日本毒性学会学術年会
第45回日本毒性学会学術年会
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ワークショップ7
  • 善本 隆之, 大橋 美緒, 長谷川 英哲, 折井 直子, 徐 明利, 大脇 敏之, 溝口 出
    セッションID: W7-5
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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     アレルギー疾患には大きく分けて、呼吸器アレルギーと皮膚アレルギーがある。感作性の評価には、これまでマウスを用いたLLNA法などの優れた方法が用いられてきたが、動物実験廃止という近年の国際的な流れにより、いくつものin vitro感作性代替法が開発されている。ところが、呼吸器と皮膚感作性化学物質に対して講じる危機管理対策が全く異なるにも関わらず、これら既知の方法では、両者を見分けることができず、両者の感作性を識別可能な代替法の開発が国際的にも急務とされている。

     そこで、我々は、ヒト気道上皮を真似た生体により近いin vitroの新しい3次元共培養系を構築し、呼吸器と皮膚アレルギー反応の作用機序の違いであるヘルパーT(Th)2分化誘導に関与する分子発現を指標に、呼吸器と皮膚感作性化学物質を識別可能な新しい感作性代替法の開発を試みている。まず、ヒト気道上皮細胞株と末梢血単核球由来樹状細胞(DC)、繊維芽細胞株の3種類の細胞をそれぞれのScaffoldで3次元培養後、それらを重層した3次元共培養系を構築した。そして、次にこの系に、3種類ずつの代表的な呼吸器および皮膚感作性化学物質を加えて反応後、各ScaffoldよりRNAを抽出しリアルタイムRT-PCRにより、Th2分化誘導に関わる種々の分子発現を調べた。その結果、CD86などのDC成熟化に関わる共刺激分子の発現増強には差がなかったが、DCでのTh2分化誘導に重要な共刺激分子OX40Lの発現増強が、皮膚感作性化学物質に比べ呼吸器感作性化学物質の刺激でいずれも有意に高いことを見出した。

     以上の結果より、この3次元共培養系を用いると、DCでのTh2分化誘導に重要なOX40L発現増強を指標に呼吸器と皮膚感作性化学物質の識別が可能である可能性が示唆された。

     本講演では、以上のような我々の呼吸器感作性代替法開発の試みと今後の展開について紹介します。

  • 坂田 信以
    セッションID: W7-6
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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     人間の快適かつ高度な社会生活において、素材である化学品は不可欠であり、産業競争力の根幹をなすものである。一方で、一般化学品は、多様な使用・管理の条件下でのリスクを評価する必要があり、動物愛護の観点に加えて開発の加速化や試験費用の軽減の観点からも代替法の開発はきわめて重要な課題になる。

     日本化学工業協会(日化協)では、化学工業界が扱う様々な製品のリスク評価・管理や、安全性の確保に活用していくため、欧州化学連盟(Cefic)およびアメリカ化学工業協議会(ACC)との三極で展開している自主的、長期的な研究支援の取組みであるLRI(Long-Range Research Initiative)において「化学物質の免疫毒性」を重点研究分野の一つとして設定し、①化学物質の免疫毒性を適切に評価する試験法の開発研究、②免疫メカニズムに及ぼす化学物質の影とその作用機序に関する研究、③シックハウス症候群など免疫学的な機序の関与が不明な過敏症の機序解明に資する研究、などを支援してきており、現在は、「呼吸器感作性の代替法開発」および「皮膚感作性の代替法のOECD試験ガイドライン化」等を支援している。

     化学産業界にとって、製造現場の作業者が鼻や口から化学物質を吸入することによって起こる過敏症状の発生を未然に防止することは、労働安全衛生上重要である。化学物質が呼吸器感作を引き起こす可能性を特定し、皮膚感作と明確に識別するような呼吸器感作性のin vitro 評価系の開発することで、労働衛生上の対策を意識した取組みへの寄与が期待される。また、従来方法よりも高精度に評価できる代替法の開発は産業界にとって有用である。

ワークショップ8
  • 眞鍋 理一郎
    セッションID: W8-1
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    医薬品や治療法の研究・開発において、その効能効果とともに安全性評価がとても重要である。現在、様々な動物モデルが利用されているが、その中でも霊長類はひとへの副作用、有害事象をより正確に評価できる系として期待されている。ゲノム情報を用いた次世代シーケンサーによる解析手法は、多様な機能性ゲノム情報を短時間に網羅的に得られることから、これら評価のための不可欠な技術となっている。一方、霊長類においては、残念なことにゲノムやトランスクリプトームの研究は少なく、その充実は霊長類を用いた医薬品や治療法の研究・開発と評価のために大きく期待されている。本講演では、カニクイザルなどを例として、次世代シーケンス技術を活用したプロモーターやエンハンサーなどの発現制御に関わる情報も含めたより正確な機能性ゲノム解析のための基盤整備と、MHC解析の最新の動向について概説する。

  • 椎名 隆, 浦野 浩行, 山中 久, 中川 賢司
    セッションID: W8-2
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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     主要組織適合性複合体(MHC)分子は、抗原ペプチドをT細胞やNK細胞に提示することにより免疫応答を発動させる分子である。このMHC分子をコードするMHC遺伝子群は極めて高い多型性を有し、個々が持つMHC多型ごとに特定の抗原ペプチドとの親和性が異なる。その結果、特定のMHC多型と“感染症”・“アレルギー”・“自己免疫疾患”等の発症リスクが生じる。また、非自己型MHC分子はT細胞により異物と見なされるため、ドナーとレシピエント間のMHC多型の一致は急性拒絶反応の回避のために必要である。

     カニクイザル(Macaca fascicularis; Mafa)は最も近縁な実験動物の一種として形態、生理ならびに疾患等においてヒトとの間に類似性または近似性が認められることからMHC関連疾患発症の分子機序の解明や移植研究の良きモデルになると考えられる。そこで演者らは、Mafa遺伝子群のゲノム解析や多型解析を通じて、Mafa遺伝子群はヒトと類似した遺伝子構成を基本的に有すること、特定のMHC多型を持つサルを同定する際にフィリピン産は他産地よりも容易であることを突き止めた。また、次世代シークエンサーを用いたDNAタイピング法を開発し、計207種類のMHC遺伝子の塩基配列を同定したことなどフィリピン産におけるMHC多型の全貌を把握した。その後、約5,400頭に及ぶDNAタイピングを実施し、38頭のMafa遺伝子群のホモ接合体を含む多数のMHC多型に基づく移植研究に有用な個体をこれまでに検出している。現在、ホモ接合体より樹立されたiPS再生細胞を用いた移植実験や臓器移植実験が複数の研究機関で進められており、MHC多型の一致・不一致が移植成績に大きく影響を及ぼすことが実証されつつある。

     本ワークショップでは、MHC多型の特徴やこれまでの取り組みを概説すると共に実験に供する個体数の削減や再現性の向上を目指した今後の展望について紹介したい。

  • 宇野 泰広, 山崎 浩史
    セッションID: W8-3
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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     カニクイザルは薬物代謝試験や安全性試験で使用される重要な非ヒト霊長類であり,その薬物代謝パターンは概してヒトに近いことが知られている.しかし,稀にヒトと異なる場合があり,その一因はチトクロムP450 (P450,CYP) を始めとする薬物代謝酵素における種差であると考えられる.そこで我々は,その原因を調べるためにカニクイザルP450遺伝子を網羅的に同定・解析してきた.その結果,多くの基質を調べるとP450代謝がカニクイザルとヒトで良く似ているものの,ヒトに存在しないカニクイザルCYP2C76が様々な薬物の代謝に関与していたり,またカニクイザルCYP2C9やCYP2C19が一部の薬物でヒトと異なる代謝を示すことが明らかになった。一方,カニクイザルの薬物代謝における個体差はデータのばらつきの原因になると考えられる.ヒトではP450の遺伝子多型が薬物代謝における個体差の一因であることが知られているが,カニクイザルではまだ調べられていなかった.そこで我々はいくつかのP450遺伝子において遺伝子多型を同定・解析してきた.その結果,CYP2C76でヌル変異を,またCYP2C9とCYP2C19で酵素機能に影響を及ぼす変異を見出すことに成功した.とくにCYP2C19変異は酵素の薬物代謝能を著しく弱め,比較的頻度高く存在するため重要な変異である.カニクイザルの産地ごとに頻度を調べたところ,CYP2C76変異はインドネシア産とフィリピン産で見つかったがインドシナ半島由来の個体では見られなかった.一方,CYP2C9変異とCYP2C19変異はインドシナ半島由来の個体で見つかったが,インドネシア産やフィリピン産では見られなかった.以上のことから,カニクイザルにおいてもヒトと同様,P450の遺伝子多型が薬物代謝における個体差の一因になっており,産地差の原因にもなっている可能性が示唆された.本発表では,カニクイザルP450の遺伝子と遺伝子多型の解析でこれまでに得られた知見をお示ししたい.

  • 斎藤 嘉朗, 中村 亮介
    セッションID: W8-4
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    ヒトにおける医薬品の薬物動態、有効性や副作用発現に個体差があることは周知の事実である。個体差をもたらす要因としては、外因性の要因と内因性の要因があり、前者の例としては食事、嗜好品等が知られている。一方、内因性要因では、遺伝子多型に関する情報が、近年のゲノム解析の進展により急速に蓄積されている。

    例えば、薬物動態関連では、薬物代謝酵素の遺伝子多型がよく知られている。オメプラゾールを代謝するCYP2C19では、酵素活性の消失をもたらす2種の頻度の高い一塩基多型が知られており、ピロリ菌除菌の成功率に影響を与えることから、治療前の診断が先進医療として行われていた。また抗がん剤イリノテカンの骨髄抑制に関し、活性代謝物の解毒代謝を担うUGT1A1の2種の酵素活性減少をもたらす遺伝子多型が、その発症頻度を左右すると報告され、コンパニオン診断薬が開発された。さらに近年では、薬物性肝障害や重症薬疹等、特異体質性副作用として機序が不明であった重篤副作用に関しても、HLAタイプとの関連が報告されている。これらの知見は、頻度の低いものは医薬品の市販後に蓄積し、頻度の高いものは臨床試験段階で明らかになるものの、重篤な副作用が発現した場合、当該医薬品の開発・販売が中止になる可能性もあり、可能な限り非臨床段階で予見できることが望ましい。

    この問題は、ヒト細胞やその画分等を用いたin vitro試験系の充実と、ヒトに近いサル等の非げっ歯類におけるゲノム解析に基づく個体差の評価系開発により解決できると考える。近年、前者については、遺伝子多型を有する薬物代謝酵素を発現したミクロソーム等が多くの種類に関して販売されているが、後者は遅れている。サルゲノム解析の進展、サルとヒトの薬物代謝酵素やMHC等の副作用関連タンパク質の構造的・機能的相同性に関する体系的な情報の蓄積、非臨床における活用事例の報告等が強く望まれる。

ワークショップ9
  • 新間 秀一
    セッションID: W9-1
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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     イメージング質量分析(IMS:imaging mass spectrometry)では,切片化した試料表面で,主にレーザーを照射することによりイオン化を行い,得られたイオンを質量分析計で計測する.IMSは,この工程で組織表面上で直接得られたイオンの空間強度分布を構築する事ができる技術である.この原理を考えれば分かる通り,検出されたイオンは全て,組織内分布を提供する事が可能であると言える.すなわち,薬物で言えば未変化体のみならず,その代謝物の分布をもラベル化せず得る事が可能な唯一の技術であると言える(裏を返せば,目的のイオンが得られなければイメージングはできないことを意味している).

     このような特徴から,医薬品開発の現場(前臨床研究および早期臨床開発)で非常に大きな注目を集めている.演者は前職で国立がん研究センターにおいて,IMSのための装置の一つであるiMScope(島津製作所)を医師主導治験に応用し,動物のみならずヒト臨床検体においてもIMSを薬物動態解析に適用してきた.本講演ではIMSの基礎的な説明とともに,多種多様にあるIMSの応用事例の中から,特に毒性に関わる例について海外での報告事例を中心に紹介する.またIMSを副作用に関連する試料に応用した内容の2つに焦点を絞り解説を行いたいと思う.

  • なし
    セッションID: W9-2
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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  • 古川 賢
    セッションID: W9-3
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    LA-ICP-MS(レーザーアブレーションICP質量分析法)はレーザーにより試料を微粒子化しながら超高感度なICP-MSで連続的に分析し、半定量性のあるイメージング手法である。分析対象は元素と限定されるが、病理組織標本にも応用可能とされており、分析精度は空間分解能がμmレベル、検出限界が10 ppb~0.1%である。本発表ではカドミウム(Cd)及びジブチルスズ(DBTC1)誘発性のラット胚子/胎盤病変とLA-ICP-MSによるこれら元素の局在性との関係について検討した。

    (1) Cdの胎盤への影響:妊娠Wistar Hanラット(妊娠18日)にCd 0.04 mmol/kgを腹腔内投与し、経時的に剖検し、胎盤を検索した。形態学的には投与1時間後より迷路層に病変が観察された。Cdにより誘導されるメタロチオネインの免疫染色では投与24時間後に陽性を示した。一方、LA-ICP-MSでは投与1時間後より迷路層に限局してその局在性が確認された。

    (2) DBTClの胎盤及び胚子への影響:妊娠Wistar HanラットにDBTC1 20 mg/kgを妊娠7-9日あるいは10-12日に強制経口投与し、経時的に剖検し、胚子及び胎盤を検索した。妊娠7-9日投与群のみに奇形(無頭有口他)が発現し、形態学的には妊娠9.5日の卵黄嚢/絨毛膜胎盤及び胚子では胚子のみにアポトーシスが認められた。一方、LA-ICP-MSではスズの局在性は卵黄嚢、外胎盤錐及び胚子において確認したことから、DBTC1は卵黄嚢胎盤を介して胚子に吸収され、胚子に対して特異的にアポトーシスを誘発することで、奇形が発現したものと推察した。

    以上より、LA-ICP-MSでは前処理することなしにパラフィン包埋スライド標本を供試できることから、病理組織学的に元素の局在性を確認することのできる極めて簡易かつ有効な手法であると考えられた。

学会賞・奨励賞受賞者講演
  • 熊谷 嘉人
    セッションID: GA
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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     我々は生活環境、食生活やライフスタイルに応じて多種多様な化学物質に曝露されている。その中には、食事を介して意識的に摂取されるものもあれば、環境循環等を介して非意図的に生体内に侵入するものもある。産業化学物質、有害金属、環境汚染物質には酸化ストレスや親電子ストレスを与えるものが少なくないことから、酸化・親電子ストレスと有害性との関連性が指摘されている。注意すべき点は、生体は環境の変化に応じて適量の活性酸素種(ROS)および内因性親電子物質を産生していることである。このことは、適度の酸化・親電子ストレスは生体の恒常性維持に寄与している一方で、過剰の当該ストレスは恒常性の破綻を引き起こし、毒性へと繋がることを示唆している。

     私は筑波大学に赴任して、酸化・親電子ストレスを生じる化学物質の毒性発現の分子メカニズム解明に取り組んだ。ケミカルバイオロジー的手法により、被検物質が如何にして過剰のROS産生をするのか、抗酸化酵素の活性低下を生じるかを明らかにした。また、社会医学系に所属していたことから、米国・カリフォルニアおよび中国・内モンゴル自治区で採取した環境サンプル解析、断面調査、介入研究、代替動物によるインビボ実験および培養細胞を用いたインビトロ実験からなるフィールドサイエンスと実験科学の融合を実施した。一連の研究を進める過程で環境中親電子物質の二面性に気づいた。本仮説を解くために、環境応答に係る細胞内の起点となる分子ターゲットを明らかにし、それに伴うレドックスシグナル変動を調べた。その結果、環境中親電子物質の低濃度曝露時には、センサータンパク質の反応性システイン残基と特異的に共有結合して応答分子を活性化し、細胞生存、細胞増殖、細胞内タンパク質の品質管理および親電子物質の解毒・排泄に関わる下流遺伝子群の転写誘導を促すレドックスシグナルが活性化されることを見出した。一方、環境中親電子物質の曝露の増加に伴い、細胞内タンパク質は非特異的な化学修飾を受け、結果的に細胞死および致死効果が観察された。

     硫化水素、システインパースルフィド(CysSSH)、グルタチオンパースルフィド(GSSH)およびそれらのポリスルフィドのような活性イオウ分子(RSS)は、分子内に“可動性イオウ”を有し、高い求核性・抗酸化性を示すことから、イオウ生物学分野で注目されている。我々は非細胞、細胞および個体での検討より、環境中親電子物質とRSSとの反応を介してイオウ付加体が生成されることを発見した。Na2S4のようなポリスルフィド処置により、環境中親電子物質曝露によるレドックスシグナル変動(低濃度で活性化、高濃度で破綻)および毒性は減弱した。それを支持するように、メチル水銀、カドミウムおよび1,4-ナフトキノンのイオウ付加体は、母化合物のようなタンパク質の化学修飾能、レドックスシグナル変動および細胞/個体レベルでの毒性を示さなかった。さらに、細胞内でCARS2やCSEにより産生あるいは外来的に摂取したRSSの細胞内濃度が一定以上になると細胞外に排泄されるシステムが存在することも分かった。

     異物代謝において、化学物質の酸化(第1相反応)、極性基導入による抱合化(第2相反応)およびトランスポーターを介した細胞外排泄(第3相反応)が知られている。RSSは細胞内外で環境中親電子物質を捕獲・不活性化することから、我々は「フェーズゼロ反応」と命名した。

  • 徳本 真紀
    セッションID: SY1
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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     有害金属であるカドミウムはイタイイタイ病の原因物質であり、生体に対して重篤な障害を引き起こすことが知られている。特に、腎臓の近位尿細管機能障害が慢性カドミウム中毒患者に共通して認められる。一方、カドミウムの毒性発現機構に関する研究は、世界中の様々な研究グループによって長年にわたって進められていたが、その分子レベルでの毒性発現機構についてはほとんど解明されていないのが現状である。我々はこのような背景の下、カドミウムの毒性発現に関与する標的分子の解明に取り組んできた。

     カドミウムによる腎毒性発現カスケードの上流を探るため、未毒性レベルのカドミウム曝露によって発現が変動する遺伝子をDNAマイクロアレイ法を用いて網羅的に解析した。カドミウムに曝露した腎近位尿細管上皮の培養細胞およびマウス腎臓に共通して発現が減少した遺伝子として、ユビキチン転移酵素Ube2dファミリー遺伝子を同定した。Ube2dファミリーは短命タンパク質であるp53をユビキチン化し、プロテアソームでの分解に導くことが知られている。腎近位尿細管細胞において、カドミウムはp53遺伝子の発現を増加させず、プロテアソーム活性を低下させないにも関わらず、細胞内のp53タンパク質レベルを劇的に上昇させることを明らかにした。また、p53の過剰蓄積は細胞毒性が出現する前段階ですでに引き起こされており、一部のp53はリン酸化して活性化し、アポトーシスを誘導することも見いだした。さらに、カドミウムに6ヶ月間慢性曝露されたマウス(腎障害発症前)の腎臓でも同様の結果が示されたが、肝臓ではUbe2dファミリー遺伝子の発現は低下せず、p53も過剰蓄積することはなかった。これらの結果より、カドミウムがUbe2dファミリー遺伝子の発現抑制を介してp53タンパク質を過剰蓄積させ、p53依存的なアポトーシスを誘導することにより細胞毒性を引き起こすことを新たに見いだすことができた。

     カドミウムがUBE2Dファミリー遺伝子の発現を抑制する原因については、Protein/DNAアッセイ法による転写因子の網羅的解析を行った。カドミウムによってDNA結合活性が低下する転写因子として複数の因子を検出した。その中で、UBE2Dファミリー遺伝子の上流に結合配列を有する転写因子YY1およびFOXF1を同定した。これら転写因子をRNA干渉法を用いてノックダウンした腎近位尿細管細胞において、YY1がUBE2D2を、FOXF1がUBE2D4の転写をそれぞれ制御していることを見いだした。これらの結果より、カドミウムがYY1およびFOXF1の転写活性を阻害することによってUBE2Dファミリー遺伝子の発現を抑制することも明らかにすることができた。

     上記のUBE2Dファミリー遺伝子や転写因子YY1、FOXF1以外にも、カドミウムによって発現変動する遺伝子、および活性変動する転写因子を複数同定することにも成功している。それらの因子の一部は細胞生存に関わっていることから、更なるカドミウム毒性発現分子機構の解明を進めていきたい。

  • 櫻井 健
    セッションID: SY2
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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     精巣毒性は精子形成不全又は不妊に直結する重篤な副作用の一つであり、ヒトへの外挿性が高い非臨床安全性試験が求められている。カニクイザルは、非臨床安全性試験に汎用される動物種であり、生理的及び遺伝的特性もヒトに近いため、ヒトへの外挿性が高いことが予想される。しかしながら、カニクイザルを用いた精巣毒性評価に関する研究報告は非常に少なく、充分な感度を有する精巣バイオマーカーは確立されていない。そこで本研究では、毒性バイオマーカーとしての応用が期待されるmicroRNA(miRNA)に着目し、カニクイザルの精巣毒性に関連するmiRNAを2種の精巣毒性モデルを用いて網羅的に解析した。

     カニクイザルのmiRNAの塩基配列及び精巣特異的miRNAを特定するため、精巣を含む主要臓器について次世代シークエンス解析を実施した。その結果、カニクイザルの精巣miRNAの塩基配列は一部のmiRNAを除いてヒト相同遺伝子の塩基配列と一致していることが明らかとなった。また、各miRNA発現量を臓器別で比較した結果、カニクイザルにおいてmiR-34c-5p、miR-202-5p、miR-449a及びmiR-508-3pが精巣特異的なmiRNAであることを見出した。

     次に、代表的な精巣毒性物質であるethylene glycol monomethyl ether(EGME)の300 mg/kgをカニクイザルに4日間反復経口投与し、精巣毒性の有無を病理組織学的に解析すると共に、上述のmiRNAを含めて精巣中及び血中miRNAをマイクロアレイを用いて網羅的に解析した。EGME投与により、カニクイザルにおいても精母細胞及び円形精子細胞の消失を特徴とした精巣毒性が病理組織学的に認められ、精巣中でmiR-34/449ファミリーに属するmiR-34b-5p、miR-34c-5p及びmiR-449aの発現低下が認められた。これらのmiRNAは、精母細胞及び精子細胞に高発現していることから、これらmiRNAの発現低下は、精母細胞及び精子細胞の障害を反映していた可能性が示唆された。一方、今回の条件下では、精巣毒性により上昇する血中miRNAは認められなかった。以上の結果から、miR-34/miR-449はカニクイザルにおいて精巣毒性を示唆するバイオマーカー候補になると考えられた。

     さらに、温浴により精巣毒性を惹起したモデルを用い、miR-34/miR-449の変動がEGME誘発モデルに特異的か否かを確認した。カニクイザルに全身麻酔下で精巣を43℃の温水中に30分間静置する操作を5日間連続で実施した結果、精母細胞及び精子細胞数の減少を特徴とする精巣毒性が惹起された。EGME誘発モデルと同様に、精巣中miR-34b-5p、miR-34c-5p及びmiR-449aの発現低下が認められ、精母細胞及び精子細胞の障害を反映していると考えられた。また、miR-34/miR-449はアポトーシス・細胞増殖に関与することが知られており、上述したmiRNAの変化が精巣毒性の発生機序にも関与している可能性が示唆された。

     以上、2種の異なるカニクイザル精巣毒性モデルを用いた検討により、miR-34/449ファミリーは精母細胞及び精子細胞の障害を反映する有力なバイオマーカーであり、精巣毒性の発生機序を解明するための有用なツールとなることを明らかとした。本研究で得られた知見は、毒性試験に応用可能であり精巣毒性を起こさない安全な医薬品を開発する一助になると思われる。

一般演題 口演
  • Nathalie NGUYEN, William NGUYEN, Brynna NGUYENTON, Phachareeya RATCHAD ...
    セッションID: O-1
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    Drug-induced pro-arrhythmia and/or changes in contractility can limit the utility of potential novel therapeutics. Since abnormal ventricular repolarization can cause not only electrical disorders, but also affect the heart’s contractile function, we developed a new model based on adult human primary cardiomyocytes to provide a preclinical tool for the simultaneous prediction of drug-induced inotropic and pro-arrhythmia risks. We recorded fractional sarcomere shortening (SS) using a digital, cell geometry measurement system (IonOptix™) and then record changes in the contractility transients to infer both inotropic (SS) as well as pro-arrhythmia risk (aftercontraction). Validation data were generated with 38 clinically well characterized controls: 23 torsadogenic and 10 non-torsadogenic drugs, and 5 positive inotropes. When the assessment of pro-arrhythmia risk was based on effects observed at 10x of the free effective therapeutic plasma concentration, human cardiomyocyte-based model had excellent assay 96% sensitivity and 100% specificity. Human cardiomyocytes also identified drugs associated with negative and positive inotropic effects. Moreover, positive inotrope-induced changes in contractility parameters illustrated the potential for finger-printing different mechanisms of action. Thus, human cardiomyocytes can simultaneously predict risks associated with pro-arrhythmia and inotropic activity. This approach enables the generation of predictive preclinical human-based cardiotoxicity data and appears to be more predictive than the stem cell-derived cardiomyocyte models.

  • Daniele ZINK, Jacqueline Kai Chin CHUAH, Lit-Hsin LOO
    セッションID: O-2
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    The kidney is a main target for compound-induced toxicity. Recently, we have developed the first pre-validated screening platforms for the accurate prediction of nephrotoxicity in humans (Li et al., Toxicol. Res., 2013; Li et al., Mol. Pharm., 2014; Su et al., BMC Bioinformatics, 2014; Kandasamy et al., Sci. Rep., 2015; Su et al., Arch. Toxicol., 2016; Chuah & Zink, Biotechnol. Adv, 2017). These platforms include the only available predictive methods based on human induced pluripotent stem cell (iPSC)-derived renal cells (Kandasamy et al., 2015; Chuah & Zink, 2017). When assays based on iPSC-derived PTC-like cells were combined with machine learning techniques, compound-induced nephrotoxicity could be predicted with a test balanced accuracy of 87% (Kandasamy et al., 2015). In addition, compound-induced injury mechanisms and cellular pathways were correctly identified. PTC-like cells would be also suitable for applications in our recently developed high-throughput platform (Su et al., 2016; Chuah & Zink, 2017). This high-throughput platform predicts nephrotoxicity in humans with a test balanced accuracy of ~80% - 90% depending on the cell type used (Su et al., 2016; Loo & Zink, 2017), and is applied in collaboration with the US Environmental Protection Agency to predict the human nephrotoxicity of ToxCast compounds. Currently we are developing kidney-on-chip technologies for repeated dose testing and prediction of the human dose response. In conclusion, a variety of tools and in vitro methods is now available for the accurate prediction of nephrotoxicity in humans.

  • 内藤 篤彦, 安東 賢太郎, 後藤 愛, 中村 裕二, 長澤(萩原) 美帆子, 千葉 浩輝, 中瀬古(泉) 寛子, 杉山 篤
    セッションID: O-3
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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     近年、過去にがん治療を受けた患者で心不全を含む心疾患の罹患率が高いことが報告されており、抗がん薬による心毒性、特に心臓の左室機能を障害するような毒性(左室機能毒性)に関心が集まっている。ドキソルビシンを代表とする殺細胞性抗がん薬だけでなく、本来副作用が少ないはずの分子標的抗がん薬の一部にもメカニズムの明らかでない左室機能毒性を示すものが存在することが報告されている。新規抗がん薬が次々に開発される中、左室機能毒性を正確に、簡便に、再現性高く評価する手法の開発が求められている。

     ヒトiPS細胞から分化誘導した心筋細胞(iPS心筋)を用いて薬物の催不整脈性リスクを評価できる可能性が示されている。一方、既存のiPS心筋を用いた評価系では、人間の左室機能に関する生理的特徴を再現できないなどの問題点がある。

     本研究で我々は、日本人健康成人由来のiPS心筋を96穴プレート上で配向性をもたせて培養(パターン培養)し、モーションベクトルイメージングで解析する評価系を構築した。配向性をもたせたiPS心筋は収縮・弛緩速度および総動き量が収縮頻度と正の相関を示す性質を獲得し、心臓に対する作用が明らかな複数の薬物に対して薬物の作用機序に基づいた反応を示した。パターン培養したiPS心筋を用いて複数の分子標的抗がん薬およびドキソルビシンの短期的および長期的影響を評価したところ、心筋細胞の収縮、弛緩、同期性に対する影響が同じクラスに属する分子標的抗がん薬であっても異なる様式で出現することが明らかになった。分子標的薬による影響の多くは軽度かつ一時的なものであったが、ドキソルビシンによる影響は時間経過とともに増悪していた。パターン培養したiPS心筋をモーションベクトルイメージングで評価することで、薬物の左室機能毒性をin vitroでスループットネス高く評価できる可能性が示された。

  • 臼井 達哉
    セッションID: O-4
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    【背景】肺がんの臨床現場では,分子標的治療法に加えて,免疫治療法などのがん細胞周囲をとりまく細胞(がん微小環境)をターゲットとした新規治療法の開発が求められている。そこで我々は,肺組織におけるがん微小環境をin vitroで再現でき,細胞間相互作用を検討する新たなシステムとして,三次元細胞培養法(オルガノイド培養法)に着目し,マウス三次元肺がんモデルの培養法確立に成功した。

    【目的】本研究では,我々が樹立したマウス肺がんオルガノイドを用いて,血管内皮細胞との共培養モデルを確立し,がん細胞・血管内皮細胞連関をターゲットとする進行期肺がん治療薬開発につなげることを目的とする。

    【方法】肺がん上皮と血管内皮の相互作用をオルガノイド培養において再現するために,マトリゲルに播種したマウス肺がんオルガノイド上に血管内皮細胞HUVECsを播種し,マトリゲルを介した共培養を行った。

    【結果・考察】マウス肺がんオルガノイドとHUVECsを4日間共培養後に,オルガノイドに誘引され接着するHUVECsが観察され,上皮細胞マーカーE-cadherin, 血管内皮細胞マーカーCD31の二重染色によってもオルガノイド内に,CD31陽性の細胞が認められた。そこで,マウス肺がんオルガノイドの培養上清のELISAを行い,増殖因子分泌を検討したところ,オルガノイド培養によってVEGFの分泌が亢進し,血管内皮細胞との共培養によって減少した。さらに,肺がんオルガノイドの培養上清はERKシグナルの活性化を介してHUVECsの遊走を促進した。以上の結果から,マウス肺がんオルガノイドと血管内皮細胞の共培養システムががん細胞・血管内皮細胞の相互作用を検討する研究ツールとして,進行性肺がんの新規治療薬開発に貢献することができる可能性が示唆された。

  • 戸坂 泰弘, 榎 竜嗣, Annika ASPLUND, Benjamin ULFENBORG, Jane SYNNERGREN, Barb ...
    セッションID: O-5
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    現在、医薬品開発における肝毒性評価にはヒト初代肝細胞が用いられているが、ロット間のばらつきや培養中の機能低下等が問題であると考えられている。ヒト初代肝細胞の代替として肝株化細胞も使用されているが、個人差を反映していないため、肝毒性のリスクを正確に予測することは困難である。これらの問題点を解決する手段として、ヒトiPS細胞由来肝細胞の応用が期待されている。

    我々はヒトiPS細胞からの高効率な肝細胞誘導法を開発し、20株以上のiPS細胞から高純度の肝細胞を分化誘導できることを確認した。しかし、他のヒトiPS細胞由来肝細胞と同様に、成熟化が不十分であり、機能性が低いことが課題であった。今回我々は新たに肝細胞維持培地を開発し、分化誘導時あるいは誘導後の維持培養に用いることで、これらの問題を解決できるかどうか検証を行った。

    ヒトiPS細胞由来肝細胞を新培地を用いて分化誘導したところ、アルブミンおよび尿素が持続的に産生されることが確認できた。遺伝子発現解析では、アルブミンの他、薬物代謝酵素および糖や脂質代謝に関連する遺伝子の発現も初代肝細胞と同等であることが確認できた。さらに、誘導した肝細胞ではインスリン濃度依存的なAKTのリン酸化が確認されたことから、インスリンシグナルが細胞内で活性化されていることが示唆された。

    次に新培地を初代肝細胞の培養に応用できるかについても検証を行ったところ、従来の培地では細胞解凍後に短期間で生存率や機能性が著しく低下したが、新培地では4週間もの長期間維持培養が可能であり、培養後も高い機能性を維持できていることが確認できた。

    以上の結果から、我々が新たに開発した肝細胞維持培地により、ヒトiPS細胞由来肝細胞の機能性が改善されただけでなく、初代肝細胞の長期維持培養にも有効であることが示唆された。今後の創薬研究や薬物代謝研究において有用な培地であると考えている。

  • 白吉 安昭, 増田 啓一郎, 米水 彩香, 野津 智美, 久留 一郎
    セッションID: O-6
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    【背景と目的】ヒトiPS細胞由来心筋は、創薬安全性試験への応用が期待されている。しかし、通常の分化誘導法によっては、洞房結節型、心室筋型など様々なサブタイプ心筋から構成された細胞集団が誘導される。このため、分化誘導心筋をそのまま用いた場合には、誘導毎に構成する細胞種とその比率が異なり、再現性などにおいて問題が生ずることが考えられる。本研究では、洞房結節ペースメーカ細胞のマーカーであるHCN4イオンチャネルを指標として、HCN4陽性の心筋細胞を選別採取し、それらの電気生理学的特性および抗不整脈薬に対する応答性を検討したので報告する。

    【方法】ヒトiPS 細胞(409B2株)に、HCN4遺伝子の一部をEGFPで置き換えたBAC ベクターを導入し細胞株を樹立した。心筋へ分化誘導した後、EGFP陽性細胞を分取し、パッチクランプ法で電気生理学的特性を解析した。

    【結果】HCN4の発現を指標として選別しているため、90%以上の細胞が洞結節型の自動能を示した。その他、洞結節ペースメーカ細胞で検出されるNa+電流(INa)、L型Ca2+電流(ICaL)、遅延整流K+電流(IKr/IKs)、CsCl感受性If電流と、弱い内向き整流K+電流(IK1)が観察された。Pirmenol、E-4031、chromanol293B等の抗不整脈薬に対して、生理的濃度で応答することが明らかとなった。現在、電気生理学的特性および抗不整脈薬に対する応答性について、市販されているiCell TM 心筋細胞との比較検討を進めており、それらの結果についても報告する。

    【結語】ヒトiPS細胞に由来するHCN4陽性細胞は、洞房結節ペースメーカ細胞型の電気生理学的特性を示し、抗不整脈薬に対する応答性を示すことが分かった。

  • 北 加代子, 山本 早織, 関口 匠, 飯田 満智子, 重留 夏海, 本間 太郎, 鈴木 俊英
    セッションID: O-7
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    【目的】これまで我々は、ヒ素のメチル化代謝物の一つとして同定されたチオ-ジメチルアルシン酸(Thio-DMA)が紡錘体チェックポイントを活性化し、最終的に分裂期細胞死を誘導することを報告してきたが、紡錘体チェックポイントが活性化した細胞にGSHを加えると、その活性化が顕著に抑制されるという現象を新たに見出した。そこで本研究では、Thio-DMAによって分裂期に蓄積していた細胞がGSHの添加によってどのように変化していくのか検討した。【方法】タイムラプス撮影を行い、Thio-DMAによって分裂期に蓄積したHeLa細胞のGSH添加後の様子を経時的に観察した。また免疫染色法を用いて、分裂期に蓄積した細胞の紡錘体の様子を観察し、GSH添加による影響を評価した。【結果・考察】5 μM thio-DMA処理によって分裂期に蓄積したHeLa細胞は、2 mM GSHの添加後、約2時間で分裂が再開することが判明した。また分裂のパターンを精査したところ、正常な2極分裂する細胞よりも、3極分裂や4極分裂等の異常な分裂をすることが判明した。β-tubulinに対する抗体を用いた免疫染色によって、分裂期細胞の微小管および微小管形成中心の様子を観察したところ、Thio-DMA単独処理時の分裂期細胞では、微小管のシグナルが減弱し、微小管形成中心からの紡錘体の伸長も抑制されていた。また2つ以上の微小管形成中心を持ち、染色体が不規則に並んだ分裂前中期に相当する細胞が多く観察された。GSHを添加した細胞では、これらの微小管形成中心からシグナルの強い微小管が伸長している様子が観察され、多極紡錘体が形成されていた。以上のことから、GSHはThio-DMAによって抑制されていた分裂期微小管の形成を促進することで、紡錘体チェックポイントを解除し、分裂を再開させている可能性が示唆された。また、分裂再開によって3極分裂等の異常分裂が見られたことから、染色体の分配にも影響する可能性が考えられた。現在、分裂再開後の染色体数の変化について解析を行っている。

  • 森川 浩太, 張 驍, 森 有利絵, 宗 才, 市原 佐保子, 及川 伸二, 市原 学
    セッションID: O-8
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    【背景】1,2-ジクロロプロパン(DCP)はオフセット印刷工場にてインク除去剤として使われ、職業性胆管がんの原因物質と考えられている。以前、我々が行った研究はマウスへのDCP曝露がP450依存的に胆管細胞の増殖とアポトーシスを引き起こすことを示した。【目的】本研究の目的は、P450阻害剤(1-ABT)投与による肝臓内タンパク発現量の変化からDCPの代謝産物が肝臓に与える影響を調べ、胆管がん誘導作用の機序に関する新しい仮説を生み出すことである。【方法】C57BL/6JJcl雄マウス(10週齢)をABTの投与群、非投与群に分け、投与群には0, 50, 250, 1250ppm、非投与群には0, 50, 250ppmのDCPを8h/dで4週間、吸入曝露した。肝臓摘出後、タンパク抽出を行い、Cy dyeによる蛍光標識を施し、2次元電気泳動(2D-DIGE)を行った。その後、MALDI-TOF-TOF/MSを用いて各タンパク発現量の変化を調べた。【結果】2D-DIGEではABT非投与群において発現量に顕著な変化が見られたスポットを61個確認した。それらのスポットの中で、36 個をMALDI-TOF-TOF/MSで同定し、DCP曝露レベルを独立変数とした線形回帰分析により、17個のタンパクで容量依存的な発現量の変化を確認した。また、ABT投与群では17個のタンパクの内、13個のタンパクで発現量の変化が有意に抑制された。発現量が著しく変化したタンパクには、代謝プロセスや細胞内プロセスに関与しているものが多かった。【考察】DCP曝露によって細胞増殖の抑制に関与しているタンパクの発現量が低下していたことから、細胞内プロセスに変異が生じたと示唆された。また、脂質代謝に関与しているタンパクの発現量変化が大きかったことから、DCP曝露は肝細胞の代謝プロセスに変異が生じると示唆された。そして、P450阻害剤投与によりタンパク発現量の変化が抑制されたことから、発現量の変化はP450によるDCPの代謝産物が原因であると考えられる。

  • 杉山 光, 岡山 祐弥, 鷹橋 浩幸, 池上 雅博, 武藤 朋子, 和久井 信
    セッションID: O-9
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    フタル酸エステル類であるDi(n-butyl)phthalate (DBP)は、硬いプラスチック製品に柔軟性を与える可塑剤として現在広く用いられ、接着剤や印刷インクの添加剤などとしても使用されている。さらに、おしゃぶりや歯固めといった玩具、また、輸液バッグ、輸液用チューブ、カテーテルなどの医療用具にも使用されている。また、2016年の米国内分泌学協会では、医療用チューブなどに使用されるフタル酸エステル類が、小児の注意欠如多動性障害と関連することが報告されている。しかし、DBPの発がん性に関しては、国際がん研究機関によるヒトへの発がん性に関する分類において、明確な分類がなされていない。そこで、本研究では、DBPの発がんへの影響について、実験1としてイニシエーターN-butyl-N-(4-hydroxybutyl)nitrosamine (BBN)の曝露後にDBPを与えることで、膀胱発がんプロモーター作用の有無の検討を行った。さらに、実験2として胎生期にDBPを曝露した後、実験1と同様の検討を行い、DBPの膀胱発がんの検討を行った。実験1のDBPを曝露したすべての個体群において、基底膜10cmあたりのPN過形成の発生数は、イニシエーターとしてBBNのみを与えられた群と比較してより高用量群において低い値を示した。しかし、実験2においてDBPを胎生期に曝露した個体群においては、基底膜10cmあたりのPN過形成の発生数がBBNのみ投与された個体群と比較してより高用量群で有意に高い値を示した。本研究から、DBPの曝露によるBBNによって誘発されたラットの膀胱発がんについては、時期特異的な作用を有することが考えられ、さらに、その影響には時期に係らず用量依存性が存在した。

  • 杉谷 篤志, 大黒 亜美, 今岡 進
    セッションID: O-10
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    NF-E2 related factor 2(Nrf2)は抗酸化因子や薬物代謝酵素の転写誘導をすることで酸化ストレス耐性やデトックス作用を促進する。近年、一部のがん細胞においてNrf2が恒常的に活性化しており、これががん細胞の酸化ストレスや抗がん剤に対する耐性を増強させることが報告されている。また、環境化学物質であるビスフェノールA(BPA)がNrf2発現量を増加させ、その下流因子であるHO-1NQO1及びMDR1 mRNAの転写誘導を促進することを明らかにしている。本研究では、そのメカニズムについて検討した。Nrf2の抑制因子であるKeap1は、そのシステインのチオール基がラジカルによって修飾されることで活性が低下する。そこで、Hep3B細胞においてBPAが細胞内の一酸化窒素(NO)の量に与える影響を検討したところ、BPAはNO量を増加させた。そのため、BPAによりKeap1がニトロシル化されているかについて検討した。その結果、BPAによりニトロシル化されたKeap1が増加した。また、カルシウムイオノファは細胞内NO量及びNrf2発現量を増加させ、BPAは実際に細胞質Ca²⁺量を増加させることが示された。これらの結果より、BPAはCa²⁺濃度の上昇によるNOSの活性化を介してNO量を増加させ、Keap1のニトロシル化を促進したと考えられる。また、BPAによるNrf2発現量の増加はHep3B細胞で発現が確認できたTRPV1の阻害剤により抑制されなかったことから、TRPV1はこれに関与していないことが示唆された。また、Ca²⁺不含培地を用いた場合においても、BPAによるNrf2発現量、細胞内NO量及び細胞質Ca²⁺量の増加が見られた。このことから、BPAによる細胞質Ca²⁺量の増加は細胞外から細胞内への流入によるものではないことが示唆された。

  • 中村 美里, 大黒 亜美, 今岡 進
    セッションID: O-11
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    NF-E2 related factor 2 (Nrf2)は、抗酸化因子や第I-III相薬物代謝酵素を誘導することで酸化ストレスの抑制やデトックス作用を示す転写因子である。Nrf2の増加は虚血・再灌流やアセトアミノフェンのような薬物により誘導される酸化ストレスや細胞障害を抑制することが明らかにされている。一方で、Nrf2はがんの悪性化に関わることも報告されている。Nrf2は主にKeap1を介したプロテアソーム分解によりその発現が制御されているが、近年ではオートファジー関連因子p62による制御が報告され、また我々はE3ユビキチンリガーゼSiah2によるNrf2分解を見出している。本研究ではこれらの因子によるNrf2発現制御の検討を行った。HEK293T細胞においてp62過剰発現は、Nrf2発現量及びHO-1,NQO1 mRNA量を増加させたが、Keap1発現量に影響を与えなかった。さらに、p62過剰発現により内在性Keap1とNrf2の相互作用が減少したことから、Keap1との結合においてp62とNrf2が競合すると考えられる。また生理的条件下でのNrf2及びその制御因子の発現を検討した。低酸素下においてNrf2発現は顕著に減少しており、この減少には低酸素で誘導されるSiah2の関与が示された。一方でp62発現量は低酸素により減少することが示された。p62はNrf2の下流因子であると報告されていることから、Keap1阻害剤tBHQの添加によりNrf2発現量を増加させたところ、p62発現量に変化は見られなかった。また低酸素によるp62の減少はリソソーム分解を阻害する塩化アンモニウムでは抑制されず、プロテアソーム分解阻害剤MG132により抑制された。これらの結果より、低酸素によるp62の減少はNrf2減少に伴う変化ではなく、プロテアソームによる分解を介していることが示唆された。

  • 野口 拓也, 土田 芽衣, 平田 祐介, 松沢 厚
    セッションID: O-12
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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     STK11/LKB1は、腸管過誤腫ポリープを特徴とするポイツ・ジェガーズ症候群の原因遺伝子として知られるセリン/スレオニンキナーゼである。また、様々な孤発性腫瘍においても、その変異が認められることから、STK11は癌抑制遺伝子であると考えられている。STK11のホモ欠損マウスは、神経管形成阻害などの発生異常により胎生致死となる。一方、STK11のヘテロマウスは、正常に発育・成熟するものの、STK11の発現量が低下しており、週齢を重ねて老化と共に癌形成が著明に亢進すること、また実際に、ヒト癌組織でもSTK11発現量の低下が認められ、STK11の発現量低下は細胞の癌化を促進させることが示唆されている。しかし、STK11の発現量調節機構や安定性制御機構はほとんど解析されていない。

     そこで我々は、タンパク質の安定性を調節するユビキチン化修飾に着目し、ヒトに発現する全てのユビキチンリガーゼ(約600種)を対象に、分子間相互作用を利用したAlphaスクリーニングを行い、STK11に結合するユビキチンリガーゼを探索した。また、STK11との結合強度が高かった25種類のユビキチンリガーゼについて免疫沈降法を用いた結合解析を行い、STK11と細胞内で結合する8種類のユビキチンリガーゼを同定した。さらに、これら8種類のユビキチンリガーゼについて詳細な解析を行ったところ、ユビキチン化修飾を介してSTK11の発現量を調節する2種類の異なるユビキチンリガーゼを同定した。本大会では、Alphaスクリーニングで得られた結果を基に、DNA損傷やメタボリックストレスなど、癌の発症や進展と密接に関わるストレスが負荷された際の、新たなSTK11の発現量調節機構とその生理的・病理的役割について報告したい。

  • 李 辰竜, 徳本 真紀, 佐藤 雅彦
    セッションID: O-13
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    カドミウム(Cd)は、工業用原料として幅広く利用されている重金属であるものの、環境毒性物質としてヒトの健康を脅かす有害な重金属でもある。Cdの生物学的半減期は非常に長く(10〜30年)、その慢性曝露によって重篤な腎毒性が引き起こされる。特に、Cdの腎毒性には様々な遺伝子の発現破綻による腎近位尿細管細胞障害が深く関与している。しかしながら、遺伝子発現を調節しているCdの標的転写因子はほとんど明らかにされていない。そこで今回、ヒト由来の腎近位尿細管上皮細胞(HK-2細胞)を用いて、Cd毒性発現に関与する新たな転写因子を網羅的スクリーニング法(Protein-DNAアレイ)で検討した。その結果、Cdによって転写活性が低下する転写因子としてMEF2Aが見いだされ、細胞内でのMEF2Aレベルの低下はHK-2細胞に有意な細胞毒性を引き起こした。次に、Cd毒性発現に関与しているMEF2Aの下流遺伝子を検索したところ、MEF2AノックダウンによってCDKN2Aの遺伝子発現が減少し、CDKN2AのノックダウンはHK-2細胞の生存率を有意に低下させた。また、MEF2AはGLUT4の発現に深く関与していることが報告され、HK-2細胞においても、MEF2AノックダウンがGLUT4の遺伝子発現を有意に減少させた。しかも、GLUT4のノックダウンはHK-2細胞の生存率を顕著に低下させた。Cdは、CDKN2AおよびGLUT4の遺伝子発現並びにタンパク質レベルも減少させた。以上の結果より、CdによるMEF2Aの転写活性抑制は、細胞内でのCDKN2AおよびGLUT4レベルの低下を介して細胞毒性を引き起こすことが示唆された。

  • 吉田 映子, 佐々木 優, 篠田 陽, 巽 啓, 藤原 泰之, 鍜冶 利幸
    セッションID: O-14
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    【背景】水俣病の原因物質であるメチル水銀は,様々な神経障害を引き起こすことが知られているが,水俣病患者の末梢神経における病理組織学的に重要な点として,運動神経には認められない著明な軸索変性が感覚神経のみで認められることである。しかしながら,メチル水銀による感覚神経(後根神経)優位な傷害については未だ不明な点が多い。本研究の目的は,末梢神経を構成するcell typeごとにメチル水銀に対する感受性を検討し,メチル水銀により感覚神経細胞優位な傷害が生じるメカニズムを明らかにすることである。

    【方法】脊髄後根神経節細胞(後根)および前角神経細胞(前角)は3週齢雄性Wistarラットの脊髄より分離し,各神経細胞のマーカータンパク質の発現を確認し,実験に用いた。ラットシュワン細胞はScienCell社より購入した。細胞傷害性は形態学的観察およびMTT法,水銀蓄積量はICP質量分析,タンパク質発現はWestern blot法,遺伝子発現はReal-time RT-PCR法にて評価した。

    【結果・考察】後根,前角およびシュワン細胞にメチル水銀を曝露すると,前角およびシュワン細胞への傷害は認められず,後根においてのみ濃度依存的な細胞傷害が惹起された。各神経細胞における水銀蓄積量を測定したところ,前角やシュワン細胞と比べ,後根への顕著な水銀蓄積量の増大が観察された。一方,メチル水銀中毒症状を示すラットの後根についてマイクロアレイ解析を行ったところ,アポトーシス経路のなかでもTNFシグナルに関連するTNF受容体,Caspase-3およびCaspase-8の遺伝子発現が顕著に上昇した。In vivoの結果と相関して,in vitroにおいてもTNF受容体の発現上昇やCaspase-3およびCaspase-8の活性化が後根神経特異的に認められた。以上,メチル水銀による後根神経優位な傷害は, TNF受容体の発現上昇に伴うアポトーシスシグナルの活性化が関与することが示唆された。

  • 芦野 隆, 河野 隆志, Varadarajan SUDHAHAR, Dipankar ASH, 深井 真寿子, 深井 透
    セッションID: O-15
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    必須微量金属である銅は、様々な酵素の活性中心を担い、生体機能を制御している。我々は以前、銅トランスポーターATP7Aが、銅依存的に血小板由来増殖因子(PDGF)の刺激による血管平滑筋細胞(VSMC)の遊走を制御することを明らかにし、動脈硬化進展における銅の関与を示した。しかしながら、ATP7Aの細胞内における機能制御メカニズムおよび血管傷害後の内膜肥厚への関与は不明である。本研究は、細胞遊走における細胞骨格再構築に関与するスキャホールドタンパク質IQGAP1に着目し検討をおこなった。その結果、ATP7AはPDGF刺激によりIQGAP1と複合体を形成することが明らかになった。さらにATP7AはPDGF刺激により形成されたリーディングエッジ部位で、IQGAP1と共局在することが示された。そこで、siRNAを用いたIQGAP1ノックダウンによる効果を検討したところ、PDGFによるVSMC遊走が抑制され、ATP7Aのリーディングエッジへの移行も阻害された。細胞遊走は、Rhoファミリー低分子量Gタンパク質Rac1によるアクチン繊維形態の制御が重要であり、以前ATP7AとRac1が相互作用することを示した。そこで次にIQGAP1によるRac1の制御について検討したところ、ATP7A同様にPDGF刺激によりIQGAP1-Rac1複合体の形成とリーディングエッジにおける共局在が見られ、IQGAP1 siRNAによりこれらが阻害された。これらin vitroによる検討により、ATP7AはIQGAP1と共役することで機能することが明らかになった。マウス大腿動脈ワイヤー傷害モデルを用いたin vivo解析では、傷害血管の新生内膜部位においてATP7AとIQGAP1の共局在およびATP7A変異型マウスにおける新生内膜肥厚の抑制が認められた。以上の結果から、ATP7A は、IQGAP1によるリクルートメントを介してVSMCの遊走を制御し、血管内膜肥厚に関与していることが明らかとなり、ATP7A-IQGAP1経路は動脈硬化治療の標的となる可能性が示唆された。

  • 武田 志乃, 吉田 峻規, 沼子 千弥, 上原 章寛, 佐藤 修彰, 寺田 靖子, 小久保 年章, 石原 弘
    セッションID: O-16
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    【はじめに】

     福島原発廃炉作業が本格化し、炉内にて発生した燃料デブリや汚染水、廃棄物等の処理における有事に備え、関連核種の生体影響に関する科学的知見の整備が求められている。中でもウランは腎毒性物質であり、幼齢期での腎毒性重症化が報告されているが、小児期影響のリスク評価の基礎となるデータは乏しい。本研究では、幼齢期におけるウラン代謝・体内動態特性を明らかにするため、幼齢ラットにおける尿中ウラン排泄ならびに腎臓のウラン残存や化学形態変化を調べ成熟個体と比較した。

    【実験】

     Wistar系雄性ラット(3または10週齢)に酢酸ウラニルを0.5 mg/kgの割合で背部皮下に1回投与した。対照群には生理食塩水のみ投与した。ラットを個別代謝ケージに移し、投与後1~42日に採尿を行った。尿中ウラン濃度はICP-MSにより測定した。また経時観察群も設定し、一方の腎臓から凍結切片を作成し(10 µm厚)、高輝度光科学研究センター放射光施設SPring-8にてマイクロSR-XRFによる分布解析とマイクロXAFS測定による化学状態解析を行った。もう一方の腎臓から組織病理解析を行った。

    【結果・考察】

     投与後1日目の幼齢ラットのウラン尿排泄は投与量の22.4%であり、成熟ラットの1日目の尿排泄量と比較すると6割程度と初期排泄が低かった。投与後2日目から4日目にかけては投与量の4%程度の排泄量で推移し、42日目でも投与量の0.05%の排泄が検出された。一方腎臓のウラン含量は、幼齢ラットでは投与後43日目においても1日目の76%残存し、9.5%まで低下した成熟ラットと比べ腎排泄が遅かった。幼齢個体は成熟個体に比べウランの体内残存が高く、このことが腎臓での遅いウラン排泄の一因であると考えられた。尿細管ウラン局在部には投与した酢酸ウラニルよりも還元型のウランが検出されており、腎臓組織の経時変化と合わせて報告する。

  • 徳本 真紀, 李 辰竜, 佐藤 雅彦
    セッションID: O-17
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    【目的】カドミウム (Cd) は環境中に広く存在する有害重金属であり、急性曝露では肝臓、慢性曝露では腎臓が標的組織である。Cdに対する生体防御因子としてグルタチオン (GSH) およびメタロチオネイン-I/II (MT-I/II) が知られている。GSHおよびMT-I/IIそれぞれのCdに対する防御効果は検討されているが、両者を同時に比較した研究はこれまで行われていない。そこで、Cdの急性毒性に対するGSHとMT-I/IIの寄与度について比較検討した。

    【方法】10週齢の雌性C57BL/6J系野生型マウスおよびMT-I/II欠損マウスに20時間の絶食後L-Buthionine-sulfoximineを皮下投与することによりGSH低下マウスを作製した。野生型マウス、MT-I/II欠損マウスおよびそれぞれのGSH低下マウスに17.5 µmol/kg のCdを皮下投与し、24時間後に解剖した。血清中のGOT活性およびGPT活性を肝毒性、尿素窒素 (BUN) 値とクレアチニン (Cre) 値を腎毒性の指標として測定した。

    【結果および考察】Cdに曝露された野生型マウスのGOT活性およびGPT活性は変動しなかったが、MT-I/II欠損マウスでは高値を示し、肝毒性の出現が認められた。野生型GSH低下マウスのGOT活性およびGPT活性はCdによって劇的に上昇し、劇症肝炎を引き起こしたと考えられた。なお、MT-I/II欠損型GSH低下マウスはCd投与により全数死亡した。BUN値およびCre値もCdに曝露された野生型GSH低下マウスにおいて顕著に上昇し、重篤な急性腎毒性の出現が示唆された。しかしながら、MT-I/II欠損マウスはCdによってほとんど腎毒性を示さなかった。以上の結果から、Cdの急性毒性に対する生体防御因子として、GSHはMT-I/IIよりも重要な因子であることが明らかになった。

  • Marta BACCARO, Anna K. UNDAS, Julie DE VRIENDT, Hans J. VAN DEN BERG, ...
    セッションID: O-18
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    The soil represents an important environmental compartment that can be regarded as a final sink for metal nanoparticles including silver particles (Ag-NPs). Assessing realistic exposure scenarios of Ag-NPs for soil organisms requires taking into account that Ag-NPs undergo physico-chemical transformations. However, differentiating between uptake of true metal NPs and released ions is essential to assess the actual role of these two metal forms in toxicity overtime. The present study quantified toxicokinetic rate constants of particulate and ionic Ag in Eisenia fetida exposed to soil treated with pristine Ag-NP, Ag2S-NP, as an environmentally relevant form, and AgNO3. Results showed that uptake and elimination rate constants of Ag in earthworms exposed to Ag-NP and AgNO3 were not significantly different from each other while uptake of Ag2S-NPs was significantly lower. Around 85 % of the Ag accumulated in the worms after exposure to Ag-NPs and AgNO3 was present in ionic form (or <20 nm). Interestingly, biogenic formation of particulate Ag (~10 % of the total Ag accumulated overtime) occurred in earthworms exposed to AgNO3. SEM-EDX analysis confirmed the presence of particulate Ag in earthworms exposed to both Ag-NP and AgNO3. Additionally, the low accumulation of the sulphidised form of nano-Ag, reflecting aged particles in the environment, indicated the importance of ionic uptake of Ag. This study stresses the need to use environmental relevant forms of metal NPs in performing ecotoxicological tests.

  • 坂本 義光, 北條 幹, 鈴木 俊也, 猪又 明子, 守安 貴子, 広瀬 明彦, 中江 大
    セッションID: O-19
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    (目的)MWCNTは,陰嚢内/腹腔内投与によりラットに中皮腫を誘発するため,長期間ばく露によるアスベスト類似の呼吸器系への影響が懸念されている.本研究では,ヒトへのばく露条件を反映した経気管噴霧単回投与後,終生飼育したラットについて,MWCNTの長期ばく露による中皮および呼吸器系への影響を観察した.(材料・方法)動物は,F344雄性ラット10週齢を用いた.MWCNTは,MWNT-7(平均長6.65μm,径66.8nm), SD1(平均長4.51μm,径177.4nm),SD2(径13.5nm)を2%CMCに懸濁し,0.5mg/kg体重の用量で,各群15匹に経気管噴霧単回投与した.動物は,投与終了後終生飼育し,途中死亡,瀕死屠殺例について,病理組織学的に検索した.(結果・考察)投与後飼育期間中の一般症状及び体重増加推移,死亡・瀕死発現経過には,投与と関連した異常が認められなかった.組織学的に比較的発現頻度が高かった肺胞領域の変化としては,性状が異なる2種類の増殖性病変が認められた.一方の病変は,扁平~多形な細胞が一層または多層に配列し,部分的にシート状及び小集塊状の増生を伴う組織像から,早期の扁平上皮化生と診断した.この病変はMWCNT投与群のみで発生し,発生頻度は用量相関性に発生した.他方の病変は,細気管支・肺胞過形成と診断した.この病変の発生頻度は,対照群と投与群の間に有意な差がなかった.その他には,MWCNT投与の有無に関係なく,肺腺腫・腺癌が低頻度に発生した.中皮腫は,MWNT-7群で腹腔内に1例,SD-1群で胸腔内に1例と腹腔内に2例,それぞれ観察した.また,壁側胸膜には,腫瘍の発生を認めなかった.以上より,MWCNTは,単回経気管投与後終生飼育したラットに,肺の増殖性病変と胸膜または腹膜の中皮腫を誘発することが判明した.

  • 小野田 淳人, 近藤 洋介, 宮崎 智, 武田 健, 梅澤 雅和
    セッションID: O-20
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    【背景・目的】大気環境中に浮遊するPM2.5の超微小画分であるナノ粒子の周産期曝露は、発達神経障害の発症リスクを増加させることが、近年の疫学研究によって明らかになり、そのメカニズム解明が強く求められる。動物モデル(マウス)での先行研究では、ナノ粒子の胎児期曝露に対して、出生児の脳血管周辺に存在するアストロサイトや脳血管周囲マクロファージ (PVM) 等の細胞群が鋭敏に応答し、持続的な影響を受けることを報告している。本研究では、ナノ粒子の胎児期曝露によって生じる脳血管周辺の病態を解明し、その病態が誘導される要因を明らかにすることを目的として行った。

    【方法】大気中ナノ粒子のモデルとして用いられるカーボンブラックナノ粒子 (CB-NP) を妊娠5, 9日目のICRマウスに経気道投与 (95 µg/kg/time) し、6週齢産児の脳を摘出した。脳血管周辺に生じる病態変化を免疫組織化学法と特殊染色法により同定し、その領域における生体分子の変化をin situ 赤外分光法を用いて評価した。

    【結果・考察】CB-NP曝露群の脳血管周辺のうち、アストロサイトの持続的な活性化やPVM消化顆粒の変性が誘導された領域において、タンパク質の変性や構造変化を示唆する赤外吸収スペクトルのシフトが認められた。さらに、アストロサイトの持続的な活性化が認められた脳血管周辺において、変性タンパク質の蓄積に応答して誘導されるATF6とCHOPの発現亢進が確認された。先行研究により、胎児期に投与されたナノ粒子は一部が胎児の脳に移行し、出生後も長期に残留すること、また、生体内に移行したナノ粒子表面でタンパク質の立体構造変化を引き起こすことが報告されている。これらの知見を踏まえると、ナノ粒子の胎児期曝露によって生じる脳血管周辺の病態変化は、微量のナノ粒子によって生体内で異常な構造となったタンパク質の集積に起因している可能性が示唆された。

  • 鈴木 堅太郎, アセベド アルビン, 山田 源
    セッションID: O-21
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    [目的]

     外生殖器は、アンドロゲン依存的に雄特有の形態を形成する。そのためアンドロゲンシグナルの破綻は、様々な外生殖器の先天性形成異常を引き起こす。特に胎仔尿道形成過程は、アンドロゲンの感受性が高く、化学物質の生殖器官に対する毒性を評価する上で有用であると考えられる。  

     本研究は、簡便かつ効率的なアンドロゲン及び抗アンドロゲン作用の新規スクリーニング法を確立するため、マウス外生殖器原器の組織スライスを使った外生殖器原器組織器官培養系の構築を試みた。

    [方法]

     ビブラトームにより胎生15.5日のマウス外生殖器原器の組織スライスを作成し、アンドロゲン存在下で48時間培養後、尿道が形成されているか組織学的解析を行った。また、尿道形成過程の細胞レベルでの解析を可能にするため、雌雄それぞれの組織スライス培養から共焦点顕微鏡によるタイムラプスイメージングdataを取得し、高精細3D/4D画像解析ソフトImarisにより細胞挙動解析(細胞移動速度、細胞移動距離、細胞移動方向)を行った。近年、我々はマウス外生殖器尿道形成過程においてアンドロゲンの直接的な標的遺伝子であるMafb遺伝子を同定した。そこで、培養下での外生殖器組織のアンドロゲン応答性をMafbの発現を指標に検証した。

    [結果・考察]

     我々は、2日間の培養でアンドロゲン依存性の尿道形成過程を再現できるin vitro組織器官培養系の樹立に成功した。ライブイメージング解析から、アンドロゲン依存的に間葉細胞の細胞挙動が変化することがわかった。さらに、アンドロゲン刺激後、数時間以内にMafbの発現が誘導されたことから、当組織器官培養系によりアンドロゲン応答性をモニターできる可能性が示唆された。

     本大会では、マウス外生殖器原器組織器官培養系を用いた新たなアンドロゲン及び抗アンドロゲン作用の新規評価法の可能性について論議したい。

  • 笛田 由紀子, 吉田 祥子, 石田尾 徹, 保利 一, 諫田 泰成, 上野 晋
    セッションID: O-22
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    我々は胎生期の化学物質曝露に起因する生後の遅延性神経毒性を早期に評価できるex vivo試験法の開発と確立を目指している。自閉症モデル動物作製に使用されるバルプロ酸(VPA)とともに、我々が以前遅延性発達毒性を報告した産業化学物質1-ブロモプロパン(1-BP)の胎生期曝露により、生後授乳期の海馬神経回路における入力=シナプス応答性と出力=活動電位の発生が増強されることを報告してきた(第41回、第44回本学会)。今回、この神経細胞回路機能の入出力特性の関係性を示すEPSP-Spike (E-S) coupling が評価指標として有効かどうかを検討した。Wistar系妊娠ラットに対してVPA(150, 300 mg/kg)は妊娠15日目に単回経口投与、1-BPは一定蒸気濃度(400, 700 ppm)で妊娠20日間吸入曝露(6時間/日)を行った。VPA曝露仔ラットの生後13-18日、1-BP曝露仔ラットの生後13-15日で海馬スライスを作製し、海馬CA1領域から記録された神経細胞の入力である集合興奮性シナプス後電位(EPSP)と、出力である集合活動電位(PS)によるE-S couplingについて、ロジスティック回帰曲線による解析を行った。その結果、VPA群、1-BP群ともに、今まで報告してきた開眼前における興奮性変化を、E.Slope50値(PSの最大値の50%値が得られるEPSP値)の低下として表現できることが判明した。しかし、発達期の神経細胞応答性にはロジスティック回帰分析に適さない場合もあることも判明しており、現在そのような応答性が出現する頻度と日齢との関連性について検討中である。本研究により、用途や化学構造が異なる化学物質でも、授乳期の海馬神経回路機能のE-S couplingの解析が発達神経毒性の評価指標として有用であることが示唆された。

  • 坂井 祐子, 青木 嘉信, 藤原 道夫, 藤川 昭彦, 圓見 純一郎, 吉岡 芳親
    セッションID: O-23
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    昨年の本学会では実験小動物用磁気共鳴画像装置(MRmini-SA:DSファーマバイオメディカル株式会社,磁場強度:1.5テスラ,以後1.5T機と称す)を用いて,妊娠20日のSDラット胎児(母体にchlorambucilの4mg/kgを妊娠10日に単回腹腔内投与)の全身を撮像(撮影条件:Spin echo T1 weighted 3D (TR/TE=60/12ms,FOV=15.2mm,Matrix=256x128,slice=128,NEX=16))して得られた画像を報告した。今回,国内では最大磁場強度クラスである磁気共鳴イメージング装置(AVANCE II 500WB:Bruker BioSpin株式会社,磁場強度:11.7テスラ,以後11.7T機と称す)を用いて同腹の別胎児を撮像(撮影条件:3D-FLASH (TR/TE=40/6ms,FOV=30mm,Matrix=512x512,slice=280,NEX=8)した。11.7T機画像では1.5T機画像で判別し得なかった下垂体,甲状腺,内耳構造,胸部主要動静脈だけでなく,心臓内部の検査も可能と考えられた。認められた異常所見について両機の画像及び顕微解剖法を比較し,MRIによるラット胎児の内臓検査能力と課題について考察し報告したい。

  • 森 千里, 江口 哲史, 西沢 紫乃, 田邉 裕美, 渡邉 応宏, 戸高 恵美子, 櫻井 健一
    セッションID: O-24
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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     目的・背景:内分泌攪乱物質作用を持つPolychlorinated biphenyls (PCBs)の胎児曝露は次世代の脳神経発達に悪影響を及ぼすことが多くの論文で報告されている。PCBs曝露による影響メカニズムの一つとしてとしては、胎児期発達過程でのepigenetic 変化が挙げられているが、胎児期におけるPCBs曝露と胎児のDNAメチル化の状態に関する研究報告は少ない。本発表では、850K methylation arrayを用いて臍帯血PCBs濃度量と臍帯におけるDNAメチル化状態の関連について検討したので、その結果を報告する。

     方法:対象は、出生コホートである千葉こども調査(The Chiba study of Mother and Child Health;C-MACH) においてリクルートした 433名の母親のうち、調査継続を棄権された方を除いた408 名を対象とした。 本研究では、上記408名のうち、92名において臍帯血清中のPCBs量と臍帯におけるDNA メチル化状態の関係について検討した。臍帯血清PCBs量はガスクロマトグラフ-陰イオン化学イオン化法質量分析 (GC-NICI-qMS)によって測定した。臍帯におけるDNAメチル化状態の評価には、Infinium MethylationEpic BeadChipを用いた。各々のCpGにおけるメチル化レベルは、 GenomeStudio により計算されたβ値を用いた。

     結果・考察:全ての臍帯血清からPCBsが検出され、PCBs濃度に男女差は無かった。PCBs濃度と臍帯DNA メチル化が相関するCpGは、女児では5ヵ所、男児では1ヵ所検出された。女児の1ヵ所を除き、臍帯DNA メチル化状態は臍帯血清PCBs濃度と負の相関が見られた。今回の結果からPCBs曝露のバイオマーカーとして臍帯のDNAメチル化状態を利用できる可能性が示唆された。今後の研究として、発達・成長過程における肥満やアレルギー症状等とPCBs曝露状況や臍帯DNAメチル化の関連性を解析する必要性が示された。

  • 田邊 思帆里, 広瀬 明彦, 山田 隆志
    セッションID: O-25
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    化学物質等による有害性評価に関して、経済協力開発機構 (Organisation for Economic Co-operation and Development; OECD) ではAdverse Outcome Pathway (AOP) の概念に基づいた統合的評価手法が検討されており、事例集積による知識ベース構築による行政判断支援を目的としたAOP開発プログラムが進行している。AOPの構成は、イベント開始点であるmolecular initiating event (MIE) 及びその後に惹起されるkey event (KE)、並びに毒性等の有害作用を示すAdverse Outcome (AO) から成り立っている。知見に基づき、分子レベル、細胞レベル、組織レベル、臓器レベル、個体レベル、種レベルのそれぞれの階層において重要な事象をKEとして抽出し、KEの測定法、KE間の関連性(KE relationship、KER:機序、確からしさ、種差の有無を含む)やその妥当性に関する情報を収載する。提案されたAOPはOECDのthe Extended Advisory Group on Molecular Screening and Toxicogenomics (EAGMST) のメンバーによる内部レビュー及び外部の専門家によるレビューを受け、OECDで承認される。今回の発表では、OECDのAOP開発プログラムの概要と、我々が作成しOECDに提案中のヒストン脱アセチル化酵素 (histone deacetylase; HDAC) 阻害による精巣毒性発現機構のAOPを例にその構築の実際を紹介する。

  • 小野 竜一, 田埜 慶子, 安田 智, 安彦 行人, 相㟢 健一, 北嶋 聡, 菅野 純, 佐藤 陽治, 平林 容子
    セッションID: O-26
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    ゲノム編集技術の一つである CRISPR/Cas9 システムはゲノム上の任意の場所においてDNA二重鎖切断 (double strand breaks (DSBs)) を起こすことが可能である。DSBs は、non-homologous end joining (NHEJ) または homologous recombination (HR) により修復される。我々はマウス受精卵やNIH-3T3細胞において CRISPR/Cas9 システムを利用し、 DSBs を誘導すると、その一部では、非意図配列の挿入を伴い DSBs が修復されることを報告している。挿入された非意図配列はレトロトランスポゾンやスプライスを受けたmRNAが含まれ、非意図配列の挿入にはmRNAの逆転写が関与していることが示唆される。また、多くの CRISPR/Cas9 システムに使用したベクター配列の挿入も確認している。(Ono et al. Scientific Reports, 2015)

    今回、我々はゲノム編集を利用したヒト遺伝子治療を考慮し、ヒト iPS 細胞におけるゲノム編集において非意図配列挿入のリスクがマウスと同様にあるのかを検討した。CRISPR/Cas9 システムを利用し、8遺伝子(計10箇所)にゲノム編集を行い、2000 株のiPS細胞株を単離し、非意図配列挿入の有無を解析した。およそ 3.5 % のiPS細胞株に非意図配列の挿入が起こっていることを明らかにし、その中には、ヒトのレトロトランスポゾンの一つであるshort interspersed nuclear elements (SINE) や CRISPR-Cas9 に使用したベクター配列が含まれた。本研究により、ヒトゲノム遺伝子治療において非意図配列の挿入が新たなリスクとなる可能性を明らかにした。

  • 上野 光一, 佐藤 洋美
    セッションID: O-27
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    【目的・方法】

     昨年の本学術年会において我々は、第1回レセプト情報・特定健診等情報データベース(以下NDB)を用いた処方薬の年齢別・性別の処方実態を解析し報告した。しかしながら、第1回NDBでは各薬効群上位30位までの医薬品集計結果であり、全体に占める医薬品数が少ないのではないかという指摘があった。そうした折、厚生労働省は2017年9月に各薬効群上位100位までの処方薬を網羅した第2回NDB薬剤データを公開した。そこで、外来院外処方の内服薬について、年齢別・性別の処方動向調査を再度行った。年齢別解析では原則として5歳刻みでまとめ、性別解析では他性に対し2倍以上使用された薬剤を抽出した。

    【結果】

     解析した内服薬剤数は、4,995剤、総計1,201億8千万剤であった。年齢別・性別解析の結果、以下のことが分かった。

    1.‌65歳以上の高齢者に対する処方薬剤数が全体の6割を占めた。小児期までは男性の処方薬が多く、思春期から54歳頃までは女性の処方薬が多かった。その後、定年を迎える人の多くなる55歳から69歳では男性への処方薬が多く、70歳以上では寿命の長い女性への処方薬が多かった。

    2.‌処方薬剤数の総数は、女性が約646億9千万剤、男性は約510億7千万剤であり、女性に約1.27倍多く処方されていた。

    3.‌内服外来院外処方医薬品4,995剤のうち、女性に男性の2倍以上処方された薬剤数は868剤であった。他方、男性に対し女性の2倍以上処方された薬剤数は373剤であった。

    【考察】

     第2回NDBで各薬効群上位100位まで公表された結果、実臨床により近い処方薬提供動向が全国規模で把握できた。今回の解析の結果、処方薬提供実態には年齢差・男女差があり、医薬品適正使用のためには、年齢差・性差に関する詳細な医薬品情報の提供が必要であると思われた。

  • なし
    セッションID: O-28
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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  • Catharina W. VAN DONGEN, Meike VAN DER ZANDE, Clara BELZER, Ivonne M.C ...
    セッションID: O-29
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    The intestinal microbiome is known to play an important role in host health. Also in toxicology, the microbiome is gaining increasing attention both because of its role in xenobiotic metabolism affecting the toxicity of foodborne compounds, and as a target organ for chemical toxicity. Since in vitro toxicity testing strategies to assess these chemical microbial interactions are limited, we aim to develop an in vitro testing strategy to study the interactions of the intestinal microbiome with xenobiotics. To this end we characterize the in vitro anaerobic incubations with rat or human faecal samples to provide insight in the metabolic potential of the gut microbiome to modify xenobiotics. For these studies we use the mycotoxin Fumonisin B1 and the Amadori product fructoselysine as relevant model compounds. Subsequently we characterise the consequences for bioavailability, toxicity and host health of the parent compounds and the resulting metabolites using relevant in vitro mammalian cell models. In addition we use metabolomics to characterise the effect of our model compounds on the microbiome to obtain an insight in possible toxic effects on the microbiome as well as on the host metabolite profile. Together, this novel interdisciplinary approach will contribute to define a test battery that enables quantification of chemical microbiome interactions and their consequences for host health using in vitro testing strategies.

  • Etty RIANI, Eva HARLINA, Chairun NISA, Hera MAHESWARI, Nur Hana SAFITR ...
    セッションID: O-30
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    Aged women will no longer produce estrogen hormone and most often commit in menopausal hormone therapy by using synthetic steroid hormone. However, this therapy potentially causes negative impacts. Steroids contained in sea cucumber powder have been proved to replace the synthetic steroids, which also contain various hepatoprotector materials. This study aimed to determine the effect of sea cucumber treatment on liver of ovariectomized rat (Rattus norvegicus). Thirty of 12 weeks aged of female Sprague dawley rats were ovariectomized (except normal control group, N), divided into six groups and treatments, i.e. normal control (N), negative control (KN, treated by canola oil), positive control (KP, treated by canola oil + ethinyl estradiol 30μg/100 g BW) and sea cucumber group (D1, D2 and D3, treated by canola oil + sea cucumber powder that contain 30μg/100 g BW, 40μg/100 g BW, and 50μg/100 g BW steroid each). The treatment of sea cucumber and ethinyl estradiol was by force-fed every day for 20 days. The results showed that all of the rat livers have hydrophic degeneration. The dose treatment of 40 and 50μg/100 g BW sea cucumbers showed the protecting hepatocyte from fatty changes and also decreasing the hepatocyte of apoptosis, with best dose of 50μg/100 g BW. Both of sea cucumber doses could improve hepatocyte morphopathology thus potentially become a hepatoprotector for aged women.

    Keywords: liver, morphopathology, sea cucumber, rats.

  • Mihoko KOYANAGI, Cheryl HOBBS, Carol SWARTZ, Jeffrey DAVIS, Leslie REC ...
    セッションID: O-31
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    Quercetin and its glycosides possess potential benefits to human health. However, incorporation of natural quercetin glycosides into food and beverage products has been limited by poor miscibility in water. Enzymatic conjugation of multiple glucose moieties to isoquercitrin to produce alpha-glycosyl isoquercitrin (AGIQ) enhances solubility and bioavailability. AGIQ is used in Japan as a food additive and has been granted generally recognized as safe (GRAS) status by US-FDA. However, although substantial genotoxicity data exist for quercetin, there is very little available data for AGIQ and isoquercitrin. To support expanded global marketing of food products containing AGIQ, comprehensive testing of genotoxic potential of AGIQ and isoquercitrin was conducted according to current regulatory test guidelines. Both chemicals tested positive in bacterial reverse mutation assays, and exposure to isoquercitrin resulted in chromosomal aberrations in CHO-WBL cells. All other in vitro mammalian micronucleus and chromosomal aberration assays, micronucleus and comet assays in male and female B6C3F1 mice and Sprague Dawley rats, and Muta™ mouse mutation assays evaluating multiple potential target tissues were negative for both chemicals. These results supplement existing toxicity data to further support the safe use of AGIQ in food and beverage products.

  • 宮田 昌明, 舩木 萌浩, 住屋 由紀乃, 福原 千晶, 杉浦 義正
    セッションID: O-32
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    【目的】タウリンは生体内に最も豊富に存在する遊離アミノ酸で、一部体内で合成されるがタコ、イカ、カキなどの魚介類に多く含まれ、多くは食事あるいは栄養ドリンクやサプリメントにより摂取される。タウリンは胆汁酸を抱合するアミノ酸で、肝機能改善薬としても用いられ、胆汁酸分泌促進やコレステロールの低下作用等が知られているがその作用機序は不明な点が多い。本研究ではタウリンが肝機能改善作用の一環として胆汁酸受容体のfarnesoid X receptor (FXR)シグナルを調節することで、胆汁酸代謝を変化させる可能性を考え、Fxr欠損マウスとその野生型マウスを用いタウリン摂取によるFXRシグナルと胆汁酸代謝動態の変動について解析した。

    【方法】8~10週齢の雄性Fxr欠損マウスとその野生型マウスに10日間にわたり2%タウリン含有水を自由摂取させた後、肝臓、小腸および小腸管腔内容物、糞を採取した。胆汁酸の組成は3α-hydroxysteroid dehydrogenaseカラムを用いたHPLCで測定した。肝臓、小腸のmRNAレベルは、定量PCRで測定した。

    【結果と考察】タウリン摂取により野生型マウスの肝臓でCYP7A1mRNAレベルの増加が認められたが、Fxr欠損マウスでは認められなかった。そこでFXR標的遺伝子でCYP7A1遺伝子発現の抑制因子のSHP、FGF15のmRNA レベルを解析した。肝臓のSHPmRNAレベルは両マウスでタウリン摂取により変動しなかった。一方タウリン摂取により野生型マウスで回腸のFGF15とSHPmRNAレベルの有意な低下が認められた。タウリン摂取の野生型マウスの肝内と消化管管腔内の胆汁酸レベルに量的、質的な差異は認められなかったが、回腸上皮細胞と門脈血中の胆汁酸レベルの低下が認められた。これらの結果よりタウリンは消化管内の胆汁酸レベルを低下させ、消化管FXRシグナルを減弱させるとともにFGF15を介して肝臓のCYP7A1発現を上昇させ胆汁酸合成の亢進に関与する可能性が示された。

  • 西田 恭子, 武田 知起, 田中 嘉孝, 石井 祐次
    セッションID: O-33
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    【目的】2,3,7,8-Tetrachlorodibenzo-p-dioxin(TCDD)等のダイオキシンの母体曝露は出生児に交尾行動障害を誘起する。我々は、周産期の一過性のゴナドトロピン抑制を介する性ホルモン合成障害が出生後の低ゴナドトロピン放出ホルモン (GnRH) 体質を固着させ、これが上記障害の原因であることを実証した。一方で、正常な性行動の獲得には周産期の性ホルモンによる脳の性分化が必須だが、上記の機構を通じて神経レベルで脳の性分化が障害されているかは不明である。さらに GnRH 低下の固着機構も未解明である。本研究ではこれらの解決を目指し、組織染色によって性的二型神経核や GnRH 神経に及ぼす影響を検討した。その結果、神経への影響が確認できたため、DNA マイクロアレイ解析を行い、神経成熟抑制に寄与しうる因子を探索した。

    【方法】妊娠15日目の Wistar 系ラットに 1 µg/kg TCDD を単回経口投与した。雄児脳より作成した切片を蛍光抗体染色したのち、共焦点顕微鏡を用いて観察した。マイクロアレイ解析は、生後 4 日目の雄児視床下部から抽出した total RNA を用いた。初代培養細胞は生後 2 日目の雄児視床下部から調製し、7 日間の前培養後にsiRNA を24 時間処理した。mRNA 量はリアルタイム RT-PCR 法にて測定した。

    【結果および考察】TCDD 胎児期曝露を受けた雄児において、雄優位の性的二型神経核の体積が有意に縮小し、TCDD が脳の性分化を障害する可能性が強く示唆された。次に GnRH 神経成熟に及ぼす影響を検討した結果、双極性 GnRH 神経数の有意な減少が観察された。そこで、DNA マイクロアレイ解析を行った結果、神経細胞の分化、ならび突起伸長や分枝を促進する遺伝子である Ubiquitin specific peptidase 9 X-linked (USP9X) の TCDD 依存的な発現低下を見出した。雄児視床下部から調製した初代培養細胞に対し、siUSP9X を処理したところ、GnRH mRNA が有意に抑制されることが明らかになった。これらの結果から、USP9X 発現低下が GnRH 神経に対して負の影響を与え、双極性神経の減少/GnRH 発現低下へと至る可能性が見出された。

  • 関本 征史, 伊是名 皆人, 石坂 真知子, 中野 和彦, 松井 久実, 伊藤 彰英
    セッションID: O-34
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    【背景】近年、環境基準が定められていない化学物質による河川の潜在的な汚染が報告されており、ヒトや野生生物に対する生体影響が懸念されている。共同研究者の伊藤らは、天白川(愛知県)や境川(東京都)などの都市部河川において、MRI造影剤に使用される希土類元素ガドリニウム(Gd)の河川中濃度が増加していることを見いだしている(Bull. Chem. Soc. Jpn., 77, 1835(2004)、Chem. Lett., 46, 1327(2017))。本研究では、Gd造影剤の水生生物に対する毒性影響を把握する基礎実験として、水生生物由来培養細胞に対する致死毒性の有無を検討した。

    【背景】ティラピア肝由来Hepa-T1細胞およびアフリカツメガエルの肝由来A8細胞は理研バイオリソースセンターより入手した。両細胞をそれぞれの培養条件で24時間前培養した後、有害重金属(Cd、Cr、Hg)およびGd無機塩、あるいはGd造影剤(Gd-DOTA、Gd-DTPAおよびGd-DTPA-BMA)を最大濃度100 µMで24時間または72時間曝露し、Alamer Blue Assayにより細胞毒性を評価した。

    【結果】Hepa-T1細胞に対してHg、CdおよびCrはいずれも強い細胞毒性(生存率20%以下)を示した。一方A8 細胞に対してHgは強い細胞毒性を、Crは弱い細胞毒性(生存率 50%以下)を示したが、Cd は24時間処理では全く毒性を示さなかった。72時間処理では、100 µM Cd 処理によりA8細胞での細胞死が認められた。なお、Gd およびGd造影剤処理による細胞毒性はどちらの細胞株においても観察されなかった。

    【考察】本研究より、現在の河川中濃度レベルのGd造影剤は細胞死を引き起こさす可能性は小さいものと思われた。また、水生生物由来細胞の間でいくつかの環境汚染重金属の毒性影響が異なることが示された。これは、用いた細胞間での「重金属の取込・排泄」「重金属毒性発現に関わる細胞内因子」の相違に起因することが考えられた。現在、分子レベルでの毒性影響について、遺伝子発現変動を指標とした検討を進めている。

  • 原島 小夜子, 川西 優喜, 八木 孝司
    セッションID: O-35
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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     内分泌撹乱作用は、外因性化学物質がステロイドホルモン受容体などの核内受容体に結合し、遺伝子発現の異常を誘発することにより生じる。環境中に存在する多種多様な内分泌撹乱物質を検出するために、当研究室ではヒト核内受容体遺伝子を出芽酵母に導入して酵母レポーターアッセイ系を確立してきた。グルココルチコイド(GC)は副腎皮質から分泌されるステロイドホルモンの一つで、様々な合成GCが抗炎症剤やアレルギー治療薬として一般的に使用されており、し尿処理を通じて環境中に排出されて生態系に影響を及ぼす可能性がある。私たちはこれまでに化学物質の細胞壁・細胞膜透過性を改良した高感度化ヒトGC受容体(GR)発現酵母を用いて、河川水や下水処理場工程水などの環境試料にGRリガンド活性物質が含まれることを示した。本研究では、GRリガンド検出感度の向上を目的として変異型GR発現酵母株を新たに樹立し、リガンド応答性を調べた。

     ヒトGRのActivation Function (AF)-1領域中のτ1-core transactivation domainのD196Y、E221F変異は転写活性を、リガンド結合領域(ligand binding domain: LBD)のC638G変異はリガンド結合活性を増大させることから、融合PCRによりヒトGR ORFにこれらの変異をそれぞれ導入した。また、GR mRNAの安定化・翻訳効率上昇を図るため、ORF中のpoly A付加配列のコンセンサスを破壊する変異を導入し、変異型GR発現ベクターを構築した。これらを、応答配列を連結したlacZレポータープラスミドおよび転写共役因子SRC-1発現プラスミドとともに野生型酵母に導入した。作製したアッセイ酵母株の内因性・合成副腎皮質ホルモンに対する応答は正常型GR発現酵母株に比べて増大しており、環境試料中のGRリガンド検出に有用である。

  • 加藤 泰彦, 山崎 勇人, Kerstin TOERNER, 荒尾 拓斗, 渡邉 肇
    セッションID: O-36
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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     生態毒性試験において用いられる環境指標生物の中でもオオミジンコは魚類や藻類とならんで汎用されている生物種の1つである。オオミジンコを用いた通常の試験法のエンドポイントは生死や産仔数であるが、これは試験の実施に手間と時間を要するだけでなく、さらに大きな問題点として、毒性影響があった場合にもその影響の特性を簡便に検出できないことがあげられる。つまり生死や産仔数は単純なエンドポイントではあるものの得られる情報が少なく、通常の実験動物のような組織などの解析も困難であることから、毒性影響を引き起こした原因物質やその影響についての情報を得ることができない。

     こうした問題点を克服するために我々はオオミジンコにおける遺伝子発現変化に着目した毒性影響の評価を提唱してきているが、遺伝子発現変化を簡便に検出するためにはレポーター遺伝子としての緑色蛍光タンパク質の利用などが望ましい。我々は世界に先駆けてTALENやCRISPER/Cas9を用いてオオミジンコの遺伝子破壊に成功しただけでなく、最近レポーター遺伝子をふくめた新規な遺伝子の導入法の確立にも成功した。この手法を用いて、重金属に応答するメタロチオネイン遺伝子の遺伝子発現制御領域に緑色蛍光タンパク質遺伝子を融合させることにより、重金属に応答して緑色蛍光タンパク質を発現するオオミジンコを作製した。また環境水中のホルモン様化学物質を検出するためにホルモン応答配列を上流にもつ緑色蛍光タンパク質遺伝子をオオミジンコに導入することにより、ホルモン応答性のオオミジンコの系統を樹立した。

     これらのオオミジンコを開発し蛍光タンパク質の発現を検出することにより、環境水の毒性影響をさまざまなポイントから解析することが可能になる。

  • 木村 栄輝, 前川 文彦, 遠山 千春
    セッションID: O-37
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    周産期におけるダイオキシン曝露が認知機能の障害や行動異常を引き起こすことが疫学研究ならびに動物実験から明らかにされている。さらに経胎盤・経母乳曝露を受けたげっ歯類の脳では、神経細胞形態や神経伝達物質受容体の遺伝子発現量の変化が観察されており、ダイオキシン曝露が正常な神経細胞の分化・成熟を阻害し、神経回路の構造的・機能的な異常につながると考えられる。ダイオキシンの受容体であるアリール炭化水素受容体(AhR)はリガンド依存的に核内へ移行し、標的遺伝子群の発現誘導を介して様々な毒性影響を引き起こす。また、線虫、ハエ、マウスなどを用いた実験から、AhRが神経系の発生・発達を制御していることが分かってきた。しかしながら、発生・発達段階の中枢神経系におけるAhRの発現パターンについては不明な点も多い。そこで本研究では、C57BL/6J系統マウスを用いて脳におけるAhRの発現解析を行った。最初に、生後3日目のマウスを用いて組織ごとのAhRタンパク質の発現量をウエスタンブロットにより比較した。その結果、肝臓や肺と比べて発現量は少ないものの、脳でもAhRタンパク質が検出された。次に、発生・発達段階を追ってAhR mRNAの有無をin situハイブリダイゼーション法により調べた。胎仔期12.5日目の脳では終脳の皮質深部に、生後3日目と14日目では海馬、小脳、嗅球においてAhR mRNAの発現が確認できた。海馬のCA1およびCA3領域では、上昇層や放線層と比べて錐体細胞層により多くのmRNAが検出されたことから、AhRが亜領域ごとに特異的な発現パターンを示すことが分かった。本研究結果は、マウス脳におけるAhR発現パターンを明らかにし、哺乳類の中枢神経系におけるAhRの毒性学的ならびに生理学的機能の解明につながる知見だと考えられる。

  • 遠山 千春, 鑪迫 典久
    セッションID: O-38
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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     人の健康と生態系への化学物質の悪影響を未然に防ぐために、経済協力開発機構(OECD)により国際標準として毒性試験指針(Test Guideline; TG)が作られている。わが国では化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)や農薬取締法などで、この指針と同様の試験方法が採用されている。それぞれ本来の目的を達成する上で限定的ではあるが有用な役割を果たしてきた。しかし、毒性学の原理・原則に照らすと、このTGには改善すべき根本的な問題がある。今回の発表では、試験データの再現性を担保し信頼性を確保する上で不可欠な試験対象の生物種・系統の問題点を提示する。

     TGのほ乳類試験ではラットが第一選択の動物種とされているが系統指定はないため、用いる系統により無毒性量(NOAEL)は大きく変わりうる。系統維持がなされ遺伝形質が制御されてきたラットやマウスを用いるTGでもこうした問題がある。これに比して、生態毒性試験では生物種の選択に関して解決すべき基本問題がある。生態毒性試験では、水生生物として魚類(ヒメダカOryzias latipes)、甲殻類Daphnia magna、藻類緑藻(Pseudokirchneriella subcapitata)、底生生物としてユスリカ(Chironomus yoshimatsui)などが用いられる。例えば、TGにおけるメダカの選択に際する記載は体長への言及にとどまる。また、生態毒性試験でも、試験生物種や系統の違いにより化学物質への感受性が異なり、無影響濃度(NOEC)に大きく影響する場合がある。例えば、野外のユスリカはほとんどが農薬耐性を獲得しているが、国立環境研究所(NIES)で確立した系統は農薬耐性が無く感受性が100倍以上高い。TGにおける生態毒性試験を国際的に検討するに際しては、継代飼育によって遺伝形質を制御した試験生物の確立が肝要である。

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