日本放射線影響学会大会講演要旨集
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D: 低線量・低線量率
  • 田中 公夫, 香田 淳, 一戸 一晃, 佐藤 健一
    セッションID: PD-2
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    目的:中線量率域での線量率効果についての報告はいくらかあるものの、低線量率放射線長期被ばく時に生じる染色体異常頻度の線量率効果関係は殆どわかっていない。本調査・研究では原子力施設作業者の作業環境レベルより幾分高い低線量率γ線長期照射をマウスに行い、二動原体染色体異常頻度と線量率との関係を調べた。材料と方法:C3Hメスマウスに8週齢(56 日齢)から低線量率[1 mGy/day, 20 mGy/day] を137Cs-γ線を最大617日間連続照射した。線量率の比較を行うために、中線量率(200 mGy/dayと 400 mGy/day)137Cs-γ線をそれぞれ40日間と20日間連続照射し、また高線量率(890 mGy/min)で高線量(3000 mGy)までの照射も行った。脾臓リンパ球の二動原体染色体異常はcentromere FISH法にて観察し、異常頻度と線量及び線量率との関係を調べるために年齢補正を加味した重回帰分析と2群間の差の検定を行った。結果と考察:_丸1_200 mGy/dayと400 mGy/dayの中線量率での異常頻度はほぼ同じであった。またこの中線量率域から低線量率の20 mGy/day,1 mGy/dayと低下するにつれ、染色体異常・線量効果曲線の1次項の値は低下し、異常頻度は有意に低下した。さらに1 mGy/day照射群と非照射群間でも異常頻度に有意な差が観察された。このことから今回観察対象とした低線量率域には正の線量率効果が存在することがわかった。_丸2_異常頻度と加齢との関係は認められなかった。_丸3_高線量率照射と低線量率(20 mGy/day)の値を比較して線量・線量率効果係数(DDREF)を求めると総線量が100 mGyにて4.5となった。なお別実験で得られた転座型異常頻度を指標とすると2.3となった。これらの成果は低線量放射線のリスク評価上重要である。本研究は、青森県からの委託事業により得られた成果の一部である。
  • 香田 淳, 豊川 拓応, 小林 晃徳, 一戸 一晃, 田中 公夫
    セッションID: PD-3
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    低線量率放射線の長期連続被ばくで生じる染色体異常頻度の線量・線量率効果関係を調べる調査・研究は、ヒトを直接に観察対象とする場合には、ヒト集団の被ばく線量が極端に低いことや喫煙などの交絡因子の影響が加わることから大変困難であることが予想される。そこで我々は、3つの異なる低線量率のγ線をマウスに長期間連続照射し、染色体異常頻度と集積線量の関係、ならびに線量率との関係を調べている。 照射には137Cs-γ線線源を用い、C3H雌マウスを8週齢からSPF条件下で照射を開始した。線量率は、20 mGy/22 h/day(910 μGy/h)、1 mGy/22 h/day(45.5 μGy/h)、0.05 mGy/22 h/day(2.27 μGy/h) で最大700日間の照射を行っている。染色体異常は、摘出した脾細胞を46時間培養後、M-FISH法で染色して観察した。 これまでに、低線量率20 mGy/22 h/dayの連続照射による脾細胞の染色体異常頻度と集積線量との関係を調べたところ、転座型異常頻度と二動原体異常頻度ともに集積線量に依存して8000 mGyまで増加することを報告した。今年度までに得られた低線量率1 mGy/22 h/dayにおける染色体異常頻度と集積線量との関係と20倍異なる20 mGy/22 h/dayと1 mGy/22 h/dayこれら2つの低線量率間での線量率効果について報告する。本研究は青森県からの受託事業により得られた成果の一部である。
  • 野村 崇治, 小林 純也
    セッションID: PD-4
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    低線量・低線量率域では、細胞個々の応答に加えて、組織・個体レベルでの応答が重要な役割を果たしていると考えられるため、動物個体レベルの現象を明らかにしその機構を解明していくことが重要である。本研究では、放射線リスクの主要因と考えられている発がんについてモデルマウスを用い、疾患発症の線量・線量率依存性を定量的に示す。
    発がんの疾患モデルマウスは、腸管等の放射線誘発がんの発症が知られているMinマウスとする。照射装置は、線量依存性では放生研のガンマ線照射装置および電中研のX線照射装置を使用し、また線量率依存性では放生研の低線量長期放射線照射装置を用いる。本発表では生じた腫瘍の数を調べ、線量/線量率依存性についての予備的な解析結果を示す。
  • 花元 克巳, 迫田 晃弘, 川辺 睦, 片岡 隆浩, 山岡 聖典
    セッションID: PD-5
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    【目的】焦電性結晶は、真空中で温度変化を与えることにより、高エネルギー電子を放出する。この高エネルギー電子を金属ターゲットに衝突させることにより、X線の発生が可能となる。これを利用すると、高電圧電源が不要で、非常に小型のX線源を作製することができる。この小型のX線源は、空間分解能の高い局所照射が可能で、低線量X線照射等の基礎研究には非常に有用と考えられるが、この線源に関する基礎的な研究についてはほとんど報告がない。本研究では、焦電性結晶により発生した電圧を測定し、焦電性結晶の幾何学的配置から計算できる発生電圧と比較した。
    【方法】焦電性結晶としてLiTaO3(z-cut、10 mm×10 mm×0.5 mmt)を用いた。結晶の+z方向表面から約4.5 mm離れた位置にステンレス電極(30 mmφ、厚さ2 mm)を配置し、電極の中心に1 mmφの孔を開け、結晶に面していない側に厚さ5μmの銅箔を取り付けた。銅箔より約3 mm離れた位置にCdZnTe検出器またはCdTe検出器を設置し、X線の検出を行った。結晶を加熱し、温度を室温から約120℃に温度上昇させるときに放出されるX線を測定した。平均温度変化率は1.5 K/sに固定し、気圧は10から25 Paの間で変化させた。
    【結果と考察】同じ気圧の条件でも、測定結果にばらつきがあるが、気圧が低いほど、放出されるX線のエネルギーと強度が大きくなる傾向が見られた。実験により得られた最大電圧と、焦電性結晶の幾何学的配置から計算できる発生電圧を比較すると、前者は22 kV、後者は21 kVとなり良い一致を示すことがわかった。
    【謝辞】本研究の一部は科研費・挑戦的萌芽研究(22659221)の助成を受けて行われた。
  • 岩井 明乃, 白石 一乗, 児玉 靖司
    セッションID: PD-6
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    [目的]  いくつかの哺乳動物細胞で、0.3Gy未満の低線量域において放射線感受性が高くなることが報告されているが、その機構は明確ではない。そこで本研究は、この低線量域における超感受性誘発機構を明らかにする為に、正常ヒト線維芽細胞を用いて実験を行った。 [材料と方法]  正常ヒト線維芽細胞を用いて、非同調細胞とG1濃縮細胞を調製し、コロニー形成法でX線感受性を調べた。軟X線照射装置を用い、細胞に線量率0.596Gy/minで、0.1~1Gyを照射した。また、G2チェックポイント制御を調べるために、1Gy照射後aphidicolinを加えて2~12時間後におけるmitotic indexを調べた。 [結果と考察]  非同調ヒト線維芽細胞のX線による生存率は、0~0.3Gyでは線量依存的に低下し、0.4Gyで少し回復した後、再び1Gyまで線量依存的に低下する二相性の生存率曲線を示した。このとき0~0.3Gyと0.4~1Gyの生存率曲線の傾きから求めたD0値を比較すると、前者が0.42 Gy、後者が0.57 Gyであり、前者の傾きが急であることが分かった。この結果は線量域0~0.3Gyの感受性が、0.4~1Gyの感受性より高いことを示している。そこで、G1期細胞を70%まで濃縮した細胞集団を用いて生存率を調べたところ、依然として非同調細胞(G1期50%)とよく似た二相性の生存率曲線となり、G1期細胞濃縮による変化は現れなかった。一方、この超感受性にG2期細胞が関与している可能性を検討するために、G2期細胞に1Gy照射後のmitotic indexを経時的に計測した。この結果、1 Gy照射によるG2アレストは、照射6時間後までみられ、8時間後に解除されることが分かった。もし低線量域では1 Gy照射でみられたようなG2アレストが起きないとすると、DNA損傷を持った細胞が分裂期に流入することになり超感受性の原因になる可能性がある。この点について現在解析中である。
  • 上原 芳彦, 中島 徹夫, 王 冰, 根井 充, 一戸 一晃, 中村 慎吾, 田中 聡, 松本 恒弥, 小木曽 洋一, 田中 公夫, 小野 ...
    セッションID: PD-7
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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     これまでに低線量放射線の生物学的影響を探索する目的で、低線量率ガンマ線長期照射によるC57BL/6雄マウスでの遺伝子発現レベルの変化をAffymetrix社Mouse Genome 430 2.0 アレイにより解析した結果、線量率20 mGy/dayで400日間照射終了直後では、6個体全ての肝臓において約20個の遺伝子が1.5倍以上発現変動することを見いだした(Radiat. Res. (2010) 174, p611-7)。そこで今回は、低線量率放射線照射直後に発現が変動している遺伝子のその発現変動が、照射終了後どの程度持続するのかについてRT-PCR法を用いて計時的に調べた。  解析の結果、ほとんどの遺伝子はその発現変動が数時間は持続するものの、長く発現変動が持続する遺伝子でも持続期間は1日程度で、12日後には全ての遺伝子で変動は消失していた。低線量率放射線照射が及ぼす生物学的影響の中には、照射後しばらく時間が経過した後にその変化が現れる場合があるため、照射後ある程度の期間をおいた後に発現が変動する遺伝子が存在する可能性を考え、照射3ヶ月後のマウス肝臓で同様のアレイ解析を行った。その結果、照射3ヶ月後で発現変動する可能性のある数個の遺伝子が見つけることができた。
  • 今村 寛人, 井上 昌尚, 景山 渉, 小松 賢志, 立花 章, 田内 広
    セッションID: PD-8
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    低線量・低線量率放射線影響のリスク評価は、安全かつ有効に放射線を活用する上で非常に重要な問題である。我々は低線量・低線量率放射線の線源としてトリチウム水(HTO)を用い、高感度検出系により、低線量における細胞レベルの突然変異誘発の線量率依存性を調べている。我々が用いている高感度検出系は、hprt遺伝子を欠損したハムスター細胞に正常なヒトX染色体を移入した細胞で、ヒトHPRTの変異を調べる系である。仮にヒトX染色体上に広範囲な欠失が生じても、ハムスター細胞自体の生存には影響せず、突然変異体として検出が可能である。実際、従来の検出系よりも50~100倍高感度であることが確認できている。この高感度検出系細胞にトリチウム水を低線量率で照射し、6-チオグアニン耐性コロニーの出現頻度から突然変異頻度を算出した。これまでに調べた0.09cGy/hまでの線量率では、誘発突然変異頻度に対し、線量率の違いによる有意な変化は確認できなかった。現在、さらに低い線量率での実験を続けている。
  • 松永 愛美, 小林 純也, 立花 章
    セッションID: PD-9
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    細胞に予め低線量放射線を照射すると、その後の高線量放射線に対する細胞死、染色体異常、突然変異の頻度が減少することが知られており、放射線適応応答と呼ばれている。我々は、放射線適応応答にPKCαやp38 MAPKなどの細胞内情報伝達経路が関与していることを明らかにしてきた。マウスm5S細胞を用いた研究により、放射線適応応答が起こるための前照射の線量は、1 – 10 cGyであり、10 cGy以上の前照射では、適応応答は誘導されないことが報告されている。しかし、このときの前照射は比較的高い線量率で行われており、従って前照射に要する時間は1分以内と、極めて短時間で終了している。生物が実際に受ける放射線被曝は、低線量率放射線を長時間にわたって被ばくすることが多いため、低線量率放射線で前照射を行った場合に、適応応答が誘導されるか否か、また誘導される場合にはどの程度の前照射線量により放射線適応応答が誘導されるかを検討した。前照射は、京都大学放射線生物研究センターの137Csを線源とする低線量長期放射線照射装置を用いて、約1 mGy/minの線量率で、種々の線量のγ線をm5S細胞に照射した。低線量率放射線を前照射した5時間後に、γ線5Gyを照射し、微小核形成を指標として、放射線適応応答を解析した。前照射の総線量が約30 -350 mGyの範囲で解析したところ、いずれの線量においても適応応答の誘導が生じていることが確認できた。従って、低線量率で前照射した場合には、高線量率で前照射した場合よりも、高い総線量においても、放射線適応応答が誘導されるということが明らかとなった。現在、より高い前照射線量についても検討を行っているところである。
E: 放射線治療・修飾
  • 曽 子峰, 袁 軍, 高辻 俊宏, 古澤 佳也
    セッションID: PE-1
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    目的】 放射線照射してから18時間後に現れるタマネギ発芽種子の根端細胞に見られる小核の発生頻度は、低線量では線量の増加に伴って増加するが、さらに高線量では減少に転じる。当初、高線量で小核が見られなくなるのは、細胞死によるものだと考えた。しかし、根の伸長の実験では、γ線で160Gyを照射しても、根の伸びは止まることがなかった。その後タ マネギの成長に目立った影響がないことから、小核の減少の主な原因は、細胞死ではなく、照射後の細胞分裂が遅延するのではないかと考えられる。このことを明らかにするため、γ線照射を受けたタマネギの根端細胞における小核発生頻度と細胞分裂の遅延の関係を調べた。 【方法】 長崎大学先導生命先導生命科学研究支援センターアイソトープ実験施設のセシウムを線源としたガンマ線を用いて、タマネギ発芽種子を照射し、小核の発生は時間につれて、どのように変化するのかを観察した。 【結果】 線量の増加に伴って小核が出現するピークが遅くなる。 線量の増加につれてピーク時の小核発生頻度は4Gyまで一旦増加するが、その以降は減少に転じる。 線量の増加につれて細胞分裂指数のピークも遅くなる。
  • 中山 文明, 梅田 禎子, 安田 武嗣, 浅田 眞弘, 鈴木 理, 今村 亨, 今井 高志
    セッションID: PE-2
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    FGF12はFGFファミリーに属する増殖因子の一種であるが、既知のFGFレセプターとは反応せず、細胞外での作用は不明である。一方、我々は、組み換えFGF12が細胞外から細胞内へ移行することを見出し、細胞内移行の役割を担う2つの膜透過ペプチドドメイン(CPP-M、CPP-C)を同定した。さらに、FGF12が細胞内発現で放射線誘導性アポトーシスを抑制するとともに、マウスへの腹腔内投与によって空腸クリプト細胞での放射線誘導性アポトーシス数を抑制することを報告してきた。今回、組み換えFGF12の放射線小腸障害に対する放射線防護効果を検討した。方法は、FGF12をBALB/cマウス腹腔内に照射前あるいは照射後24時間に投与し、γ線10Gy照射後3.5日で空腸クリプト生存数を検討した。その結果、FGF12はヘパリン非存在下にもかかわらず、いずれの投与時期でもクリプト生存数を有意に増加させた。さらに、FGF12はクリプトの長さの延長、BrdUのクリプト細胞への取り込み促進、小腸上皮における腸細胞分化マーカーvillinの陽性率の増加が認められた。よって、FGF12は小腸上皮細胞に対する抗アポトーシス効果だけでなく、上皮細胞の増殖分化作用で放射線障害組織を再生させていることが明らかになった。そこで、このFGF12の作用機序を明らかにするために、放射線防護効果に関するドメインの同定を試みた。方法は、FGF12の配列に基づいた30アミノ酸のペプチドを13種類合成し、ラット小腸細胞株IEC6細胞を用いた放射線誘導性アポトーシスと、マウス空腸クリプト生存数の評価によって、放射線防護効果示すペプチドを選択した。その結果、2つのペプチド配列が見いだされ、驚くべきことに、それぞれのペプチドがCPP-MかCPP-Cを含んでいた。以上の結果より、細胞外FGF12は、小腸上皮細胞を増殖分化させることで、強力な放射線防護効果を発揮し、その作用機構にFGF12の細胞内移行に関するドメインが関与していることが示唆された。
  • 石原 弘, 田中 泉, 薬丸 晴子, 田中 美香, 横地 和子, 明石 真言
    セッションID: PE-3
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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     小腸粘膜は放射線に感受性が高く、10 Gyを超える被ばくにより重篤な障害を受け、被ばく事故の際の致死要因になりうる。また、小腸粘膜障害は腹部への放射線治療の際に問題になることもあるが、確定的な治療方法は確立していない。我々は小腸の放射線障害の治癒に有効な医薬および阻害する医薬のリストを提示するために、小腸に高線量被ばくさせたマウスをモデルとして、種々の既存医薬の効果を比較したので、その結果を報告する。
     C3H/Heマウスの腹部全体に15.7 Gyのエックス線を局所照射し、照射の翌日から栄養液を10日間投与する条件下、50%の個体が小腸障害により衰弱死する。その際、障害を受けた小腸粘膜は照射4日後から再生が始まり、その再生レベルは粘膜内のBrdU陽性マイクロコロニー形成量およびc-myb RNA量に反映する。照射後のマウスにタンパク同化ステロイドを投与することにより小腸粘膜再生を促進すると生存率は上昇し、卵胞ホルモンを投与すると小腸粘膜再生は阻害されて生存率も低下することを、既に我々は報告した(Radiat. Res. 175, 367)。これらの性ホルモン以外の種々の薬物の効果を、照射4および5日後におけるマイクロコロニーとc-myb量および14日後における生存率への影響を比較した。その結果、ヒスタミン、抗甲状腺薬、抗利尿ステロイドに有意な小腸粘膜再生の促進および生存率の増加効果が認められた。逆に、抗ヒスタミン薬や甲状腺ホルモンは生存率を著しく低下させた。
     これらの結果から、放射線障害を受けた小腸粘膜において、タンパク同化ホルモン受容体のみならず、ヒスタミンや抗利尿ステロイドの受容体が増殖を促進して再生に寄与することが示唆された。このことから、放射線による小腸障害の際に使用または回避を推奨できる医薬リストが完成した。また、このモデル系は小腸障害治療のための新規物質や組織移植技術の開発にも利用できることを示している。
  • 端 邦樹, 漆原 あゆみ, 山下 真一, 鹿園 直哉, 横谷 明徳, 室屋 裕佐, 勝村 庸介
    セッションID: PE-4
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    放射線によるDNA損傷の形成は、放射線が直接あるいはOHラジカルを介してDNAに作用することによって生じるDNAラジカルの発生に端を発する。生体内でのOHラジカルの寿命が数ナノ秒であるのに対し(Roots, 1972)、DNAラジカルには数秒というオーダーの寿命を持つものもあることから(Hildebrand, 1997)、抗酸化物質などの化合物がDNAラジカルを後追いで修繕する作用である「化学回復」は化合物の濃度が低い場合にも有効に機能しうる作用であると考えられる。この抗酸化物質による化学回復はこれまでdGMPラジカルの還元反応の測定などから一部の化学者によって推定されており (O'Neill, 1983など)、生体内では重要な放射線防護メカニズムの1つと考えられている。本研究で用いたエダラボンは脳梗塞治療用の薬剤として臨床利用されている抗酸化物質であり、マウスを使ったin vivoの照射実験により放射線防護効果を示すことも実証されている(Anzai, 2004)。我々は、エダラボンの放射線防護効果の起源としてOHラジカル捕捉に加え、DNAラジカルに対する化学回復もあるのではないかと考え、エダラボンの化学回復作用の有無を調べた。
    まず電子線照射により生じたヌクレオチド(dGMP)ラジカルをエダラボンが還元することをパルスラジオリシス法により示した。さらに実際のDNA分子にエダラボンによる化学回復が機能するか否かを調べるため、プラスミドDNA溶液試料に対するガンマ線照射を行った。照射により生じた鎖切断に加えAPサイト及び塩基損傷収率を、塩基除去修復酵素をプローブとして用いることで定量した。その結果、鎖切断に比べてAPサイトや塩基損傷がエダラボン添加により大きく抑制された。この結果は、これらのDNA損傷の前駆体であるDNAラジカルをエダラボンが化学回復すること示唆している。
  • 山下 剛範, 具 然和
    セッションID: PE-5
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    【目的】三重県南部と和歌山県の一部地域でわずかに生産されている柑橘類、春光柑に着目し、その放射線防護効果および免疫増強効果の有無について検討することを目的とした。【方法】ICRマウス雄6週齢を用い、22±3℃、湿度60%の状況下で、飼料及び水は自由摂取とした。1週間の予備飼育後、2週間以上春光柑エキスを経口投与し、マウス血球測定を経時的に行い、春光柑エキスの放射線防護効果および免疫増強効果について検討した。照射群には2Gy全身照射した。対象群に対して5%以下の危険率で有意になった場合を有効とした。【結果】LeucocytesおよびLymphocyteについて、2Gy照射群に対して春光柑+2Gy群に、照射12時間後に減少抑制が認められた(p<0.05)。照射15日後より有意な回復が認められた(p<0.05)。SOD活性は、Control群に対して春光柑群に有意な増加が認められた(p<0.05)。【まとめ】2Gy照射群に対して春光柑+2Gy群に、放射線防護効果がみられた。そのメカニズムは、SOD活性の有意な増加より、春光柑の抗酸化効果が関与していることが示唆された。
  • 吉川 正信, Cotrium Ana, Mitchell James, Baum Bruce
    セッションID: PE-6
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    [背景]頭頸部癌に対する放射線治療の主な有害作用に口腔粘膜炎と唾液腺機能障害がある。口腔粘膜炎並びに唾液腺機能障害を防護する有用な薬が現在ないため、放射線治療の用量を制限する主な有害作用となっている。[目的]放射線照射で生じる口腔粘膜炎に対するD-メチオニンの防護効果を明らかにすることを目的とした。[方法] 9週齢C3H系雌性マウスにD-あるいはL-メチオニンを経口投与し、15分後に無麻酔下でX線8Gy(1.9Gy/min)を5日間照射、あるいはX線22.5Gyを単回照射した。舌を摘出し1% Toluidine Blue液により潰瘍部位を染色した。実体顕微鏡下で舌全体像を撮影し潰瘍の面積を画像解析ソフトImage Jにより測定した。また摘出した舌をホルマリン固定後、HE染色標本を作製し顕微鏡下で潰瘍を組織学的に評価した。 [結果] D-メチオニン投与群においてのみ有意に舌粘膜障害(潰瘍)を抑制した(立体配置特異的作用)。マウスにD-メチオニン(10, 30, 100, 150 mg/kg)を経口投与し、15分後に頭頸部にX線8Gyを5日間照射した(Total 40Gy)。その結果100, 150 mg/kg投与群で有意に舌粘膜障害(潰瘍)を抑制した(用量依存的作用)。X線8Gyを5日間照射した群において舌粘膜障害(潰瘍)を抑制したが、X線22.5Gyを単回照射した群では抑制効果は観察されなかった(放射線照射用量による影響)。[考察] D-メチオニンはL-メチオニンに比べて生物学的半減期が長くクリアランス値が小さいことが知られている。このような薬物動態パラメータの違いにより放射線照射で生じる口腔粘膜炎に対するメチオニンの防護効果が立体配置特異的に現れると考える。
  • 浅田 眞弘, 後藤 恵美, 隠岐 潤子, 本田 絵美, 鈴木 理, 中山 文明, 本村 香織, 萩原 亜紀子, 明石 真言, 今村 亨
    セッションID: PE-7
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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     我々は、高線量放射線被ばくによる障害の予防・治療に向けた細胞増殖因子の利用を目指してきた。近年、このような放射線障害の予防・治療薬の必要性が広く認識されていることから、今回の発表では、これまでの研究成果を総括するとともに、今後の実用化に向けた課題を議論したい。

     我々はマウス個体におけるX線被ばくによる放射線障害を、小腸上皮細胞の残存クリプト数や骨髄造血細胞の免疫組織学的解析で評価した。放射線障害防護作用が期待される繊維芽細胞増殖因子(fibroblast growth factor (FGF))群のなかでFGF1、FGF7、FGF10について、それぞれを前投与したマウスでの放射線防護活性を解析した。その結果、FGF1に最も効果が認められ、これを前投与することにより、照射後の空腸の生存クリプト数が有意に増大すること、大腿骨由来の骨髄細胞でアポトーシスマーカーであるcleaved caspase-3やリン酸化H2AXのシグナルが抑えられることを確認した。しかしFGF1は構造的に不安定性で、生理活性の発現にはヘパリンの添加を必要とするなど実用上の課題も多い。一方FGF1/FGF2キメラの至適化分子FGFCを創製したところ、FGF1と類似の生物特性を持つだけでなく、構造的にFGF1よりも安定であることが判明した。このFGFCの放射線障害防護効果を、上記と同様に全身放射線被ばく後の腸管上皮細胞や骨髄造血細胞で評価したところ、FGF1よりも効果的に放射線障害を防護することを確認した。さらに、FGFCは放射線照射後の投与によっても、障害防護効果が認められた。また、FGFCの前投与によって、放射線被ばくしたマウスの生存率が向上することも確認された。

     これらの結果から、放射線被ばくによる生体障害に対する、細胞増殖因子を用いた予防・治療の有効性が示されたと考えている。今後はヒトへの適用を具体化するための課題を解決し、医薬品としての開発につながることを期待している。
  • 寺島 真悟, 細川 洋一郎, 柏倉 幾郎
    セッションID: PE-8
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    アスコルビン酸(AsA)によるがん治療は、副作用の少ない治療法として期待され、単独もしくは化学療法と併用して用いられるが、放射線との併用療法についてはほとんど検討されていない。このAsAの抗がん作用機序については、H 2O2を除去する細胞内カタラーゼが少ない腫瘍細胞ほどAsAに対して感受性を示すことから、H 2O2由来の活性酸素種(ROS)の発生が関与すると考えられている。一方、X線照射による細胞死の多くは、細胞内に生成した活性酸素種に依存することが知られている。そこで本研究では、ヒト前骨髄性由来白血病細胞株であるHL60を用いて、AsAと放射線の併用による細胞障害作用機序について、ROS発生の観点から検討を行った。
    【方法】
    HL60は、10%牛胎児血清含有RPMI1640で培養し、0.01 mM~2.5 mMのAsAを添加し24時間後の生細胞数を計数した。次に、HL60にカタラーゼを1300 U/mLの濃度で添加し、6時間培養後に1 mM、2.5 mMのAsA添加もしくはX線2 Gy照射、及びその併用で処理し、24時間後に生細胞数を計数した。細胞内ROSの動態は、ROS感受性色素CM-H 2DCFDAを用い、フローサイトメーターで測定した。
    【結果と考察】
    AsA単独処理では、1 mM程度から濃度依存性の細胞致死効果が観察された。さらに、AsA投与後にX線照射を行うと、X線との相加的な細胞致死効果が示された。このとき、AsA単独処理にカタラーゼを添加すると、AsAの細胞致死作用は消失し、さらにAsAとX線併用ではX線単独と同程度に低下した。細胞内のROSの生成は、X線照射では12時間後にピークに達したが、AsA添加では減少した。カタラーゼの影響、ROSの動態の違いから、H 2O2によるヒドロキシラジカルの作用経路がAsAとX線では異なることが示唆された。
  • 五十嵐 翔祐, 大貫 敏彦, 坂本 文徳
    セッションID: PE-9
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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     我々はcisplatinを結合させたDNAに放射線を与えた時の、塩基レベルでの切断位置に特異性があることを発見した。ガン治療において、cisplatinを与えた患者に放射線を当てると、相乗効果により抗ガン効果が高まることが知られている。しかしながら、その原因は塩基レベルで解明されていなかった。本研究では、cisplatinを結合させたDNAにX線を照射し、サンガー法を用いた切断位置特定法により、DNAの塩基レベルでの切断位置を特定し、抗ガン効果の向上の原因を塩基レベルで解明を目指した。  DNAにX線を100Gy照射したところ、切断が確認できた。しかしこの切断には塩基特異性がみられなかった。cisplatinを結合させてX線を照射しないDNAでは、塩基レベルでの切断は起きていなかった。一方、cisplatinを結合させたDNAに100GyのX線を照射した場合、X線を照射した場合の切断位置に加え、新たな位置での切断を確認した。その切断位置は、DNAのアデニンとグアニンの位置に一致した。さらに、DNAのすべてのアデニンとグアニンの位置で切断が起きているわけではなかった。また、cisplatinを結合させたDNAへのX線照射量を150Gyに増加させても、切断位置がほぼ同じであることを確認した。  これらのことから、cisplatinの存在によりX線による塩基レベルでの新たな切断が生じること、及び切断位置がcisplatinが結合している位置に特異的であることが明らかとなった。Zheng(2008)は、cisplatinの白金原子に放射線が当たった時に発生する二次電子がDNAに損傷を与えるために、DNAの損傷が増加することを示唆している。我々の結果は、白金原子で発生した二次電子がcisplatinの結合したアデニンとグアニンに作用して切断する可能性を示している。
  • 和田 成一, 中尾 秀仁, 外山 康二, 柿崎 竹彦, 伊藤 伸彦
    セッションID: PE-10
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    NKG2Dリガンド(Rae1)の発現は細胞膜のスフィンゴミエリンに富むラフト領域において認められる。NK細胞はNKG2D受容体が、NKG2Dリガンドと結合することで活性化される。しかし、腫瘍では、NKG2Dリガンドを分泌することでNK細胞の認識を逃れると考えられ、このNKG2Dリガンドの分泌には細胞外基質の蛋白分解酵素であるMMPsの関与が考えられている。一方で、腫瘍細胞では、X線照射によってNKG2Dリガンド発現が亢進すると考えられているが、その発現メカニズムの詳細は明らかにされていない。そこで、本研究では、X線照射によるNKG2Dリガンドの発現機構、その分泌メカニズムに着目し、X線照射による細胞膜応答の関与を解析した。 X線照射後1時間で細胞膜のRae1蛋白量は増加し、SMase阻害剤処置により、その増加は抑制された。この結果から、X線照射後、早期にRae1は細胞膜で保持され、このRae1の保持にはSMaseが関与すると考えられた。SMaseは細胞膜上のラフトと相互作用するため、ラフト領域を調べた時、X線照射後1時間ではRae1蛋白量は非照射と比較して変化がなく、SMase阻害剤処置によっても非照射と同程度であった。この結果からRae1はX線照射により細胞膜のラフト領域外で保持されることが示唆された。そこで、SMaseとラフトに多く含まれるカベオリンを免疫染色で観察した時、照射後30分では、SMaseが凝集するところにカベオリンの存在が豊富な領域と微少な領域が観察された。この結果からRae1はラフト近傍もしくは微小なラフト領域で保持されると考えられた。次に、Rae1の分解に関与するMMP14について、X線照射によるMMP14の変化をウエスタンブロット法により調べた時、細胞内ではMMP14の減少が、エキソソーム内では活性型MMP14の存在が観察され、これらはSMase阻害剤処置により抑制された。このことから、X線照射によるエキソソームの放出にSMaseが関与し、活性型MMP14はエキソソームとして細胞外に放出されるため、細胞膜上でRae1リガンドとの相互作用が減少し、Rae1が保持されると考えられた。
  • 酒井 真理, 鹿園 直哉, 粟津 邦夫
    セッションID: PE-11
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    放射線による生物影響を知ることは, 被曝の影響や放射線治療の治療効果を知る上で重要である. 線種やLETが異なると, その損傷・修復過程の違いから, 放射線影響にも違いが出ると考えられる. そこで本研究ではX線と高LET He線(LET = 89 keV⁄μm)を用いて, 生育条件の違いによる生物影響についての検討を行った.
    実験には大腸菌野生株(CSH100)及びrecA修復遺伝子欠損株を使用し, 放射線照射後の生存率とともにlacIの突然変異頻度を測定した. 大腸菌の培養条件により放射線影響に違いがあるかを調べるために, 富栄養培地と最少培地を使用した.
    その結果, X線照射前後を共に富栄養培地で培養すると, 最少培地で培養した場合に比べ照射後の生存率が高くなることが明らかになり, 致死効果がX線照射前後の培養条件によって変化することが分かった. X線照射前後の一方のみを富栄養培地にした場合にはX線照射前後共に最少培地で培養を行った場合と変化が無かった. しかしながら, recA欠損株ではこの培地依存的放射線感受性が見られなかった. このことから, 培地依存的放射線感受性には相同組換え, もしくはSOS応答が関与しているものと考えられた.
    一方, He線の照射ではこの培地依存的放射線感受性の変化が見られなかった. またHe線を照射した場合にはX線に比べわずかに突然変異頻度が低下した. 先行研究においては, He線によってもSOS応答が生じることが示されている. これらのことからHe線照射においてはX線照射時と生じるDNA損傷の種類が異なり, 培地依存的放射線感受性や突然変異頻度に違いが生じる可能性が示唆された.
  • 幸田 華奈, 松本 孔貴, 平山 亮一, 鵜澤 玲子, 福田 茂一, 古澤 佳也
    セッションID: PE-12
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    【背景と目的】現在、放医研では体表から病巣までの深さに応じて、290、350、及び400 MeV/uの加速エネルギーの違うビームを使い分けて重粒子線治療が行なわれている。しかし加速エネルギー違いによる生物学的効果の違いはよくわかっていない。加速エネルギーの違いによって生じる効果の違いを評価するために、本実験では異なる2種のエネルギーで加速した炭素イオン線の生物効果を細胞致死の点から評価した。 【材料と方法】まず物理線量測定を行い、次に生物実験を行なった。細胞は粒子線効果比較に多く用いられているヒト唾液腺腫瘍由来HSG細胞を用いた。炭素イオン線は290 MeV/uおよび400 MeV/uに加速されたビームを用い、6 cmに拡大したブラッグピーク(SOBP)の中心および中心から±25 mm、+28mmの計4点で照射を行った。生物学的効果比(RBE)算出の際の参照放射線として、X線を用いた(200 kVp, 20 mA)。細胞生存率はコロニー形成法を用いて求め、Linear-Quadratic modeを用いてフィッティングを行い、D10を求めRBEを算出した。 【結果と考察】290 MeV/uの治療ビームは、SOBP内で深さに依存して物理線量分布の減少が急激であり、RBEは急激に上昇した。一方400 MeV/uの治療ビームでは物理線量分布の減少は緩やかであり、RBEの上昇も緩やかであった。結果的に、290 MeV/uも400 MeV/uの炭素線も、細胞致死を指標としたSOBP内の生物線量分布の平坦度は良好であり、生物学的効果線量も大きな違いはなかった。 【結論】 加速エネルギーの違いによる生物効果の違いはみられなかったので、加速エネルギーの異なる炭素イオン線でも同じ治療計画が利用できることが示唆された。
F: 被ばく影響・疫学
  • 齋藤 茂芳, 澤田 和彦, 村瀬 研也, 佐賀 恒夫, 青木 伊知男
    セッションID: PF-1
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    【背景】
    胎生期の高線量放射線曝露は、中枢神経の発達に障害を与えることが知られている。特に記憶、空間学習能力を司る海馬への障害は生後の生体活動への大きな妨げになる。動物実験等において利用されるマンガン造影MRIは、海馬によく集積し、その組織構築(層構造)を明瞭に描出することができる。本研究では、妊娠時に於ける親ラットの放射線全身曝露が、仔ラットの海馬に与える影響についてマンガン造影MRIおよびHE染色、各種免疫組織染色を用いて調べた。
    【方法】
    本実験は放射線医学総合研究所実験動物倫理委員会の承認を受けた。妊娠15日のSDラット–に0.5Gy(3匹)、1.5Gy(3匹)のX線を単回、全身照射した。対象群には無処置の動物を用いた。各群の母獣から生まれた雄仔5匹ずつを無作為に選び、4週齢においてマンガン造影MRIを用いて海馬の形態と体積の変化をIn-vivoで評価した。MRI撮像は、7.0T 水平型高磁場装置を使用し、撮影後のすべての個体に対し脳組織切片を作製し、HE染色および免疫組織染色(GFAP、IBA1、NCAM)を行った。海馬の各領域(CA1、CA2、CA3、DG)について病理組織所見とMRI画像を比較した。
    【結果、考察】
    放射線誘発脳障害ラットにおいて、全脳の体積が正常ラットに比べ有意に低下し、その変化はX線の線量に依存していた。海馬においても、X線の線量に依存した萎縮がみられ、1.5Gy照射群では海馬の委縮に伴い、側脳室内腔の相対的な増加がみられた。マンガン造影MRIでは、対照群では海馬のDG顆粒細胞層、CA2およびCA3の錐体細胞層が強い信号をCA1錐体細胞層が中程度の信号を示し、各領域において層構造が描出された。1.5Gy照射群では、DG、CA2、CA3領域の信号は保持されていたが、CA1領域では脳梁下に出現した異所性神経細胞塊の浸潤がみられ、この領域でみられるMRI信号が消失していた。HE染色より、X線照射群では、海馬各領域の神経細胞の乱れが観察され、CA1領域においては異所性細胞塊の浸潤による錐体細胞層の形成異常が認められた。NCAM染色ではCA3で苔状線維の異所性分布が観察された。一方、GFAP、IBA1染色では対照群とX線照射群とで染色像に差はみられず、グリア系細胞の発現・分布の異常は観察されなかった。以上の結果から、海馬においてマンガン造影MRIは、DG顆粒細胞層、CA錐体細胞層を描出し、胎生期X線照射による異所性細胞塊の出現とこれに伴うCA1領域の組織構築異常を検出した。この様にマンガン造影MRIはラットにおける海馬の形態異常の生体内評価において有用であると考えられた。
  • 七條 和子, 高辻 俊宏, 福本 学, 松山 睦美, 関根 一郎, 中島 正洋
    セッションID: PF-2
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    目的:長崎原爆被爆者の体内残留放射能を検出し、放射線が人体に及ぼす内部被曝の影響を病理学的に検討する。その一環として、オートラジオグラフィー法によりアルファ粒子飛跡を確認し内部被曝の検出法を確立した。一方、我々は放射線発がんについてゲノム不安定性に関わる分子病理学的側面から、原爆被爆症例ではがん抑制遺伝子p53関連蛋白でDNA二重鎖切断部位に集積して核内フォーカスを形成する53BP1が高発現していることを報告した。また、1)肝臓内トロトラスト沈着内部被曝による53BP1の高発現、2)原爆急性被爆者で、近距離被爆者の肝53BP1の高発現も認めている。さて、放射線による細胞死については典型的なアポトーシスがあるが、肝臓、腎臓、肺では一般的に感受性は低いと考えられている。近年、カスパーセに依存しない細胞死の一群があることが明らかになり、細胞質中にオートファージ様の現象が見られることから、分解系であるオートファージが細胞死にも関与している可能性が考えられている。今回、放射線障害とオートファージについて、さらに、放射線によるゲノム不安定性について検討した。 試料と方法:1)4および8週齢ラットにX線を8Gy全身照射し3,6,24時間後に肝臓、腎臓、肺、2)内部被爆例としてトロトラスト症肝、について、53BP1、オートファゴゾーム膜に局在するLC3の蛍光免疫法,電顕を施行した。結果:1)特に、ラット肝について53BP1フォーカス形成の増加が認められ、LC3発現、電顕によるオートファージ像が確認された。2)トロトラスト症肝標本では特にトロトラスト顆粒周辺の細胞に53BP1のフォーカス形成が認められ、LC3の発現も観察された。以上から、放射線障害にオートファージ機構が関与すると考えられた。
  • 丸山 耕一, 石川 裕二, 高浜 洋介, 王 冰
    セッションID: PF-3
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    メダカは放射線影響研究において、古くから詳細に研究が行われてきた動物種であり、これまでに多くの知見が蓄積している。また、近年メダカを取り巻く研究基盤は急速に発展しており、ゲノム解読、トランスジェニック作出、TILLING法によるノックアウトなどの技術が利用可能である。胸腺は放射線照射によって最も影響の出やすい臓器の一つであるが、これはメダカでも共通である。近年、徳島大学高浜研究室により開発された胸腺で特異的にGFPを発現するメダカ系統cab-Tg(rag1-egfp)は、蛍光顕微鏡下において、生きたまま胸腺の形、大きさを観察することが可能である(Li J. et al., Journal of Immunology, 2007)。このメダカに放射線を照射後、蛍光顕微鏡下で観察を継時的に行い、画像解析から放射線障害の定量化を行った。cab-Tg(rag1-egfp)にX線10Gyを照射すると、次の日には胸腺の萎縮が確認され、3日目に体積が最小になった後、11日目には胸腺の大きさはほぼ回復した。X線30Gy照射では、2日目に胸腺が一度ほぼ消失し、22日後には再び回復するのが観察された。また、X線1Gy照射では非照射群と比べ、胸腺に変化は見られなかった。ハイマック(Fe)照射(10, 5, 2Gy)でも同様の実験を行ったところ、X線照射と比べおおよそ3倍の影響が起こることが確認された。このメダカ系統は一個体中の放射線障害-回復を生きたまま殺さずに追って行く事が可能な系であり、放射線影響研究を解析していく上での優れた系になりうる。
  • 石川 純也, 吉野 浩教, 門前 暁, 柏倉 幾郎
    セッションID: PF-4
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 個体への高線量放射線ばく露では、造血組織、腸管粘膜や皮膚など生体幹細胞による再生能の高い組織の障害軽減や再生を目的とした治療が最優先課題となる。数十人から数百人規模の患者が発生した場合、迅速な対応という点から造血幹細胞移植は不適当であり、初期治療では薬物療法が最も迅速に対応できる。しかし、過去の事故例で効果的であった増殖因子の多くは国内で保険適用医薬品でなく、緊急時の対応に必須な初動対応性や常備性などの点から課題が残る。従って国内在庫が豊富な保険適用医薬品により放射線障害軽減や再生効果を得ることができれば、こうした問題は克服される。本研究では、現在臨床応用されている保険適用医薬品の効果的な組合せにより、放射線ばく露個体の治療、特に消化管と造血機能に対する最適な治療方法開発をマウスモデルで検討した。
    【方法】 生後8週間のメスのC57BL/6J Jclマウスに137Cs γ線6∼10Gy全身照射後、被験薬を単回もしくは3∼5日間連続投与した。被験薬にはエリスロポエチン(EPO)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、血小板減少症治療薬(c-mpl作動薬)であるNplate、蛋白同化ステロイド(ND)の 3種及び4種混合カクテルを用いた。経時的生存率の観察と、30日生存マウスの体重変化、末梢血球数、骨髄細胞数、骨髄中の前駆細胞数及び各種発現抗原を解析した。
    【結果・考察】 7Gy照射のマウスは約10%が27日間生存後、30日目には全て死亡した。EPO+G-CSF+NDもしくはEPO+G-CSF+ND+Nplateを5日間投与あるいは3日間投与した場合、30日目で30∼40%のマウスが生存した。しかし、これら照射群において末梢血球数、骨髄細胞数、前駆細胞数はコントロールとの間に有意差は認められなかった。これら結果より、保険適用医薬品の組合せにより高線量放射線ばく露個体救命の可能性が示唆された。
  • 吉本 泰彦
    セッションID: PF-5
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】福島第一原発事故で最も懸念される甲状腺がんリスクの増加に関する公開情報の集約。【資料】主にWeb上で公開されたV.I.C.大気拡散シミュレーション、経済産業省・文部科学省・福島県及び電気事業者のモニタリングデータ、国勢調査データ、及び人口動態データ。【方法】放射性雲の挙動把握。事故時の福島県人口の概算及び福島県と周辺の過去のがん死亡率の標準化死亡比の例示。【結果】政府の推定で少なくとも放出量131I130~160 PBq (P=1015) を伴う同時的複数の商業用原子炉事故。3月11日地震発生後から約6時間後に最初の避難指示。翌12日から放射性物質の放出。原発立地と風向きの好条件によって放射性雲が基本的に海側へ流された日もあった。恐らく15,16日に多量の放射性物質が沈着した地域では17日以降日平均空間線量率は基本的に減少。福島県内では奥羽山脈によって中通りと浜通りに比べ、会津地方は放射性雲が届き難かった。主に空間線量率に裏付けされて福島第一から北西方向で甲状腺がんリスクの増加が懸念されてきた。他方、福島県内の特に17日以前の131I 大気濃度や降下物量のデータは断片的で、また宮城県に関しては航空データのみ。福島第一施設内の131I 大気濃度の最初の記録は3月19日で5940 Bq/m3 。3月20日に西北西方向の葛尾村、浪江町、川俣町、翌21日には南方向の広野町で1000 Bq/m3 を超えた131I 大気濃度を一時記録。事故時福島県約203万人、そして避難・屋内退避・計画的避難地区約14万6千人の其々約20%が20歳未満。退避・摂取制限等の防護措置によって非致死性の甲状腺がんリスク増加を防げたとの確証には福島県地域がん登録等の偏りのないリスク評価が欠かせない。
  • 辻 さつき, 神田 玲子, 米原 英典
    セッションID: PF-6
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    福島原発事故前の日本人のリスク観、特に原子力や放射線に関する認識を、2006年-2007年に複数種行った認知調査から分析した。(1)全国成人男女対象の訪問面接調査:有効回答は男性610名、女性747名で、性別、年齢、子供の有無や年齢、職業、学歴、居住地等の質問も行い、属性別群ごとの集計を行った。(2)全国成人男女対象のWEB調査:科学技術や社会活動に関するリスク30項目を危ないと思う順にランキングしてもらう調査で、638人からの回答を得た。(3)看護師(女性)170名対象の用紙記入形式調査:科学的知見や子供の有無による放射線リスク認知の差異を分析した。 (1)の調査では、「地球温暖化」「大気汚染」「オゾン層破壊」に不安を感じるといった回答が多く、「自然放射線」「人工放射線」を不安と感じるという回答は10%に満たなかった。「原子力テロ・核兵器」「放射性廃棄物」「原子力施設」に恐怖感を抱く人が多い一方、放射線の「線量」に関する知識が不十分、あるいは「健康障害」のイメージが漠然としている人が多数存在する実態が明らかになった。属性別では、40-50代、こどものいる女性、高学歴者、学生、関東・近畿在住者などが、比較的放射線に関心の高い層である。(2)の調査では、公衆のリスク認知が性別、年齢、職業によらず似ており、「ピストル」「原子力」「喫煙」が大変危険と判断されていることが示された。過去に行った同様の調査結果と比較すると、過去25年間に、リスク認知の属性による差異が小さくなる傾向が見られた。(3)の調査からは、看護師は、放射線の量と健康影響といった科学的知見を分析し、受容できるものとできないものを理性的に区別した上で、こどものいる看護師は食品照射を、いない女性は放射線による不妊を心配していることが明らかになった。 今後、東電福島第一原発事故により生じたであろう日本人のリスク観の変化について検証する。
G: 非電離放射線
  • 西浦 英樹, 熊谷 純, 菓子野 元郎, 田野 恵三, 渡邉 正己
    セッションID: PG-1
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    皮膚における紫外線や酸化ストレス応答の1つとしてメラノサイトにおけるメラノジェネシスが知られており、このメラノジェネシスの亢進反応は、ケラチノサイトから放出されるエンドセリンやα-MSHなどのサイトカインがメラノサイトを刺激することが関与していると報告されている。しかし、紫外線照射や酸化ストレスによってメラノサイトで誘導されるメラノジェネシスが、紫外線未照射のメラノサイトでも同様の反応が起こる「バイスタンダー効果」についての報告は未だなされていない。そこで、B16マウスメラノーマ細胞を用いて紫外線(UVA, UVB)照射によるバイスタンダー効果について調べた。
    UVA照射後24時間培養したB16メラノーマ細胞の培地を非照射細胞(バイスタンダー細胞)にトランスファーすることでメラノジェネシスを指標としたバイスタンダー効果を確認した。バイスタンダー細胞における作用メカニズムを検証した結果、ミトコンドリア膜電位の低下、細胞内酸化度上昇、メラニンラジカル及び長寿命ラジカルの発生を確認した。さらにバイスタンダー因子について検討した結果、メディウムトランスファー時にEGTA処理を行うことで、メラノジェネシスの抑制を確認し、ミトコンドリア膜電位、細胞内酸化度上昇もコントロールレベルまで回復することを明らかにした。これらの結果から、B16マウスメラノーマ細胞におけるメラノジェネシスを指標としたUVA照射バイスタンダー効果は、バイスタンダー因子としてカルシウムイオンを介し、ミトコンドリアに作用して細胞内の酸化度上昇を伴って誘導されることを明らかにした。
  • 藤井 紀子, 安岐 健三, 森 雄平, 山中 奈津子, 藤井 智彦
    セッションID: PG-2
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    【目的】蛋白質はL-α-アミノ酸で構成されているが、加齢や、紫外線、放射線照射によりアスパラギン酸(Asp)残基が部位特異的にD-β-体へと異性化し、これが白内障やアルツハイマー病の発症と関連することが示唆されている。一方、これらの疾患部位ではAGE化(advanced glycation end products;蛋白質中のアミノ酸残基に糖鎖が非酵素的に付加し生成される化合物郡)も報告されている。しかし、D- β -AspとAGE化が同一の蛋白質で生じているかどうかは不明であった。そこで本研究では、紫外線照射後の皮膚組織においてD-β-Asp化している蛋白質とAGE化の一つであるリジン残基のカルボキシメチル化(CML)との局在の共通性を調べ、その蛋白質を同定することを試みた。
    【方法】UVB照射(200 mJ/cm2)72時間後のマウスの皮膚ならびに非曝露部位の皮膚組織に対して抗D-β-Asp抗体と抗CML抗体を用いて免疫組織染色を行った。次いで、両抗体に対して陽性反応の見られたマウス皮膚組織から蛋白質を抽出し、二次元電気泳動、Westernblotを行い、両抗体に陽性のスポットをゲル内酵素消化し、質量分析によりこれら蛋白質の同定を行った。
    【結果と考察】UVB照射したマウスの表皮ではD-β-Asp化とAGE化が共に同一蛋白質で生じており、これらの蛋白質はkeratin-1, keratin-6B, keratin-10, keratin-14であることが判明した。また真皮ではUVB照射、未照射ともにコラーゲンの特定部位にD-β-Asp化のみが生じ、AGE化は生じていないことが明らかとなった。これらの結果より、表皮では紫外線照射後短期間でD-β-Asp化とAGE化が生じるが、真皮コラーゲン中では別の原因でD-β-Asp化が生じていると考えられた。
  • 林 幸子, 畑下 昌範
    セッションID: PG-3
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】NF-κB阻害剤Parthenolide (PTL)は有意な温熱増感効果を示した。Step-up hyperthermia (SUH)は最初の一次加温により温熱耐性を誘導し次の二次加温で温熱抵抗性を示す。SUHに先駆けてPTLを処理した温熱感受性の修飾をヒト前立腺癌アンドロゲン非依存性細胞株PC3及びDU145を用いて検討した。更にアポトーシス誘導及びG2/M cell-cycle arrestと転写因子NF-κB上流のMAPK cascadeにおけるERK1/2, p38, SAPK/JNK signalingとの関連を解析した。 【方法】細胞はヒト前立腺癌アンドロゲン非依存性細胞株PC3及びDU145を用いた。PTLはMediumに溶かし2.0µM濃度で6時間処理した。加温は設定温度±0.05ºCの恒温槽に細胞を播種したフラスコのキャップを閉めて浸漬し処理した。アポトーシス誘導動態及び細胞周期画分はFlow Cytometryにより評価した。MAPKファミリーであるERK1/2、p38、SAPK/JNK signalの活性はWestern Blotting法を用いて解析した。 【結果】PC3及びDU145において41.0ºC 或いは42.0ºCでの単独加温による感受性は低レベルであったがPTLの併用により有意な増感効果を示した。更にSUH (42ºC for 30 minutes, 43.0ºC or 43.5ºC for various periods)に先駆けてPTLを併用すると有意な温熱増感効果を示した。44.0ºCにPTLを併用した細胞周期画分はG2/M及びアポトーシス誘導を示すsub-G1 phaseが有意に増加した。また同処理によりMAPK cascadeにおけるERK1/2, p38, and SAPK/JNK signaling活性及びそれらのリン酸化活性は両細胞において若干異なるProfileを示した。 【結語】温熱耐性誘導や温熱抵抗性を示す加温法Step-up HyperthermiaにおいてPTLを併用処理した細胞の致死感受性の増強効果はMAPK cascadeを介したアポトーシス誘導及びG2/M cell-cycle arrestの増加と関連があることが示唆された。これらの結果からPTLは集学的癌治療におけるヒト前立腺癌に対する増感剤の候補の一つであることが示唆された。
  • 趙 慶利, 藤原 美定, 近藤 隆
    セッションID: PG-4
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    目的:これまで我々は,ニトロキシドTEMPOと温熱の併用はアポトーシスおよびオートファジー様細胞死を誘発することを報告してきた(Zhao et al., Apoptosis 15: 1270, 2010)。今回我々は,HeLa細胞においてMitoTEMPOを使って,温熱と併用によるアポトーシスおよびオートファジー様細胞死の機構を明らかにすることを目的とする。 結果:(1)5 mM TEMPOと温熱44℃/30 min処理ではHeLa細胞にアポトーシスを誘導した。一方,5 mM TEMPOと温熱44℃/60 min処理ではオートファジー様細胞死を誘導することを発見した。このオートファジー様細胞死を誘導する併用条件では,カスパーゼ3のプロセシングが抑制され,カスパーゼ依存的細胞死を抑制する代わりにオートファジーを誘導していることが明らかとなった。 (2)TEMPOによる温熱誘発細胞死の増感はMitoTEMPO併用においても観察され,0.1-0.5 mM濃度のMitoTEMPO と温熱44℃/60 min併用処理においてMitoTEMPOの濃度依存的に細胞死が促進された。 しかしMitoTEMPOと温熱の併用では,TEMPO併用時と比較して,約10倍ものアポトーシスとオートファジー様細胞死を誘導した。以上の結果より,MitoTEMPOはTEMPOよりもさらに効果的な温熱増感剤であると考えられる。
H: 放射線物理・化学
  • 府馬 正一, 川口 勇生, 久保田 善久, 吉田 聡, 川端 善一郎
    セッションID: PH-1
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    環境の放射線防護体系が国際的に整備されつつあるが、課題も残されている。例えば、現在の防護体系は標準動植物のような単一生物種に対する放射線影響を基盤にしているが、より現実的な防護体系構築のためには群集や生態系レベルの放射線影響評価が必要になる。そこで、生産者である鞭毛藻Euglena gracilis、消費者である繊毛虫Tetrahymena thermophila、分解者である細菌Escherichia coliから構成されるモデル実験生態系(マイクロコズム)に対するガンマ線連続照射の影響を調べた。1.1 Gy/dayでは影響が見られなかった。5.1 Gy /dayでは、E. coli の細胞密度が対照よりも低い傾向を示した。9.7と24.7 Gy/dayでは、E. coli.の細胞密度が対照よりも低下した。 一方、E. gracilisとT. thermophilaは死滅したが、T. thermophilaについては、死滅前に細胞密度が低下した後一時的に上昇した。この細胞密度上昇は、生物種間相互作用を介した間接影響と思われる。全ての構成生物種について照射と対照マイクロコズム間の細胞密度の差を包括的に表したマイクロコズム影響指数を用いて線量率-効果関係を決定した。マイクロコズム影響指数が10 %となる10 %影響線量率は3.4 Gy/dayと算出された。同様に、我々が以前このマイクロコズムで得たデータから重金属の10 %影響濃度を算出した。これらの群集レベルの影響データと環境曝露線量率または濃度を比較したところ、放射線、ガドリニウム、ジスプロシウムは水圏微生物群集に影響を与える可能性が低いのに対し、マンガン、ニッケル、銅は影響を与える可能性が示唆された。
  • 久保田 善久, 渡辺 嘉人, 府馬 正一, 吉田 聡
    セッションID: PH-2
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    近年、放射線の環境影響を評価することが国際的に重要課題となっている。環境中の放射線源はα線放出核種を多く含むこと、また環境中の被ばくは放射性物質による長期被ばくがほとんどであることから、放射線の環境影響を正確に評価するためには環境生物における高LET放射線の影響と慢性被ばくの影響を明らかにすることが重要である。本研究では土壌生態系の保全に重要な役割を担っており、寒天培地上での飼育が容易で無性生殖により短期間で対数的に増殖するヤマトヒメミミズ(Enchytraeus japonensis)を環境生物として選択し、多様なα線放出核種の生物影響をγ線と比較するためにLETの異なる重粒子線の照射実験を、また急性と慢性の被ばく影響を比較するためにγ線連続照射装置を使用した長期曝露実験を実施した。γ線或いは重粒子線を照射した後10匹のミミズを100mmペトリディッシュ上に移しオートミールの粉末と水を適宜与えることにより飼育した。長期曝露実験では飼育期間中照射を継続した。照射開始後30日目に個体数を算定した。ガンマ線と比較し、重粒子線は明らかに吸収線量当たりの影響が大きく、またLETに依存する傾向が見られた。C線とNe線との間、Ne線とSi線との間で統計的に有意な差が認められたが、LETの大きなSi線、Ar線、Fe線間では有意な差が認められなかった。増殖を50%抑制する線量は急性照射では22Gyであったが、慢性照射では線量率5Gy/day、総線量150Gyであった。以上の結果より環境生物の放射線影響を評価するためには人の場合と同様に線質の影響及び急性と慢性被ばくの相違を把握する必要性が示された。
  • 渡辺 嘉人, 久保田 善久, 府馬 正一, 吉田  聡
    セッションID: PH-3
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    [目的] 放射性物質の汚染地域に自生する植物は、放出放射線に長期間にわたり連続的に曝露される。こうした放射線暴露に起因した変化を植物においた検出して線量との関係を定量化することができれば、植物自体の放射線影響の評価のみならず、その生育地域の線量の評価にも有用な情報を提供しうる。本研究では日本に広く分布するスギ(Cryptomeria japonica)を対象として、放射線連続照射によって発現が変化する遺伝子を抽出しようと試みた。 [方法] 播種約1月後のスギの幼苗に対して、20-200 mGy/day の線量率で137Csガンマ線を連続照射した。照射開始25日後の植物体の地上部からRNAを抽出し、HiCEP法(高精度遺伝子発現プロフィール解析)およびリアルタイムPCR法を用いて、放射線誘導性・抑制性の転写産物を網羅的にスクリーニングした。 [結果と考察]100mGy/dayでの照射後の植物体のHiCEPによる遺伝子発現解析において、コントロールと比べて3倍以上の発現増加/減少を示す53個の転写産物を分離した。このうち9個(17%)はスギESTデータ中に一致する配列が見出され、32個(60%)は他の針葉樹のESTデータ中に類似する配列が存在した。さらに31個(58%)はホモログと見なされるシロイヌナズナ遺伝子が同定され、機能の推定が可能なものがあった。これらの転写産物の放射線による発現変化について、再現性および線量率依存性をリアルタイムPCRによって解析し、放射線応答性の転写産物の絞り込みを行った。放射線影響評価のためのバイオマーカーとしてのこうした転写産物の利用について、議論を行う予定である。
  • Zhumadilov Kassym, Kazymbet Polat, Ivannikov Alexander, Bakhtin Meirat ...
    セッションID: PH-4
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    人間の歯のエナメル質の電子スピン共鳴(ESR)線量測定の方法はステプノゴルスク市、アクモラ州、カザフスタンのウラン鉱山およびウラン加工工場付近の集落の住民の個々の吸収線量を得るために使用されていました。測定された歯のサンプルは、医学的適応症に応じて抽出した。合計で、33歯のエナメル質試料は、ステプノゴルスク市(アスタナ市から180キロ、カザフスタン)の住民から分析した。ステプノゴルスク市とウランの企業の労働者に滞在し、住民の線量評価の一部の結果が含まれていた。約10歯のサンプルは、ウラン工場の労働者から収集されています。歯のエナメル質の線量評価の結果は私たち労働者に労働条件の小さな影響力を示す、最大過剰の線量は少なく、100ミリグレイです。最終的な結論の追加サンプルが必要なためこれは、ESR線量推定のパイロットスタディである。ウスチカメノゴルスクの地域からのESR線量測定法による過剰推定の一部の結果がこのプレゼンテーションに含まれています。この地域はウランの加工産業のよく知られた場所です。
  • 山下 真一, 廣木 章博, 長澤 尚胤, 田口 光正
    セッションID: PH-5
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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     近年需要が高まっている放射線治療では、二次的な発がんなどのリスク低減のために患部以外の正常細胞をなるべく照射しないことが望まれる。このためIMRTや粒子線治療などによって複雑な線量分布が計画されるようになってきており、複雑な線量分布を測る線量計の需要が高まっている。一般的によく用いられる線量計としては電離箱やフィルム線量計がある。前者は点での線量、後者は面での線量分布をそれぞれ測定できるものの、三次元的な線量分布を簡単に確認することはできなかった。
     このような中、三次元的な線量分布を簡単に測る有力なツールとして高分子ゲル線量計が期待されている。これまで提案されている高分子ゲル線量計では、ともに劇物であるアクリルアミドやアクリル酸を材料とするものが多く、取り扱いが必ずしも容易ではないという問題点があった。そこで我々は安全(低毒性)で取り扱い易い生分解性の天然高分子であるセルロースに着目した。セルロースの誘導体であるヒドロキシプロピルセルロース(HPC)をゲル母材(マトリクス)とし、浸透させる検出剤にも極力毒性の低いメタクリル酸2-ヒドロキシエチルとポリエチレングリコールエステル(ともに非毒劇物)を使用した。
     実用的な範囲の線量(0-10 Gy)で60Co γ線照射を行った結果、照射に伴う白濁化が確認できた。これは検出剤が放射線誘起化学反応で重合した結果と言える。白濁化の程度を簡便かつ定量的に評価するために紫外可視分光分析し、線量に対する吸光度の増加は観測する波長によって異なることが分かった。特に短波長域(300-500 nm)では短波長になるほど低い線量でも吸光度が飽和し易く、長波長域(500-800 nm)では波長依存性があまりなく飽和傾向も見られなかった。さらに、検出剤の組成を変化させた際の吸光度の線量依存性(感度)の違いについても検討した。
  • 羽根田 清文, 富永 孝宏, 笛吹 修治, 吉岡 宗徳, 片平 慶
    セッションID: PH-6
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    水等価物質からなるポリマーゲル線量計を用いて粒子線の深部線量分布を測定するとブラッグピーク付近が電離箱線量計の結果と一致しないことが知られている。これは、粒子線が媒体中にてLETが変化するため、LETの高くなるブラッグピーク付近にて発生するラジカルの再結合による影響と考えられている。モンテカルロシミュレーションに際にLETへの重みづけを行ったところゲル線量計の線量分布と一致することが確認出来たので報告する。
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