日本蚕糸学会 学術講演会 講演要旨集
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  • 山川 稔, 澤畑 良子, 小野 和子, 田中 宥司, 藤村 達人
    セッションID: 214
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/27
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    我々は昨年の本大会でイネキチナーゼのシグナルペプチド遺伝子を付与したカイコ由来のセクロピンB遺伝子を導入した形質転換イネが作出され、イネ白葉枯れ病細菌(Xanthomonas oryzae pv. oryzae)及びイネかさ枯病細菌(Pseudomonas syringae pv. oryzae)に対する抵抗性が強まったことを報告した。しかし、カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーター(CaMV35S)を用いたため、導入遺伝子は全器官で恒常的に高発現していた。今回、食用とする胚乳組織でのセクロピンB遺伝子の発現を避けるために、CaMV35Sの代わりに、光合成組織で強く発現している集光性複合体タンパク質のLhcbプロモーターを用いた形質転換イネの作出を試みた。形質転換イネの自殖第1世代を用いて、導入遺伝子の発現器官特異性をRT-PCR法を用いて比較したところ、光合成器官である葉において強く発現し、非光合成器官である根と種子においてはほとんど発現がみられなかった。また、形質転換イネの葉に白葉枯れ病細菌を接種しコントロールと比較したところ、感染に対する明らかな抵抗性が認められた。
  • 古川 誠一, 田中 博光, 中澤 裕, 山川 稔
    セッションID: 215
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/27
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     昆虫の抗菌性ペプチドは、細菌などの侵入に対する生体防御機構として一過的に合成誘導されることが知られており、カイコからも既に数種類が単離されている。またそれらの遺伝子の発現解析も行われ、LPSの刺激に対して速やかに発現が誘導されることが明らかとなっている。今回我々はこの誘導に関わる遺伝子発現制御領域を同定するために、アタシン、モリシン、レボシン、セクロピンB遺伝子について、5’上流領域をルシフェラーゼ遺伝子に接続したレポータープラスミドを作り、培養細胞にトランスフェクションすることによってプロモーター活性の測定を行った。その結果、すべての遺伝子に複数個確認されているNF-kB結合様配列を含む領域を接続したプラスミドをトランスフェクションしたとき、LPS処理に対してルシフェラーゼ活性は上昇したが、それぞれ一つのNF-kB結合様配列を欠失させたプラスミドではそのLPSに対する反応性が失われることがわかった。この実験結果から、LPSの刺激によって上昇するプロモーター活性には複数のNF-kB結合様配列が協調的に機能するのではなく、一つの配列が重要な働きをしていることがわかった。
  • 中澤 裕, Ponnuvel K. M., 古川 誠一, 田中 博光, 石橋 純, 山川 稔
    セッションID: 216
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/27
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    前大会において我々は、カイコ消化液中に存在するリパーゼが核多角体病ウイルス(BmNPV)に対して抗ウイルス活性を示すことを報告した。今回新たに抗ウイルス活性をもつタンパク質をカイコ消化液から単離したので報告する。5齢2日目の大造の消化液を回収し、核多角体病ウイルスに対して抗ウイルス活性を示すタンパク質の精製を行った。その結果、BmNPVに対して抗ウイルス活性をもつタンパク質を単離し、N末端側のアミノ酸配列20残基決定した。さらにSilkBaseを用いて検索したところ、相同性のあるESTクローンが見つかった。cDNAの塩基配列から推測されるアミノ酸配列の相同性検索を行った結果、カイコセリンプロテアーゼと相同性を示した。次に各組織における遺伝子発現を調べたところ、脂肪体・血球・マルピギー管・絹糸腺・気管での発現は認められず、中腸でのみ強く発現していた。また発生にともなう遺伝子発現量を調べた結果、吐糸期においてのみ発現量の低下がみられた。以上のことから、中腸特異的に発現しているセリンプロテアーゼがBmNPVに対して、抗ウイルス活性を有することが判明した。
  • 大野 健, 浅野 眞一郎, 佐原 健, 伴戸 久徳
    セッションID: 217
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/27
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     現在、バキュロウイルスに属する核多角体病ウイルス (NPV) は外来遺伝子発現ベクターや生物農薬として広く利用されている。一方、カイコの飼育現場で、BmNPVは重大な病原ウイルスである。そのためNPVの効果的な利用法や感染防除法を確立する上で、バキュロウイルスの発現制御機構を分子レベルで解明することは極めて重要である。 これまでの研究から、ウイルスの初期タンパク質であるIE1がウイルス増殖に必須な転写制御因子であることが判明しており、我々はIE1が基本転写因子と直接相互作用することで転写制御を行う可能性をすでに報告した。また、West-Western法を用いたタンパク質間相互作用解析から、TF__II__D構成因子のうちTBP、TAF30α/β、TAF40がIE1と相互作用することに関しても報告した。本研究では、さらに転写開始部位の決定やpol__II__とTF__II__Dの橋渡しなど、転写開始に非常に重要な役割を担っているTF__II__Bとも、IE1が相互作用することを表面プラズモン共鳴法を用いて明らかにした。以上の結果は、IE1がその相互作用する転写因子の種類においても、他の酸性アクティベーターと共通した特徴を有していることを示している。
  • 浦川 寿代, 竹田 真木夫, 藤原 義博
    セッションID: 219
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/27
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    昆虫の脱皮・変態は、前胸腺から分泌されるエクジステロイドと、アラタ体から分泌される幼若ホルモン(JH)によって制御されている。これまで、エクジステロイドの分子レベルでの作用機構はかなり明らかにされている。一方、幼若ホルモンの分子レベルでの作用機構についてはほとんど何もわかっていない。そこで、幼若ホルモンの作用機構を解明するためにBroad-Complex(BR-C)遺伝子に注目した。BR-C遺伝子はショウジョウバエにおいて発見された、エクジステロイドによって直接誘導される遺伝子であり、変態の初期に発現し変態全体を調節していると考えられている。またタバコスズメガでは蛹化のコミットメントとBR-Cの発現が一致しており、コミットメントを引き起こす小さなエクダイソンのピークがBR-Cを発現させることが報告されている。一方、カイコでは終齢幼虫初期にエクダイソンのピークは確認されておらず、蛹化コミットメントの分子機構はタバコスズメガとは異なると考えられる。我々はカイコにおけるBR-C遺伝子のクローニングを行い、Z2、Z3、Z4の3つのアイソフォームを単離し、塩基配列を決定した。さらにノーザンブロット法、あるいはRT-PCR法によりBR-C遺伝子の発現を解析した。
  • Reza A.M.S, 金森 保志, 菊池 鏡子, 志村 幸子, 篠田 徹郎, 神村 学
    セッションID: 219
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/27
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     Broad-Complex(BR-C)は、ショウジョウバエでは脱皮ホルモンによって直接発現が誘導される転写因子であり、蛹化過程で発現して蛹化に必要な遺伝子群の発現を誘導することが知られている。カイコからBR-C cDNAをクローニングして、脱皮・変態過程におけるmRNAの発現を調べた。縮合プライマーを使ったRT-PCRおよび5'RACE、3'RACEを組み合わせることにより、全長425アミノ酸のBR-C Z2アイソフォームと456アミノ酸のZ4アイソフォームをコードするcDNAをクローニングした。前部糸腺では、4齢期中および5(終)齢の摂食期中にはBR-C mRNAは発現せず、ワンダリング期以降でのみ強く発現していた。また、脱皮ホルモン処理によりBR-C mRNAの発現が誘導されたが、幼若ホルモンを同時に処理するとこの発現誘導は抑えられた。蛹化過程で特異的に強く発現するトレハラーゼ、P450 CYP9G1、有機カチオン・トランスポーター1のプロモーター領域を調べたところ、BR-Cの結合配列が見いだされた。現在、これらの遺伝子の転写制御におけるBR-Cの役割についても検討を進めている。
  • 宇野 知秀, 平垣 進
    セッションID: 220
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/27
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    (目的)低分子量GTP結合タンパク質は、細胞増殖、細胞骨格形成、蛋白質輸送などの様々な生理機能の中で重要な役割を果たしている。中でも、Rabは、主に細胞内での蛋白質の輸送及び細胞外への分泌に関与する。脳で合成され、脳内から分泌される蛋白質及びペプチドの輸送分泌機構を明らかにするために、脳内に存在するRabのcDNAをクローニングした。次いで、そのcDNAを大腸菌で発現、精製後その分子特性を検討した。(方法、結果)蚕5令期幼虫脳より抽出されたmRNAを鋳型にRT-PCRを行った。その結果、8種類のRab部分長cDNAが得られた(Rab2,3,8,14,4種の新規のRab)。このうち、2種類の全長cDNAをRACE法及び、silk baseを用いて得ることができた。これらのcDNAをglutathione sulfotransferaseの融合タンパク質として発現させた後、glutathione S-sepharoseカラムを用いて精製した。発現蛋白質は、guanine nucleotideに対する結合能を示した。
  • 新美 輝幸, 山下 興亜, 柳沼 利信
    セッションID: 221
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/27
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     遺伝子機能の阻害にRNA interference(RNAi)法は有効であり、広範な生物種においてRNAi法が確立され遺伝子の機能解析に利用されている。大型昆虫における遺伝子の機能解析系を確立する一環として、これまでにナミテントウにおいて形質転換体の作出法およびRNAi法を確立してきた。今回は、ナミテントウを用いて確立したRNAi法を参考にカイコにおいてRNAi法を試みた。
     カイコにおいてRNAi法を確立するため、遺伝子機能阻害による表現型が明確なUltrabithorax遺伝子に着目し、カイコよりUltrabithoraxBmUbx)cDNAをRT-PCR法およびRACE法により単離し塩基配列を決定した。BmUbxの二本鎖RNAをカイコ卵へマイクロインジェクションすることによりRNAiの有効性を検討した。その結果、腹部第一節に異所的な胸肢が形成された。したがって、カイコ卵においても遺伝子の機能阻害にRNAi法が有効であると考えられた。
  • 川崎 秀樹, 菅谷 公彦, 全 国興, 野畑 順子, 三田 和英
    セッションID: 222
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/27
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    カイコのEST データベースを用いてαー、βーチューブリン遺伝子の検索を行い、これまでのものを合わせ、3種のαー、4種のβーチューブリン遺伝子をクローニングした。αーチューブリン遺伝子ではBMTUA1はほぼすべての器官で認められたが、BMTUA2は脳、複眼、翅原基で、またBMTUA3は精巣のみで認められた。βーチューブリン遺伝子ではBMTUB1,2はほぼすべての器官で認められたが、器官、ステージでの変動がみられた。BMTUB3は脳、胚、脂肪体、翅原基で、BMTUB4は精巣のみで認められた。これらの結果から、BMTUA1はBMTUB1,2とヘテロダイマーを形成し、BMTUA3はBMTUB4と精巣でヘテロダイマーを形成することが推定された。BMTUB3,BMTUA2は脳、翅原基などの特殊なところで発現することが考えられた。また、BMTUB3とショウジョウバエのエクダイソン誘導性のβーチューブリン遺伝子との構造の類似が明らかとなった。翅原基ではステージにより、発現するβーチューブリン遺伝子に変化がみられ、変態期の形態形成へのチューブリンアイソタイプの微小菅の構築が関与が推定された。
  • 小島 桂, 全 国興, 今村 守一, 神田 俊男, 野畑 順子, 三田 和英, 田村 俊樹
    セッションID: 223
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/27
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     カイコの形質転換体作成が可能となり、カイコ個体において有用物質の生産や、遺伝子の機能解析が容易に行えるようになった。その際、導入遺伝子の発現時期ならびに発現組織の制御がとりわけ重要である。特に、熱ショックのような特別な物質の投与を必要としない方法での目的遺伝子の発現誘導は、遺伝子の機能解析や個体におけるタンパク質生産等に有用である。そこでカイコ由来のhsp70プロモーターの利用が考えられるが、現在のところ得られていない。 われわれは、形質転換カイコにおける利用を目的としてカイコ・hsp70遺伝子のクローニング、構造解析、およびプロモーターの解析を行っている。これまでに、カイコESTライブラリーの解析から3種のhsp70ホモログが得られ、これらのひとつが熱ショックによって強く発現誘導されること、ゲノム上に4コピー存在していることを明らかにしている。現在、このカイコ・hsp70遺伝子の構造解析およびプロモーター領域の解析を進めており、今回はカイコ・hsp70プロモーターの構造、および発現特性に関して報告する。
  • 柘原 岳人, 藤原 義博, 竹田 真木生
    セッションID: 224
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/27
    会議録・要旨集 フリー
    サクサンの蛹は,光周性を示し,短日条件下で休眠を維持,長日条件下で休眠を覚醒する。この休眠の覚醒は,PTTHの放出によって制御されている。ショウジョウバエの概日時計は,光の影響を受け,また分子レベルで他の遺伝子の発現を制御していることがわかっている。よって,光周性が概日時計によって制御されている可能性がある。脊椎動物では,セロトニン代謝系の酵素が概日時計の制御下にある。カイコでは,in vitroでセロトニンによってPTTH放出がおこる。また,われわれの研究室では,サクサンの脳で,時計遺伝子Periodとメラトニン合成律速酵素NATが同じ細胞で発現していること,メラトニン量が概日リズムを示すことを明らかにしている。そこで,サクサンの光周性と概日時計とセロトニン代謝系の関係を探るために,時計関連遺伝子ClockとNATをクローニングした。
  • 梶原 英之, 三田 和英, 中村 匡利, 石坂 真澄
    セッションID: 225
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/27
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     カイコの変態分化に伴う遺伝子発現を調べる場合、EST解析とともにタンパク質の網羅的解析、即ち時系列的なプロテオーム解析が必須である。これまでにEST解析が行われてきたものと同じ品種「大造」の組織におけるプロテオーム解析を開始した。 五齢3-4日目のカイコを解剖し、雌雄それぞれの中部・後部絹糸腺、中腸、脂肪体等の組織を得た。タンパク質を抽出後、二次元電気泳動によって分離し、各スポットをアルキル化後、トリプシン分解した。それをキャピラリーHPLC-MS装置(LCQ Deca)によって分析し、ショウジョウバエゲノムデータおよびカイコESTデータをアミノ酸配列に翻訳したものを用いて、プログラムMascotおよびSequestによってタンパク質の同定を試みた。 その結果、質量分析によってタンパク質をコードする遺伝子が多数同定されたほか、ショウジョウバエゲノムデータに対してはヒットしないものの、カイコESTデータに対してはヒットしたものなども見出された。また、質量分析の結果から、EST塩基配列解析中に起きた読み枠のずれなども見出すことができた。
  • 野地 貴憲, 大手 学, 武田 昌久, 三田 和英, 嶋田 透, 川崎 秀樹
    セッションID: 226
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/27
    会議録・要旨集 フリー
    カイコのESTライブラリーに存在する5760クローンをマイクロアレイ法を用いて、翅原基の20E処理の有無で発現量を比較したところ、20Eに誘導されるクローンが多数見いだされた。これらの内、クチクラタンパク質をコードする遺伝子(BMWCP10)と以前に報告した、エクダイソンパルスで誘導されるクチクラタンパク質をコードする遺伝子(BMWCP2)との発現比較を行った。BMWCP10はエクダイソン上昇で発現量が増加し、BMWCP2はエクダイソンが下降する時期に発現がみられた。in vitro でBMWCP2は4時間の20E処理後、18時間以上のホルモンフリーで発現がみられ、BMWCP10は20E処理30分後から発現した。またシクロヘキシミドの添加はBMWCP2ではホルモンフリー時に添加することにより発現を阻害したが、BMWCP10では阻害作用は示さなかった。 以上のことから、マイクロアレイ法はホルモン誘導性の遺伝子検索に有効であること、BMWCP10はエクダイソンに直接誘導され、BMWCP2はエクダイソンパルスで誘導され、それぞれエピ、プロクチクラを形成するものと推定された。
  • 立松 謙一郎, 廣川 昌彦, 小瀬川 英一
    セッションID: 227
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/27
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    哺乳類や植物においてDNAのメチル化は、遺伝子発現調節、DNA組換えの制御など多様な現象に関与している。これに対してカイコを含む昆虫のゲノムDNAにおいてはその頻度の低さから、メチル化DNAは機能していないと考えられてきた。しかし、近年ショウジョウバエの全ゲノム配列やEST cloneの解析等により、昆虫においてもDNAのメチル化修飾が重要な機能を果たしている可能性が示唆されている。カイコゲノムDNA のメチル化プロファイルを解析しメチル化DNAの機能を明らかにすることは、昆虫細胞における遺伝子発現調節やDNA組換えの機構解明につながると考えられる。そこで、我々は高効率のメチル化DNA検出法を開発し、組織毎に抽出したカイコゲノムDNA中のメチル化を検出、比較した。その結果、組織間においてゲノムDNAのメチル化パターンはほぼ一致していたが、一部のシグナルは組織特異的なメチル化を示した。このことよりカイコにおいてもDNAメチル化が組織特異的な遺伝子発現に関与している可能性が考えられる。今後は組織間や各発生ステージにおけるメチル化パターンを比較し、カイコゲノムDNAにおけるメチル化の機能を解析する予定である。
  • 米村 真之, 三田 和英, 田村 俊樹, SEHNAL, Frantisek
    セッションID: 228
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/27
    会議録・要旨集 フリー
    昆虫の絹糸タンパク質の構成と進化との関係を明らかにするため、チェコ共和国の都市Ceske Budejovice近郊から採取された毛翅目Hydropsyche angustipennis及びLimnephilus decipiensの絹糸腺で発現している遺伝子を調べた。即ち、終齢幼虫の絹糸腺から全RNAを抽出し、cDNAライブラリを作成し、ESTデータベース化後各クローンの解析を行なった。その結果、各々のESTにはカイコ等のL鎖フィブロインと高い類似性を示すDNA配列が高い頻度で存在することが分かった。これらはORFを持ち、一つは257、もう一つは249アミノ酸残基のペプチドをコードしていた。一次構造はお互いに高い類似性を有し、比較したアミノ酸残基のうち123が一致した。さらに、これらはカイコやハチミツガのL鎖とも高い類似性があった。また、H鎖フィブロインとのS-S結合に寄与するシステイン残基の位置がよく一致した。以上のことから、両配列は毛翅目のL鎖フィブロイン遺伝子に関する配列であると判断された。今回の結果は毛翅目においてもフィブロインの分泌にはL鎖が関与することを示唆しており、進化のかなり早い段階でH鎖とL鎖が結合して絹糸線細胞から内腔に分泌される仕組みが確立されたと考えられる。
  • 小瀬川 英一, 立松 謙一郎, 廣川 昌彦
    セッションID: 229
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/27
    会議録・要旨集 フリー
     家蚕の品種特許取得のために品種同定のための基礎的技術の確立が望まれている。そこで我々は1塩基多型(SNPs)を用いた品種同定法を開発を目指している。
     カイコの1塩基多型の実態は不明であるため、今回は特定のESTをターゲットにして検出実験を試みることにした。そこで既知の塩基配列であるBmHSC70-4遺伝子(DDBJ: AB084923)からプライマーを設計し、カイコの品種別ゲノムDNAをテンプレートとしてPCRを行って約1.7kbの増幅断片を得た後、ダイレクトシーケンスで塩基配列を決定した。品種間の塩基配列の比較により、約32のSNPsを検出した。これらSNPsは14のトランジッションと7のトランスバージョンを含み、両者の比は2:1であり、イネ等で観察されるデーターと同じ傾向が観察された。一方、単位塩基長あたりのSNPサイトの頻度は高めであると考えられた。今回検出したSNPsはすべてイントロン上に存在し、構造タンパク質には影響を与えない変異と考えられた。14品種を供試したが、SNPsは若干の品種特異的変異を含むもののハプロタイプとして分類するとわずか2種であった。このことから、当該遺伝子領域をタイプ分けするには、1__から__数SNPを代表させることで可能であると考えられた。
     今後はこの検出手法が他のESTに応用可能かどうかを検討する。
  • 月岡 春奈, 日下部 宜宏, 岡野 和広, 三田 和英, 嶋田 透, 高橋 将晃, 門 宏明, 河口 豊, 古賀 克己
    セッションID: 230
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/27
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     生体内では、様々な外的及び内的要因によって、大量のDNA損傷が絶えず発生しているが、そのほとんどは速やかに修復されている。DNA損傷の中でも、細胞にとって致死的なものがDNA二重鎖切断(DNA double-strand break; DSB)であり、その修復機構としては、相同組換え(Homologous Recombination; HR)と非相同末端結合(Non-Homologous End-Joining; NHEJ)が知られている。特に、内的要因によるDNA損傷の修復では、相同組換えの方がより重要な働きをしていることが知られている。 近年、RNAi(RNA interference)という、dsRNAを用いた遺伝子ノックダウンによる機能解析の手法が注目されている。そこで、カイコESTデータベースよりDNA修復や複製または細胞周期への関与が予想される遺伝子約100クローンを選び、カイコ培養細胞においてRNAiを行なった。それらのRNAi誘導細胞にHR活性を測定できる基質を導入することにより、HRに関わる遺伝子のスクリーニングを行なった。その結果、HR活性に顕著な影響がみられる遺伝子3クローンを単離することができた。そのうち1クローンは、HR活性の著しい上昇がみられ、その他の2クローンは、HR活性の極端な低下が確認された。現在、単離したクローンの発現解析、及びNHEJに与える影響について解析を進めている。
  • 中尾 肇, 神田 俊男, 安河内 佑二, 田村 俊樹
    セッションID: 231
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/27
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    カイコ卵細胞内にはショウジョウバエで知られているような生殖細胞決定因子(極細胞質)や極細胞は観察されておらず、その生殖細胞形成は興味深い。今回カイコ生殖細胞形成機構を解明する第一歩としてその初期形成過程のマーカーであるBmVLGの遺伝子単離と発現解析を試みたのでその結果を報告する。BmVLG遺伝子はファージおよびBACライブラリーをスクリーニングして得られ、そのうち約11kbの塩基配列を決定したところ、コード領域は少なくとも14個のエクソンで構成されていることがわかった。つぎにLacZ遺伝子の両端にBmVLG5’域(6kb)、3’域(2kb)をそれぞれ繋いだ融合遺伝子を形質転換ベクターpBac[3xP3-EGFPafm]に挿入し、カイコに導入して発現を調べたところ5齢卵巣の生殖幹細胞領域を除く生殖細胞に発現が認められた。内在するBmVLGは生殖細胞領域でも発現することから、この結果はBmVLGが5齢卵巣において生殖幹細胞領域、その他の領域の生殖細胞で働く少なくとも2つのエンハンサーを含む可能性を示唆するのかもしれない。
  • 本間 崇, 勘場 麻里, 新美 輝幸, 山下 興亜, 柳沼 利信
    セッションID: 232
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/27
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    哺乳類のニューロメジンU(NMU)のC末端側のアミノ酸配列は休眠ホルモン(DH)のそれに類似していることから、相同性PCRにより、カイコ蛹卵巣を用い、NMUレセプター(NMUR)相同体cDNAを5種類単離した。推定されるアミノ酸配列はいずれも、ヒト及びラットのNMURとショウジョウバエ相同体に高い相同性を示した。2種類(Type1、2) は7個の膜貫通ドメインを有した。他の3種類(Type3、4、5)は6番目の膜貫通ドメインの途中でアミノ酸配列が変化するため、5回膜貫通型である可能性が考えられた。いずれの塩基配列も1から1030番目まで共通であるため、同一遺伝子からのスプライシングの違いによって生成されると考えられる。Type1、2に特異的なdsRNAを休眠系統の蛹に注射した結果、わずかな非休眠卵を産む個体が得られた。そこで、これらのNMURがDHと結合するかどうかを検討するため、大腸菌によるBmNMUR発現系の構築を試みている。
  • 岡田 太郎, 何 寧佳, 山本 幸治, 伴野 豊, 藤井 博
    セッションID: 233
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/27
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    Y-box proteinは多くの生物種において転写調節因子として見出されている。また、アフリカツメガエルでは母性mRNAと結合することにより、翻訳抑制を行うことも報告されている。しかし、カイコのY-box proteinに関する知見は得られていない。我々はカイコY-box protein遺伝子のクローニングを行い、全塩基配列を決定した。今回、我々はY-box protein mRNAの組織における分布と卵巣の発育経過に伴う量的変化について調べた。5齢3日目幼虫の卵巣、精巣、絹糸腺、脂肪体、中腸におけるY-box proteinの発現をノーザンハイブリダイゼーション法で調べたところ、各組織でmRNAの発現が認められた。多くの生物種で報告されているように全ての組織で発現していた。また卵巣の発育に伴うmRNAの経時的変化を調べたところ、mRNAの発現は卵細胞の成熟に従って減少することが明らかとなった。以上のことから、カイコY-box proteinは他の生物と同様に転写調節因子および翻訳調節因子として機能しており、さらに卵巣の発育の初期段階で重要な働きを担っているのではないかと考えられる。
  • 前川 憲一, 小林 淳, 吉村 哲郎
    セッションID: 234
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/27
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    サクサン核多角体病ウイルス(AnpeNPV)ベクター系では、サクサン培養細胞(AnPe)や休眠蛹を用いて、効率良くタンパク質生産を達成できる。しかも、AnPe細胞では、複合型N-型糖鎖付加が起こる。演者らは、このAnpeNPVベクター系とAcNPV ベクター系の間に互換性を賦与することを目的として、AcNPVの宿主域拡大のためのウイルスゲノム改変を試みてきたが、今回新たに、培地を変えるとAcNPVがAnPe細胞で増殖可能になることを見いだした。すなわち、AnPe細胞をSf-900II無血清培地とTC-100培地(10%牛胎児血清添加)で培養すると、前者ではMOI=10でごく少数の細胞に、後者ではMOI=0.1でも大多数の細胞で多角体が形成された。サクサン休眠蛹ではAcNPVが増殖しないので、蛹の細胞とSf-900II培地で培養したAnPe細胞はAcNPV感受性に関して類似した状態にある可能性が示唆された。これらの培地に含まれるAcNPV増殖促進因子もしくは阻害因子を同定できれば、AnPe細胞のみならず休眠蛹にAcNPVを感染させて有用タンパク質を生産することが可能になるであろう。
  • 行弘 研司, 瀬筒 秀樹
    セッションID: 235
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/27
    会議録・要旨集 フリー
    1月9日現在、後生動物260種のミトコンドリア(mt)ゲノムの塩基配列の全長ないしほぼ全長が公開されている。しかし、ここには昆虫はわずか18種しか含まれず、そのほぼ半数が双翅目である。我々は双翅目以外の昆虫のmtゲノムの進化の理解をはかるため、鱗翅目カイコガ科のカイコ(Bombyx mori )とその祖先型と考えられるクワコ( B. mandarina )(日本産)のmtゲノム全塩基配列を決定し比較検討した。塩基レベルの変異に関しては次の結果が得られた:1)塩基置換にストランド特異的偏りがある。2)ゲノム領域によって塩基置換率が異なる。また、ゲノムの構造変異について次の点を確認した:3)両種間のA+T-rich領域で126-bp長断片の縦列反復数が異なった(日本産クワコ:3、カイコ:1)。4)両者のmtゲノムはA+T-rich領域以外に40bp長以上の介在配列を5ケ所共有するが、このうち4ケ所は内部にマイクロサテライト様配列を有し、反復単位の構造及びこの繰返し数に著しい変異が検出された。さらに鱗翅目ヤママユガ科6種ついても全長を決定したので報告する。
  • 山本 英明, 蜷木 理, 横山 学, 黄色 俊一, 原 和二郎
    セッションID: 236
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/27
    会議録・要旨集 フリー
    cDNAによるカイコ分子遺伝子地図作製の過程で作出されたクローンの中に、塩基配列においてミトコンドリア由来の遺伝子に相同性が高いものがいくつか見出された。 そこで、クワコおよびクワコとカイコの交雑後代からゲノムDNAを抽出し、サザンブロットハイブリダイゼーションを行った。用いたミトコンドリア由来の遺伝子はNADHデヒドロゲナーゼ、チトクロムオキシターゼ、および16S rRNAである。クワコおよびクワコとカイコ雑種系統から抽出されたDNAをEcoRI、BamHIあるいはKpnIで消化した場合、いずれの遺伝子においても調査個体間に確実な変異は認められなかった。一方、HindIIIまたはSacIで処理したものでは調査個体間にシグナル位置の差異が認められた。これらシグナルの位置に関しインターネットで公表されているカイコあるいはクワコのミトコンドリアゲノム情報(Yukuhiro;2002,Lee et.al;2000)をもとに、制限酵素消化された断片について検討した結果、それぞれの断片の環状mtDNAにおける位置が推定された。特に、チトクロムオキシターゼ遺伝子については、その中に制限酵素SacIの切断領域(B.mori;12684-12689,B.mandarina;12971-12976)が含まれていることが判明した
  • 大槻 治嘉, 蜷木 理, 横山 岳, 黄色 俊一, 原 和二郎
    セッションID: 237
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/27
    会議録・要旨集 フリー
    c440から選抜した行動の活発なD1系統(oc油)とN17大造から選抜した不活発なD2系統を用いてBF1を作成し、拡散行動行動の異なる個体が分離しているか否かを調査した。拡散方程式をもとに分布図を作成すると、2種類の異なる拡散行動を示す集団がほぼ同数ずつ混在している場合、2本の傾きの異なる直線によって表されるとされている。しかしながら、BF1の分布図は、2本の直線では表現できなかった。また、分布図をもとに活発な個体と不活発な個体の存在比率を算出したところ約3:7となった。そこで、BF1世代において実際にこのような比率で活発な個体と不活発な個体が存在しているのか検討するため、D1系統とD2系統を人為的に混合した集団の拡散行動を調査しBF1のものと比較した。D1、D2いずれかの個体数を6割と偏らせた混合比で作成した集団の分布図は、それぞれBF1のものとは異なる特徴を示した。一方、D1とD2をほぼ同数づつ混合して拡散させた区の分布図は、2本の直線では表現できないBF1に似た特徴をもっていた。この結果によりBF1においてはホモとヘテロの比率が1:1から極端には偏っていないと推察された。
  • 桑久保 正通, 深本 花菜, 白井 孝治, 金勝 廉介, 木口 憲爾, 小林 泰彦, 舟山 知夫, 渡辺 宏
    セッションID: 301
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/27
    会議録・要旨集 フリー
    家蚕の初期発生期は、受精後、分裂核が卵黄内を移動し、周辺細胞質への核の侵入と細胞化、胚域の収縮、胚帯の伸長という一連の発生過程を経る。演者らは、重イオンビームによるラジオサージャリー技術を利用して、その後の発生に及ぼす影響を解析してきた。今回は、初期発生卵の様々な領域(前極、後極、腹側、背側)に高線量(2kGy)の重イオンビームを局部照射し、胚帯形成に及ぼす影響を調べた。その結果、前極側への照射では、頭部の一部が欠如した胚が生じた。一方、腹側への照射では、胚帯が2本形成されたものが生じた。2本胚の出現は、産下10時間後に照射した場合に最も高頻度で生じることが分かった。しかし、その後の発生過程を調べると、照射10日後の胚は、全て1個体で2個体に発生したものは皆無であった。これは、照射により分離し2本となった胚がその後の発生過程で融合したためと考えられる。後極側、背側に照射した場合には、2本胚は誘導されなかった。なお、いずれの照射でも、胚域の収縮はほぼ正常に進行することが分かった。現在、重イオンビーム照射が、胚帯の前後軸方向への伸長に及ぼす影響を調べており、これまでに得られた結果も併せて報告する。
  • 山本 貴之, 澤田 博司, 加藤 智美, 中越 元子, 間瀬 啓介, 山本 俊雄, 金勝 一樹
    セッションID: 302
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/27
    会議録・要旨集 フリー
     我々はカイコの胚子発生に関与していると考えられる新規なRNAヘリケース(RHL)をコードする完全長cDNAを単離した。このRHLのcore regionには数種のkinaseによるリン酸化サイトが認められ、翻訳後の機能発現調節を受けていることが考えられた。そこで、リコンビナント RHL(rRHL)を作製し、このrRHLをリン酸化するkinaseの同定と精製を試みた。in vitroリン酸化実験ではカイコ卵中のkinaseによりrRHLがリン酸化された。このkinaseの活性はHeparinによって阻害されPoly-lysineによって増大すること、またATPの他にGTPもリン酸供与体となることから、rRHLをリン酸化するkinaseは主としてcasein kinase 2(CK2)であると考えられた。 一方、休眠・非休眠卵の胚子発生初期におけるCK2の活性変動を解析したところ、非休眠卵ではステージが進むにつれてCK2の活性が増大するのに対して、休眠卵では産下後24時間でCK2の活性が最大となり、その後は減少していた。これらの結果とRHL遺伝子の発現はほぼ同調していることから、in vivoにおいてもCK2がRHLの機能調節に何らかの役割を担っていることが強く示唆された。
  • 澤田 博司, 山本 貴之, 加藤 智美, 中越 元子, 泉 進, 間瀬 啓介, 山本 俊雄
    セッションID: 303
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/27
    会議録・要旨集 フリー
    我々は,カイコの胚子発生初期における特異的遺伝子の検索から,興味ある幾つかのDNA断片を単離している。今回は,以前より本大会にて報告している胚子の活性化に関与すると考えられる,RNAヘリケース様(RHL)遺伝子断片の完全長cDNAをRACE法にて単離したので報告する。そのcDNAは約2.7k bpあり,593アミノ酸に相当するORFが含まれていた。開始Metの直前には典型的なコサック・コンセンサス配列があり,3'UTRにはポリA付加シグナルの他ATTTA motifが認められた。予想されるアミノ酸配列中には,DEAD box RNA helicase motif, Serine rich region や数種のキナーゼによるリン酸化サイトなどが認められた。このRHLは,今のところDEAD box RNAヘリケースファミリーに分類されると思われるが,他の生物種のDEAD box RNA ヘリケースとの比較からホモロジーは低く,カイコに限らず新規なものである。現在,この新規RHLを大腸菌内で発現させたリコンビナント・タンパク質を用いてNTP結合活性などの機能解析やポリクローナル抗体の作製を進めている。
  • 坂野 大介, 小西 綾, 小谷 英治, 杉村 順夫, 古澤 壽治
    セッションID: 304
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/27
    会議録・要旨集 フリー
     カイコの非休眠卵では、胚発育5日目頃には嫌気的代謝から好気的代謝に変換される。この変換期からホスホフルクトキナーゼ(PFK)やピルビン酸キナーゼ(PK)の活性が急激に上昇する。この時、リン酸化状態にあったPFKは脱リン酸化されるが、PK活性上昇の機構は明らかにされていない。そこで、この点について、PKの遺伝子発現ならびにリン酸化/脱リン酸化について検討した。 まず、カイコ卵から抽出した全RNAを基にPKの全塩基配列を決定したところ、ショウジョバエ、ウサギ、ラットや大腸菌のPKのそれと60-70%の相同性を示した。この配列の一部をプローブとして胚発育期間のPKのmRNA量を測定したところ、胚発育期間中ほぼ一定の値で推移した。またPK蛋白量もほぼ一定量であったことから、PK活性上昇は遺伝子発現の増加によらないと推察した。さらに、PKのリン酸化/脱リン酸化について検討したところ、PKは胚発育前半期ではリン酸化状態にあり、5日目頃から脱リン酸化され、基質親和性は高くなった。 これらの結果から、胚発育中期における代謝変換にはPFKやPKの脱リン酸化が関与していると推察した。
  • 古川 剛, 外城 寿哉, 嶋田 透, 小林 正彦
    セッションID: 305
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/27
    会議録・要旨集 フリー
    BmETSタンパク質はETSドメインをもつ転写因子群の一つで、細胞の分裂や分化の調節に関わっている。BmEtsmRNA(以下mRNA)は非休眠卵では蓄積されず、休眠卵では産卵後20時間から転写、蓄積される(Suzukiら, 1999)。休眠機構とBmEtsの関係を明らかにするにはmRNAの卵内分布を知る必要があると考え、カイコ(p50T系統)の休眠性卵と非休眠性卵をin situ hybridization法で観察した。その結果、産卵後20時間の休眠性卵では胚子全体に一様なシグナルがみられ、さらに産卵後3日、30日の休眠性卵でも胚細胞に一様にシグナルがみられた。一方、非休眠卵では産卵後20時間の胚子ではシグナルがみられなかったが、産卵後6日の胚子では腹部神経球の神経細胞部分にシグナルの局在がみられた。また、非休眠卵由来の5齢3日の幼虫では中腸細胞に特異的にシグナルがみられ、蛹期の中腸腔内に脱落した幼虫の中腸細胞でもシグナルが観察された。蛹の中腸細胞ではシグナルが見られなかった。以上より、BmEtsは休眠期だけではなく、胚発生や幼虫や蛹における形態形成にも関与していることが推測された。
  • 高橋 正樹, 新美 輝幸, 柳沼 利信
    セッションID: 306
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/27
    会議録・要旨集 フリー
    カイコの休眠開始・維持に関わる遺伝子を単離するため、種々のcDNA subtraction法を用い、ヒト酸化抵抗性タンパク質(OXR1)のカイコ相同遺伝子Bm05を単離している。今回はBm05機能解析過程で単離されたBm05Lと他の数種候補遺伝子について報告する。Bm05LBm05のORF中に1179塩基が挿入され、更にアミノ酸393残基付加されたORFを持つ遺伝子であった。特異的primersを作製しmRNA量を測定した所、即時浸酸・非休眠化卵では減少するが、休眠卵では維持されるというBm05発現とよく似た傾向を示した。そこで、先ず形質転換Drosophilaを作出し、生体内での機能解析を進めている。更に少なくとも3種類の遺伝子(Bm03, Bm14 & dunce相同)が即時浸酸・非休眠化卵より休眠卵で発現量が高いことが判明した。これらの詳細な発現パターンを追跡すると共に、機能解析系の構築を検討している所である。
  • 溝呂木 舞, 山内 恵美子, 藤本 浩文, 橋戸 和夫, 土田 耕三, 高田 直子, 岩野 秀俊, 前川 秀彰
    セッションID: 307
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/27
    会議録・要旨集 フリー
     我々は、放射線照射プラスミドの特定の配列を標的にPCR増幅を行うことで、シミュレーション法で算出した切断頻度を検定できることを明らかにしてきた(山内他参照)。この手法は、ゲノムDNAにも利用できるかどうかを検証するために、カイコリボゾーマルRNA遺伝子が約240個縦列しているrDNAクラスターに対して同様の検定を行った。まず、rDNA配列の特定領域において、リバース側を固定しフォアード側にそれぞれ異なるプライマーを用いることにより、約3kbpから約200bpまでの増幅を行えるようにプライマーを設計し、増幅長が1kpbを超える場合には通常のPCR装置を、1kbp以下の場合はリアルタイムPCR装置を用い、各増幅長ごとの照射線量と増幅率との関係を比較した。その結果、プラスミドを標的とした場合と同様、照射されたゲノムDNAはPCRの増幅長が短くなるにつれて切断頻度が低下する傾向が観察された。さらに、ゲノムDNAにおいても直鎖状プラスミドと同様に、Trisのラジカルスカベンジャーとしての効果が観察された。以上から、PCR法はゲノムDNAに対する放射線切断頻度の検定に有効であることが示された。
  • 山内 恵美子, 溝呂木 舞, 藤本 浩文, 渡辺 立子, 斎藤 公明, 村上 正弘, 橋戸 和夫, 土田 耕三, 高田 直子, 普後 一, ...
    セッションID: 308
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/27
    会議録・要旨集 フリー
     細胞中においてカイコゲノムDNAが構成する構造解析を目的として、リアルタイムPCRを利用しガンマ線照射pBR322に生じたDNA切断頻度の検出を試みた。本実験では水溶液中のpBR322に対し、セシウム137のガンマ線を0__から__250Gy照射した。DNA切断量の検出は、照射時水溶液中のTris濃度、及びプライマーの組み合わせによりPCR増幅断片の長さを1000bp、750bp、500bp、250bpと変えて行った。結果、Tris 0__から__2mM濃度の存在に応じて顕著なスカベンジャー効果が観測され、増幅される断片の長さが短くなるに従いDNA切断頻度は低下した。また閉環状pBR322に対する照射ではPCR増幅度が非照射対象の値の__から__1.5倍になった。直鎖状pBR322への照射ではこの増加が見られなかったことから、この増幅はガンマ線照射によるプラスミド構造の変化が原因であると考えている。照射pBR322の原子間力顕微鏡(AFM)による観察及びシミュレーション結果もこの可能性を示唆している。これらの結果と実験結果を比較することでリアルタイムPCRを用いたDNA切断定量法の有効性を明らかにしたい。
  • 船隈 俊介, 鈴木 雅京, 神田 俊男, 田村 俊樹, 嶋田 透
    セッションID: 309
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/27
    会議録・要旨集 フリー
    我々は、先の学会(第72回全国大会)において発表した通り、雌型Bmdsxがカイコにおいて性分化を引き起こす遺伝子の一つであるという知見を得ている。また、雄型Bmdsxを強制発現するトランスジェニックカイコを作出したところ、トランスジェニック雌蛾の生殖器の一部が雄様の形態を示したことから、雄型Bmdsxも雌型Bmdsxと同様にカイコにおいて性分化を引き起こす機能を有することが明らかとなった。(鈴木ら、本大会)。但し、昨年度発表した雌型Bmdsxトランスジェニックカイコでは、生殖器の形態に異常は見られていない。上記の雌型Bmdsxトランスジェニックカイコと生殖器の形態に異常の見られた雄型Bmdsxトランスジェニックカイコとでは、トランスジーンを発現させるために用いたプロモーターが異なること(前者がie1プロモーター、後者がキイロショウジョウバエhsp70プロモーター)がその原因の一つであると考え、現在、雌型Bmdsxをキイロショウジョウバエhsp70プロモーターによって強制発現させるトランスジェニックカイコを作出し、表現型を解析しているところである。本大会ではその結果を報告する。
  • 鈴木 雅京, 船隈 俊介, 神田 俊男, 田村 俊樹, 松本 正吾, 嶋田 透
    セッションID: 310
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/27
    会議録・要旨集 フリー
    ショウジョウバエの性決定遺伝子doublesexのカイコホモログBmdsxには雄型と雌型が存在する。piggyBac遺伝子導入ベクターを用いて雄型のBmdsxを雌カイコにおいて強制発現させると、これらの雌蛾の外部生殖器及び内部生殖器において雄に特徴的な器官(把握器、鈎器、陰茎、付属腺、貯精嚢、射精管)の部分的な形成がみられる(第25回分子生物学会年会発表)。その後の解析により、これらのトランスジェニック雌では雌特異的に合成されるビテロジェニンの発現量が形態的変異の程度に応じて減少しているばかりでなく、雄の触角で高い発現を示すpheromone binding proteinの発現量が増加していることがわかった。以上の結果は、雄型Bmdsxがカイコの雄分化に関与することを強く示唆している。
  • 高橋 道佳, 関 元昭, 外城 寿哉, 嶋田 透
    セッションID: 311
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/27
    会議録・要旨集 フリー
    カイコW染色体には雌性決定遺伝子(Fem)が座乗し,胚発生期に発現して性分化を調節していると考えられる。カイコではBmdsx転写産物の性特異的スプライシングが性分化に関わるが,それは産下後約90時間目以降であるから,その前にはFemを含む性決定遺伝子群が機能していると考えられる。そこで我々は性特異的発現遺伝子を探索しつつFemを同定することを目指し,まず限性黒卵系統の卵を用いてディファレンシャルディスプレイを行なった。その結果,これまでに雌特異的遺伝子産物が3種類検出され,それぞれ産下後40,48および72時間目から88時間目まで見られた。雄特異的遺伝子産物もまた1種類検出され,48から88時間目まで見られた。次に漿膜の着色前の卵を用い,卵1個毎に発現量に差がある遺伝子産物をも探索した結果,産下後16, 24および32時間目に約半数の卵でのみ検出されるものが1種類見つかり,性特異的遺伝子産物である可能性が示唆された。これらは転写活性かスプライシングに性差がある遺伝子か,性特異的遺伝子に由来すると考えられ,それらが検出された時期から,カイコの卵ではBmdsxの性特異的スプライシングが起こる前に幾つかの性特異的遺伝子が発現し,遅くとも産下後40時間目には性が決定されると考えられた。
  • 関 元昭, 高橋 道佳, 大手 学, 鈴木 雅京, 三田 和英, 嶋田 透
    セッションID: 312
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/27
    会議録・要旨集 フリー
    カイコの性はW染色体上に仮想的に座乗する雌決定遺伝子Femによって決定すると考えられている。また、性決定機構の下流にある遺伝子Bmdsxは産卵後約90時間目でそのmRNAの性特異的なスプライシングを確立するので、それ以前にFemおよびその下流の性決定遺伝子が機能していると考えられる。そこで性決定に関与する遺伝子群を同定するために、カイコESTデータベースに記載されている約6000個の遺伝子を搭載したcDNAマイクロアレイを用いて性特異的なRNAを経時的に探索した。限性黒卵系統の受精卵、産卵後36から96時間目のものを用いてスクリーニング行ったところ、約400種類の遺伝子について2倍以上の雌雄差を検出した。相同性検索の結果、その中にはRNA結合タンパク質をコードする5種類の遺伝子とDNA結合タンパク質をコードする2種類の遺伝子が含まれていた。これらは性特異的な遺伝子発現調節へ関与している可能性が示唆され、現在より詳細な発現解析を行っている。また、36時間目以前の時点における受精卵を使った雌雄の比較も進行中であり、その結果も合わせて報告したい。
  • 岡田 英二, 小瀬川 英一, 廣川 昌彦, 立松 謙一郎, 三澤 利彦, 小林 始
    セッションID: 313
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/27
    会議録・要旨集 フリー
     一般的にカイコは品種間で病原細菌に対する抵抗性が異なり、その一因を担う抗菌活性の誘導は病原抵抗性に大きな影響を与えていると考えられる。蚕品種育成にあたり病原抵抗性の導入を図るためにはこれら因子を広く調査することが重要である。小淵沢保存品種を病原抵抗性の育種素材へと活用を図ることを目的に、89品種を用いて、細菌ワクチンを注射接種した体液中に誘導される抗菌活性について24時間後にその体液を採集し、10μl当たりの抗菌活性を測定し、昨年のデータと比較・検討した。
     在来日本種系統は前回とほぼ同じ傾向を示したが、日100番代改良種は低い傾向が見られた。中国種では今回の在来種も品種間での活性値の強弱にばらつきが多かった。眠性・幼虫形質・生理形質種系統の抗菌活性値では幼虫形質の系統に活性値の低い品種が見られた。高い活性値を示した品種は乞食、烏竜、大造、N・Sで低かった品種は日144号、紹興、ひので、OS斑油、まだら黒縞などであった。また、活性値の強かった熱帯種や繭形質突然変異系統の体液は4℃保存2日後に活性値が著しく低下することが明らかになった。
  • 桑原 伸夫, 今村 守一, 神田 俊男, 全 国興, 山川 稔, 町田 順一, 田村 俊樹
    セッションID: 314
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/27
    会議録・要旨集 フリー
     我々は、新しい蚕品種の作出を目標に、蚕への外来遺伝子導入を進めている。今村ら(2002)により、酵母のGAL4/UASシステムは、蚕においても機能することが報告された。そこで、GAL4/UASシステムの導入による抗菌性生糸を生産する蚕の作出を試みた。 導入遺伝子を絹糸腺で発現させるため、フィブロインL鎖プロモーターを上流に持つGAL4遺伝子を組み込んだベクターでマーカーとして3xP3CFPを挿入したものを作製した。また、生糸に抗菌タンパク質を発現させるため、GAL4の標的配列UASにフィブロインL鎖シグナル+ディフェンシン遺伝子を連結したものを組み込んだベクターでマーカーとして3xP3DsREDを挿入したものを作製した。次に、それぞれのベクターを導入した蚕系統を作出し、これを交配させてCFPとDsREDの蛍光を発する蚕をスクリーニングした。サザン解析で調査した結果、スクリーニングした蚕はGAL4とUAS両方の遺伝子を持つ個体であった。このことから、同一組織で複数のマーカーを検出できると推察できた。後部絹糸腺での導入遺伝子の発現をRT-PCRで調査したところ、GAL4遺伝子、ディフェンシン遺伝子の発現が認められ、GAL4/UASシステムは蚕で機能することが確認できた。現在、導入遺伝子が目的どおり機能しているかどうかの調査を進めている。
  • 金勝 廉介, 白井 孝治, 木口 憲爾
    セッションID: 315
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/27
    会議録・要旨集 フリー
     家蚕の一品種「大造」は、その強健性・飼育経過の速さ・省飼料性・人工飼料適合性などから、研究機関における実験材料生物として有用な品種といえる。我々はこのたび、ナショナル・バイオ・リソースプロジェクト [カイコ](代表:九州大学・藤井 博 教授)における分担課題として、標記テーマに着手した。家蚕の代表的な突然変異を「大造」という共通の品種的背景下に置換した系統を育成することで、生化学・分子生物学的研究の資材として広く役立てることが目的である。現在優性形質 pS, EKp, Ze, L, K, Bo, Nd-s, U, Nd-2 および 劣性形質 Amy-Dn, pnd, lem, ow, bts, bd f , sol 等の系統を保有・育成しているが、今後さらに充実させてゆく予定である。以下に代表的な系統について記述する:BoK :「大造」の遺伝子環境に置かれるとコブ (K) の発現は極めて顕著に抑制される。そのうえで、 Bo と共存すると K の発現はさらに痕跡的となる。pnd :1993 年に蚕糸昆虫研より当研究室に pS pnd の形で分与された。人工飼料で容易に飼育できること、浸酸処理の必要がないことから発生学研究に活用されている。講演ではその成果も併せて紹介する。
  • 大沼 昭夫
    セッションID: 316
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/27
    会議録・要旨集 フリー
     Z染色体の平衡致死系統を作成し雄蚕のみを得た事については既に報告した。しかし,この系統のWに転座したZは比較的大きく,繭重などの雌雄差が正常値より小さかった。この点を改善するため,新たにZの小部分がW染色体に転座した系統を作成する事とした。幸いZの平衡致死系統を利用すればT(W;Z)の作成は比較的容易であると考えられる。なお作成後の雌雄鑑別を簡易にするため限性暗色でZの転座系統を作成した。 方法は限性暗色mot系統の雌(T(W;2)pM/Z + + +)に平衡致死雄(Z sch ℓ1 +/Z sch + ℓ2)を交配した場合,通常次代のsch雌は致死し+雄のみが得られる。しかし,この限性系統で組換が起り致死遺伝子に対応するZ部分を雌が保有すれば生存しschが出現すると推測される。そこで上記の実験を行ったところ,予期通りsch(0.1% 35頭)が見出された。次にこれら雌個体の染色体構成を明らかにするため,既に報告した形蚕や黄血遺伝子で標識されたZ染色体を持つ平衡致死雄を交配し,次代の分離から転座したZの大きさを判断した。 その結果,3系統が限性暗色でZ染色体のℓ1(od)座位より外側の小部位が転座したT(2;W;Z) pM;+ℓ2であると考えられた。
  • 山内 恵美子, 溝呂木 舞, 藤本 浩文, 橋戸 和夫, 土田 耕三, 高田 直子, 前川 秀彰
    セッションID: 317
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/27
    会議録・要旨集 フリー
     カイコへの放射線照射は突然変異誘発に古くから利用されてきたにもかかわらず放射線に対する抵抗性に視点をおいた研究は少ない。その原因を知るために、まず、カイコ卵、幼虫ならびに成虫へ放射線を照射しその影響を調べた。カイコ幼虫5齢0日では250Gy照射しても、翅原基に異常が認められるものの、食餌行動や中腸に異常はなく、発育変態し蛾になることが観察された。この高線量に対する抵抗性からカイコでは、哺乳類とは異なる放射線抵抗性機構を有している可能性が示唆された。翅原基への影響は、照射量と翅の大きさが反比例関係にあり、翅原基においては、線量依存的に細胞数が減少していると考えられる。そこで、基礎データの収集が必要と考えクロマチンや染色体への切断の解析を最初の目的とした。系が複雑になることから、まず、放射線によるDNA切断モデルとして既に利用されているプラスミドに対して新たに確立したPCR法によりその切断頻度の検出を行い(山内ら)、続いてその手法を水溶液中の除タンパクされたゲノムDNAに応用した(溝呂木ら)。
  • 清水 久仁光, 廣川 昌彦, 立松 謙一郎, 小瀬川 英一
    セッションID: 318
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/27
    会議録・要旨集 フリー
    1995年、生物研の保存系統No.922 cts luから褐卵蛾区が1区見いだされた。この褐卵をbと仮称し、正常卵色系統との正逆交雑によるF1, F2, F3の卵色分離を調査した結果、母性遺伝をする劣性形質であった。母性遺伝をする褐卵遺伝子としてb-2naがある。bとb-2naとの対立性を検討するため正逆交雑による後代の卵色分離を調査したところ、F1,F2では何れを母体としても褐卵蛾区のみが得られ、F3では褐卵416蛾区と正常卵色2蛾区が得られた。当初、F3の正常卵色蛾区の出現に混入が疑われ、bとb-2naとは複対立関係にあるとみなし、bを改めてb-2s(清水褐卵, maternal brown egg of Shimizu)と命名した(清水ら,2002)。今回、F3を再調査したところ、褐卵663蛾区の他に正常卵色6蛾区が得られ、組換型とみなされる正常卵色蛾区の出現が再確認された。b-2とb-2naとはトランス配列の際に遺伝的相補性が無い(F2)にもかかわらず、組換型が生じる理由は、二種の褐卵突然変異が同一遺伝子内の異なる箇所にそれぞれ突然変異が生じたものと仮定すれば説明可能であった。
  • 河本 夏雄, 瀬筒 秀樹, 行弘 研司, 伴野 豊, 藤井 博
    セッションID: 319
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/27
    会議録・要旨集 フリー
     正常なカイコ幼虫は真皮細胞に尿酸を蓄積して光を反射しているため皮膚が白色不透明になる。og突然変異体では、尿酸を合成するキサンチン脱水素酵素(XDH)活性が失われているため、幼虫皮膚が透明になる。昨年の本大会では、XDHに必要なモリブデン補酵素(MoCo)合成に関わるキイロショウジョウバエmal(MoCo sulfurase)のカイコホモログとog遺伝子とが同一の遺伝子座にあることを報告した。しかし、og突然変異体ではこの遺伝子にアミノ酸置換があるのみで、はっきりした異常が見つからなかった。そこで今回は、ogの対立遺伝子ogkogtとについて解析した。その結果、ogt突然変異体においては、トランスポゾンの1種のMITEがエクソン中に挿入して突然変異を引き起こしていることがわかった。BLAST検索の結果、このMITEと似た配列は見つからなかったので、新規MITEとしてOrgandyと命名した。一方、ogk突然変異体においてはエクソンを含む領域の欠失が見つかった。
  • 廣川 昌彦, 立松 謙一郎, 清水 久仁光, 小瀬川 英一
    セッションID: 320
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/27
    会議録・要旨集 フリー
    カイコのE偽対立遺伝子群(6-21.1)には約40種類の突然変異が知られ、一部のE群所属遺伝子間では組換が起こるが、染色体上の配列順序については土井良ら(1993)、廣川ら(2002)の報告があるのみである。本研究では3点実験により、Nc, EAl, ENc, EMuの配列順序を検討した(以下文字飾り省略)。EMu系統を分譲頂いた九州大学農学部藤井 博教授ならびに伴野 豊助教授に厚く御礼申し上げる。+ + +×Nc + +/+ EAl ENcの交雑次代の4〜5齢幼虫1,121頭(3蛾区)を調査したところ、組換価はENc- EAl間0.27%、EAl-Nc間3.39%、ENc-Nc間3.66%であった。一方、+ + +×+ + EMu/EAl ENc +の交雑次代の4〜5齢幼虫1,301頭(3蛾区)を調査したところ、組換価はEMu-ENc間0.92%、ENc-EAl間0.23%、EMu-EAl間1.15%であった。これらの結果を統合すると、第6連関群の基端部側からEMu, ENc, EAl, Ncの順序で配列していると判断された。各突然変異形質の発現する主な体節は、腹部第6〜8節、腹部第2節、腹部第1, 2節、胸部第1〜3節である。すなわち、各突然変異遺伝子の染色体上の配列順序は、体軸上における突然変異形質の発現する体節の順序と一致していることが認められた。
  • 嶋田 透, 北川 正成, 三田 和英
    セッションID: 322
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/27
    会議録・要旨集 フリー
    カイコのゲノム解析を目的にして,全ゲノムショットガンライブラリーを作製した。材料に用いたp50T系統は,東大で25世代以上にわたって一蛾育した近交系である。p50T の後部糸腺から核を単離し,高分子DNAを調製した。 Shearing法により2-3kbのDNA断片とし,pUC118を用いてライブラリーとした。うち9600クローンをforwardプライマーにより配列決定した。得られた配列データをPFPフィルター(Paracel社)に通し,ベクターの配列や既知のカイコ反復配列と100bp以上一致する配列などをマスクした。その過程で,mariner様配列が848リード,BMC1が 481リードなどと,多数の反復配列が検出された。残った8557リードをCAP4 (Paracel社)によりアセンブルした結果,6469リードのシングレットと843のコンティグ(=2088リード)にまとめられた。これらの配列には,まだBMC1が201リード,Bm1が808リードなどと,反復配列が認められたが,いずれも数十から数百bpの短い配列であった。ミトコンドリアDNAに相同な配列が発見されたが,精査の結果mtDNAそのものではなかった。アセンブリーを慎重に行えば,このショットガンライブラリーを用いてカイコの全ゲノム解析を実行できそうである。
  • 安河内  祐二, 馬場 浩太郎, 野畑 順子, 三田 和英
    セッションID: 323
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/27
    会議録・要旨集 フリー
    カイコゲノムを網羅するBACコンティグと高密度遺伝子発現地図を同時並行的に作成することにより、個々に行うよりも解析効率の向上を図っている。従来からの多型マーカーによるBACライブラリーのPCRスクリーニングに加え、コンティグによるゲノムのカバー率を向上させるためにコンティグに含まれていないBACクローン50-80個を無作為に選択して、そのBAC-DNAを混合し、制限酵素消化ののちサブクローニングして無作為に塩基配列決定した。得られた塩基配列からPCRプライマーを設計してSTS化を図り、PCRスクリーニングによるクローン単離によりBACコンティグを構築するとともに、多型のあるものについては連鎖解析を行った。これらの結果とESTクローンをプローブにしたBAC 高密度フィルターによるコロニーハイブリダイゼーションの結果を統合することにより、現在までにカイコの全ゲノムの1割を超える領域を網羅するBACコンティグを構築し、数百種の遺伝子・ESTを遺伝子発現地図上にマップすることができた。
  • 吉戸 敦生, 浅野 眞一郎, 伴戸 久徳, 安河内 祐二, 佐原 健
    セッションID: 325
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/27
    会議録・要旨集 フリー
    カイコにおいて構築されたBAC(bacterial artificial chromosome)をプローブとしたFISH(Fluorescence in situ hybridization)を卵母細胞パキテン期染色体に対して行い(BAC-FISH)、28染色体対を個別に認識することに成功した。BACは第26染色体由来のクローンを除き各染色体2__から__4個をプローブとして用いた。本研究で用いたBACクローンはRAPD地図(Yasukochi, 1998)に統合されており、地図において、同一染色体由来のBACプローブは、1つの染色体上に強いハイブリダイゼーションシグナルをもたらした。DAPI染色において特徴を有する3つの染色体のうち、性染色体対(WZ)はWのヘテロクロマチンより認識された。また、NOR染色体は第11染色体、HCB(hetero chromatin block)を有する常染色体はO染色体であることが判明した。さらに、複数染色体を認識できるプローブを組み合わせたBAC-FISHでも、個別認識ができ、カイコ染色体の一括識別への道が拓かれた。
  • 飯塚 哲也, 間瀬 啓介, 山本 俊雄, 原 和二郎
    セッションID: 326
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/27
    会議録・要旨集 フリー
     沢Jの広食性遺伝子は劣性の主遺伝子と修飾遺伝子により支配され、主遺伝子pphは形質マーカZelemとの3点実験により、第3連関群の13.6cMに座位する事が確認されている。また、cDNAプローブによってRFLPを検出し連関検索・マッピングを行い、沢Jの広食性遺伝子と連鎖しているcDNAクローンを数種同定し座位決定した。今回は、pphのマッピングを行うと共に形質マーカーによる地図とcDNA-RFLPによる地図との統合を試みた。
     実験材料には20世代以上かけlemを導入した沢J-lemを用い、交配相手には形質マーカを使った3点実験の時と同様に大安橋(Ze)を用いた。親蛾のRFLP確認後BF1集団[沢J-lem×(Ze×沢J-lem)]をLP-1人工飼料により飼育し、発育した個体(摂食率18.7%)に関してRFLPを検出した。その結果、各遺伝子の配列はm162-m227-m191-Ze-e73-pph-m208-lemであることが明らかとなった。現在供試個体数を増やし、より詳細な統合された組換地図を構築中である。
  • 門野 敬子, 笹沼 俊一, 笹沼 基恵, 野畑 順子, Ogoyi Dorington O., 山本 公子, 江口 良橘, 原 和二郎, 三 ...
    セッションID: 327
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/27
    会議録・要旨集 フリー
    カイコ濃核病ウイルス2型非感受性遺伝子nsd-2の単離を目指して、第17染色体に座位するnsd-2近傍領域のゲノム解析を行った。密接に連関する4つのcDNAマーカーを用いて、スクリーニングしたBACライブラリーから43クローンをピックアップしてBACクローンDNAのフィンガープリンティングを行い、2つのコンティグが作成された。これらのうち、3つのcDNAマーカーを含む大きなコンティグについて、全領域をカバーするように4つのBACクローンを選択し、BACショットガンシーケンシング法により、塩基配列を決定した。この662Kbのシークエンスをもとに、各シークエンスコンティグ、各BACクローンシークエンスを統合し、全長593Kbの1本のシークエンスとなった。このシークエンスについて、SilkBase、BLASTxにより相同性検索を行った。その結果、これまでに見つかっているカイコcDNA12種と、またカイコ以外の生物の7種のタンパク質とホモロジーのある領域が見つかり、これらは非常に偏って分布していた。この中にはウイルス増殖に関与すると言われているものがあった。また種々の繰り返し配列が非常に多く見られ、これらの分布も非常に偏っていた。
  • 城戸 和美, 日下部 宜宏, 北 佳織, 河口 豊, 古賀 克己
    セッションID: 328
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/27
    会議録・要旨集 フリー
    カイコ卵では卵形成過程に変異が生じると、複数の核が発生し、モザイク個体や単為発生個体を生じることがある。両者の形成機構には、極体核の不活性化という共通項が想定され、その関連性があるのではないかと推測された。よって、自然発生的にモザイク個体や単為発生を高発する突然変異体を用いて、カイコの卵核成熟から受精に至る過程の機構を解明することを目的として、単為発生に関する研究を試みた。 モザイク系統およびm90系統(単為発生を高発する系統)の未交尾雌成虫の卵巣卵を人為単為発生処理したもの、および未交尾雌成虫の産下卵の着色進行状態を観察した。この時、卵内の発生の進行度をDNAの増加量でも観察するために、ゲノムに約3,500コピー存在するBMC1領域でのPCRを利用した定量法を確立した。また、m90系統が単為発生を高発する原因を調べるために、testis specific tektin遺伝子上流にm90とは異なる挿入配列を持つr06系統を利用し、m90系統とr06系統との交配系を用いて、PCRによる解析を行った。その結果、m90系統が単為発生を高発するのは、不完全な減数分裂が原因であることが示唆された。同様にモザイク系統については卵核と極体核の接合が原因であるという可能性が示された.
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