日本毒性学会学術年会
第45回日本毒性学会学術年会
選択された号の論文の466件中1~50を表示しています
年会長招待講演
  • 津田 洋幸, 徐 結苟, William T ALEXANDER, David B ALEXANDER, Mohamed ABDELGIED ...
    セッションID: IL
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    カーボンナノチューブ(CNT)は炭素原子が筒状に配列した毛髪の直径の1/100,000の合成繊維である。アルミニウムより軽く、鋼鉄より強靭、銅より導電性に優れ、まさに未来を拓く素材としてリチウム電池、航空機、自動車に使用され、さらに送電線、建材等への使用も計画されている。多層CNT(MWCNT)の生産量は国内で年間約100t、世界では300tである。2020年には1000tを越すと予測されている。MWCNTはアスベストのように難分解性で吸引によって肺・胸膜等に持続性異物炎症を誘発する。多種のMWCNTの安全性評価は不可欠であるが、現状では吸入曝露試験でMWCNT-7、下記の経気管肺内噴霧(TIPS)試験でMWCNT-Nの2種に発がん性が見出されている。我々はラットを用いて吸入曝露専用設備より簡便にして安価なTIPS投与による以下の簡便な毒性・発がん性の評価方法を開発したのでその概要を示す。

    ❶ ラットに検体のMWCNTを10日〜2週間隔日にTIPS投与後(計0.5〜1mg/ラット)に、無処置観察期間(1〜4週)を経て肺組織の炎症性サイトカイン・ケモカインレベル、過酸化物-DNA付加体量を測定して組織障害・発癌機序を明らかにする。さらに胸膜中皮の増殖像とその因子の把握を行う。胸腔洗浄液についても同様な解析を行う。

    ❷ 2週間TIPS投与後無処置観察試験:2年までの経時的観察を行い、中間屠殺によって発がんに関与する早期病変を把握して試験期間の短縮を図る。

    この方法によって現在MWCNT-7、MWCNT-Nを含む4種のMWCNTについて発がん性を見出している。TIPS法は今後の多種多数のMWCNTに対応出来る評価系として吸入曝露試験を補完できると考える。(厚生労働科学補助金・化学物質リスク研究事業および日本化学工業協会LRIによる)

特別講演
  • Timothy K. MACLACHLAN
    セッションID: SL1
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    Evasion of immune surveillance represents a major mechanism limiting the effectiveness of traditional therapies against tumor cells. However, an increasing number of approaches designed to stimulate or directly utilize the immune system in overcoming this limitation are currently undergoing preclinical and clinical testing, including immunotherapies utilizing autoreactive effector cells. The relatively recent expansion in the understanding of basic mechanisms in T cell biology, combined with continuously improving molecular biology techniques, have made possible an explosion of clinical trials involving the adoptive transfer of genetically engineered T cells for the treatment of both hematological and solid malignancies. However, one significant factor potentially limiting the widespread use of T cell therapies for a variety of cancer types includes the expression of target antigens on cancer cells as well as on other normal, and essential, tissues. This presentation will review the field of adoptive T cell therapies, with a particular focus on chimeric antigen receptor T cells, highlight experimentally-verified and theoretical safety concerns for such therapies, and review current thinking concerning non-clinical safety assessment approaches for such therapies.

  • 谷口 英樹
    セッションID: SL2
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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     肝不全は致死的な病態であり、肝臓移植のみが唯一の救命手段である。しかしながら、世界的にドナー臓器の不足は明らかであり、iPS細胞から治療用ヒト臓器を人為的に創出するための技術開発が吃緊の解決課題となっている。我々は、これまでに器官発生プロセスを模倣することにより、iPS細胞を用いてヒト肝臓原基(肝芽)の創出を可能とする革新的な三次元培養技術を確立してきた(Nature 499:481-484, 2013、Nature Protocols 9:396-409, 2014)。すなわち、ヒト肝前駆細胞・血管内皮細胞・間葉系細胞の共培養により、二次元平面上において三次元構造を有するヒト肝臓原基が自律的に再構成されることを明らかにしている。さらに、この三次元培養技術が肝臓以外の膵臓や腎臓などの再構成にも活用することが可能であることを示している(Cell Stem Cell 16:556-565, 2015)。

     現在、ヒトiPS細胞由来肝芽の大量調製・品質評価・移植操作技術の開発を推進中であり、臨床研究の早期実施を目指して準備を進めている状況にある。一方、この新規3次元培養系を新たな研究支援ツールとして活用するための技術開発も実施しており、B型肝炎ウイルス感染系への応用、薬剤耐性を有するがん組織の再構成への応用などについて成果が得られつつある。

     本講演では、我々のヒトiPS細胞を用いた肝芽創出から始まったヒューマン・オルガノイド研究の新展開について紹介する。

    1. Takahashi Y, Taniguchi H, et al: Cell Rep 23:1620-1629, 2018

    2. Zhang RR, Taniguchi H, et al: Stem Cell Reports 10:780-793, 2018

    3. Sekine K, Taniguchi H, et al: Nature 546:533-538, 2017

    4. Takebe T, Taniguchi H, et al: Cell Stem Cell 16:556-565, 2015

    5. Takebe T, Taniguchi H, et al: Nature Protocols 9:396-409, 2014

    6. Takebe T, Taniguchi H, et al: Nature 499:481-484, 2013

  • 木村 郁夫
    セッションID: SL3
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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     近年、性ステロイドホルモンは性機能への関与だけではなく、母性行動、攻撃行動や情動、節食、リズム、睡眠、そして記憶や学習を含む高次脳機能に至るまでの多彩な機能に関与していることが明らかになってきた。従来、性ステロイドホルモンは核内受容体を介して、生体において種々の生理機能を発揮すると言われてきた。しかしながら、核内受容体を介するにしては、あまりにも即時的なステロイドホルモンにより誘発される反応が多数あり、これらの反応は細胞膜上の受容体を介して行われると予想されていたが、その分子実体は現在まで明らかにされていなかった。近年、この性ステロイドホルモンの細胞膜上の受容体として、エストロゲンに対し、Gタンパク共役型受容体GPR30、またプロゲステロンに対し、mPRファミリーや、MAPRファミリーが同定された。我々は、このうちのMAPRファミリーであるneudesinとneuferricinを世界で初めて単離・同定し、neudesinが神経栄養因子であり神経系を介して食事性肥満に関わる重要な因子であることを明らかにした。これらの細胞膜上性ステロイドホルモン受容体は、一般的に知られている核内受容体を介したgenomicな作用に対し、即時性のnon-genomicな作用(MAPK経路の活性化や細胞内Ca濃度の上昇等)を有する。そのために、核内受容体では証明のできなかった全く新たな性ステロイドホルモンの機能の作用機構解明につながると期待されている。 したがって、我々は近年発見されたプロゲステロンの細胞膜上受容体のmPRおよびMAPRファミリーに注目し、性ステロイドホルモンの即時的反応の解明とそれに基づく生体機能調節機構の解明を進めている。本講演において、これら我々が得た知見および最近のこの分野の動向について概説する。

  • 山田 拓司
    セッションID: SL4
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    ヒト腸管内には1000種100兆個体を超える細菌が共生している。これらの細菌はヒト腸内細菌と呼ばれ、腸管内に群集構造を形成し、複雑なエコシステムをなしている。微生物由来の遺伝子配列を直接決定するメタゲノム解析などの新たな解析手法の開発により、ヒト腸内環境研究は多くの発展を見せ、肥満、糖尿病、炎症性腸疾患、肝臓がんなどの様々な疾患との関連性が明らかになりつつある。

    我々は大腸がんに焦点を当て、その発症に関するメカニズムにヒト腸内細菌がどのように関連しているかを明らかにするため、大規模な疫学コホート研究を行っている。その中で収集しているデータとして、ヒト腸内環境のメタゲノムデータに加え、メタボロームデータ、生活習慣、食生活および内視鏡所見も収集している。これらの統合解析により、大腸がん発症に関連する微生物、代謝物質、および微生物由来代謝経路を見出す試みを紹介する。

  • 菅野 純, 福本 真理子
    セッションID: SL5-1
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    日本中毒学会と日本毒性学会では理事会レベルを含めた相互交流が続いていたが、それが希薄となった時期がしばらく続いた。しかし、地下鉄サリン事件を契機に両学会の連携の重要性が再認識され、第38回日本毒性学会学術年会(2011年7月11日~13日パシフィコ横浜、年会長:眞鍋 淳先生において日本中毒合同シンポジウムを開催する運びとなった。タイトルは、「コリンエステラーゼ阻害物質による遅発性の中枢神経毒性-サリンの臨床から学ぶ動物モデルの機構解析」であり、黒岩幸雄先生(リカバリー・サポートセンター)、石松伸一先生(聖路加国際病院・救急救命センター)、長尾政宗先生(広島大学・法医学研究室)、朝倉雅登先生(井上眼科病院)、及び種村健太郎先生(国立衛研・毒性部)を演者として迎え、サリン被害者の実態、特に後遺症或いは慢性症状と、それを裏付ける可能性のある動物実験との対比が行われた。以来、欠かさず相互に合同企画を重ね、2014年12月に両学会の交流促進のための覚書を交わすことが出来た。その線上の一大イベントとして、今回、同時期同所開催という交流深化の機会を両学会、特に両年会長の多大なる尽力により実現の運びとなった。今まで合同シンポジウムの演者間での交流が主体であったところを、両学会の参加者全体での交流に拡大する契機となれば、交流を推進してきた両学会連携委員会としても幸甚である。本合同開催学会において、新たな交流ニーズが発掘されることが、連携担当として大いに期待されるところである。

    7月20日9:20からの連携記念式典に引き続き、9:40から杉田学先生による連携記念講演会、10:30からはドーピングに関するシンポジウムと合同企画が続く。両学会員の多数の参加をお願いする次第である。

  • 杉田 学
    セッションID: SL5-2
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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     中毒とは,生体の外部より化学物質が侵入して有害な生体作用を生じることの全般を指し,多くの場合過量服用によって引き起こされるが,患者の状態によっては標準的な投与量で起こることもある.全ての医療従事者は,自分の投与した薬物によって有害な事象が引き起こされることを認識し,その標準的治療を知っておく必要がある.急性中毒の治療は,①一般的な全身管理,②中毒原因物質の特定,③体内への吸収を阻害する,④既に吸収された物質を解毒・拮抗あるいは排泄促進する,の4段階で行われる.世界的にみると,AACT(the American Academy of Clinical Toxicology)とEAPCCT(the European Association of Poisons Centres and Clinical Toxicologists)が1997年に中毒治療の標準化を図る目的にPosition paperを発表し,世界60カ国で承認された.我が国では日本中毒学会が「急性中毒の標準治療」を2003年に発表している.これらの資料は容易に入手でき治療方針を立てるのに有用であるが,広く一般の臨床現場に浸透しているかは疑問である.また他の疾患や症候群に比べ,エビデンスが乏しいため定期的なアップデートも行われることが少ない.しかし一方で,個々の薬物は物質特有の体内動態をとる事が明らかであり,理論的に正しい治療を行う事が求められる.消化管で吸収され体循環に入った薬物は,体内のどのコンパートメントに分布するかによって血中濃度が決定される.このコンパートメントの大きさは一般に分布容量(Vd)と呼ばれ,脂溶性が高く,組織結合性が高いほどVdは高くなり,除去が困難になる. 薬物は血漿蛋白と可逆的に結合し,この割合を蛋白結合率(PB)で表す.PBの高い薬物は代謝,排泄を受けにくい.多くの医薬品はVdやPBが大きく,強制利尿や血液浄化法の適応とはならないが,致死的であり血中濃度が高い場合には効率が悪くてもこれらの治療が適応になる場合もあり得る.本講演では正しい急性中毒治療のあり方を考え,今後のガイドライン改訂の展望について解説する.

  • John BURKHARDT
    セッションID: SL6
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    Biomarkers are invaluable drug development tools to assess and monitor safety in early clinical trials especially when exposure margins are limiting for promising therapeutics. Although progress is made towards identifying and implementing translational safety biomarkers for a number of organ toxicities such as kidney and liver, significant gaps still exist to monitor toxicities for testis, pancreas, etc. Several precompetitive consortia (eg., PSTC, IMI) are working with industry, academia, government, patient advocacy groups and foundations with a goal to qualify biomarkers such that they can be used in preclinical studies and clinical trials to accelerate drug development. This talk will provide examples of how unique miRNA (miRNA profiling), protein (eg, gastrin) and low molecular weight molecules/metabolite (eg, bile acids, hyaluronic acid, norepinephrine) biomarkers are used as exploratory biomarker tools to understand mechanistic aspects of organ toxicity. In addition, the talk will also provide examples to demonstrate the complexities of biomarker discovery, validation and regulatory qualification intended for clinical trial applications. Examples include 1) regulatory qualification of GLDH to address the specificity gaps of ALT and 2) efforts to qualify biomarkers for skeletal muscle injury/dystrophy for their potential use in clinical trials for Duchene muscular dystrophy. As part of the global qualification of biomarkers, there are international efforts led by PSTC Japan that include leading Japanese scientists and pharmaceutical companies to advance qualification of emerging safety biomarkers at PMDA for clinical use in Japanese population. These efforts will not only increase the contributions of Japanese scientists in biomarker working groups but also provide annotated bio specimens from Japanese subjects to bridge the biomarker data needed for qualification. These efforts will be discussed.

  • 熊谷 嘉人
    セッションID: SL7
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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     メチル水銀(MeHg)とカドミウム(Cd)は日本で起きた公害の原因物質であり、健康リスクの面から未だに危惧されている有害金属である。MeHgとCdの生体影響から分子レベルでの毒性発現機構の解明は世界中で広範に行われてきた一方で、これらの金属に対する生体応答・適応に関する研究は、メタロチオネイン等を除いて明快には解かれていない。我々は両者の標的臓器は異なるものの、共にタンパク質の求核置換基に共有結合(一部は配位結合)する“親電子性”を有している点に着目して、ケミカルバイオロジーを基盤とした研究を展開してきた。

     MeHgおよびCdは有害性を示さない低濃度において、反応性の高いシステイン(CysSH)残基を有するセンサータンパク質を特異的に化学修飾して、親電子物質の解毒・排泄、細胞生存やタンパク質の品質管理に関わるレドックスシグナルを活性化した。本シグナル活性化を阻害あるいは応答分子をノックダウンすると、MeHgおよびCdの細胞毒性は増強することから、一連のレドックスシグナルの活性化は当該有害金属に対する環境応答のひとつであることが示唆された。

     神経疾患や循環器疾患の防御因子として活性イオウ分子(RSS)が注目されている。RSSはGSHやCysSHに過剰なイオウ原子が付加したパースルフィドやポリスルフィドであり、高い求核性および抗酸化性を有することから、我々はRSSがMeHgやCdの捕獲・不活性化に関係するのではないかと考えた。非細胞系、培養細胞およびマウスを用いた検討を行い、RSSはMeHgおよびCdのイオウ付加体の生成を介して、当該有害金属曝露によるレドックスシグナル変動および毒性を負に制御していることを見出した。本講演では、我々がこれまで得た研究成果を紹介して、MeHgおよびCdの新しいリスク軽減因子としてのRSSの重要性および新たな研究戦略について考察する。

教育講演
  • 榑林 陽一
    セッションID: EL1
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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     1980年代半ばから本格化したゲノミクス研究を始めとする生命科学の急速な広がりや医薬品モダリティーの多様化等により、医薬品の研究開発パラダイムは、従来の「製薬企業が単独で標的分子の同定から臨床治験までのすべてのプロセスを行うモデル」から、「産学連携を中軸とした役割分担モデル」へと大きく変遷を遂げた。現在、欧米では、大学や国立研究機関などの研究者による創薬標的の特定を目指した基礎研究に始まり、バイオベンチャーによる新薬候補物質の探索と患者での臨床効果の証明(Proof of Concept: POC)を目指した橋渡し研究(応用研究)、そしてメガファーマによる本格的な臨床開発へと連続して繋がる3ステップモデルが最も一般的である。一方、我が国では橋渡し研究の担い手となるバイオベンチャーがこれまで十分に発達していなかったため、基礎研究の成果が新薬創出に繋がりにくく、このことが医療イノベーション政策上の深刻な問題として指摘されてきた。本講演では、最近の医薬品の研究開発に伴うリスクの本質と製薬産業界のトランスフォーメーションを見据えて、日本における今後の産学官連携の在り方や創薬振興に向けた環境整備の方向性について概説する。

  • Saryu GOEL, Robert DORSAM, Sruthi Tallapragada KING, Melanie MUELLER, ...
    セッションID: EL2
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    Generic drugs have a major public health impact and account for increasing amounts of prescriptions dispensed in the United States. In 2012, the Generic Drug User Fee Amendments (GDUFA) were enacted to enable U.S. Food and Drug Administration's (FDA) to assess industry user fees to bring greater predictability and timeliness to the review of abbreviated new drug applications (ANDAs) in the United States. During this time, a Pharmacology/Toxicology team was formed within FDA’s Office of Generic Drugs (OGD) to review and ensure that generic drugs are as safe as their respective reference listed drug (RLD). A generic drug must have the same safety profile as the RLD but can differ from its RLD with respect to the levels of impurities (organic or elemental), excipients, solvents, and extractables and leachables. OGD has developed several guidelines specific for generic drugs to provide the generic drug industry with pathways to control or justify the safety of impurities in their proposed generic drug product. In addition, principles from various International Conference on Harmonisation (ICH) guidances are used when reviewing the safety of a generic drug formulation. This session will discuss the principles of pharmacology/toxicology review, relevant guidance, and context of use that underpin the safety assessment that is conducted by the Pharmacology/Toxicology team in OGD. The session will include the following presentations:

    Overview and timing of Pharmacology/Toxicology review for generic drugs

    This presentation will give an overview of “why, when, and how” the Pharmacology/Toxicology team conducts reviews of ANDAs. We will discuss key ICH, FDA and generic-specific guidances that serve as a foundation of Pharmacology/Toxicology review. This presentation will also highlight the ways in which a Pharmacology/Toxicology reviewer addresses safety questions in generic drug applications.

    Safety evaluation of organic impurities in generic drugs

    Drug substance and drug product impurities can change the safety profile of a generic drug when compared with its RLD. Applicants must identify, report, control and provide justification for the levels of impurities according to FDA regulations and ICH guidance to ensure that the safety of impurities in generic drugs is properly addressed. This presentation will discuss control and safety evaluation of both genotoxic and non-genotoxic organic impurities.

    Safety review of excipients in generic drugs

    Excipients in generic drugs may differ from the RLD, but the applicant must provide information that supports the safety of their formulation. The safety justification may include reference to levels that are in FDA-approved products (i.e., listed on the Inactive Ingredient Database), providing published literature for excipient safety, and by considering the route and context of use for the intended patient population. This presentation will outline the methods that the Pharmacology/Toxicology team uses to evaluate the safety of excipients for proposed generic drugs.

  • 田中 利男
    セッションID: EL3-1
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    動物愛護の観点からなるべく実験動物を使用しない方法に置き換え(Replacement)、使用動物数を削減し(Reduction)、動物に与える苦痛を少なくする(Refinement)という3R の原則が求められています。動物実験代替法としてのin vitro 試験は動物愛護に寄与し、多数の被験物質をハイスループットに評価できる、感度が高い、再現性が良いといった利点が認められます。しかしながらin vitro試験法の限界について多くの研究がなされ、in vivo動物実験が不可欠な分野が多くあることが明らかとなりました。この課題に対応するモデル動物としてのゼブラフィッシュが、脊椎動物として哺乳類やヒトとのゲノム相同性が高いこと、多産性や飼育管理が容易であり、体外受精であり臓器形成が驚くべき速さで完成することなど多くの優越性が認められ、まずはじめに発生毒性試験に使用されると思われます。そこで、世界的に最も頻用されているABラインの受精後自然歴を、12,609個の受精卵で解析すると6dpf(受精後日)までに2544個の受精卵が死亡し、956個体に形態異常が認められ、このまま発生毒性試験に使用すると精度が低いことが明らかとなりました。しかしながら、3-5hpf(受精後時間)における画像診断により5-7dpfにおける、正常、異常、死亡を予測できることを見出し、化合物投与の6hpfまでに選択することが、可能となりました。これを基盤に世界に先駆けたゼブラフィッシュ受精卵品質管理プロトコルを確立しました。その後、多施設において、このゼブラフィッシュ受精卵品質管理プロトコルの有効性を検証しました。さらに、ゼブラフィッシュ受精卵のハイスループット共焦点タイムラプス法により、5-7dpfにおける形態異常の連続発生時系列解析を可能としたので、サリドマイド発生毒性研究に応用し、その成果を報告します。

  • 小島 肇
    セッションID: EL3-2
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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     化学物質等の安全性試験の公定化(標準化)の手引書としては、2005年に発行された経済協力開発機構(OECD: Organisation for Economic Co-operation and Development)のガイダンス文書(GD: Guidance Document)No.34:The Validation and International Acceptance of New or Updated Test Methods for Hazard Assessmentが著名である。医薬品規制調和国際会議(ICH: International Conference on Harmonisation of Technical Requirements for Registration of Pharmaceuticals for Human Use)においても、ガイドラインへの新規試験法採用時に参考とされる文書である。この文書の中には、動物の使用の有無を問わず、新規試験法が公定化されるにはバリデーション研究や第三者評価を経なければいけないとされている。バリデーション研究の過程で、再現性と予測性を重視した試験法が評価される。特に予測性においては、バリデーションの過程で適用範囲が明確になり、偽陰性を限りなく少なくしたプロトコルに洗練される。バリデーション研究において留意すべき点は、実行する組織に試験法開発者、実験参加機関に加え、毒性の専門家、バリデーション研究の専門家、統計学者を加えることであり、できれば国際的な実施機関や専門家を組織に加えることが望ましい。その構成員が適切な被験物質数と候補物質を選択し、コード化して配布すること、GLP原則に則りデータの信頼性を担保すること、得られた結果を統計学的に解析し適切な予測モデルを確立することがバリデーション研究成功の秘訣である。これらを誤ると、試験法の再現性や予測性は適切に評価できない。試験法開発者にはバリデーション研究の過程で、プロトコルを柔軟に改訂する心構えが必要となり、最新のプロトコルに準じた100以上の物質によるデータベースを持つことが求められる。これらの結果が国際的な第三者評価グループに評価されて、試験法は公定化されるルートに乗ることになる。プロトコルやSOPに記載されている数値や条件はすべて裏付けがあり、それを第三者が確認していることが試験法の公定化には重要である。

シンポジウム1
  • 庄野 文章
    セッションID: S1-1
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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     機能性化学物質は、IoTに密接に関わる高性能電池や次世代半導体等のイノベーションの源泉であり、このような我が国の強みであるものづくり分野を支える機能性化学物質をいかに迅速に、効率的に開発するかが我が国産業の競争力強化に向けた課題である。一方、機能性と毒性は不可分であり、機能性化学物質の開発段階から安全性を効率的に評価していく必要がある。現在、化学物質の研究開発コストの削減のため、および動物愛護の観点から、欧米では動物を使った従来の毒性試験に替わる試験(インビトロ試験及びインシリコ手法)の開発が進展している。本プロジェクトでは、「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」に基づき40年間にわたり蓄積された質の高い動物実験データを用いて、人工知能技術や毒性学の最新の研究成果を活用して、既存の(定量的)構造活性相関((Q)SAR)やその他類推法では適用できない領域をカバーし、信頼性の高い機能性化学物質の毒性予測手法を開発することを目的としている。これにより、化学物質の研究開発費の20%を占めるとされる安全性評価に係るコストの大幅な削減、および開発期間の大幅な短縮が可能となる。このように安全性評価の効率化を図ることにより、機能性化学物質の開発を促進し、我が国の機能性材料やこれらを使った製品の開発力、提案力の向上が期待できる。

     この研究開発目標を達成するため、2017年度からAI-SHIPSがスタートした。研究項目は以下の通り。

    ① ‌毒性発現メカニズムに基づく毒性評価技術の開発

      ‌(a) 薬物動態モデル等を活用した化学物質の体内動態評価技術の開発

      (b) 細胞の化学物質応答性評価を基盤とする毒性評価技術の開発

    ② ‌人工知能を活用した予測モデルの開発(生体レベルでの毒性評価・予測を実現する情報技術の開発)

  • 植沢 芳広
    セッションID: S1-2
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    化学構造に基づく化学物質の毒性予測モデルの構築においては、毒性発現メカニズムが未知かつ複雑なため考慮できないこと、モデル構築手法が十分に洗練されていないこと、さらには毒性データ自体の入手が困難であることによって、実用に足る予測精度を得ることが難しい場合が少なくない。そこで演者は、(1)有害性発現経路(AOP)における分子起始反応(MIE)関連活性情報の活用、(2)ディープラーニング等の人工知能/機械学習技術の適用、および(3)毒性/副作用データベースの活用によってこれらの問題点を克服するための戦略を提案してきた。MIE関連活性情報としては、米国NIH、EPA、およびFDAの共同研究プロジェクトであるTox21で構築された10,000化合物ライブラリー(Tox21 10Kライブラリー)に対する核内受容体・ストレス応答経路のアッセイ結果158種類を格納したMIEデータベースが公開されている。このMIEに対する活性は人工知能技術を援用したQSARモデルによって予測可能である。一方、日本のPMDA、JAPIC、米国のFDAなどの機関は集積された医薬品副作用情報を大規模なデータベース(JADER、FAERS、JAPIC-AERS)として整理・提供している。これらはヒトに対する膨大な化合物-慢性毒性データベースと考えることができる。さらに、国内には化学品の法規制において重要な毒性データベースであるHESSが存在する。これらの毒性・副作用データベースとMIE予測モデルを統合することによって、適用範囲が広く堅牢な毒性予測モデルが構築可能である。なお、以上の戦略は2016年日本化学工業協会LRI委託研究テーマとなり、現在ではAMED「創薬支援インフォマティクスシステム構築」および経産省「省エネ型電子デバイス材料の評価技術の開発事業」プロジェクトに採用されている。

  • 山田 隆志
    セッションID: S1-3
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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     WSSD2020年目標の達成に向けて、膨大な数の試験データのない化学物質の安全性評価が大きな課題となっており、現状のin silico評価の技術レベルの向上、適用範囲の拡大、安全性評価での実運用が強く求められている。近年OECDでは、AOP(毒性発現経路)の開発が精力的に進められており、QSARの適用が困難と考えられる複雑な毒性エンドポイントについて、AOPに基づいてin silico、in vitro、in vivoの情報を組み合わせて化学物質の安全性を評価する統合的アプローチ(IATA)のコンセプトが整理されつつある。2020年以降は動物実験への依存度を軽減しつつ、化学物質が発現しうるヒトへの毒性を高精度で予測するin silico評価技術を確立し、IATAに基づいてヒト健康リスク評価のストラテジーを進化させる動きが加速すると考えられる。

     我々は、これまでにヒト健康影響に関するスクリーニング毒性エンドポイントのうち、遺伝毒性に関して、安衛法により実施されたAmes変異原性データから大規模のデータベースを構築した。これをデータセットとして世界中のQSARベンダーに提供することにより、QSARツールの改良を目指す国際共同研究を先導し、予測精度の向上を達成した。さらに、in vitro染色体損傷に関連した新規構造アラートを構築し、染色体損傷の予測性の向上を図った。反復投与毒性に関しては、代謝、メカニズム、毒性データを統合したHESSプラットフォームを開発した。カテゴリーアプローチによるリードアクロスのケーススタディーを作成し、OECD専門家によるレビューを経て、本手法の国際的な調和へ向けた経験を積み重ねてきたところである。リードアクロスでは、信頼性のある試験データを用いて適切な類似性の仮説を設定し、評価の透明性と再現性を確保することが重要である。さらにデータやリソースの制限等に起因する種々の不確実性を解析することによって、利用目的に対する不確実性の許容レベルを議論することが必要となる。

  • 山縣 友紀
    セッションID: S1-4
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

     ビッグデータの活用としてAI研究が注目を集め、医療や創薬領域においてもディープラーニングをはじめとする機械学習によるデータ駆動型研究が行われている。一方で人体は複雑な構造と機能から成り立つため、毒性機序を理解し、その本質を捉えるには、生体の持つホメオスタシスの維持機構や毒性に関わる多種多様な概念間の関係を適切に知り全体像を把握することが求められる。そのような問題に対し、特定の専門領域から独立し、対象世界に存在する本質的な概念構造を浮き彫りにした形で計算機上に表現するための理論と技術がオントロジー工学である[1, 2]。我々はAMEDの創薬支援推進事業「創薬インフォマティクスシステム構築」において、肝毒性予測インフォマティクスシステムの開発を進めている。本発表では、現在構築中のオントロジー工学に基づいた毒性機序解釈支援型知識システムを紹介するとともに、毒性評価および管理のための応用開発の取り組みについて述べる。特徴量の根拠を与えるためには 「特徴量として出力されたデータに対して、概念的な意味内容をどのように対応させるか」という課題の克服が重要となる。オントロジーによる俯瞰的な視野でデータの再解釈を支援することでデータと高次知識のギャップを解消することできれば、量から質への変換による創薬に向けた新たな技術開発につながると期待される。本研究は、情報化社会の中で大量の情報から対象とする問題をどのように向き合い、内容を同定していくかという基礎的な考察から実用的な応用開発に導くまでの基盤理論として、AIの活用に大きく貢献すると考えている。

    1. ‌溝口理一郎:オントロジー工学,オーム社, 2005

    2. ‌山縣友紀,五十嵐芳暢,中津則之,山田弘:オントロジー工学に基づく肝毒性作用機序に関する知識の構造化の検討, 第44回日本毒性学会学術年会, P-172, 2017

  • 藤渕 航
    セッションID: S1-5
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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     毒性物質を暴露したヒトES細胞の遺伝子発現ネットワークを計算機で学習させることで神経、遺伝・非遺伝的発がん毒性の予測率が正確度95%以上に達したと報告した。本手法を活用する為には、様々な毒性物質による遺伝子発現データベースが必要であり、我々はコンソーシアムを形成した。コンソーシアムには産官学が結集しつつあり、企業から約100名の会員が登録され、幹事の大部分は企業が担っていると共に、京都大学iPS細胞研究所から心臓分化の専門家、国立環境研究所、国立医薬品食品衛生研究所等から毒性の専門家の指導を受けつつ発展している。現在、データベースを構築するための実験プロトコルを開発段階にあり、ヒトES細胞株を配布している京都大学ウイルス・再生研の協力の下、効率的かつ標準的な培養・三胚葉分化技術を創出している。また、本研究にはAI研究者の協力も必要であり、システムバイオロジー研究機構とも協力体制を整えた。

シンポジウム2
  • 菅野 純
    セッションID: S2-1
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

     胎児期、新生児期、幼若期(以上、子ども期)における化学物質の低用量暴露が成熟後に誘発する中枢神経系への影響としての情動認知行動異常を、定量性をもって捕捉することが可能となり、また、その異常誘発メカニズムの一端が明らかになりつつある。本シンポジウムは、昨年に引き続き、それらの成果を報告するものである。

     従来の毒性を「外来性化学物質が標的分子に作用して機能障害を引き起こし有害性を現す」のに対し、シグナル毒性は、「外来性化学物質が受容体に結合することで、間違った種類のタンパクを、間違ったタイミングで、間違った量、標的細胞・組織に作らせるという間違った指令(シグナル)を出してしまうために有害な作用が生じる現象」との立場を取るものである。この様な毒性の場合、恒常性維持機構が働く成熟個体では可逆的な反応に留まる可能性がある。しかし、シグナルをその発生発達成熟に「臨界期」もって使用している中枢神経系においては、不可逆的な影響が残る蓋然性が高いことが指摘される。

     シグナル毒性を子ども期の中枢神経系に発揮するものとして、そこに発現している各種受容体に結合し「シグナルかく乱」を来す全ての化学物質が挙げられる。特に、神経伝達システムに関わる化学物質、例えば、向精神薬や農薬の一部が重要である。その他、大気中の微粒子のうち、PM2.5 やUltrafine Particles(UFP)による嗅神経系を介した中枢影響を唱える研究もある。

     これらの中枢影響は、従来のFOB試験では検出する事が困難であり、情動認知行動試験が必要となる。しかし、毒性評価体系への組み込みを考えると、標準的な陽性対照が完備していない事と、測定機器が規格化されていない事が問題となる。ここでは、イントロダクションとして今後のバリデーションにとって重要なこれらの問題点をまとめ、その対応策を考察する。

    (厚生労働科学研究費補助金による)

  • 種村 健太郎
    セッションID: S2-2
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

     行動異常を伴う中枢神経系の発達障害の一因として、胎児期あるいは小児期における化学物質のばく露が疑われている。しかしながら、それを未然に発見する為に実施される毒性試験において、従来の神経毒性試験法は、成熟動物を主対象としており、かつ行動異常の検出についても心理学的記載に留まるものが多く、客観性および定量性に欠けるものであった。我々はこれまでに、マウスを用いて、①オープンフィールド試験、明暗往来試験、高架式十字迷路試験、条件付け学習記憶試験、プレパルス驚愕反応抑制試験の5つの行動解析試験を組み合わせたバッテリー式の行動解析によって従来法では困難であった情動認知行動異常の客観的かつ定量的な検出系を構築し、②実際に周産期、あるいは幼若期マウスに神経作動性化学物あるいは環境化学物質を曝露した後の成熟後の行動異常を捉え、③遺伝子発現解析、神経幹細胞動態解析、あるいは神経回路機能解析等により、検出された行動異常に対応する神経科学的物証の収集を重ねてきた。

     本シンポジウムでは、これまでの研究を紹介するとともに、ネオニコチノイド系農薬を解析例として取り上げ、一日耐用許容量を考慮した極めて低用量のアセタミプリド、イミダクロプリド、および類似構造化学物質であるニコチンを妊娠期から泌乳期まで雌マウスに飲水投与し、雄産子マウスについて成熟後に情動認知行動解析を実施した結果について紹介する。更に、より高精度かつ頑強な毒性評価法としての確立にむけた幾つかの問題点と、その解決にむけた取り組みについて議論したい。

  • 冨永 貴志, 冨永 洋子
    セッションID: S2-3
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    臨界期という現象に代表されるように,発生発達期の子どもの脳は様々なシグナルを刺激として受容し,複雑な情報処理回路装置を完成させていく。その刺激量は,成長後の個体における作用で考えれば極めて小さい−すなわち大人に対しては閾値下であることが多い。実際,大人では無害とされる低用量化学物質でも脳回路機能に対して大きな影響を与え,成長後の脳機能発現が阻害されるものがあることが知られ始めている。この変化は動物モデルでも情動認知行動の変化として計測される。一方,この低用量化学物質が,どのようなシグナル系を動かし,どのような脳回路機能にどのような変化を起こし,さらにそれが成長後の脳の機能をどのような仕組みで阻害しているのかはいまだに十分にわかっていない。脳回路機能の異常の神経基盤を定量的に記載し,発生発達期の初期変調,成長後の脳機能変調を検出しその機構を明確にすることが,子どもへの脳機能発達への危険性を評価することに繋がる。すでに示されている行動異常と対応する脳の領野ごとの神経回路機能を捉える手段として,細胞膜の膜電位を光信号に変換する分子プローブである膜電位感受性色素(Voltage-Sensitive Dye:VSD)を用いた神経回路機能イメージング法が有用であることを示す。この手法は,カルシウムイメージングのような2次的な信号とは異なり,ミリ秒オーダーで変化する神経興奮閾値下の膜電位変化,抑制性の膜電位変化でも網羅的に可視化できることが特徴である。本発表では,マウスを用いてバルプロ酸(VPA),ビスフェノールA(BPA),ネオニコチノイド類の妊娠期,幼若期投与によっておこる行動異常に対応して,海馬神経回路での興奮/抑制(E/I)バランスの失調が起こることを,どのように検出するかを紹介する。さらに,長期増強(LTP)に代表されるシナプス可塑性機能の評価にも有用であることを紹介する。

  • 今村 拓也, 亀田 朋典, 松田 泰斗, 土井 浩義, 古川 佑介, 種村 健太郎, 中島 欽一
    セッションID: S2-4
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    脳を構成する主要な3細胞種、ニューロン・アストロサイト・オリゴデンドロサイトは、共通の神経幹細胞から産生される。神経幹細胞分化の時空間的制御の破綻は重度な機能障害に至るため、毒性学の分野においては、化学物質による神経発達影響の高感度検出法が必要である。本研究では、幼若期暴露による遅発性の情動・認知行動異常発現が明らかとなりつつあるネオニコチノイド系農薬2種、アセタミプリド・イミダクロプリドについて、トランスクリプトーム解析によるニューロン新生への影響の定量化を試みたので報告する。今回は、2週齢C57BL/6系統マウスに、アセタミプリド(10mg/kg)、イミダクロプリド(8mg/kg)を単回経口投与し、3あるいは13週齢まで待ち、次世代シーケンサー解析に供した。投与群において1週間後に発現上昇する遺伝子群には、細胞増殖・移動関連のものがよく認められた。例えば、イミダクロプリド投与群の場合、ジーンオントロジー(GO)タームに属する遺伝子として、MITOTIC CYTOKINESISやMYOSHIN II COMPLEX関連の遺伝子が総じて発現上昇していた。従って、神経幹細胞増殖の異常促進・細胞移動早期開始によりニューロンが早期分化してしまうと考えられた。また、13週齢時にはニューロンの質の低下あるいは量の減少が起こってしまうことも分かった。例えば、イミダクロプロド及びアセタミプリドいずれの投与群においても、GOタームに属する遺伝子として、NEURON SPINE関連の遺伝子が総じて発現減少していた。現在、ノンコーディングRNAの発現プロファイルを得るためのモデルトランスクリプト作製スキーム開発により、晩発性リスクを迅速にモニタリングするためのトランスクリプトームの定量感度上昇を目指すことで、農薬暴露による異常値検出の精度の更なる鋭敏化に取り組んでいるところである。

  • 北嶋 聡, 種村 健太郎, 菅野 純
    セッションID: S2-5
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

     人のシックハウス症候群(SH)の原因物質として、平成14年「厚生労働省シックハウス問題に関する検討会」により13物質が、守るべき指針値と共に掲げられた。この指針値と、通常実施する吸入毒性試験で得られる無毒性量(病理組織学的な病変に基づく)を比較すると、両者には概ね1,000倍程度の乖離があることから、SHに関して毒性試験情報を人へ外挿することの困難さが行政施策上、問題とされてきた。これに対応すべく、先行研究にてガス体11物質を指針値レベルでマウスに7日間吸入ばく露し、肺、肝の遺伝子発現変動を高精度に測定し、そのプロファイルを分析した(Percellome法)。うち、構造骨格の異なる3物質について、海馬での遺伝子発現変動の結果、3物質が共通して神経活動の抑制を示唆する変動を誘発することが明らかとなり、その分子機序に関わる共通因子が推定された。

     これを裏付ける情動認知行動の異常を確認する目的で、ホルムアルデヒドとキシレンについて、各指針値の10倍濃度にて、22時間/日×7日間反復吸入暴露を成熟期(11〜12週齢)の雄性マウスに実施し、3種類の情動認知行動バッテリー試験により解析した結果、暴露終了日では、両物質に共通して空間-連想記憶及び音-連想記憶の低下が認められた。続いて、生後2週齢から3週齢時(幼若期)に、各指針値の10倍濃度にて22時間/日×7日間反復吸入暴露を実施し、成熟後12週齢時に情動認知行動解析を検討した結果、キシレンでは音-連想記憶の低下が認められ、遅発性に情動認知行動に影響することが明らかとなり、生後脳発達への有害性が示唆された。

     更なる評価手法及び基準の一般化を進めるため、第21回の検討会(平成29年)が掲げた、SHが疑われる新たな室内揮発性有機化合物2-エチル-1-ヘキサノールに本手法を適用しており、この解析結果についても報告する。

シンポジウム3
  • 天野 幸紀
    セッションID: S3-1
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

    本企画は「本邦におけるトキシコロジストの活躍の場を広げてゆくために、その社会的位置づけの確立、向上に資すること」を目的とした継続的プログラムである。昨年は、大学、企業における基礎教育の概要、JSOT認定トキシコロジストの意義について討議した。

    今回はトキシコロジストが業界の国際化にどのように対応してゆくのかを考える材料として、国内・海外のCROでの勤務経験、国内企業の国際化への過程で要求される条件、動物福祉の側面から見えてくるグローバルスタンダードという考え方、各極のトキシコロジー関連資格の比較などから国際化への対応を考えたい。企業の若手研究者、その指導者、さらに毒性関連領域に興味を持っている学生ならびにその指導教官の方々と課題を共有しどのように対応してゆくのか討議できることを期待している。

  • 角崎 英志
    セッションID: S3-2
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

     医薬品開発は国際化の一途を辿っており、非臨床開発も例外ではない。日本国内の製薬企業においても海外の受託研究機関(CRO)への委託は日常となっている。一方で、言語をはじめとする様々な違いにより、委託案件の紹介段階、契約、試験実施中のモニタ、試験報告にいたる場面で思うに任せない状況が発生しているのが現況であろう。今回の発表は、米国CROでの勤務経験に基づき、日本と米国の典型的な違いの具体例を提示し、理解の一助となることを目的とする。

     GLP運営体制で日本と大きく異なる点は運営管理者の考え方である。日本は個人としての運営管理者がGLP組織の全責任を基本的に担う。米国ではGLP運営管理はチームとして運営されるケースがほとんどであり、数名のチームで運営管理者としての機能を果たすことになる。これは2016年にFDAから公開されたProposed Final Rule of GLPに運営管理に関してtesting facility management with executiveという再定義がなされていることからも理解できる。QAUはその独立性を厳格化するため、GLP組織というより会社組織のトップに直接レポートすることが推奨される。業務はJob descriptionによって細分化され、権限委譲されている。例えば、試験責任者は計画段階で専門分野の試験計画・実施・報告の責任を同一GLP組織または外部GLP組織の個人へ権限委譲できる。

     本編では、日本中心に働いてきた学会員諸氏に「違い」は多様性と深く連関していることを理解頂く実例をさらに紹介する予定である。今後の海外CROとの協働推進と我々の振り返りの一助になれば幸いである。

  • 福井 英夫
    セッションID: S3-3
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

    武田薬品では、Global Drug Safety Research Evaluation部門でDrug Safety Therapeutic Area Lead for GIとして全ての消化器病治療薬の毒性評価を担当し、2015年に逆流性食道炎治療薬であるpotassium competitive acid blocker Vonoprazan (日本名:タケキャブ)の上市に貢献した。武田薬品がグローバル化する過程で、毒性担当として海外及び国内開発に携わってきた経験から学んだことを纏めて発表したい。非臨床安全性試験は、一般毒性、遺伝毒性、生殖発生毒性、がん原性、安全性薬理等、多種多様な試験から成り立っている。それらを最速かつ同時並行的に遂行するために各専門家がチームを組み、各自の能力を最大限に発揮することで高い相乗効果を生み出してきた。農耕民族的精神に裏付けられた奉仕の精神が機能する内資系企業の強みと言える。しかし現在は、日本人だけ、あるいは内資系企業一社だけで医薬品を開発するには困難な時代になった。その理由は、多岐に渡る開発化合物(低、中、高、メガ分子)、高騰する研究開発費、及び日本市場だけでは期待薄な持続的成長である。多くの内資系企業は急速にグローバル展開する道を選択した。研究開発におけるグローバル化を成功させるためには日本人研究者は外国人研究者との発想の違いを理解する必要がある。グローバル企業でトキシコロジストにも要求される条件について説明する。各種治療領域での開発化合物のNDA&INDを数多く経験すること、及びPhD, 認定トキシコロジストあるいは英語などの資格を取得することにより、実績に裏付けられた自信を持って活躍できる。開き直りの心を持って、変化の波にすばやく適応することがトキシコロジストにも必要な時期が到来している。

  • 安倍 宏明, Nicole NAVRATIL
    セッションID: S3-4
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

     現在、どの業界においても標準化が叫ばれ、またそのイニシアティブをいかに握るかという競争が起きている。

     標準化の利点は、変数を削除して信頼性を向上させ、手続きが一様であれば、効率、生産性を向上させることが期待できる。ICHは、この業界で実施された動物実験の多くを含む品質、安全性、および有効性試験の要件を調和させてきた。しかし、動物福祉に関する国際調和はされておらず、標準化を支援するためのプラットフォームはあるものの、プログラムの実施には多くの外部要因の影響を受ける。科学の進歩、社会からの期待は常に変わり、環境エンリッチメントの理解の向上は現在ほとんどの国で検討されているものの、ゆえに単一の標準化されたプラットフォームはまだない。

     動物福祉は世界中でどのように管理されているのか?世界保健機関(OIE)は、実験動物の福祉に関する基本的な国際ガイドラインをいくつか提供し、国際基準として “3Rs”が求めているが、動物福祉の実際については各国または各施設に委ねられている。米国では、USDA動物福祉法および動物福祉規則に従わなければならず、多くの施設はAAALAC認証を取得している。欧州は欧州議会の2010/63 / EU指令および2010年9月22日の理事会指令に基づき、ガイドラインを各国に設定し、各社が基準を設定している。米国、欧州およびその他の国の法律、ならびにAAALAC認定の要件は、必ずしも互いに調和しているわけではなく、基準も、各社、各施設で考慮されることとなる。日本では第三者認証についてAAALAC認証、HS財団、国動協等がある。言い換えれば、標準化が求められる最中、決定された基準はない。

     世界の動物福祉基準の理解と、これらの基準の一部を動機づけているPublic Engagementを深め、国際舞台における動物福祉基準について考える機会になれば幸いである。

  • 竹内 文乃, 古川 賢
    セッションID: S3-5
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

    トキシコロジストは毒性の検出、機序の解明と化学物質の管理までを含む広い範囲に及ぶ専門的な知識と高い技術を要求される。この基準を満たす専門家を認定するため、日本、アメリカ及びヨーロッパでは、各国の毒性関連学会による認定トキシコロジスト制度が設けられている。アメリカにおける認定トキシコロジスト資格であるDiplomate of the American Board of Toxicology(DABT)については日本においても取得者がおり、よく知られているが、ヨーロッパの認定トキシコロジスト資格についてはあまり知られていない。そこで今回、ヨーロッパの状況について紹介する。

    ヨーロッパにおける認定トキシコロジスト制度は、イギリス(British Toxicology Society:BTS)、ドイツ(Deutschen Gesellschaft für Pharmakologie und Toxikologie:DGPT)、オランダ(Nederlandse Vereniging voor Toxicologie:NVT)、フランス(Société Française de Toxicologie:SFT)等、国ごとに各主催学会で認定される資格と、ヨーロッパ全体としてEUROTOXにより認定される資格(European Register of Toxicologist:ERT)に大別される。前者は、各学会で策定する基準に従い、トレーニングコース等に参加することによって認定資格を取得することができる。後者のERTについては、直接申請して取得する他に、前述の各国資格を変換することで取得ができ、2016年時点で21カ国で約1900名の有資格者がERTに認定されている。EUROTOXではERTとしての標準化と透明性確保のため、ガイドラインを公表している。その中で、申請による資格取得の要件として挙げられているものに、14の必須科目と2の専門項目の習得があるが、トレーニングコースは長期間にわたるため、資格取得には時間と労力を要する。本発表ではERTの登録要件、トレーニング内容、DABTやDJSOTとの比較、資格を取るとどのような利点が得られるか、DJSOTのヨーロッパにおける認知度などを報告する。

シンポジウム4
  • 門田 利人
    セッションID: S4-1
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

     1960~80年代(昭和の後半)、日本は薬害・公害の時代であった。ペニシリン/ショック、サリドマイド禍、コラルジル/リン脂質症、キノホルム/スモン病、有機水銀/水俣病、カドミウム/イタイイタイ病、ヒ素/ミルク事件、PCB/カネミ油症など枚挙にいとまがない。これらの痛ましい事故・事件の教訓から薬物安全性評価の充実が希求された。医薬品分野では、1984年「薬審第118号、医薬品の製造(輸入)申請に必要な毒性試験のガイドライン」が策定され、Minimum Requirementとして準拠が求められた。臨床適用以外の経路でも単回投与試験を実施し、LD50値や無影響量を算出する目的で数多くの動物が犠牲となった。ヒトへの外挿性が乏しいと知りつつも試験を実施した。これらへの反省は、国際調和という形で促された。1991年(平成3年)の効率的な新医薬品開発を目指した規制の国際調和会議(ICH)の設立である。日本は、ICHからの勧告を受け入れ、無影響量から無毒性量へと改めた。ICHでは、日本は欧州と共に非げっ歯類の長期反復投与試験の投与期間を最長6か月と主張したが、9か月で妥協・合意せざるを得ないという苦い経験もした。今日まで、S1(がん原性試験)からS11(小児用医薬品の毒性試験)まで、改訂を重ね、また、新たなトピックについて議論されてきた。このように、平成の30年間は、国際調和した規制・ガイドラインが策定・施行された時代であったが、平成時代の終わりとともに、ガイドラインに依存した画一的試験の時代から医薬品毎に熟考された多様な試験の時代となることを期待したい。

     核酸医薬品、遺伝子治療、再生医療などの革新的医療技術において、本当に従来型の毒性評価方法は通用するのか。50年間も医薬品の毒性評価に関わった経験から、新たな時代に毒性評価に携わる若い毒性研究者にとって参考になる情報を提供できたら幸いである。

  • 高橋 統一
    セッションID: S4-2
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

    非臨床毒性試験に用いられる正常実験動物と,実際に薬剤を服用するヒトでの薬剤(化学物質)への反応性の違いは数多く報告され,このような違いが生じる大きな要因として薬剤を服用するヒトの個体差(人種・性別・年齢・生活環境・生活習慣・疾患の有無など)が報告されている。これらのヒトにおける個体差のうち,非臨床毒性試験で評価・対応可能な要素として生活習慣(疾患の素因)や病態(化学物質誘発あるいは自然発症病態モデル動物)があり,多くの研究者がヒトの病態に類似した実験動物を作出して化学物質の安全性や毒性発現機作を調べている。これらの研究で判明した知見,すなわち正常実験動物と病態モデル動物の化学物質への反応性の違いやその理由を,新たな薬剤の開発のために実施される非臨床毒性評価に生かす努力がなされているが,選択する病態モデル動物によって同一薬剤でも異なる結果が得られる等,病態モデル動物を利用した毒性試験の評価系確立には,さらに知見の収集や解析が必要と考えられる。このような背景から,我々はヒトの糖尿病と表現型が類似したSDTラットやSDT fattyラットを安全性評価に用いる試みを続けている。SDT fatty(SDT.Cg-Leprfa/JttJcl)ラットはSDTラット(自然発症の非肥満2型糖尿病モデル)に肥満遺伝子Leprfaを導入した肥満2型糖尿病モデル動物である。SDT fattyラットの糖尿病性合併症やその病態プロファイルは特に慢性病態において他の糖尿病モデルラットよりもヒトの病態に類似性が高いことが報告されている。さらに,SDT fattyラットでは糖尿病発症による栄養学的な修飾により,正常動物と比較し薬物代謝も異なる可能性があり,糖尿病に関連した研究に最適な病態モデル動物の1つであると考えている。我々はこれまでにいくつかの薬剤や化学物質について肝臓を中心に病態モデル動物における毒性修飾を調べており,これらの結果は非臨床安全性評価の向上に寄与するものと考える。

  • 藤田 朋恵
    セッションID: S4-3
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    わが国の治験(臨床試験)のリスクアセスメントについて過去30年間の議論と今後10年間の発展について、First in Human (FIH)を中心に考えてみたい。FIHとは医薬品をヒトへ初めて投与し、ヒトでの初期の安全性や忍容性を推測することを目的の一つとする試験である。1980年代、医薬品の安全性、毒性評価に関してGLPが導入され、その後臨床試験の倫理指針を作る動きが始まった。1989年、第三者による審査と被験者の自由意思による参加を定めた臨床試験の基準が公表された(旧GCP)。1997年、ソリブジンの薬害事件を契機に法律に基づく省令として公布された(新GCP)。その後ICH-M3ガイドラインにおいて、FIHを行うために必要な非臨床試験の種類や実施時期が示された。2006年、イギリスで行われた健康者のFIHで抗体医薬品の初回投与後に被験者全員がサイトカインストームを発症する事件が発生した。欧州の規制当局(EMA)のガイドラインを受けてわが国では2012年にFIHリスク低減のガイダンスが出され、無毒性量に加え最小薬理作用量に基づく初回投与量の推定、逐次投与、十分な投与間隔などが示された。2016年、フランスで行われたFIHで低分子薬物の反復投与後に死亡者が出るという重大な事件が発生した。EMAによりリスク低減のための新しいガイドラインが出され、最大投与量と曝露量、最大投与期間、半減期と作用時間、反復投与時の蓄積性などを配慮することが示された。2017年、臨床研究法が公布され臨床研究も法律の対象となった。今後の被験者リスク最小化を目指したリスクアセスメントは、非臨床・臨床専門家、治験担当医の協力関係の下、リスク予測のためのバイオマーカーの活用、試験デザインの工夫、試験中に得られた情報に基づく試験デザインの柔軟な変更、有害事象の予測に基づく救急体制整備などへ発展していくと考える。

  • 海野 隆
    セッションID: S4-4
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

    医薬品が適用される患者の安全性を担保するためには、実験動物を用いた非臨床毒性試験およびヒトを対象とする臨床試験に基づく。

    かつては各国には独自の毒性試験法ガイドラインが存在し、それぞれの国に合わせて、毒性試験が行われることも少なくなく、ハーモナイズが必要となった。

    そこでICHによりガイドラインが作成され、無駄な動物試験や重複した動物実験が回避されるようになった。その後Russell とBurchが“The Principles of Humane Experimental Technique(1959)”において提唱した3Rsの理念を受けて、実験動物福祉にも関心が向けられる様になった。

    これは動物実験福祉を考慮する事により、非臨床試験のコスト削減と効率化にも寄与する結果となるものであった。

    動物愛護活動家のなかには「動物実験は残酷」という理由だけで反対しているが、偏る意見を迎合する集団により、臨床試験への参加者や患者の安全性を損なうことは許されない。

    しかしながら実験動物福祉に配慮しつつ、実施される動物実験の必要性と意義を吟味し、最小限の毒性試験を精度高く有効に実施することを、常に念頭におくべきである。

    現実には医薬品開発においてガイドラインが求めるパッケージを満足するために毒性試験が行われることがある。安全性試験は臨床試験へ参加する被験者への有害性を予測・回避するために行われるものである。

    将来、生命科学研究やAIの進歩により、医薬品開発の戦略の転換は余儀なくされ、臨床試験は不可欠ではあるものの、in vivo毒性試験のウエイトは徐々に減少し、最終的にその実施の意義が失われるであろう。

シンポジウム5
  • 吉田 武美
    セッションID: S5-1
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

     現在アセチルコリンエステラーゼ(AChE)を標的とする医薬品や農薬類は数多く、それらによる副作用や有害作用の例は少なくない。我が国においては、神経毒ガスサリンを用いた大事件も発生し、当時暴露された方々の後遺症などに関して、本学会でのシンポジウムでも取り上げられた。一方、ACh受容体を標的とするネオニコチノイド系農薬が開発され、ヒトへの安全性が高いとされ、広く用いられている。AChE阻害薬は、医薬品として高齢者に使用される頻度が高く、一方農薬としてのACh関連酵素や受容体作用物質は環境中へ排出され、乳幼児等への曝露による高度中枢機能など発達への影響が懸念されている。コリン作動性の化学物質の基礎と臨床の現状を整理し、議論を進め、医薬品や農薬の抱える問題点を共有したく本合同シンポジウムを企画した。

     本シンポジウムでは、現在実際にAChE阻害薬や受容体作動薬に関して基礎や応用研究されている研究者3名と救急医療現場でAChE阻害薬中毒によるコリン作動性クリーゼの実態を直接経験されている1名の医学研究者に話題提供をお願いしている。コリン作動性の医薬品や農薬等の包括的な理解が深まることを期待する。

  • 木村-黒田 純子, 黒田 洋一郎
    セッションID: S5-2
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

    近年、自閉症、注意欠如多動症(ADHD)など発達障害が急増しており、社会問題となっている。従来、発達障害は遺伝要因が大きいと言われてきたが、膨大な遺伝子研究が行われた結果、遺伝要因よりも環境要因が大きいことが明らかとなってきた。環境要因は多様だが、なかでも農薬など環境化学物質の曝露が疑われている。2010年頃から、有機リン系農薬(OP)曝露がADHDなど発達障害のリスクを上げることを示す論文が多数発表された。2012年、米国小児科学会は“農薬曝露は子どもに発達障害,脳腫瘍などの健康被害を起こす”と公的に警告した(Pediatrics, 130)。OECDによれば、日本の農地単位面積当たりの農薬使用量は、世界でも極めて多い。殺虫剤では、世界で規制が強まっているOPの使用がいまだに多く、ネオニコチノイド系農薬(NEO)の使用量が急増している。国内の子ども(223名、2012-3年)の尿中にはOPの代謝物やNEOが極めて高率に検出され(Environ Res, 147, 2016)、日常的な慢性複合曝露影響が危惧されている。OPはアセチルコリン分解酵素を阻害し、NEOはニコチン性アセチルコリン受容体を介したシグナル毒性(J Toxicol Sci, 41, 2016)を示し、共にコリン作動系を障害する。コリン作動系は、中枢及び末梢の脳神経系で重要であり、特に発達期の脳でシナプス・神経回路形成を担っている。NEOはヒトには安全と謳われたが、哺乳類の脳発達に悪影響を及ぼす報告が蓄積してきている。我々のラット発達期小脳培養系では、短期曝露でニコチン様の興奮作用を起こし(Plos One, 7, 2012)、長期曝露で遺伝子発現を攪乱した(IJERPH, 13, 2016)。我々のデータと共に国内外の報告から、NEOの影響を中心に、コリン作動系を介した脳発達について考察する。

  • 石塚 真由美
    セッションID: S5-3
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

    ネオニコチノイド系殺虫剤(ネオニコチノイド)は、現在世界で広範囲に使用されている農薬の一つである。ネオニコチノイドは浸透性であり、根や葉面、実に施用すると、植物全体に行き渡り、殺虫効果が必要とされる成長期の葉や実の表面だけでなく収穫期の可食部にも移行し残留する。そのため水洗により取り除くことができず、摂食によりネオニコチノイド大部分が体内に取り込まれ、生物活性のある原体または一次代謝物として排泄される。

    ネオニコチノイドに関し、哺乳類を含む脊椎動物に対する曝露影響については未だ議論が続いている。これまでの動物を用いた投与実験の結果では、ネオニコチノイドの高濃度曝露はニコチン性アセチルコリン受容体刺激によりニコチン中毒様症状をきたすが、少量では無症状で、持続曝露による中毒や胎内曝露による発達神経障害の危険性は無いとされてきた。しかし、2012年にネオニコチノイドが哺乳類の神経細胞に対しても毒性を有する事が見いだされ、その後、NOAELレベルの曝露量で、高等脊椎動物の行動や生殖器系に毒性が生じる可能性が報告された。一方で、現在、ヒトがどのようなネオニコチノイドにどの程度日常的に暴露されているのか、正確に分析したデータは少ない。そこで本研究では、ネオニコチノイドによる感受性が高いと考えられる小児(3歳~6歳)から尿を採取し、尿中のネオニコチノイドおよびその代謝物を測定することで、曝露評価を行う事を目的とした。分析した結果、thiaclopridは検出頻度が30%程度であり、濃度は<LOD~0.13µg/Lであった。この頻度と濃度は、dinotefuran(頻度、48~56%;濃度、<LOD ~ 72µg/L)やN-dm-acetamiprid(頻度、83~94%;濃度<LOD ~18.7µg/L)など今回検出された他のネオニコチノイドに比べて低い値であった。次に、尿中濃度から曝露量を推定した結果、分析対象とした全ネオニコチノイドの曝露量は最大640µg/日であり、中でもdinotefuranの曝露量は最大450µg/日に達した。一方、これらの曝露量はADIに比べ数%程度であった。

  • 平 久美子
    セッションID: S5-4
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

     ネオニコチノイドは、農作物、愛玩動物、建築資材などに適用がある浸透性殺虫剤で、imidacloprid、acetamiprid、thiacloprid、nitenpyram、thiamethoxam、clothianidin、dinotefuranの7種に加え、中国で使用されているcycloxaprid、paichonging、imidaclothizがある。ニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)に対し競合的変調作用を有するが、脊椎動物nAChRへの作用が比較的弱いことを安全性の根拠とする。近年、種子への予防的な大量使用によりミツバチをはじめとする授粉者やその他の生態系サービスを担う広範な種に悪影響を与えたという世界的な科学的証拠に基づき使用の制限が進んでいる。他方、ネオニコチノイド系ではないが浸透性かつ同様の作用のあるsulfoxaflor、flupyradifuroneが新たに市場に導入され、triflumezopyrimが開発中である。これらの浸透性は、水溶性、高いオクタノール/水分配係数、極性溶剤への高い溶解度、生理的pHでの非イオン性、比較的低い分子量(概ね300未満)などと関連する。

     ネオニコチノイドはヒトの腸管からよく吸収され、血液脳関門及び胎盤を通過する。生物濃縮は起きにくいが、毒物動態的には、慢性暴露により組織濃度は定常状態レベルに達するか増加する。acetamipridの代謝物N-desmethyl-acetamiprid およびimidaclopridの尿中排泄半減期は約1.5日である。代謝物には原体よりも生物活性の高いものもある。

     ネオニコチノイドは一般人の試料から頻繁に検出され、高用量急性もしくは持続暴露による中毒事例が報告されている。哺乳類への慢性暴露は、神経機能および胎児の神経発達に悪影響を及ぼすことが知られている。哺乳類の神経細胞を用いた系では、ニコチンと同等の濃度で作用する例が見出されている。ヒトや哺乳類のnAChRには様々なサブタイプと遺伝多型が存在するが、原体および代謝物がどのくらいnAChRと結合しやすく、また解離しやすいかの毒物動力学はほとんど知られていない。

     nAChRをはじめとする神経受容体に競合的変調作用を有する浸透性殺虫剤について毒性評価の枠組みを新たに設け、ヒトでの中毒事例のデータベース化、神経発達毒性、ヒトでの毒物動態、哺乳類nAChRとの毒物動力学など、健康リスク評価に必須なデータの蓄積を学際的かつ包括的に行う必要がある。

  • 小野寺 誠, 伊関 憲, 藤田 友嗣, 菊池 哲, 藤野 靖久, 井上 義博
    セッションID: S5-5
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

     重症筋無力症や排尿障害治療薬であるジスチグミン臭化物は、カーバメート系コリンエステラーゼ阻害剤に属し、可逆的な抗コリンエステラーゼ作用を有する薬剤であるが、漫然と投与することによりアセチルコリン過剰状態でかつ呼吸困難を伴う病態であるコリン作動性クリーゼに陥るときがある。コリン作動性クリーゼの発生頻度は0.2%と稀ではあるが、65歳以上の症例や投与開始後2週間以内に多くが発生していることから注意を要する。

     臨床的にはアセチルコリンエステラーゼ阻害による副交感神経優位の諸症状が出現する。すなわち、ムスカリン受容体作用優位の症状である流涎、気道分泌過多、発汗、縮瞳、嘔気、徐脈、腹痛、下痢、ニコチン受容体作用優位の症状である呼吸筋筋力低下、振戦、線維束攣縮が出現し、重症になると意識障害、痙攣、呼吸筋麻痺から心停止にいたる。

     血液検査上、血清コリンエステラーゼの著明な低下が特徴的である。しかし、低用量で長期間内服している患者ではコリンエステラーゼの低下が緩徐であることからクリーゼの前段階であるアセチルコリン過剰状態を見逃すことがある。

     診断において最も重要なことはジスチグミン臭化物の服用を確認することである。既往歴から服用量や服用期間を聴取し、可能であれば血中および尿中ジスチグミン臭化物の同定・定量を検査機関等に依頼する。分析器機として半定量式高速液体クロマトグラフィによる自動毒薬物分析装置、ガスクロマトグラフ質量分析計、液体クロマトグラフ質量分析計などが用いられる。

     治療のポイントは原因の除去と対症療法が中心となる。消化管除染により原因物質を体外へ除去する。ムスカリン様作用による副交感神経刺激症状に対する対症療法としてアトロピン硫酸塩水和物を、ニコチン様作用による呼吸筋麻痺に関しては呼吸管理を行う。

     予後は比較的良好であるが、救命しえなかった報告もあり早期診断、早期治療が重要である。

シンポジウム6
  • 鶴岡 秀志, Ilise L FAITSHANS
    セッションID: S6-1
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

    20年以上にわたるナノ材料の毒性研究から、ナノ材料の毒性の分類について新しいアプローチが検討されている。2017年9月に発表されたProSafe白書は、データの品質と管理を標準化することにより、ナノ物質の規制を欧州化学物質規制REACHに組み込むことを提案している。2017年12月末に発表されたEU-USロードマップNano Informatics 2030も規制案を立案することを求めている。しかし、結果の解釈に関するコンセンサスの欠如と実際の測定方法(In-Silicoモデル)に関して測定方法の標準化は議論の余地を残したままである。他方、最新のCNTを使用してStanton-Pott仮説を検証するための研究が鋭意研究されている。しかし、規制面では、この研究の結果は、通常、ナノマテリアルの規制の基礎を提供する基準またはベンチマークの作成には不十分である。また、長年の間、予想であったStanton-Pott仮説の検証を最新のCNTを使って未検証範囲の検討が行われている。他方、規制側の立場から科学的に立法に適用できる基準 (Benchmark) の構築を求める声が産業界とStakeholderから上がっている。欧州提案ではバルクとナノの分類の撤廃を求めることが提案されている。科学と規制と法的リスクを総合的に検討しなければならない時期に来ていることは確かであるが、この複合問題を明快に論じることができる専門家は稀で指針のアドバイスをうけることは容易ではない。本講演では、2月に来日講演された米国ニューヨーク州弁護士および毒性学博士で欧州ナノ規制のアドバイザーをしているDr. I. Faitshans氏のナノテクと法律に関する著書(4月刊行)の編纂に関わったことを下に、Safe Nanoと法律の観点から毒性学の貢献を論じる。

  • 津田 洋幸, 徐 結苟, William T ALEXANDER, David B ALEXANDER, Mohamed ABDELGIED ...
    セッションID: S6-2
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

    金属やシリカ粒子は小さくすることによって単位重量あたりの表面積が増大し、化学反応効率が高くなる。その目的で「少なくとも一次元が100nmより小さい」と定義される多種の金属、シリカ、炭素等のナノ粒子の生産が増加している。生産事業所、消費者、生活環境における曝露対策が重要となりつつある。これらの物質は難分解性であるために肺に吸引されると肺胞・肺胞壁、胸膜等に沈着して異物炎症を誘発する。したがってナノマテリアルの有害性評価、とくに吸入曝露試験が必須であるがそれには高額な専用設備と稼働コストが必要であるために、屢々気管内投与試験が代替されてきた。多層カーボンナノチューブ(MWCNT)は導電性に優れ、軽くて耐腐食性である特性から、リチウム電池、航空機、塗料等に使用されつつあるが、腹腔内投与によって幾つかのMWCNTに発がん性を示すもの見出された。しかし、腹腔内投与はヒトに外挿できない曝露ルートであるために、リスク評価には適しない。我々は吸入曝露に代わって経気管肺内噴霧投与(TIPS)を開発し、ナノサイズの二酸化チタニウム、酸化亜鉛、さらに多層カーボンナノチューブ(MWCNT)について発がん性の検証を行ってきた。MWCNTは肺内投与によって肺、胸腔、縦隔リンパ節等に持続性の異物反応を誘発する。そのために短期間投与し、以後無処置にて観察する方法によって障害性と発がん性について観察する方法を開発してきた。その結果、短期(2w)投与後2年間無処置観察にてMWCNT-NとMWCNT-7(固有名)に発がん性を見出した。この TIPS法について最近の結果を含めて紹介する。(厚生労働科学補助金・化学物質リスク研究事業および日本化学工業協会LRIによる)

  • 菅野 純
    セッションID: S6-3
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

     ナノマテリアル(NM)は、その粒子の縦・横・高さのどれか一辺が100ナノメートル以下と定義される多種多様な粒子の総称であり、それらの新しい物理化学的特性が、新たな毒性の危惧を生んでいる。

     従来、粒子状物質毒性学という分野があり、その一つにアスベストに代表される繊維発癌(肺癌や中皮腫)がある。カーボンナノチューブの中には、これに該当する大きさと形状の粒子を含むものがある事から、まず、その癌原性が確認された。

     概して、難分解性・不溶性の粒子状物質の「急性毒性」は弱く、その「慢性毒性」が問題となる事が多い。NMの場合、個々の粒子(一次粒子)はナノサイズでも、凝集体(二次粒子)はマイクロメートルに及ぶ場合があり、吸入の際の毒性は、粒子の大きさや形によって呼吸器系内での到達部位が異なる点や、異物除去や炎症等の組織反応の主役であるマクロファージの反応様式が異なる点など、それほど単純ではない。Frustrated phagocytosis、肉芽腫・瘢痕形成、凝集体の修飾等が論議される。また、細胞外基質への沈着と間葉系細胞との相互作用も考慮される。

     ここでは、厚生労働科学研究費等で実施された中皮腫及び肺腫瘍に関する研究成果、及び、日本バイオアッセイ研究センターにおいて実施される2年間の全身曝露吸入がん原性試験の成果から、肺の異物除去機構、過負荷、用量相関性の関係を考察する。(厚生労働科学研究費補助金等による)

  • 高橋 祐次, 相磯 成敏, 大西 誠, 石丸 直澄, 菅野 純
    セッションID: S6-4
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

    吸入曝露経路は、工業的ナノマテリアル(NM)の有害性発現が最も懸念されるところである。NMを利用した製品開発が進展する昨今、有害性が人々に及ぶことを防止するための基準作りに必要となる基礎的かつ定量的な毒性情報を迅速かつ簡便に得るための評価法の構築が望まれている。一般的に、生体内で難分解性である粒子状物質の急性毒性は弱く、むしろ、発がんや線維化といった慢性的な影響が問題となることが過去の事例から明らかであり、動物実験による評価が必須であると考えられている。吸引されたNMが毒性を発現する過程において、各種の細胞及び生体内分子との様々な相互作用が想定されるが、慢性毒性発現の起点として、異物除去を担うマクロファージ(Mφ)が重要な役割を果たしていることは論を俟たない。我々は、これまでMφに貪食されたNMのMφ胞体内の蓄積様式(長繊維貫通、毛玉状凝集、粒状凝集)と蓄積量、Frustrated phagocytosis誘発の関係に着目し、マウスを用いた吸入曝露研究を進めている。ここでは長繊維について報告する。吸入曝露には汎用性の高い高分散性NM全身曝露吸入装置(Taquannシステム)を用い、モデル物質として多層カーボンナノチューブ(MWCNT)を選び、対照群、低用量群(1 mg/m3)、高用量群(3 mg/m3)の3群の構成で1日2時間、合計10時間の吸入曝露を行った。曝露終了直後(Day 0)において、肺胞Mφ(CD11blowCD11chigh)は用量依存的に減少したが、単球(CD11c+CD11bhigh)は用量依存的に増加した。病理組織学的には、MφがMWCNTを貪食し肺胞壁に定着、または細胞死に至っている様子が観察された。Day 0における肺負荷量は、低用量群では約6 µg/g lung、高用量群では約10 µg/g lungであった。MWCNTを貪食したMφは細胞死に至るが、その際に放出するサイトカインが残存するMφ及び単球から分化するMφのM1へ分化を促し、肺全体として炎症が惹起されている状態に移行することが想定される。本シンポジウムではMφの機能に着目したNMの慢性影響評価について報告する。(厚生労働科学研究費補助金等による)

  • 広瀬 明彦
    セッションID: S6-5
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

    ナノマテリアルの健康影響に関して、これまでにOECDやEUにおけるナノマテリアルの安全性に関するプロジェクトにより多くの知見が集積されてきたが、ナノマテリアルの本質的な健康上の懸念となっている慢性影響についてはそれほど多くの研究は報告されていない。特にカーボンナノチューブ(CNT)による吸入暴露による慢性影響については、現在のところMWNT-7のみにおいて2年間の吸入曝露発がん性試験が実施されたにすぎず、その他の数多くのナノチューブの慢性影響を評価できる公表データは存在しない。我々がこれまでに行ってきた腹腔内投与試験において長い線維を多く含むナノチューブほど中皮腫誘発性が強いことを示唆してきたが、この知見がどのくらい吸入曝露による影響を反映しているかについては、さらにいくつかのCNTによる慢性吸入曝露試験が必要となる。しかし、さらなる慢性吸入曝露試験の実施は、2年間の慢性吸入曝露を行う設備を持つ実験施設は国際的においてもその数が限られている現状を考慮すると実施可能性は低く、現実的な対応として慢性吸入曝露実験を代替できる評価法の開発が必要であると考えられる。一方、短期間の気管内投与による慢性観察試験においても腫瘍を引き起こすことが確認されており、粒子状物質が肺に長期間蓄積することにより慢性影響を示すことが示されている。このような手法は実験期間を短縮させることはできないが、吸入曝露を行うための特別な設備を必要とせず、非溶解性の粒子に限定される手法ではあるものの慢性影響を評価できる手法として有用であると思われる。さらに研究を進めて、肺内負荷量や分子マーカーと発がん性の関係性を解析できれば、短期間の気管内投与により慢性影響を評価できる試験系を開発できるようになるかもしれない。本講演では、CNTのような長期間体内に残留する粒子状物質の慢性吸入曝露影響を評価するために有用と思われる気管内投与試験法や短期間曝露による長期間観察試験の妥当性について考察する。

シンポジウム7
  • 星野 裕紀子
    セッションID: S7-1
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

     平成28年10月より、本邦では新医薬品の承認申請時に提出する臨床試験成績について、CDISC標準に基づく電子データが原則として求められている。一方、非臨床試験成績のCDISC標準であるStandard for Exchange of Nonclinical Data(以下、「SEND」)に関しては、これまでPMDA内において、審査等への利用の要否を検討してきたところであるが、一定の透明性が確保された状況下での多面的な検討が必要と考えられたことから、昨年度より、PMDA/MHLW、アカデミア及び製薬企業からなる研究班(AMED医薬品等規制調和・評価研究事業:「医薬品の安全性評価の効率化に向けたSENDに基づく電子化非臨床データの活用に関する研究」)を設け、その導入意義等について議論を重ねてきた。

     現在までのところ、①SENDの導入によるメリット、②SENDの導入に際して必要な準備事項、③毒性試験用語の統一に関する事項、④FDAにおけるSENDの活用状況、等について検討及び情報収集を行っており、本邦においてSENDを利用する場合の、基本的な考え方や検討すべき課題を整理した。

     本講演では、研究班における昨年度の活動状況について報告するとともに、今後の活動予定等について紹介したい。

  • 鈴木 睦
    セッションID: S7-2
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

     CDISC標準に準拠した電子データ提出は、本邦では臨床領域で2016年10月より受付が開始された。米国では臨床領域に続き、非臨床領域についてもNDA時に2016年12月以降、IND時には2017年12月以降に開始した対象試験について提出が義務化されている。本邦における非臨床領域における電子データの活用については、2017年4月からAMED研究班で議論が開始され、まもなく方針が発表される予定となっている(2018年2月現在)。

     製薬協医薬品評価委員会基礎研究部会では、2015年に加盟会社を対象に電子データ対応状況の調査を実施した。その後、2017年にも同様の調査を実施し、前回調査時からの進展を把握するとともに、既に対応を開始した企業が直面している課題整理を行った。また、基礎研究部会SENDタスクフォースでは、SENDIG v3.0に準拠して作成された試験デザインドメインを中心に、メンバー各社の保有する実際のSENDデータセットに入力された情報の中身(ドメイン毎に各変数の入力の有無と、各変数の記載方法)を匿名で収集し定性的に解析した。その結果、作成者あるいは施設間で差異の存在する変数が見つかり、その一部については、そもそも最終報告書への記載のバラつきを反映している可能性も考えられ、毒性試験に関連する用語や一般状態等に関する用語統一は大きな課題と考えられた。1994年に衛研から公開された毒性試験用語集をはじめいくつかの辞書等は存在するが、SEND対応へ向けた標準化の動きは毒性病理や生殖発生毒性の一部領域にとどまり、非臨床評価全般をサポートするまでに至っていない状況であった。

     以上、本シンポジウムでは、2015年以降の業界におけるSEND実装状況等に関する進展、環境の変化を示すとともに、現状の課題および将来的なSENDデータの利活用の可能性について全体像を紹介したい。

  • 吉山 忠宏
    セッションID: S7-3
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

     米国におけるNDA及びIND等の際にFDAに提出する非臨床安全性試験の内、一般毒性試験及びがん原性試験については、SENDによる申請が義務付けられた。日本においては、2016年10月からPMDAへの臨床試験データのSDTMによる申請が開始されており、PMDAにおけるSENDの導入については、2018年度から検討が開始される予定である。規制当局がSENDを用いて審査した際に不備が生じると、申請に時間を要するため、新薬を迅速に患者に提供するという目標が達成できない。SENDの品質確保は迅速な医薬品申請のために必須要件となる。

     現時点の国内製薬関連企業では、SENDの作成は、時間的及び技術的な面を鑑みて、少なくとも対応初期は専門企業との協業を主体に検討されており、製薬メーカは経験を重ねながらデータの編成、構造等の具体的な要望を出せるようにSEND関連の知識を備えていく方針で準備が進められている。

     日本QA研究会では、SENDの作成を外部へ業務委託することを前提にSENDの品質保証に関する方法を検討した。検討班では、SENDの作成前段階である業務委託先選定のための事前質問票、試験データからSENDの作成工程における第三者による品質保証のための確認リストの作成を行い、最後にSENDに関する品質保証の留意点を検討した。結果、第三者によるSENDの品質を確保するための方法を示すことができた。今後の課題としては、SENDの品質保証を行ううえで準拠する規格について検討する必要性が挙げられた。SENDは生産に特化した品質保証が必要であり、かつ最終報告書や生データとのData Integrityも考慮する必要があるため、その手段としてISO9001に基づく的確なQMSの構築が急務であると示唆された。

     本講演では、SEND作成、その品質保証に関わる非臨床領域のベストプラクティスの検討を紹介する。

  • 中江 大
    セッションID: S7-4
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

     INHAND事業は,病理学的な用語・診断基準の国際統一化を図ることを目的とした北米・英国・欧州・日本の毒性病理学会による合同プロジェクトで,齧歯類の各臓器(系)・非齧歯類・魚類を対象とし,成果物を順次出版している.これまでに,齧歯類の呼吸器系,肝・胆道系,全体像・基本理念,泌尿器系,中枢および末梢神経系,乳腺・特殊脂腺,雄性生殖器系,軟部組織・骨格筋・中皮組織,皮膚とその付属器,雌性生殖器系,消化器系,細胞死,消化器系および膵・唾液腺,心血管系,骨格系(骨・関節・歯)に関するものが出版された.

     INHAND事業は,CDISCの要請を受け, CDISC・FDA・NCIのEVSと共に,2011年から,INHAND用語のSEND_CTとしての適切なマッピングと腫瘍性病変のチェックを実施している.ただし,SEND_CTとしての病理学用語マッピングは,INHANDを参照せずに行われている場合もある.

     INHAND成果物には,臓器(系)間の非整合性や時代遅れなどの問題があり,臓器(系)間統制を目的とした作業がはじまろうとしている.ただ,腫瘍性病変に関してはSEND_CTに合わせたクロスチェックを予定しているが,非腫瘍性病変に関してはそのことに言及していない.後者の理由は,明らかにされていないが,SEND_CTにおける非腫瘍性病変の扱いに問題があるためという見方がある.

     日本毒性病理学会は,INHAND成果物の向上を目指し,国際用語委員会を設置した.当該委員会は,組織学的用語と肉眼的用語を対象に,INHAND用語について臓器(系)毎に必要な修正・削除・追加を提案すると共に,INHAND用語とSEND_CTを組み合わせて臓器(系)間の統制を行った用語集を作成しようとしている.このことは,INHAND成果のCDISCにおける利用を,より適切かつ便利なものに改善するものと期待される.

  • 高橋 祐次, 鈴木 睦, 角田 聡, 平林 容子
    セッションID: S7-5
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

    非臨床安全性試験で発生する膨大なデータの収集、管理、解析、最終報告書の作成に至るまでコンピュータシステムが必須である。「毒性試験用語集」は、実験動物を用いた安全性試験における症状の表現法を標準化することを目的として、国立医薬品食品衛生研究所(国衛研)安全性生物試験研究センターが中心となり、1994年に発行されたものである。背景には、毒性試験用語集の「はじめに」にも記述されているように、コンピュータシステムの発展に伴い、数値データだけではなく症状観察、病理所見も統計的に解析が可能になったことがある。電子化されたデータは蓄積、検索、再利用を容易とするが、申請データとして二次利用される非臨床試験の特性上、施設を跨いで情報の相互利用の利便性を高めるためには、可能な限り共通の用語を用いることが必要である。毒性試験用語集は、そのために編纂されたが、その発行から四半世紀近く経過しており、現状に即した内容の見直しが必要とされている。現在、毒性試験用語集の改訂作業について、Standard for Exchange of Nonclinical Data (SEND)の研究班内に準備委員会を設置しその方法を検討中である。改訂作業を進めるに当たっては、毒性評価に用いられる一般症状、剖検等の所見用語に加え、SENDへの対応を視野にいれると日本語と英語の対応、更には毒性試験実施に関係する規制/慣習の用語の定義が必要となる。また、現在の毒性試験用語集は国衛研のホームページ上で公開されているものの、紙媒体での使用が前提となっており、一般に広く利用できる利便性を考慮すると、用語検索、他のデータベースへの移行が容易な電子化が必須である。加えて、最も大事なことは、継続的な見直し作業が容易に行える状況を維持することである。準備委員会では、用語集の改訂方法に関する作業についても構想中である。本シンポジウムでは、現在の進捗状況の報告を行う予定である。

シンポジウム8
  • 牛田 一成, 土田 さやか
    セッションID: S8-1
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

    植物は、草食動物の捕食から逃れるために様々な化合物を含む。化合物によっては、ミモシンのように直接に毒性を持つが、タンニンなどポリフェノールでは、動物に苦みを感じさせることで摂食を抑制するほか、タンパク質と結合して消化を阻害する。動物側の適応として、毒物の場合、肝臓でこれらを解毒する能力の他に、タンニンのような物に対しては、受容体を欠損させる、唾液タンパク質によってタンニンを吸着してしまうなどの適応が起こっている。青酸配糖体のような物では、腸内細菌の作用によって有毒な青酸が発生してしまうが、一方でミモシンやタンニンなどでは、これを直接分解する腸内細菌がいると、これらを含む食物を摂食することができるようになる。ミモシンの例では、Synergistes jonesiiが分解能を持つ細菌としてヤギの反芻胃液から分離されている。タンニンは、高いタンナーゼ活性を示すStreptococcus gallolyticus Lactobacillus apodemiがユーカリを食べるコアラ、ハイマツやガンコウランなどの高山植物を食べるニホンライチョウ、シイやナラの堅果を食べる野生齧歯目などから高頻度で分離されている。

    腸内細菌の側も、宿主の食事に応じて優占種の交代がおこるほか、同じ種が常に存在する場合でも、その細菌ゲノムの遺伝子構成に変化が生じており、例えばヒト科霊長類における植物食から雑食への移行やイノシシの野生から家畜化への過程で、ある細菌種の特定の遺伝子群の獲得(ないしは欠損)が認められる。このように宿主の生存戦略と腸内細菌の機能は密接に関わっており、こうした観点から見て、動物の個体は宿主の細胞だけでできあがっているわけではなく、腸内菌などの微生物叢も含めた「超個体」という概念で理解されるべきだという考えが広く受け入れられるようになってきた。

  • 川畑 球一
    セッションID: S8-2
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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     消化管に定着する腸内細菌は、食事や投薬に由来する多種多様な化合物と常に接しており、その影響で菌叢がダイナミックに変動すると言われている。さらに、菌叢のバランス異常が継続すると、われわれ宿主の生理機能も変調をきたし、さまざまな疾患の発症につながると考えられている。食物繊維やプレバイオティクスは腸内有用菌の増殖を促進することから、健康増進効果の高い食品成分として大きく注目されている。腸内細菌叢が薬物動態に及ぼす影響も広く知られるようになり、新薬開発や治療効果の改善に役立つことが期待される。また最近では、人工甘味料や保存料などの食品添加物も腸内細菌叢のバランスを変え、疾患リスクを高める可能性があると報告されている。

     ポリフェノールは腸管吸収を経て体内循環し、その生理機能を発揮することが期待される。しかし、小腸で吸収されるのはごく一部であり、大部分は大腸へと移行して腸内細菌による代謝を受けると考えられている。その様式は、エクオールのような高活性成分への代謝変換も確認されているが、低分子フェノール化合物への分解が主である。しかし、ポリフェノールと腸内細菌の組み合わせは膨大であり、未同定の高機能性代謝物の存在は十分に期待できる。そこで、腸内有用菌についてポリフェノール添加培地で培養し、その培養液の機能性を評価したところ、ポリフェノールが腸内細菌の機能性を向上させるという新しい生理機能を見出すに至った。本講演では、腸内細菌叢と食薬成分の関係性について概説するとともに、われわれが見出した新奇の機能的相互作用をご紹介したい。 

     ポリフェノールと腸内細菌が相互作用する意義は不明であるが、われわれ宿主は非栄養素を上手く利用して共生関係にある腸内細菌の機能性をコントロールし、健康維持に役立ててきた(=そのような成分を含む素材は健康機能性が高いと食経験で見出してきた)のではと考えている。

  • 森田 英利
    セッションID: S8-3
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

    Lederbergは「宿主とその共生微生物はそれぞれの遺伝情報が入り組んだ集合体である“超有機体”として存在していると考えるべき」と提唱しているが、そのタイミングが2003年のヒトゲノム解読完了以前であることは興味深い。その後、Gordonらのグループにより次世代シークエンサーによる細菌ゲノムの16SリボソームRNA遺伝子領域を用いた腸内細菌叢の網羅的な解析により“肥満腸内細菌叢”の考え方が発表された。

    また、1945年にReyniersによって無菌動物飼育装置が開発され、無菌動物を飼育できると同時に、ノトバイオート動物の確立が可能となった。その結果、インターロイキン-2ノックアウトマウスにおいて、SPFマウスでは潰瘍や炎症を起こすが無菌マウスでは潰瘍や炎症は起きないことやがん自然発症モデルマウスを、無菌化するとがんを発症しないことが報告された。無菌マウスでは、様々な組織や免疫系の異常や未発達であることがわかってきた。Hondaらの報告によると、ヒト腸内細菌叢による17型ヘルパーT細胞の誘導は、腸内細菌の強い接着は必須であった。また、制御性T(Treg)細胞も無菌マウスではほとんど誘導されず、抗生剤投与したマウスではTreg細胞数が激減することから腸内細菌の関与が考えられ、無菌マウスにヒト腸内細菌叢を投与しTreg細胞誘導能によりスクリーニングした結果、Clostrdium属細菌によってTreg細胞が強く誘導されていることが明らかとなり、これらの菌株群をマウス大腸炎モデルとアレルギー性下痢モデルマウスへの経口投与によりその症状を緩和させている。唾液細菌叢のKlebsiella pneumoniaeが腸管に定着することで1型ヘルパーT細胞を誘導し、そのため慢性炎症性腸疾患の発症する原因となっている可能性が、ノトバイートマウスとSPFマウスの比較に加え抗生物質処理での結果から導かれている。

    以上、Gordonらの2006年の報告に端を発しての約12年間に各種疾病や生体影響と腸内細菌叢との関係が次々と明らかにされてきた一連の報告について概要する。

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