地球温暖化防止の観点からカーボンニュートラルの実現が世界的要請となり,需要側の主要なエネルギー消費機器の一つであるエアコンディショナーにおいては更なる大幅な性能向上が必須となっている.エアコンディショナーの性能は,JIS で規定された年間性能評価指標としてのAPF をはじめとして運転データ取得を簡略化するため,圧縮機の回転数を一定とし,制御系を除外した状態で取得された数点の運転データをベースに導出される.実際の機器では当然,搭載された自動制御によって,圧縮機の回転数や膨張弁開度などを適切に変化させながら運転されるため,この方法では実運転性能と大きく乖離することが指摘されている. そこで,本研究ではエアコンディショナーの動的性能を評価可能な新しい手法を確立することを目的とし,建物や室内外環境など任意の環境を疑似的に計算可能なエミュレーターと性能試験装置から構成される「エミュレーター式負荷試験装置」を新たに開発した.この装置の健全性を確認するとともに,この装置を用いて具体的に機器の動的性能を把握することに成功した.この装置によって,エアコンディショナーの公平かつ再現性のある性能評価試験が実施可能となる.
エアコンの移設や廃棄の際,室外機へ冷媒をポンプダウンする際の誤操作により,圧縮機の破裂事故が発生する場合がある.ポンプダウン時のディーゼル燃焼の様子を,冷媒圧縮機を模型エンジンで模擬し実験により調べた.冷凍機油中に反応抑制剤を添加することによる燃焼抑制に及ぼす影響を調べた.冷凍機油としてポリオールエステル油(POE)を使用し,添加剤としてアミン系酸化防止剤,エポキシ系安定化剤など4 種類を使用した.冷媒は,R 22,R 32,R 1234yf,および R 290 である.アミン系酸化防止剤の燃焼抑制効果は顕著であり,R 1234yf とR 290 の燃焼をほぼ抑制できることがわかった.R 22 とR 32 の燃焼範囲はかなり制限されることも判明した.
地球温暖化への影響が小さい新規冷媒候補が次々と提案されるに伴い,それらを評価・利用するために必要となる高精度な状態方程式(EOS)の作成が求められている.各冷媒のEOS は信頼性の高い熱物性実測値を元に作成されるが,その最適化においてはPρT 関係の実測値データに加え,それらの誘導状態量にあたる音速値も重要な役割を果たす.本研究では,R1233zd(E)とR1224yd(Z)の液相音速を市販のパルス式超音波センサーで測定した.純水およびR1336mzz(Z)の既存の状態方程式を基準として,圧力および音波吸収の影響について適切に校正することにより,EOS 作成に使用可能な精度の液相音速値を得ることに成功した.
本研究では,一般的な直膨式冷蔵庫と低温高湿度環境の維持が可能なブライン式冷蔵庫に野菜を数ヶ月間貯蔵し,鮮度指標として設定した外観,水分含有量,栄養成分含有量及び味認識装置による呈味の経時的変化を評価することで,温湿度環境が長期貯蔵での野菜の鮮度に及ぼす影響を検証した.その結果,ブライン式冷蔵庫に貯蔵したニンジンにおいては,萎凋や変色等の外観劣化が著しく抑制され,貯蔵90 日程度で味認識装置による苦味及び渋味が著しく増加した直膨式冷蔵庫との有意差を示した.また,キャベツにおいては,表層葉の顕著な黄化や腐敗による外観劣化が著しく抑制され,ビタミンC の経時的な減少は直膨式冷蔵庫との有意差を示した.