物理探査
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60 巻, 3 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
小特集:歴史的文化財と物理探査
論説
  • 内田 悦生
    2007 年 60 巻 3 号 p. 223-234
    発行日: 2007年
    公開日: 2010/06/25
    ジャーナル フリー
    アンコール遺跡では主たる建築材料として砂岩、ラテライトおよび土が使用されている。アンコール遺跡で共通に使用されている灰色~黄褐色砂岩は,どの遺跡でも同じ構成鉱物,同じ化学組成を示し,岩石学的には同じ砂岩に分類されるが,非破壊法である帯磁率測定によって区別される。岩石の帯磁率は石切り場の違いを反映し,時代とともに変化している。灰色~黄褐色砂岩は,塩類析出,藻類・地衣類の繁茂,日射等により劣化を被っている。本稿では,反発強度測定,P波伝播速度測定,熱赤外線カメラ,電磁波レーダ,含水率計を用いた灰色~黄褐色砂岩の劣化に対する非破壊調査について述べる。
技術報告
  • 田中 俊昭, 水永 秀樹, 牛島 恵輔
    2007 年 60 巻 3 号 p. 235-244
    発行日: 2007年
    公開日: 2010/06/25
    ジャーナル フリー
    九州大学は,福岡市西部に新しく造成された新キャンパス(伊都キャンパス)へ,2005年10月から工学部を皮切りに大学の統合移転を行っている。新キャンパス内およびその周辺には,前方後円墳や円墳などの多数の埋蔵文化財が確認されており,福岡市教育委員会によって大規模な事前発掘調査が行われている。新キャンパス内には6基の前方後円墳が確認され,そのうち5基が九州大学によって保存が確定している。これまで,保存が確定している古墳の測量調査が九州大学の考古学研究室によって行われ,また電気探査が物理探査学研究室によって実施された。
    前方後円墳を対象にした電気探査結果の解釈を行う際には,築造された地域や時代の特色を持つ古墳の外形や内部構造などの考古学的な見識に基づいた解釈を行う必要があり,考古学者の協力が重要となる。
    本報告では,まず九州大学の新キャンパス内に存在する前方後円墳のひとつである塩除古墳について,2極法電極配置による2次元電気探査を実施した結果について報告した。次いで,インバージョン解析によって得られた比抵抗分布を考古学者にもわかり易く表示するために比抵抗3次元イメージングソフトウェアを新たに開発し,そのイメージング手法について詳述した。
    開発したソフトウェアを使用して,九州大学の新キャンパス内に存在し,保存が確定している前方後円墳の一つである塩除古墳で実施した電気探査結果を表示すると,後円部中央付近で認められた粘土槨と推定される低比抵抗異常の分布形状や,測線の端点に位置する墳丘斜面付近で認められた高比抵抗異常と古墳の墳丘斜面のほぼ全体にわたり残存が認められた葺石との位置関係が,手軽な操作と現実感のある3次元画像により確認でき,本ソフトウェアが探査結果を評価解釈する上で有効であることが確認できた。
  • 小田 義也, 綱崎 勝, 車 愛蘭, 兪 茂宏, 岩楯 敞広
    2007 年 60 巻 3 号 p. 245-251
    発行日: 2007年
    公開日: 2010/06/25
    ジャーナル フリー
    西安古城壁は,明代の1378年に完成したもので,当時の形がほぼ完全に保存されている中国で唯一の城壁である。現存する城壁としては世界的にみても最大級のものであり,また,城壁の西門(安定門)はシルクロードの起点としても知られていて歴史的文化遺産としての価値は極めて高い。城壁の外周は約14kmにおよび,高さは約12mである。断面は台形型で,上部の幅が12mから14m,下部の幅が15mから18mである。しかし,西安古城壁は,その内部に防空壕として掘削された総延長41kmにもおよぶ空洞が存在していることが知られている。特に城壁浅部に空洞が存在する地点では,陥没事故が生じるなどの被害が生じている。この歴史的文化遺産を保護するためには,空洞の分布を把握し対策を講じる必要がある。歴史的に極めて価値の高い構造物であるため,可能な限り非破壊での調査が望まれる。そこで,本研究では,城壁南門付近の100mの領域において地中レーダを用いた空洞探査を実施した。特に今回は陥没事故の原因とされている城壁浅部に存在する空洞の把握を目的とした。調査の結果,城壁浅部に空洞の存在を示唆する強い反射イベントが確認された。また,3次元マイグレーションを行った結果,空洞を3次元的に把握することができた。さらに,城壁表面のクラックの位置が,地中レーダにより検出された空洞位置や城壁内部の地盤状況とよく対応していることが明らかになり,歴史的文化遺産保護において重要な情報を得ることができた。
論説
  • 鎌田 敏郎, 内田 慎哉
    2007 年 60 巻 3 号 p. 253-263
    発行日: 2007年
    公開日: 2010/06/25
    ジャーナル フリー
    新設のコンクリート構造物における品質管理や既設構造物の維持管理の過程において,非破壊検査の活用は,合理的かつ効率的な管理計画を立てる上で極めて有効である。コンクリート構造物の安全性を確保し,信頼性を向上させる上で,今後,非破壊検査が果たすべき役割は,ますます大きくなるものと予想される。
    「(社)土木学会コンクリート標準示方書[維持管理編]」では,「点検」に関する章(5章から9章まで)において,非破壊検査を併用した点検方法を推奨している。また,「試験および調査の方法」に関する章(10章)では,非破壊検査法の種類と概要が示されている。一方,「(社)日本コンクリート工学協会コンクリート診断技術 [基礎編]」においても,診断に必要となる非破壊検査の概要が述べられている。このように,非破壊検査は,特に,構造物の維持管理段階での用途が増えつつあるのが現状である。
    そこで本稿は,まず,コンクリート構造物の診断に用いる非破壊検査について,種々の検査法の定義,特徴,評価指標および測定事例についてまとめた。また,日本国内におけるコンクリート構造物の非破壊検査法に関する規格・基準類も併せて列挙した。続いて,非破壊検査が対象とする評価項目を,「コンクリートの品質(強度)」,「内部欠陥」および「鉄筋探査」とに区分し,それぞれにおける検査方法の概説を加えた。最後に,デジタルカメラやレーザーを用いた検査法や,各種センサを搭載したロボットを紹介するとともに,コンクリートにおける非破壊検査の今後の展望について記述した。
論文
  • 山中 浩明
    2007 年 60 巻 3 号 p. 265-275
    発行日: 2007年
    公開日: 2010/06/25
    ジャーナル フリー
    本研究では,表面波の位相速度からS波速度分布を推定するために遺伝的アルゴリズムと焼きなまし法を組み合わせたハイブリッド逆解析手法を提案している。この方法の計算フローは遺伝的アルゴリズムを基本としているが,交叉における親モデルと子モデルの選択の際に更新世代数に応じた受理確率を導入した。この受理確率を焼きなまし法と同様に世代数に依存した温度の関数として定義した。これにより,世代更新数が少ない場合には,誤差の大きいモデルも次世代に残り,大局的探索が可能となり,一方,世代更新により温度が低下すると,誤差の小さいモデルが多く次世代に残ることになり,局所的探索が主体となる。さらに,モデルパラメータのコード化では,実数を用いることにした。このアルゴリズムの適用性を深部地盤構造モデルに対するレイリー波の理論位相速度を擬似的な観測データとして用いた数値実験で検討した。その結果,ハイブリッド手法では収束性と安定性が高く,遺伝的アルゴリズムや焼きなまし法に比べてより少ない計算量で最適解近傍のモデルを探索することが可能であることがわかった。さらに,関東平野での既往の微動探査により得られたレイリー波の位相速度にも適用し,数値実験と同様の結果を確認することができた。
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