山階鳥類学雑誌
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43 巻, 1 号
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総説
  • Harry R. Carter, S. Kim Nelson, 岡 奈理子
    2011 年 43 巻 1 号 p. 1-21
    発行日: 2011/09/30
    公開日: 2013/09/30
    ジャーナル フリー
    コバシウミスズメ Brachyramphus brevirostris の,ロシアの繁殖分布域以南の海域への移動と漂行を把握するため,過去から最近までの出現記録を掘り起こし精査した.繁殖分布域の南限もしくは南限近くのカムチャッカ半島南東部の海域では少数個体がこれまで出現していた.1828年に採取されたタイプ標本2体は,検証の結果,F. H. von Kittlitz がPetropavlovskあるいはカムチャッカ北東部のどちらかで採集したものだった.繁殖海域以南の記録はわずかに13件で,このうち10件の記録では間違いなく本種とする認定ができたが,残る3件では信憑性はあったが本種だとは判断できなかった.1975年以降の記録は11件あり,そのうち10件の記録で本種だと確認できた.カムチャッカ半島最南端近くでは,唯一Vestnik湾での1972年の記録が本種と認定できた.サハリン島では,1986年に Kholmsk の沖合 40 km と 43 km 沖合の Moneron Island 沿岸での2記録と,Chaivo湾で1999年に得られた計3記録が本種と判断できた.千島列島では,1928年Paramushir島での記録,2009年の国後島での記録,そして1890年以前の詳細な場所および日付が不明な記録の計3件について本種と判断した.北海道では1890年以前の初期の複数の報告は既にいずれも後年,種の誤判定もしくは千島列島からの記録と判明しており,1975年以前の出現記録はなかった.近年(1975~2004年)になって北海道東部の沖合で目撃された5件の記録を照合した結果,2件が本種と判断できたが,残り3件は本種と判断できなかった.確定できた記録には1999年3月,65 km 沖合の十勝—釧路航路での出現記録も含む.このように,千島列島,サハリン島,および推定繁殖地南限から至近でも 1,500 km 離れた北海道沿岸ではコバシウミスズメはごく僅かな出現記録しかなく,このことは,コバシウミスズメは通常よりもはるかに南下する年があるものの,南下移動範囲は北海道南方の寒流域までだということを示す.もう1例の,北海道東部からさらに 950 km 南に位置する東京湾近くで観察された2004年の記録は,おそらく稀な気象条件がもたらした漂行と考えられた.繁殖分布域の南にあたる東アジアでのコバシウミスズメの出現状況の変化を監視する測定基準をつくるには,今後,証拠を備えた記録の積み上げが必要である.
原著論文
  • 三上 修, 森本 元
    2011 年 43 巻 1 号 p. 23-31
    発行日: 2011/09/30
    公開日: 2013/09/30
    ジャーナル フリー
    A previous study has demonstrated that the population size of the Tree sparrow Passer montanus in Japan is declining. To confirm this, we examined reports on the number of tree sparrows banded in Japan from 1987 to 2008. If the population size of the tree sparrow is actually diminishing, then the numbers banded should also reflect this. Results showed that the number of tree sparrows banded over this period decreased by more than half, and support previous studies documenting the decline of the tree sparrow in Japan.
  • 高橋 松人
    2011 年 43 巻 1 号 p. 33-46
    発行日: 2011/09/30
    公開日: 2013/09/30
    ジャーナル フリー
    The Copper Pheasant Syrmaticus soemmerringii is endemic to Japan and information on its breeding ecology in the wild is fragmentary. To examine the breeding schedule and mating system of this species, I set artificial feeding stations at three sites in Mie Prefecture, Japan, from 2003 to 2009, and observed courtship display, drumming, wattle around the eye, and molt of individuals. Individuals were identified mainly by body (and tail) size and plumage color. The egg-laying period was estimated to be from mid-March to April, based on the breeding schedule of individuals in cages. Males and females had bright red wattles from late-February to April and late-February to May, respectively. The mating period was obscure because courtship displays were observed in June, September and November. Males molted their tail from late June to early November. Some young females and adult females used feeders together until the following May. If they belonged to the same family, the family period lasted for one year. Young males disappeared from the family group in late August. At each feeding station, there was one male and female that continued to use the feeder and appeared together at the feeder. Although other males and females sometimes used the feeder, courtship displays were observed only between the male and female that used the feeder continuously. Only the male that continually used the feeder showed drumming by wing whirring. These results suggest that the Copper Pheasant is socially monogamous.
短報
  • 井川 マリジョー, 井川 浩
    2011 年 43 巻 1 号 p. 47-56
    発行日: 2011/09/30
    公開日: 2013/09/30
    ジャーナル フリー
    2006年春,北海道で1羽の野生カナダガンが観察された。著者らは,計11回にわたる観察の結果,この個体が亜種チュウカナダガンBranta canadensis parvipesである可能性がきわめて高いと判断した。日本ではこれまで一度も公式報告例のないチュウカナダガンの同定過程を報告する。同時に,北海道の南と北端に位置する,この個体が利用した渡りの中継地点2か所,他種ガンとの関係,および北海道における滞在期間を報告する。
  • 江田 真毅, 小池 裕子, 佐藤 文男, 樋口 広芳
    2011 年 43 巻 1 号 p. 57-64
    発行日: 2011/09/30
    公開日: 2013/09/30
    ジャーナル フリー
    アホウドリ Diomedea albatrus は伊豆諸島の鳥島と尖閣諸島の南小島や北小島で繁殖する危急種の海鳥である。1979年以降,鳥島で生まれたほとんどの個体が両脚に標識をされているにもかかわらず,1996年以降,鳥島の初寝崎において未標識の1個体が観察されている。2005年度の繁殖期まで,アホウドリ誘致用に設置された特定のデコイのそばに毎年巣をつくったこの鳥は,デコイにちなんで「デコちゃん」と呼ばれている。若鳥のうちに標識が両脚から外れることは考えにくいため,この鳥は尖閣諸島で生まれた個体であると考えられてきた。近年の私たちのミトコンドリアDNAの制御領域2を用いた研究によって,アホウドリには2つの系統的に離れた集団(クレード1とクレード2)が含まれていたこと,尖閣諸島で採集された資料はクレード2の個体からなること,鳥島で生まれた個体の多くがクレード1に属することが示唆されている。この鳥の巣で羽毛を採取して解析した結果,この鳥の制御領域2の配列は,これまでに知られていた配列とは異なるものの,クレード2に属することが明らかになった。このことは,デコちゃんの出生地が鳥島ではなく,尖閣諸島であることを支持するものである。デコちゃんは鳥島で生まれた個体とつがいを形成し,2009年度の繁殖期までに2羽の雛を巣立たせている。しかし,2つの系統が交配しているかどうかを判断するためには,両性遺伝する遺伝子マーカーによる研究が必要である。
  • 吉野 智生, 川上 和人, 葉山 久世, 市川 典良, 東野 明典, 中村 茂, 遠藤 大二, 浅川 満彦
    2011 年 43 巻 1 号 p. 65-73
    発行日: 2011/09/30
    公開日: 2013/09/30
    ジャーナル フリー
    日本には現在,愛玩・展示および家禽化を目的に毎年約200万羽の外国産鳥類が輸入され,外来種化したものも少なくない。外来鳥類が在来生態系に及ぼす影響の一つに感染症や寄生虫の持ち込みが知られるが,国内では調査が少なく,特に寄生虫の持ち込みやその影響は不明のままであった。そこで筆者らはコブハクチョウ Cygnus olor, オオカナダガン Branta canadensis moffitti, バリケン Cairina moschata domestica, コウライキジ Phasianus colchicus karpowi, コジュケイ Bambusicola thoracica, インドクジャク Pavo cristatus, ワカケホンセイインコ Psittacula krameri manillensis, シロガシラ Pycnonotus sinensis, ガビチョウ Garrulax canorus, ソウシチョウ Leiothrix lutea およびギンパラ Lonchura malacca の計11種について寄生蠕虫類,原虫類および節足動物の保有状況を調査した.その結果,Eimeria sp., Eucoleus perforans, Amidostomum anseris, Pseudaspidodera pavonis, Heterakis gallinarum, Synhimantus (Dispharynx) nasuta, Echinochasmus sp., Amphimerus anatis, Tanaisia sp., Dicrocoeliidae gen. sp., 属種不明条虫,Goniodes pavonis, Lipeurus maculosus, Ixodes turdus, Haemaphysalis flava, Leptotrombidium scutellare および Mouchetia sp. の計17種の寄生虫が確認され,その中には高病原性を示す線虫類の P. pavonis, H. gallinarum および A. anseris や,人獣共通感染症を媒介する I. turdus および L. scutellare が含まれていたため注目された.ソウシチョウの Dicrocoeliidae gen. sp., I. turdus および L. scutellare とガビチョウの Tanaisia sp. および L. scutellare は新宿主記録であり,P. pavonis および G. pavonis は国内初記録であった.血液原虫や消化管原虫類については殆ど検出されなかったが,今回検出された蠕虫類,節足動物も含め今後のモニタリングが必要であろう.
  • 大沼 学, 吉野 智生, Chen Zhao, 長嶺 隆, 浅川 満彦
    2011 年 43 巻 1 号 p. 74-81
    発行日: 2011/09/30
    公開日: 2013/09/30
    ジャーナル フリー
    2004年から2006年にかけて,沖縄島北部各地にて保護収容後に死亡,あるいは死体として回収されたヤンバルクイナGallirallus okinawae 計39個体について寄生虫学的調査を実施した。その結果,線虫3種(Heterakis isolonche, Strongyloides sp., Skrjabinoclava sp.), 吸虫2種(Glaphyrostomum sp., Tanaisia sp.), 条虫1種(属種不明)および鉤頭虫1種(Plagiorhynchus sp.)の計7種の寄生蠕虫類を得た。H. isolonche およびGlaphyrostomum sp. を除く5種は新宿主記録であった。Tanaisia sp. の寄生率はオスの方がメスに比べて高かった。H. isoloncheは結節性,肉芽腫性腸炎の原因となることが知られており,絶滅危惧種であるヤンバルクイナの保護管理上,今後寄生虫のモニタリングが必要であると考えられた。
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