根の研究
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ミニレビュー
  • 寺本 翔太
    2024 年 33 巻 1 号 p. 7-14
    発行日: 2024/03/20
    公開日: 2024/03/22
    ジャーナル オープンアクセス

    根系は養水分の吸収に影響するため,重要な育種対象である.根系を改良することで,肥料吸収効率や乾燥ストレス耐性などの重要形質を改善することができる.しかしながら,土中の根の収集および計測は労力がかかり植物体を破壊するため,根系は育種で優先されていない.本ミニレビューでは,根の収集および計測の省力化,および非破壊計測技術の開発に焦点をあてた近年の研究動向を紹介する.根の収集では,鋼鉄製モノリスとバックホーを用いてイネ (Oryza sativa) の根の収集が効率化された.世界のイネ品種を用いたモノリス調査により,イネ亜集団間で根のバイオマスと相関の高い分げつ数および冠根直径が異なっていることを定量的に評価した.根の計測では,深層学習の画像解析によりイネの根の計測が効率化された.塹壕法は作物横に溝を掘り作物根の土壌内分布を観察する手法である.塹壕法写真を深層学習により画像解析することで,世界のイネ品種の根の土壌内分布の多様性を定量的に評価した.非破壊計測技術の開発では,エックス線CT (コンピュータ断層撮影) の画像を解析するための画像解析ソフトウェアが開発・利用された.最適な栽培条件と撮影条件を決定し,CT画像から根系の形を可視化・定量化した.以上のように,屋内外における根系解析のための労力のかかる作業が効率化された.これらの技術を用いて,根系に関する育種がより促進すると期待する.

  • 黒澤 陽子, 森 茂太
    2024 年 33 巻 1 号 p. 15-22
    発行日: 2024/03/20
    公開日: 2024/03/22
    ジャーナル オープンアクセス

    長寿の樹木の成長と適応は,個体呼吸で得られるエネルギーで支えられている.このエネルギーは水獲得と炭素獲得を担う地下部と地上部に配分され,その配分は成長過程でサイズに応じて変化する.しかし,広い成長段階で地下部・地上部全体の呼吸を実測した研究は殆ど無い.著者らはブナ (Fagus crenata) の吸水種子~成木377個体の地上部と地下部の呼吸,重量,表面積を実測した.この結果,地下部と地上部の呼吸速度と個体生重量の関係は,両対数軸上でそれぞれ上に凸と下に凸の非線形でモデル化された.これは,個体呼吸に占める地下部の割合が成長初期に増加し,成長後期に低下するためであった.しかし,成長初期の地下部の割合は,呼吸 (最大47.8%) よりも表面積 (最大78.2%) において大きく増加した.これは,芽生え期の急速で低コストな根表面積の拡大がその後の地上部成長を加速させることを示す.成木期には地下部成長の低下・飽和に続いて地上部及び個体全体の成長が低下することが示された.さらに,これらブナの個体呼吸は,ロシア~インドネシアの51種の芽生え~大木の個体呼吸の範囲内にあり,多様な系統や環境を包括した樹木の統一的な個体呼吸スケーリングの存在が示された.本稿では,個体レベルの地下部と地上部の関係を巡る研究を紹介し,樹木成長メカニズムを理解する上での根を含む個体呼吸の重要性を解説する.

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