育種学研究
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原著論文
  • 川戸 菜摘, 佐藤 晴香, 篠田 亜美, 李 芙蓉, 蓮沼 大地, 西谷 千佳子, 川原田 泰之, 小森 貞男
    2023 年 25 巻 2 号 p. 109-122
    発行日: 2023/12/01
    公開日: 2023/12/15
    [早期公開] 公開日: 2023/07/04
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    リンゴの葉切片からのシュート再分化率向上を目的として培養維持期間,培地の植物成長調節物質組成,葉面積,ガラス化率を指標に培養手順に関する検討を行った.材料には屋外で成育する植物体を培養系に入れる操作から実験に使用するまでの期間(培養維持期間)が異なる‘ふじ’を用いた.シュート再分化培地は植物成長調節物質濃度の異なる3種類を使用した.培養維持期間が6ヶ月の‘ふじ’は使用したすべての培地で再分化率が低く,葉切片からのシュート再分化実験には不適と考えられた.高濃度のサイトカイニン添加は培養維持期間6ヶ月目のシュート再分化率向上には効果があったが,1年7.5ヶ月以降では有意な効果が認められなかった.培養維持期間6ヶ月では,3種類の培地すべてで1ヶ月目の葉面積と3ヶ月目の再分化率に有意な相関があり,再分化率の向上には葉面積の拡大が必要と判断された.いずれの培地でも再分化率向上のための葉面積の拡大要求は培養維持期間の経過とともに小さくなることが明らかとなった.TDZ濃度とサイトカイニン/オーキシン濃度比は,その値が大きくなるほど葉面積が拡大することが示唆された.ガラス化は培養維持期間が短いほど発生割合が高く,再分化培地中のサイトカイニンの添加量の増加,サイトカイニン/オーキシン比の上昇によって発生が増加することが判明した.MBNZ511培地は培養維持期間が1年7.5ヶ月以降の区で再分化率が90%を超える場合があり,その場合の置床後1ヶ月目の平均葉面積は30 mm2以上であった.したがって,1ヶ月目に30 mm2以上の葉切片を選抜することで効率よく形質転換体が獲得できる可能性が考えられた.

  • 堀 清純, 高松 光生, 細井 淳, 津金 胤昭, 林 玲子, 渡邉 学, 水林 達実, 安藤 露, 正村 純彦, 向井 喜之, 山内 歌子 ...
    2023 年 25 巻 2 号 p. 123-139
    発行日: 2023/12/01
    公開日: 2023/12/15
    [早期公開] 公開日: 2023/07/04
    ジャーナル フリー HTML
    電子付録

    温暖化に対応した早生化及び晩生化は水稲の重要な改良目標である.しかしながら,改変された出穂期表現型の安定性や他の農業形質に与える多面効果は利用する出穂期遺伝子ごとに異なるため,育種における不確定要素となっている.本研究では,長野県育成系統「信交538号」,千葉県育成品種「ふさおとめ」及び「ちば28号」の遺伝背景に,Ghd7Hd16及びHd1遺伝子の早生型または晩生型アレルを導入した準同質遺伝子系統群を作出して遺伝効果を評価した.「信交538号」の遺伝背景では,Ghd7遺伝子の早生型アレルを導入した系統の出穂期改変効果は9日から13日の早生となり,Hd16遺伝子の早生型アレルを導入した系統の出穂期改変効果は1日早生から8日晩生であった.他の農業特性については,Ghd7導入系統は,短稈で穂数が増加したが,玄米重が減少した.Hd16導入系統はほぼ同等であった.「ふさおとめ」及び「ちば28号」の遺伝背景では,Hd1遺伝子の晩生型アレルを導入した系統の出穂期改変効果は約13日の晩生,Hd16遺伝子の晩生型アレルを導入した系統は約3日の晩生,Hd1及びHd16遺伝子の晩生型アレルを導入した系統は約28日の晩生となった.Hd1導入系統は他の導入系統と比較して,「ふさおとめ」や「ちば28号」に最も近い農業特性を示した.これまでに育成された出穂期に関する準同質遺伝子系統のデータも含めて検討した結果,Ghd7遺伝子と比較してHd1Hd16遺伝子の改変で得られる出穂特性は遺伝背景や環境の影響を受けやすいと推定された.出穂期の改変を目的としたゲノム育種においては,導入遺伝子の特性を事前に評価,検討することが必要である.

  • 平林 秀介, 田之頭 拓, 田中 明男, 竹牟禮 穣, 若松 謙一, 石丸 努, 佐々木 和浩
    2023 年 25 巻 2 号 p. 140-149
    発行日: 2023/12/01
    公開日: 2023/12/15
    [早期公開] 公開日: 2023/07/13
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    イネは開花時に35℃以上の高温にさらされると不稔になる危険性が高まることが知られており,地球温暖化に伴い,高温不稔の発生による収量の低下が懸念されている.高温不稔を低減するには,昼間の高温を避け,気温の低い早朝に開花させる「早朝開花性」が有効である.Hirabayashi et al.(2015)はこれまでに,インド型イネ品種の遺伝的背景に早朝開花性のQTL(qEMF3)を導入した準同質遺伝子系統(Near-isogenic line; NIL)を育成し,開花時の高温不稔発生を軽減できることを実証した.しかし,日本で普及している異なる日本型イネ品種を遺伝的背景に持つqEMF3のNILは育成されていない.そこで,本研究では,日本型イネ4品種「ひとめぼれ」,「ヒノヒカリ」,「にこまる」および「とよめき」の遺伝的背景に戻し交配によりqEMF3を導入して作出したNILを用いて,早朝開花性および高温不稔回避性を検証した.午前6時から室温を上昇させた自然光型人工気象器で開花日1日だけの高温処理を行ったポット試験では,早朝開花性NILはすべての遺伝的背景と高温処理下において,開花時刻が反復親品種より2~4時間早く,35℃に達する午前10時30分までには概ね開花を終えていた.その結果,早朝開花性NILでは開花時の高温ストレス条件に遭遇せず,高いレベルの稔性を維持できた.加えて,出穂期に35℃の日中の連続高温処理を行った鹿児島県のガラス温室内のコンクリート枠水田の試験でも,反復親品種と比較して,早朝開花性NILは高い稔実率を維持することができた.日本型イネ4品種にqEMF3を導入した早朝開花性NILと反復親とで基本的な農業形質に大きな違いはなく,早朝開花性QTL(qEMF3)は日本型イネの遺伝的背景においても,開花時の高温不稔を軽減できる有用なQTLである.

ノート
  • 北本 尚子, 西川 和裕, 豊田 春喜, 高橋 極, 塚﨑 光, 谷村 佳則, 森玉 陽介, 横井 修司, 本城 正憲, 高畑 義人, 畠山 ...
    2023 年 25 巻 2 号 p. 150-157
    発行日: 2023/12/01
    公開日: 2023/12/15
    [早期公開] 公開日: 2023/09/13
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    ハクサイF1品種「いとさい1号」は,市販F1品種「タイニーシュシュ」の両親を反復親に,「つけな中間母本農2号」由来のハクサイ系統を一回親にして育成した晩抽性品種である.「つけな中間母本農2号」は,春化経路上の開花抑制遺伝子であるBrFLC2BrFLC3に変異があり,その結果低温に遭遇しても花成が誘導されにくくなっている.この「つけな中間母本農2号」が持つ晩抽性のBrFLC遺伝子をDNAマーカー選抜することにより,効率的に晩抽性品種を育成することができた.岩手県において低温遭遇量の多い春播き栽培試験を行ったところ,「いとさい1号」は晩抽性が高い既存のF1品種を上回る晩抽性を示した.晩抽性以外の形質は,葉面の毛がない等「タイニーシュシュ」とほぼ同じで,生食も可能であった.抽だいに必要な低温処理日数を調査したところ,「タイニーシュシュ」,「春の祭典」は10~20日間の低温処理によって抽だいしたが,「いとさい1号」では40日間以上の低温処理が必要であり,高い低温要求性を示した.既存品種を用いた春播き作型では,低温遭遇による抽だいを回避するために暖房や被覆資材が必須であったが,「いとさい1号」によってそれらを用いない低コスト春播き栽培が可能になると考えられたため,品種登録出願を行った.

  • 品田 博史, 藤田 涼平, 松永 浩, 和﨑 俊文, 大波 正寿, 青山 聡, 江部 成彦, 池谷 聡, 萩原 誠司, 中山 輝, 鈴木 千 ...
    2023 年 25 巻 2 号 p. 158-165
    発行日: 2023/12/01
    公開日: 2023/12/15
    [早期公開] 公開日: 2023/10/05
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    電子付録

    「ゆめいころ」は,地方独立行政法人北海道立総合研究機構北見農業試験場(北見農試,北海道訓子府町)にて育成された“早生”の生食用バレイショ品種である.「男爵薯」との置き換えが可能なジャガイモシストセンチュウ抵抗性の早生品種育成を目指し,「男爵薯」を母,「北系39号」を父として,2010年に人工交配を実施し,その後代より育成された.北見農試における「ゆめいころ」の枯ちょう期は「男爵薯」同様の“早生”で,上いも(20 g以上のいも)の平均重が「男爵薯」より10 gほど重く,収量性は「男爵薯」より優れる.また,生食用向けの規格内いも(60~260 gのいも)収量は「男爵薯」に比べて10%多い.病虫害抵抗性は,ジャガイモシストセンチュウ抵抗性と“中”程度のそうか病抵抗性を併せ持つ.塊茎の肉色は「男爵薯」同様“白”で,目の深さが「男爵薯」より浅いことから,剥皮歩留まりの向上が期待され,このことは調理加工用途での優点となる.水煮いもの肉質は“やや粉質”の「男爵薯」と“粘質”の「メークイン」の中間で,しっとりとした食感である.「ゆめいころ」を北海道におけるジャガイモシストセンチュウ発生地帯の「男爵薯」と置き換えて普及することにより,北海道におけるバレイショの安定生産および栽培振興に加え,北海道畑作の輪作体系維持に貢献できる.

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