日本トキシコロジー学会学術年会
最新号
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コリンエステラーゼ阻害物質による遅発性の中枢神経毒性
-サリンの臨床から学ぶ動物モデルの機構解析-
  • 長尾 正崇, 牧田 亨介
    セッションID: S9-4
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/11
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     1995年3月20日に発生した地下鉄サリン事件で、演者は当時、東京大学医学部法医学教室において急性期死亡犠牲者4遺体の司法解剖に携わった。4例とも病院搬入時には著明な縮瞳が認められ、血漿コリンエステラーゼ活性の顕著な低下や赤血球膜からのサリン加水分解産物の検出などから、死因は急性サリン中毒との確定診断を得るに至った。
     ただし急性中毒例以外に、時間を経た後死亡したり障害を訴える被害者も存在する。
     被害者のうち、事件後15ヶ月経って死亡した51歳男性について司法解剖を行った。その結果、四肢末梢に著明な筋萎縮、鷲手、垂れ足が観察され、末梢神経には遠位優位に脱髄変性と軸索変性(dying-back type)が認められた。これらは有機リン剤の亜急性毒性である遅発性神経障害(organophosphorus induced delayed neuropathy)の症状であると考えられ、サリンによる亜急性神経障害が初めて示された。
     また2007年には、被害者38人を対象に事件後63~80ヵ月後に行った各種検査の解析結果が発表された。被害者には記憶障害、視覚異常、倦怠・動機・食欲減退・腹痛等の全身性の障害、等の後遺症状が依然継続していた。MRIの結果からは、被害者に有意な大脳の萎縮、更に、全身性の後遺症状を訴える被害者に顕著な特定領域での萎縮像が認められた。即ち急性的に死亡に至らなかったサリン中毒被害者においても、神経組織の変性を伴う遅発性の障害が広く発症している状況が強く推測される。
     我々はサリン、ソマンの毒性機構解析のため、代替となる不揮発性有機リン剤BIMPおよびBPMPを作製しその効果を検証した。この薬剤を用いた実験では、ラット脳神経組織および細胞において、アセチルコリン濃度の上昇のみでは説明のつかない非コリン性に作用する毒性機構の存在が強く示唆される結果が得られた。
  • 若倉 雅登
    セッションID: S9-5
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/11
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    目的:サリンは強力な抗コリンエステラーゼ作用を有する神経毒である。1994年松本市、翌年東京で起きたサリンテロの多数の被害者の中に、15年以上経過した今日でも眼や視覚関連の自覚症状を有する人が多数いる。しかし、通常の眼科検診では正常範囲と判断されがちである。 我々は、その多数例に対し、一般眼科的観点のみならず神経眼科学の観点から検診を行ったところ、主として中枢神経系異常が示唆される臨床所見が得られたので報告する。
    対象:NPO法人リカバリーサポートセンターでの被害者聞き取り調査で、眼や視覚関連の愁訴を有する305例(男女比154:151、平均年齢47歳)に、2002年から8年間に当院神経眼科外来で、医療面接、視力、視診による瞳孔径(明所、暗所)、眼位および眼球運動、細隙灯顕微鏡と眼底鏡による一般眼科検査を行った。必要に応じ、視野、調節力、電気眼球運動図などの検査も追加し、解析した。
    結果:眼症状として最多のものは眼疲労感であり、次いで「視力低下」「焦点が合わない」「羞明」「眼痛」と続いた。明確な他覚所見が得られた例は58例(19%)で、明所での過剰な縮瞳(径<2.5mm)、暗所散瞳不十分(<4mm)が18例、調節障害が11例あった。眼瞼痙攣は10例に、眼球運動異常は9例で確認された。
    考察:瞳孔径の異常は急性期には縮瞳としてみられるが、今回みられたものはその遺残というより、明るさと瞳孔径の対応関係が崩れた可能性がある。調節障害は質的解析は不能なので、氷山の一角が検出できたのみである。眼瞼痙攣は基底核、帯状回などを含む中枢回路の異常の反映と考えられる。滑動性眼球運動は多シナプス中枢回路で構成される機能であるが、これに不調を生じたものと推定できる。
    結論:サリン被害者の慢性期の神経眼科所見として、近見、瞬目、眼球運動の構成に関る中枢高次障害が遺残しているものがあると考えられる。
  • 種村 健太郎, 五十嵐 勝秀, 相崎 健一, 北嶋 聡, 菅野 純
    セッションID: S9-6
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/11
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     中枢神経系の発生-発達期は、その基本構造がDNA情報を基に形成されると共に、適切な神経活動に依存して緻密な神経回路が形成される時期である。従って、外来性の神経作動性化学物質(neuroactive xenobiotics, NX)によるこの時期の中枢神経系の神経活動のかく乱は、正常な神経回路形成を妨げ、成熟後に情動-認知行動異常として顕在化する蓋然性がある。しかしながら、従来の神経毒性試験は成熟動物を主対象とした末梢神経影響評価が中心であり、その様な遅発性の情動-認知行動異常を検出し難い。そこで、我々はNXを周産期、または幼若期投与による成熟後の情動-認知行動異常、及びそれに対応する神経科学的な物証の収集により、遅発性中枢神経毒性の発現メカニズム解析と効率的な検出システムの構築を進めている。今回、アセフェートの結果を報告する。尚、アセフェートは有機リン系殺虫剤であり、アセチルコリンエステラーゼ阻害により殺虫活性を示す。
     幼若期(2週齢)、あるいは成熟期(11週齢)の雄マウスにアセフェート(7、20、70mg/kg)を単回強制経口投与した。12-13週齢時に行動解析を実施した結果、幼若期20mg/kg投与群に不安関連行動逸脱と記憶異常が認められたが、成熟期20mg/kg投与群には顕著な行動逸脱は認められなかった。幼若期70mg/kg投与群には不安関連行動逸脱、記憶異常、情報処理能低下が認められた。成熟期70mg/kg投与群においても記憶異常が認められたが、幼若期投与群の示した異常とは質的に異なるものであった。尚、幼若期群、成熟群ともに7mg/kg投与による影響は認められなかった。70mg/kg投与群に対するPercellome遺伝子発現解析、及び免疫組織化学法による形態解析から、幼若期投与群の大脳皮質に神経細胞軸索機能異常、髄梢形成不全が生じていることが示唆された。
ワークショップ
ワークショップ1
新しい実験動物としてのマイクロミニピッグの生命科学研究,特に毒性試験/安全性薬理試験への応用
  • 杉山 篤, 中村 裕二, 斉藤 裕之, 秋江 靖樹
    セッションID: W1-1
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/11
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    従来の安全性薬理試験による薬物性QT延長症候群の発生予測は極めて困難であった。我々はその課題を1999年、ビーグル犬を用いた慢性房室ブロックモデルを開発することで解決した。この「イヌ」モデルは薬物性QT延長症候群の高リスク患者に存在するtorsades de pointes(TdP)の発生基盤を有し、TdP誘発の高リスク薬を投与すると臨床用量(血中濃度)付近からTdPを発生した。2005年にはカニクイザルを用いた慢性房室ブロックモデルを開発した。この「サル」モデルは「イヌ」モデルと同程度のTdP検出力を有し、さらに「イヌ」モデルとは異なりTdPが自然停止するので、同一個体を用いた多剤比較試験や用量反応評価への利用が可能であった。しかし、昨今の動物福祉に関する社会意識の高まりを考えれば、愛玩(伴侶)動物と認識されやすい「イヌ」や「サル」を用いた催不整脈モデルの安全性薬理試験への利用は、現実的に難しい面があることは否めない。そこで、我々は、安全性薬理試験への利用に比較的抵抗が小さいであろうと考えられる動物種「ブタ」の中でも最近開発された世界最小サイズの超小型実験用ミニブタ(登録和名:マイクロミニピッグ、英名:Microminipig、 MMP)を利用した。MMPに完全房室ブロック誘発手術を施し、術後2ヶ月以降に高リスク薬を投与すると、QT延長と共に種々の心室不整脈が誘発された。MMPには、新たに飼育設備を設置する必要がなく従来のイヌケージで代用が可能であること、ホルター心電計を装着しても自力で除去することが出来ないので固定が容易なこと、性格が穏和で訓練された技術者を必要としないこと等の利便性がある。慢性房室ブロックMMPは既存のイヌやサルでの慢性房室ブロックモデルの利点を継承し、かつ、厳しい動物福祉規制の下に安全性薬理試験に活用できるので国際標準モデルの候補として期待されている。
  • 秋江 靖樹, 斉藤 裕之, 星合 清隆, 永山 幸利, 中村 裕二, 杉山 篤
    セッションID: W1-2
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/11
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    マイクロミニピッグは富士マイクラが開発した超小型の実験用ミニブタであり、現在、薬物の安全性評価や薬効評価に用いるべく、さまざまな研究が進められている。我々は、心毒性評価ツールとしてのマイクロミニピッグの可能性について、心電図の特徴を中心にイヌやサルと比較検討した。
    イヌの心電図は、波形が比較的明瞭であるが、体位の変化によって軸が変わりやすい。サルは低電位がしばしば見られる他、四肢が自由であることから、電極を触ることによるノイズが多くなる。また、イヌ・サルともに活動量が多く、筋電の混入もよく経験し、心電図計測の妨げとなる。MMPの心電図はイヌと同様に波形が明瞭で、サルで見られる低電位は認められなかった。また、四肢が電極に触ることがないため、比較的ノイズの少ない心電図であり、計測は容易であったが、稀にノイズが認められる例もあり、その原因は不明であった。T波形では、陰性T波や2相性のT波が高率に発現したが、波形ははっきりしており、計測に苦労することはなかった。
    まだ少数例の評価であるが、MMPはサルやイヌと比べても、心電図の計測は問題なく行えるものと推察された。なお、安全性評価を実施する上で必要な血液学的データ、血液生化学的データ、尿データについても併せて報告する。
  • 安東 賢太郎, 中村 裕二, 斉藤 裕之, 秋江 靖樹, 桑原 正貴, 杉山 篤, 局 博一
    セッションID: W1-3
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/11
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     成獣になっても体重が10kg前後にしかならないマイクロミニピッグは、取り扱いの容易さだけでなく、動物愛護の面からも次世代の実験動物として期待されているが、今後、より広範に使用するためには各種基礎データの取得が必要である。そこで、我々はマイクロミニピッグ(13ヵ月齢、9-12kg)にホルター心電計(フクダ エム・イー工業、QR2100、2500)を装着し、24時間にわたって心電図を測定した。このホルター心電図から心電図パラメータ(RR間隔、PR間隔、QRS時間、QT間隔)の日内変動とフーリエ変換法によって心拍変動から自律神経活動変化を測定(ソフトロン、SRV2W、SP2000)した。
     予備的な解析ではPR間隔、QRS時間は大きな日内変動はなく、RR間隔、QT間隔もビーグル犬、カニクイザルに比較すると変動幅は小さい結果が得られた。さらに、RR間隔がおよそ600msec以上に延長してもQT間隔はほとんど変わらないばかりか、RR間隔が1000msec以上に伸びると逆に若干、短くなる傾向があるという結果も得られている。また、自律神経活動は暗期に交感神経活動が低下し、副交感神経活動が亢進する明確な周期を示した個体もあれば、それ程、明確でない個体も存在した。
     シンポジウムではこれらのより詳細な、確定的なデータを報告するとともに、結果に対する考察も加えたい。また、これら背景データをもとに選択的_III_群抗不整脈薬sematilide 30mg/kgを経口投与した時の心電図変化の解析、評価も報告する。
  • 川口 博明, 堀内 正久, 和泉 博之, 永田 良一, 三好 宣彰, 谷本 昭英, 吉田 浩己
    セッションID: W1-4
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/11
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     ヒトに近い実験動物を考える際、夜行性のマウス・ウサギや非げっ歯類動物のイヌは偏食、脂質代謝の面で低LDL動物など、ヒトとの類似点に乏しい。これに反してブタは雑食、昼行性、高LDL動物、解剖学的にも皮膚構造や冠動脈が3本とヒトとの類似点が多い。その意味で、法的に使用が制限されたイヌ・サルに代わる非げっ歯類動物として欧米ではミニブタが俄然注目され、特に皮膚や循環器系の研究に有用とされている。このような中、近年、ビーグル犬と同等の大きさ、低ランニング・コストで容易に取扱える超小型ミニブタ(マイクロミニピッグTM)が我が国で開発された。今回、このマイクロミニピッグの毒性試験、薬効試験への応用を検討した。
     1)皮膚毒性試験では、(1)塩酸シプロフロキサシン静脈内投与後UVA照射による光毒性試験、(2)テープストリッピング法による皮膚損傷試験、(3)ジメチルスルホキシド,ラウリル硫酸ナトリウム軟膏およびカプサイシンの経皮投与による皮膚一次刺激性試験、(4)カプサイシンの4週間反復経皮投与試験の4種の試験を施行し、様々な皮膚炎症病変が誘発でき、炎症細胞(リンパ球やマクロファージ)を免疫組織化学的に識別することにも成功した。2)遺伝子操作等ではなく、ヒトの動脈硬化症の原因とされる高脂質食、すなわち3ヶ月間、高脂肪・高コレステロール食を給餌で、高コレステロール血症を誘発させたのみならず、冠動脈、大脳動脈輪を含む全身の動脈に動脈硬化病変の発生にも成功した(Kawaguchi et al. J Pharmacol Sci, 115:115-21, 2011)。病理組織学的にはfibrous capの形成を伴う泡沫細胞の集積がみられ、ヒトの動脈硬化病変に類似していた。
     以上の結果をもとに、非げっ歯類動物としてのマイクロミニピッグの毒性試験および薬効試験への応用の意義に関して議論していきたい。
  • 山崎 浩史
    セッションID: W1-5
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/11
    会議録・要旨集 フリー
     医薬品開発における有効性、安全性およびトキシコ/ファーマコキネティクス等の前臨床試験には実験動物の利用が必須となっている。非げっ歯類の一種であるミニブタは、さまざまな点でヒトに近いと考えられてきたが、その体格から取扱いが難しく、かつ多量の被験物質が必要なため、動物実験への応用は躊躇されてきた。しかしながら、2008年に国内で超小型実験用ミニブタ(マイクロミニピッグ)が開発され、ヒト薬物代謝予測の観点から、マイクロミニピッグの創薬研究への応用が期待されている。
     動物実験で観察されえなかった薬剤性心毒性あるいは肝毒性が、臨床試験や市販後に見出されることも少なくない。このリスクを回避するためには、循環器疾患モデルなど、実験動物を効率的に活用し、病態時における候補品の低用量および高用量における生体内運命と暴露影響を把握することが重要である。本研究では、医薬候補品の薬物動態試験で注目されはじめたマイクロミニピッグ肝とヒト肝のチトクロムP450 (総称をP450、各分子種をCYPと記す) が触媒する典型的な薬物代謝酵素活性を比較した。サル、イヌ、ミニブタおよびヒト肝に共通して典型的な薬物酸化酵素活性が認められた。マイクロミニピッグとヒト肝の向精神薬の水酸化反応 (CYP3Aの指標)は位置選択的であったが、ミニブタ肝のβ遮断薬の水酸化酵素活性は、ヒトに比べて高い触媒機能が認められた。他演者らにより開発された食餌成分を利用したマイクロミニピッグ循環器疾患モデルにおける主要薬物代謝酵素活性の変動は限定的であった。
     以上、ミニブタ肝代謝酵素活性の特徴が明らかとなった。医薬候補品の暴露影響や薬物相互作用評価をin vivoで行う際も、健常あるいは病態時の薬物消失を予測することは重要である。本研究の成果は、前臨床試験におけるこれら実験動物マイクロミニピッグの基盤情報となることが期待される。
ワークショップ2
DNA反応性(変異原性)不純物の評価及び管理
  • 本間 正充
    セッションID: W2-1
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/11
    会議録・要旨集 フリー
    医薬品中には、合成過程の試薬や反応中間体、副産物、もしくは分解物等が不純物として存在することがあり、これら不純物の安全にも注意を向ける必要がある。ICHのQ3ガイドラインでは医薬品(原薬および製剤)の不純物の規格限度値に関して、最大一日投与量に基づく安全性確認の閾値を規定し、それを超えるものについては、安全性を確認するための試験を求めている。しかしながら、それら不純物に遺伝毒性や発がん性が疑われた場合、具体的な安全性確認の方法については記載がない。一般に遺伝毒性物質、特にDNA反応性(変異原性)物質には閾値がないとされているため、たとえその不純物が微量であったとしても、その暴露による発がんリスクは否定できない。2006年、欧州医薬品庁は医薬品の遺伝毒性不純物に関するガイドラインを発表し、また米国FDAも2008年に同様のドラフトガイドラインを提出した。これを受けて2010年から日本、欧州、米国による国際的ガイドライン(ICH-M7 guideline)の策定が開始された。このガイドラインには臨床開発中および承認後の医薬品に含まれるDNA反応性(変異原性)不純物に暴露された場合の治験者・患者の生涯発がんリスクの特徴を明らかにし、そのリスクの軽減と管理のための様々な方法を取り入れる。その一つとしてとして、“Threshold for Toxicological Concern: TTC(毒性学的に懸念すべき閾値)”の考えがある。TTCはそれ以下ではヒトの健康リスクに影響を与えないという1日許容摂取量で、上市医薬品のDNA反応性(変異原性)不純物については1.5ug/dayを目標とする。一方、この基準をクリアーできない場合には、別に適切な試験、もしくは構造活性相関(QSAR)を実施し、リスク管理することが求められる。
  • 阿曽 幸男
    セッションID: W2-2
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/11
    会議録・要旨集 フリー
     医薬品原薬および製剤中のDNA反応性(変異原性)不純物に関するICH M7ガイドラインは、2009年11月にコンセプトペーパーおよび2010年5月にビジネスプランが提案され、2010年6月に開催されたICHタリン会議において、トピック化が決定されたものである。2010年11月に開催されたICH福岡会議において、最初のFace to face meetingが行われ、ガイドライン策定に向けた取り組みが始まったところである。
     福岡会議においては、ガイドラインのタイトルを当初の「Genotoxic Impurities(遺伝毒性不純物)」から「Assessment and Control of DNA-Reactive (Mutagenic) Impurities in Pharmaceuticals to Limit Potential Carcinogenic Risk (潜在的発がんリスクを低減するための医薬品中DNA反応性(変異原性)不純物の評価および管理)」に変更し、ガイドラインの目的を明確化した。ガイドラインの内容に関しては、主に、ガイドラインの適用範囲と一般原則について議論を行った。適用範囲については、適用するものと適用しないもののリストアップを行った。また、安全性評価などに関する一般原則について合意した。
     ワークショップにおいては、6月に行われる米国シンシナティ会議における議論も含め、ガイドライン策定の進捗状況を報告する予定である。
  • 小松 一聖
    セッションID: W2-3
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/11
    会議録・要旨集 フリー
     ICHの新トピックとしてDNA反応性(変異原性)不純物に関するICH M7 専門家作業部会が2010年11月に福岡にて行われた。2011年6月に米国シンシナティにて引き続き議論する。
     欧米では既にEMEA(現EMA)ガイドライン「Guideline on the Limits of Genotoxic Impurities」(28 Jun 2006)及びそのQ&A(23 Sep 2010)並びにFDAドラフトガイダンス「Genotoxic and Carcinogenic Impurities in Drug Substances and Products: Recommended Approaches」(3 Dec 2008)に基づいた対応が行われているが、その対応が十分になされているか、実態はよく分かっていない状況であった。そこで,日本製薬工業協会(JPMA)の遺伝毒性不純物の安全性評価検討チームが中心となり、国内におけるDNA反応性(変異原性)不純物の評価の実態を把握するための調査を実施した。なお,従来,遺伝毒性不純物(GTI)と称されていたため、アンケートではその表記とした。
     調査内容は大きくリスク評価、リスク管理の2つに分類される。1点目のリスク評価については、原薬の原料から製剤化まで、毒性の評価ツール、製造工程、リスク評価対象物質、臨床開発ステージの区分などの面から、どのように評価されているかを調査した。2点目のリスク管理については、毒性の評価試験、GTIの分析法など、コントロールの実際について調査した。以上に加え、M7についての要望等を自由回答で収集した。41社から回答が送付されてきた。本調査の内容は、今後JPMAとしてM7ガイドラインの議論を深める上で非常に重要であり、有効に活用していく計画である。本発表においては、このアンケート調査の結果について報告する。
  • 澤田 繁樹
    セッションID: W2-4
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/11
    会議録・要旨集 フリー
     2010年11月の福岡会議において,ICH M7 専門家作業部会は,ガイドラインの対象を医薬品に含まれるDNA反応性(変異原性)不純物とし,安全性評価に関する一般原則について以下のように合意した。1) これらの物質は低用量でもDNAに損傷を与え,突然変異を誘発する可能性があり,閾値の証拠が十分に確立されていないため,医薬品に不純物として存在する場合,たとえ低用量でもがんを引き起こす可能性は否定できない。2) このタイプのDNA反応性発がん物質は,一般にAmes試験で検出することができる。3) Ames試験陰性の遺伝毒性物質は概して閾値を持ち,不純物として存在する程度のレベルではヒトに対して発がんリスクを増加させるような脅威を与えるものではない。4) したがって,遺伝毒性不純物の発がんリスクの低減にはAmes試験により変異原性の有無を立証し,管理に用いることが必要である。5) 構造活性相関 (SAR) による評価はAmes陽性,もしくは陰性を示す化学構造を,これまでの立証された情報から予測するのに有用である。
     しかしながら,現時点におけるSAR評価は,遺伝毒性不純物に関するEMEA(現EMA)ガイドライン(28 Jun 2006)では”commonly used QSAR assessment software such as DEREK or MCASE”を,FDAドラフトガイダンス(3 Dec 2008)では“commonly used software includes MDL-QSAR, MC4PC, and Derek forWidows”としており,若干の違いが見られる。Ames試験においても,EMAでは”regulatory acceptable standards”としているのに対し,FDAでは”an acceptable initial screen”としている。本ワークショップでは,SAR評価,Ames試験などの安全性評価について,両者を比較しながら,現状,課題を述べるとともに,ガイドライン作成の動向についても述べる。
  • 紺世 智徳
    セッションID: W2-5
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/11
    会議録・要旨集 フリー
    医薬品に含まれる不純物の管理については、ICH Q3A(原薬)、Q3B(製剤)、Q3C(残留溶媒)のガイドラインでその指針が示されてきた。しかしながら、ここで示された構造決定、安全性確認の必要な閾値は、毒性の強い不純物に対しては妥当とは言えない。このように品質、安全性面からより厳格に管理しなければならない不純物の毒性のうち、「変異原性」を持つものに対する取り扱い方針が欧米当局より示された。欧米の製薬企業からは、2006年にMüller等によってポジションペーパーが提出された。引き続きEMA CHMPからは2007年1月にガイドラインが策定され、Q&Aも毎年更新されている。一方FDAからは2008年12月にドラフトガイドラインが示された。
    近年、Viraceptは、製品中に既知の遺伝毒性物質であるEMS(ethyl methanesulfonate)が製造工程由来の不純物として高レベルで混入していることが発覚したため、EMAにより2007 年8 月に販売承認の一時停止命令を受けた。これに対しメーカー側は当該不純物の混入経路を特定すると同時に有効成分と最終製品に含まれるEMS の最大許容量に関し、上記EMAのガイダンスに従った厳格な規格を設定し品質を制御することで同年9月に販売の再開の許可を得た。
    ICH Qトリオ(Q8 : Pharmaceutical Development, Q9 : Quality Risk Management, Q10 : Quality System)が実行フェーズに入った現在、適切なリスク管理に基づいたプロセス開発を行うことが医薬品の製造業者に求められている。ICH M7は、DNA反応性(変異原性)不純物の評価と管理方法についてのグローバルな指針を示すために複合領域(M)に発足した。ここでは、品質管理の観点から、各極より提案されている取り扱い基準並びに企業側の対策事例について紹介する。
ワークショップ3
トランスポーターの関わる薬剤誘起性の副作用機構の解明と医薬品開発過程における予測法の確立
  • 前田 和哉, 杉山 雄一
    セッションID: W3-1
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/11
    会議録・要旨集 フリー
     薬物動態を支配する要因としての薬物トランスポーターの重要性について、遺伝子多型や薬物間相互作用に関する臨床事例の増加に伴い、最近では、International Transporter Consortiumにより、”FDA Transporter Whitepaper”の位置づけの総説が発表されるなど、注目が高まっている。トランスポーターの機能変動が毒性発現に与える影響は以下の3つに大別できる。_丸1_肝臓・腎臓などクリアランス臓器に発現するトランスポーターの機能低下は、薬物のクリアランス低下を引き起こし、血中暴露の上昇と共に副作用標的の暴露も上昇し毒性発現に至る。_丸2_血液脳関門など重要な組織と血液とを隔てる関門に発現する排出トランスポーターの機能低下は、循環血中の濃度推移には影響を与えないが、局所の薬物の暴露のみが上昇し毒性発現に至る。_丸3_内因性物質を輸送するトランスポーターを強力に阻害する薬物により、内因性物質の挙動が変動し毒性発現に至る。従って、これらを回避するためには、薬物の体内動態に影響するトランスポーターを早期に把握し、定量的なリスク評価をする必要性がある。我々はこれまでトランスポーターの体内動態・分布における役割を定量的に評価するための方法論を構築してきた。例えば、トランスポーターが関与する薬物間相互作用の臨床事例を収集し、統一の方法論でin vitro実験の結果をもとに相互作用の程度を定量的に評価したところ、比較的良好に予測できることが分かった。さらに、生理学的薬物速度論モデルによる阻害剤の濃度変化も考慮したより精度の高い基質薬物の血中・臓器中濃度推移の予測も行っている。また、ヒトにおける臓器中濃度を得る手段としてプローブ基質薬物を用いたPETによる画像解析も有用である。本講演ではトランスポーターの生体内における役割の定量的予測に関する我々の取り組みを中心に概説したい。
  • 加藤 将夫
    セッションID: W3-2
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/11
    会議録・要旨集 フリー
     消化管には栄養物を吸収する種々のトランスポーターが発現する一方、薬物や異物の生体膜透過はpH分配仮説に従う単純拡散によると考えられてきた。実際、粘膜近傍は酸性ないし弱酸性環境下にあり酸性化合物の膜透過に有利と考えられる。一方近年の研究から、主に小腸の上皮細胞刷子縁膜に薬物や異物の取り込みに関与するsolute carrier (SLC)や細胞からの排出に関わるATP binding cassette (ABC)などのトランスポーターが機能的に発現することが示されつつある。小腸上皮には微絨毛が発達し表面積を広くとることで栄養物吸収に有利と考えられているが、これは同時に異物に対する暴露の危険性も意味する。このため、これら取り込みと排出のトランスポーターが協調的に働くことにより細胞内への異物の侵入が制限されると考えられる。上皮細胞内への異物の暴露や細胞毒性を考える上では、これらトランスポーター間の協調的役割の理解が重要である。一方、薬物の消化管毒性においては消化管組織の増殖・分化のサイクルも考慮する必要がある。小腸粘膜においては、栄養物や薬物の吸収、排泄に働く上皮細胞が絨毛先端部に局在する一方、増殖能を有する未分化な幹細胞が主に陰窩に局在する。未分化細胞が移動しながら分化し,機能を果たす上皮細胞に成熟する。このため抗悪性腫瘍薬の毒性標的として未分化細胞内への蓄積を考慮する必要がある。我々は消化管毒性を示すetoposide、SN-38、methotrexateなどの抗悪性腫瘍薬を基質として排出するABCトランスポーターMRP1が主に未分化細胞で機能し、methotrexateの消化器毒性に対する防御に働くことを示唆している。一方、トランスポーターOCTN1やPEPT1は消化管炎症部位に高発現し、遺伝的多型と炎症性腸疾患との関連が示唆されている。これらSLCトランスポーターは、栄養物の他、薬物や異物など幅広い基質を取り込むことから、炎症反応の惹起にも関与している可能性がある。本講演ではトランスポーターの関与する消化器毒性の具体例や回避の可能性を概説する。
  • 高野 晴成
    セッションID: W3-3
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/11
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    生体内で起こる様々な生命現象を分子レベルでとらえて画像化する技術は、近年、分子イメージングと呼ばれている。その主役であるpositron emission tomography (PET)は、ポジトロン放出核種で標識した放射性リガンドを生体内に投与し、その分布と経時的変化を体外から計測する核医学的手段である。PETでは投与する放射性リガンドの性質に応じて様々な生体機能の評価が可能である。特に、薬物の脳移行性を直接的ないし間接的に評価する手段として有用である。 血液脳関門に発現するP-glycoprotein(Pgp)は多くの薬物を基質とし、これらを能動的に排出することにより薬物の中枢移行を制限している。Pgpの機能に関しては、その基質であるverapamilを標識した [11C]verapamilを用いてPETによる評価が試みられている。我々はサルを用いて、特異的Pgp阻害薬の投与前後で[11C]verapamilの脳内取り込みを検討した結果、阻害剤投与後に[11C]verapamil の脳への取り込み量が著明に増加することを明らかにした。また、Pgpの基質となる薬物を併用することにより、薬物の脳移行性に変化が生じる可能性が考えられるが、健常人を対象としたPET研究において、cyclosporineにより[11C]verapamilの脳内移行が増加することが報告されている一方、我々の検討したところでは、clarithromycineでは変化がみられなかった。また、PgpをコードするMDR1の遺伝子多型間での[11C]verapamilの脳内の取り込みに関しては有意差を認めなかった。最近ではPgp以外の薬物輸送トランスポーターのイメージングも試みられている。 我々はさらに、薬物の脳内標的受容体での占有率を求めることにより、脳移行性を間接的に推定したり、向精神薬sulpirideを直接標識して、PETで脳移行性を測定することも行っている。いずれも人間を対象にin vivoで検討できることがPETの最大の強みである。
  • 今村 勇一郎, 村山 宣之, 奥平 典子, 栗原 厚, 岡崎 治, 泉 高司, 井上 勝央, 湯浅 博昭, 楠原 洋之, 杉山 雄一
    セッションID: W3-4
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/11
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    医薬品開発の成功確率を規定するファクターとして、期待される薬効の発現、予測可能かつバラツキの無い体内動態、および、より低い毒性リスク、等が上げられるが、中でも薬剤誘起性の毒性の発現は、患者サイドおよび企業サイド双方に多大な影響を与え得る。  そこで、企業においては比較的探索初期より薬剤誘起性の副作用の早期解明ならびにその回避を目的とした研究が精力的に行われている。このとき、その毒性のモニターの可能性、重篤度および回復性の観点で、毒性バイオマーカー探索とその寄与研究も精力的に行われる。  血漿中クレアチニン濃度は、クレアチニンの主排泄経路が糸球体ろ過であることが着目され、腎臓の糸球体ろ過機能のマーカーとして、古くから臨床検査項目として利用されてきた。一方で、クレアチンの排泄過程には糸球体ろ過以外にも尿細管分泌の寄与を示唆した報告が最近なされている。今回、キノロン系抗菌薬の臨床開発段階において認められた、腎非障害性のクレアチニン上昇について、非臨床側アプローチとして、尿細管分泌に対する薬物トランスポーターの関与を検討した。また、臨床データの詳細な解析により、クレアチンの排泄には従来より知られる糸球体ろ過に加えて尿細管分泌および尿細管での再吸収の寄与が示唆された。以上を踏まえ、腎薬物トランスポーター(hOCT2, hMATEs)を組み込んだphysiological PKモデルによる解析を行った結果、薬剤誘起性のクレアチニン上昇の重篤度および回復性を説明することが可能となった。発表では、本事例についてその定量的な手法について紹介したい。また、トランスレーショナル研究の観点より、クレアチンの上昇度合いで腎臓におけるhOCT2やhMATEsの機能を評価できるか、相互作用を未然に防げるか等を考察することで、内因性物質の挙動がトランスポーターのヒトにおける機能を非侵襲的に評価できるかバイオマーカーとなる可能性を提案したい。 Reference : Imamura Y et al., Clin. Pharmacol. Ther. 89, 1-8, 2011
  • 玉井 郁巳, 中西 猛夫
    セッションID: W3-5
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/11
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    多くの低分子栄養物や内因性代謝産物の体内量は、吸収と生合成による摂取と尿中・胆汁中への排泄のバランスにより維持されるため、腎・肝機能あるいはそれら組織中トランスポ-タ-活性の影響を受け、その結果として生体に悪影響を及ぼす可能性がある。私たちが対象としてきた脂肪酸代謝に必須なカルニチンや様々な生理作用を有する尿酸は主に尿細管再吸収と分泌によって調節されており、関与するトランスポ-タ-活性変動の影響は大きい。血清尿酸値の上昇は、痛風さらに心血管・腎障害などのリスク因子となるため慢性投与される医薬品等による影響が懸念される。しかし、尿酸代謝は種差のため通常の動物試験での評価は容易ではない。一方、尿酸の再吸収・分泌トランスポ-タ-の分子実体が解明されてきており、in vitroで解析することが可能になってきた。再吸収については尿細管上皮細胞管腔側UART1と血管側URATv1が主に寄与し、特にURAT1に対する作用は再吸収抑制による尿酸排泄促進への発展性もある。しかし、再吸収は管腔側から血管側への移行であるため関連トランスポ-タ-を総合的に評価する必要性があり、URAT1/ URATv1共発現細胞での経細胞輸送を再吸収プロセスとして評価できる系がより生理的である。本共発現系では単一発現系ではできない再吸収過程を再現でき、医薬品の尿酸再吸収への影響評価系としての有用性が期待できる。肝臓については特に胆管側膜トランスポ-タ-に着目しその活性を可視化できる系を作成した。サンドイッチ培養した肝細胞で胆管腔内蓄積性を各トランスポ-タ-分子選択性の高いプローブ基質でモニターし、定量化する手法である。本手法では影響する薬物の細胞外濃度を基準として胆管膜側トランスポ-タ-への影響をリアルタイムに見積もることができ、肝細胞内への取り込みも含めた系であるため血中濃度からの相互作用の予測も可能な評価法として位置づけられる。
  • 廣田 豪, 家入 一郎
    セッションID: W3-6
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/11
    会議録・要旨集 フリー
    microRNA (miRNA)は約22塩基からなる内在性低分子RNAであるが、相補性の度合いに応じて標的遺伝子のmRNAに対して翻訳抑制または分解促進を行うことが知られている。miRNAは多数の遺伝子の制御を介することが予想されており、薬物トランスポーターへの影響も報告されている。 我々はMDR1/ABCB1遺伝子とBCRP/ABCG2遺伝子発現の個人差について、miRNAとの関連を検討した。Caco-2細胞を用いた機能解析の結果、ABCB1遺伝子は2種類のmiRNAによりその機能が制御される結果が得られた。胎盤においてP-glycoprotein発現の個人差との関連を検討したところ、miRNA発現量との間に有意な負の相関関係を認めたことから、これらmiRNAがABCB1遺伝子機能の個人差の要因となることが示された。ABCG2遺伝子はMCF-7細胞において複数のmiRNAにより制御されることがこれまでに報告されており (Li X, et al. 2011, Biochem Pharmacol)、我々の検討においてもヒト胎盤にてABCG2遺伝子はmiRNAにより抑制的に制御される結果が得られている。ABCG2遺伝子の個人差要因となることが想定されるmiRNAがABCG2遺伝子の生体内機能予測のバイオマーカーとなりうるのかを検討するため、スルファサラジンの経口投与による臨床試験を行った。その結果、血漿中のmiRNAとスルファサラジンのAUC0-24に有意な相関を認めた。miRNAは血漿中で非常に安定であることからバイオマーカーとして優れた特性を持つことが知られる。本発表では、miRNA発現細胞からどのようにして血漿側にmiRNAが分泌されるのか検討した結果を合わせて、バイオマーカーとしてのmiRNAの展望を紹介する。
ワークショップ4
ICH M3(R2) の運用上の課題とQ&A
  • 大野 泰雄
    セッションID: W4-1
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/11
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    ICH M3(R2)ガイドラインは、本年2月に「医薬品の臨床試験及び製造販売承認申請のための非臨床安全性試験の実施についてのガイダンス」として通知され、現在その運用が開始されています。また、同時にICHにおいて、Implementation Working Group ,ICH M3(R2) IWGが結成され、現在その運用におけるQ&Aの作成が検討されている。本ガイドラインは適用範囲が広範でその運用上の不明確な点も多く、IWGにおいては、代謝物の安全性評価やLimit Dose、探索的臨床試験など、順次運用上の優先順位をつけて検討されている。第38回JSOT学術年会においては、IWG結成後1年余を経過し、Q&Aの概要が検討されつつある中で、JSOT年会において、その運用上の課題とQ&Aについて、取り上げてトキシコロジー研究者による産学官による議論を行うことは、今後の医薬品開発の効率化に有用と考える。
  • 篠田 和俊
    セッションID: W4-2
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/11
    会議録・要旨集 フリー
    医薬品の臨床試験および承認申請のための非臨床安全性試験の範囲とタイミングに関するICH M3ガイドラインは、1997年に合意され、「医薬品の臨床試験のための非臨床安全性試験の実施時期についてのガイドライン」(平成10年11月13日医薬審第1019号)として通知された。さらに、2000年には一部改訂がなされ(ICH M3(R1))、「医薬品の臨床試験のための非臨床安全性試験の実施時期についてのガイドラインの改正」(平成12年12月27日医薬審第1813号)として通知されたが、その改正ガイドラインにおいても日米欧の三極間で十分に調和されない箇所が残され、また、近年の科学の発展に伴って医薬品の安全性評価に新しい技術が導入されるとともに、3Rs(使用動物数の削減(Reduction)/苦痛の軽減(Refinement)/代替法の利用(Replacement))の観点から不必要な動物試験を可能な限り減らすことが重要な課題となってきた。このような背景から、2006年6月のICH横浜会合において、M3(R1)ガイドライン全体について大幅な見直しを行うことが決定され、約2年半以上に及ぶ検討を経て、2009年6月のICH横浜会合で M3(R2)として合意され、「医薬品の臨床試験及び製造販売承認申請のための非臨床安全性試験の実施についてのガイダンス」(平成22年2月19日薬食審査発0219第6号)として通知された。M3(R2)では従来のガイドラインには記載されていなかった「毒性試験の最高用量選択」、「代謝物の非臨床安全性評価」および「早期探索的臨床試験」等に係わる新たな内容が追加されており、現在、M3(R2)の策定に携わったWGにおいて、これらに関するQ&Aの検討が進められている。本シンポジウムではその概要を含めて、承認審査の観点から、ICHM3 (R2)ガイドラインについて概説したい。
  • 山本 恵司
    セッションID: W4-3
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/11
    会議録・要旨集 フリー
    一般毒性試験では、最大耐量(MTD)を投与し、標的臓器、用量依存性、曝露との関係、回復性などの毒性の徴候を知ることが重要である。しかし、全ての投与期間の毒性試験においてMTDが必要か否か、あるいはMTDが求められないケースではどのような根拠に基づいて一般毒性試験の最高用量(適切な限界量)を選択するのか、といった問題について、ICH M3(R1)には記載がなく、十分な国際調和がなされていなかった。そこで、ICH M3(R2)ガイダンスでは、一般毒性試験の最高用量の選択について、MTD、曝露の飽和が起こる用量、投与可能な最大用量(MFD)、臨床最高用量と毒性試験用量の平均曝露量比、臨床試験での最高用量などを要因として一般毒性試験の最高用量を決定する指針が示された。 これに対し、ICH M3(R2)のQ&Aとして8つの質問が提出された。例えば、臨床最高用量とは第I相試験を含むのか否か、50倍ルールを適用して毒性試験の用量が設定された場合の臨床試験の最高用量設定の考え方、一般毒性試験において用量制限毒性ではない軽度な毒性所見のみがみられた場合の臨床試験の用量設定の考え方、MFDの求め方、皮膚塗布あるいは吸入毒性試験の用量設定の考え方、幼若動物における毒性試験や発生生殖毒性試験の高用量設定に50倍ルールが適用可能か否か、などの質問が含まれている。ICH M3(R2) IWGではこれらに対する回答を討議し、最終合意に向けた調整がなされている。本シンポジウムではその進捗について報告する。
  • 三浦 慎一
    セッションID: W4-4
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/11
    会議録・要旨集 フリー
     改訂されたICH M3(R2)ガイダンス(以下M3(R2))では、「トキシコキネティクス及び薬物動態試験」の項に、臨床試験開始前に必要とされる薬物動態試験の項目や、その他の薬物動態試験の実施時期について今回の変更点が記載されるとともに、代謝物の非臨床安全性評価に関する内容が新しく記載された。すなわち、臨床試験の開始までに、in vitro試験による動物やヒトにおける代謝予測データや薬物の血漿タンパク結合に関するデータ等が必要であること、また、ヒトに投与された薬物について、その代謝物の曝露量が、投与薬物に関連するすべての物質の曝露量の10%を超え、かつ、動物での毒性試験における最大曝露量よりも明らかに高い場合には、代謝物の非臨床安全性試験の実施が必要とされるという内容である。代謝物の安全性評価に関する内容は、2008年にFDAから発表されたガイダンスの内容に基本的に準じているが、非臨床安全性試験の実施が必要とされるヒト代謝物の曝露の基準が、M3(R2)の記載で変更されたという経緯もある。ヒト代謝物の安全性評価に関するM3(R2)での記載内容は限られていることから、本項目についてもQ&Aの必要性が提案され、作成作業が行われた。その具体的内容は、「10% の定義や計算方法」、「ガイドライン本文中で使われている語句の解説」、「必要とされる非臨床安全性試験の内容」、「単回投与後に得られた薬物動態データと定常状態におけるデータに対する考え方」、「動物における代謝データの入手時期」、あるいは、「代謝物の安全性薬理試験の必要性」などである。本講演では、これら代謝物の非臨床安全性評価を中心としたM3(R2)のQ&Aについて、その内容を紹介する。
  • 池田 孝則
    セッションID: W4-5
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/11
    会議録・要旨集 フリー
    昨年のICH M3ガイドラインの改定(ICH M3 (R2)は、製薬企業に新薬の新たな開発手法を提示した。そのなかでも、探索的臨床試験が、日米欧三極において、ガイドラインとして公知されたことは、非臨床から臨床への非常に強力な手法が提供されたことになる。欧米では、すでに米国(2006年)やベルギー(2007年)に探索的臨床試験のガイダンスが発出されていたことから、欧米企業においてはこの「探索的臨床試験」を用いた新薬開発がすでに多く行われてきている。日本においては、臨床マイクロドーズ試験のガイドラインが2008に発出されていたが、いまだ実際の新薬開発に使われた情報は聞こえてこない。ここでは、弊社の探索的臨床試験の経験を踏まえて、医薬品開発における長所・短所についてお話ししたい。
ワークショップ5
幼若動物試験およびヒト初回投与量ガイドラインについて
  • 中野 賢司
    セッションID: W5-1
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/11
    会議録・要旨集 フリー
    医薬品は主として成人を対象として開発される場合が多く、小児においては多くの医薬品において適応が取得されていない現状である。このような医薬品を小児に適応するためには、小児における治験や幼若動物を用いた非臨床試験が実施され、小児に対する安全性を十分に確保するべきである。臨床試験に関しては2000年にICH-E11「小児集団における医薬品の臨床試験に関するガイダンス」が通知され、小児における治験が促進されている。非臨床試験に関しては,米国FDA(2006年)及びEMA(2008年)においてガイダンスが公表されており、さらにICH M3(R2)「医薬品の臨床試験及び製造販売承認申請のための非臨床安全性試験の実施についてのガイダンス」に「小児における臨床試験」の項に小児集団における臨床試験での安全性情報を得るための1つの手段として幼若動物を用いた毒性試験があげられている。一方、日本においては幼若動物を用いた毒性試験の実施方法のガイダンスは未整備であったが、2010年10月に厚生労働省、国立医薬品食品衛生研究所、医薬品医療機器総合機構を中心に幼若動物を用いた安全性試験ガイドラインの作成が開始された。
    本演題では、この小児用医薬品のための「幼若動物を用いた非臨床安全性試験ガイダンス」の考え方について概説する。
  • 小林 真一
    セッションID: W5-2
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/11
    会議録・要旨集 フリー
    平成22年度厚労科研費補助金(医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究事業)において「小児用医薬品開発のための幼若動物を用いた非臨床安全性試験の実施方法及び医薬品の開発加速のための臨床試験における初期投与量の算定基準等」に関する研究班(班長:西川秋佳氏:国立医薬品食品衛生研究所)が開始され、その分担研究として小林真一(聖マリアンナ医科大学)が研究分担責任者として標記の分担研究班を立ち上げた。本分担研究班は、臨床薬理学の専門家でFirst in human: FIHの経験のある医師、非臨床試験に関わる研究者、製薬工業協会の委員、PMDA、また厚労省等の行政の人々も加えて毎月ガイダンス作成のために検討した。基本的にはEMEAのガイドラインを基本としてわが国の現状と将来あるべき姿を勘案しながら規定文を検討した。ガイダンスの概説としては本ガイダンスが医薬品開発の非臨床から初期臨床試験への移行を支援し、新規開発医薬品のリスク要因を特定、さらに品質確保、非臨床の進め方、FIMにおけるヒトへの初回投与量の設定、それに続く用量漸増法等を適正に実施し、臨床試験実施に関するリスクの低減について指針を提示するとなっている。これらについての検討されたガイダンスについてワークショップにて概説する
ワークショップ6
毒性質問箱「幼若動物試験およびヒト初回投与量Q&A」
  • 川村 祐司, 児玉 晃孝
    セッションID: W6-1
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/11
    会議録・要旨集 フリー
    幼若動物を用いた試験は、小児医薬品開発において安全性リスクの最小化への貢献が期待されている。すなわち、幼若動物を用いた試験は、成熟動物との毒性強度の比較、幼若動物に特徴的な新規毒性の有無、幼若動物の成長への影響について検討することができる。欧米では、幼若動物を用いた試験に関するガイドライン又はガイダンスも公表されており、幼若動物を用いた試験の必要性の是非、その役割と目的、実施のタイミング及び試験デザイン等の記載がある。しかし、幼若動物の発育・発達への影響、毒性の感受性や薬物動態における幼若動物と成熟動物との差が、どこまで小児に外挿できるのか不明な点も多い。実際、開発現場では幼若動物を用いた試験は試行錯誤で行われており、評価方法が完全に確立されているとは言えず、その価値そのものに疑問も出されている。そこで、本セッッションでは、幼若動物を用いた試験の価値や有用性についてケース・スタディーを行いながら議論を進める。以下に示す課題を中心に、幼若動物を用いた試験の基礎的な内容に最新の情報を加味し、開発現場での評価に活用できる様な議論を展開したい。
    1.幼若動物を用いた試験はどの様な場合に必要か、又はどの様な場合は不要なのか。
    2.試験目的の設定。新規毒性の検出、毒性強度の比較又は成長への影響。
    3.動物種、週齢、投与開始時期及び投与期間の選択。臓器・器官の発達におけるヒトと動物の比較。
    4.小児臨床試験に向けた幼若動物の試験結果の有用性・予見性
  • 竹藤 順子, 宮内 慎
    セッションID: W6-2
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/11
    会議録・要旨集 フリー
    非臨床安全性試験の目的としては、毒性プロファイルを明らかにすることの他に、初めて実施される臨床試験での初回投与量(First Human Dose, FHD)設定への十分な安全性情報を提供することが挙げられる。しかし、in vivoあるいはin vitro毒性試験データから、ヒトでの安全で最適なFHDを設定するには未だに多くの課題がある。
    FHDに関してICH M3 (R2)においては、薬理学的な用量反応性や、薬理学的/毒性学的プロファイル及び薬物動態を含む、関連する全ての非臨床データを考慮すべきとあり、一般的に最適な動物種で得られた非臨床安全性試験における無毒性量(NOAEL)が重要な情報となり得ると述べられている。これまでFHDの算出はNOAELから、動物とヒトで予想される種差に安全係数を鑑み算出するケースが多かったが、抗体医薬品のTGN1412事件を機に、MABEL(Minimal Anticipated Biological Effect Level)法などヒトでの予測有効用量を考慮したFHD設定法も広まってきた。すなわち、NOAELだけでなく、in vitro及びin vivo PK/PDや種差を示唆するデータなどの多様な情報を収集・駆使した理論構築が必要となってきた。FHDの設定についてはFDAやEMAのガイダンスがあるものの、実際に現場でどのようなデータを揃えてゆくか画一的に判断するには限界があり、ベネフィットリスクを鑑みながらケースバイケースで対応しているのが実情である。
    安全性評価研究会では、ヒト初回投与量の設定について「毒性質問箱第3号」のQ&Aや、「毒性質問箱第12号」の特集で取り上げ議論を深めてきた。本セッションでは、こうした過去の議論を含め、現場の視点から各局のガイダンス等を整理し、問題点・課題を整理し議論したい。
一般演題 口演
エピジェネティクス
  • 井上 達, 李 光勲, 五十嵐 勝秀, 関田 清司, 菅野 純, 淀井 淳司, 平林 容子
    セッションID: O-1
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/11
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    マイクロアレイによる生体と異物の相互作用の解析が進展している。同じ酸化的障害を発現する放射線(γ線)とベンゼンの曝露後のマウスの遺伝子発現に焦点を当て、それぞれ群毎に共通に働く分子種(CG)と同一群内でも個別に働く分子種(SG)とにわけて比較分析し、それぞれの生体影響の特徴を明らかにするためのモデル実験研究を行った。実験的白血病誘発リスクを考慮して放射線は3Gyと 0.6Gyの1回照射、ベンゼンは白血病誘発がピークになる曝露条件300ppm、6時間/日、5日/週の間歇曝露(白血病誘発実験では26週間反復)に相当する150mg/bwKg1日1回週5日の経口投与を2週間(計10回投与:白血病誘発条件で曝露される総量の1/13)とし、急性変化の収束した、曝露4 週後の骨髄細胞を検索した。対照群との群間比較による分散分析(ANOVA)あるいは各群と対照群との間でのWelch-T-testなどにより、放射線(0.6/3Gy)では304、448pbs、ベンゼンでは419pbsの各群で共通に発現するCGが選別され、そのうち酸化的ストレス関連遺伝子では、0.6Gy群にはErcc6、G6pdx、Nudufaf1など37bps、3Gy群にはPrdx2、Kdm5A、Kmoなど21pbs、ベンゼン群にはCryl1、Gpx3、Kdm2aなど22pbsが含まれおり、相互に重複はなかった。他方、その数倍の頻度で確率論的でストカスティックなSGの発現(それぞれ1,284、2,113および1,519 pbs)が見られ、その酸化的ストレス関連遺伝子は、0.6Gy群ではHmox2、Ogg1、Txnrd1など76bps、3Gy群ではCat、Txnd2、Tyrなど138pbsからなり、ベンゼン群についてはSOD1、Txn2、Txnipなど114pbsからなる。双方は前述のCGと同様、多くは異なった分子種の遺伝子によって構成されたが、Adi1、Hspa9、Suox、Tnikの4遺伝子で、3Gy群とベンゼン群で重複していた。以上、放射線と化学物質の網羅的な生体異物相互作用を解析した結果、それぞれが一般則として同じ機能オントロジーの異なった遺伝子種を利用している傾向が見出された。
  • 平林 容子, 壷井 功, 関田 清司, 菅野 純, 井上 達
    セッションID: O-2
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/11
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    加齢変化は生涯時間(T)をパラメターとした生体異物応答(Xn)の関数である。種々の毒性試験には作用時間の要素が加わるから試験評価では加齢影響が考慮される。【目的】そこで老齢マウス(OM,23ヶ月齢)の造血幹・前駆細胞(HSC/PGC)の細胞動態を若齢マウス(YM,3ヶ月齢)のそれと比較した結果と、老齢マウス骨髄細胞に特異的な遺伝子群および造血幹細胞プロファイルとして知られる遺伝子群(Ivanovaら, Science 298:601-4, 2002)の発現を比較解析した。【方法】HSC/PGCの細胞動態は、各造血前駆細胞(CFU-GM, CFU-S9, CFU-S13)の細胞周期関連パラメターをBUUV法 (BrdUrdのin vivo持続標識後、取り込み細胞を紫外線[UVA]照射で淘汰し、PGCの生残率[S期分画]をコロニー法にて測定 [Exp Biol Med 227:474-9, 2002])によって解析、分子背景としての遺伝子発現は、骨髄細胞の網羅的検索とした(一部第36回年会参照)。【結果】より分化型のPGC(CFU-GM、CFU-S9)ではOMとYM間に有意な差異はなく、未分化型PGC、CFU-S13では、OMでのS期分画の有意な減少と倍加時間の延長を見た。遺伝子発現は各個体共通の発現遺伝子Common Aging Profile (CAP) 122probe sets(pbs)と、確率的に観察されるStochastic Aging Profile (SAP)とが観察された。前者では、Ivanovaのリストと重複する6遺伝子(Runxと協調する造血機能性転写因子Cbfb、epigenetic gene silencerの転写因子Trim28、Aktの抑制因子で脱リン酸化酵素のPhlpp1など)の発現が加齢個体で抑制されていた。他方後者との重複には、酸化的ストレス関連分子Txnl1の個別的な発現の増加や、DNAメチル化酵素(silencer)のDnmt3a/3bの確率的な発現低下などが見られ、加齢個体における、より未分化なPGCでの抑制的な細胞動態を反映したプロファイルと考えられた。【結論】これらの結果は、加齢個体での、外来異物に対する応答性における予備力の低下を説明する指標となるものと考えられる。
安全性評価
  • 山中 典子, 吉岡 都, 中嶋 光敏, NERVES Marcos A., 王 政, 林 宏紀, 稲熊 隆博, 中田 翔, 藤田 慶一郎
    セッションID: O-3
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/11
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    我々は第36回本学術年会において、肝障害を有するラットにおけるナノエマルション化β-carotene(b-c)を単回投与し、肝障害ラットではナノスケール化b-cの吸収が高いが異常な高値を示すことはないことを示した。今回、同様のb-cを正常ラットに28日間反復投与し、β-caroteneの生体影響についての知見を得たので報告する。 [材料および方法] 雌雄の6週齢SDラットに、高圧乳化法によりナノエマルション化したb-c(粒径300-500nm、ナノ化群)を、一日一回齧歯類用粉末飼料に10%の割合で混餌して給与した。通常の粒径(30μm以上)のb-cエマルションを投与する粒径対照群および溶媒対照群を設けて28日間投与した後、臓器重量、血液生化学的性状および病理組織学的性状を検索するとともに各種臓器中のb-c濃度を定量した。 [結果及び考察] 雄では、胸腺の重量は溶媒対照群よりもナノ化群で小さかったが、病理組織学的な異常は観察されなかった。雌では、大腿骨の重量が粒径対照群で溶媒対照群を上回り、ナノ化群でも溶媒対照より大きい傾向があった。血液生化学的検索では、いずれの群でも異常値を認めなかった。病理組織学的にも、いずれの群にも異常は見られなかった。各種臓器中、血漿、肝臓および脾臓からb-cが検出されたが、群による濃度の違いはなかった。以上のことから、28日間の反復投与では、b-cのナノスケール化によって生体影響が大きく変化することはないことが示唆される。
  • 細畑 圭子, 安藤 仁, 藤村 昭夫
    セッションID: O-4
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/11
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    【背景】近年、「腎機能低下前に腎障害を発見する」ことを念頭に置いた急性腎障害(Acute Kidney Injury, AKI)という概念が浸透しつつある。AKIは尿量減少や血清クレアチニン上昇が出現する前に存在する腎(とくに近位尿細管)の機能障害であり、血清クレアチニンやBUNといった既存マーカーによる検出は困難である。そこで我々は、ヒトプライマリ腎細胞及びWistar雄性ラットを用いてAKIのバイオマーカーの探索を行った。【方法】自治医科大学附属病院で腎臓切除術を受けた患者の正常腎組織より作製したプライマリ腎細胞に、尿細管毒性の知られる有機溶媒(アリルアルコール、エチレングリコール、クロロホルム、フェノール、ホルムアルデヒド)を曝露し、RNAを抽出した。網羅的遺伝子発現解析は定量性に優れたGeneChipを用いて行い、候補遺伝子のmRNA量はリアルタイムPCR法にて定量した。さらに、Wistar 雄性ラットに0.75%エチレングリコールを含む水を3週間飲水させたのち、腎の組織学的評価、尿中および血清中の候補分子の濃度測定をELISA法により行った。【結果・考察】ヒトプライマリ腎細胞の多くにはγ-GTP活性やGlut-2発現が認められたことから、主に尿細管細胞由来であると考えられた。このヒトプライマリ腎細胞に有機溶媒を曝露し、網羅的遺伝子発現解析を行った結果、Vanin-1の有意な発現上昇を認めた。また、この遺伝子のmRNA発現は、HK-2細胞において有機溶媒の濃度依存的に増加することが確認された。Wistar雄性ラットにエチレングリコールを3週間投与したところ、組織学的には顕著な尿細管障害が認められたが、血清クレアチニンやBUNには有意な変化が認められなかった。この時点において、エチレングリコール投与群ではコントロール群に比し、尿中および血清中Vanin-1濃度が有意に大であった。【結論】Vanin-1は、既存の腎障害マーカーよりも早期に検出が可能な尿細管障害バイオマーカーである可能性がある。
新規物質(ナノマテリアル等)
  • 平井 敏郎, 吉川 友章, 吉田 徳幸, 宇治 美由紀, 市橋 宏一, 赤瀬 貴憲, 長野 一也, 阿部 康弘, 鎌田 春彦, 角田 慎一, ...
    セッションID: O-5
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/11
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    ナノマテリアルは、従来までの素材には無い、多様かつ革新的な機能を発揮するため、既に、香粧品・食品分野をはじめとする諸産業分野において不可欠なものとなっている。一方で、NMの革新的機能が逆に、予期せぬ生体影響を及ぼし得ることが指摘されはじめており、その安全性確保が急務となっている。このような状況のもと、我々は、体内吸収性・局在等の曝露情報を基盤としたハザード情報の蓄積と、それに基づくリスク評価を目指して検討を進めてきた。我々は昨年の本会において、香粧品素材として広く実用化されており、粒子径が100 nm以下である非晶質ナノシリカ(nSP)が、1.皮膚バリアーを突破し体内に侵入しうること、2.表皮樹状細胞(DC)に到達すること、3.DCの抗原処理機構を攪乱すること、などを報告した。以上の事実から、nSPの経皮曝露が皮膚免疫疾患の発症や悪化を誘発する可能性が考えられた。そこで本検討では、大気粉じんや黄砂といった微粒子への曝露と病態悪化の疫学的連関が報告されているアトピー性皮膚炎(AD)に着目し、nSPがAD発症・悪化に及ぼす影響を解析した。本検討には、ダニ抽出抗原(Dp)の皮内投与によりAD様病態を発症することの知られるNC/Ngaマウスを用いた。まず、粒子径の異なる5種類の非晶質シリカ(1000、300、100、70、30 nm)をDpとともにマウスの耳介に2日間隔で計9回皮内投与し、耳介の厚さならびにAD発症に深く関与するThymic stromal lymphopoietin(TSLP)の産生を評価した。その結果、Dp単独投与群と比較し、粒子径100 nm以下のnSPを投与した群においてのみ有意な肥厚が観察され、これらの群においてはTSLP産生量の有意な増大が認められた。この事からnSP投与によって誘発されるこれら病態にはTSLPの発現が関与している可能性が考えられた。今後は、本現象の発現機構をさらに追求するとともに、nSPの曝露実態の定量解析や安全なnSP創製に向けた基盤情報の集積を図っていく予定である。
  • 羽二生 久夫, 斎藤 直人, 松田 佳和, 塚原 完, 薄井 雄企, 青木 薫, 清水 政幸, 荻原 伸英, 原 一生, 岡本 正則, 高梨 ...
    セッションID: O-6
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/11
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    【目的】カーボンナノチューブ(CNTs)は物性がユニークであることから利用が急速に広がっている。その一方で、CNTsはアスベストに類似した形状と生体滞留性であることから安全性に関して懸念が持たれている。昨年11月にNIOSHからCNTsの労働環境における暴露に対する方針が示されたが、この根拠となるCNTsによる細胞反応のメカニズムについては不明な点が多い。そこで我々はCNTsの細胞毒性のメカニズムを明らかにするために分散剤と細胞の種類を変える事によってどのような違いが出るかを調べた。【方法】多層CNTs(VGCF;昭和電工)を3種類の分散剤(gelatin、carboxyl methyl cellulose (CMC)、1,2-dipalmitoyl-sn-glycero-3-phosphocholine (DPPC))で分散し、ヒト正常気管支上皮細胞(BEAS-2B)に24時間暴露後、細胞毒性をalamar blue法で測定した。さらに、BEAS-2Bとヒト悪性胸膜中皮腫細胞(MESO-1)におけるVGCFの細胞内取り込み量をフローサイトメーターで測定した。次にヒト神経芽細胞細胞(IMR-32)とヒト単芽球性細胞(THP-1)のマクロファージ化前後でのVGCFの細胞毒性をそれぞれ測定し、VGCFを取り込んだ細胞については透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した。【結果】BEAS-2Bにおける3種類の分散剤で分散させたVGCFの細胞毒性はgelatinやDPPCでは顕著に見られたが、CMCで分散させたVGCFでは全く見られなかった。gelatinで分散させたVGCFの細胞内取り込み量はBEAS-2BとMESO-1の両方で濃度依存的に増加し、IC50値での取り込み量はほぼ同じであった。VGCFを取り込んだ細胞はBEAS-2B、MESO-1、マクロファージ化THP-1であり、IMR-32と非マクロファージ化THP-1ではVGCFの細胞取り込みは観察されなかった。VGCFを細胞内に取り込んだ細胞ではVGCFによるライソソームや液胞の傷害がTEM像で観察された。【考察】VGCFによる細胞障害は分散剤や細胞種によって大きく異なり、VGCFの細胞内への取り込みが細胞毒性に大きく関与している事が示された。
  • 坂本 義光, 小縣 昭夫, 前野 智和, 西村 哲治, 広瀬 明彦, 大山 謙一, 中江 大
    セッションID: O-7
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/11
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    【目的】我々は,多層カーボンナノチューブ(MWCNT)の陰嚢内及び腹腔内投与によりラットに中皮腫が誘発されることを報告したが,p53欠損マウスにおけるものを除いて,同様の報告がない.その理由のひとつには,繊維サイズなどMWCNTの性状の影響が考えられている.今回は,性状の異なる2種のMWCNTのラット中皮腫誘発性を比較検討した.【方法】動物は,F344系雄性ラット10週齢を用いた.MWCNTは,M社製(MWNT-7,前実験で使用:繊維径80-110 nm [82%],繊維長1-4 μm [72.5%],鉄含量3500 ppm)のものと,N社製(繊維径約30 nm,鉄含量20-40 ppm)のものを,いずれも2%CMCに懸濁し,1 mg/kg体重の用量で,各群12匹の腹腔内に単回投与した.動物は,投与20週間後に各群5匹を途中屠殺し,残りの各群12匹を終生飼育した.【結果】投与20週間後のMWCNT投与群では,腹膜の肥厚と微小黒色点の散在が観察されたほか,M社群2例・N社群1例で横隔膜や腸管表面等に微小白色結節が認められた.終生飼育動物において,M社群で投与32-50週間後に死亡例(4/12)・瀕死例(7/12),N社群で投与39-53週間後に死亡例(6/10)・瀕死例(1/10)を認めたため,実験は投与55週間後に終了し,各群の生存例(M社群1例,N社群3例,対照群10例)を屠殺・解剖した. MWCNT投与群では,全例で腹腔内の腫瘍結節形成が認められ,ほとんどが出血性腹水の貯留を伴っていた.【まとめ】以上の結果より,MWCNTの腹腔内投与によるラット中皮腫誘発性には,M社製・N社製の性状の差が本質的な影響を与えない可能性が示された.今後は,中皮腫誘発性の違いと,そうした違いをもたらすMWCNT性状について,さらに詳細に検討する予定である.
  • 山野 荘太郎, 魏 民, 鰐渕 英機
    セッションID: O-8
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/11
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    近年、肺末梢部では正常幹細胞として、気管支肺胞幹細胞(BASC)が知られており、肺腺癌における癌幹細胞様細胞として注目されている。そこで、肺扁平上皮癌の発癌過程早期におけるBASCの役割について検討した。実験には、雌性A/Jマウス6週齢(各16匹)を用い、発癌物質としてN-nitroso-tris-chloroethylurea (NTCU)、対照群にはアセトンを実験開始後4週まで投与した。その後4週間休薬の後、全匹剖検を行い、各種解析に興じた。結果、NTCU投与群の肺において、全匹に異型気管支上皮細胞を認め、扁平上皮系の変化を認めなかった。次にこの病変について、細胞増殖能とアポトーシス能を検討した。その結果、両群に有意差を認めず、本病変は不可逆性である可能性が考えられた。次に本病変に対するBASCの関与を検討するために、CC10及びSPCの二重蛍光染色を行った。その結果、NTCU投与群でBASCの数が有意に増加していることが明らかとなった。そこで、BASC中に異常発現する蛋白群を検討するために、FACSを用いてBASCの分取を行い、プロテオーム解析によって蛋白の網羅的発現解析及び同定を行った。その結果、損傷乗り越えDNA複製に関与する蛋白が同定され、免疫染色にて、対照群のBASCに発現せず、NTCU投与群のBASCにおいて高い発現が認められた。 以上より、NTCU誘発マウス肺扁平上皮癌モデルにおいて、損傷乗り越えDNA複製に関与する蛋白を高発現するBASCが、癌幹細胞になり得る可能性が考えられた。
  • 最上(西巻) 知子, 崔 紅艶, 岩崎 香里, 奥平 桂一郎, 内藤 幹彦, 鈴木 和博, 広瀬 明彦
    セッションID: O-9
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/11
    会議録・要旨集 フリー
    カーボンナノチューブやフラーレンなどの新材料ナノマテリアルは、環境や生体への影響は多くが未知である。多層カーボンナノチューブ(MWCNT)は形状や大きさがアスベストに類似することから安全性が注目され、腹腔投与でマウスに炎症や腫瘍を誘発すること、また単層カーボンナノチューブは気管内投与でマウスの動脈硬化を促進することが報告されている。カーボンナノチューブは水溶液中では凝集性が高くin vitro試験が困難であるが、申請者らは肺サーファクタントの脂質成分を利用して分散を行い、マクロファージの培地に添加すると炎症性サイトカインIL-1β産生が著しく促進されることを見いだした。ここではインフラマソームを介したその機構を含めて報告したい。  MWCNTはホスファチジルコリン/ホスファチジルグリセロール(PC/PG=2:1)溶液に超音波処理により分散し、PMAでマクロファージに分化したヒトTHP-1細胞を処理すると、2-6 μg/mlで濃度依存的にIL-1βの分泌を著しく促進した。同濃度のフラーレンは効果を示さなかった。応答は、cytochalasin Dで細胞を前処理すると抑制され、貪食に依存していた。IL-1βはcaspase-1により前駆体からプロセッシングされることが知られており、分泌応答はcaspase-1阻害剤zYVAD-fmkにより抑制された。また細胞外カリウム濃度の増加により抑制され、Nod様受容体NLRP3を含むインフラマソーム複合体の関与が推定されたことから、siRNAによりNLRP3をノックダウンしたところ、応答は大きく低下した。NLRP3は尿酸やコレステロール結晶を認識し、IL-1β炎症応答を介して痛風や動脈硬化の進展、アスベストの毒性発現と深く関わることが知られており、カーボンナノチューブが慢性炎症や関連病態に関連する可能性が注目される。 
  • 森本 泰夫, 廣橋 雅美, 大神 明, 大藪 貴子, 明星 敏彦, 轟木 基, 山本 誠, 橋場 昌義, 水口 要平, 李 秉雨, 黒田 悦 ...
    セッションID: O-10
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/11
    会議録・要旨集 フリー
    多層カーボンナノチューブ(multi-walled carbon nanotube (MWCNT))は、6員環ネットワーク(グラファイト)が同軸管状に担った物質で、多層構造を呈している。生体影響に関しては、動物曝露試験や試験管内試験にて肺に対する有害性が報告されているが、キャラクタリゼーションが十分でないものが多く、現状では明らかではない。さらに、MWCNTは、非常に凝集能が高いため巨大粒子を形成し、MWCNT本来の有害性を調べることが困難である。我々は、固化粉砕法を用いることにより、液中分散が可能となった。よって分散したMWCNTを用いて気管内注入試験と吸入曝露試験を行い、肺の炎症能を検討した。 気管内注入試験: 分散液中のMWCNTは、透過型電子顕微鏡にて幾何平均径48nm (1.1)、幾何平均長さ0.94 nm (2.3)であり、ほぼ単離できていることが確認された。MWCNT 0.2 mg(低用量)または 1 mg(高用量)を蒸留水(Tritonを0.05%含む)に懸濁して、ラットに単回気管内注入した。注入後3日目から6ヶ月の観察期間をおき、好中球浸潤とそのケモカイン(cytokine-induced neutrophil chemoattractants (CINCs))の検討を行った。低用量のMWCNTは、一過性の好中球を中心とした炎症細胞の浸潤を認めた。ただし、granulomaは認めなかった。一方、高用量では、持続性の炎症細胞浸潤を認め、肺組織におけるCINC-1やCINC-2濃度が持続的に亢進した。 吸入曝露試験:ラットにMWCNTを1ヶ月間(1日6時間、週5日間、4週間)の吸入曝露を行った。 曝露チャンバー内におけるMWCNTの重量濃度は0.37 ± 0.18 mg/m3(幾何平均径63nm (1.5)、幾何平均長さ1.1 nm (2.7))であった。なお、チャンバー内のMWCNT のうち7割が単離できていることが確認された。曝露終了後、3日から3ヶ月の観察期間で炎症能を検討した。有意な好中球浸潤は、認めなかったが、CINC1-3の一過性の上昇を認めた。以上気管内注入試験と吸入曝露試験の結果から、分散したMWCNTは、炎症能を有することが示唆された。引き続き、慢性影響を検討する。 本研究成果は、NEDOからの委託研究、「ナノ粒子特性評価手法の研究開発(P06041)」による。
  • 二口 充, 徐 結苟, 深町 勝巳, 酒々井 眞澄, 津田 洋幸
    セッションID: O-11
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/11
    会議録・要旨集 フリー
    革新的な素材として期待されるナノマテリアルは、製造から包装に至る過程での吸入曝露が危惧され、そのリスク評価は始まったばかりである。我々はナノサイズ二酸化チタニウム(nTiO2)の気管内噴霧による肺発がんプロモーション作用とその機序を明らかにした。本研究では、nTiO2と同様に化粧品に用いられているナノサイズ酸化亜鉛粒子(nZnO)の気管内噴霧による肺の毒性病理学的変化を、我々の開発したナノ粒子短期リスク評価モデルを用いて検索した。 【方法と結果】6週齢の雌のc-Ha-ras TGラットに肺発がん物質DHPNを2週間飲水投与し、nZnOを250ppm、500ppmの濃度で第4から16週まで計7回気管内噴霧し屠殺剖検した。溶媒群の肺には、肺胞過形成および肺腺腫がみられたが、nZnO噴霧群ではこれらに加え、索状の線維化を伴う間質性肺炎が観察された。過形成の平均発生個数は減少傾向が見られたが、腺腫を合わせた腫瘍性病変の平均発生個数は有意な差は見られなかった。次にAzan染色を行い、線維化の程度を定量的に解析した結果、肺の1cm2あたりの線維化巣の面積は、対照群の1.7mm2に対し、250ppm群で5.6mm2, 500ppm群で8.0mm2と有意に上昇し、濃度依存性も見られた。またnZnO単独噴霧群でも線維化巣が観察された。さらに、ZnOを初代培養肺胞マクロファージに貪食させた培養上清は、肺線維芽細胞CCD34の細胞増殖を促進したが、肺がん細胞株A549, 中皮腫細胞株Meso1の増殖を促進しなかった。 【まとめ】酸化亜鉛の気管内噴霧により、肺発がん促進作用はほとんどみられず、間質性肺炎が発生することが明らかとなった。また、我々のナノ粒子吸入曝露短期リスク評価法は、発がん性のみならず、肺線維症のリスクも評価できることが明らかとなった。現在、発生メカニズムについて検索を進めている。
毒性試験・評価法
  • 長瀬 英泰, 東 泰好, 木ノ本 寿子, 渡辺 秀徳, 志垣 隆通, 池田 孝則, 佐神 文郎, 中村 和市
    セッションID: O-12
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/11
    会議録・要旨集 フリー
     医薬品はその使用過程において下水等を通じて環境中に排出されることが知られているが、それらが生態系に対してどのような影響を及ぼすかについて、適切な方法で評価し、基礎的な知見を蓄積することは重要である。現在、医薬品の環境に及ぼす影響の評価に関して、海外ではFDAが1998年に、EMAが2006年にその手順・方法をガイドラインとして提示しており、新薬承認申請時に環境リスク評価成績の提出が義務付けられている。また、カナダでも同様のガイドライン策定に向けた準備が進んでおり、さらに、本邦においても厚生労働省環境リスク評価研究班によりガイドラインの内容が検討されていることが、2010年開催の第37回の本学会学術年会のシンポジウムで紹介されている。
     製薬協においては、2006年に「医薬品の環境リスク評価に関するアンケート調査」を実施し、製薬協加盟会社の評価体制準備状況やガイドライン策定についての意見をまとめ、その成果を2007年開催の第34回の本学会学術年会で発表している。今般、本邦での医薬品の環境リスク評価ガイドライン策定準備が進められていることを踏まえ、前回調査からの進捗状況や本邦ガイドライン策定についての具体的な意見や要望を伺う目的で、製薬協加盟会社に対し2回目のアンケート調査を実施した。さらに、本調査では欧米での環境リスク評価に関わる状況について把握するため、製薬協加盟会社の海外関連会社からの情報も収集することを試みた。これらの成果をまとめて報告する。
  • 山口 宏之, 竹澤 俊明
    セッションID: O-13
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/11
    会議録・要旨集 フリー
    [目的] 最近、コラーゲンビトリゲル薄膜(生体内の結合組織に匹敵する高密度コラーゲン線維の薄膜)をプラスチック円筒の底面に接着して、新たにコラーゲンビトリゲル膜チャンバーを開発した(特願2010-254255)。本研究では、このコラーゲンビトリゲル膜チャンバーを利用して、ヒト角膜上皮細胞株(HCE-T細胞)を多層化培養することによりヒト角膜上皮の組織シートを再構築すること、再構築した組織シートのバリア機能を解析すること、および眼刺激性の化学物質を曝露して惹起される経上皮電気抵抗値(TEER)の経時変化を解析することを目的とした。 [方法] HCE-T細胞をコラーゲンビトリゲル膜チャンバー内に播種し、コンフルエントになるまで3日間培養した。その後、液相-気相の界面で7日間培養して多層化細胞を誘導することで、ヒト角膜上皮組織シートを再構築した。この組織シートについて、凍結切片を作製した後に核染色および免疫組織染色を施し、細胞の多層化に伴う分化を観察した。また、眼刺激性の化学物質を暴露しTEERの経時変化を測定した。 [結果と考察]  液相-気相の界面で培養したHCE-T細胞は、経時的に多層化して界面培養7日目にはヒト角膜に匹敵する5層前後の細胞層を形成した。また、免疫組織染色の結果、タイトジャンクションおよびギャップジャンクション関連のタンパク質を強く発現していたこと、および多層化の進行に伴いTEERの経時的な上昇が認められたことから、ヒト角膜上皮に類似したバリア機能が形成されていることが示唆された。さらに、10種類の化学物質を暴露したところ、各化学物質の眼刺激性の強さに応じたTEERの経時的な変化が認められた。特に、暴露10秒後のTEER減少率はドレイズスコアと良好に相関していたことから、化学物質の眼刺激性を短時間で評価できる可能性が示唆された。
肝臓
  • 宮田 昌明, 栗林 秀明, 山川 泰輝, 山添 康
    セッションID: O-14
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/11
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    肝臓の胆汁酸レベルの上昇は肝胆道系の障害と密接に関連している。我々はマウスに抗菌薬を単独あるいは胆汁酸と併用投与すると対象群、胆汁酸単独投与群と比べて肝臓の胆汁酸レベルと血清中の肝障害マーカーが増加することを見いだした。複数種の抗菌薬で同様な結果が得られることより腸内細菌の減少が肝胆汁酸レベルの増加に関連すると考えられた。またこの原因の一つとして肝胆汁酸合成の亢進が考えられた。腸内細菌は胆汁酸の脱アミノ酸抱合や脱水酸化を触媒し、生成した腸内細菌代謝型胆汁酸(脱アミノ酸抱合型胆汁酸、二次胆汁酸)が回腸fibroblast growth factor (FGF)15発現を誘導して胆汁酸合成の律速酵素であるcholesterol 7α-hydroxylase (CYP7A1)の発現を抑制している可能性が有る。そこで本研究ではCYP7A1の発現抑制因子である回腸FGF15発現誘導に関与する腸内細菌代謝型胆汁酸の同定を試み、個体レベルで消化管胆汁酸組成と回腸FGF15、肝CYP7A1発現の関連について調べた。
    C57BL/6N雄性マウスに3日間ampicillin (ABPC) 100 mg/kgを投与し最終投与時に胆汁酸500 mg/kgあるいは100 mg/kgを投与し、3時間後に解剖した。また胆汁酸単独投与実験も実施した。
    ABPC投与によりコントロール群の10%以下に減少した回腸Fgf15 mRNAレベルはABPC投与で消化管管腔内から消失するcholic acid (CA)の併用でコントロール群の4倍まで増加したが、他の主要一次胆汁酸のtauro-CA (TCA)、tauro β-muricholic acid (TβMCA)、βMCA併用では増加しなかった。二次胆汁酸併用ではTDCAのみでコントロール群レベルまでFgf15 mRNAレベルが回復した。ABPC投与で増加した肝臓のCyp7a1 mRNAレベルは、CAの併用で有意に減少したが、TCAでは減少しなかった。単独投与実験ではCAが消化管管腔内に大量に検出されるCAあるいはTCA投与群でFgf15 mRNAレベルの顕著な増加とCyp7a1の発現低下が認められた。
    以上の結果より腸内細菌によるTCAのCAへの脱アミノ酸抱合は回腸FGF15発現誘導に関与し、肝臓の胆汁酸合成を負に調節していることが示唆された。腸内細菌に依存する消化管内CA量の減少は胆汁酸合成を亢進し肝内胆汁酸 を上昇させると考えられる。
  • 端 秀子, 三木 康宏, 笹野 公伸
    セッションID: O-15
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/11
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    【目的】Cytochrome P450 19A1 (aromatase)は、閉経期以降のエストロゲン依存性乳癌などに深く関わっている酵素で、血中アンドロゲンからエストロゲンを合成し腫瘍細胞に発現しているestrogen receptor (ER)を介して作用しているが、乳癌以外の癌や臓器にも局在している。肝臓におけるaromataseは胎児期に高発現し、成人では殆ど発現しない。転移性肝癌においては発現が認められることが報告されいるが、その詳細は明らかではない。そこで本研究では、転移性肝癌におけるaromataseの発現をタンパクレベル、mRNAレベルで検討し、局在性を検討した。 【材料および方法】ヒト正常肝および転移性肝癌のホルマリン固定パラフィン包埋標本を用い、免疫組織化学にてaromataseの発現を評価した。さらに転移性肝癌のモデルとして、ヒト培養細胞株(乳癌:MCF-7、肺癌:A549、大腸癌:DLD-1, WiDr, HCT-15, COLO205, SW480)との共培養により、肝癌培養細胞株HepG2のaromatase発現に対する影響をmRNAレベルで検討した。 【結果および考察】免疫組織化学の結果、転移性肝癌の腫瘍自体や非腫瘍部では殆どaromataseの発現が認められず、腫瘍部周辺の正常部との境界部位が顕著に高発現であった。qRT-PCRの結果、乳癌、肺癌との共培養によりHepG2のaromatase発現は有意に増加した。 大腸癌においては細胞株によって影響に差異が認められたが、いずれの癌培養細胞においてもHepG2のaromatase発現を有意に増加させた。転移性肝癌は、転移してきた腫瘍の刺激により肝細胞のaromataseが上昇し、腫瘍細胞の増殖を促進していることが示唆される。これは、乳癌におけるaromataseと同様な作用機序によるものと推察される。
生殖発生毒性
  • 稲垣 勝裕, 古賀 裕康, 井上 和美, 鈴木 浩悦, 鈴木 勝士
    セッションID: O-16
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/11
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】ラットはヒトと違って眼球発達が生後も継続するが、乳児期に一過性の自然発生性眼房内出血がみられることを昨年の本年会で報告した。今回我々は、flubendiamideをラット母動物に高用量で投与した際、3~25%の乳児にみられる眼球腫大の発生機序を解明すべく種々検討した結果、本現象は自然発生性眼房内出血の関わる二次的な影響で生じることを明らかにしたので報告する。【方法および結果】Wistar Hannover系妊娠ラットを用いた。Flubendiamideは2000ppmの用量で混餌投与した。投与時期と眼球腫大発生の関連を確認するため、妊娠、哺育および妊娠~哺育の各期間に投与した結果、眼球腫大は妊娠期間の投与で発生せず、出生後の経乳汁暴露により発生すると考えられた。従って、以降の検討では哺育期間にのみ母動物に投与した。生後7~14日の乳児眼球を病理組織学的(H.E染色)に調べた結果、化合物投与で10日以降自然発生性の眼房内出血が持続、悪化した。次に、生後10および14日の乳児の血液凝固能を検査したところ、化合物投与によりPT、APTTを指標とする血液凝固時間が有意に延長(1.3~1.9倍)し、ビタミンK依存性の凝固因子活性も低下した。この血液凝固阻害はビタミンK2投与(30mg/kg/日、生後5~13日)により回復し、眼球腫大の発生もみられなかった。【考察】ラット乳児では、flubendiamideの経乳汁暴露によりビタミンK依存性の血液凝固阻害が生じたと考えられる。それが原因となって乳児期に一過性に生じる自然発生性の眼房内出血が持続、悪化して眼房水の排出が障害され、眼圧が上昇して眼球腫大を発症したと考えられる。ラットはビタミンK依存性血液凝固障害を生じ易い動物と知られていること、さらに雌ラットは他動物種と比較してflubendiamideの代謝排泄能が低いため乳汁中化合物濃度が高いことも確認されていることから、ラット乳児でみられた眼球腫大は本動物種に特異的な影響と考えられた。
  • 代田 眞理子, 川嶋 潤, 中村 知裕, 小川 祐布子, 榊田 明日香, 小林 綾佳, 原 茜, 吉田 緑
    セッションID: O-17
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/11
    会議録・要旨集 フリー
    低用量化学物質の臨界期曝露による長期的影響を検討するために、性中枢における性分化臨界期であり、卵巣における卵胞形成期である新生児期の雌ラットにモデル化合物のEEを投与して、身体的発達ならびに性周期に及ぼす影響を検討した。 CrjCD:SD系妊娠ラットを自然分娩させ、産児を得た。出生翌日の生後1日に個体を識別し、同腹生児数を調整し、各腹に全群の動物を配した。EEはコーン油に溶解し、実験1では、生後1日に0, 0.08, 0.4あるいは2 μg/kgを単回皮下投与し、実験2では0, 0.4あるいは2 μg/kgを生後1日から5日間反復経口した。いずれの実験でも体重推移の他に開眼日齢および腟開口の日齢を調べ、8週齢から4週毎に2週間ずつ性周期を観察した。 その結果、実験1および実験2ともに投与動物の体重推移、開眼日齢ならびに腟開口日齢に投与の影響は認められなかった。性周期は、実験1では、全ての動物が12週齢までは対照群と同様の間隔で回帰していたが、16週齢からは0.4 μg/kg以上の投与群で、32週齢からは0.08 μg/kg投与群で間隔が長くなる動物が認められるようになり、2 μg/kg投与群では28週齢から性周期の平均間隔が対照群と比べて有意に延長した。また、0.4 μg/kg以上の投与群において発情期あるいは発情前期の日数が有意に増加した。実験2では、この傾向が顕著に認められ、2 μg/kg×5日投与群では、8週齢でほぼ全例が連続発情の傾向を示し、16週齢からは、0.4 μg/kg×5日投与群の動物も対照群と比較して性周期の回帰回数が有意に減少し、発情期あるいは発情前期の日数が有意に増加した。いずれの実験でも、用量の低下に伴い、影響が遅れて現れること、ならびに、投与経路は異なるが、分割投与は単回投与より若齢で影響が現れたことから、臨界期の反復曝露は低用量による遅発影響リスクが高いことが示唆された。
医薬品、金属
  • 石川 桃子, 佐藤 洋美, 畢 圓媛, トゥアディ グリギナ, 上野 光一
    セッションID: O-18
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/11
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    【目的】インスリン抵抗性改善薬であるピオグリタゾン塩酸塩の薬効は女性においてより強く発現する一方、主な副作用である浮腫や骨折の発現リスクも女性で高く、薬剤感受性に性差が存在することが知られている。しかし、そのメカニズムに関しては十分に研究が進んでいない。そこで本研究では性差を考慮した薬剤の適正使用推進のため、ピオグリタゾン塩酸塩の作用点である核内受容体PPARγに着目し、マウス3T3L1細胞を用いて性ホルモンの影響について検討した。 【方法】マウス3T3-L1細胞を成熟脂肪細胞へと分化誘導後、女性ホルモン17β-estradiol(E2)および男性ホルモンdihydrotestosterone(DHT)を単独、あるいはpioglitazoneとの併用で2週間曝露し、PPARγタンパク質の発現量をWestern blot法にて定量解析した。また性ホルモンを24時間添加し、培養上清を回収してPPARγの標的因子であるadiponectinの分泌量をELISA法にて解析した。 【結果および考察】PPARγタンパク質発現は生理的濃度のE2曝露により有意に増加し、DHT曝露によって有意に減少した。pioglitazoneと性ホルモンの共存時にも同様の挙動が認められた。また、DHTはadiponectinの分泌を有意に抑制した。今回の結果から、性ホルモンによるPPARγタンパク質発現およびadiponectin産生の調節が、ピオグリタゾン塩酸塩の薬効または副作用における性差発現の一因となる可能性が示唆された。
  • 王 リユン, 大石 巧, 剣持 明, 谷合 枝里子, 林 仁美, 嶋本 敬介, 鈴木 和彦, 三森 国敏, 渋谷 淳
    セッションID: O-19
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/11
    会議録・要旨集 フリー
    In the last JSOT meeting, we reported a sustained aberration of neurogenesis and neuronal mismigration in the hippocampal dentate gyrus through the adult stage in mice exposed developmentally to manganese. In the present study, we performed a global analysis of CpG island (CGI) methylation in the hippocampal dentate gyrus of mice at the end of maternal exposure to manganese at 800 ppm in diet. By CGI microarray analysis, we detected 29 hypermethylated CGI probes with the levels >1.5 fold higher than those of untreated controls and located within 100 bp upstream of the transcription start site. From this hypermethylation profile, we selected 7 genes for methylation-specific qPCR and real-time RT-PCR analyses, and confirmed CGI hypermethylation and mRNA downregulation with Pvalb, Mid1, Atp1a3, and Nr2f1. Gene products of these 4 genes are known to function or play a role in neurogenesis or neuronal differentiation. Immunohistochemically, we found decrease in the number of interneurons expressing Parvalbumin or Midline 1 in the dentate hilus of manganese-affected offspring at the end of exposure. This result was in contrast to the increases of NeuN-expressing mature interneurons and Reelin-expressing NeuN-negative immature interneurons in the hilus of these animals, suggesting a subpopulation change of interneurons involving epigenetic gene control during the aberrant neurogenesis and neuronal mismigration by developmental manganese exposure. Additional information: Parvalbumin-expressing population exists in GABAergic interneurons that play a role in neurogenesis. Interestingly, temporal expression change of Na+/K+ ATPase 1A3 has shown to occur in Parvalbumin-expressing interneurons in the model of developmental epileptogenesis. Midline 1 plays a role for midline morphogenesis including neurogenesis and Nr2f1 is a transcription factor expressing in stem cells in CNS development.
免疫毒性
  • Gerhard F Weinbauer, Frings Werner
    セッションID: O-20
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/11
    会議録・要旨集 フリー
    Biopharmaceuticals, unlike chemically synthesized compounds, frequently exhibit species-specific activity. For many biopharmaceuticals, e.g. monoclonal antibodies, nonhuman primates frequently constitute the only or the most relevant species. The most commonly used species is the cynomolgus monkey (M. fascicularis), an Old world monkey. New World monkeys, e.g. marmoset monkey (Callithrix jacchus) are also being used occasionally. Within the primate pedigree Old World monkeys are more closely related to humans compared to New World monkeys. In many instances, safety assessment of biopharmaceuticals requires evaluation of the immune system. In this work, relevant differences between cynomolgus and marmoset monkey are compared. Functional immunotoxicology test are easier to be performed in cynomolgus monkeys due to better functionality of human assays or blood volume limitations in marmosets. On the other hand some leukocyte CD markers better resemble the human distribution in marmosets. Development of anti-drug antibodies (ADA) is often a critical limitation for the evaluation or maximum duration of preclinical studies with biopharmaceuticals. Based upon the phylogenetic distance a higher risk of ADA development in marmosets is assumed, however, data from approx. 200 animals/species exposed to human antibodies reveal 6 % of cynomolgus and only 2 % of marmosets developed detectable ADA responses impacting toxicokinetics. In conclusion, whilst cynomolgus monkeys are the preferred NHP model, marmosets provide a relevant alternative in certain instances.
  • 吉岡 靖雄, 藤村 真穂, 山下 浩平, 東阪 和馬, 森下 裕貴, 潘 慧燕, 小椋 健正, 長野 一也, 阿部 康弘, 鎌田 春彦, 角 ...
    セッションID: O-21
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/11
    会議録・要旨集 フリー
    古来より、黄砂は発生源である中国やモンゴルのみならず、日本や中国・韓国・台湾といった東アジアにおいても、毎年のように飛来が確認されており、黄砂による被害は、国境を越えた環境問題となっている。これまでの疫学調査により、黄砂の飛来時には、東アジアを中心とした各国で循環器疾患・呼吸器疾患の罹患率が上昇するといった健康被害が報告されており、炎症性免疫疾患の発症・悪化のリスクファクターの一つとして推定されている。しかし、黄砂による健康被害情報の多くは疫学調査に基づくものであり、黄砂の体内動態や詳細な免疫応答メカニズムといった科学的根拠に基づいた情報は未だに乏しい。そこで本研究では、科学的根拠に基づく黄砂の安全性懸念情報の集積を最終目的に、黄砂と黄砂発生源土壌の免疫毒性としての起炎性を検討した。中国・北京市で採取した黄砂、中国・黄土高原で採取した黄砂発生源土壌を、マウスマクロファージ細胞株(RAW264.7細胞)に作用させ、24時間後に培養上清中の炎症性サイトカインTNF-alpha、IL-6量をELISAにより測定した。その結果、黄砂作用群では、陽性コントロールとして用いたリポポリサッカライド作用群と同程度のTNF-alpha、IL-6産生が認められ、黄砂は強い起炎性を示すことが明らかとなった。次に、黄砂を経鼻投与後の肺組織における炎症度を解析した。黄砂をマウスに経鼻投与し、24時間後に肺胞洗浄液中の浸潤細胞数を指標に肺の炎症度を評価した。その結果、黄砂投与群の浸潤細胞数は、コントロール群と比較して有意に増加したことから、曝露量によっては黄砂により肺組織で炎症が誘導され得ることが示された。今後は、黄砂の体内動態や細胞内動態、炎症惹起メカニズムを詳細に評価し、黄砂の安全性を科学的に解析することで、黄砂に起因した免疫疾患の発症・悪化の予防や、安全に黄砂と共存できる社会を考究していく予定である。
循環器、毒性試験法
  • 幸田 祐佳, 安井 孝太, 前北 章衣, 河野 龍而, 寺崎 文生, 松村 人志, 田中 孝生
    セッションID: O-22
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/11
    会議録・要旨集 フリー
    [目的]肥満は高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病の基礎病態になっている。近年、チアミンの大量投与により糖尿病性腎症、網膜症あるいは神経症が軽減できるとの報告がある。我々は、ストレプトゾトシン誘発性糖尿病モデルラットにおいて、チアミンによる糖代謝改善が糖尿病性心筋症に有効であることをすでに報告している。今回、肥満・2型糖尿病モデルである Otsuka Long-Evans Tokushima Fatty (OLETF) ラットを用いて、心病変に対するチアミンの効果について検討した。
    [方法] 4週齢のOLETFラットを二群に分け、飲料水として一群には水道水を、もう一群には0.2%チアミン含有水道水を自由飲水させ、55週齢まで飼育観察した。肥満の指標として、体重および内臓脂肪の重量を測定した。心機能の指標として、超音波装置を用い、心収縮能ならびに拡張能を評価した。摘出した臓器は組織学的観察を行った。採取した血液は、血漿グルコース濃度と糖化ヘモグロビン (HbA1c) 濃度を測定した。
    [結果および考察] 55週齢のOLETFラットでは、血漿グルコース濃度ならびに糖化ヘモグロビン (HbA1c) の所見から、糖尿病を惹起していることが認められた。チアミン摂取は、OLETFラットの体重と後腹腔壁脂肪塊量、精巣上体脂肪塊量の増加を抑制した。OLETFラットにおいて、心臓の線維化、間質ならびに心筋細胞への脂肪蓄積もチアミンによって軽減されることが示された。心機能評価では、チアミンにより心収縮能および拡張能が改善されていることが明らかとなった。以上の結果より、チアミンは過食性肥満ラットの内臓脂肪を減少させたことから、肥満に伴う代謝異常の改善に寄与すると考えられる。さらに、肥満ならびに糖尿病に伴う心病変の発症および進展抑制にチアミン摂取が有用である可能性が示唆される。
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