現在,マレーシアのサラワク州では2万haのサゴヤシ栽培地がありその約60%がOya-Dalat,Mukah地区に分布し,大規模なプランテーションも行われつつある.この地域のサゴヤシ栽培地のうち約60%が泥炭土壌である.このような熱帯泥炭は,oligotrophic peatであり,微量元索の含有率が著しく低く,特に銅は有機物と強い錯体を形成しやすいために,植物への有効性が低く,作物に欠乏症が発生しやすい.しかし,サゴヤシには銅の欠乏症が発生しにくいことから,このような泥炭土壊で栽培できる作物の一つとして期待されている.サゴヤシは生育立地によって生長が異なることが知られているが,その生育環境中に,あるいは植物体中にどの位の濃度の銅,亜鉛が分布しているか,また,それらが植物の生長と生育段階にどのように関係しているかを明らかにし.熱帯泥炭土壌におけるサゴヤシの 持続生産の可能性を探ることを目的に研究を行った.
熱帯泥炭地域における土壌およぴ水環境中の銅と亜鉛の濃度は非常に低く,特に銅は低濃度であった.それにもかかわらず,サゴヤシ中の銅と亜鉛の濃度は沖積土壌で生育した作物体中の銅,亜鉛濃度とほぼ同じ程度で,Deep peat soilで生育したサゴヤシ中の銅濃度以外は欠乏症が発現するとみられる濃度を超えていた.異なる泥炭土壌に生育したサゴヤシの生長を比較してみると,Deep peat soilで生育したサゴヤシはshallow peat soilで生育したサゴヤシよりも生育が遅く,幹にデンプンを蓄積するようになるまでに時間がかかることが明らかになった.
サゴヤシを収穫し系外へ搬出すること,地下水位を低下させることによる泥炭の分解に伴って微量元素が流失することなど,サゴヤシ栽培地域の微量元素の循環を考慮すると,銅は降水からの付加が流出量を上まわるため系内に蓄積する傾向がみられるが,亜鉛は系内へ付加される亜鉛に比べ,系外へ失われていく亜鉛が多いため,施肥などによって亜鉛が付加されない限り,亜鉛は土壌中から失われていく傾向にあることが示された.このようなことから無計画なサゴヤシ栽培は持続的なサゴヤシ生産を保証しないといえる.
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