日本放射線影響学会大会講演要旨集
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E: 放射線治療・修飾
  • 鍵谷 豪, 小川 良平, 畑下 昌範, 田中 良和, 幸田 華奈, 福田 茂一
    セッションID: OE-3-1
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    【目的】固形腫瘍には細胞増殖と血管新生の不均衡に起因する低酸素細胞領域が存在する。この領域は放射線や抗がん剤に対し抵抗性であるため,治療後に残存する可能性が高く,再発の原因として問題視されている。このような背景の下,我々はニトロキシド化合物であるテンポールに低酸素環境下でHIF-1αの発現を強力に増加させる作用があることを見いだした。つまり,HIF-1結合配列である低酸素応答因子(HRE)の下流に自殺遺伝子を結合した遺伝子治療用ベクターは,テンポール添加により,その遺伝子発現を低酸素細胞領域特異的に増強できると予測され,放射線抵抗性である低酸素癌細胞治療への新たな治療法になると考えられる。今回,我々はテンポールにより自殺遺伝子発現を制御する治療用ベクターを構築し,その殺細胞効果を検証することを目的とした。
    【方法】ルシフェラーゼ(Luc)遺伝子上流のプロモーター領域に4つのHREを挿入し,またその遺伝子下流に酸素依存的分解ドメインを付加したプラスミドを構築した。このプラスミドを用い,ルシフェラーゼアッセイによりテンポールによる発現誘導特性を評価した。さらに,Luc遺伝子を,FcyFur融合遺伝子に組換えた遺伝子治療用ベクターを構築し,その殺細胞効果をコロニー形成法により評価した。
    【結果・結論】大気酸素分圧下テンポール非添加細胞のLuc発現誘導率を基準とし,1%酸素分圧下テンポール添加細胞の発現誘導率は約217倍を示した(1%酸素分圧下テンポール非添加細胞の発現誘導率と比較した場合,約10倍増加)。FcyFur融合タンパクはシトシンデアミナーゼ活性を持ち,プロドラッグである5-FCを抗がん剤である5-FUへ代謝し殺細胞効果を示すことが知られている。FcyFur融合遺伝子を搭載した治療用ベクターは,5-FCとテンポール,また低酸素環境を擬似的に引き起こすCoCl2を添加した細胞のみにおいて最も高い殺細胞効果を示した。これらの結果は,低酸素環境下でテンポールにより殺細胞遺伝子の発現を誘導し,in vitroレベルで殺細胞効果の増強をはじめて示したものである。
  • 前澤 博, 権藤 賢悟, 松原 隆敏, 美濃部 遙, 宇都 義浩, 堀 均
    セッションID: OE-3-2
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    【目的】5-フルオロウラシル(5FU)は放射線との併用で作用が増強されることが知られ,その機構は代謝拮抗作用に基づくとされている。一方,電子軌道計算の結果から5-FUは電子親和性が高いことが示され,低酸素細胞に対して酸素類似的作用による増感効果が期待される。今回,異なるp53ステータスのヒト肺癌細胞に対し5FUの低酸素放射線致死増感効果があるか否か,またその増感効果がDNA二本鎖切断生成の増加と関連するか否か知ることを目的とした. 【方法】ヒト肺癌由来H1299細胞(p53欠失型)にp53野生型又は突然変異型遺伝子発現ベクターを挿入した2種類の細胞株(野生型H1299wtp53,突然変異型H1299mtp53/248,大西武雄教授(奈良医大)より供与)を用いた.対数増殖期の細胞を5FU(0.1 mM)含有培地に分散し,低酸素あるいは常酸素下にてX線(150 kV)照射後,コロニーアッセイを行い,生存率曲線をもとに10 %生存線量から増感比(ER)を求めた.また,X線照射30分後に細胞核内に発現したDNA損傷修復酵素γH2AXの蛍光免疫染色を行った.フローサイトメトリーを用い細胞当たりの蛍光量を計測しγH2AXの発現量を求めた. 【結果】常酸素下のX線照射では5FUの存在による生存率の変化は認められなかった。低酸素下では5FUによるX線致死増強効果がみられ,H1299wtp53細胞のERは1.26,H1299mtp53/248細胞ではER=1.14が得られた.また,低酸素細胞において線量の増加につれてγH2AX focus由来の蛍光量は増加した.低酸素,5FU存在下ではcontrolに比べて同一線量での蛍光量が増加した. 【結語】5FU存在下ではp53野生型および突然変異型の両細胞とも低酸素下においてX線致死増感作用が観察された.5FUによる低酸素細胞X線致死増感作用は,DSB生成の増加が原因の一つと考えられる.
  • 木梨 友子, 小野 公二, 高橋 千太郎
    セッションID: OE-3-3
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    ホウ素中性子捕捉療法(Boron Neutron Captue Therapy BNCT)の線量の上限は正常組織の耐用線量内に収められるため、人体の放射線感受性により治療線量が左右される。中性子照射実験により、BNCTにおける放射線感受性の異なる細胞・マウスを用いて感受性の差を調べた。細胞レベルでは、放射線高感受性細胞における生物学的効果比(RBE)検討を行った。CHO細胞の突然変異株でKu80欠損のため放射線に誘発されるDNA二重鎖切断修復ができず放射線感受性の高いxrs-5細胞を用いてコロニーアッセイによる殺細胞効果による比較を行った。放射線高感受性マウスにおけるRBE検討では、放射線に高感受性で、放射線誘発DNA二重鎖切断の修復障害のあるSCIDマウスを用いて中性子照射による口腔粘膜障害死による比較を行った。BNCTの殺細胞効果におけるRBEはCHO細胞が2.0-2.1およびxrs-5細胞は1.4-1.8であり、中性子照射においてはCHOとxrs-5細胞間の放射線感受性の差異が小さくなった。放射線口腔死は頭部に放射線照射後に認められる飢餓死であり、中性子のin vivoにおける正常組織のRBEを求める手段として昨年同様に採用した。中性子照射の口腔粘膜傷害死のRBEはC3Hマウスが2.0およびSCIDマウスは1.6であり、中性子照射においてはC3HマウスとSCIDマウスの放射線感受性の差異がγ線照射時に比べ小さくなった。
  • 近藤 夏子, 増永 慎一郎, 高橋 昭久, 鈴木 実, 木梨 友子, 櫻井 良憲, 森 英一朗, 長谷川 正俊, 大西 武雄, 小野 公二
    セッションID: OE-3-4
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    【はじめに】中性子捕捉療法では、硼素化合物(10B)を取り込んだ癌細胞に中性子線照射を行うと10Bの原子核がα粒子とLi原子核に分裂し、そのエネルギーによって癌細胞にDNA二本鎖切断(DSB)を生成することが知られている。しかし、中性子捕捉療法によって癌細胞に生じたDSBにDSB修復経路が関与するか否かについてはまだ明らかになっていない。DSB修復にはHomologous Recombination (HR)修復とNon-homologous end joining (NHEJ)修復の二つの経路が関わっている。今回我々は、NHEJ修復関連遺伝子;DNA ligase IV (Lig4)が、中性子捕捉療法によるDSB修復に関与するか否かを調べることを目的とする。【材料・方法】ノックアウトマウスから確立されたMEF細胞Lig4-/- (Dr. F.W. Alt; Harvard Medical School, USAより譲渡)と親株細胞を用いる。中性子照射前20時間、細胞に10B濃度10ppmの硼素化合物を細胞に取り込ませて、あるいは取り込ませずに中性子を照射し、コロニー形成法にて生存率を算出し、親株細胞とLig4-/-細胞の感受性を比べる。さらに中性子線を照射する際に混在するγ線の影響を除くため、10Bの濃度を変えて親株細胞とLig4-/-細胞に1.5Gy照射し、相対的生存率も求めた。【結果】硼素化合物を細胞に取り込ませた場合、取り込ませない場合ともにLig4-/-細胞は親株細胞よりも感受性が著しく高くなった。また、相対的生存率はLig4-/-細胞と親株細胞の間に差は認められなかった。【結論】中性子捕捉療法によって生じるDNA二本鎖切断(DSB)はDSB修復経路の因子LigIVによって修復されないと考えられる。
  • 村山 千恵子, 吉川 正信, 平山 亮一, 鵜沢 玲子, 小林 広幸, 古澤 佳也
    セッションID: OE-3-5
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    【目的】我々は低LET放射線照射後の口腔粘膜障害に対するD-メチオニンの放射線防護効果を報告している。新たにD-メチオニンに対して重粒子線治療による粘膜炎および唾液腺障害の防護効果の検討を計画したが、これまで口腔内正常組織障害に対する炭素イオン線のX線照射に対するRBEの報告がなかったため本研究では、マウス舌粘膜上皮細胞障害を指標として炭素イオン線のRBEを検討した。 【方法】C3Hマウスの頭頸部に対し、炭素イオン線(放医研HIMAC: 290MeV/u, 6cm-SOBP, LET 50kev/μm)、X線(150kV, 20mA) の局所照射を各々5日間行い、最終照射から2~6日後に舌・唾液腺を摘出した。摘出組織は、ホルマリン固定後標本を作製しHE染色した。マウス頭頸部への照射により、舌粘膜上皮細胞には菲薄化が観察され、これを指標としてRBE(Dx/Dc)を算出した。舌の断面組織を顕微鏡撮影し舌粘膜上皮細胞の厚さを画像解析ソフトにより計測して評価した。 【結果】低照射線量では、舌粘膜上皮細胞は、むしろ肥厚傾向が観察された。照射最終日から6日後の検討で舌粘膜上皮細胞の障害が確認された線量域では、照射後経時的な舌粘膜上皮細胞の菲薄が起こっていた。炭素イオン線、X線分割照射を行い、舌の潰瘍が肉眼で明確に確認される6日後に舌を摘出し、粘膜上皮細胞厚を計測したデータよりRBEを算出した。舌粘膜上皮細胞の障害が軽度~中等度(epithelial thickness: ≧30% of control)までは、RBE値は、ほぼ一定で1.82-1.85であったが、障害が激烈になるにしたがってRBEは徐々に上昇し、最高2.10まで達した。舌粘膜上皮細胞厚が、非照射群の50%に減少する線量は、X線、炭素線で各々29.1Gy、16.0Gyであり、これらの値からRBEは1.82と算出された。 【結論】今回の舌粘膜上皮細胞の菲薄化を指標として求めた炭素イオン線分割照射におけるRBE値は、正常組織(皮膚・腸)の急性期反応を指標としたこれまでの報告と近い値であり妥当と思われた。これまで舌粘膜上皮細胞厚を指標としたRBEは報告されておらず、今回の検討結果は評価できると考える。
  • 崔 星, 大西 和彦, 山田 滋, 鎌田 正
    セッションID: OE-4-1
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    肝細胞癌は世界で最も罹患数が多い悪性腫瘍の一つで、日本では増加傾向であり、年間死亡数は3.4万人とがん死亡では3位である。放医研では今まで300例近い重粒子線による肝癌治療を行っており、良好な治療成績が得られている。本研究は、肝癌細胞株Huh7、HepG2を用い、放射線抵抗性や薬剤耐性と強く関与するとされる癌幹細胞を分離・同定し、これら癌幹細胞に対して、炭素線或いはX線照射前後のコロニー形成能、spheroid形成能、DNA損傷の違いを調べ、またSCIDマウスに移植し、腫瘍形成能の違いについて比較検討した。Huh7、HepG2細胞においてCD133+/CD90+はそれぞれ6.4%と0.6%、CD44+/ESA+細胞は1.5%と0.2%であった。CD133+/CD90+、CD44+/ESA+細胞はCD133-/CD90-、CD44-/ESA-細胞に比べ有意にコロニー形成数が多く、spheroid形成や腫瘍形成はCD133+/CD90+、CD44+/ESA+細胞のみに認められた。CD133+/CD90+、CD44+/ESA+細胞は、X線、炭素線照射に対しともに抵抗性を示すが、炭素線はより強い細胞殺傷能力が認められた。炭素線はX線照射に比べより強い腫瘍増殖抑制や高い治癒率が認められた。以上より、肝癌細胞において、CD133+/CD90+、CD44+/ESA+細胞は明らかに自己複製や放射線抵抗性を示しており、炭素線はX線照射に比べより強く肝癌幹細胞を殺傷することが示唆された。
  • 平川 博一, 高橋 桃子, 矢島 浩彦, 中島 菜花子, 藤森 亮
    セッションID: OE-4-2
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    放射線がん治療は固形がんに対する確立された治療法である。がん細胞の放射線抵抗性の生物学的根拠の解明は、がん治療のさらなる向上にとって重要である。近年、固形腫瘍のごく一部に放射線抵抗性の細胞集団が含まれていること、それらはしばしば幹細胞のマーカー蛋白質を発現していることが示された。がんの放射線ならびに化学療法剤抵抗性はこのようながん幹細胞固有の性質が原因と考えられている。我々は、ヒト神経膠芽腫由来のA172細胞株が幹細胞維持用の無血清培養条件下で複数のがん幹細胞の特徴(スフィア形成、sox2蛋白の発現、等)を示すことを確認した。これらは、通常培地で維持された同細胞に比べ、X線さらには炭素粒子線にも抵抗性であることがコロニー形成法による生存率曲線から示された。照射後の二重鎖DNA切断によるヒストンH2Axのリン酸化は両者において観察されたが、がん幹細胞likeの細胞集団の方に、フォーサイ数の少ない細胞が明らかに多く含まれた。形態の違う2つの細胞集団の間で細胞周期の分布にほとんど差は無いため、両者に見られた放射線感受性の差は、二重鎖DNA切断修復の効率の違いによるものと考え、現在さらに検証を進めている。
  • 松本 孔貴, 鵜澤 玲子, 平山 亮一, 小池 幸子, 和田 麻美, 鶴岡 千鶴, 増永 慎一郎, 安藤 興一, 古澤 佳也
    セッションID: OE-4-3
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    【背景・目的】現在の放射線治療は分割照射が標準的であり、これは炭素線治療に対しても例外ではない。単回照射と分割照射では、照射間に起きるDNA損傷の修復や低酸素領域における再酸素化など照射後の反応が大きく異なる。我々はこれまで単回照射による炭素線の優れた抗転移効果を報告してきたが、臨床における効果を知るには分割照射による実験が必須である。本研究では、高転移腫瘍に対しX線および炭素線による分割照射を行い、転移に対する効果を単回照射と比較する事を目的とする。【材料と方法】】細胞はマウス骨肉腫由来LM8細胞を用いた。炭素線照射は6 cm拡大ブラッグピークの中心部で行い,参照放射線としてX線を用いた。細胞実験:】細胞致死はコロニー形成法で調べ、遊走能および浸潤能はそれぞれBoyden chamberアッセイとMatrigel invasionアッセイで調べた。動物実験:C3Hマウスの下肢に移植した腫瘍に照射を行い,抗腫瘍効果は腫瘍増殖抑制とin vivo-in vitroアッセイによる腫瘍内細胞致死で評価し、転移能は自然肺転移実験モデルによる肺転移結節数の増減で評価した。【結果】細胞実験:1回照射に比べて分割照射では,分割回数の増加に伴い生存率、遊走能および浸潤能の亢進が見られ,その程度はX線照射群でより顕著であった。動物実験:分割回数が増加するにつれて増殖抑制,腫瘍内細胞致死効果の低減および肺転移結節数の増加傾向が観察された。これらの程度についても炭素線では少なかった。【結論】分割照射の効果を転移抑制の点から細胞・動物実験で調べた結果,他の生物学的エンドポイントと同様に高LETの炭素線では低LETのX線に比べ分割することによる効果の低減が少ないことが確認された。臨床で行われている分割照射でも,転移抑制の点で炭素線が優れている事が示唆された。
  • 鵜澤 玲子, ビチオーニ バルバラ, 平山 亮一, 松本 孔貴, 小池 幸子, 鶴岡 千鶴, 古澤 佳也
    セッションID: OE-4-4
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
     放医研では1994年からHIMACで炭素線によるがん治療が始まった。2010年までに5000例以上の治療を行い良好な結果が得られている。その成果を受けて、世界では、新たな重粒子線治療施設での治療が開始されたり、あるいは、新たに治療施設が建設されたり、または、建設が決定されたりしており、重粒子線治療の広がりを見せている。
    HIMACでの治療経験から導かれた治療プロトコールで、多の重粒子線治療施設でも治療を行うには、その施設の治療ビームがHIMACのそれと、生物学的、物理学的に同じでなくてはならない。生物実験においては、マウスのロットや、実験者の手技などが結果に影響することがあるので、我々は、治療施設のビームを比較するための標準的なプロトコールの確立を試みている。
    放医研で生産されたC3H/He雌マウスとCharles River社生産の同じマウスに、HIMACで炭素線290Mev/u 6cm SOBP 1回全身照射をし、3.5日後に安楽殺して小腸を取り出し、組織標本にする。HE染色してクリプト数を数え比較した。マウスクリプトの放射線感受性は同種マウスであっても、放医研産とCharles River社産で違いが見られた。Dqは両者でさほど差がなかったが、D0では放医研産の方が、高い値であった。同一の切片を観察しても、観察者によって、クリプト数の結果が異なったが、この違いは簡単なトレーニングで克服できた。また、観察者の時間経過によるクリプト認識能力の変化も、少なくとも6年間ではみられなかった。
    これらのことより、均一ロットのマウスを、世界的に供給できることが、施設間比較の生物実験には望ましいことが示された。
  • 高橋 昭久, 吉田 由香里, 馬 洪玉, 桑原 義和, 福本 学, 金井 達明, 中野 隆史
    セッションID: OE-4-5
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    年、がんの三大治療法(外科手術・放射線治療・化学治療)が画期的に発展してきたにもかかわらず、がんは国民の死因の1位である。がんの根治は多くの人々の悲願であり、その治療法の向上は社会的に強く望まれている。通常、固形がんに対する放射線療法は1日2 Gy、総線量60 Gy程度のX線分割照射からなっている。放射線療法で問題となるのが治療で根絶できない放射線抵抗性のがん細胞の存在であり、がんの再発を起こしてしまうことが報告されてきた。我々はがん治療効果の向上を目指し、放射線治療の切札の一つとして知られる重粒子線による生物影響について基礎的研究をすすめてきた。
     X線1日2 Gy(総線量2,278 Gy)の分割照射を続けても生存・増殖し続けたヒト舌扁平上皮がんSAS-R細胞とその親株SAS細胞を用い、群馬大学重粒子線照射装置にて290MeV/u, 6cm-SOBP炭素線と対照としてX線照射装置(TITAN-225S, Shimadzu)にて照射を行った。細胞の放射線感受性はHigh density survival assayで、細胞数はセルカウンター(TC10, BIO RAD)を用いて行った。
     その結果、X線の20%生存率はSAS細胞で7.5 Gy、SAS-R細胞で12 Gy、炭素線の20%生存率はSAS細胞で3.0 Gy、SAS-R細胞で3.2 Gyであった。この結果から求めたRBEはSAS細胞で2.5、SAS-R細胞で3.8を示した。重粒子線はX線抵抗性ながん細胞に対しても有効であることが示唆された。
F: 被ばく影響・疫学
  • 高辻 俊宏, 木村 真三, 遠藤 暁, 静間 清, 七沢 潔, 今中 哲二, 佐藤 斉
    セッションID: OF-1-1
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    福島第一原子力発電所周辺土壌等に含まれる放射性核種をゲルマニウム半導体検出器を用いて測定した。Te-129とTe-129m、I-131、Te-132、I-132、Cs-134、Cs-136、Cs-137、Ba-140、La-140、Tc-99m、Nb-95、Ag-110mが検出された。Te-129、Te-129m、Cs-134、Cs-137の放射能の割合は、場所によらず、ほぼ同様であったが、I-131は場所により少し異なり、Nb-95、Ag-110mはそれぞれ場所により大きく異なっていた。コケや松葉の放射能濃度は近くの土壌より高く、近くの土壌の濃度と強い相関があり、ほとんど同じ放射性核種の比率を持っていた。
  • 遠藤 暁, 今中 哲二, 菅井 益朗, 小澤 祥司, 静間 清
    セッションID: OF-1-2
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    福島第1原発における事故に伴い、原発から北西方向約40km に位置する飯舘村において、高い放射能汚染が生じた。この地域には住民が居住中であることを考慮し、汚染の概略を把握するため、2011/3/28-29、飯舘村当局の協力を得て放射線サーベイ活動を行った。  飯舘村役場のワゴン車に放射線測定器(ALOKA PDR-101、ICS-313)を持ち込み、村道を走行しながら、車内での放射線量率を測定した。北部:92 点、南部:38 点、計130 点で放射線量を測定した。数カ所では、車内と車外での測定を実施しワゴン車の遮蔽効果を確認した。測定値をもとに空間線量率マップを作成した。また、核種分析用の土壌を5カ所で採取し、広島大学においてGe 半導体検出器を用いてγ線核種分析を行った。土壌の核種分析の結果、129m,129Te、131,132I、134,136,137Cs、140La が同定された。同定核種の汚染密度、半減期および線量率変換係数(地表1m)を用いて、線量率の時間変化を求めた。得られた空間線量推定値は、モニタリングポストによる実測値と矛盾が無く、本評価法の有効性が確認された。時間変化を考慮した3/15沈着後から3月間の積算線量は、曲田で74mSv、村役場で22mSvと極めて高い値が得られた。生活の環境による遮蔽を考慮すれば、おおよそ半分程度と考えられる。このデータをもとに、飯舘村における年間の積算被曝線量マップを作成し、文部科学省が作成したマップとの比較を行った。その結果、大まかには、2つのマップに同様の傾向が確認された。我々が作成したマップでは、より詳細な情報が得られ、今後の調査や帰村の参考になると考える。
  • 田口 優太, 遠藤 暁, 今中 哲二, 福谷 哲, エフゲニア グラノフスカヤ, 星 正治, 静間 清
    セッションID: OF-1-3
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    広島・長崎の原爆線量評価システムDS86・DS02において、放射化土壌による被曝線量推定に必要な土壌元素濃度がまとめられている。しかしながら、広島と長崎各2ヵ所のみの測定であった。また、それ以前の1969年に橋詰らによって広島土壌で16か所のMn、Na濃度の分析が行われているが、土壌中Sc濃度については1か所のみの報告である。Scは、原爆中性子により46Scへ放射化される。半減期は84日と長く、1~数カ月の空間線量に大きく寄与するため、放射化物による被曝線量推定では重要である。  本研究では、広島市内土壌中のScの元素濃度を放射化分析法で測定し、そのばらつきを確かめるとともに、得られた元素濃度を用いて、広島市内土壌放射化による原爆誘導放射線量の評価を行う。  広島市内の原爆爆心4km以内で11か所の土壌試料を採取した。採取した試料は2mmメッシュの篩にかけ、120℃で15時間乾燥したのち、京都大学原子炉実験所(KUR)で熱中性子照射を行い、放射化法により、元素濃度を決定した。  放射化分析の結果、Al、Mn、Na、Scを含む23元素の濃度を決定した。各元素濃度は、概ねDS86 の値と矛盾がなかった。Scについては、濃度とそのバラツキの決定し、広島市内土壌の平均濃度とばらつきは5.12±0.59(ppm)で、誤差12%と見積もられた。  放射化分析で得られた元素濃度を利用し、原爆炸裂後の空間線量時間依存性の評価を行った。放射化土壌による空間線量は、爆発直後数分にかけて28Alが占め、その後、数日にかけて24Naが主要成分となり、10日~数カ月にかけて46Scが支配的となることが確認された。今回得られた空間線量の評価値は、原爆爆発およそ1カ月後の実測データおよび今中の評価値(Radiat Environ Biophys 2008)とほぼ一致した。
  • 静間 清, 遠藤 暁
    セッションID: OF-1-4
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
     東日本第震災(平成23年3月11日)に引き続いて発生した東京電力福島第一原発事故により東北、関東では深刻な放射能汚染が拡がった。我々は3月20日より広島大学東広島キャンパス内で大気中放射能の測定を開始した。サンプリングにはハイボリュームエアサンプラー(SHIBATA HVA- 500N )を使用し、グラスファイバーフィルター(TOYO GB100R)を使用し、日中8時間捕集した。捕集後のフィルターは短時間ラドン子孫核種(214Pb, 214Bi)の減衰を待って4時間後から開始した。測定には低バックグラウンドGe検出器(EG&GORTEC GWL-120230-)を使用し、測定時間は12時間とした。この検出器は宇宙線バックグラウンドの低減のためにアンチコインシデンスシステムを使用し、また、室内空気中のラドン子孫核種のバックグラウンドを低減するために検出器周囲に窒素ガスを循環させている。測定の結果、3月30日より、131Iが検出され、その後、134Cs, 137Cs, 132Teが検出された。4月7日に放射能濃度は最大ピークを示し、その後、4月18日に再び増加が見られたが、その後は減少し、4月末以降は検出されていない。  観測された大気中濃度の最大値は131Iで0.0066Bq/m3 (ただしチャコールフィルターは使用していない)、137Cs: 0.0078 Bq/m3 , 134Cs: 0.0068 Bq/m3, 132Te: 0.00011 Bq/m3 であった。許容濃度との比は数千から数万分の1であり、ごく微量であった。雨水からは4月8日に131Iが0.044Bq/l 観測されたのみでそれ以外には観測されなかった。今回検出された核種とチェルノブイリ原子炉事故時に大気中から観測された核種についての比較についても示す。
  • 木村 真三
    セッションID: OF-1-5
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    福島第一原発事故発生から2週間後、元理化学研究所 岡野眞治氏が開発したIn Situ放射線測定器を用いて調査を開始した。事故当時、プリュームの広がりが公表されていなかったため、主要幹線道路(国道。県道)を中心にメッシュになるよう縦横に記録した。 その結果、原発から北西方向に伸びる高線量地域を発見した。さらに、方向には関係なく各地でホットスポット(空間線量率で2マイクロシーベルト以上)が存在することを確認したので紹介する。
  • 中島 裕夫
    セッションID: OF-1-6
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    東日本大震災により発生した福島原発事故は広範囲の放射能汚染を引き起こした。この汚染状況については近々文科省・大学連携調査による詳細な汚染マップが作成されることになっているが、この汚染がどれくらい続くかの予測は非常に難しく実際には時間経を待たなければ正確にはわからないのが現状である。しかし、今後の除染作業や避難指定期間などを検討する上では重要な因子の1つと考えられることから、137Csの生体内動態を調べるとともに今までに報告されているデータを基に福島原発事故汚染地域に棲息する動物を中心とした当初の生態学的半減期の推測を試みた。
    【方法】生体内動態1.マウスに1kBq/g体重の137CsCl水を単回経口投与した群、10ならびに100Bq/mlの137CsCl水溶液を8ヶ月間自由摂取させた群において137Csの摂取条件(高濃度急性、低濃度慢性摂取)のちがいによる137Csの経時的体内動態の差異を調べた。2.植物葉の汚染状況の経時的変化を調べ、動物の摂取状態と摂取量の変化を予測した。
    生態学的半減期の推測 今までに得られている1960年代の大気圏内核実験ならびに1986年のチェルノブイリ原発事故による日本への放射性降下物に由来する137Csホールボディーカウントの半減期(Uchiyama,M. et al.1996)、ノルウェー(Jonsson,B. et al. 1999)とイギリス(Smith,JT. Et al. 2000)の湖のマス体内の137Cs量の半減期、以前、本学会で報告した1997年から2005年におけるチェルノブイリ汚染地域動物体内の137Cs減少率(Nakajima,H. et al. 2006)などのデータを基にして、今後、新たに放射性物質の広範囲な放出がないという条件で福井原発汚染における当初の生態学的半減期(動物体内)の推測を試みた。
    【結果】生態系での初期では葉表面に付着した降下137Csを直接摂取する形で大量の137Csを体内へ取り込んだと考えられ、時間の経過と共に雨などで洗い流された137Csが土壌に浸透し、植物等の根からの吸引により植物体内へ移行したものを摂取していると考えられる。また、137Csの生態学的半減期(動物体内)は、おおよそ1.5年と推測された。
  • 今中 哲二
    セッションID: OF-1-7
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    福島原発事故とチェルノブイリ事故は、敷地周辺20~40km圏内から住民が避難を余儀なくされたということでは、ともに原発で起こりうる最悪の事態である。しかしながら、炉型や事故プロセスの違いにより、放出された放射能の組成や量はかなり異なっている。チェルノブイリの場合は、暴走にともなう爆発により、まず炉心組成に近い放射能放出があり、ついで黒鉛火災にともなう放射能放出が約10日間続いたとされている。敷地外に放出された放射能量は、1986年8月にソ連政府がIAEAに提出した事故報告書によれば、131Iは2.7×1017 Bq、137Csは3.7×1016 Bqとされている。一方、福島事故は、冷却材喪失事故からメルトダウンに至ったもので、格納容器の圧力上昇や水素爆発によって閉じ込めバウンダリーが破壊され揮発性核種の大量放射能放出が生じた。4月12日の原子力安全委の発表によると、福島事故の放出量は、131Iで1.5×1017 Bq、137Csで1.2×1016 Bqとされている。これらの数字を比較すると揮発性核種の放出量は、チェルノブイリが若干多いもののほぼ同じ程度と言ってよいであろう。一方、90Srや95Zrといった不揮発性核種については、チェルノブイリは90Srで8.1×1015 Bq、95Zrで1.4×1017 Bqとされている。福島については、日本政府が6月にIAEAへ提出した報告書によると、90Srは1.4×1014 Bqで、95Zrは1.7×1013 Bqとされ、チェルノブイリのそれぞれ60分の1と8000分の1になっている。本報告では、これらの推定値の不確かさについて議論するとともに、事故発生直後の敷地周辺での放射線状況を比較検討する。
  • 高田 純
    セッションID: OF-2-1
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    大津波に襲われ環境へ放射性物質が顕著に漏えいした福島第一核エネルギー施設の事象に関連した福島県民をはじめとした東日本の公衆の線量評価を4月と6月に現地調査をもとに行なった。4月6日に陸路、札幌を出発し、青森、仙台、福島、東京と、同月10日まで放射線衛生が調査された。福島20km圏内を含む全調査での調査員の受けた外部被曝の積算線量は0.11ミリシーベルト。甲状腺への放射性ヨウ素の蓄積は検出されなかった。こうして調査は安全に実施された。札幌および青森では、顕著な核分裂生成物は検出されなかった。仙台、福島、東京でのガンマ線スペクトロスコピーで、ヨウ素131、セシウム134、セシウム137が顕著に検出された。福島から少量持ち帰った土壌を5月に測定すると、ヨウ素131は、ほぼ消滅していた。  甲状腺に蓄積されるヨウ素131による内部被曝線量検査が成人希望者総数76人に対して行われた。検査当日の福島県民66人のヨウ素放射能の最大値は3.6キロベクレル、平均 1.5キロベクレル。6人は検 出限界0.1キロベクレル未満であった。20km圏内浪江町からの避難者40人の平均甲状腺線量は5ミリシーベルト、チェルノブイリ被災者の1千分の1以下程度と、甲状腺がんのリスクは無いと判断する。 浪江町や東日本各地の空間線量率の値は、最初の1か月間で4分の1以下になるなど、放射能の減衰にしたがって、放射線環境は減衰傾向にある。福島を除く東日本の公衆の個人線量は屋内滞在による遮蔽効果もあって、年間外部被曝線量は概して1ミリシーベルト以下のレベルである。福島県民は、屋内退避効果もあり、2011年の年間線量は概して10ミリシーベルト以下である。3か月後の6月後半に、南相馬市、いわき市、郡山市で計33人の放射性セシウムの全身量を検査した。結果は、全員が推定年間線量として0.1ミリシーベルト未満だった。
  • 横田 賢一, 三根 真理子, 柴田 義貞
    セッションID: OF-2-2
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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     長崎原爆は上空503mで炸裂した。長崎市は山が多く爆心から南東約2kmには366mと285mの山々がある。これらの山蔭で被爆した人々は、爆心からの距離が同じで山で遮蔽されなかった人たちよりも被ばくした放射線量が少なくがん死亡率も低いと考えられる。
     このことを確認するために、被爆距離が2kmから5kmまでの地域についてGISの可視領域解析により爆発点から山で遮蔽された地域の解析を行い、被爆距離2-3kmのフォールアウトで知られる地域を除き遮蔽地域(S2-3)とし、同様に非遮蔽地域のうち、被爆距離2-3kmの地域(U2-3)、3-4kmの地域(U3-4)、4-5kmの地域(U4-5)の5つの地域を選んだ。これらの地域のがん死亡について、性別、被爆時年齢、到達年齢を調整したCoxの比例ハザードモデルにより解析を行った。
     1970年1月1日に長崎市に在住していた被爆時年齢30歳未満の37,357人のうち各地域の対象数はU2-3が1663人、S2-3の2341人、U3-4の5062人、U4-5の3313人であった。1970年1月1日から2009年12月31日までのがん死亡(割合)はU2-3が198人(11.9%)であったのに対してS2-3は202人(8.6%)、U3-4で435人(8.6%)、U4-5で267人(8.1%)であった。
     U2-3に対するS2-3のがん死亡ハザード比は0.76倍 (95%信頼区間0.63-0.93)と24%低かった。同様にU3-4は0.75倍 (95%信頼区間0.64-0.89)、U4-5は 0.80倍 (95%信頼区間0.67-0.97)であり、S2-3に対するU3-4とU4-5では統計的に有意な差は見られなかった。 このことから2-3kmの山陰で被爆した人のがん死亡のリスクは3km以遠の非遮蔽で被爆した人と同等であると考えられる。
  • 三根 真理子, 横田 賢一, 柴田 義貞
    セッションID: OF-2-3
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    【目的】  長崎市被爆者の平均年齢は2011年3月末で76.8歳となった。2003年に長崎市が行った被爆者健康調査のデータと、調査後7年間の死亡を用い、死亡原因と生活習慣との関連を検討した。
    【方法】  2003年の調査で回答したのは35,035人であった。そのうち調査時年齢が65歳以上で解析に使用する全ての項目に回答した15,864名を解析の対象とした。解析項目は性別、主観的健康度、運動の有無、飲酒の有無、喫煙の有無、一人暮らし、受診の有無、外出の有無、精神的健康度の9項目とした。2010年3月までに死亡したのは3,142名であった。死亡原因は悪性新生物、脳血管疾患と心疾患、その他の3分類とした。悪性新生物死亡は1,088名、脳血管疾患と心疾患の死亡は821名、その他の死亡は1,233名であった。
    【結果】  「運動していない」と回答した者と「している」と回答した者のハザード比はがんにおいて1.34、循環器疾患において1.52、その他の疾患では1.42であった。「検診を受診していない」と回答した者と「している」と回答した者のハザード比はがんで1.39、循環器疾患で1.50、その他の疾患で1.36であった。飲酒、喫煙、精神的健康度においても同様の傾向であった。
  • 林田 直美, 関谷 悠以, 穴見 正信, カズロフスキー アレクサンダー, グテビッチ アレクサンダー, サイコ アレクセイ, ニロワ ニー ...
    セッションID: OF-2-4
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    チェルノブイリ原発事故後、小児甲状腺がんが激増し、長崎・広島の原爆被爆者でも甲状腺がんの発症リスクが増加したことはよく知られているが、近年良性の甲状腺結節も線量依存性に増加することが示された。このことは、放射線被ばくが良性疾患の増加にも関与する可能性を示すものである。その一方で、チェルノブイリ周辺では、甲状腺がんの発生と甲状腺結節との発生頻度には地域ごとに強い相関があることが示されている。我々は、チェルノブイリ周辺地区において、これまでに超音波診断で甲状腺結節を指摘された住民のフォローアップ調査を行い、同地区における甲状腺結節の長期的予後についての臨床疫学研究を行った。 対象は、ウクライナ国ジトミール州において、事故時に0-10歳であった住民のうち、以前長崎大学が参画したプロジェクトでの甲状腺スクリーニングにおいて甲状腺結節を指摘された住民約160名(結節群)。対照群として、年齢、性別をマッチングさせた、甲状腺異常を指摘されていない住民約160名を調査した。両群において超音波検査を行い、結節を認めた場合には可能な限り細胞診を行い、診断を確定した。また、血液検査によってfT4、TSH、Tg、抗Tg抗体、抗TPO抗体を測定した。得られた結果を用いて両群における甲状腺異常(がんを含む)を比較検討した。 結節群と対照群で、年齢、性、甲状腺機能、抗Tg抗体、抗TPO抗体に差はなかったが、Tgは結節群で有意に高くなっていた。超音波所見では、結節群では結節数、結節サイズともに初回スクリーニング時よりも有意に増加していたのに対し、対照群では結節の発生は認められなかった。細胞診で悪性と診断されたのは結節群の3例のみであり、対照群との有意差は認められなかった(p=0.082)。しかし、結節群の9例が細胞診で悪性の可能性が否定できない判定困難であり、悪性と併せるとその頻度は対照群より有意に高くなっていた(p<0.001)。 チェルノブイリ周辺地区において、事故当時0-10歳であり、事故後の超音波診断で甲状腺結節を指摘された対象者では、がん発生が高頻度に見られることが示唆された。この様な対象者では、甲状腺結節はがんのハイリスク因子である可能性があり、今後さらに詳細な症例の検討が必要である。
  • 武田 志乃, 寺田 靖子, 鈴木 享子, 小久保 年章, 早尾 辰雄, 西村 まゆみ, 島田 義也
    セッションID: OF-2-5
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    【はじめに】近年、劣化ウラン弾汚染や原発事故を背景に、ウランの毒性影響に関心がもたれている。これまで我々は、標的臓器である腎臓のウランの挙動を調べ、ウランが近位直尿細管に選択的に蓄積し、組織損傷を引き起こしていることを示してきた。本研究では、微小ビームを用いたウラン局在量解析により、毒性発現および尿細管再生期における尿細管におけるウラン局在およびその局所量を検討した。 【実験】動物の処置:Wistar系雄性ラット(10週齢)に酢酸ウラン(天然型)を背部皮下に一回投与(0.5 mg/kg)した。ウランの分析:腎臓中ウラン濃度は誘導結合プラズマ質量分析により測定した。腎臓内ウラン分布および局所量の解析は高エネルギー領域シンクロトロン放射光蛍光X線分析(SR-XRF)により調べた。近位直尿細管の検出:SR-XRF測定試料の隣接切片について近位直尿細管に特異的に存在するグルタミンシンターゼの免疫染色を行った。アポトーティック細胞の検出: TUNELおよびヘマトキシリン染色した。 【結果】投与1日目ウランは皮質内部に分布した。この領域のウラン分布は近位直尿細管分布と対応しており、尿細管上皮には腎臓平均ウラン濃度の50倍程度のウラン濃集部位が認められた。投与8日目では近位直尿細管上皮の脱落が観察されたが、15日目になるとダメージ部位には再生尿細管が認められた。15日目の腎臓平均ウラン濃度は1日目の12%に減衰しウラン濃集部位は減少したが、1日目と同等のウラン局所量の部位も検出された。
  • 日比 勇祐, 保田 隆子, 尾田 正二, 三谷 啓志
    セッションID: OF-3-1
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    生体組織の中でも発生中の中枢神経系は放射線に対して高感受性な部位として知られている。ゆえに、発達中の中枢神経系への放射線影響の解析は非常に重要な課題である。しかし、哺乳類の胎児は母親の胎内で成長し、脳は皮膚で覆われているため発達中の放射線影響を詳細に観察することは困難である。一方、メダカ胚は、卵殻が透明で脳の発生過程を実体顕微鏡下で可視化することができる。さらに胚体が小さいため全体をWhole-mount標本として容易に観察する事ができるという利点を有しており、発達中の放射線影響を解析する上で有用なモデル生物である。我々はこれまでの研究により、発生に影響を及ぼさない低線量(10Gy)のγ線を照射後、Wholw-mountの胚をアクリジンオレンジ染色した結果、照射24時間後に発達中の中脳の視蓋部において単一な細胞死がロゼット状に集積する特徴的な様相を見出した。本研究では、アポトーシスに関係するp53遺伝子をノックアウトしたメダカ胚を用いて、放射線誘発アポトーシスの一連の経時変化を解析し、野生型胚と比較した。その結果、p53遺伝子欠損胚でもロゼット状の細胞死の集積が観察されたが、野生型胚と比較して放射線誘発細胞死の発生が4-6h遅延することが認められ、またその数は明らかに少ない事が判明した。 また、中枢神経の形成過程で不要となった神経線維の除去に、ミクログリア細胞が貪食の役割を果たしている事が報告されている。そこで、我々はメダカ胚の中脳で生じるロゼット状の放射線誘発細胞死は、ミクログリア細胞により貪食され集積した様相であると考え、ミクログリア特異的に発現する遺伝子ApoE(Apolipoprotein E)の発現をWhole-mount in situ hybridaization法により確認した。その結果、放射線を照射すると野生型胚とp53遺伝子欠損胚共にApoE遺伝子の発現は中脳全体に位置するようになり、またその発現が肥大化する事を確認した。それらの胚においてApoE遺伝子の発現に大きな差異は見られなかった。よって、細胞死の貪食過程に関与するミクログリア細胞の働きにはp53遺伝子は関与しない可能性が示唆された。 これらの結果について本大会において発表する予定である。
  • 保田 隆子, 日比 勇祐, 朽名 夏麿, 尾田 正二, 三谷 啓志
    セッションID: OF-3-2
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    哺乳類の胎児は母親の胎内で発生し、脳は皮膚で覆われているため、発達中の脳発生異常を詳細に観察することは困難である。一方、メダカ胚は体外で発生し、かつ卵殻が透明なので、発生の全過程を詳細に観察できる利点を有するモデル生物である。そこで、メダカ胚を用いて、放射線による発生中の脳への影響(ガンマ線10Gy)をwhole-mountアクリジンオレンジ染色により調べた結果、照射7-10時間後に2種類の特徴的な形態をしたアポトーシス、1)核濃縮した単一なアポトーシス細胞、2)それらが集積した細胞塊(核濃縮した単一なアポトーシス細胞が集積したもの)を視蓋の周縁部に観察した。後者は、まるでバラの花びらのような特徴的な様相を呈していたので、以降この形態を“ロゼット状のアポトーシス”と呼ぶ。ロゼット状のアポトーシスは、照射35時間後位まで継続して観察され、その後それらの数が減少する。電子顕微鏡による詳細な形態観察の結果、このロゼット状のアポトーシスは、1)アポトーシス細胞が10-15個集積したものであること、2)一つの細胞膜に包まれ、その中で細胞塊が貪食されていること、が判明した。 ミクログリア細胞は、定常状態において脳内の監視を担っており、脳内に細菌感染などが起こると免疫細胞として働き、それらを排除することが知られている。つまり、中枢神経ではこのミクログリア細胞が貪食細胞として働く。メダカでも、ミクログリアが脳内の放射線誘発アポトーシス細胞除去を行う貪食細胞として働き、1つのミクログリア細胞がアポトーシス細胞を多数集めて貪食する様相がロゼット状のアポトーシスではないか、と考えられた。そこで、ミクログリア細胞に特異的なApolipoproteinE (ApoE)遺伝子の発現をin situハイブリダイゼーション法により調べたところ、眼、中脳においてApoE陽性細胞が照射後に大きく肥大化して観察された。このような脳内で起こる放射線誘発アポトーシスにミクログリア細胞が働くことをin vivoで観察した報告は他に見当たらない。これらwhole-mount in situ染色をした胚の連続組織切片(8μm)をテクノビート樹脂により作成し、これら組織切片像約40枚を3D構築することによって、ミクログリア細胞とロゼット状のアポトーシスの局在を、脳全体で観察することに成功したので、ここに報告する。
  • 吉岡 進, 飯塚 大輔, 桐山 慧大, 河合 秀彦, 鈴木 文男, 西村 まゆみ, 島田 義也, 泉 俊輔
    セッションID: OF-3-3
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
     近年,エネルギーや医療面などにおける原子力・放射線利用への需要は拡大しているが,大規模な被ばく事故や災害が発生した際に,患者の被ばく線量を迅速に推定し,治療方針を決定する,トリアージ法(識別救急)は未だ確立されていない。本研究では,このような有事の際でも採取が容易な尿検体から,被ばく線量を推定できるバイオマーカーとなるペプチドやタンパク質を探索するため,被ばくマウスの尿プロテオーム解析を行った。
     B6C3F1マウス(9週齢)に対し,137Csを線源として0.25 Gy~6.0 Gyのγ線を照射した。被ばく後,経時的に採取した尿検体についてHPLC分取し,MALDI-TOF MS測定した結果,m/z 2821のペプチドが被ばくマウス尿中で特異的に増加していた。この分子をESI-Q-TOF MSによりMS/MS測定し,相同性検索を行ったところhepcidin 2であることがわかった。次に被ばく後の尿中hepcidin 2の経時変化をみたところ,それらは被ばく線量と被ばく後の経過時間に依存して増加していた。さらに被ばく後24時間での肝臓におけるhepcidin 2のmRNA発現量を比較したところ,その増加傾向は尿中の結果と類似していることも明らかとなった。
     以上の結果からhepcidin 2は放射線被ばくのバイオマーカー候補の一つとなりうることが示唆された。
    現在,hepcidin 2以外にも幾つかのバイオマーカー候補となる分子を同定しており,本発表ではそれらの経時変化や線量依存性についてもあわせて紹介する。
  • 土居 主尚, 吉永 信治
    セッションID: OF-3-4
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    放射線疫学の解析において線量反応関係を調べる回帰分析はしばしば用いられる。がん罹患の有無などの結果変数の誤差はモデルに含まれており、誤差により信頼区間が広くなることはあっても推定値にバイアスは生じない一方、線量である説明変数の誤差はモデルに含まれておらず、そのまま解析を行うと正しくリスク係数等のパラメータ推定値を求めることはできない。放射線影響研究において多くの場合、線量測定に誤差が含まれ、そのまま解析を行うとリスク係数の過小評価や過大評価が起こることが知られている。したがって、線量に含まれる誤差の大きさを定量化し、リスク係数のバイアスを補正するモデルが提案されており、測定誤差モデルと呼ばれている。放射線疫学の分野では線量測定における不確実性として2種類の誤差(Berksonとclassical)が知られており、これらの誤差を仮定し、調整を行うモデルは複数存在する。本研究では前年に引き続き、測定誤差モデルの性能評価を行う。今回は前回の結果に加え、しばしば用いられるMCMCに基づいた方法も追加する。
  • 豊田 新, 近藤 厚志, ズマディロフ カシム, 星 正治, 宮澤 忠蔵
    セッションID: OF-3-5
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
     歯のエナメルを用いたESR(電子スピン共鳴)線量計測により、福島第1原子力発電所事故以前の、福島県住民のバックグラウンド被曝線量の計測を行った。92試料のうち、77試料については100mGy以下の値であったが、最大で250mGyの値が得られた。舌側の試料の被曝線量は系統的に頬側の線量より低かったが、これが歯科X線の被曝によるものかどうかについては検討が必要である。提供者の年齢と被曝線量の間には相関がみられ、年間の被曝線量率として0.87 mGy/y が得られた。この値はこの地域の自然の放射線量率 0.33 mGy/y より有意に高い。今回の研究で得られた住民のバックグラウンド線量は、今後、住民の被曝線量を考察する際に差し引く必要がある。今回得られた線量と年齢別の線量のばらつきから考察したところ、50から60歳の年齢範囲について危険率5%に対して得られる最低の有意な被曝線量は、個人の線量に対しては約200mGy、同じ線量を被曝したことを仮定できる10人のグループに対しては約100mGyと得られた。
G: 非電離放射線
  • 寺西 美佳, 高橋 祐子, 宗村 郁子, 日出間 純
    セッションID: OG-1-1
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    紫外線B(UVB: 280-320 nm)によって生じる主なDNA損傷として、シクロブタン型ピリミジン二量体(cyclobutane pyrimidine dimer : CPD)と(6-4)光産物があげられる。生物はこれらのDNA損傷を、光を利用する光回復や、光を利用しない暗修復によって修復している。(6-4)光産物は、CPDに比べて二本鎖DNAに大きな歪みを生じさせるため、ヒト細胞においては暗修復により優先的に修復されることが知られている。植物におけるCPDと(6-4)光産物は、それぞれの損傷に特異的なCPD光回復酵素と(6-4)光回復酵素によって主に修復されている。CPD光回復酵素は、イネのUVB抵抗性を決定する主要因子であることを我々は明らかにしてきた。一方、(6-4)光回復酵素のイネUVB抵抗性への寄与程度は明らかでない。そこで始めに、UVB抵抗性の異なるイネ品種を用い、(6-4)光回復酵素活性を測定した。その結果、UVB抵抗性と酵素活性には相関が見られなかった。次に、レトロトランスポゾン Tos17 の挿入により(6-4)光回復酵素遺伝子が破壊された変異体を用いた解析を行った。変異体の(6-4)光回復酵素活性を測定し、野生型の活性と比較することで、(6-4)光回復酵素が欠損していることを確認した。そこで、UVB付加条件下での生育を検定したところ、(6-4)光回復酵素欠損変異体のUVB抵抗性は野生型と同等であった。シロイヌナズナにおいては、(6-4)光回復酵素を欠損した変異体のUVB抵抗性が野生型よりも低下することが報告されている。それに対しイネにおいては、本研究結果より、(6-4)光回復酵素がUVB抵抗性に寄与する程度は低いと考えられた。
  • 池畑 広伸, 東 正一, 亀井 保博, 小野 哲也
    セッションID: OG-1-2
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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    【背景】紫外線(UV)の皮膚に対するリスク評価には紅斑反応に基づく指標が広く利用されているが、ゲノム毒性との関連性が薄く、閾値事象で低線量の評価ができない。我々はマウス皮膚でUVによる突然変異誘発作用スペクトルを解析し、突然変異に基づくUV皮膚ゲノム毒性の評価法を開発した。更に太陽紫外線によって誘発される突然変異量を予測し、実測値と比較して評価法の有用性を検証した。【方法】突然変異に基づく評価指標として「変異原性(変異頻度上昇率)」と「変異誘発抑制」(mutation induction suppression, MIS)を用いた。MISは一定線量を超えると変異頻度の上昇が抑えられ横ばいになる表皮の反応である。MISを誘発する最小線量を利用してMIS反応の作用スペクトルを得た。太陽紫外線による誘発変異量予測値は、変異原性作用スペクトルと太陽紫外線強度分光分布から実効スペクトルを求め、それを波長に対して積分し、更にそれを照射時間に対して積分して求めた。ただし表皮についてはMIS作用スペクトルから同様にして得られる値が照射時間に対する積分で1を超える場合は(MIS発動線量に達したことを意味する)、1に達する照射時間までの積分値を予測値とした。太陽紫外線強度分光分布のデータは気象庁が筑波で測定したものを利用した(データ取得先:www.woudc.org)。マウス皮膚における太陽光誘発突然変異頻度の実測値は、過去に東北大学(仙台)で夏の晴天の正午頃に数回実施した実験のデータを利用した。【結果・考察】表皮・真皮ともに単位時間あたりの変異頻度上昇率の予測値は実測値とよく一致した。正午頃1時間の照射による予測誘発変異頻度は真皮では実測値と一致したが、表皮ではやや実測値より小さかった。この不一致はMIS反応に波長間相互作用がある可能性を示唆すると考えられる。太陽光照射実験で実際に観測したMIS発動最小時間で計算すると予測値も実測値の範囲内に収まった。(基礎生物学研究所大型スペクトログラフ共同利用実験10-501)。
  • 石井 恭正, 宮沢 正樹, 尾内 宏美, 安田 佳代, 石井 直明
    セッションID: OG-1-3
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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      これまでに我々は、ミトコンドリア電子伝達系複合体IIサブユニットSDHCにアミノ酸点変異(線虫G71E,ハエI71E, マウスV69E)を有したモデル動物を用いて、ミトコンドリア活性酸素の過剰発生に伴う生体機能の変化を明らかにしてきた(M. Tsuda, et al. BBRC 2007, T. Ishii, et al. Cancer Res. 2005, N. Ishii, et al. Nature 1998)。詳しくは、線虫mev-1変異体では神経変性疾患様の表現型を呈し短寿命となり、マウス胎児線維芽細胞のSDHC E69細胞株では過剰なアポトーシスを生じる一方で、高頻度にDNA変異を生じ形質転換することを明らかにした。ヒトのSDHC変異は、家族性(傍神経節腫)パラガングリオーマなどの造腫瘍を引き起こすことが報告されており、SDHC E69細胞株の解析結果はそれらを証明する成果となった。
      最近、mev-1同様のアミノ酸点変異(SDHC V69E)をコードする遺伝子発現を任意に誘導することが可能なTet-mev-1コンディショナルトランスジェニックマウスを作製した。このTet-mev-1マウスには独自に開発したTet-On/Offシステムを用いており、SDHC V69Eの遺伝子発現量を内因性のSDHCと同等の量で制御することを可能とした。その結果、Tet-mev-1マウスはミトコンドリア活性酸素の発生に伴い過剰なアポトーシスが誘導され低出生体重仔として産まれ、生後12週齢まで成長遅延を生じることが明らかとなった(T. Ishii, et al. Mitochondrion 2011)。また、性成熟後には、妊娠率や出産率の低下が生じ、時には妊娠母体死にいたることが確認された。
      以上の結果を踏まえ、本発表では、Tet-mev-1マウスが高齢者不妊あるいは胎児へのミトコンドリア酸化ストレスの影響を明らかにするためのモデルとして有用であると考え、その表現型解析結果をもとに酸化ストレスの不妊と習慣流産への影響について考察する。
H: 放射線物理・化学
  • 迫田 晃弘, 石森 有, 深尾 光佑, 片岡 隆浩, 花元 克巳, 川辺 睦, 田中 裕史, 光延 文裕, 山岡 聖典
    セッションID: OH-1-1
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
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     ラドンによる被ばく線量の評価は、その重要性から多くの研究報告がなされてきた。ラドンの吸入に起因した線量を考えるとき、次の3種類の被ばくパターンを主に考える必要がある。  (1)ラドン子孫核種の吸入による肺沈着、(2)ラドンガスの肺気道における滞留、(3)ラドンガスの吸入による体内動態。  これまでの研究報告のほとんど全ては、特に線量寄与が高いパターン(1)についてである。  我々はこれまで、マウスを用いたラドン曝露実験を行い、体内の生化学的変化を観察してきた。ここで、肺以外の主要器官も観察対象としてきたため、諸器官・組織の吸収線量を評価する必要があった。そのため、ヒトに対して確立されてきた線量計算モデルを適用して、上記の各被ばくパターンに対する実験小動物の吸収線量を計算してきた。また、このような評価を進めていくことは、環境の放射線防護の観点からも重要と考えられる。  ここでは、マウスの結果例を示す。被ばくパターン(1)は上気道領域、肺胞領域、肺全体でそれぞれ51.6、4.6、35.9 nGy/(Bq/m3)/h、(2)は上気道領域、肺胞領域、肺全体で0.036、0.015、0.029 nGy/(Bq/m3)/h、(3)は脂肪、赤色骨髄、その他(平均)で0.056、0.029、0.002 nGy/(Bq/m3)/hであった。(1)による被ばくが最大の線量を与えることが確認され、次いで(2)、(3)の順で高かった。この傾向はラットでも確認され、ヒトと同様の傾向であった。本発表では、使用した線量計算モデルを概説し、ヒトと小動物における線量比較、線量評価上の課題などを紹介する。
  • 坂間 誠, 金井 達明, 福村 明史, 日向 猛
    セッションID: OH-1-2
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    静的な照射法による粒子線治療では、腫瘍に対して一様な効果を得るためにリッジフィルタを用いて深部方向にブラッグピークを広げたSOBPビームを用いている。そのためSOBP内は、様々なエネルギーの一次粒子やフラグメント粒子が混在した領域となっている。現在、SOBP内の線量測定には、一般的に電離箱が用いられており、吸収線量の決定には実際のSOBP内の線質情報による物理パラメータが良く分かっていないことから、単一エネルギーの線量測定に用いられる線質補正係数を使用している。カロリメトリは原理的に直接エネルギー量を測定することから、最も直接的な線量測定法である。SOBP内に設置されたグラファイトカロリメータを用いて線量測定を行うことにより、SOBP内での吸収線量を高精度に決定した。  エネルギー290MeV/n、SOBP60mm、照射野の直径10cmと5cmの炭素線を用いてグラファイト中でのSOBP中心位置でカロリメータ測定を行い、SOBP中心の絶対線量を決定し、同様のジオメトリと測定位置で電離箱による線量測定を行った。使用した電離箱は平行平板型電離箱と指頭型電離箱である。次に水中でSOBP中心において電離箱による線量測定を行った。カロリメータによって求められた吸収線量と電離箱による線量の比較を行い、電離箱の線量測定の検証を行った。 290MeV/nの炭素線、SOBP60mmの中心位置において、線量測定プロトコルのIAEA TRS 398に従って計算された線質補正係数を用いた場合には、電離箱によって得られた吸収線量はカロリメータによって得られた吸収線量に比べて3%程度小さい値となった。直径10cmと5cmの照射野でのSOBPビームに対するカロリメータによる線量測定と電離箱の線質補正係数の詳細な結果について報告する。
  • 鎌田 七男, 斎藤 紀, 遠藤 暁, 木村 昭郎, 静間 清
    セッションID: OH-1-3
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    東京電力福島第一原子力発電所より北西約37kmに居住する住民15名(飯館村10名、川俣町5名)の外部および内部被ばく線量の推定を行った。5月5日と5月29日に各人に面接を行い、爆発後の住民の行動、食物摂取状況を聞き取った。同時に採尿を行った。外部被ばく線量は各家庭の庭先での空間線量を測定し、飯館村・川俣町役場での測定値減少傾向を参照し各家庭での日々の空間線量を推定した。避難者については避難場所の公式測定値を用いた。空間線量値を1とし、車内0.8,日本家屋0.4、コンクリート家屋0.1の遮蔽効果値を付与し、その場における時間を乗じて被ばく線量とした。放射能沈着のあった3月15日から5月5日までの47日間の積算線量を個人別に推定した。成人の平均積算線量は10.5mSv,小児のそれは平均6.4mSvであった。内部被ばく線量推定のため、5月5日に第1回目、5月29~6月4日に第2回目の尿を同一人らから得た。それぞれの尿は低バックグラウンドGe検出器により測定された。セシウム134と137による内部被ばくの預託実効線量は、成人は平均0.055mSv,小児は0.034mSvと推定された。ヨウ素131は成人4名、子供1名計5名に54日目尿において検出された。全身への預託実効線量は成人4名の平均で2.5mSv,子供1名では2.2mSvであった。外部被ばく対内部被ばく(セシウムのみ)比は87:1~566:1であった。
  • 吉田 浩二, 林田 直美, 橋口 香菜美, 森田 直子, 工藤 崇, 松田 尚樹, 山下 俊一, 高村 昇
    セッションID: OH-1-4
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    背景と目的:東日本大震災発生後、福島第一原子力発電所1号機で水素爆発があり、放射能が環境中に放出された。その後、日本各地ではモニタリングポストで測定された空間線量率が公開され、それに基づいて計算された年間の積算線量によって人体への影響についての議論がなされている。我々長崎大学は、震災後より二次被ばく医療機関の構築と環境モニタリングを主な活動目的として、福島県への災害派遣を行ってきた。活動拠点である福島県立医科大学病院は県内でも比較的線量が高い福島市に位置している。今回、福島市役所で測定された空間線量率と派遣中に測定した外部被ばく線量とを比較したので、派遣終了後に長崎大学で測定した内部被ばく線量結果も併せて報告する。 方法:福島県立医科大学で派遣活動を行った長崎大学病院の医師、看護師、診療放射線技師のうち、研究について同意が得られた7名(20データ)を対象とした。各派遣期間中の外部被ばく線量を個人線量計で測定し、同期間中に福島市役所で測定された空間線量率と比較した。対象者からは作業内容、活動場所などの行動記録を聴取した。  結果:対象者は3月15日から7月27日までの期間にそれぞれ5日間から13日間の派遣活動を行っていた。期間中の空間線量率は、最大で3月18日に12.34μSv/h、最小で7月23日の0.94μSv/hであったが、対象者の外部被ばく線量は最大でも1.63μSv/h、最小は0.08μSv/hであった。全ての対象者において、実際に受けた外部被ばく線量は公開された空間線量率より低くなっていた。複数回の派遣活動を行った2名の医療従事者の内部被ばく線量を測定した結果、震災当初では131Iや137Csが検出されたが、複数回の派遣後には検出限界以下となっていた。  結語:今回の調査からも人体が受ける外部被ばく線量と空間線量率との乖離は明らかであり、被ばくについての正しい理解と議論が必要である。
  • 平良 文亨, 林田 直美, 山下 俊一, 工藤 崇, 松田 尚樹, 高橋 純平, グテビック アレキサンダー, カズロフスキー アレキサンダ ...
    セッションID: OH-2-1
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】本年3月11日、東日本大震災の複合災害により福島第一原子力発電所の放射能漏れ事故(以下、「事故」という)が発生し、環境中に多量の人工放射性核種が拡散している。放射線防護の観点から、周辺の環境放射能レベルの把握と被ばくリスク評価は、極めて重要な科学的根拠となる。そこで、環境汚染の指標となる土壌に着目し、事故後に福島県内で採取した土壌の核種分析を実施し、25年前に原子力発電所事故を経験したチェルノブイリ周辺地域の環境放射能レベルと比較した。【方法】福島第一原子力発電所から30km辺縁に位置する地点において、事故直後及び事故後4ヶ月に土壌を採取し、事故直前にチェルノブイリ原子力発電所周辺地域で採取した土壌とともに、それぞれゲルマニウム半導体検出器にてγ線スペクトロメトリーを実施し、放射能濃度を測定後、人工放射性核種による実効線量を算出した。【結果】事故直後、福島県内では、131I等の短半減期核種を含む最大6種の人工放射性核種が検出され、137Csの濃度で比較すると、チェルノブイリ周辺地域に比べ非常に高いレベルの地点があった。また、実効線量を算出した結果、最大5.7μSv/hで比較的半減期が短い、131I及び、134Csが大きく寄与していた。さらに、事故後4ヶ月では、主な検出核種は放射性セシウム(、134Cs及び、137Cs)であった。【考察】種々のモニタリング結果から、事故後環境中に放出された多量の放射性核種は、広く周辺に拡散し地面等に沈着したことが推定されるが、福島県内の環境放射能レベル及び実効線量に大きく関与した人工放射性核種としては、事故直後は、131I及び134Cs、その後134Cs及び137Csに変化していることが示唆される。今後、人工放射性核種による環境・健康リスク評価を継続し、不必要な放射線被ばくの低減化を図るとともに、国民の安全・安心につながるきめ細かい情報提供が重要である。
  • 川口 勇生
    セッションID: OH-2-2
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    近年、放射線がヒト以外の生物に与える影響が注目されてきており、ICRPではPublication 108でリファレンス動植物を用いたヒト以外の生物への吸収線量の推定方法が提案されている。一方、原発事故などの放射性核種放出による汚染において、広範囲に空間線量率が計測されており、空間線量率を用いてヒト以外の生物影響を評価する動きがある。しかし、空間線量率は、空気吸収線量もしくは1cm線量当量であり、そのままではヒト以外の生物影響データと比較できない。そこで本研究では、空間線量率から生物吸収線量に変換する換算係数をICRPリファレンス動植物の陸生生物について導出した。 セシウムのみの汚染状況で比較すると、沈着初期では、空間線量率を用いた評価では1桁から2桁程度の過小評価になり、年月が経過し土壌に浸透した状態では空間線量率と比較してリファレンスシカで5倍弱の過小評価になり、土壌上で生息する動物についてはほぼ等しくなることがわかった。また、短半減期の核種が空間線量率に影響している状況についても、検討を行い結果を報告する。
  • 下林 俊典, 吉川 研一, 森 利明, 吉川 祐子
    セッションID: OH-2-3
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    DNA二重鎖切断(DSBs)は細胞に重篤な変化をもたらす。細胞内でのDSBsについては、近年高感度で検出可能である免疫蛍光法が開発され、細胞内でのDSBsの観察例が多数報告されている。しかしながら、この方法では全てのDSBsが間違いなく検出されているか否か、その検証を行うことがほとんど不可能である。一方で、電気泳動などの通常の生化学実験によるin vitroでのDSBsの定量実験は、蛍光強度ノイズに短鎖DNAが埋もれてしまい定量化の信頼性は疑わしい。また100kbpを超えるような長さのDNAに関してはPFGEを用いなければならず、100kbpに一個程度以下の低頻度DSBsの定量化の信頼性は更に悪くなることが知られている。
    最近我々は、高感度蛍光顕微鏡を用いて、溶液中における単一DNA分子を直接観察しDSBsを定量化することに成功し、DSBs確率が励起光照射量の二乗に比例すること[1]や、DNAの凝縮転移により二桁DSBs確率がさがること[2]などを報告している。
    今回、本実験においてもこの手法を活用し、直接単一DNA分子の長さを測定しγ線によるDSBsの定量化を行った。その結果は、DSBs生成確率はγ線照射量(100Gy以下で)に比例し、1Gyの照射では10Mbpに約1.7個のDSBsが生じることが明らかとなった。これは、ヒト細胞のゲノム総量が6Gbpであることを考慮すると1mGyの照射によって、一細胞当たり約1個のDSBsを生ずることに相当する。
    ヒトの核内で凝縮状態にあるDNAについて、その損傷確率を求めることが次の課題である。
    [1] Y. Yoshikawa. et al., FEBS Lett. 566, 39 (2004)
    [2] M. Suzuki. et al., Chem. Phys. Lett. 480, 113 (2009)
  • 齊藤 剛, 藤井 紀子
    セッションID: OH-2-4
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】自然界より単離された放射線耐性細菌はその共通の特徴としてカロテノイド色素を含有していること、そしてこれら細菌の無色突然変異株は電離放射線に対して感受性となることが報告されている。そのため、放射線耐性細菌の放射線耐性機構に含有カロテノイド色素が関与していると考えられている。また、これらカロテノイド色素は細胞中において細胞膜等脂質部位に局在していることが知られている。これらのことより、放射線耐性細菌含有カロテノイド色素は、生体脂質等の生体分子を電離放射線による損傷より防護することによりその放射線耐性機構に寄与しているという生体防護機構が考えられる。本研究では最も単純な生体脂質である脂肪酸(リノレン酸)へのγ線照射による分解反応および過酸化反応に対する、代表的カロテノイド色素(β-カロテンおよびアスタキサンチン)の影響について解析を行った。【方法】1)0.5 Mリノレン酸ベンゼン溶液に対して最終濃度5.0 x 10-8 ~ 8.5 x 10-3 Mとなるように各種カロテノイドを添加し溶液を調製した。2)調製溶液に対し60Coγ線を30 kGy照射した。3)照射試料に対しTBA反応を行い、反応液の532 nmの吸光度を測定することにより、脂質の分解生成物であるmalondialdehyde量を定量し、γ線照射によるリノレン酸の分解反応に対する各種カロテノイドの添加効果に関して解析を行った。4)照射試料のn-ヘキサン溶液の230-236 nmの吸光度を測定することにより、生成共役ジエン量を定量し、リノレン酸の過酸化反応に対する各種カロテノイドの添加効果に関して解析を行った。【結果および考察】β-カロテンおよびアスタキサンチンは共に、γ線照射によるリノレン酸分解反応に対して相対的高濃度で抑制的効果を、相対的低濃度で促進的効果を示した。また、β-カロテンおよびアスタキサンチンは共に、γ線照射によるリノレン酸過酸化反応に対して有意な影響を与えなかった。これらのことより、放射線耐性細菌細胞中においてカロテノイド色素は、γ線照射による過酸化脂質生成後の生体分子損傷に対して防護的に機能し、その生体防護機構に寄与していることが示唆された。さらに、生体中のカロテノイド色素濃度は厳密に制御されている可能性が示された。
一般演題・ポスター発表
A DNA損傷・修復
  • ジャムスランジャヴ エルデントクトホ, 加藤 祥成, 吉田 茂生, 伊藤 敦
    セッションID: PA-1
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    緒言:中性子は、X線などにくらべて生物作用が大きいという特徴がある。これは放射線荷重係数が、エネルギーにもよるが5-20というところに示されている。この特徴を利用して、速中性子は過去単独でがん治療に試みられ、遅中性子はホウ素化合物存在下でホウ素中性子捕捉療法(BNCT)にも利用されている。本研究ではこのようなエネルギーによって異なる中性子の生物作用のメカニズム、及びBNCTのメカニズムを調べるために、DNA鎖切断を指標にラジカルが関与する間接作用の寄与を求めることを目的とした。 実験:東大の弥生炉からの高速中性子(1~10MeV)及びアクリルファントムで低エネルギー化した中性子をpBR322プラスミドDNAに水溶液状態で照射した。対照実験として、58kVpのX線を用いた。通常閉環構造のプラスミドは、1本鎖切断(ssb)によって開環構造となる。さらに開環構造の切断位置の向かいの鎖に切断が起こる、あるいは、閉環構造に2本鎖切断(dsb)が起こると直鎖構造へと変化する。これら3つの構造は、アガロースゲル電気泳動法により分離後、DNAに結合する蛍光色素臭化エチジウムで処理し、紫外線を照射することによって可視化した。 結果・考察:間接作用の主因であるOHラジカルを捕捉するDMSOをDNA水溶液に添加し、炉心中心の高速中性子で照射する実験を行った。閉環構造は、線量とともに減少したが、その減少は、DMSOの濃度依存的に防護されることがわかった。防護率の濃度依存性のデータから、濃度無限大での防護率を求めると、間接作用の寄与は約67%となり、これはX線の場合とほぼ同じであった。次に人体を模擬したファントム内の各部分にDNAを設置し、速中性子を通過させ、照射した。間接作用の割合のファントム内位置依存性についてはあまり大きいな変化がないものの熱中性子束分布と平行するように見えた。ホウ酸を混合した実験では、中性子のみの場合より10B濃度依存的にssb、dsbともに増加し、dsb/ssb比も上昇した。また、これらの鎖切断が最も起こるファントム内の深さでは中性子線束も最大となった。この結果から次の二つの結論を得た。 1)中性子での間接作用の割合に関して、炉心内での高速中性子はファントムで熱化した中性子の場合よりやや小さいものの、いずれもX線と顕著な差は見られなかった。RBEの違いは、直接作用、間接作用の割合の違いから単純には説明できないと考えられる。 2)ホウ酸添加によるDNA鎖切断はdsbの割合を増大させた。この増加は中性子スペクトル分布から熱中性子によるものであることがわかった。
  • Shoulkamy Mahmoud, 大嶌 麻妃子, 光定 雄介, 中野 敏彰, 井出 博
    セッションID: PA-2
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    内因性および環境中のDNA損傷因子は,DNAとタンパク質が不可逆的に結合したDNA-タンパク質クロスリンク(DPC)損傷を誘発する。DPCの生物影響を明らかにするためには,ゲノムにおけるDPCの生成量およびその動態を明らかにする必要がある。これまでに,アルカリ溶出法,ニトロセルロース膜結合法, SDS-K沈殿法,およびコメット法などがDPC定量法として用いられてきた。これらの方法はいずれも,タンパク質と共有結合したDNA量に基づきDPCを間接的に検出するものであり,試料DNAの鎖長が定量性に影響するほか,DNA量からDPC量(=クロスリンクタンパク量)への変換には様々な仮定が必要であるため,半定量的なDPC検出法である。したがって,より定量的なDPC検出法の開発が望まれる。本研究では,クロスリンクタンパク質の直接検出に基づく新規なDPC定量法を開発した。典型的なDPC誘発剤である種々のアルデヒド化合物でMRC5細胞を処理し,塩化セシウム密度勾配超遠心法でゲノムDNAを精製した。クロスリンクタンパク質をFITCで標識し,蛍光測定によりDPCを定量した。その結果,生理的に意味のあるアルデヒド処理濃度(10%細胞生存率)で十分なシグナルが得られることが分かった。この方法で調べたDPCの生成量,動態,安定性,修復の影響について報告する。さらに,FITC標識を用いたDPC検出法の高感度化,放射線照射により生じるDPCの検出も行っており,その結果についても報告する予定である。
  • 椎名 卓也, 菅谷 雄基, 白石 伊世, 渡邉 立子, 横谷 明徳, 鶴岡 千鶴, 鈴木 雅雄
    セッションID: PA-3
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    本研究では電離放射線によって生じるDNA損傷のうちAPサイト(脱塩基部位)に着目し、難修復性のクラスターDNA損傷を構成する要素としてのAPサイトの収率の放射線の線質および依存性を明らかにすることを目的としている。Sutherland等(2002)は、X線が照射されたヒト細胞中に生じるAPサイトを含むクラスターDNA損傷(数ヘリカルターン以内に2個以上の損傷が生じる複雑な損傷形態)が、ピリミジン塩基あるいはプリン塩基の損傷を含むクラスター損傷と同程度の収率で生成すると報告している。しかし、より難修復性のクラスターDNA損傷が生じると考えられる重粒子線照射に関する知見はほとんどない。さらにAPサイトが他の損傷とクラスターを構成することでその後の修復過程に大きく影響することが、多くの合成クラスター損傷を含むオリゴヌクレオチドを用いた実験により明らかにされつつある。我々は、スキャベンジャー濃度を様々に変えたプラスミドDNAを試料として用い、これに異なる線質および異なるLETの放射線を照射した際に生じるAPサイトとこれを含むクラスターDNA損傷の収率の違いを調べている。APサイトは、AP lyase のひとつである大腸菌由来のEndoculeaseIV (Nfo)で処理することで、鎖切断として検出した。試料中のスキャベンジャー濃度を変えることで、APサイト生成に果たす直接効果と間接効果の違いについても調べた。その結果、線質およびLETの違いによってNfo認識サイトの収率に差が見られた。本講演では、X線及びHIMACから得られる炭素イオンビーム(290MeV/nucleon, LET 13, 60keV/μm)の照射により生じるAPサイト及びこれを含むクラスターDNA損傷の生成過程について、鎖切断や塩基損傷の収率に関するデータと比較しながら議論する。
  • 勝部 孝則, 森 雅彦, 辻 秀雄, 塩見 忠博, 小野田 眞
    セッションID: PA-4
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    放射線は,その電離作用により一次的に,あるいは細胞の代謝系に作用することで二次的に,細胞内活性酸素種(ROS)の増加をもたらす。ROSはその酸化作用により標的分子(DNAなど)の損傷を引き起こすと同時に,細胞内および細胞間情報伝達系に影響することが知られている。我々がヒト大腸癌由来のHCT116細胞からジーンターゲティング法により樹立したXRCC4遺伝子欠損細胞(XRCC4-/-)は,放射線だけではなく,ROSの一種である過酸化水素(H2O2)に対しても高感受性(生存率低下,染色体異常誘導)を示す。XRCC4-/-はDNA二本鎖切断(DSB)修復に関わる非相同末端結合不全であることから,H2O2によってもDSBが誘導されている可能性がある。実際,HCT116親株とXRCC4-/-の両細胞で,H2O2処理後にγH2AXおよびATM[pS1981]の核フォーカスが誘導されることを確認している。今回,これらのフォーカス形成の動態についてさらに詳細な検討を行った。その結果,H2O2に曝された細胞におけるγH2AXフォーカスは,(1)個々の輪郭が不明瞭,(2)誘導される数が細胞毎に不均一,(3)多くがATM[pS1981]フォーカスと共局在しない,(4)8時間後までに一旦消失した後,24時間後に再誘導される,などの点でX線で誘導されるフォーカスとは明らかに異なる特性を示すことが見いだされた。以上の結果から,H2O2に曝露された細胞では,X線とは異なる機構でDSBが誘導されると考えられた。現在,H2O2によるγH2AXフォーカスの誘導と細胞周期の関連について検討中である。
  • 島崎ー徳山 由佳, 井上 侑子, 古澤 佳也, 井出 博, 寺東 宏明
    セッションID: PA-5
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    電離放射線によって、DNAには様々な種類の酸化損傷が発生するが、DNA上のその存在様態も様々である。電離放射線による傷害はそのトラック周辺に局在することから、DNA上に発生する損傷もまた局在する。この局所的に集中して発生する損傷を、クラスターDNA損傷と呼び、放射線特異的損傷として認識されている。一方、孤立して発生する様々な酸化損傷は、電離放射線以外の酸化ストレスによっても生じるが、その収率はクラスターDNA損傷の数十倍に達することから、その量的な効果を無視することはできない。すなわち、放射線効果の分子機構の解明には、クラスターDNA損傷と孤立損傷、両方の解析が必須である。そこで、本研究では重粒子線によって照射された細胞内に生じる両損傷の解析を行い、放射線効果との関連性を検討した。
    実験は、まずChinese Hamster Ovary (CHO) 細胞AA8株を、ガンマ線(Gamma)、炭素イオン線(C)、硅素イオン線(Si)、アルゴンイオン線(Ar)にて照射した。それぞれの線エネルギー付与(LET)は0.2 keV/µm、13 keV/µm、55 keV/µm、90 keV/µmである。孤立損傷の解析は、照射細胞から染色体DNAをNaI法で抽出、精製し、アルデヒド反応性プローブで修飾して化学発光法により定量する方法で行った。酸化ピリミジン損傷ならびに酸化プリン損傷は、それぞれ大腸菌endonuclease (Endo)III、ヒトOGG1による酵素処理にて検出した。一方、クラスターDNA損傷の生成収率は、Endo IIIおよび大腸菌Fpg処理を併用したスタティックフィールド電気泳動にて解析した。その結果、照射細胞内における孤立損傷の総生成収率は、[Gamma > C > Si > Ar]という傾向を示し、LETの増大に対して、孤立損傷の総生成数は減少することがわかった。他方、細胞内クラスターDNA損傷の総生成収率も[Gamma > C > Si > Ar]という、同様の傾向を示した。これらの結果は、我々が以前報告した試験管内実験における結果と一致している。また同時に行ったコロニー計数法による細胞生存率から、LET依存的な生存率低下が認められた。以上の結果から、重粒子線におけるLET依存的な生物効果の増大について、DNA損傷の量的効果だけでなく、クラスターDNA損傷の質的な効果を検討することの重要性が示唆された。
  • 赤松 憲, 鹿園 直哉
    セッションID: PA-6
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    電離放射線によって生じたDNA損傷は、完全に修復されなければ突然変異や発癌の原因になるといわれている。特に、高LET放射線の飛跡周辺や二次電子の飛跡末端で生じやすいとされている、いわゆるクラスター損傷(複数の損傷がDNA上の狭い領域に集中的に生じている)は修復が困難とされているが、その実体はほとんど明らかになっていない。そこで我々は、このような仮説的な損傷を実験的に解明するために、フェルスター共鳴エネルギー移動(FRET)現象に着目した損傷位置ばらつき評価法の開発を行っている。APに蛍光プローブ(AlexaFluor350、及びAlexaFluor488型)標識したDNAオリゴマーを用いたモデル実験において、AP損傷間距離に応じたFRET効率が得られることをすでに確認している(前年会PA-7)。次に、APがランダムに生じると予想される熱処理(70℃、pH5)DNA(pUC19, 2686 bp)を用いて、FRET実験データ点とランダムな場合(指数分布)の理論曲線を比較した。その結果、両者は一致することが分かった。熱処理DNAにはAPがランダムに存在することを実験的に初めて確認できたといえる。本FRET法の放射線照射DNAへの適用についても報告する。
  • 菅谷 雄基, 椎名 卓也, 白石 伊世, 藤井 健太郎, 横谷 明徳
    セッションID: PA-7
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    数keV以下の軟X線は、DNAを構成する元素の内殻電子の励起やイオン化を引き起こすエネルギー領域を含んだ電磁波である。我々は放射光を光源として用い、軟X線のエネルギーの違いがどのようなDNA損傷の違いをもたらすかについて、その生成過程を含めて研究している。我々は過去に、窒素及び酸素などを元素選択的にK殻イオン化することで、DNA内に選択的に鎖切断あるいは塩基損傷を引き起こせることを報告した。また、昨年の本大会では、酸素のK殻共鳴励起によって生じるDNA損傷について報告した。これらの研究から、酸素のK殻イオン化を引き起こすと、塩基損傷収率が窒素のK殼イオン化の収率と比べ急激に増えることがわかっている。 本研究では、軟X線を照射したDNAに生成される鎖切断や塩基損傷、APサイトを定量し、内殻励起やイオン化が選択的損傷生成に果たす役割を明らかにすることを目的とする。試料にはプラスミドDNA(pUC18)を用い、SPring-8のBL23SUを使用して照射を行った。ピリミジン塩基損傷及びプリン塩基損傷、APサイトの検出は、それぞれNth、Fpg、Nfoの3種類のDNAグリコシレースで処理しSSB(single strand break)に変え、アガロース電気泳動法によって定量した。今回は、酸素のK殼イオン化エネルギー領域について、DNA損傷の収率変化を報告し、それらがDNA損傷の選択的な生成機構に寄与するかについて議論する。
  • 岡 壽崇, 横谷 明徳, 藤井 健太郎
    セッションID: PA-8
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    DNA核酸塩基およびDNA変異の物理化学過程の解明のため,ピリミジン核酸塩基(チミン,シトシン)と仔牛胸腺DNA薄膜のESR測定を行った。全ての薄膜において,軟X線照射中のみ薄膜中に誘起される不対電子のg値2.000は, 自由電子のg値2.0023よりも低いことから,観測されたESRシグナルはイオン化により生じた自由電子のものではないことがわかった。核酸塩基のESR強度の窒素及び酸素のK殻吸収端近傍の軟X線エネルギー依存性を調べたところ,X線吸収微細構造(XANES)を反映したピークが現れた。シトシンは,イオン化閾値以上のエネルギーにおいてESR強度がXANES強度よりも2倍以上大きかったの対し,チミンではほとんど強度が変わらなかったことから,シトシンはチミンと比べて内殻励起・イオン化による不対電子収率が高いことが示された。一方,仔牛胸腺DNA薄膜のESR強度もシトシン同様XANES強度よりも大きいことが明らかになった。これらのことから,シトシンは内殻イオン化によって生成した正孔に加えて,光電子はオージェ電子の付着の結果生じるアニオンラジカルを一緒に検出しているために不対電子収率が高かったと考えられ,DNA核酸塩基およびDNA変異過程において電子の一時的な貯蔵庫の役割を果たしていることが推察される。
  • 奥村 覚二, 木梨 友子, 岡安 隆一, 久保田 善久, 高橋 千太郎, 小野 公二
    セッションID: PA-9
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】中性子によるDNA損傷とその修復については種々不明な点が残っている。CHO細胞及びその突然変異株でKu80欠損細胞であるxrs5細胞を用い、京都大学原子炉(KUR) 重水設備を用いた中性子照射によって誘発されるDNA二重鎖切断(DNA-DSBs)の誘発、及び中性子の線量率効果をγH2AX及び53BP1フォーカス形成を指標として評価することを目的とした。
    【方法】CHO細胞及びxrs5細胞は常法に従い培養し、重水設備による中性子照射を行った。なお、線量率は1MW時:約2Gy/50min、5MW時:約2Gy/10minであり、いずれの場合も線量の約半分は混入γ線が寄与している。また、対照として60Coのγ線照射(約2Gy/50min)を行った。照射終了1時間後に、γH2AX及び53BP1抗体を用いて免疫染色し、フォーカス数を計数することによりDNA-DSBsの誘発、中性子の線量率効果を評価した。
    【結果】生存率曲線はCHO細胞、xrs5細胞ともに、γ線照射群と中性子照射群との間で違いが見られたが、中性子の線量率による違いは見られなかった。またγ線照射終了1時間後におけるγH2AX及び53BP1フォーカス数はCHO細胞、xrs5細胞とも線量に比例して増加していた。現在、フォーカス形成以外の観点から誘発されるDNA-DSBsの程度を評価する実験を行っている。
    【結論】今回用いたKUR重水設備の中性子場は、熱中性子、熱外中性子、速中性子及びγ線の混合場であり、中性子のみの影響を明確にすることは難しい。中性子の線量率の違いでは、生存率に有意の変化は見られないものの、KUR重水設備により供給される中性子場でのDNA-DSBsの様態はγ線と異なっていた。また、Ku80欠損細胞であるxrs5細胞ではCHO細胞と比較して、生存率の低下・53BP1フォーカス数の増加が観察された。
  • 渡邊 立子, 椎名 卓也, 横谷 明徳
    セッションID: PA-10
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    我々は、これまでに、放射線飛跡構造のシミュレーションを手段としてDNA損傷の研究を行い、高LET放射線照射の場合のような大きな致死効果を生む条件では、修復されにくいと考えられる局所的に複数の損傷が集中したクラスターDNA損傷の生成頻度が高いことを示すなど、DNAの初期損傷のスペクトルの推定を行ってきた。この結果を用い、放射線細胞応答の引き金となる損傷の実体を明らかにすることを目的とし、致死等の細胞応答と初期DNA損傷の関係に対するモデルの提案を目指している。しかし、そのためには、クラスターDNA損傷といったナノメートル領域レベルでの損傷分布のみならず、細胞核内構造領域レベルでのクラスターDNA損傷間の位置関係に関する情報も必要であると考えられる。そこで、今回は、まず細胞核内でのDNA損傷推定の精度向上を図りDNA構造モデルやスペクトル解析法に改良を行ったシミュレーションシステムを用い、γ線・X線および重粒子線照射におけるクラスター損傷を含むDNA損傷のタイプ別の収率(損傷スペクトル)の計算を行った。この上で、細胞核内染色体領域サイズレベルでの、放射線の飛跡に沿った各タイプのDNA損傷の生成位置について解析した結果について示す。この中で、特にγ線など低LET放射線においては、低線量域で生じる線量分布の不均一性に着目した解析結果についても示す。これらのシミュレーションにより得られるDNA損傷スペクトル・損傷間の相互関係に関するデータについては、主にLETの関数として、実験で得られた細胞生存率曲線から見積もった致死損傷量と比較して議論する。
  • 横谷 明徳, 鵜飼 正敏, 岡 壽崇, 藤井 健太郎
    セッションID: PA-11
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    私たちはこれまで、単色化したシンクロトロン軟X線のエネルギーをDNA構成元素の内殻イオン化領域に合わせることで、部分的ではあるがDNAの鎖切断あるいは塩基損傷を選択して誘発することが可能であることを報告してきた(藤井等、2009年大会)。これらの知見から、単色軟X線がクラスター塩基損傷など生物影響の主要な要因の一つであるとされる難修復性の複雑なDNA損傷生成過程を解明するための重要なツールとして期待される。内殻電子励起とこれに続くAuger緩和を経た後のイオン化したDNAは、化学的に安定化した分子変化(損傷)に至る前駆体と考えられる。軟X線のエネルギーがDNAを構成する炭素、窒素、酸素のイオン化閾値より十分に高い場合は、これらの元素は2価陽イオンになる。しかしイオン化閾値に十分近い場合は、イオン化する光電子のエネルギーの速度が遅く後続のAuger電子が光電子を追い越す場合がある。これにより原子のポテンシャルが変化して光電子の著しい減速がおこり、再び原子に捕獲される可能性がある(Post Collision Interaction (PCI)過程)。PCIが起こると原子のイオン価数も1価となり、その後の安定損傷への緩和過程も影響を受けることが予想される。本研究では、半古典的なモデルにより光電子再捕獲確率を推定すると共に、これまでSPring-8軟X線ビームラインに設置されたEPR装置により観測されてきたDNA関連分子の不対電子種の内殻イオン化閾値前後での収量変化を考察する。
  • Oliveira Douglas, Nakamura Kyosuke, Kato Akihiro, Kobayashi Junya, Tsu ...
    セッションID: PA-12
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/20
    会議録・要旨集 フリー
    Chromatin remodeling is important for the localization and function of many proteins involved in transcription, DNA replication and repair. Regulation of such activity within the chromatin context requires posttranslational modifications (PTM) of histones, such as ubiquitination, acetylation, methylation, sumoylation and phosphorylation that counterbalance the repressive nature of chromatin. In mammals, the FACT complex is essential for transcription initiation, relaxing chromatin condensation through displacement of the nucleosome. Being crucial in chromatin remodeling during transcription, and considering its general function as a chromatin remodeling facilitator, here we investigate the potential role of FACT during DNA repair mediated by homologous recombination (HR). In accordance with other previous works, our results also show that during transcription, FACT and RNF20, an E3 ubiquitin ligase recent found by our lab and others to be involved in DNA repair, interact with themselves. Moreover, this interaction seems to take place also during DNA damage response, which appears not to be related to transcription. Furthermore, depletion of FACT led to compromised DNA end resection through RAD51 and BRCA1 recruitment, whereas H2AX phosphorylation showed no major change. Additionally, RNF20 recruitment to the damage site and subsequent H2B ubiquitination, an important marker of chromatin relaxation, were also suppressed. Therefore, our data suggest that FACT might play a deciding function in chromatin assessment of other DNA repair proteins following DNA damage by loading of RNF20 to the damage sites. Together, they might play a critical role in HR independently of H2AX, revealing an alternative pathway of the chromatin remodeling during repair.
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