保育学研究
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特集号: 保育学研究
56 巻 , 3 号
―特集 保育の質を問う―
選択された号の論文の26件中1~26を表示しています
第1部 特集論文
<総説>
原著<論文>
  • ―保育者の語りの分析から―
    畠山 寛
    2018 年 56 巻 3 号 p. 9-20
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/11
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,自由遊び場面の「今ここ」の状況を,保育者がどのようなフレームによって理解しているのかについて明らかにすることである。幼稚園教諭3名(保育歴8年,9年,20年)の自由遊びの保育実践場面をビデオ撮影し,その後,個々に自由遊び場面における様々な状況をどのように理解しながら,子どもたちと関わっているのかについて半構造化面接を行った。その結果,①保育者はフレームによって問題状況を問題とし,問題を解決するために対応していること,②複数のフレームによって,1つの問題状況から問題を構成する場合もあること,③保育者が持つフレームは,それ以前の子どもとの関わりよって得られた子ども理解,保育者の発達観を基にした期待や願いが影響していることの3点が明らかになった。

  • 古賀 松香
    2018 年 56 巻 3 号 p. 21-32
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/11
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,1歳児保育の実施運営の質と子どものトラブルとの関連を明らかにすることである。Z県下の全認可保育所を対象に,実施運営の質と保育スケジュールについて質問紙調査を行った。

    保育スケジュールの分析では朝夕の登降園時と10時からの活動時にトラブル報告数が多く,関連する実施運営の質として,自由遊びでトラブルが多いこと,4月は保育士一人当たりの子どもの人数が増える時間にトラブルが増えることがわかった。また,排泄介助時にトラブルが多いことが明らかになった。年度前半は保育士の出退勤時間帯と子どもの登降園時間帯のピークをずらすこと,保育士配置を改善することで主体的活動や生活面での丁寧な援助を可能にすることが重要である。

  • 大倉 得史
    2018 年 56 巻 3 号 p. 33-44
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/11
    ジャーナル フリー

    近年,我が国では保育の量的拡大を目指して幼児教育・保育分野の市場化を促すような施策が相次いでおり,いくつかの自治体では公立保育所を民営化する動きが加速している。こうした中,より低コストで保育を行う事業者に保育所の運営が委託されるケースが増えつつある。こうした事業者の変更は,保育の質,あるいは慣れ親しんだ保育者から引き離される子どもたちに,どのような影響をもたらすのだろうか。本研究では,株式会社に運営を委託されたある院内保育所の事例を取り上げ,そこで生じた保育の質の低下が子どもたちの情緒的安定を脅かすまでに至った経緯を明らかにする。その上で,保育の質を保つためには,委託契約期間の延長,最低委託額の取り決め,新旧事業者の義務などの明確化,保育士の給与の改善などが必要であるという結論を導いた。

  • ―政策動向及び米英の調査研究からの検討―
    益山 未奈子
    2018 年 56 巻 3 号 p. 45-55
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/11
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は,日本の保育士不足に対する賃金の影響を,近年の保育を取り巻く日本の政策動向や保育士の賃金に関する欧米の研究成果を踏まえて検討することである。近年,日本では,幼保一体化が進められており,保育士資格と幼稚園教諭免許の相互互換的性質が強まっている。分析結果から,保育士と幼稚園教諭の間に賃金格差があり,幼保一体化により保育人材が幼稚園に流れる可能性を指摘した。さらに,保育士の有資格者の学歴は,過去30年で大幅に上昇しているが,他の専門職種と比較すると賃金水準は低いことも明らかとなった。現在,保育士の処遇改善が進められているが,他職種との賃金格差や資格取得にかかる機会費用を十分に考慮して議論を進める必要がある。保育師の相対的な賃金の低さが保育の質に及ぼす影響についての研究蓄積も今後の課題である。

第2部 自由論文
原著<論文>
  • 小尾 麻希子
    2018 年 56 巻 3 号 p. 58-69
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/11
    ジャーナル フリー

    本研究は,学校教育法制定後の千葉師範学校附属幼稚園において構想・実践化されるに至った「新保育」(1947)の特質を,その当時の実践資料に基づいて明らかにすることを目的とした。研究の結果,「新保育」の特質として明らかにされたのは,次の3点である。第1に,学校教育法における幼稚園の目的規定に示された「適当な環境」への着眼とその具現化,第2に,その環境との関わりにおいて誘われる幼児の自発的な遊びを基盤とした生活の組織,第3に,幼児の自己活動が十分に展開される生活形態に工夫を生み出して,戦前より同園において試みてきた「誘導保育」を再構築したものであった。

  • 野村 朋
    2018 年 56 巻 3 号 p. 70-80
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/11
    ジャーナル フリー

    本稿は,「気になる子」の保育の研究の歴史的変遷と最近の研究動向を概括し,今日的な課題を探求することで,「気になる子」の保育研究と実践の発展に寄与することを目的とする。戦後の保育研究では,障害児も含め「問題児」としていたが,障害児保育の制度化とともに,障害のない子どもが「気になる子」として注目され,子ども・保育者の両面の要因から検討する研究がみられるようになった。その後,障害児保育,障害児・者教育の施策の動向と呼応し「気になる子」と発達障害との関連の研究が増大してくる。他方で保育実践の中からは「気になる子」を含めた集団保育の豊かな可能性とその保育を行う上での困難が示されている。「気になる子」の保育研究の今日的課題は,保育実践研究を丁寧に蓄積し,集団保育の中で個と集団を統一的にとらえる視点から保育内容を分析し,研究課題を明らかにすることである。このような視点から,本稿では,「気になる子」を含むすべての子どもたちが育ちあう保育実践の研究課題について,特別ニーズとインクルーシブ保育の視点および集団づくりと個の育ちの統一の視点から研究することが必要であることを指摘した。

  • ―ドイツの反権威主義的教育学とアウシュヴィッツ以後の教育―
    柏木 恭典
    2018 年 56 巻 3 号 p. 81-91
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/11
    ジャーナル フリー

    本稿では,赤ちゃんポストの構想を得た1999年以前のユルゲン・モイズィッヒの思想と実践の変遷に着目して赤ちゃんポスト創設の背景を探ると共に,その思索を通じて戦後ドイツの幼児教育の歩みの中でその動態を示すことにある。彼の主著は90年代に集中しているが,その内容は70~80年代のドイツ教育学,とりわけ「新教育学(Reformpädagogik)」と「反権威主義的教育学(AntiautoritäreErziehung)」の影響が看取できる。だが,90年代以降,アドルノが提唱した「アウシュヴィッツ以後の教育(Erziehung nach Auschwitz)」のへ関心を強め,独自の幼児教育を急進的に展開していく。本論の帰結として,彼の思想の中心には,一貫して反権威主義的な教育学的仲介という概念があったことを指摘し,赤ちゃんポストもまたその文脈で捉えられねばならないということを示す。

  • 境 愛一郎
    2018 年 56 巻 3 号 p. 92-102
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/11
    ジャーナル フリー

    本研究では,通園バスに乗務する保育者へのインタビュー調査を通して,乗務や車内での子どもの過ごし方に対する保育者の認識を明らかにするとともに,通園バスの保育環境としての特質について考察した。インタビューデータの質的な分析によって,車内での保育者の配慮事項や乗務に対して感じるやりがい,課題などが明らかとなった。また,通園バスにおいて子どもは,互いがクラスや家庭・地域で経験したことを交流させ,「バス集団」とも呼べる異年齢間の結びつきや独自の習慣を共有した関係性を構築している可能性が示唆された。他方で,保育者は,そうした通園バスについては,保育環境として特に意識しているわけではないことも明らかとなった。

  • ―描画とインタビューの手法を用いて―
    淀川 裕美
    2018 年 56 巻 3 号 p. 103-114
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/11
    ジャーナル フリー

    本研究は,保育所や幼稚園等に通う5歳児クラス園児が,園における食事場面をどのように認識しているかを検討した。3園から36名の協力を得,園児2名一組で描画をしてもらい,インタビューを行った。描画の内容は,①食事の詳しい内容,②食事空間の全体,③食事の段取り,④一緒に食べる友達であった。分析の結果から,給食の園で,園児がどのくらい食べるか主体的に判断している園では,ほぼ全員が主食・主菜・副菜・汁物をバランス良く描き,食事の内容を良く認識していた。また,食事の準備から片付けを園児が主体的に行う園では,食事の段取りも良く認識し描画していた。食事への関心が低い園児は描画の内容が乏しく,援助の検討が必要であることが示唆された。

  • ―安心感を視点とした保育実践の可能性―
    立本 千寿子
    2018 年 56 巻 3 号 p. 115-125
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/11
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,母体心拍音聴取時において,幼児がどのように反応するかに関し,安心感に着目した心拍数の変化により明らかにすることであった。38.0~74.0か月の幼児33名を対象とし,無音・母体心拍音・オルゴール音を聴取する実践を通して,心拍数を測定した。その結果,音の聴取において,母体心拍音は,他の聴取音(無音・オルゴール音)よりも,心拍数を減少させる傾向にあることが明らかになった。またその際,特に,何も聴かない無音で過ごすよりも母体心拍音の聴取をする方が,心拍数が減少することが顕著であった。以上の結果をふまえ,幼児が育つ場における母体心拍音の有効性を考察し,保育実践の可能性を示した。

  • ―経験による変化と関係性に着目して―
    原口 喜充, 大谷 多加志
    2018 年 56 巻 3 号 p. 126-136
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/11
    ジャーナル フリー

    本研究では,保育者からみた心理専門職との協働に対する認識を明らかにすることを目的とする。経験年数の異なる6名の保育士に対しインタビュー調査を実施し,SCATを用いて分析した。

    分析の結果,経験年数ごとに心理専門職に対する認識に違いがみられた。新任の時には心理専門職を「先生」として捉えていたが,経験を重ねると密な関わりをするようになっていた。またベテラン保育者は,心理専門職の見方を取り入れて,ある程度同じような見方ができるようになっていた。以上の結果に基づき,経験年数による変化を示し,よりよい協働のあり方について考察を加えた。

  • 湯澤 美紀, 上田 敏丈, 入江 慶太, 片平 朋世
    2018 年 56 巻 3 号 p. 137-148
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/11
    ジャーナル フリー

    本研究は,4年間の養成課程での実践への参加を通して,学生がエピソードの語り手に至るまでのプロセスを明らかにすることを目的とした。研究1では,保育者養成課程に在籍する4名の大学4年生を対象に,フォーカスグループでのインタビューを行い,保育実践に関するエピソードについて4年間の振り返りを求めた。結果,1年生次,エピソードは実践の場で自ら見出すものではなく,授業の中で紹介された実践事例であった。2年次,学生は保育の場で子どもたちと出会いながらも,漠然とした「保育見えない感」を抱く。3年次,エピソードの視点が明確化してくる。そして,4年次になり,エピソードを多面的に読み解きつつ,動きながら考えるといった実践家的視点をもって語るようになった。研究1で示された結果は,エピソードに関する記録に加え,研究2における270名を対象としたアンケート調査によって傍証された。

  • ―難しさに関する語りの変容プロセスに着目して―
    衛藤 真規
    2018 年 56 巻 3 号 p. 149-160
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/11
    ジャーナル フリー

    本研究は,初任保育士が,保護者との関係をどのように構築していくか,その変容プロセスを保育士の語りから検討することを目的とする。

    対象は私立保育所に勤務する保育士2名,いずれも経験1年目の初任保育士である。M-GTAを用いてデータを分析し,初任保育士が捉える保護者との関係性の変容過程を検討し,以下の考察を得た。1)保護者との関係に関する初任保育士の語りを,①どう話しかけて良いかわからない時期,②返答の仕方がわからない時期,③双方向の会話が成り立つ時期の3つの時期に分けることができた。2)他の保育士の存在は,保護者との関わりを支援してくれる存在でありながら,一方で,初任保育士に未熟感や不甲斐なさを感じさせる存在でもあった。3)担当クラスの子どもの年齢に応じて,保育士の保護者に対する語りの変容プロセスには違いがあった。

  • ―子育て支援ルームにおける親子の遊びのエピソード分析から―
    高畑 芳美, 名須川 知子, 礒野 久美子
    2018 年 56 巻 3 号 p. 161-173
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/11
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,0・1・2歳児の主体的な遊びの変容と,親の関わりを明らかにすることである。155のエピソードを,KH Coderによって分析した結果,年齢による人や物への興味の移り変わりや身体の動きの獲得により主体的な遊びが変化することが明らかになった。また,共起ネットワークにより,母親の子どもの遊びへの関わりが可視化できた。親の関わりは,子どもが自分のしたい遊びに没頭する様子を見ることで変化する。この結果は,乳幼児と親にとってふさわしい子育て支援ルームのあり方を提案している。

  • ―5歳児のコードスイッチングに着目して―
    黄 琬茜, 山名 裕子, 榊原 知美, 和田 美香
    2018 年 56 巻 3 号 p. 174-185
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/11
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,文化間移動する幼児が母語以外の言語を獲得していく過程における,言語使用の実態を明らかにすることである。特に,多文化状況の保育における,幼児同士また幼児と周りの人々の言語コードスイッチング(言語切替)が,どのような場面や状況で生じるのかということを検討した。中華系外国人学校附属における幼稚部の幼児8名の自然会話場面を観察した結果,わからない単語があれば,現在使っている言語から,自分の優勢な言語に切り替えを自発的に行っていた。大人を対象とした研究において指摘されていることであるが,幼稚園においても複数の幼児とのやりとりの中で用いられることについても同様の現象が明らかになった。

エラータ
第3部 委員会報告
第18回国際交流委員会企画シンポジウム報告
課題研究委員会企画シンポジウム報告
第4部 保育の歩き(その3)
英文目次
編集後記
奥付
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