放射線による生物影響を知ることは, 被曝の影響や放射線治療の治療効果を知る上で重要である. 線種やLETが異なると, その損傷・修復過程の違いから, 放射線影響にも違いが出ると考えられる. そこで本研究ではX線と高LET He線(LET = 89 keV⁄μm)を用いて, 生育条件の違いによる生物影響についての検討を行った.
実験には大腸菌野生株(CSH100)及び
recA修復遺伝子欠損株を使用し, 放射線照射後の生存率とともに
lacIの突然変異頻度を測定した. 大腸菌の培養条件により放射線影響に違いがあるかを調べるために, 富栄養培地と最少培地を使用した.
その結果, X線照射前後を共に富栄養培地で培養すると, 最少培地で培養した場合に比べ照射後の生存率が高くなることが明らかになり, 致死効果がX線照射前後の培養条件によって変化することが分かった. X線照射前後の一方のみを富栄養培地にした場合にはX線照射前後共に最少培地で培養を行った場合と変化が無かった. しかしながら,
recA欠損株ではこの培地依存的放射線感受性が見られなかった. このことから, 培地依存的放射線感受性には相同組換え, もしくはSOS応答が関与しているものと考えられた.
一方, He線の照射ではこの培地依存的放射線感受性の変化が見られなかった. またHe線を照射した場合にはX線に比べわずかに突然変異頻度が低下した. 先行研究においては, He線によってもSOS応答が生じることが示されている. これらのことからHe線照射においてはX線照射時と生じるDNA損傷の種類が異なり, 培地依存的放射線感受性や突然変異頻度に違いが生じる可能性が示唆された.
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