらに両者好中球の遺伝子発現を比較したところ、X線照射後・好中球は炎症性サイトカインが高発現、またVEGF、MMP9は低発現していることがわかった。以上より、X線照射誘導・腫瘍内好中球は抗腫瘍効果を有することが推察される。
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西田 直哉, 安井 博宣, 山盛 徹, 稲波 修
セッションID: OE-1-5
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/20
会議録・要旨集
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[目的] 近年、照射後に生成するミトコンドリア由来の活性酸素種(ROS)が、細胞の放射線感受性に影響を与えるという報告がある。そこで、我々はがん細胞の酸化的リン酸化経路を活性化することでエネルギー産生を促進し、ミトコンドリアからのROS生成を亢進できるような薬剤は放射線誘発細胞死を増強し得ると考えた。本仮説の検証のため、膜透過性ピルビン酸誘導体であるmethyl-pyruvate (MP)を用い、放射線誘発細胞死に対する効果について検討した。
[方法] 細胞は、マウス扁平上皮がんSCCVII細胞およびヒト肺がん由来A549細胞を用いた。放射線誘発増殖死は細胞を30 mM あるいは50 mMのMP処理を行いX線照射24時間後新鮮培地に変えコロニー形成法により評価を行った。MP処理後X線照射を行い6、12、24時間経過後した細胞のミトコンドリア由来のROSおよびミトコンドリア膜電位は、それぞれの特異的蛍光プローブであるMitoSOX™ Redならびにtetramethylrhodamine methyl ester (TMRM)を用い評価を行った。
[結果および総括] SCCVII細胞およびA549細胞において、50 mM MP処理はX線照射単独群に比べて放射線誘発細胞死を増強した。それぞれの細胞においてミトコンドリア膜電位とミトコンドリアROSはX線照射24時間後増加したが、これらはMPの添加によりさらに増強された。このROS産生がX線とMPの併用による細胞死に寄与しているのかどうかを調べる為、抗酸化剤であるアスコルビン酸の効果を検討した。SCCVII細胞において、アスコルビン酸の処理はX線とMPの併用による細胞死の一部を抑制した。以上の結果から、MPは酸化的リン酸化経路を活性化することでミトコンドリア由来のROS産生を増強し、結果として放射線誘発細胞死を増強するという機構が存在する事が示唆された。
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鈴木 健之, GERELCHULUUN Ariungerel, 洪 正善, 孫 略, 石川 隆昭, 楽 飈, 盛武 敬, 坪井 ...
セッションID: OE-2-1
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/20
会議録・要旨集
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[目的]
COX-2はがんの転移浸潤、血管新生、放射線耐性に深くかかわる因子であり、潜在的にCOX-2が過剰発現している細胞は放射線感受性が低く悪性度が高い。特に悪性脳腫瘍ではCOX-2の発現が高く、治療抵抗性との関連が示唆されている。また、悪性脳腫瘍の多くは低酸素状態にあり放射線感受性が低く血管新生が盛んである。そこで本研究では、低酸素状態で培養した脳腫瘍細胞の放射線感受性に対する選択的COX-2阻害薬celecoxibの効果を検討した。
[材料方法]
対象としてヒト膠芽腫細胞株A172、マウス悪性脳腫瘍細胞株GL261を用いた。通常に培養後、ガスパックパウチを用いてこれらの細胞を低酸素環境(Hypoxia)に維持した。選択的COX-2阻害としてはcelecoxib (Phizer.US)を使用した。ガンマ線照射には137Csガンマセルを使用した。celecoxibの濃度を変化させて添加して5Gyのγ線照射を行ない、抗腫瘍効果の検討を行った。抗腫瘍効果は、増殖抑制試験、コロニー形成法で評価し、COX-2並びにERストレス関連タンパクの発現はウェスタンブロットで評価した。
[結果]
低濃度(10μM以下) のcelecoxib単独ではCOX-2の発現抑制が確認できたが、有意な増殖抑制効果は認められなかった。一方、高濃度(30μM)のCelecoxibは単剤でERストレスを誘導することが確認された。また、増殖抑制試験においては、γ線照射単独と比べ、γ線+celecoxibでは有意な細胞増殖遅延がみられ、celecoxibの放射線増感作用が示唆された。さらに、低酸素下(Hypoxia)においてもNormoxiaと同等かそれ以上の増殖抑制効果が認められた。celecoxib存在下でのγ線照射は、細胞の酸素状態に依らず悪性脳腫瘍細胞株に対しても高い増殖抑制効果を示した。
[結論と考察]
Celecoxibは単剤でERストレスを引き起こし、アポトーシスを誘導することが知られている。一方、放射線照射もERストレスを引き起こす。Celecoxibは通常酸素下のみならず低酸素下培養の脳腫瘍細胞に対しても放射線増感作用を示した。この効果はERストレスの誘導にあるものと推定される。今回の結果から、低酸素状態にある膠芽腫細胞に対しても放射線増感作用を示したことで、celecoxibは放射線抵抗性の膠芽腫に対する放射線治療においても増感効果を見込める薬剤であることが示唆される。
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冠城 雅晃, 渡邊 立子, 佐藤 達彦, 横谷 明徳, ピナック ミロスナフ, 勝村 庸介, 上坂 充
セッションID: OE-2-2
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/20
会議録・要旨集
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ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)は、近年国内で普及が進められている放射線治療法の一つである。BNCTでは、腫瘍に選択的に取り込まれたホウ素化合物が、照射した熱中性子と中性子捕捉反応を起こすことで2次粒子として主に1.47MeVのα粒子と0.84MeVのリチウム粒子が生成する。これら低エネルギー粒子が患部に効率的にエネルギーを付与できることから、X線治療で治療が困難な腫瘍に対しても効果が期待されている。しかしBNCTは、従来のX線治療に比べて臨床、研究ともに事例が少なく、生物効果の基礎的知見は十分とは言えない。そこで、我々は、BNCTのマイクロドジメトリに着目し、生物効果をDNA損傷レベルで評価することを目的とした研究を行っている。
我々の用いた方法は、ホウ素中性子捕捉により生じる低エネルギー粒子による局所的な線量分布を、ナノメートルレベルでのモンテカルロ飛跡コードを用いて算出し、DNAへの直接作用と、周囲の水分子の電離・励起によるラジカルの作用である間接作用の両方の過程をシミュレートすることにより、DNA損傷の量や空間分布を評価するものである。
本発表では、まず、DNA損傷の評価の基礎となる、粒子線による微小領域での線量分布(線エネルギー付与分布)、間接作用を担うOHラジカルの収率、それぞれについて、実験による先行研究との比較により、シミュレーションに用いているモデルを検証した結果について示す。また、DNA損傷収率に関しては、プラスミドDNAの水溶液においてホウ素やDMSOを変化させたときのDSBとSSBの実験データと比較検討した結果について示す。
本研究は、実験等が厳しいBNCTの現状の中でシミュレーションにより有力な基礎データを提供できるとものと考える。最終的には実際の治療現場に即したさまざまな条件下でのDNA損傷もシミュレーション行っていく予定である。
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篠原 邦夫, 藤田 創, 鷲尾 方一, 近藤 威, 成山 展照
セッションID: OE-2-3
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/20
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放射光の医学利用の一つとして注目されている方法に微小平板ビーム放射線療法がある。この方法は、ビーム幅数十μmの平板ビームをビーム間隔数百μmで並べ腫瘍領域に高線量1回(1方向または直交2方向)の照射を行うもので、放射光による動物実験の結果は、正常組織の回復が良いにもかかわらず腫瘍が消滅し、個体の延命率が高いという特徴を示している。この特徴をヒトのがん治療に応用することが期待されるが、現在は放射光による300 keV以下のX線が動物実験に利用されている。この方法が高エネルギーX線で利用できれば、応用範囲が広がることが期待できるので、本研究では、高エネルギー化するときに問題となる線量分布のエネルギー依存性についてモンテカルロ法による計算機シミュレーションを用いて検討した。
コリメーターは、厚さ10cmのタングステンとし、スリット幅20μm、ビーム間隔(中心間距離)200μmとして、5本のスリットを設定した。X線は平行ビームとし、コリメーター透過後1mmの位置に20cmの水の層を設定、水の層を10cm透過した位置から厚さ1cmの水の層に吸収されるエネルギーの線量分布をPENELOPE-2008*によって6台のパソコンで並列計算させた。
線量分布で問題となるのはピーク線量と谷線量で、谷線量が許容範囲を維持しつつピーク線量に十分に高い線量を投与することがこの治療法の特徴となる。線量分布をビーム中央のピーク線量と中央から100μmの位置の谷線量との比(P/V)とし、X線のエネルギー依存性を求めたところ、100 keV, 200 keV, 500 keV, 1 MeVで、P/Vが150, 332, 2.37, 1.62となり、500 keV以上では極端に小さくなることがわかった。本結果を踏まえ、微小平板ビーム放射線療法の可能性について検討した結果を報告したい。
*F. Salvat, J.M. Fernández-Verea and J. Sempau, “PENELOPE-2008: A Code System for Monte Carlo Simulation of Electron and Photon Transport” (OECD Nuclear Energy Agency, ISSY-les-Moulineaux, France, 2008).
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Gerelchuluun Ariungerel, 石川 隆昭, 洪 正善, 鈴木 健之, 孫 略, 盛武 敬, 榮 武二, 櫻井 英幸, 坪 ...
セッションID: OE-2-4
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/20
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【目的】局所的放射線照射による腫瘍治癒のメカニズムにおいては個体の細胞性免疫が深く関与していると考えられる。本研究では、マウス皮下腫瘍に対する放射線照射後に、_丸1_腫瘍組織における免疫関連分子の発現、_丸2_免疫抑制状態、_丸3_腫瘍組織への免疫関連細胞の質および量、が放射線の線質、線量及び照射からの時間などと伴のどのように変化するかを検討した。
【対象、方法】正常なC57BL/6J とC3He/Nマウスに同系の腫瘍であるGL-261とSCC-7を移植し、マウス皮下腫瘍モデルを作製した。移植した腫瘍が6-8mmになった時点で腫瘍に135KVX線の局所的照射を行った。線量及び分割回数は0Gy、17.5Gy/1回、24Gy/2回、32Gy/4回とした。照射後1、2、4、7、10、14日に腫瘍組織を摘出して解析に用いた。腫瘍組織における浸潤細胞の解析にはHE染色、免疫組織化学染色法、フローサイトメトリー法を用いた。浸潤細胞の免疫組織化学染色には、抗CD3, CD8, CD4 抗体を用いた。また、腫瘍細胞のMHC-Iの発現の変化は抗MHC-I (H-2Kb)を用いて検討し、免疫抑制細胞の検討には、抗CD4、抗FoxP3抗体を用いて免疫組織化学染色を行った。さらに155MeV陽子線を用いて同様の解析を行いそれらの結果を比較検討した。
【結果、考察】コントロール群と比較すると、全てのX線照射群において照射後1日から腫瘍組織内に壊死巣が認められ、照射後4日目までは壊死巣は増大する傾向があった。腫瘍組織のHE染色では4日後から壊死巣の周辺に単核球の浸潤が観察された。さらに8 Gy×4回照射群では照射7日後において細胞浸潤が腫瘍全体に強く起きていることが観察された。このような放射線照射後に惹起される腫瘍免疫反応の経時的変化を明らかにすることで、放射線治療後に特異的免疫療法を併用するタイミングを最適化することが可能になる。
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