物理探査
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63 巻, 4 号
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特集:屈折法弾性波探査における探査技術の伝承と新しい試み
論説
  • 渡辺 俊樹
    2010 年 63 巻 4 号 p. 281-288
    発行日: 2010年
    公開日: 2016/04/15
    ジャーナル フリー
     屈折法地震探査は,土木・建設,環境・防災などの工学的分野において地盤調査手法として広く採用されているのみならず,地球科学分野においても地殻構造の解明を目的として数多くの調査に適用されてきた。本稿では,我が国で,主として陸上で実施された地球科学分野における屈折法地震探査の調査の目的と調査仕様,その成果についてレビューする。我が国の地殻構造探査は1950年代に始まり,日本列島下の地殻構造を徐々に明らかにしてきた。1990年代以降は探査技術の進展により反射法が主体となったものの,屈折法は依然として大規模構造探査に用いられている。日本列島の島弧地殻の形成や発達を解明するための大規模地殻構造調査,防災も含めた大都市圏の基盤構造や地震活動や地殻変動現象を解明するための特定地域の重点的調査,および,火山活動を理解し予測するための火山体構造探査が成果を上げている。
  • 吉田 壽壽
    2010 年 63 巻 4 号 p. 289-309
    発行日: 2010年
    公開日: 2016/04/15
    ジャーナル フリー
     山岳トンネルの設計・施工のための基礎資料を得る目的で地質調査が実施され,さらに調査の結果に工学的判断を加えて地山分類が行われている。地山分類の指標としては,岩石の種類・強度や地山の不連続面の状態,地山の弾性波速度およびボーリングコアのRQDなどが用いられている。このうち,トンネル軸線に沿って連続的に地山状況を把握できる弾性波速度が地山等級の判定に使われている。このように弾性波速度が広く利用されていることは今後の技術発展のためにも好ましいことではあるが,それだけで全ての現象を把握できるとは限らない。弾性波探査の限界を充分考慮した上で,走時曲線の解析結果をトンネル設計・施工に反映させる必要がある。この報告は既存の研究成果を基に適切な地山評価が行われるための解析手法等について説明したものである。
論文
  • 香川 敏幸, 松岡 俊文, 相澤 隆生, 林 徹明
    2010 年 63 巻 4 号 p. 311-320
    発行日: 2010年
    公開日: 2016/04/15
    ジャーナル フリー
     屈折波を用いて地盤構造を推定する屈折法弾性波探査は長い歴史を有し,有名な萩原の方法をはじめとして多くの手法が開発されている。しかし,これらの方法は現地で収録された波形から初動走時を読み取り,この初動走時に対して処理を進めてゆくというものであった。本研究では,収録された波形記録に,コンボリューションをはじめとする波形データ処理を施すことで萩原の方法と同様の解析を行うコンボリューション法について検討を行った。コンボリューションとクロスコリレーションの演算は,それぞれ時間領域における位相の足し算と引き算に相当する。このため同一受振点に同じ境界面より到達した2つの波形記録にコンボリューションとクロスコリレーション演算を行うことで,萩原の方法で作図的に行われるのと同等の解析を実施することが可能となる。屈折法の解析において解析結果の品質を大きく左右するのは、初動走時の読み取りである。このため初動読み取りは単純作業ではなく、解析段階において、しばしば再読み取りも要求されるほど重要な過程であり,解析者の熟練を要する。一方、コンボリューション法の利点は初動の読み取りを必要としないことである。さらに解析結果からデータの品質に関しても吟味することが可能となる。本研究では,実際にコンボリューション法により屈折法データの解析を行った結果,本手法の持つこのような利点が確認された。
  • 山中 浩明, 山内 泰知
    2010 年 63 巻 4 号 p. 321-332
    発行日: 2010年
    公開日: 2016/04/15
    ジャーナル フリー
     本研究では,板たたき加振によるSH波を用いた屈折法地震探査で得られた観測波形データに対して,波形逆解析を適用することにより,表層地盤の2次元S波速度構造を推定する方法を示し,数値実験から方法の妥当性を確認し,実際の探査データへの適用を試みた。本研究での考え方は,Takekoshi and Yamanaka (2009)を基本としているが,振動源の影響を取り除くために,各地点での観測波形を基準点での観測波形でデコンボリューション処理した後に,波形逆解析を適用している。逆解析では,差分法による2次元モデルに対する理論波形と観測波形の誤差が最小となるように,ハイブリッドヒューリスティック法を用いて地盤モデルのS波速度の不均質性と地層境界面形状を推定している。本手法の有効性を検討するために,速度反転層や傾斜層を含む表層地盤モデルに対して,擬似観測データを用いた数値実験を行い,設定した地盤モデルを再構築できることを確認した。つぎに,実際の表層地盤を対象とした屈折法地震探査で得られたSH波の波形データの逆解析を行った。従来の初動走時データの解析手法を用いてS波速度構造を推定し,本手法から得られた結果と比較検討し,同様のモデルを推定することができた。また,より少ない地点での波形データを用いても同様の地下構造を求められることがわかった。これらの結果から,本研究で提案している方法が簡便に表層地盤の2次元S波速度構造モデルを推定できる方法であることを明らかにした。
  • 青木 徹, 香川 敏幸, 松岡 俊文
    2010 年 63 巻 4 号 p. 333-344
    発行日: 2010年
    公開日: 2016/04/15
    ジャーナル フリー
     屈折法弾性波探査の解析には多くの手法が提案されてきた。わが国では,はぎとり法が多用されているが,本研究ではプラスマイナス法に自動波面復元法を併用することで屈折境界面のイメージングの検討を行った。プラスマイナス法はHagedoornによって提唱された屈折法探査の解析法の一手法である。一方,自動波面復元法はアイコナール方程式の差分解法を応用したものである。本研究では,まずプラスマイナス法と自動波面復元法の原理と手法について述べる。次に,水平2層構造など速度構造モデルを想定し,本手法の妥当性について検証を行った。最後に京都盆地で実施された弾性波探査の記録を用いてプラスマイナス法による解析を実施し,反射法探査により得られた結果との比較を行った。以上の検討の結果,本手法で用いた手法は,手早く,簡単に屈折境界面やP波速度構造が求められるとともに,波面を描くことにより波の伝播の様子を視覚的に捉えることができるというメリットがあることが確認された。
  • 白石 和也, 阿部 進, 岩崎 貴哉, 斉藤 秀雄, 佐藤 比呂志, 越谷 信, 加藤 直子, 新井 隆太, 川中 卓
    2010 年 63 巻 4 号 p. 345-356
    発行日: 2010年
    公開日: 2016/04/15
    ジャーナル フリー
     弾性波トモグラフィ解析は地下の物性値を直接推定できる有効な手法であり,稠密長大展開の反射法地震探査データを用いた深部地殻構造探査における統合解析では,広域の速度構造を推定できる屈折初動走時トモグラフィの重要度が高まっている。一方で,逆問題の解として求まる速度モデルの信頼性に対する定量的な評価が必要となる。初期モデル依存性や観測ジオメトリによる偽像など解の空間的な不確実性について,モンテカルロ確度解析を用いて統計的な評価を行なう方法が提唱されている。本稿では,ある条件下でランダムに生成した数百組の初期モデルに対してトモグラフィ解析を実施し,全ての解から平均の速度分布及び標準偏差分布を求めることで解の信頼度を評価するこの方法について,数値シミュレーション及びフィールドデータを用いたケーススタディを実施しその適用性について検討した。断層帯を横断する稠密長大展開のデータに対して500の初期モデルを用いて本解析を実施し,速度構造及び標準偏差分布による誤差範囲を求めた。地質構造によく対応する速度分布が信頼度の指標とともに得られ,さらに,誤差範囲の分布が速度コントラストの大きな境界や断層近傍など地質構造の変化をも反映していることが明らかとなった。この手法はモデル数に応じて計算コストは増大するものの,200~300程度のランダム化をすることでトモグラフィ解析結果に対する信頼度を示すための有効な手段といえる。さらに,チェッカーボードテストを追加して実施することにより分解能に関してもあわせて評価することができる。初期モデルランダム化を伴うトモグラフィにより得られた速度構造とその他の情報は,フルウェーブトモグラフィの初期モデルや反射法データのマイグレーション処理における速度モデル,統合地質解釈における客観的な根拠など有用な情報となる。
  • 林 宏一, 斎藤 秀樹, 赤澤 正彦, トンネル物理探査研究委員会
    2010 年 63 巻 4 号 p. 357-369
    発行日: 2010年
    公開日: 2016/04/15
    ジャーナル フリー
     トンネル調査において弾性波探査 (屈折法地震探査) から得られる結果はP波速度の断面であるが,これをトンネルの実際の施工に用いるためには,得られたP波速度の断面に対して地質踏査やボーリングを含めて地質解釈・地山分類を行い,設計支保を選定する必要がある。トンネルの施工時に,設計と施工実績が一致しない原因は,弾性波探査の測定・解析だけではなく,地質解釈や地山分類に起因するものも多い。弾性波探査の解析アルゴリズムについては,トモグラフィ的解析などの新しい解析方法やこれを組み込んだソフトウェアが開発され近年大きく進歩したが,地質解釈や地山分類についてはその方法論およびツールやソフトウェアのいずれにも大きな進歩は見られない。地質解釈や地山分類には多くの問題が関わっているので,理論的に発展させるのは簡単ではないが,これまでの施工実績や問題点などを整理し,これをノウハウとして共有できればより良い地質解釈や地山分類が可能になると思われる。本論文では,まず解析により得られたP波速度断面に対する地質解釈や地山分類などの弾性波探査の解釈における問題点を整理し,次に近年著しく発達しているネットワークやデータベースを用いて解釈を補助するシステムの考察を行う。最後に,このようなシステムの実現可能性を確認するために試作したデータベースやソフトウェアを紹介する。
資料
  • 財津 敏郎, 相澤 隆生
    2010 年 63 巻 4 号 p. 371-384
    発行日: 2010年
    公開日: 2016/04/15
    ジャーナル フリー
     地表地形や速度構造の異なる19種類の速度層モデルを作成し,屈折法弾性波探査の速度層モデルの作成を行った。速度層モデルには,実際に現場で遭遇する可能性の高い,平坦地,山地形,谷地形の3種類の地形に対し,断層や基盤層の凹凸モデルなどの速度構造を与えてそれらのモデルに対する走時曲線を計算した。各速度層モデルに対して,ハギトリ法及びトモグラフィ解析の両方を使って解析した。それぞれの方法に対して,解析結果の速度構造と初めに作った速度層モデルを比較し,各速度層モデルに対してそれぞれの手法の適合不適合を判定した。両手法にはそれぞれに長短所があり,実務では双方の結果を総合して解析することが望ましい。ここで示したモデル解析の結果は,探査計画の立案,弾性波探査解析時の参考資料として役立つと考えられる。
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