イネにおいて突然変異遺伝子である
Lgc1遺伝子は,胚乳タンパク質の組成を変化させ,易消化性タンパク質であるグルテリンの低減を引き起こす.
Lgc1によって低グルテリン化された米は,タンパク質の摂取制限が必要な腎臓病患者などの病態食として利用されている.一方で
Lgc1が胚乳タンパク質の組成以外に与える影響を検討した例は少なく,その生産物である米の食味や加工特性との直接的な関係が報告された例もわずかである.特定の遺伝子の多面的な働きを調査する場合,遺伝的背景を同一にした同質遺伝子系統間で比較することが有効である.本報告では,同質遺伝子系統の選抜において有効なPCRを用いたDNAマーカーを開発し,その有効性を確認した.さらに,これを用いて低グルテリン品種である「春陽」を1回親とし,通常のタンパク質組成を持つ「こしいぶき」を反復親とした戻し交配法によって
Lgc1に関する2組の準同質遺伝子系統対を作製した.また,この準同質遺伝子系統対を用いて基本的な農業形質を調査した結果,玄米千粒重では低グルテリン型が野生型を有意に上回った.また,玄米の外観品質においては低グルテリン型が野生型より優れた.しかし,到穂日数,登熟日数,稈長,穂数,精玄米重,玄米粒形,玄米タンパク質含有率において異なるタンパク質組成の準同質遺伝系統間で有意な差は認められなかった.これらのことから,今回作製した2組の準同質遺伝子系統対は
Lgc1の多面発現の検討において有効な素材となると判断された.
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