奈良県明日香村にある高松塚古墳は, 1972年に石室内に極彩色の壁画が発見され,国宝に指定されて,厳重に保存策がとられて来た。しかし, 2002年秋に,壁画に黒カビが発生したことが報告され,翌年から緊急に対策が施されることになった。その対策を施す前に,カビ成長の一因である水分の墳丘内の分布を非破壊で推定するために,墳丘は版築で構成され均質な土壌と考えられることから,比抵抗の比較で水分量の大小を判定できると想定し,電気探査を実施した。そして,墳丘の樹木を伐採し遮水シートで覆うという防水対策を施すことが決定されたが,その保存対策の効果をモニターするためにも電気探査が用いられた。墳丘内の水分分布推定では, 1m間隔で配置された複数の測線に沿って, 0.25m間隔で設置された108本/測線の電極を用いてWenner法で測定された見かけ比抵抗データから,三次元逆解析を行い,墳丘内の比抵抗の3次元分布を求めた。その結果,カビの発生した石室東面の外側で最も比抵抗が低いという結果が得られた。保存対策効果のモニターでは,遮水シートの下に残した2測線分の電極ピンを使い, 1年間にわたって墳丘内の比抵抗の変化を観測した。石室の壁画に影響を及ぼさない範囲で測定された地温と土壌含水率のデータと比抵抗データの比較検討から,水分量の変化を考察した。石室の東側ではすべての深度において対策開始前よりも,開始1年後の比抵抗のほうが低いという結果から,この保存対策が,墳丘内の水分を減少させるには有効でなかったことが示された。
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