物理探査
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63 巻, 6 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
特集:自然地震を用いた探査法
論説
  • 三ケ田 均
    2010 年63 巻6 号 p. 455-466
    発行日: 2010年
    公開日: 2016/04/15
    ジャーナル フリー
     自然地震を用いた地震探査方法について,実際に使われているアプリケーションを基に説明した。自然地震を用いる際の問題は,以下に分離可能である:(1) 観測点数,(2) 震源位置決定の不正確さの影響,(3) 地震波放射パターンの影響,である。通常より次数の高い極子からなる自然地震の震源に対し,地震学と観察装置の進歩はこれらの問題を徐々に緩和しつつある。波動論的手法である,レシーバ関数、地震波干渉法などのようないくつかの新しい方法も提案されており,今後の研究の展開が楽しみである。
     自己相関処理を用いて,地下の反射係数時系列が推定可能とする Daylight seismics における考察は,デコンボリューションを相関処理で置き換える妥当性を示唆する。基本波形に関する考察は,相関処理が帯域制限のあるデコンボリューションに他ならないことを物語る。相関処理を用いることで,上述の(2)および(3)の影響を取り除くことが可能である。
     近い将来,より高精度な探査が可能になるであろう。しかしながら、地震観測で良く知られた問題,即ちノイズレベルの低い観測点を選定する,に注意が必要である。
論文
  • 筒井 智樹, 森 健彦
    2010 年63 巻6 号 p. 467-484
    発行日: 2010年
    公開日: 2016/04/15
    ジャーナル フリー
     火山性微動観測記録に擬似反射記録法を適用して, S波反射断面を得る手法について報告する。本稿では阿蘇火山における高密度観測網で得られた火山性微動記録を使用した。火山性微動記録を擬似反射記録法解析に適用するにあたり, 次の項目に注意して解析を行った。1) 火山性微動記録を構成する地震波の種類の吟味, 2) 垂直入射波の強調, 3) 等価入射波形の経時変化の吟味である。1)に関して3成分観測記録による粒子軌跡解析を行い, 火山性微動記録の主要部ではS波が卓越することが示された。したがって, 火山性微動を用いて得られた擬似反射断面はS波反射断面に相当すると考えられる。また, 2)では相関窓の選定とともに隣接点とのトレースミキシングを採用して垂直入射波の選択性向上をはかった。3)では個々の火山性微動イベントに対する生の擬似反射断面は構造に対する入射波形の変異を強く反映しており, その影響を除去するためにはそれぞれのイベントの等価入射波形を用いたデコンボリューションが必要なことが示された。これらの注意点を反映したデータ処理を経て火山性微動観測記録から得られたS波擬似反射断面は, 人工地震から得られたP波擬似反射断面と整合的であることが示された。火山性微動の擬似反射記録法解析は, 通常の地震探査手法を適用しにくい火山地帯においてS 波反射断面を得る手法の一つになり得る。
  • 辻本 すばる, 三ケ田 均, 淺川 栄一, 後藤 忠徳, 尾西 恭亮
    2010 年63 巻6 号 p. 485-495
    発行日: 2010年
    公開日: 2016/04/15
    ジャーナル フリー
     地殻構造の推定は,日本の弧状列島に関する造構史を明らかにする,あるいは地震,火山噴火,それに伴う津波発生など,将来的なテクトニック活動を探る上で大切である。深部地殻構造推定では,屈折法探査や反射法探査が実施され,主として得られた記録の上下動成分が使われているが,水平動成分の記録迄含めて解析することでより詳細な地殻構造推定の可能性が生まれる。この目的のため,人工震源ではなく自然地震のS波を利用し地震波速度不連続面の位置を推定するレシーバ関数に着目した。本研究では,地震ではなく,人工震源を用いた屈折法探査データを使用したレシーバ関数解析による地下構造イメージングを試みる。データの処理では,まず時間マイグレーションにより変換点をみかけの位置から真の位置に移動させることが必要である。これは,イメージングの対象となるヘッドウェーブからのP-S変換点が,反射法探査データの場合の反射点と異なるためである。次にf-kマイグレーションにより時間マイグレーションを適用したレシーバ関数を深度変換する。最終的に,異なる震源あるいは地震に対して得られたマイグレーション結果を重合し,1つのセクションを作成する。本研究の結果は,レシーバ関数解析が地下構造イメージング手法として屈折法探査データに適用可能であることを示すだけでなく,レシーバ関数を用いることで,自然地震観測や屈折法探査など異なる手法で得られたデータを統合可能であることを示している。
  • 鈴木 晴彦, 山中 浩明
    2010 年63 巻6 号 p. 497-508
    発行日: 2010年
    公開日: 2016/04/15
    ジャーナル フリー
     琵琶湖地域の深部地盤構造モデルの高精度化を目的として, 小規模微動探査を実施した。底辺長が100mおよび200mの4点アレイを琵琶湖周辺の6つのK-NET観測点の近傍に展開した。得られたデータから周期0.17秒から1秒のレイリー波の位相速度を求めた。この位相速度と地震記録のS波主要動, Sコーダ部分のH/Vスペクトルを用いたS波速度構造の同時逆解析により, 深部地盤構造モデルを推定した。得られたモデルは, 既存の物理探査データやK-NET観測点の浅部のPS検層結果と矛盾が無いことを確認した。さらに, このモデルは経験的サイト増幅特性のピーク周期を良く説明できることがわかった。本研究で提案した手法は, 物理探査データが乏しく, S波速度構造に関する情報が少ない中小規模の盆地や平野でも地震動予測のための深部地盤モデルの構築へ適用が可能であると期待される。
  • 津村 紀子, 森 智之, 青柳 恭平, 阿部 信太郎, 小田 義也
    2010 年63 巻6 号 p. 509-518
    発行日: 2010年
    公開日: 2016/04/15
    ジャーナル フリー
     地下の3次元的な地震波減衰構造を推定するため, 複数の観測点で得られた複数の地震の波形スペクトルから震源パラメター, Q構造, 観測点近傍の地盤増幅特性の同時推定を行うインバージョン法を紹介する。また, その方法を2004年に発生した中越地震の余震データに適用し, 震源域近傍の詳細なQ構造を求めたので報告する。
     中越地震余震の波形データから推定されたQ値の分布は, 本震断層面を境として西 (上盤) 側が相対的に低く, 東 (下盤) 側が相対的に高い。西側の低Q値領域は地表の堆積層分布とほぼ一致し, 西に傾いて深くなる傾向が見られた。東側の高Q値領域はこの地域の基盤に対応すると考えられる。本震断層と平行し, 約5km 下に位置すると考えられる余震の断層面や東下がりの断層面などの周辺では周囲よりQ値が低下する部分が存在する。他の地球物理学的データを比較すると, これらの減衰の特徴は日本海拡大時のリフト構造に関連した堆積構造および基盤の形状を表していると考えられ, また高Q値領域内でのQ値低下は本震の震源断層周辺での複雑な応力分布に影響を与える堆積岩や基盤岩内の弱い領域を示している可能性がある。
  • 岡本 京祐, 三ケ田 均, 後藤 忠徳, 武川 順一, 尾西 恭亮
    2010 年63 巻6 号 p. 519-529
    発行日: 2010年
    公開日: 2016/04/15
    ジャーナル フリー
     Q値は地殻の不均質性・粘性を反映するものであり,その空間的・時間的変化を用いて地殻の情報を得ることは過去の様々な研究で行われてきた。しかし,Q値は散乱体や地殻境界面の位置,震源形状といった個々の情報を決定論的に示すわけではなく,地殻全体としての特性を表すものであり,統計的に処理された情報にすぎない。そのため,活火山の近傍でQ値異常が見られるということや,地震発生前にQ値が変化していることなど,得られる情報も統計量であり不明瞭なものであった。これは,コーダ波を構成する無数の散乱波は地殻のあらゆる場所を通過・散乱しているため,変化の要因が特定できないためである。そこで、本研究では統計量であるQ値から,地殻中の統計に依らない状態量を導き出す試みを行った。具体的にはQ値変化から弾性体に加わる応力の大きさ,方向の推定可能性を検討した。そのために二次元差分法を用いて波動伝播シミュレーションを行い,コーダ波の応力に対する応答性に関する議論を行った。その結果,Q値変化と弾性体に載荷された応力の大きさの変化には比例関係があることが明らかとなった。また,応力の載荷方向によって震源からx軸方向、z軸方向に配置した受振器ではQ値変化の傾向が変化することが明らかとなった。以上の結果を踏まえると,地殻中のQ値変化を観測することによって応力の大きさの変化や,応力軸の方向変化を知ることができる可能性がある。これにより,統計量であるQ値から,統計に依らない応力の情報を定量的に得ることが可能となることが示唆される。
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