日本放射線影響学会大会講演要旨集
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A DNA損傷・修復
  • 白石 伊世, 椎名 卓也, 菅谷 雄基, 鹿園 直哉, 横谷 明徳
    セッションID: PA-13
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    複数の損傷がDNAの1~2ヘリカルターンの領域に局在化したクラスターDNA損傷は、突然変異などの生物影響を引き起こす主要な原因の一つであるとされている。クラスター損傷は、SSBや塩基損傷、APサイトなどから構成されるため、これらに対する細胞応答において異なる修復系が同時にあるいは逐次的に関与することが予測される。最初に作用する修復タンパク質によりクラスター損傷の性質が変化するため、作用する修復系の順序がその後の生物応答に大きな違いをもたらす可能性がある。例えば二つの塩基損傷からなるクラスター損傷のうちの一方の損傷が、これを認識・除去する塩基除去修復酵素(グリコシレース)により除去されると、SSBと塩基損傷からなる新しいクラスター損傷に変化するため、クラスター損傷内に残った塩基損傷に対するグリコシレースの修復活性が大きく変わる可能性がある。本研究では、クラスターDNA損傷に対する塩基除去修復酵素の作用機序の違いがクラスターDNA損傷の難修復特性にどのように関わるかを明らかにすることを目的とした。高LETのイオンビームを照射したプラスミドDNA(pUC18)をNthとFpgの2種類のグリコシレースで処理し、酵素活性を生じたニック(SSB)量としてpUC18の立体構造変化としてゲル電気泳動法により定量した。この際、2種類の酵素の処理の順番を様々に変えた時に、ニッキング活性にどのような差が見られるのかについて調べた。C6+イオンビームを照射した場合はFpgを先に処理したものの方が、同時処理やNthを先に処理したものより損傷を持たない閉環型分子の線量当たりの残存量が約5%小さい傾向にあった。講演では収量の差をもたらす原因としてのクラスター損傷の構造について議論する。
  • 堀田 絵理香, 岡田 茜, 宮野 佳子, 富松 望, 岩淵 邦芳, Chen David J., 栗政 明弘
    セッションID: PA-14
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    癌抑制因子p53 Binding Protein 1(53BP1)は、DNA二重鎖切断損傷(DSBs)部位へと急速にリクルートされ、DNA損傷応答に関与する。53BP1のフォーカス形成はDNA損傷修復・シグナル伝達に重要である。我々は、DSBs部位に集積する53BP1の性質を利用し、53BP1に変異を導入することで細胞内に安定的に発現できる53BP1-GFP融合タンパク質を見出し、DNA損傷を検出するバイオセンサーを開発した。さらに、PCNA-DsRed融合タンパク質を共発現させ、PCNA-DsRedの核内局在パターンにより細胞周期の違いを同定できるシステムを構築した。これら2つの蛍光タンパク質を発現するU2OS細胞株(U2RDP-LE53-21)を用いることにより、異なる細胞周期で起こるDNA損傷を生きた状態で観察することが可能となった。細胞周期におけるDNA損傷と53BP1の挙動を明らかにし、将来的にDCBsを誘発する癌の化学療法・放射線治療増感剤のスクリーニングを試みる。 今回は、自然な培養条件下で53BP1フォーカスがどのように観察されるか、また、Neocarzinostatin(NCS)やTopoisomerase_I_阻害剤であるCamptothecin(CTP)などDSBsを引き起こす薬剤によって、53BP1フォーカスがどのように発生し消退するかを報告する。また、放射線照射による53BP1フォーカスを単一のDNA2本鎖切断(mono-dsb)として共焦点レーザー顕微鏡で検出し、その動態を明らかにした。新しく開発したマイクロイメージングソフトウェアを使って53BP1フォーカスの三次元再構築を行い、細胞周期における53BP1フォーカスの立体体積を定量化し、その動態の解析を試みた。
  • 橋本 光正, 松井 理, 橋本 優実, 立石 智, 岩淵 邦芳
    セッションID: PA-15
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    53BP1は、DNA二重鎖切断が発生すると速やかにその断端に集積する。我々は、遺伝子欠損を容易に導入できるニワトリDT40細胞を用いて、様々な遺伝子欠損細胞でのG1期のDNA二重鎖切断修復活性を調べた。その結果、(1) G1期には、既知のKu70/Ku80/DNA-PKcs経路、ATM/Artemis経路とは異なる、53BP1依存性の新規DNA二重鎖切断非相同末端結合修復(NHEJ)経路が存在すること(Genes Cells, 11: 935, 2006)、(2) E3ユビキチンリガーゼRad18が、G1期には53BP1依存性NHEJ経路で機能していることを明らかにした(Nucleic Acids Res., 37: 2176, 2009):Rad18はG1期にのみ53BP1依存的にDNA二重鎖切断端に集積し、その後53BP1をモノユビキチン化し53BP1のクロマチンへの結合能を高める。一方、染色体末端(テロメア)結合蛋白質欠損により露出したテロメアは、DNA切断端として53BP1を含む修復蛋白質群により認識され、その後別のテロメアと結合し染色体異常を引き起こすという報告がある(Nat Cell Biol, 7: 712, 2005)。我々は、テロメア末端の結合に53BP1、Rad18が必要であるかどうかを明らかにするために、野生株MEF、53BP1欠損MEF、Rad18欠損MEF細胞からshRNAを利用してTRF2を消去し、その後のテロメア-テロメア結合の発生頻度をFISH法で調べた。その結果、テロメア-テロメア結合の頻度が53BP1欠損MEFでは減少することを確認した。現在、テロメア-テロメア結合にRad18が必要であるかどうかを調べている。
  • 加藤 晃弘, 小松 賢志
    セッションID: PA-16
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    ナイミーヘン症候群 (NBS) は、小頭症、免疫不全、成長遅延、高発がん性を特徴とするまれな常染色体劣性遺伝病である。NBS患者由来細胞は染色体不安定性やS期チェックポイント異常や放射線高感受性を示すことを特徴とする。NBSの原因遺伝子産物であるNBS1は、MRE11、RAD50とともにMRN複合体と呼ばれる安定なタンパク質複合体を形成しており、これまでの研究からMRN複合体は放射線などによって生じるDNA二重鎖切断 (DSB) の修復やDNA損傷チェックポイントで重要な役割を果たしていることが示唆されている。DSB修復は主に二つの経路、すなわち相同組換えと非相同末端結合によって行われ、どちらの経路にもNBS1が必要とされる。 我々は相同組換え修復経路におけるNBS1の分子的機能を明らかにするため、NBS1と相互作用する因子を探索した。その結果、組換え蛋白質RAD51がNBS1と複合体を形成していることを見出した。免疫沈降によるフラグメント解析の結果、この複合体形成はNBS1とRAD51との直接的な結合によるものではなく、MRE11を介したものであることが明らかとなった。 MRE11のフラグメントシリーズを作製し、免疫沈降によりRAD51との結合サイトを探索した結果、二カ所のRAD51結合サイトが同定された。これら二カ所のRAD51結合サイトがそれぞれどのような役割を持っているのかについて現在解析中であり、その結果について報告する予定である。
  • 荒井 佐依子, 山本 瑞希, 山本 亮平, 松山 聡, 竹中 重雄, 久保 喜平
    セッションID: PA-17
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    DNAの塩基損傷は恒常的に発生しており、酸化、アルキル化、脱アミノ化など、原因は様々である。それらの一つである酸化損傷は、放射線などの外的な要因や、ミトコンドリアにおける代謝産物などの内的な要因で発生する活性酸素種(ROS)により引き起こされ、DNAの複製や転写の阻害、さらに突然変異を引き起こすことで癌、老化や神経疾患などに関与している。塩基除去修復(base excision repair; BER)は、この塩基損傷を修復する機構であり、BERを開始する二価性DNA glycosylaseの一つであるendonuclease _VIII_-like 1(NEIL1)は、損傷塩基を除去し、形成された脱塩基部位(apurinic/apyrimidinic site; AP site)の5’側および3’側のDNA鎖を切断し、ギャップを形成する。マウスNEIL1には、variantと考えられる特異的なmRNAの存在が報告されているが、その意義については知られていない。マウスの乳腺腫瘍において報告されたものをvariant1、大動脈、静脈において報告されたものをvariant2とした。当教室では、これまでに複数の正常臓器における両variantのmRNA発現をRT-PCR法によって確認した。本研究では、まずJcl:ICRマウスの、8週齢の雄の各臓器よりtotal RNAを抽出し、逆転写反応によりcDNAを得る。そして、mNEIL1およびvariant1、variant1およびvariant2、variant2のみを認識する各プライマーセットを設計し、それらのプライマーを用いてリアルタイムPCR法を行う。アクチンで補正した値から、各臓器における各mRNAの発現量を定量する。また、N末端タグ融合組み換えマウスNEIL1は酵素活性を喪失することが報告されていることから、C末端タグ融合組み換え両variantタンパクの酵素活性を調べたが、活性は見られなかった。本研究では、精製したタンパクの損傷オリゴヌクレオチドに対する活性の有無を明らかにするために、tag-freeのmNEIL1、variant1、variant2各組み換えタンパクの発現系の構築を試みる。
  • 加藤 誠嗣, 橋口 一成, 米倉 慎一郎, 森脇 隆仁, 秋山(張) 秋梅
    セッションID: PA-18
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    電離放射線は主にDNA鎖の切断を引き起こす。一方、活性酸素種はDNA中の塩基に様々な酸化的損傷を与える。このようにして生じた酸化的塩基損傷は、突然変異や細胞死、高等生物においてはガン化を誘発するが、一方では生物進化の原動力としても寄与してきた。 酸化的塩基損傷の修復酵素の一つであるエンドヌクレアーゼ_III_(Nth)は、ヒトや大腸菌において主にピリミジン塩基を除去する作用を有する。本発表では同定したカタユウレイボヤエンドヌクレアーゼ_III_(CiNth)の解析結果を報告する。Nth遺伝子は原核生物からヒトに至るまであらゆる生物種で保存されているが、カタユウレイボヤではこれまで同定されていなかった為、まずデータベース検索を行った。その結果、Nth遺伝子はカタユウレイボヤにおいても保存されていることが分かった。モチーフ解析では、Nthタンパク質の機能に重要なドメインが保存されていた。 本研究の目的は、in vitroにおけるCiNthの生化学的解析、及び発生段階におけるCiNthの役割を解明することである。 DNAグリコシラーゼ活性を有するかどうかを調べる為にニッキングアッセイを、又、APリアーゼ活性を有するかどうかを調べる為にトラッピングアッセイを行った。基質として損傷塩基であるチミングリコール、8-オキソグアニン、及び5-ホルミルウラシルを含むオリゴヌクレオチドを用いた。その結果、ヒトNTH1や大腸菌Nthと同様にCiNthにおいても、試行した全ての損傷塩基に対するDNAグリコシラーゼ/APリアーゼ活性が検出された。 今後の展望は、生物学的解析においてNthタンパク質をカタユウレイボヤ細胞内でGFP様タンパク質融合体として可視化し、その動態を時空間的に更に詳しく解析することである。
  • 井原 誠, 小林 純也, 栗政 明弘, 小松 賢志, 工藤 崇
    セッションID: PA-19
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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     細胞の放射線感受性はDNA二本鎖切断修復の欠損あるいは誤修復の昂進が原因と考えられる。DNA二本鎖切断は相同組換え修復(HR)と2種類の非相同末端結合(NHEJ)の二つの修復系によって主に修復される。哺乳動物では放射線誘発DNA二本鎖切断の修復では非相同末端結合が優勢である.非相同末端結合を阻害すると相同組換え修復が亢進する事が知られている。  相同組換え修復にはATMが関与していることが知られている。我々は、ATMのDNA二本鎖切断再結合における働きをKu蛋白欠失による非相同末端結合能欠損STEF細胞と53BP1をRNAiによるノックダウンしたSTEF細胞を用いて解析した。  これらの細胞に対する放射線の照射線量を高くすると、生存率曲線に放射線抵抗性の成分が見られた。この放射線抵抗性成分はATM阻害剤を作用させると減少した。この事は高線量照射を受けた細胞の修復に特異的にATMが働いている事を示している。実際、高線量照射ではATMが活性化されることをウエスタンブロットで明らかにした。現在、レポーター遺伝子を用いた相同組換え能測定およびI-SceI誘導DNA二本鎖切断修復について解析を進めている。
  • 今道 祥二, 松本 義久
    セッションID: PA-20
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    様々なDNA損傷の中で、放射線照射によるDNA二重鎖切断は細胞や生物にとって最も致命的であると考えられている。DNA2重鎖切断は主に相同組換えと非相同末端結合で修復される。このNHEJ系での修復ではDNA-LigaseIVと複合体を構成するXRCC4が最も重要な役割を担っていると考えている。我々の研究室では以前に、放射線照射によってXRCC4はDNA-PKにリン酸化されることを示したが、このリン酸化の生物学的な特徴は明らかにされていない。我々は中性子線とガンマ線を含む原子炉放射線を用いた実験を行い、これらを明らかにしようと試みた。 細胞はマウスのリンパ腫L5178Y細胞由来でXRCC4遺伝子を欠損しているM10細胞にpCMVvectorを導入したM10-CMV、そしてさらに正常ヒトXRCC4のcDNAを導入したM10-XRCC4を用いた。照射は近畿大学原子炉、X線発生装置、コバルト照射施設で行った。実験はM10細胞の6チオグアニン耐性を指標としてHPRT遺伝子の変異を検出することで行った。方法として、軟寒天培地に播種したそれぞれの細胞の発生頻度を求めることから求めた。M10-CMV細胞では突然変異頻度の上昇は見られず、またM10-XRCC4細胞では突然変異頻度はおよそ6から30倍程度の上昇傾向を示した。このことから、中性子線照射によるDNA損傷は修復が難しいため、この頻度が上昇する可能性が示唆された。さらに現在はHPRT遺伝子に変異の入ったクローンを、それぞれに構造解析を行うことで損傷の特徴を明らかにするよう解析を行っている。
  • 山本 瑞希, 橋平 奈穂子, 山本 亮平, 中嶋 秀満, 竹中 重雄, 松山 聡, 久保 喜平
    セッションID: PA-21
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    哺乳類細胞の核内DNAは様々な要因により、恒常的に鎖切断や塩基損傷といった障害を受けている。多くの塩基損傷は塩基除去修復(base excision repair; BER)によって修復される。BERを開始するDNA glycosylaseは損傷塩基を除去する。human N-methylpurine DNA glycosylase(hMPG)は、アルキル化や脱アミノ化で生じる様々な損傷プリン塩基を除去するglycosylaseであり、単独でもDNA上を移動して損傷塩基を見つけ出すことが報告されている。しかし、細胞あたりのhMPG存在量は2 x 105個と大変少なく、1日にヒト細胞中に生じる損傷塩基数は、ゲノム(~1 x 1010ヌクレオチド)あたり1 x 104個程度と言われており、それら稀な損傷をhMPGが認識するには、非常に効率的な探査能が必要であると考えられる。また、hMPGは他のBERタンパクや転写制御因子など、様々なタンパクと相互作用することが報告されているが、損傷塩基探査にどのようなタンパクが関与しているかは未だ明らかではない。そこで本研究では、hMPGと相互作用する新たなタンパクを同定するために、大腸菌で発現させたGST融合hMPGおよびMMS処理HeLa細胞核抽出物を用いてpull down assayを行った。その結果、XRCC1、MBD1、PCNAとの相互作用がみられ、XRCC1、MBD1との結合は、MMS処理によってpull down画分量がそれぞれ15.9倍および2.1倍増加した。次に、in vivoにおける相互作用を検討するために、GST融合hMPGを発現するHeLa細胞を作成し、Western blottingによってGST融合hMPGの発現を確認した。現在、GST融合hMPGと相互作用するタンパクがMMS処理によって受ける影響を、pull down assayを用いて検討中である。
  • 吉原 亮平, 長谷 純宏, 野澤 樹, 鳴海 一成, 滝本 晃一, 日出間 純, 坂本 綾子
    セッションID: PA-22
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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     放射線は、細胞内でDNA酸化損傷を生成し、突然変異を誘発することが知られている。我々は、モデル植物であるシロイヌナズナを用いてガンマ線誘発突然変異の解析を行ってきた。その結果、シロイヌナズナの乾燥種子にガンマ線照射を行った際には、代表的なDNA酸化損傷であるグアニンの酸化体の変異誘発に対する寄与が比較的小さいことが示唆された。そこで我々は、より細胞の水分含量や分裂活性の高い、生育途中のシロイヌナズナ幼植物体を用いて変異スペクトル解析を行うことで、水の放射線分解によるラジカル生成や、DNA複製時の酸化損傷の取り込みによる影響を評価することにした。さらに、大腸菌や動物のヌクレオチドプール浄化機構に関与するmutTMTH遺伝子のホモログ(NUDT1遺伝子)を欠損したシロイヌナズナにおける突然変異解析を行い、植物におけるヌクレオチドプール浄化機構の放射線誘発変異抑制における影響を評価した。変異スペクトル解析は、rpsL遺伝子導入シロイヌナズナにガンマ線照射し、プラスミドレスキューにより変異rpsL遺伝子を検出する方法を採用した。
     NUDT1遺伝子欠損体のバックグラウンド変異頻度は、野生型と同程度であった。このことから、シロイヌナズナにおいては、他の生物種ほどヌクレオチドプール浄化機構欠損の影響が定常時では現れにくいことが示された。NUDT1遺伝子欠損体のガンマ線感受性は、野生型に比べてやや高かったが、統計学的有意差を示すことができるほどの差はなかった。また、ガンマ線誘発変異頻度も、野生型とNUDT1遺伝子欠損体で大きな差は見られなかった。しかし、NUDT1遺伝子欠損体におけるガンマ線誘発突然変異スペクトルは、野生型と異なるスペクトルを示した。よって、NUDT1遺伝子の欠損は、植物の放射線感受性には影響を与えないものの、突然変異誘発に影響を与えていることが示唆された。
  • 劉 翠華, 鈴木 雅雄, 鶴岡 千鶴, 金子 由美子, 和田 麻美, 村上 健
    セッションID: PA-23
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    【目的】正常confluent細胞では、X線照射し、24時間培養した場合の生存率は、照射直後に処理した場合の生存率より有意に高いことが知られている(潜在的致死損傷修復:PLDR)。我々のこれまでの研究ではヒト胎児肺由来正常線維芽細胞におけるPLDRのLETおよび加速核種依存性について明らかになって来たが、PLDRに関連した遺伝子突然変異の研究は非常に限られている。本研究ではヒト胎児肺由来正常線維芽細胞におけるHPRT遺伝子座突然変異のPLDR関連性に対するLETおよび加速核種依存性について検討した。【材料と方法】 細胞は理化研究所細胞銀行から供与されたヒト皮膚由来正常線維芽細胞を用い、X線、炭素イオン(エネルギー:290 MeV/uおよび135MeV/u、LET:13keV/µm~100keV/µm)、シリコンイオン(エネルギー:490 MeV/u、LET:55keV/µm~200keV/µm),鉄イオン(エネルギー:500 MeV/u、LET:200keV/µm)に対して細胞生存率が20%となる線量で照射した。照射後37℃で24時間修復させた細胞(DP)と照射直後にsubcultureした細胞(IP)に対して、6-チオグアニン耐性コロニ-の出現数を調べてHPRT遺伝子の突然変異頻度を算出した。 【結果・考察】得られた結果は、X線、炭素、鉄イオンビームではIPの突然変異誘発頻度はDPと同じか、DPよりIPの方が高い事が判った。一方シリコンイオンビームでは3LETともDPの方が突然変異誘発頻度高かった。IPおよびDPにおける突然変異誘発頻度と生存率の割合を比べた結果、X線、炭素、鉄イオンビームではIPの突然変異誘発頻度はDPより1.4から4.1倍高い事が判ったが、シリコンイオンビームでは逆に0.35から0.65倍となった。また、同じイオンビームではLETの増加ともにHPRT 遺伝子座突然変異誘発頻度は高くなった。以上の結果から、PLDRに関連した遺伝子突然変異誘発頻度はイオンビームのLETと核種に依存し、同じLETで加速核種が異なるとPLDRに関連した遺伝子突然変異も異なる事が判った。
  • 鹿園 直哉, 野口 実穂, 漆原 あゆみ, 横谷 明徳
    セッションID: PA-24
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    クラスターDNA損傷は、電離放射線によってDNAへリックス二回転中に二つ以上の損傷が生じるものである。クラスターDNA損傷がどの程度、また、どのように生物影響を及ぼすのかに関しては不明な点が多い。本研究では、鎖切断と脱塩基部位や8-oxo-7,8-dihydroguanine (8-oxoG)を含むクラスターDNA損傷を用い、大腸菌に形質転換し、形質転換効率及び突然変異頻度を調べた。鎖切断が脱塩基部位からなるクラスターDNA損傷の場合、鎖切断及び脱塩基部位がそれぞれ単独であった場合に対し、形質転換効率は大幅に低下することが明らかになった。このことから、鎖切断及び脱塩基部位からなるクラスターの大部分はプロセシングによりDSBを生じていることが示唆される。また、損傷間の距離を離す(10-20bp)と、形質転換効率は損傷がない場合と同程度になることが明らかとなった。この形質転換効率の回復はPolIに依存していた。一方、鎖切断が8-oxoGからなるクラスターDNA損傷の場合、鎖切断及び脱塩基部位がそれぞれ単独であった場合に対し、形質転換効率は低下せず突然変異頻度は増加することが明らかになった。突然変異頻度は損傷間の距離が大きくなると低下する傾向にあった。また、この損傷間距離依存性はPolIに依存していた。これらの結果は、クラスターを構成する損傷の修復にPolIによる修復合成が深く関連する可能性を示唆している。
  • 菅谷 茂, 姜 霞, 任 乾, 陳 仕萍, 佟 暁波, 董 玫, 田中 健史, 喜多 和子, 鈴木 信夫
    セッションID: PA-25
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    遺伝子変異の発生を阻止することは、癌化などの進展を抑制する重要な方策と期待される。我々は、これまでに癌患者における変異発生メカニズムの研究から、紫外線照射後の変異誘発を、シャペロンGRP78が抑制的に働くことを見出している(Pancreas, 36, e7-14, 2008)。次に、GRP78を介して変異の抑制に働く食品がないかを検索している。 今回、1300年以上に渡り日本の食生活で重要な役割を担ってきた発酵食品である味噌に注目した。ヒト細胞における味噌による変異への影響を調査した研究はない。本論文では、味噌処理培養ヒトRSa細胞で、紫外線誘発変異の抑制が見られるかを調査した。また、抑制に関わると予測されるシャペロンGRP78の関与も検討した。 味噌やその素材の水溶性画分で処理したRSa細胞では、紫外線誘発変異の抑制が、ウアバイン耐性化変異検出法やK-ras遺伝子塩基置換変異検出法によりみられた。また、味噌処理後GRP78の発現誘導が確認され、その発現をsiRNA処理により抑制すると、変異誘発の抑制がみられなくなった。従って、変異誘発が味噌により抑制され、その抑制にGRP78が関わることが示唆された。
  • 長谷 純宏, 吉原 亮平, 野澤 樹, 鳴海 一成
    セッションID: PA-26
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    イオンビームは飛程末端近くで多くのエネルギーを付与する。飛程末端に近いイオンビームの変異誘発効果については、特に植物ではほとんど知見がない。植物におけるイオンビーム変異誘発効果に関する知見を深めるため、飛程末端に近い炭素イオン(平均LET: 425 keV/μm)と平均LET 113 keV/μmの炭素イオンの変異誘発効果を比較した。シロイヌナズナのGL1遺伝子座に生じた突然変異の特徴を大規模欠失変異に注目して解析した。野生型Col株とgl1-1変異株を交配して得た種子を材料として用い、Colとgl1-1の塩基配列を区別できる多型マーカーを用いて欠失変異を検出した。無毛変異セクターの発生頻度は2種類の炭素イオン間で有意な差はなかったが、大規模欠失(> ~30 kb)の頻度は飛程末端に近い炭素イオンで6倍上昇した。ネオンイオン(352 keV/μm)においても、113 keV/μmの炭素イオンに比べて大規模欠失の頻度が6.4倍上昇した。これらの結果は、植物においてLETの増大に伴って大規模欠失の割合が増加することを示唆する。
  • 藤川 芳宏, 東垣 由夏, 川西 優喜, 高村 岳樹, 倉岡 功, 八木 孝司
    セッションID: PA-27
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    【背景・目的】
      シスプラチンは抗がん剤として臨床で用いられているDNAクロスリンク剤であり、シスプラチン-DNA付加体(モノアダクト、塩基間架橋および鎖間架橋)を形成する。一方、大気中に含まれる変異原物質である3-ニトロベンズアントロンは、生体内で代謝されDNA中のグアニンやアデニンと反応し、複数のアミノベンズアントロン-DNA付加体(ABA付加体)を形成する。DNA付加体は通常、ヌクレオチド除去修復(Nucleotide excision repair: NER)によって取り除かれるが、除去されなかったDNA付加体は損傷乗り越えDNA合成(Translesion DNA Synthesis: TLS)を経て突然変異を誘発する。
      そこで本研究は、シスプラチン塩基間架橋付加体(隣接グアニン間付加体のPt-GG, 1塩基離れたグアニン間付加体のPt-GTG)、ABA-DNA付加体(dG-C8-N-ABA, dG-C2-C8-ABA, dG-N2-C2-ABA, dA-N6-C2-ABA)が誘発する突然変異の頻度と種類を明らかにすることを目的とした。具体的には、それぞれの付加体を持つDNAを複製する時のTLSの起こりやすさTLSの際に誘発する突然変異の頻度と種類を解析した。
    【方法】
      まず、部位特異的に各DNA付加体を1分子持つプラスミドを作製した。このプラスミドはLacZ’遺伝子中に各DNA付加体を持ち、相補鎖にはDNA鎖マーカーとして2 bpのふくらみを持つ。TLSが行われたものはLacZ’遺伝子がin frameとなりX-gal/IPTGを含むLB寒天培地上で青色コロニーを形成する。付加体がない側の鎖を複製したもの(Damage induced strand loss: DISL)は2 bp多くなるのでout of frameとなり白色コロニーを作る。このプラスミドをヒト由来のNER欠損線維芽細胞(XPA細胞)に導入し、複製させた。複製した娘プラスミドをインジケーター大腸菌(DH5α)に導入して解析した。
    【結果・考察】
      すべてのDNA付加体はDNA合成を阻害するが、TLSもされることがわかった。さらに阻害する割合は各付加体の化学構造や結合様式によって異なることもわかった。次に各付加体を複製した際に、各付加体の相手鎖にどのような塩基が挿入されていたのかを解析した。その結果、シスプラチン付加体では、Pt-GTGの方が多くの変異が生じることがわかった。更に、付加部位だけでなく付加部位の下流でも変異が生じることがわかった。一方、ABA付加体では、TLSの際にdG-C8-N-ABAで最も多くの変異が生じることがわかった。
  • 大賀 千鈴, 江刺 達也, 山内 一己, 柿沼 志津子, 島田 義也, 立花 章
    セッションID: PA-28
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    中性子線照射マウスにおけるAprt欠損突然変異の解析 大賀千鈴、江刺達也、山内一巳、柿沼志津子、島田義也、立花 章 マウスを用いた研究により、放射線による腫瘍形成頻度が照射時年齢によって異なることが報告されている。腫瘍形成過程には遺伝子突然変異が関与していると考えられるため、腫瘍形成の照射時年齢依存性が生じる原因の1つとして、放射線誘発突然変異生成に年齢依存的な特徴があるのではないかと推測される。また、LETが異なると突然変異に分子レベルで質的な違いが生じることが考えられる。この点を明らかにするために、週齢の異なるマウスに中性子線を照射し、体細胞突然変異頻度の解析とヘテロ接合性の消失(LOH)を指標としたDNA解析を行った。アデニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(APRT)をコードするAprt遺伝子を突然変異検出のマーカーとし、一方のAprt対立遺伝子を欠損させたC3B6F1 Aprt+/-マウスを用いた。1週齢と7週齢のマウスに、0.25 Gy 1回、0.25 Gy 4回、1 Gy 1回の中性子線照射を行い、脾臓リンパ球での突然変異体頻度を解析した。その結果、照射時週齢が若いほど、また線量が高いほどAprt突然変異感受性が高くなることが示唆された。さらにAprt遺伝子座でのLOHを検討したところ、1週齢マウスでは非照射群よりも照射群の方が高いLOH頻度を示した。一方、7週齢マウスでは非照射群の方が照射群よりも高いLOH頻度を示した。また、Aprt遺伝子でのLOHが確認された変異体について、LOHの範囲をより詳細に検討するために、Aprt遺伝子と同じマウス第8番染色体上にあるマイクロサテライトマーカーD8Mit271を用いて解析を行ったところ、1週齢マウスでは照射群の方が非照射群よりも高いLOH頻度を示した。従って、中性子線照射群の方が非照射群よりも広範囲にわたるLOHを生じている可能性が示唆される。
  • 時 林, 藤岡 来実, 孫 継英, 木野村 愛子, 稲葉 俊哉, 山内 基弘, 鈴木 啓司, 井倉 毅, 大瀧 慈, 吉田 光明, 児玉 喜 ...
    セッションID: PA-29
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    放射線の生物学的線量測定方法の中に、ヒト末梢血リンパ球の染色体異常の解析は最も確立されたの方法ですが, ギムザ染色法を利用する時に、分裂中期異常な染色体を識別することは困難になるため、熟練者が必要です。我々は、照射された末梢血リンパ球の染色体異常を解析するために、テロメアやセントロメアのPNAプローブを使うのFISH法を適用し、ギムザ染色法解析結果との比較を行った。従来のギムザ染色法やFISH法の解析結果を観察すると、低線量照射後の分裂中期細胞の二動原体染色体の出現頻度は一致です。ギムザ染色法より、FISH法は高線量で照射されたリンパ球中の多動原体染色体と環状染色体を多く検出しました。さらに、FISH法を用いて検出された多動原体染色体/環状染色体の頻度は線量の増加とともにほぼ直線的に増加した。ギムザ染色法で、多動原体染色体/環状染色体は見落される可能性が高いです。だから、生物学的線量測定ために、FISH法は簡単で、精確度が高い方法である。
  • 孫 継英, 尾間 由佳子, 原田 昌彦, 河野 一輝, 島 弘季, 木野村 愛子, 井倉 毅, 鈴木 秀和, 水谷 修紀, Kanaar R ...
    セッションID: PA-30
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    放射線や抗がん剤はゲノムDNAの二本鎖切断などの損傷を誘導する。ゲノムを修復し安定性を維持するシステムに何らかの原因でエラーが生じた場合は染色体転座などのゲノム異常が形成される。しかし、どのようなメカニズムで染色体転座などのゲノム修復エラーが引き起こされているのかについてまだ不明である。11q23に切断点を持つ染色体転座は、エトポシドなどトポイソメラーゼII(Topo II)阻害剤を用いたがん化学療法後に発症する治療関連性白血病に最も多く認められる。11q23関連染色体転座の転座切断点はMLL遺伝子内BCR(breakpoint cluster region)に集中している。そこで、本研究ではエトポシドによる11q23転座をモデルとして、染色体転座形成のメカニズムについて解析したところ、エトポシド処理した後のAT細胞は正常細胞と比べて、エトポシドによる11q23転座が高頻度に誘導されるとともに、RAD51のBCRへの結合が有意義に上昇していた。さらに、正常細胞と比較してエトポシド処理した後のAT細胞は、組換え修復関連因子RPAやクロマチン変換因子INO80のBCRへの結合が増大することが観察された。これらの結果から、ATMはMLL遺伝子BCRへのRPAおよびRAD51の結合を制御することで、11q23染色体転座形成を抑制することが示唆された。
  • 塚本 淳, 白石 一乗, 児玉 靖司
    セッションID: PA-31
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    【緒言】 テロメアは、真核生物の染色体末端に存在する反復配列とそれに結合するタンパク質からなる複合体であり、ループ構造を形成して染色体安定化に寄与している。テロメアはDNA複製に伴って短縮し、ループ構造を保てなくなると末端同士が融合し、染色体不安定化を招くと予想される。テロメアFISH法は、細胞ごと、あるいは染色体ごとのテロメアサイズの比較が可能であり、テロメア不安定化の解析に威力を発揮する。本研究では、テロメアFISH法を用いてテロメアサイズを定量的に計測する方法を確立し、これを用いてテロメア不安定化を評価することを目指した。 【材料と方法】 ヒト線維芽細胞(HE7)、及びマウス線維芽細胞(MEF)を継代培養して染色体標本を作製し、FITCで標識されたテロメア配列に相補的な18 merからなるペプチド核酸 (PNA)プローブを用いてテロメアFISH(T-FISH)を行った。その蛍光強度を定量化して、細胞の総分裂回数との関係を解析した。さらに、実験ごとの蛍光強度のバラツキを補正するために、HE7細胞ではT-FISHと共にセントロメアFISHを行い、テロメアとセントロメアの蛍光強度の比(T/C値)を用いて同様に解析を行った。 【結果と考察】 MEF細胞のT-FISHによるテロメアシグナルの蛍光強度は、HE7細胞のおよそ2倍を示した。この強度の差は、マウス体細胞がヒト体細胞よりも長いテロメアをもつことを反映している。一方、この蛍光強度の細胞分裂に伴う減少は、約15~18回の細胞分裂でどちらの細胞もおよそ10%程度であり、差が見られなかった。そこで、HE7細胞についてT/C値により同様の解析を行ったところ減少は30%を示し、T/C値を用いると蛍光強度減少について、両細胞間で明らかな差が見られた。MEF細胞はテロメレース活性を持つために、細胞分裂を経てもテロメアサイズが維持されると考えられる。したがって、本研究の結果は、T/C 値を用いた方が、テロメア不安定化の評価に適していることを示唆している。
  • 岡田 浩, 縄田 寿克, 菓子野 元郎, 田野 恵三, 久郷 裕之, 押村 光雄, 渡邉 正己
    セッションID: PA-32
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    【背景】 発がん機構については,DNA損傷によるがん遺伝子およびがん抑制遺伝子の突然変異が複数蓄積した結果であるとする「多段階突然変異説」が主流である.しかし,古くからがん細胞では高頻度に染色体の異数化していることが知られ,発がん初期に染色体異数化が重要な働きを果たしていることが推測されてきたがその詳細は明らかにされていない.そこで,人工的に染色体を異数化した細胞を作成し,染色体異数化が細胞にどのような影響を及ぼすかを調べることは極めて興味深い.こうした背景にあって、我々は、染色体の異数化ががんを引き起こすか否かを検証するために本研究を実施した。 【材料と方法】 本実験には不死化させたヒト間葉系幹細胞を用いた。この細胞を受容細胞として,微小核融合法により,ヒトの1番と7番染色体を1本のみ導入した細胞を樹立した.対照細胞として,各移入染色体上に存在する薬剤耐性遺伝子のみを発現させた細胞を作成し使用した.これらの細胞における発がん形質の指標として,(1) 細胞増殖率,(2) 足場非依存性増殖率,(3) マウスへの移植による腫瘍形成能を調べた.また,染色体不安定性の指標として,(1) 染色体異数化頻度,(2) 染色体構造異常,及び (3) 微小核形成頻度を調べた.これらの解析によりヒトの1番および7番染色体1本を移入して作成した異数化細胞における染色体不安定性と発がん形質発現について検討した. 【結果】 1番および7番染色体のトリソミー細胞は、それぞれ特徴的ながん形質を発現することが判った。1番染色体移入細胞は、細胞増殖率を低下させるものの足場非依存性増殖率は、7番染色体移入細胞ならびに対照細胞の約2倍になっていることが観察された.
  • 大内 則幸, ピナック ミロスラフ
    セッションID: PA-33
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    放射線影響の指標としては、細胞レベルにおいては線量に対するDNA鎖切断の頻度、個体レベルにおいては染色体異常の頻度がよく用いられている。DNA鎖切断と染色体異常(切断)は連続したイベントと考えられるが、それら一連の事象がどのように関係しているのかに関してはあまりコンセンサスが得られていないように見える。 今回、数理モデル化したヒト17番染色体を用いて、そのさまざまな動態についてコンピュータシミュレーションを用いて調べた。特に放射線による切断が生じた際の切断端は時間と共に離れていくが、その動態と修復酵素の集積する速度との関係について計算結果を報告したい。
  • 徐 子牛, 児玉 靖司, 白石 一乗
    セッションID: PA-34
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    テロメア配列を含むRNA分子(TERRA)の発現に対するX線及び紫外線の影響 徐子牛、白石一乗、児玉靖司 大阪府立大学大学院理学系研究科生物科学専攻放射線生物学研究室 【緒言】  最近、テロメアがRNAに転写されていることが発見された。このRNAはTERRA(telomeric repeat-containing RNA)とよばれている。TERRAの転写はほぼすべてのテロメアで生じており、また、複数の生物種間で保存された現象であることが報告されているが、その生物学的機能については不明である。本研究は、放射線がTERRA発現にどのような影響を与えるのかを明らかにするために、X線、及び紫外線照射した細胞について、継時的にTERRA発現の変化を調べた。 【材料と方法】  細胞は、マウス不死化線維芽細胞(CB/CB 09)を用いた。TERRA発現は、FITCでラベルしたテロメアに相補的なペプチド核酸 (PNA)プローブを用いたテロメアRNA FISH法で検出した。TERRA発現に対する放射線の影響を調べるために、X線、及び紫外線をCB/CB 09細胞に照射し、直後、6、12、及び24時間培養後に、細胞当たりのTERRAフォーカス数の分布を調べた。 【結果と考察】  はじめに、CB/CB 09細胞のX線、及び紫外線による生存率を解析し、10%生存率を与える線量が、X線は5 Gy、紫外線は13 J/m2であることを確認した。TERRA発現は、細胞当たりのTERRAフォーカス数によって定量化した。未照射細胞での平均フォーカス数は、5.1であった。10%生存率を与える5 GyのX線を照射後、継時的にTERRA発現を解析したところ、直後、6、12、及び24時間後の平均フォーカス数は、4.9、4.3、4.4、及び5.9であり、ほとんど変化が見られないことがわかった。一方、13 J/m2の紫外線照射後の解析では、直後、6、12、及び24時間後の平均フォーカス数は、5.0、6.8、8.6、及び7.0であり、TERRAフォーカス数が紫外線照射後に有意に増加することがわかった。紫外線照射によるTERRA発現の増加は予想外の結果であり、その理由について現在解析中である。
  • 藤原(石川) 智子, 藤堂 剛
    セッションID: PA-35
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    小型魚メダカは、ヒトとほぼ同等の内部臓器を供えた優れたモデル実験動物である。ゲノム解読が完了しており、また、細胞レベルの空間分解能を伴った生体イメージング技術を駆使できるという他の脊椎動物には見られない特質を備えている。また、卵として体外で胚発生が進むことから、胚操作が極めて容易である。色素欠損系統も存在する事から、より内部の変化が観察しやすいため応用性も極めて高い。 遺伝子の機能解析において、遺伝子変異体が極めて貴重な情報源である事は、これまでの生物学の歴史からも明白である。更に、ゲノム生物学時代の到来は遺伝子の取得を容易にし、得られた遺伝子の生体における機能を解析するといった逆遺伝学的手法の必要性を増大させてきた。逆遺伝学には、標的とする遺伝子の変異体を自由に作成する、遺伝子ノックアウトの手法が必須である。しかしながら、メダカを含む小型魚ではノックアウトの手法は確立されていなかった。我々はTILLING (Targeting Induced Local Lesion IN Genome)法によりメダカにおいて逆遺伝学的に変異体を作製する方法を確立するために5700のF1個体からなるメダカTILLINGライブラリーを作製した。(第50回大会で発表)TILLING法で最も重要なステップはいかにして効率よく導入変異を検出してくるかである。これまで、Direct sequencing法、CelI法(変異部位で形成されるヘテロ二本鎖を酵素(CelI)による切断の有無で検出する)、高感度融解曲線(High Resolution Melting (HRM) )法(変異部位で形成されるヘテロ二本鎖の融解温度の違いを検出する)などが用いられてきた。これらの方法は有用である一方、一回のスクリーニングで得られる情報量に限りがある。そこで、我々はよりハイスループットなスクリーニング法の確立を目指して、次世代シークエンサーを用いたGiga-Base Sequencing (GBS)法でスクリーニングを試みた。まず、GBSによりどのくらい効率よく変異を検出できるのか、テストランを行った。テストランでは、これまでにHRM法によるスクリーニングで検出された36個の変異を、ポジティブコントロールとして使用した。その結果、ポジティブコントロールが95%以上の検出効率で検出され、そのS/N比は2.45であった。この結果よりGBS法によるスクリーニングが、従来のスクリーニング法と変わらず有用であることが示された。GBS法の最も重要なポイントはハイスループットであることである。計算上、1ランで100以上のエキソンを一度にスクリーニングすることが可能である。現在GBS法により、損傷応答に関与する遺伝子群の変異体スクリーニングを行っている。
  • 高居 邦友, 宮澤 浩人, 小林 純也, 竹崎 達也, 秀 拓一郎, 平山 亮一, 近藤 亨, 小松 賢志
    セッションID: PA-36
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    グリオブラストーマ(膠芽腫)はきわめて悪性の脳腫瘍であり、増殖が速く、放射線・抗癌剤に耐性を持ち、高確率で再発する。これらの性質の原因として、腫瘍組織中に存在する癌幹細胞(グリオーマ幹細胞)が治療後にも生残することが考えられている。しかし、なぜグリオーマ幹細胞が放射線・抗癌剤に対する抵抗性を有するのかについては未だ明らかではない。放射線や抗癌剤の多くはDNAを障害することで抗腫瘍効果を及ぼすことから、グリオーマ幹細胞でのDNA修復の活性化が、細胞レベルでの抵抗性の有力な要因と考えられる。本研究では、幹細胞機能の一つである腫瘍形成能に直接関与する因子Plagl1とその抑制因子Sox11をマーカーとしたグリオーマ幹細胞を用い、放射線・抗癌剤に対する細胞特性を解析することで、その治療耐性の分子メカニズムを解明することを目的とする。グリオーマ幹細胞(Plagl1陽性)とグリオーマ分化細胞(Sox11陽性)を放射線・各種抗癌剤で処理したところ、グリオーマ幹細胞はDNA架橋剤に対してとくに強い抵抗性を示した。また、グリオーマ幹細胞では放射線照射後のDNA修復の進行を示すγH2AXフォーカスの減衰が遅延した。これらはグリオーマ幹細胞における相同組換え修復の亢進を示唆するものであり、さらに、架橋剤マイトマイシンC処理に対しグリオーマ分化細胞では細胞周期の停滞とアポトーシスが検出されたが、グリオーマ幹細胞ではいずれも殆ど見られなかった。以上の結果から、グリオーマ幹細胞では、相同組換え修復の亢進によってDNA損傷が効率よく修復され、それによりアポトーシスが抑制されることで、高い生残性すなわち治療耐性を得ているものと考えられる。
B: 放射線応答・シグナル伝達
  • 二宮 康晴, 崔 星, 于 冬, 関根 絵美子, 高橋 千太郎, 丹羽 太貫, 藤森 亮, 岡安 隆一
    セッションID: PB-1
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    [目的] 最も高発(約30%)な脳腫瘍であり放射線抵抗性としても知られる異形性グリオーマに対して、ヒ素はin vitro及びin vivoで相乗性の放射線増感効果が示されている数少ない薬の一つである。しかし、その作用機序は不明な点が多い為、私たちはまずヒ素単独処理による解析を行ってきた。昨年までに、ヒ素による老化様細胞増殖停止誘導は、DNAダメージにより引き起こされ、ヘテロクロマチン形成を伴うことを報告した。本年度は、ヒ素による老化様細胞増殖停止誘導は、p53-p21経路により引き起こされるか否かを検証した。 [結果]老化様細胞増殖停止に機能することが知られているp16経路とp21経路のうち、異形性グリオーマではp16が欠損している為、残るp21の関与を異形性グリオーマ細胞株U87MGを用いて解析した。X線照射により、p53が正常な癌細胞が老化することは既に報告されているので、5GyのX線で照射された細胞を老化のポジティブコントロールとして用いた。X線5Gyと同程度のコロニー形成率(約10%)をもたらす条件として、1.25μMのヒ素で細胞を処理したところ、処理後6日目において、p21の誘導が放射線処理後と同程度に観察された。次に、キアゲンのsiRNAを用いてp53およびp21遺伝子のノックダウンを行った。ウェスタンブロットにより、p53及びp21ともに70%以上のノックダウン効率を確認した。この条件でp53またはp21をノックダウンした細胞をヒ素で処理した結果、放射線処理後と同様にヘテロクロマチン形成は消失した。以上の結果より、ヒ素は放射線と同様にp53-p21経路によりヘテロクロマチン形成を伴う老化様細胞増殖停止を誘導することが明らかになった。
  • 田中 泉, 石原 弘, 薬丸 晴子, 田中 美香, 横地 和子, 福津 久美子, 山田 裕司
    セッションID: PB-2
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
     放射線感受性細胞が外部被ばくすることにより、p21mdm2などの増殖抑制関連遺伝子および、baxpumaなどのアポトーシス関連遺伝子の活性化することが知られている。我々はmRNAの高精度real-time RT-PCR定量技術を確立し、マウスに0.1~1 Gyのエックス線を1回全身照射すると、末梢血液や骨髄細胞におけるこれらのDNA損傷応答遺伝子のmRNA量が4時間後をピークとした一過性増加を示すことを明らかにした。また、そのピーク時におけるmRNA量が、被ばく線量に依存して増加することを示してきた。さらに、末梢血液で顕著に見られる概日リズム影響は、細胞増殖を反映するc-myc遺伝子のmRNAの定量値を利用することにより相殺されることも既に報告した。こうした外部被ばくとして1回照射で発生するDNA損傷応答遺伝子のmRNAの量的変動と、内部被ばく時における変動を比較した。
     内部被ばくモデルとしてまず32Pリン酸を使用した。0.5~5.0 MBqの無機リン酸を投与したマウスから、経時的に末梢血液または骨髄細胞を採取してDNA損傷応答遺伝子および細胞増殖関連遺伝子のmRNA量を定量した。これらのmRNA量の変動は、32P投与後4時間後に明瞭となり、8時間後をピークとしてその後減少した。何れの時間においても、特にアポトーシス関連遺伝子のmRNA量については、32P投与量に高度に依存していた。この実験モデルを利用した内部被ばく線量評価との相関の解析により、細胞内で発生する内部被ばく障害の分子過程の解析が可能であることが示された。
  • 田中 薫, 王 冰, 二宮 康晴, 丸山 耕一, ヴァレス ギョーム, 尚 奕, 藤田 和子, 江口ー笠井 清美, 根井 充
    セッションID: PB-3
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    放射線誘発適応応答(AR)とは、あらかじめ低線量の放射線を照射しておくと、その後の高線量での照射に対して、抵抗性を誘導するという現象である。適応応答の研究は、リスク推定に対し重要な科学的根拠を供給し、生物学的防御機構に重要な洞察を提供する。そして、実際に応用可能な新しい放射線療法をもたらす。一連の研究の中で、我々は、胎児と成体マウスにおいて、低LET放射線である X線と、高LET放射線である重粒子線の両方において、適応応答が誘導されるかどうかを調べてきた。その結果については、既に過去3回の放射線影響学会において報告している。今回我々は、胎児マウスについての仕事のまとめを行なう。妊娠11日目(E11)にX線で、0.05Gyあるいは0.3Gyの低線量を前照射すると、妊娠12日目に X線で高線量(3.5Gy)本照射を行なった場合に適応応答を誘導した(エンドポイントとして胎児死亡と奇形の抑制を用いた)。この適応応答のモデルを用い、1)低線量X線前照射による、高LET放射線である重粒子線での、高線量本照射に対する適応応答の誘導、2)高LET重粒子線での低線量前照射による高線量X線本照射に対する適応応答の誘導について調べた。重粒子線は、HIMACによって発生させたmono beamの炭素イオン線、ネオンイオン線、シリコンイオン線、鉄イオン線の4種類で、LET値はそれぞれ約15、30、55、200keV/マイクロメートルのものを使った。その結果、低線量のX線での前照射が、高線量の炭素イオン線、ネオンイオン線、シリコンイオン線の本照射に対して、適応応答を誘導することがわかった。一方、本照射を鉄イオン線で行なった場合には、適応応答は観察されなかた。また、高LET重粒子線を使って低線量前照射を行ない、高線量本照射をX線で行なった場合には、適応応答は認められなかった。これらのことは、一定の条件のもとで、低LET放射線であるX線での低線量前照射が、高LET放射線である重粒子線での高線量本照射に対して適応応答を誘導すること、そして、X線による適応応答の誘導が、本照射をするもののLET値と粒子の種類のうちのどちらか一方あるいは両方に依存していることが示された。
  • 藤森 亮, 平川 博一, 小久保 年章, 王 冰, 伏木 信次
    セッションID: PB-4
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    我々は、がん細胞を含む多くの細胞でASPM遺伝子の転写(mRNA)が放射線によって一過性に減少することを見出した。マウスの胎仔を用いた実験では、亜致死線量の放射線が‘nestin陽性細胞’のAspm蛋白質の発現を著しく抑制しうることを見出し、一昨年前本学会で発表した。ASPM欠損変異はヒトの遺伝性小頭症の原因であることが知られている。すなわち、Aspm蛋白質は胎児の脳の発達に重要な蛋白質であるが、中枢神経の幹細胞の分化や細胞分裂への寄与を含め、その分子的機能が未だによくわかっていない。そこで、ASPMを任意の時期に欠損させることが可能なCre-loxP組換えシステムによる条件的ASPM遺伝子ノックアウトマウスを作成した。母胎において、Cre活性により初期胚からASPM遺伝子をホモで欠損させると、Aspm遺伝子型+/+, +/-, -/-の仔が得られ、個体数の比はほぼメンデル遺伝の法則に従った。ホモ欠損マウスは見かけ上健康に成長し2年を越えて生存している。12週齢において成体マウスの解析を行ったところ、遺伝型による体重差はないが、Aspm-/-の個体にのみ、全脳で正常重量の85%、睾丸で20%という顕著な減少を見た。HE染色による組織標本の病理学的な所見は、脳では見出せなかったが、精子形成はほとんど見られなかった。次に、Creを‘Nestinプロモータ’下に発現するTgNes-Creマウスを用いて胎生期中枢神経組織特異的にAspm遺伝子を破壊した。この場合、前と同じ脳重量の減少が得られたのに対し、精巣の所見は全く正常であった。胎生期のnestin陽性組織に限定したAspm欠損のみで、個体がAspm欠損小頭症の徴候を示すこの結果は、放射線誘発小頭症の発症に関して、分化や増殖がAspm蛋白質の機能に強く依存する幼若な中枢神経細胞が被ばくによって相対的に大きな影響を受けるという説明と矛盾しない。
  • 吉野 美那子, 森田 明典, 小林 新緑, 高畠 香織, 細井 義夫, 池北 雅彦
    セッションID: PB-5
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    これまでに報告されている放射線感受性関連遺伝子の単離・同定法の例には、放射線高感受性遺伝病の原因遺伝子の同定を始め、モデル生物から同定された放射線感受性遺伝子のホモログ同定、分子間の相互作用を解析する生化学的手法、発現に差異のある遺伝子を単離するディファレンシャルディスプレイ法、サブトラクション法などがある。しかし、これらの方法にはそれぞれの単離手法による特性があり、我々はより効率的な新しいアプローチによる遺伝子単離法の開発を目指した。 RAZE法(Radiosensitivity-related gene cloning using Zeosin vector)と名付けたこの手法の特徴は、ゼオシン発現ベクターをランダム挿入することにより遺伝子改変を起こさせた細胞群を、ゼオシン含有培地で選択することにより、DNA損傷抵抗性のクローンを効率良く得る点にある。我々は放射線高感受性のヒトT細胞性白血病細胞株MOLT-4細胞に、独自に開発したゼオシンベクターを導入した。開発したベクターは、後の遺伝子配列の特定に適した設計となっており、ゼオシン抵抗性遺伝子の両端に多数の制限酵素サイトを有するベクターである。得られたクローンの放射線照射後の生存率を測定すると、親株であるMOLT-4の2倍以上の生存率を示すクローンが複数得られた。リアルタイムPCR定量の結果、各クローンのゼオシン挿入量が放射線抵抗性と相関しないことから、獲得した放射線抵抗性はベクター挿入による遺伝子改変が原因であると考えられた。よってこれらのクローンのベクター挿入部位をinverse PCR(IPCR)法で同定した。制限酵素サイトを多く含むベクターの挿入により、未知配列を含む挿入部位のIPCR増幅に適したゲノム断片を得る事が出来、目的の遺伝子配列を単離する事に成功した。今後は単離した候補遺伝子の機能解析を進める予定である。 1
  • 吉野 浩教, 柏倉 幾郎
    セッションID: PB-6
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    [目的] Nrf2(NF-E2 related factor 2)は活性酸素種(ROS)や親電子性物質などの様々な反応性分子種によって活性化され,活性酸素種や親電子性物質を消去するヘムオキシナーゼ-1(HO-1)やキノンオキシドレダクターゼ1(NQO1)などを誘導し,酸化ストレスに対する生体防御として重要な役割を果たす. 電離放射線は直接的にDNAを電離・励起し損傷させるほか,生体内の水分子に作用してROSを発生させ,間接的にDNAを損傷することから,放射線によってNrf2が活性化する可能性が考えられる.我々はこれまでにヒト臍帯血由来造血幹細胞を用い,X線照射によってHO-1やNQO1のmRNA発現が上昇することを報告した(Kato et al. Radiat. Res., 174, 177-84, 2010).しかしながら,この発現上昇がNrf2の活性化によるものかは証明されておらず,その活性化機序も明らかとされていない.そこで本研究では,放射線応答におけるNrf2生体防御システムの関与を検討した. [方法]細胞はヒト急性単球性白血病細胞であるTHP1細胞を用い,THP1細胞にX線を照射した(1-10 Gy).照射後,経時的に細胞を回収し,細胞内ROS及びミトコンドリア由来ROSをフローサイトメトリー法により解析した.また,Nrf2の局在解析及びHO-1とNQO1のタンパク質発現解析を行った. [結果] X線照射誘発即発性ROSは線量依存的に生成されたが,照射後速やかに消失した.X線照射後の遅発的ROS生成に関しては,10 Gy照射3時間以降にミトコンドリア由来ROSが増加した一方で,細胞内ROSの量は非照射対照群と比べて低かった.Nrf2の局在を解析したところ,非照射及び低線量照射群(1-2 Gy)ではNrf2が細胞質に留まっているのに対し,5,10 Gy照射では照射6時間後に顕著な核移行が観察された.X線照射によるHO-1とNQO1の発現変化は照射6時間後までは観察されなかったが,照射24時間以降において5 Gy照射群でのHO-1及びNQO1発現が非照射群と比べて顕著に高かった.以上の結果より,Nrf2は高線量放射線によって活性化され,Nrf2生体防御システムが照射後24時間以降に機能する可能性が示唆された.
  • 細木 彩夏, 米倉 慎一郎, 橋口 一成, 野村 崇治, 米井 脩治, 近藤 隆, 秋山(張) 秋梅
    セッションID: PB-7
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    電離放射線は生体内の水分子に作用し、活性酸素を生じる。生じた活性酸素種 (ROS) はDNA、タンパク質、脂質を非特異的に酸化し、細胞障害を引き起こす。そのため、生じたROSを速やかに除去、あるいは生じた障害を迅速に修復出来れば、電離放射線による細胞障害は低減する。そこで本研究では、ROSを直接消去する働きのあるsuperoxide dismutase (SOD)、生じた細胞障害を修復し細胞内の酸化還元状態の維持に働く抗酸化酵素glutaredoxin (Grx) を過剰に発現させた細胞株に電離放射線 (γ線) 照射処理をし、細胞障害への影響を調べた。  その結果、細胞質局在性SOD1を過剰発現させた細胞株では放射線への抵抗性がみられなかったのにも関わらず、ミトコンドリア局在性のSOD2を過剰発現させた細胞株では放射線抵抗性であった。そこでDNAのDSB量を測定した。SOD2過剰発現株ではDSB量が減少していた。次に、放射線による他の酸化ストレス障害にSOD2高発現がどのように影響を及ぼすのかを調べた。タンパク質の酸化量、H2O2によって発現が誘導されるタンパク質OXR1の発現量、細胞全体で発生する活性酸素量、さらに、ミトコンドリアの機能維持に関連する形態における変化を測定したところ、その全てにおいてSOD2高発現による抑制効果がみられた。  ミトコンドリアは細胞内代謝により発生したROSに常にさらされている、ミトコンドリア局在型SOD (SOD2)の高発現で放射線作用に対する抑制効果が観察できた、以上のことからミトコンドリアに局在している抗酸化酵素は細胞内の恒常性維持、細胞の生存等に特に重要であると考えられる。そこで、ミトコンドリアに局在するGrx (Grx2) 過剰発現の放射線細胞障害への影響を調べたところSOD2と同様の効果が観察された。
  • 村田 弘貴, 藤井 伸之, 田内 広, 立花 章
    セッションID: PB-8
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    細胞にあらかじめ低線量の放射線を照射すると、その後の高線量放射線による生物影響を低減する現象を放射線適応応答という。この現象は、ヒトリンパ球を低濃度トリチウムチミジンで処理すると、その後の高線量X線による染色体異常頻度が低下するというWolffらの報告によって初めて示された。その後、トリチウムチミジン以外に低線量X線や低濃度過酸化水素などによる前処理でも同様の現象が観察され、またヒト以外の生物種の細胞や個体でも見られることが明らかにされた。これらのことから放射線適応応答は生物の持つ基本的応答機構であると考えられるが、その分子機構は明らかになっていない。我々はこれまでにマウスm5S細胞を用いて低濃度過酸化水素処理による適応応答誘導について検討し、protein kinase Cα(PKCα)が関与することを明らかにした。本研究では、DNA損傷と適応応答誘導との関連を明らかにするために、低濃度トリチウムチミジン処理による放射線適応応答誘導についてm5S細胞を用いて検討した。まず、Wolffらの実験条件に従い、増殖期のm5S細胞に3.7 kBq/mlのトリチウムチミジンを加えて細胞に取り込ませ、その後confluentにして接触阻止により細胞の増殖を止めた状態を保って、5 Gy X線を照射し、微小核形成を指標として放射線適応応答を解析した。その結果、m5S細胞でも低濃度トリチウムチミジンの前処理により放射線適応応答が誘導されることを確認した。さらに、トリチウムチミジンの至適濃度を検討するために、0.37 kBq/ml及び37 kBq/mlの濃度のトリチウムチミジン前処理も行ったが、3.7 kBq/mlによる前処理が最も効率よく放射線適応応答を誘導した。トリチウムチミジンの至適濃度や処理時間に加えてPKCαの関与についても報告する予定である。
  • 村瀬 純, 五月女 淑歩, 松永 愛美, 立花 章
    セッションID: PB-9
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    抄録 低濃度及び高濃度過酸化水素処理によるPKCαとp38 MAPKの活性 村瀬 純、五月女淑歩、松永愛美、立花 章 (茨城大学理学部)  低線量域の放射線に対する細胞応答の現象として、低線量放射線によって照射された細胞がその後の高線量放射線に対して耐性となる放射線適応応答がある。この適応応答は低線量放射線だけでなく低濃度過酸化水素、低濃度TPAによっても誘導されることが明らかになっている。マウスm5S細胞を用いた研究で、PKC阻害剤及びp38 MAPK(p38)阻害剤存在下では適応応答が誘導されないことから、適応応答へのPKC及びp38の関与が示唆された。また、低線量X線照射により、PKCαとp38が活性化されるが、PKC阻害剤によってp38活性が減少し、p38阻害剤によってPKCα活性が減少することが明らかにされた。以上のことから適応応答にPKC-p38 MAPKの情報伝達経路が働いていることが推論された。そこで本研究では、適応応答におけるPKCαとp38の相互関係を明らかにすることを目的とし、過酸化水素処理により適応応答を誘導した細胞でのPKCα、p38活性化の経時的変化をそのリン酸化を指標としてウェスタンブロット法を用いて解析した。特に、適応応答を誘導する過酸化水素濃度1μMと、適応応答を誘導しない過酸化水素濃度100μMの、それぞれの場合でのリン酸化を検討した。その結果、PKCα及びp38のいずれも、1μM処理では調べた約6時間にわたって比較的高いリン酸化を示したのに対し、100μM処理では処理後1時間でリン酸化のレベルが低下し、調べた約6時間にわたって、その状態が持続することを見出した。このような、低濃度過酸化水素処理と高濃度過酸化水素処理でのPKCαとp38の活性化パターンの違いが、放射線適応応答の誘導に関係している可能性がある。PKCαをノックダウンした細胞でのp38活性化に関しても併せて検討する予定である。
  • 横田 裕一郎, 舟山 知夫, 武藤 泰子, 池田 裕子, 小林 泰彦
    セッションID: PB-10
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    照射-非照射細胞間のシグナル伝達が非照射細胞に照射細胞と同様の生物効果を引き起こす放射線誘発バイスタンダー応答は、低線量放射線の生物効果を修飾する可能性がある。そのため、バイスタンダー応答の詳しい動態を明らかにすることは、低線量放射線の生物効果が注目されている現在、重要である。そこで本研究では、in vitroで放射線誘発バイスタンダー応答の時間依存性を明らかにすることを目的とし、炭素線(LET = 103 keV/μm)又はネオン線(LET = 380 keV/μm)マイクロビーム局部照射(35 mmφのコンフルエント細胞試料の25ヶ所に10イオンずつ、合計250イオン)、炭素線ブロードビーム全体照射(LET = 108 keV/μm、0.13 Gy)あるいはγ線全体照射(LET = 0.2 keV/μm、0.5 Gy)したヒト正常繊維芽細胞WI-38株と6~24時間共培養した非照射(バイスタンダー)細胞の生存率をコロニー形成法により調べた。本実験条件における照射細胞とバイスタンダー細胞の比率は、炭素線マイクロビーム照射試料で0.0005未満 : 1、炭素線ブロードビームおよびγ線照射試料で0.5 : 1であった。マイクロビーム照射試料では、バイスタンダー細胞の生存率は照射後6時間では変化しなかったが、24時間で約15%低下した。一方、0.13 Gyの炭素線ブロードビームと0.5 Gyのγ線を照射した試料では、バイスタンダー細胞の生存率は照射後6時間以降で15~20%低下した。以上の結果から、バイスタンダー細胞に対して照射細胞が極端に少ない場合、バイスタンダー応答の誘導が遅延することがわかった。
  • 舟山 知夫, 横田 裕一郎, 坂下 哲哉, 小林 泰彦
    セッションID: PB-11
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    重イオンマイクロビームを用いた細胞への照準照射技術は、細胞への正確な重イオンの影響を解明するうえで重要なツールであるとともに、低フルエンス・低線量照射が細胞集団に引き起こす、バイスタンダー効果や放射線適応応答などの現象の解析に有効である。私たちは、昨年度の本学会で、原子力機構の集束式マイクロビーム装置を用いて、CR39フィルム上に播種した培養細胞を集束ビームで正確に照準照射できることを示した。私たちのこれまでの細胞照射実験では、細胞試料を設置した電動精密メカニカルステージを駆動し、細胞をビームスポットに重ねることで照射を行ってきた。一方、集束式マイクロビームの特性を生かし、ビームスポットを電場を利用したビームスキャナで指定の位置に高速に移動することが実現できれば、ビームスポットを移動して細胞を高速照射できるようになる。このビームスキャナを用いた高速細胞照射の実現には、顕微鏡下で検出した細胞位置を、スキャナへの印加電圧に変換し、スポット位置を正確に制御するシステムの開発が必要となる。そこで、手始めに細胞の画像上の位置を、ビームスキャナに印加する電圧に変換するコードを開発した。開発したコードを用い、既取得の細胞画像から変換した電圧をビームスキャナに順次印加してイオン飛跡検出プラスチックCR-39を照射、照射後にCR-39をアルカリ処理することで飛跡を可視化した。可視化した飛跡の空間分布を顕微鏡下で観察し、CR-39上に描画される照射パターンを元となった細胞分布と比較した結果、描画された飛跡パターンは、元となった細胞分布と正確に合致した。この結果から、本コードを用いることで、細胞へのビームスキャナを用いた高速な照準照射が実現できることが示唆された。
  • 武藤 泰子, 舟山 知夫, 横田 裕一郎, 池田 裕子, 小林 泰彦
    セッションID: PB-12
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    重粒子線が生体免疫能に及ぼす影響を明らかにすることは、重粒子線がん治療における周辺正常組織への影響を評価するために極めて重要である。また、高LETの重粒子線照射では、照射細胞が周辺の非照射細胞にも照射効果を誘導する現象:バイスタンダー効果の寄与が大きくなることから、生体免疫能への影響評価にあたっては、バイスタンダー効果を含めた検討が必須である。そこで本研究では、免疫細胞培養試料に対し、重粒子線を細胞集団全体にあるいは部分的に照射し、重粒子線によるDNA損傷や細胞膜損傷が生体免疫能にどのように関与するかを、照射細胞が分泌する免疫細胞間シグナル伝達物質サイトカイン(TNF-α)の変化とその機構を中心に、バイスタンダー効果に焦点を当て解析した。免疫細胞(ヒト急性単球性白血病由来細胞株THP-1マクロファージ)の細胞集団全体に、炭素線(LET=108 keV/μm、5 Gy)を全体均一照射した。照射後、細胞を培養し、細胞が産生したTNF-αと一酸化窒素(NO)を測定した。さらに、試料を部分的に照射できるマイクロビーム照射で、細胞集団の一部の細胞(0.5%)のみを炭素線(5 Gy)で照射し、TNF-α産生量を測定した。炭素線(5 Gy)均一照射試料では、TNF-αの産生量が非照射対照と比べ50%減少し、NO産生量は有意に増加した。この炭素線照射によるTNF-α産生量の減少は、照射前にNO消去剤を加えると増加した。このことから、照射によるTNF-α産生抑制に、NOが関与していることが示された。また、マイクロビームによる部分照射(0.5%)でも、全体照射試料と同様にTNF-α産生量が減少したことから、照射された極一部の細胞がNOを産生し、このNOが残り大多数の非照射細胞(99.5%)に伝達されることで、TNF-α産生抑制を誘導した可能性が示唆された。
  • 藤井 健太郎, 藤井 紳一郎, 秋光 信佳, 月本 光俊, 小島 周二
    セッションID: PB-13
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    リボ核酸の一種であるアデノシン三リン酸(ATP)は、生体エネルギー供与物質として多様な生化学反応へエネルギーを供与している。また同時に、ATPは遺伝情報の仲介物質であるメッセンジャーRNAを合成するための基質として、さらには細胞間情報伝達物質としても働く。本研究では、SPring-8原子力機構専用軟X線ビームラインBL23SUの持つ高分解能単色X線の照射により、ATPに対する軟X線照射障害を多様な生物学的特性の観点(生体エネルギー供与、遺伝情報伝達、細胞間情報伝達) から解析した。さらに、照射による分子構造変異をエレクトロスプレー質量分析装置(ESIMS)や軟X線吸収分光法により解析した。その結果、真空中で軟X線を照射したATPでは、ATP受容体活性化によるextracellular signal-regulated kinase 1/2(ERK1/2)のリン酸化活性化能、およびルシフェラーゼ活性が両者とも低下することが明らかになった。ESIMSや軟X線吸収分光法により、ヌクレオチドの脱離が照射試料から観測されており、これらのATPの分子構造変異に起因した効果であると推測される。
  • アッサバプロンポーン ナロンチャイ , 宇佐美 徳子, 舟山 知夫, 横田 裕一郎, 武藤 泰子, 池田 裕子, 内堀 幸夫, 劉 翠華, ...
    セッションID: PB-14
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】 低LET電磁波放射線と高LET粒子放射線照射によって誘導されるバイスタンダー効果のメカニズムの違いを明らかにすることは、放射線によるがん治療から宇宙放射線による人体影響リスク評価の広範囲の線量域に渡る生物影響研究にとって重要である。我々はこれまで、低LET電磁波放射線または高LET粒子放射線マイクロビーム照射装置を駆使して、ヒト正常線維芽細胞のDNA/染色体損傷に対するバイスタンダー効果の線質依存性とそのメカニズム解明としてギャップジャンクションを介した細胞間情報伝達機構の関与を明らかにすべく研究を行っている。 【実験方法】 実験には、理化学研究所細胞バンクより供給されたヒト皮膚由来正常線維芽細胞を用いた。各種放射線マイクロビーム照射は、高エネ研放射光実験施設の単色X線(5.35keV)、原研高崎量子応用研究所の炭素イオン(220MeV)、ネオンイオン(260MeV)、アルゴンイオン(460MeV)を利用し、コンフルエントに培養したヒト正常細胞の一個の細胞サイズよりも遙かに大きな間隔に設定したクロスストライプ状の照射点に対して種々の線量のマイクロビームを照射した。この照射方法で、マイクロビームディッシュ内の全ての細胞の内約0.04%の細胞のみにマイクロームが照射されることになる。DNA/染色体損傷は微小核形成法によって評価し、同時にギャップジャンクション阻害剤を併用することにより、バイスタンダー効果に対する細胞間情報伝達機構の関与を調べた。 【結果と考察】 X線マイクロビームおよびネオンイオンマイクロビーム照射サンプルの微小核形成頻度は、ギャップジャンクション阻害剤併用の有無に係わらず、有意な差は認められなかった。一方、炭素イオンマイクロビーム照射サンプルでは、ギャップジャンクション阻害剤を併用した場合に対して併用しない場合の微小核形成頻度は有意に高かった。以上の結果から、大多数の細胞に放射線が直接ヒットしていない集団において、予想を遙かに超えて微小核形成が誘導されるようなバイスタンダー効果が放射線の線質に依存することと、バイスタンダー効果誘導のメカニズムにギャップジャンクションを介した細胞間情報伝達機構が関与していることが示唆された。
  • 玉利 勇樹, 菓子野 元郎, 渡邉 正己
    セッションID: PB-15
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    放射線によるバイスタンダー効果は、放射線を照射された細胞からのシグナルにより周辺の非照射細胞が様々な影響を受ける現象である。しかし、バイスタンダー効果発現の詳細なメカニズムは明らかになっていない。一方、ミトコンドリアはATPを合成し、細胞内の代謝に関わるエネルギー産生において重要な役割をはたすとともに、その活動に伴って多量の活性酸素を生み出し生理活性発現に大きく影響している。我々は、ヒト細胞におけるバイスタンダー効果発現がミトコンドリアの機能と密接に関連しているのではないかと考え、そのメカニズムを解明することを目指している。 本研究では、ヒトグリオーマ細胞SF126、ヒト子宮頸癌細胞HeLa、ヒト正常線維芽細胞NB1RGB、ヒト正常胎児由来細胞HE35、HE49を用い、10%牛胎児血清を含むイーグルスα-MEM培養液で継代培養した。バイスタンダー効果はメディウムトランスファー法により調べた。細胞にX線を照射し、24時間後に培養上清を回収し、別に用意した未照射細胞(バイスタンダー細胞)で発現する影響を解析した。その結果、バイスタンダー効果によって、すべての細胞で1〜2GyのX線照射後1〜2時間で微小核生成が亢進されることが判った。このバイスタンダー効果による微小核誘導は0.2mMビタミンC処理で有為に抑制される。そこで、ミトコンドリア内活性酸素量をMitosox Red染色で測定したところ、すべての細胞において線量依存的にミトコンドリア内の活性酸素量が増加することがわかった。さらに、DCFH試薬により細胞内酸化度の評価をおこなったところ、がん細胞では細胞内酸化度に変化はみられなかったが、正常細胞では0.5Gy照射された細胞から採取した上清を2時間処理した場合、一時的に細胞内酸化度が減少するが、この効果は処理24時間後にみられなくなった。 以上の結果より、ヒト細胞では、癌細胞でも正常細胞でも、ミトコンドリアの活性酸素がバイスタンダー効果発現で重要な働きをすることが予想される。
  • 山口 平, 門前 暁, 柏倉 幾郎
    セッションID: PB-16
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    [目的]血球の源である造血幹細胞は自己複製能と多分化能を有し、その高い分化増殖能から放射線高感受性であることが知られている。また、幹細胞には、活性酸素種(ROS)の主な産生源でありアポトーシス主要器官であるミトコンドリアの含有量が少ないことも報告されている。しかしながら、ヒト造血幹細胞の放射線感受性と、細胞内ミトコンドリアの機能に関する詳細な報告はない。本研究では、ヒト造血幹細胞として臍帯血由来CD34陽性細胞を用いて、造血幹細胞の放射線応答におけるROS産生やミトコンドリア機能との関連性について検討した。
    [方法]CD34陽性細胞は、国立病院機構弘前病院より供与されたヒト臍帯血から磁気ビーズ法により分離精製し、実験時まで-150℃にて凍結保存した。解凍した細胞を無血清培地に懸濁し、X線照射後遺伝子組み換えサイトカイン(G-CSF,GM-CSF,IL-3,SCF,EPO)の有無で、37℃、5%CO₂環境下で培養した。0~7日間培養後細胞を回収し、上記サイトカインを含むメチルセルロース培養法により前駆細胞数を計数した。細胞内ROS量はCM-H2DCFDAまたはMitoSOX Redを用い、細胞内ミトコンドリア量はMitoTrackerを用いてフローサイトメーターにて測定した。
    [結果・考察]4Gy照射細胞は、サイトカイン刺激下3日間及び7日間の培養で、細胞数や前駆細胞数が非照射細胞の約2割まで減少した。一方、照射細胞内ミトコンドリア量は、非照射細胞と同程度に増加した。この時、照射細胞内ROS産生量は、培養3日目で開始時の約4倍とピークに達し、非照射細胞より有意に高い値を示したが、ミトコンドリア由来スーパーオキシドには有意差はみられなかった。従って、造血幹細胞への放射線障害に細胞内産生ROSは関与するものの、ミトコンドリアの関与は低い可能性が示唆された。
  • 門前 暁, 吉野 浩教, 笠井(江口) 清美, 柏倉 幾郎
    セッションID: PB-17
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    【目的】全ての血球の源である造血幹細胞は、サイトカインによりその増殖と分化が制御され、数日から数十日の寿命をもつ血球を産生し続ける。この未分化な造血幹細胞は放射線に対して高感受性であり、LET及び線量の増大と共に血球減少を誘発することが知られているが、その詳細な影響については不明な点が多い。そこで、本研究ではヒト造血幹細胞であるCD34+細胞を用いて、重粒子線またはX線照射が骨髄系分化・増殖に与える影響について検討した。
    【方法】CD34+細胞は国立病院機構弘前病院より供与されたヒト臍帯血より比重遠心法と磁気ビーズ法により精製した。放射線照射はX線発生装置(150 kV, 20mA, 0.3mm Cu/0.5mm Alフィルタ, 1 Gy/min)及び炭素イオン線発生装置(放射線医学総合研究所, HIMAC, 290 MeV/nucleon, LET = 50 keV/μm)を使用した。得られた細胞は、骨髄系に分化誘導するG-CSF, GM-CSF, IL-3, EPO及びSCF刺激下で無血清液体培養及びメチルセルロース培養を行なった。細胞表面抗原発現の解析はフローサイトメトリー法を用いた。
    【結果及び考察】放射線照射CD34+細胞における骨髄系前駆細胞の生存率を評価したところ、X線はD0 = 1.1 Gy、n = 1.9に対し、重粒子線はD0 = 0.7 Gy, n = 1.1と有意な差が認められた。次に生残細胞から成熟した血球分画を評価したところ、CD13+CD14-/lowCD15+好中球分画の割合は、X線照射条件下で非照射コントロールに比べ有意に低下したが、CD235a+赤血球分画は増加した。一方、重粒子線照射では非照射と同程度だった。以上の結果から、放射線に曝されたヒト骨髄系前駆細胞の生存率はLET及び線量に依存して低下するが、成熟血球への分化・増殖は必ずしもLETに依存しない可能性が示唆された。
  • 原條 靖之, 白石 一乗, 原 正之, 児玉 靖司
    セッションID: PB-18
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    【背景と目的】 組織幹細胞は、幹細胞自身と分化移行細胞に非対称分裂することで、組織の階層性を保持している。その幹細胞集団中では選択的染色体分配を行う細胞があることが示されている。一方で、選択的染色体分配機能を失った細胞が発がんに関わる可能性もある。そこで本研究は、神経幹細胞を用いて、選択的染色体分配に対する放射線影響に着目し、放射線照射後、選択的染色体分配がみられる細胞について解析した。 【材料と方法】  14.5日齢のICRマウス胎児から線維芽細胞と神経幹細胞を含むニューロスフェア(Neurosphere;NS)細胞を分離した。これらの細胞に1 Gy、2 Gy、及び3 GyのX線を照射後、5-エチニル-2’デオシキウリジン(EdU)を培地に添加して48時間培養し、DNAをラベルした。その後、細胞質分裂を阻害して2核細胞を形成させ、それぞれの核のEdUラベルを蛍光量で比較して染色体の分配比率を解析することにより、選択的染色体分配がみられる細胞を検出した。 【結果と考察】  2つ核の蛍光強度が明らかに片寄っている場合、選択的染色体分配であると判断した。非照射NS細胞では、1.2%の細胞が選択的に染色体を分配していた。これに対し、線維芽細胞では選択的染色体分配がみられる細胞は観察されなかった。このことは、神経幹細胞において選択的染色体分配が行われていることを示唆している。一方、X線を1 Gy、2 Gy、及び3 Gy照射したNS細胞における選択染色体分配がみられる細胞の割合は、非照射細胞における値に比べて、それぞれ60%、45%、及び15%の値を示し、線量依存的に減少した。この結果は、放射線被ばくにより選択的染色体分配を行う幹細胞の割合が減少する可能性を示唆しており、組織の恒常性維持機構に対する放射線の影響を考える上で興味深い現象である。
C: 放射線発がん
  • 漆原 あゆみ, 児玉 靖司, 横谷 明徳
    セッションID: PC-1
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    電離放射線による生物影響の中で、遅延性影響に関与する遺伝的不安定性の誘発にはDNA2重鎖切断の生成が関与すると考えられている。しかし、遺伝的不安定性は数回~数十回の細胞分裂を経た後の子孫細胞で見られる現象であることから、その間2重鎖切断がそのままの形で保持され続け、不安定性を誘発するとは考えにくく、2重鎖切断の修復後に残存する何らかの損傷が誘発原因であると考えられる。そこで、非2重鎖切断型の損傷である酸化型塩基損傷に着目し、2重鎖切断以外のDNA損傷が遺伝的不安定性を誘発するのかを明らかにすることを目的として研究を行った。非2重鎖切断型損傷である酸化型塩基損傷の生成には、2重鎖切断を生じにくく、かつ酸化損傷を生じやすいUVAを用い、微小核細胞融合法によってUVAを照射したヒト21番染色体を非照射のマウス線維芽細胞由来株であるm5S細胞に移入することにより損傷導入細胞を作製した。作製した細胞は、ヒト21番染色体特異的なWhole Chromosome Painting Fluorescence in situ Hybridization (WCP-FISH)法を用いてUVA照射染色体を染め分け、照射染色体と非照射染色体のそれぞれの染色体異常誘発頻度を調べた。
    その結果、UVA照射(4000kJ/m2)により生じた損傷を移入した非照射環境下のレシピエント細胞では、照射されたヒト染色体そのものに生じる染色体異常頻度の増加だけでなく、非照射であるはずのマウス染色体についても染色体数の増加や染色体異常頻度の増加を引き起こすことが明らかになった。この様な直接の照射の有無に関わらない染色体の不安定化は、移入したUVA照射染色体によって細胞全体に不安定性が誘発される可能性を示唆している。
  • 石井 洋子, 中島 徹夫, 根井 充
    セッションID: PC-2
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    [目的]マウスの全身照射による胸腺リンパ腫の発生の初期過程を解析し、胸腺が照射後、atrophy等の微小環境変化を起こし、その作用によりDNA二重鎖切断の誘発、異数体出現、バイスタンダー効果、およびクローン性等を示し、これらの異常により照射後およそ6から10週間後に前リンパ腫が形成されると考えられると本学会においてすでに報告した。リンパ腫発生の初期過程をさらに詳細に検討するためには、適当な前リンパ腫のマーカー分子の利用が望ましい。B10マウスの前リンパ腫マーカーとしてTL-2 (thymic-leukemia antigen) が報告されている。今回、Ly-6ファミリーのGlycosylphosphatidylinositol (GPI) 結合蛋白であるLy-6C表面抗原が前リンパ腫マーカーとして使用できるかをTL-2と比較検討したので、報告する。
    [材料および方法]5週齢のC57BL/6雌マウスを1.8Gyのγ線で週1回、合計4回照射し、2~10週後に胸腺細胞を分離した。照射したマウス由来の2X10E6個の胸腺細胞を同系統のGFPマウスの胸腺内に注射し、胸腺リンパ腫の発生率をしらべた。
    [結果]抗Gr-1抗体(クローンRB6-8C5)は単球および顆粒球マーカーのLy-6Gだけでなく、同じLy-6スーパーファミリーのLy-6Cを認識することが知られている。照射後ROSを産生する細胞を検索するために抗Gr-1抗体を用いてFACSを行ったところ、抗Gr-1抗体で陽性に染色されたT細胞が高率に存在したが、そのとき染色されたのは、Ly-6G抗原でなくLy-6C抗原であることが分かった。非照射胸腺、あるいは4回照射直後の胸腺にはLy-6Cの発現はみられず、照射2-10週目にマウス胸腺のT細胞のうち、20%から最大90%以上の細胞が抗Ly-6C抗体(クローンAL-21もしくはHK1.4)で染色され、10週で陽性率が平均52%となった。照射終了後16週目から胸腺リンパ腫が発生し、胸腺リンパ腫におけるLy-6Cの陽性率は平均31%であった。一方TL-2の陽性率は照射後10週で平均8.0%、胸腺リンパ腫で8.3%であった。照射後8-10週のマウスのうちLy-6C陽性率の高い胸腺の細胞をとって前リンパ腫検定すると、Ly-6C陽性率の高い胸腺リンパ腫が発生した。照射後4週においてLy-6C陽性率の高いマウス胸腺は前リンパ腫検定陽性であったが、それ以前ではLy-6C陽性率が高くても前リンパ腫検定は陰性であった。FACSでROS産生細胞との二重染色結果は、Ly-6C陽性T細胞はROS産生が高かった。
    [結論]Ly-6Cは胸腺リンパ腫発生の初期過程において、T細胞表面に発現し、その陽性率はTL-2より高く、照射後10週目にピークとなり、胸腺リンパ腫においても発現していた。前リンパ腫形成以前のT細胞でも発現が高くなるが、がん化しなかった場合はその発現が低下した。Ly-6C表面抗原は胸腺リンパ腫発生のマーカーとして使用しうる。
  • 澤 百合香, 尚 奕, 澤井 知子, 山内 一己, 柿沼 志津子, 野川 宏幸, 島田 義也
    セッションID: PC-3
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    【目的】近年、小児の医療被ばくの増加に伴い発達期における放射線の影響が懸念されている。一般に、小児は成人に比べ放射線による発がんリスクが高いといわれている。これまでの動物実験から、新生児期に被ばくしたB6C3F1マウスは、成体期や胎児期の被ばくに比べ肝がんの発生率が高く、発がん時期も早いことが明らかになっている。そこで我々は、肝がん発生の年齢依存性のメカニズムを明らかにするため、胎児期、新生児期および成体期の肝細胞の被ばく後の応答を経時的に解析し、新生児期の肝細胞は放射線照射後も増殖し続ける可能性について昨年の本学会で報告した。今回は放射線照射後の新生児期の肝細胞の増殖を確認し、また、発がんまでの長期的な遺伝子突然変異の経時的変化を解析した。
    【材料と方法】胎児期(胎生17日)、新生児期(1週齢)および成体期(7週齢)でγ線4Gyを全身照射し、BrdUの取り込み実験により肝細胞の増殖を経時的に解析した。更に、変異解析用B6C3F1 gpt-deltaマウスの1週齢、10週齢にX線3.8Gyを全身照射し、10週齢、10ヶ月齢、18ヶ月齢において肝臓を採取した。肝臓からDNAを調整し、EG10ファージとして回収し、このファージを大腸菌に感染させ選択培地で形成されるコロニー数から突然変異体数頻度を算出した。また、変異体コロニーの塩基配列を解析することで変異スペクトラムや同一変異体が占める割合(クローナリティ)の算出も行った。
    【結果】BrdUの取り込み実験から、新生児期の肝細胞では放射線被ばく後に活発に増殖することが確認され、損傷を持ったまま増殖し続けることが、肝がん感受性の要因の一つであることが示唆された。gpt assayによる突然変異解析から、1週齢照射群では年齢と共に突然変異のクローナリティが上昇する傾向が見られた。本発表では、10週齢照射群の解析結果も併せて報告する。
  • 今西 香絵, 白石 一乗, 原 正之, 児玉 靖司
    セッションID: PC-4
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    【背景と目的】  近年確立されたニューロスフェア(NS)法は神経幹細胞の培養を可能にした。もし、マウスニューロスフェア(NS)細胞を、正常な分化能や放射線応答を持ったまま不死化させることができれば有用である。そこで本研究は、神経幹細胞を含む不死化細胞の樹立を目指して、2倍体の染色体構成を持つ不死化NS細胞を分離することを試みた。 【材料と方法】  14.5日齢のICRマウス胎児からNS細胞及び線維芽細胞を分離して、培養系に移した。細胞を3日毎(3T2)、5日毎(5T2)、10日毎(10T2)に継代培養し、集団分裂回数(PDN)と染色体数分布を解析した。2倍体細胞を分離するために、70PDN付近のNS細胞をメチルセルロース培地中でコロニー形成させ、コロニーを分離して染色体数を解析した。 【結果と考察】  マウスNS細胞を3日毎(3T2)、5日毎(5T2)、10日毎(10T2)に継代培養した場合、3T2培養系では老化したのに対し、5T2培養系、及び10T2培養系では100PDNを超えても増殖し続けたことから不死化したと判定した。線維芽細胞においても、3T2培養系では老化し、10T2培養系では不死化した。そこで染色体分析を行ったところ、不死化した線維芽細胞は、40PDNの時点で全て3~4倍体域の染色体数を示し、2倍体細胞は存在しなかった。これに対して、NS細胞では、5T2培養系による75PDNの時点、及び10T2培養系による54PDNの時点で、約50%の細胞が2倍体域の染色体数を示し、残りは4倍体域の分布を示した。しかし、その後いずれの培養系でも70%以上の細胞が4倍体域の染色体数に移行した。そこで、67PDNの5T2培養系細胞からコロニー分離を試み、80%が近2倍体を示すクローンを3個分離した。ここで樹立した近2倍体マウスNS細胞は、今後、神経幹細胞における放射線応答研究への応用が期待される。
  • 砂押 正章, 平野 しのぶ, 甘崎 佳子, 西村 まゆみ, 島田 義也, 立花 章, 柿沼 志津子
    セッションID: PC-5
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    【背景と目的】原爆被爆者やチェルノブイリ事故における被ばく者において、白血病や小児甲状腺がんが増加し、その遺伝子変異解析から、被ばく時年齢によってがんの原因遺伝子や変異メカニズムに違いが報告された。我々は、マウスを用いた被ばく時年齢依存性について解析を行い、昨年度は、幼若期(1週齢)または成体期(4,8週齢)からX線1.2Gyを4回照射して誘発したTリンパ腫の発生率や潜伏期間に差がないこと、幼若期被ばくでは、成体期被ばくに比べて11番染色体のLOH頻度が低く、そこに位置するIkarosの変異頻度も低いが、逆に19番染色体ではLOH頻度が高いことを報告した。そこで、本研究では、19番染色体のLOH高頻度領域に位置するPtenの変異解析を行い、成体期被ばくTリンパ腫との相違を明らかにすることを目的とした。 【材料と方法】1,4,8週齢マウスへのX線1.2Gyの4回照射(1週間隔)により誘発したマウスTリンパ腫について、がん抑制遺伝子Ptenの塩基配列解析、タンパク質発現解析、または網羅的なアレイCGH解析によるゲノムのコピー数解析を行った。 【結果】Ptenの点突然変異頻度は、1週齢群22%(4/18)、4週齢群31%(4/13)、8週齢群25%(2/8)であった。1週齢群では、mRNA発現のない個体(17%:3/18)も検出され、アレイCGH解析から、ゲノムのホモ欠失を確認した。また、1週齢群におけるPten遺伝子座のLOH 44%(8/18)のうち75%(6/8)、4週齢群のLOH 31%(4/13)のうち75%(3/4)は、ゲノムのコピー数の変化がないため、組換えによりLOHが生じたことが示唆された。以上の変異をもつPtenタンパク質、あるいは発現なしの頻度は1週齢群61%(10/18)、4週齢群46%(6/13)、8週齢群38%(3/8)と1週齢群で高頻度であった。 【結論】Pten遺伝子座の組換えは若齢期において高頻度に生じることが明らかになった。幼若期被ばくTリンパ腫の発症には、Ikaros遺伝子よりもPten遺伝子が大きく関与している可能性が示唆された。
  • 松山 睦美, 七條 和子, 蔵重 智美, 三浦 史郎, 中島 正洋
    セッションID: PC-6
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    放射線は甲状腺発癌の危険因子で、小児期被曝は高感受性であり成人期では低感受性とされる。一方、被曝者甲状腺癌の大部分は成人期被曝であり、放射線の関与は不明である。昨年本学会で、X線照射後24時間までの未熟(4週齢)及び成熟(7週齢)ラット甲状腺濾胞上皮にSer 15リン酸化p53の発現が増加したが、p21, Cleaved caspase3の発現増加は見られないことを報告した。これは照射後甲状腺濾胞上皮細胞ではDNA損傷応答は起きているが、p21による細胞周期停止やアポトーシスは誘導されないことを示唆している。オートファジーはプログラム細胞死の形態の一型で、生体の恒常性維持に関与している。今回の目的は、被曝甲状腺濾胞上皮のオートファジーの関与と年齢による相違を調べることである。未熟及び成熟ラットにX線8Gyを全身照射後72時間までの甲状腺組織を摘出し、経時的解析を行った。病理組織学的には照射後濾胞上皮の細胞質膨化と空胞化変性を認め、変性細胞は未熟で照射後24時間をピークに72時間まで高値を示したのに対し、成熟では48時間後に増加し72時間後には減少した。増殖マーカーKi67陽性細胞の発現頻度は、未熟、成熟共に照射後72時間まで有意に減少し、Cleaved caspase3陽性細胞の発現を認めなかった。電子顕微鏡像による観察では、照射後6時間で未熟濾胞上皮の膨化細胞質に小胞体の拡張と分泌物の貯留が認められ、オートファゴゾームも確認された。成熟ではミトコンドリアの膨化や破壊、ゴルジ体のスタック、リソソームの形態異常やマイクロオートファジーが観察された。これらの変化は未熟・成熟共に照射後48時間で最も顕著であった。オートファジーのマーカーであるLC3-IIのウェスタンブロットによる発現は、未熟、成熟共に照射後24時間まで経時的に増加した。免疫蛍光染色によるLC3の発現は、未熟、成熟甲状腺細胞の細胞質にドット状に観察された。甲状腺濾胞上皮細胞は成熟・未熟共に放射線被曝によるアポトーシスは観察されないが、オートファジーの誘導が見られ、その後の発がん過程に影響している可能性が示唆される。
  • 谷 修祐, 小嶋 光明, 小野 孝二, 伴 信彦, 甲斐 倫明
    セッションID: PC-7
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    放射線によって引き起こされるC3H/HeNマウスの急性骨髄性白血病(Acute Myeloid Leukemia: AML)は、低線量でのヒトの白血病リスクを考える上で重要な実験モデルである。AMLを起こしたマウスの造血幹細胞では2番染色体の欠損およびその染色体に存在するSfpi1遺伝子の突然変異が確認されており、これらは骨髄の分化に重要な役割を持つPU.1の転写を抑制してAMLの発症に至ることが考えられている。しかし、AMLにおけるSfpi1遺伝子の突然変異について、ほとんどは点突然変異に起因し、その主な変異であるC:GからT:Aへのトランジションは自然突然変異によって生じるため、放射線によって発症する白血病のリスクを考えるためには2番染色体の欠損以外に放射線が自然突然変異率への影響を考慮する必要がある。自然突然変異は細胞が分裂する際に低確率で生じるものであるため、造血幹細胞を頂点とした各造血細胞の動態、および放射線の影響によってその動態がどのように変化するかを考慮することが重要である。本研究ではC3H/HeNマウスを用いた放射線照射実験より得られた造血幹細胞そして前駆細胞の分化、分裂のパラメータを元に、造血組織の各種動態を数理モデルで表し、各細胞数の時間的変化、およびその分裂回数をシミュレーションによる計算で求めた。また、Sfpi1遺伝子の自然突然変異確率に着目し、シミュレーションで得られた結果をもとに放射線によるマウスAML発症リスクを計算し、実験データと比較したので報告する。
D: 低線量・低線量率
  • 高井 大策, 外舘 暁子, 一戸 一晃, 田中 公夫, 小木曽 洋一
    セッションID: PD-1
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    我々は以前、低線量率(20 mGy/22h/day)γ線を集積線量8 Gyまで連続照射したB6C3F1マウスでは寿命が短縮すること、この寿命短縮の原因として早期の腫瘍死が考えられることを報告した。早期腫瘍死を引き起こす低線量率γ線長期連続照射の影響を明らかにするために、B6C3F1マウスに発生した腫瘍由来の培養細胞を同系メスマウスの背部皮下に移植し、その生着及び皮下腫瘤形成を低線量率γ線長期連続照射マウスと同日齢非照射コントロールマウスとで比較したところ、照射群のマウスにおいて移植腫瘍の生着率の有意な亢進を観察した。今回、その理由を明らかにするために、照射マウスの腫瘍免疫機能に関わる因子について解析を行った。 腫瘍免疫にケモカインネットワークが関連していることはよく知られている。そこで我々は、ケモカインリガンドとケモカインレセプターの組み合わせに着目し、RT-PCRやELISA法を用いて解析を行ったところ、移植に用いた腫瘍細胞はケモカインリガンドCcl2, Ccl5, Ccl25, Cxcl16, Cx3cl1などを多く発現していることがわかった。これらのケモカインリガンドはそれぞれ、ケモカインレセプターCcr2, Ccr5, Ccr9, Cxcr6, Cx3cr1と結合することが知られていることから、マウスの19種類のケモカインレセプターについて、照射マウスにおける発現の変化をRT-PCRを用いて観察したところ、Ccr5, Ccr9, Cxcr6において顕著な減少が認められた。 移植に用いた腫瘍細胞が発現するケモカインリガンドに対するケモカインレセプターの発現が低線量率γ線を長期連続照射されたマウスにおいて有意に減少していたことから、移植腫瘍生着率の亢進との関連について今後解析を進めていきたいと考えている。本研究は、青森県からの受託事業により得られた成果の一部である。
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