日本毒性学会学術年会
第45回日本毒性学会学術年会
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シンポジウム8
  • 戸松 創
    セッションID: S8-4
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    腸内細菌は腸管から全身まで幅広く健康に関与する。たとえば、腸内細菌叢の変化は肥満や炎症など全身に影響を及ぼし、腸内細菌叢の移植により刺激への応答が受け継がれる。したがって、化学物質による腸内細菌叢の撹乱と回復の機構解明は、健康の基盤形成に重要である。

    近年、腸内細菌叢を解析する手法としてメタボロミクスの利用が増加している。メタボロミクスは代謝産物(メタボライト)の網羅解析(メタボローム解析)を基盤にした研究分野である。代謝産物の物性は多様であるため対応した分析法が必要となるが、水溶性化合物の分離に強みを持つキャピラリー電気泳動を利用した分析機器が開発されたことで解析対象物質が大きく広がった。

    従来のメタゲノムによる解析では、遺伝子の観点から菌種構成や発現遺伝子の情報を得る。これに対して、メタボロミクスによる解析では、代謝産物の観点から菌体内の構成成分や細菌-細菌間および細菌-宿主間の物質のやり取りに関する情報が得られる。この情報には、基質/生成物の共有, 生育の促進/抑制, シグナルの伝達などに関する知見が含まれると期待できる。メタボローム解析の対象としては菌体, 菌体外(腸管腔), 宿主などが考えられ、研究目的に応じた解析対象の選択が重要となる。

    最近では、代謝変動と疾患の鍵となる化学物質を同定した報告も増えている。たとえば、腸内細菌が産生するトリメチルアミンは宿主の肝臓でトリメチルアミン-N-オキシドに代謝されて動脈硬化を悪化させ、酪酸は免疫系に作用して制御性T細胞の分化を促して炎症を抑制する。本発表では、メタボロミクスを活用した最近の腸内細菌研究と、化学物質と腸内細菌の関係の読み解きについて紹介したい。

シンポジウム9
  • なし
    セッションID: S9-1
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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  • 渋谷 淳, 水上 さやか
    セッションID: S9-2
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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     DNAのメチル化は、がん抑制遺伝子のサイレンシングといった発がんのプログレッション過程に大きく寄与する。一方、発がん物質投与初期で前がん病変が誘発される前の段階から既にエピゲノム制御が破綻する遺伝子が存在する場合、そのサイレンシングによるがん化の機序が想定できる。この仮説の下に、我々は発がん早期予測指標分子の獲得を目的としてゲノムのメチル化変動に着目した研究を進めてきた。本シンポジウムでは、得られた候補分子の発がん過程への関与について紹介する。

     肝発がん物質thioacetamideの発がん用量をラットに28日間反復投与し、肝臓のメチル化マイクロアレイ解析と、その検証解析を実施した。次いで、得られた候補遺伝子の遺伝子産物について、肝発がん過程における免疫組織化学的な発現挙動を検討した。その結果、Tmem70Ube2e2の二つの遺伝子が得られ、検索した全ての肝発がん物質において、発がん促進により形成されたGST-P+肝前がん病変に一致していずれの遺伝子産物も発現減少し、腫瘍化後も発現減少が持続した。

     ミトコンドリアの酸化的リン酸化に関わるTMEM70のGST-P+前がん病変における発現減少に関しては、古くからWarburg効果として知られる酸化的リン酸化から解糖系へのシフトに関与する可能性を見出した。更に、細胞増殖及び解糖系へのシフトにc-MYCの転写活性化の関与が見出された。

     ユビキチン-プロテアソーム分解に関わるUBE2E2のGST-P+前がん病変における発現減少に関しては、そのユビキチン化標的蛋白質と考えられるc-MYCの転写活性化の持続とKMT5AによるPCNA分子の安定化、そしてDNA修復阻害因子であるKDM4Aの安定化を介したDNA修復遅延に寄与することが示唆された。

     以上、発がん物質投与で過メチル化を示した遺伝子の解析により、GST-P+ 巣を形成する前から細胞内代謝シフトや、ユビキチン化標的蛋白質の安定化が生じ、それらが肝細胞のがん化の引き金となる可能性が見出された。

  • 瀧 憲二
    セッションID: S9-3
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    医薬品を含む化学物質の生殖・発生毒性試験における安全性評価は遺伝子発現の関与する催奇形性に焦点が当てられている。しかしながら,母体側の器官である胎盤において,直接的もしくは間接的にエピジェネティックな作用により発生毒性が既定されることが提示されてきた。近年の科学・技術革新により分子生物学的領域での網羅的解析が可能になり,生命現象の理解が急速に進んできた。近年,胎盤で特異的に発現するmiRNAがあることが見出され,胎盤毒性との関連性について言及され理解されてきている。

    DNAのメチル化が胎盤に与える影響として5-アザシチジン(5azaC)投与により胎盤重量が減少し,迷路層の欠失など胎盤組織に影響がみられ,胎盤におけるメチル化の程度が胎盤発生に大きな影響を及ぼすことが報告されている。さらに,ヒト栄養膜細胞では外部低酸素状態によって高メチル化が観測されている。miRNAの発現制御およびDNAメチル化の異常パターンは,最終的に薬物曝露,疾患の重症度,あるいは将来の疾患または障害を発症するリスクの“初期指標”として,診断バイオマーカーの役割を果たす可能性が示唆されている。これらの報告とともに本シンポジウムでは喫煙,カドミウム,ビスフェノールAなど代表的な発生毒性物質について,発生毒性に対するエピジェネティクス関連の現象と今後の展開も含めて言及する。

  • 野原 恵子
    セッションID: S9-4
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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     ゲノムのエピジェネティック修飾(エピゲノム)は、特に受精直後の初期胚と、精子や卵の起源となる始原生殖細胞(PGC)の2つの時期に大規模な消去と再構成を受ける。これらのエピゲノムは発生プログラムに深く関与するが、一方で化学物質曝露の影響を受けて変化しやすいことが懸念されている。

     妊娠期の母親(F0)への化学物質曝露では、胎児(F1)の曝露にとどまらず、胎児期F1の体内で発生が始まりF2を作る細胞となるPGCも曝露を受け、すなわち多世代曝露となる。現在各種環境因子の胎児期曝露によるF1への影響については研究が活性化しつつあるが、F2で現れる多世代影響の検出や、分子メカニズムの解明および影響評価は今後の課題である。

     私たちのグループでは、妊娠期のC3Hマウス(F0)に無機ヒ素を投与すると、F2の成長後に肝腫瘍が増加するという新たな現象を見いだした。さらにその腫瘍増加はヒ素群F1の雄の子であるF2でおこることを観察した。これらのデータから、妊娠期のヒ素曝露によってF1胎内のPGCのエピゲノムが変化し、その変化がF1精子を介してF2に伝わり肝腫瘍を増加させるという仮説を設定した。この仮説を証明する手掛かりを得るために、現在はDNAメチル化とmiRNAに着目し、F2肝腫瘍やF1精子でヒ素曝露群特有に変化するエピゲノムの解析を行っている。これまでにヒ素群F2の肝腫瘍に特有なDNAメチル化変化を抽出し、その中で腫瘍増加に寄与する遺伝子調節に関与するDNAメチル化変化を明らかにした。またF1精子のDNAメチル化やmiRNA解析のために、精子の精製法を検討し解析を実施している。

     エピジェネティック毒性の評価という観点からの課題としては、F2影響に密接に関連するエピゲノム変化を明らかにし、その変化の大きさと影響の大きさとの関連を定量的に明らかにすることではないかと考えている。

  • 横井 毅, 香川 匠, 織田 進吾
    セッションID: S9-5
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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     近年、薬剤や化合物の暴露に起因する肝障害のバイオマーカー候補として血中microRNA (miRNA) が注目されており、様々な非臨床安全性試験における利用が進展しつつある。血中miRNAに関連した我々の最近の研究紹介と、今後の課題について考える。(1)我々はニューキノロン系抗菌薬とスタチンの併用による横紋筋融解症マウスモデルを確立した。さらに、本年会でGSHを低下させるのみで、急性腎障害マウスモデル確立した報告をした。肝由来miR-122-5pのみならず、心筋由来miR-208-3p、骨格筋由来miR-206-3p、および心筋と骨格筋両由来miR-133-3pの血中での発現変動profileが、臓器別病態と重篤度等の予測に有効である。(2)我々は肝細胞障害型、胆汁うっ滞型肝障害および脂肪肝の3つの代表的なDILIについて、病型判断及び早期発見可能なmiRNAの同定を目的とし、各ラット病態モデルを用いて、血漿中miRNAを次世代シーケンサーにより網羅的に解析した結果を、本年会で発表した。発症早期に各病型特異的なmiRNAを同定・評価した。(3)肝類洞内皮細胞は、抗癌剤の副作用の標的となることが知られている。我々は、肝類洞内皮細胞に特異的に高発現するmiR-511-3pを特定し報告した。miR-122-5pはヘパトサイトにのみ由来するため、肝臓の病型のさらなる情報が血液から得られる。抗癌剤治療を中断する副作用である類洞閉塞症候群の予知予防への適用が期待される。(4)同じ系統のげっ歯類に、同一条件で薬剤性肝障害を惹起させても、その重篤度には著しい個体差が認められる場合が多い。この現象がヒトにおけるidiosyncraticな薬剤性臓器毒性と同じ機序であるかは依然として不明であるが、より稀で重篤な副作用の予知予防のさらなる研究が待たれている。

  • 曽根 秀子
    セッションID: S9-6
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    生殖・発生や発がんなどの毒性にエピジェネティック制御が強く関与していることが指摘され、化学物質曝露によるエピジェネティック毒性の検出に関心が高まっている。演者は以前より、多能性幹細胞とその分化細胞を主な研究材料に、エピジェネティックな変動を引き起こす物質の迅速検出試験法を開発している。この開発研究では、多能性幹細胞モデルであるマウスESC細胞株とヒトiPS細胞(207B)株に、それぞれ、MBD-GFPとHP1-mCherryのコンストラクトを導入し、DNAメチル化及びヒストンH3K9メチル化修飾を指標としたグローバルなエピジェネティック状態を可視化するモデル細胞を樹立した。心毒性、肝毒性及び神経毒性が報告されている化学物質、135種類について、モデル細胞の核内に顆粒状に存在しているMBDまたはHP1の蛍光強度・面積・数に対する影響を、イメージングサイトメーターを用いて定量的に解析した。その結果、顕著な活性が認められた11種類の化学物質に関して、次世代シーケンサーを用いて幹細胞制御に関与する100遺伝子の網羅的遺伝子発現解析を行った。さらに、DNAメチル化PCR、ChIP-seq等を行い、化学物質曝露によって発現量に変化が確認された遺伝子領域におけるエピジェネティックな変化を調べ、モデル細胞を用いたエピジェネティック毒性の迅速検出試験法の有効性について検証した。さらに、他の環境要因との比較研究では、ヒトのiPS細胞からの網膜神経節細胞への分化誘導試験法を用いて、その初期に低線量放射線の照射と5-アザシチジン曝露による影響を調べた。DNAの二本鎖切断のマーカー分子であるγ-H2AXが増加する低線量被ばく条件下で、それに見合う転写変動が確認され、変化した遺伝子には反応、発達、分化などに関するものが見出された。以上のことは、多能性幹細胞を用いたDNAメチル化およびヒストンメチル化修飾の変動の迅速な検出により、化学物質や環境要因のエピジェネティック毒性を把握し、晩発影響の予測に活用できる可能性を示唆している。

シンポジウム10
  • 本橋 ほづみ, 赤池 孝章
    セッションID: S10-1
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    近年、システインパースルフィド(CysSSH)が生体内で大量に合成され、強力な抗酸化活性・親電子解毒代謝およびシグナル制御機能を発揮していることが明らかとなった(Ida, T., et al., PNAS, 2014)。われわれは、CysSSH生合成機構を解析するなかで、タンパク質翻訳酵素の一つであるシステインtRNA合成酵素(cysteinyl-tRNA synthetase, CARS)が、高いCysSSH合成活性をもっていることを見出した(Akaike, T., et al., Nat. Commun., 2017; Fukuto, J., et al. PNAS, 2018)。例えば、真核細胞・ほ乳類細胞においては、細胞質に存在するCARS1とミトコンドリアに局在するCARS2に強力なCysSSH合成能があり、これらCARSは、全く新規のCysSSH生成酵素(cysteine persulfide synthase)であることを証明した。また、CARS2により合成されるCysSSHとその還元代謝物である硫化水素(H2S)が、ミトコンドリアの膜電位形成を介して、電子伝達系を維持・促進し、エネルギー代謝機能を発揮していることが明らかとなった。硫黄代謝物を用いた電子伝達系は、原核細胞では硫黄呼吸として知られており、生物進化におけるエネルギー代謝の起源である。すなわち、この原始的な硫黄呼吸が、真核細胞、ほ乳類・ヒトにおいても、重要なエネルギー代謝経路として進化論的に良く保存され活発に機能しており、一方で、その還元代謝物の過度の生成と代謝制御の破綻が硫黄ストレスあるいは還元ストレスというユニークなレドックス病態をもたらすことが示唆される。本講演では、近年、レドックス代謝の分子基盤として世界的に脚光を浴びている活性硫黄代謝と生理機能について最新の知見を紹介することで、環境ストレスとレドックス疾患学の新たな展望を俯瞰する。

  • 西田 基宏, 西村 明幸, 西山 和宏, 田中 智弘
    セッションID: S10-2
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    生涯を通して受ける様々な環境因子の複合的曝露(エクスポソーム)がヒトの健康リスクを規定する要因として最近注目を集めている。多くの環境化学物質は親電子性が高く、これらは共通して生体分子中の求核物質(主にタンパク質のシステイン(Cys)チオール基)と化学反応し、生体分子に機能修飾を与える。こうしたタンパク質の親電子修飾の蓄積が生体恒常性の変容を誘発し、長期的に個体機能低下を招くことが示唆されている。我々は、ミトコンドリアの品質管理を制御するGタンパク質dynamin-related protein 1(Drp1)が高いレドックス活性を持つことに着目し、Drp1のレドックス活性がC末端に存在するシステイン(Cys624)残基によって制御されることを見出した。Cys624はミトコンドリアtRNA合成酵素(CARS2)活性依存的にポリイオウ化されることで、Drp1活性を負に調節すること、神経毒性を起こさない極低用量のメチル水銀曝露によりDrp1ポリイオウ鎖がイオウ枯渇することでDrp1依存的なミトコンドリア分裂が起こることをマウス心臓レベルで明らかにした。ミトコンドリア過剰分裂したマウス心臓に圧負荷を加えたところ、心臓の圧負荷に対する抵抗性が顕著に減弱し、突然死率と心不全重症度の顕著な増加が観察された。一方、心筋梗塞後の急性期のマウス心臓でも同様にDrp1活性化とそれに伴うミトコンドリア過剰分裂が観察された。しかし、慢性期のマウス心臓ではDrp1活性の低下と顕著な多量体化が観察された。この心筋細胞のDrp1多量体化は、低酸素ストレスと活性イオウを同時曝露することにより模倣された。以上の結果は、活性イオウによるDrp1タンパク質の品質管理がミトコンドリア形態機能調節を介して心疾患リスクを制御していることを強く示唆している。

  • 秋山 雅博, 鵜木 隆光, 蕨 栄治, 新開 泰弘, 石井 功, 赤池 孝章, 熊谷 嘉人
    セッションID: S10-3
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    【背景・目的】日々の生活において、我々の体は様々な親電子ストレスに晒されている。例えば、食生活、生活環境やライフスタイルを介して摂取される環境中親電子物質がある。活性イオウ分子(Reactive sulfur species, RSS)は、高い抗酸化性/求核性を呈するため、生体内レドックスホメオスタシスの鍵分子であることが示唆されている。これまでに、我々は、RSSが環境中親電子物質の捕獲・不活性化を介して、生体内の親電子ストレスを制御することを示した。このことは、生体内におけるRSS量の保持が環境中親電子物質に対する生体防御に重要であることを示唆する。一方、生体内での過剰な求核物質の蓄積はレドックスバランスを乱し、疾患リスクを高める報告がなされており、酸化ストレスに対し還元ストレスという概念が近年提唱されている。以上を統合すると、RSSの生体内量は厳密に制御されており、その破綻は健康リスクを高めると考えられた。そこで本研究は、生体内RSS量の制御機構と、その破綻による生体影響を検討した。

    【結果・考察】生体内RSS産生酵素の一つであるcystathionine-γ-lyase(CSE)の欠損またはその高発現(マウスまたは、初代肝細胞)及び外因性RSS投与により、生体内RSS量を変化させた。その結果、CSE欠損による生体内(細胞内)RSS量の減少はメチル水銀やカドミウムなどの環境中親電子物質に対する感受性を上昇させた。一方、細胞(臓器)内でのRSS量の増加は細胞外へ放出されることで、一定期間で定常レベルに戻り、一定量以上のRSSの増加は毒性を引き起こすことを見出した。これらの結果より、高い求核性を持つRSSが細胞内に高濃度蓄積した際には、生体は余剰なRSSを細胞外へと積極的に排出する輸送システムを介して恒常性を維持していることが示唆された。

  • 澤 智裕, 張 田力, 津々木 博康, 小野 勝彦
    セッションID: S10-4
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    システインパースルフィド(Cys-SSH)は、システインのチオール側鎖(Cys-SH)に、さらに過剰なイオウ原子(S)が付加したアミノ酸誘導体である。システインパースルフィドは、グルタチオンパースルフィド(GSSH)やタンパク質パースルフィド(Prot-SSH)など多彩な分子形態で細胞内に存在する。パースルフィドは元のチオールにわずかに1つのイオウ原子が付加しただけにも関わらず、その還元力や求核性が著しく高まっており、活性酸素のみならず内因性・外因性の親電子物質を強力に分解するいわゆる「活性イオウ」として重要な役割を担っている。細胞内シグナル伝達機構の制御において、タンパク質システイン残基の酸化状態に依存した調節機構が報告されている。我々は培養マクロファージモデルを用いて、グラム陰性菌リポ多糖(LPS)刺激を介した自然免疫応答における活性イオウの役割を解析している。マウスマクロファージ細胞株を活性イオウドナーで処理すると、LPS刺激の下流シグナルで、特にMyD88-NF-κBとTRIF-IRF3経路が著しく抑制されることが分かった。その結果、炎症性サイトカインであるTNFαならびにIFNβの産生や、さらには誘導型一酸化窒素合成酵素の発現が顕著に抑制された。マウス腹腔内に致死量のLPSを投与するエンドトキシンショックモデルに対し、活性イオウドナーを投与するとマウスの生存率が著しく改善した。このことから活性イオウによる自然免疫応答の活性化の抑制はin vivoにおいても起こりうることが示された。以上のことから、活性イオウ分子種は、自然炎症応答の制御に密接に関わっている可能性が示唆された。

  • 上原 孝
    セッションID: S10-5
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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     タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI)は小胞体内腔に存在し,新生タンパク質成熟,とくにジスルフィド結合の形成や異性化に深く関与する酵素である.PDIは分子内に2カ所の触媒ドメインCXXCモチーフを有している.この活性中心Cys残基は非常に反応性に富むことが知られている.

     私たちはこれまでに,一酸化窒素,活性酸素種,メチル水銀などの親電子性化合物がこのCys残基に結合し,酵素活性を消失させることを見出してきた.これにより,小胞体内では新生タンパク質成熟機構が阻害されることで未成熟変性タンパク質が蓄積し,小胞体ストレスが惹起されることがわかった.

     一方,PDI活性中心システイン残基は,定常状態あるいは外来性ポリ硫黄ドナーによってスルフヒドリル化/ポリ硫黄化されている可能性を見いだした.しかしながら,タンパク質ポリ硫黄化の生理的意義については十分にわかっていない.そこで,精製したリコンビナントPDIを用いて,ポリ硫黄化によるPDI酵素活性への影響について検討した.還元型/不活性型PDIを各種ポリ硫黄ドナーで処理したところ,PDI酵素活性の回復が認められた.この際, PDIシステイン残基のジスルフィド結合形成の有無を検討したところ,PDIはポリ硫黄化された後,ジスルフィド結合形成が促進される可能性が推定された.したがって,本修飾は硫黄分子の反応性(酵素活性)を高めることが大いに予想されたことから,小胞体におけるPDI本来の機能に深く関与している可能性が示唆された.次に,小胞体ストレス誘導薬あるいはパーキンソン病様症状を惹起するMPP+によるポリ硫黄ドナーの効果について検討した.その結果,両薬物による細胞死はポリ硫黄ドナーの濃度依存的に抑制されることがわかった.現在,その詳細なメカニズムについて解析しており,本シンポジウムにおいて議論する予定である.

シンポジウム11
  • 山田 泰広
    セッションID: S11-1
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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     体細胞から体内のあらゆる細胞に分化可能な人工多能性幹細胞(iPS細胞)の樹立が可能となった。iPS細胞の樹立過程では、遺伝子配列の変化は必要としない一方で、DNAメチル化などのエピジェネティック修飾状態がダイナミックに変化することが知られる。我々は、iPS細胞作製技術を細胞のエピゲノム制御状態を積極的に改変するツールとして捉え、がん細胞に応用することで、遺伝子変異を有するがん細胞のエピゲノム制御状態を変化させ、がん細胞の運命制御の可能性を検討している。特にがん細胞からのiPS細胞樹立を試みるとともに、樹立されたがん細胞由来iPS細胞に分化を誘導することで、細胞分化に関わるエピゲノム制御が遺伝子変異を有するがん細胞の運命にどの程度影響を及ぼすかを明らかにしようとしている。

     明細胞肉腫モデルマウスから樹立された肉腫細胞株からiPS細胞作製を試みた。肉腫細胞株に細胞初期化因子を誘導することで、iPS細胞様の細胞株を樹立した。興味深いことに、樹立されたiPS細胞様細胞株は、親株である肉腫細胞株と共通する染色体異常および遺伝子変異を有するにも関わらず、多能性を有し、奇形腫形成、キメラマウスへの寄与が可能であった。がん細胞のゲノム異常を持つ多能性幹細胞が樹立できた。しかし、肉腫由来iPS細胞から作製したキメラマウスは、速やかに二次性の肉腫を形成した。本発表では、腫瘍細胞の初期化、再分化から明らかになりつつある、細胞分化に関わるエピゲノム制御と発がんの接点について議論する。

  • 萩原 正敏
    セッションID: S11-2
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    近年、米国では、創薬シーズ発掘などの探索段階において、アカデミアが主導的役割を果たす創薬スタイルが主流となっている。これに対し、我が国では、依然として大手製薬企業が創薬の主たる担い手であるが、アカデミア創薬への期待は高まっている。細胞や生体に直接、新薬候補化合物を投与して効果を検討する表現型アッセイはアカデミアが得意な分野であるが、標的とする疾患の病態を反映する評価系を構築できれば、大手製薬企業などが行っている従来型のin vitroスクリーニングより、遥かに効率良く有望な化合物の活性を評価できる。例えば、我々はスプライシングなどの遺伝子発現過程を、蛍光・発光プローブによって生体内で可視化する独自技術を開発し、創薬スクリーニングに応用している。その他にも種々の培養細胞や動物を用いた表現型アッセイによる創薬スクリーニングを試み、トランスクリプトーム解析などにより、ヒット化合物の分子標的を特定し、標的疾患を検討している。このような新しい創薬手法を駆使して、従来は治療出来なかった筋ジストロフィーやライソゾーム病などの遺伝病や特殊な癌などに対する治療薬候補物質を見出しつつある。

    参考文献

    1. ‌Nishida A, Kataoka N, Takeshima Y, Yagi M, Awano, H, Ota, M, Itoh K, Hagiwara M, and Matsuo M (2011) Chemical treatment enhances skipping of a mutated exon in the dystrophin gene. Nature Communications 2, 308.

    2. ‌Yoshida M, Kataoka N, Miyauchi K, Ohe K, Iida K, Yoshida S, Nojima T, Okuno Y, Onogi H, Usui T, Takauchi A, Hosoya T, Suzuki T, and Hagiwara M (2015) Rectifier of aberrant mRNA splicing recovers tRNA modification in familial dysautonomia. Proc Natl Acad Sci USA. doi/10.1073.

    3. ‌Nakano-Kobayashi A, Awaya T, Kii I, Sumida Y, Okuno, Yoshida S, Sumida T, Inoue H, Hosoya T, and Hagiwara M. (2017) Prenatal neurogenesis induction therapy normalizes brain structure and function in Down syndrome mice. Proc Natl Acad Sci USA. 114(38):10268-10273.

  • 松田 文彦, ながはまコホート ヒト生物学研究グループ
    セッションID: S11-3
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    慢性疾患は個人の遺伝的背景と環境・生活習慣の相互作用で発症し、体内の微小な変化が時間とともに蓄積され緩徐に進行する。そのため一人ひとりの病型は多様性に富み、マクロな指標のみを利用し集団の平均値を画一的に当てはめたアプローチでは、極めて多様な遺伝的背景、環境、生活習慣を持つヒト集団を対象とした疾患の解析を通した予防医学の確立は困難である。したがって、個人のゲノムの多様性を背景としつつ老化を含むヒトの生命活動を生命分子の変化で記録し情報を統合して解析する「ヒト生物学」の構築が必須である。ヒト生物学研究において、疾患と関連する遺伝因子の探索は最重要項目の一つであり、現在まで網羅的ゲノム関連解析(GWAS)がその中心的役割を果たしてきたが、患者と対照群を単純比較する手法では10万人規模の関連解析をもってしても遺伝因子のごく一部しか同定できず、また同定された遺伝子の機能解析から疾患の発症機序や予後が解明された例は少ない。個人の遺伝的背景と疾患を結びつける道程は長く、転写物、タンパク質、代謝物など多様な中間形質の解析なしでは疾患の全体像を俯瞰することは困難である。そこで演者らは、ヒト生物学研究のモデルケースとして、2005年に滋賀県長浜市で「ながはま0次予防コホート事業」を立ち上げ、10,000人の参加者の10年以上の長期追跡と5年ごとの生体試料の採取や生命情報の収集・蓄積を行ってきた。ながはまコホートでは、疾患や表現型と関連する中間形質に対するゲノム情報の影響を明らかにすべく、GWASや次世代シークエンサーを活用した網羅的ゲノム解析に生理学的測定や質量分析を用いた網羅的メタボローム解析で得られたデータを組合せ、それに客観的測定により得られた表現型の情報を加えた統合解析を実施している。本講演では、ながはまコホートにおけるゲノム・オミックス統合解析の例を紹介し、疾患研究への新たなアプローチについて解説する。

  • 夏目 やよい, 相㟢 健一, 北嶋 聡, 陳 怡安, 水口 賢司, 菅野 純
    セッションID: S11-4
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    近年、オミクス解析などによって得られる大規模データから知識を抽出する技術はますますその重要度を増しているが、その一方でそのようなデータを適切に解釈することは依然容易ではない。その理由の一つとして、核酸やタンパク質など異なる生体分子が多様な相互作用をすることによって生まれる生命の複雑さが挙げられよう。そのため、これら生体分子の既知情報を検索する際にも、多様なデータソースの収集・統合は有効であると期待されている。特に複数のデータベースを統合して一括で検索する事を可能にするアプリケーションはデータウェアハウスと呼ばれ、年々増加する情報を連結するアプローチの一つとして様々な分野で利用されている。本講演では、創薬を指向した標的分子探索や優先順位付けを目的として開発されたライフサイエンス系データウェアハウスであるTargetMine (http://targetmine.mizuguchilab.org)[1,2]を紹介する。データ解析の一例として、Percellomeプロジェクト[3,4]によって得られたマイクロアレイデータの解析により、マウスにバルプロ酸ナトリウムを投与した際に引き起こされる臓器特異的/非特異的な遺伝子発現プロファイルからその毒性機構を推定する試みについて発表する。

    [1] Chen, Y. A., et al. (2011). PloS one, 6(3), e17844.

    [2] Chen, Y. A., et al. (2016). Database, 2016, baw009.

    [3] Kanno, J., et al. (2005). Journal of toxicological sciences, 30, S146.

    [4] Kanno, J. (2014). In Biomarkers in Toxicology (pp. 1019-1032).

  • 菅野 純, 小野 竜一, 相﨑 健一, 北嶋 聡
    セッションID: S11-5
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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     網羅的分子メカニズムに依拠した毒性予測と評価の迅速化、高精度化を目的としPercellome Projectを進めている。今まで、単回曝露データを基にした毒性予測例を報告した。ここでは、反復曝露について報告する。

     全動物に同量の検体を毎日反復投与し、次の日に溶媒群、低用量群、中用量群、高用量群に分けて最終投与を一回行い、その2、4、8、及び24時間後の遺伝子発現測定を行う「新型」反復曝露プロトコールを考案し、これまで、四塩化炭素、トリブチル錫等、11物質について肝網羅的遺伝子発現データを得た。その結果、反復曝露による影響が数日で定常化すること、遺伝子発現は二つの成分、即ち、曝露の都度に変化を示す「過渡反応」と、曝露を重ねるに連れ発現値の基線が徐々に移動する「基線反応」に分解できる事が示された。四塩化炭素は反復曝露により、多くの遺伝子の基線反応を低下させ、過渡反応の低下或いは消失を誘発する事が判明し、小胞体ストレスが関わること、その背景として全ゲノムBisulfite解析の結果、DNAメチル化については、広範囲に及ぶ変化は検出されないことを報告した。

     今回、ChIP-Seq解析(Active Motif社)を抗H3K4me3(転写活性化)、H3K27Ac(活性化)、H3K27me3(抑制)、H3K9me3(抑制)の4抗体を用いて、四塩化炭素14日間反復投与がマウス肝のヒストンへ与える影響の解析を実施した。結果、ピーク高が2倍以上/半分以下(いずれかの高さ20以上)は、それぞれ[48/19]、[191/50]、[160/1]、[627/6]であり、抑制に傾いていることが示唆され、また、ヒストンが予測する転写の活性化/抑制と、対応する配列のRNA-Seqの増減が一致する遺伝子領域を一部確認することが出来た。抑制現象の上流についても考察する。(厚生労働行政推進調査事業費による)

シンポジウム12
  • 山本 剛
    セッションID: S12-1
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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     医薬品が使用後や廃棄後に環境中に排出された際には、有効成分として用いられる化学物質が、医薬品成分としてもつ薬理作用に加えて、化学的、物理的及び生物学的な性状に由来して、生態系に影響を及ぼす可能性がある。

     そのため、国際的な動向も踏まえ、厚生労働省は「新医薬品開発における環境影響評価に関するガイダンス」を2016年3月に通知した。

     本演題においては、医薬品から直接的及び間接的に生じる環境に対する負荷を推定し、その影響を評価する環境影響評価法について、その背景や基本理念を概説する。

     When pharmaceuticals are discharged into the environment after use or after disposal, the chemical substances used as active ingredients may affect the ecosystem by the chemical, physical and biological properties in addition to the pharmaceutical action.

     Therefore, considering international trends, Ministry of Health, Labor and Welfare issued "Guidance on the Environmental Risk Assessment in new drug development" in March 2016.

     In this presentation, I will outline the background and basic philosophy of the environmental risk assessment method to estimate the environmental impact directly and indirectly generated from pharmaceuticals.

  • 渡辺 秀徳, 佐藤 恵一朗, 三井田 宏明, 大瀧 清, 池田 孝則, 渡部 一人
    セッションID: S12-2
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

    Information for manufacturing amount or sales statistics of human medicine is imperative at estimation of total amount of active pharmaceutical ingredients (APIs) exposed to environment. On the other hand, the information of the manufacturing amount managed by pharmaceutical companies is not generally open to public, and sales statistics provided by marketing research companies are not available for free of charge. National Database of Health Insurance Claims and Specific Health Checkups of Japan (NDB) was initiated by the Ministry of Health, Labour and Welfare in 2009 to provide big data for electronic prescription-derived information about various health care services by national health insurance in Japan.

    We tried to estimate distribution amount of APIs in prescription medicines for human in Japan using this public database. 2058 APIs were identified in NDB, and prescription weights in 711 APIs exceeded 1 ton/year. 298 of the 711 APIs were selected for further analysis about fraction of a population receiving the drug after removing 413 APIs which were not covered by the current ERA directives or were combination products.

    We revealed that our novel method based on the public database can give us transparent, unbiased and cost-effective solution for estimation of amount of APIs in prescription human medicines as a point of departure at prediction of environmental concentration in Japan.

  • 小林 憲弘, 五十嵐 良明
    セッションID: S12-3
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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     In order to conduct a monitoring survey of pharmaceuticals in Japanese water environment, we have selected target compounds for the survey, which can be analyzed by tandem mass spectrometry (LC/MS/MS). As a result, we selected 108 pharmaceuticals as target compounds, Further, we have developed a simultaneous analysis method of the 106 pharmaceuticals in water by LC/MS/MS. The detection limits of these 106 pharmaceuticals the LC/MS/MS simultaneous analysis were lower than 10 ng/L, which is satisfactory low values for the environmental monitoring. The monitoring results will be shown in the symposium.

     Further, we have developed a database of physico-chemical properties (water solubility, logKow, log Koc, and half-life in water) of approximately 275 pharmaceuticals used in Japan, in order to predict detections of pharmaceuticals in Japanese water environment. Further, we have developed a chemical fate prediction model and applied the model to 3 antipyretic analgesics and anti-inflammatory agents (acetaminophen, mefenamic acid, and diclofenac). The results obtained from this model can be also applied to human health and ecological risk assessments of pharmaceuticals. The improvement of the model’s predictive capability shall be the focus of our next study.

  • 山田 隆志
    セッションID: S12-4
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    Recently, medical regulatory agencies require pharmaceutical companies to assess environmental impacts of new pharmaceutical products before marketing. Hence, it would be valuable for developing environmentally friendly new pharmaceuticals to predict the ecotoxicity at early stage. Moreover, it is important to establish a system to support environmental risk assessment of existing drugs for achieving the WSSD 2020 goal. In this study, we developed ecotoxicity database of human pharmaceuticals. Chronic and acute toxicity studies in algae, daphnia and fish in compliance with the standard OECD test guidelines were gathered from public domain. Comparative analysis of the database showed that distribution of NOEC values and sensitivity between species are dependent on drug class. As a tool for predicting toxicity in algae, daphnia and fish, two QSAR programs ECOSAR by USEPA and KATE by Ministry of Environment in Japan are available, both of which have been developed using dataset of mainly industrial chemicals. We evaluated predictivity of the QSAR models using the dataset of human pharmaceuticals. By considering robustness and applicable domain, chemical classes with higher predictivity were addressed. Further examination will be needed to integrate other approaches including read-across and acute-to-chronic extrapolation. This work was supported by the Research on Regulatory Science of Pharmaceuticals and Medical Devices from Japan Agency for Medical Research and Development, AMED.

  • Rhys WHOMSLEY
    セッションID: S12-5
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

    The EMA’s Guideline on ERA of Medicinal Products for Human Use which came into effect on 1st June 2006 outlines how the ERA should be performed during the approval of human medicinal products, although a risk to the environment cannot be considered a criterion to block marketing approval. The guideline describes the tiered testing strategy recommended for the evaluation process. In case of residual risk in one or more environmental compartments, the information is included in the summary of product characteristics together with precautionary measures to minimise environmental exposure from disposal of unused products. The Q & A document released in 2011 and updated in 2016 gave more definition to the guideline and expanded on areas including ERA for generics, refinement of PECSW, PBT assessment, endocrine disrupting compounds and metabolites. In 2016 the concept paper on the revision of the guideline listed 8 proposed issues for review including review of the tiered approach strategy and triggers, better utilisation of data in the public domain, approaches for PBT substances and endocrine disruptors, additional test systems/assays and options for risk mitigation measures. The revised guideline will integrate clarifications from the Q & A documents and will be based on experience since the guideline’s coming into application in 2006, comments received during the consultation on the concept paper, changes in relevant guidance documents under other legislative frameworks and evaluation of the performance of the present guideline in relation to the new scientific information.

  • Sini M. ESKOLA, Katarina NEDOG, Christelle ANQUEZ-TRAXLER, Jason SNAPE ...
    セッションID: S12-6
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

    The European pharmaceutical industry has proactively developed the Eco-Pharmaco-Stewardship (EPS) concept. This life-cycle approach focuses on areas where industry can most effectively reduce the potential environmental risks that might result from our activities.

    ENCOURAGING FURTHER RESEARCH TO ASSESS THE IMPACT OF PIE: Intelligence-led Assessment of Pharmaceuticals in the Environment (iPiE) is a public-private partnership project that aims to develop a framework in which tools, assays and models could enable industry, regulators and academic researchers to identify and prioritise medicines that are most likely to present a risk for the environment.

    MANAGING EFFLUENTS FROM PHARMACEUTICAL SITES EFFECTIVELY: Industry strives to further reduce discharges from manufacturing plants through e.g. the exchange of good practices. A developed ‘maturity ladder’ is aimed at helping companies and their suppliers to gauge and improve their performance.

    LIFE-CYCLE ASSESSMENT OF THE ENVIRONMENTAL RISK: The current EU legislation requires that a pharmaceutical company assess the environmental risk only in theory and once before the drugs are first approved or when they are going to be used in new indications/combinations. According to industry proposal, ERA should be reviewed and, if necessary, updated throughout the product’s lifecycle to reflect the latest information on the product’s potential impact on the environment.

    #MEDSDISPOSAL CAMPAIGN: This is a social media campaign raising public awareness on how to appropriately dispose of unused or expired medicines in Europe. A dedicated website and other virtual media material have been developed.

シンポジウム13
  • 平田 岳史, 山下 修司, 吉國 由希久, 大林 秀行, 槇納 好岐
    セッションID: S13-1
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

    レーザーサンプリング法を組み合わせたプラズマ質量分析計(LA-ICPMS法)は、高速・高感度元素分析法として様々な分野で広く活用されている。試料前処理が簡便であり、また試料を真空下に設置する必要がないことから、生体組織切片試料の金属元素イメージングに広く応用されている。LA-ICPMS法は、大気圧高温プラズマという非常に強力なイオン源を採用しているため、炭素を含めた主要元素からMo, As, Ni, Cd, Se, Pb等の微量元素までを一度にイオン化・検出でき、多元素同時・定量的イメージング分析が可能である(例えば、平田ほか、2015:Makino et al., 2017)。さらに講演者らのグループでは、ICPMS装置に高速信号読み出しシステムを応用するとともに、独自の計測ソフトウエアの開発により、10〜100 nm程度のナノパーティクルの高速・迅速定量分析を実現した。現在、新たに開発した装置を利用して、生体試料からのナノパーティクルの二次元分布分析(イメージング分析)を開始している。ここで開発したLA-ICPMS装置を用いることで、金属元素とナノパーティクルの同時イメージング分析が可能となり、将来的にはナノパーティクルの生体内動態や、ナノパーティクルの分解(溶解)・代謝に関する知見を引き出せるものと期待している。本講演では、LA-ICPMS法の現状を紹介するとともに、現在、我々の研究グループが開発を進めている1ミクロンレーザーによるイメージング分析や多元素同時検出によるナノパーティクルの元素・同位体分析法の毒性学への応用性・拡張性を議論したい。

  • 青木 淳賢, 可野 邦行
    セッションID: S13-2
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

    タンパク質、核酸、糖質、そして脂質などのさまざまな生体を構成する分子が生物個体を形成し、生命現象の様々な場面で適宜働くことにより生命は成り立っている。これら分子の変動を捉えることは、生命の理解に必須であるだけでなく、病態発症の理解や創薬・バイオマーカーの創出に繋がる。生体分子を解析する従来の古典的な手法では限られた数種類の分子のみを特異的に検出・解析することがほとんどであった。しかし、分子を質量として捉える質量分析計技術の発達により、一度の解析で極めて多数(数万から数10万)の分子を同時に検出・解析することができるようになった。この技術は特に、オミクス技術として発達し、タンパク質(プロテオミクス)、代謝物(メタボロミクス)、そして脂質(リピドミクス)を網羅的に解析することを可能とした。特に、質量分析技術の発達により、生体内には遺伝子の数をはるかにしのぐ数十万もの脂質分子種が存在すると考えられるようになった。これら脂質分子は、新たな創薬標的やバイオマーカーの候補である。これら技術では、主に、液体クロマトグラフィー(LC)と連結した質量分析計(MS)を汎用するが、組織などを解析対象とした場合、解析対象分子の組織内での位置情報は失われてしまう。この点をカバーしたものが質量顕微鏡技術である。質量顕微鏡技術は数10 µm四方の組織切片上で分子をイオン化し検出する技術であり、組織切片上での各分子の分布と発現量を調べることができる。また、検出する分子の存在量とイオン化効率の問題で、現在、リン脂質分子を含めた脂質分子が格好の分析対象となっている。本発表では、脂質の分析技術の総論と、特に、質量顕微鏡技術を用いる解析法について解説し、さらに、我々のリン脂質研究にどのように応用されているのかについて紹介したい。

  • 塚田 秀夫
    セッションID: S13-3
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

    Positron Emission Tomography(PET)は、生体内の生理的・生化学的情報を「生きたままの状態」で定量計測できる核医学的手法の一つである。生理的・生化学的情報はPETプローブの動態・分布から評価するが、近年のPETプローブの飛躍的な進歩に伴って、患者の診断・治療効果判定のみならず、医薬品開発において、実験動物を対象にした基礎研究からヒトを対象にした臨床開発への「橋渡し研究」に活用されている。一方、毒性分野におけるPETの応用は、これまで適切なバイオマーカーになり得るPETプローブが存在しなかったために、医薬品開発への応用に比べて遥かに立ち遅れていた。我々は、細胞のエネルギー源となるアデノシン三リン酸(ATP)の生産に関与している細胞内小器官であるミトコンドリアの機能を、計測できる新規PETプローブを開発して、アルツハイマー病(1)・パーキンソン病(2)・脳梗塞(3)等の神経変性疾患の早期診断に有用であることを報告した。更に、近年このミトコンドリア機能計測用のPETプローブを用いることで、様々な肝臓・腎臓の機能障害を、従来の血液パラメータよりも早期に検出できる可能性を見出した(4)ので、本シンポジウムではいくつかの実例を示しながら報告する。

    <参考文献>

    1) Tsukada H, et al. Eur J Nucl Med Mol Imaging. 2014;41:2127-2136.

    2) Kanazawa M, Tsukada H, et al. J Nucl Med. 2017;58:1111-1116.

    3) Tsukada H, et al. J Cereb Blood Flow Metab. 2014;34:708-714.

    4) Ohba H, Tsukada H, et al., EJNMMI Res. 2016;6:82

  • 袴田 和巳
    セッションID: S13-4
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

     人工知能を自動運転や囲碁などに応用した例は広く知られており、日常においてもそれらの用語を聞かない日がないほどに一般的な用語となっている。人工知能の応用先として、医療分野も例外ではなく、X線画像、MRI、内視鏡等の医用画像に対して病変部位を認識するAI、ワトソン、ホワイトジャック等の診療支援AIなど枚挙に暇がない。病理像でも乳がん、肺がん等の組織画像を用いたコンペティションがおこなわれたり、国立医療研究開発機構(Japan Agency for Medical Research and Development: AMED)主導で病理組織の収集基盤整備が進められたり等、人工知能の研究において大きな関心を集めている。

     様々な成果が公表されているがこれらの問題を取り扱う際に人工知能をどのように学習すればいいのか?どのような問題が起こり得るか等については想像が難しい。我々は進行性胃癌の組織画像を対象に深層学習による核/組織認識モデルの構築を試みたところ、それぞれの部位を高精度に認識できるモデルが構築できることがわかった。さらに、ライフインテリジェンスコンソーシアム(LINC、Project06 参加企業:大塚製薬株式会社、富士通株式会社、第一三共株式会社、シスメックス株式会社)において、薬剤を投与した時の組織への影響の有無や病変領域の推定を試みた。これらの結果を報告するとともに人工知能を用いた病理像の認識について現状とその問題点を議論したい。

  • 大浪 修一
    セッションID: S13-5
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

    バイオイメージ・インフォマティクスは生命科学分野の画像・動画像の生成、解析、管理、可視化等に関連する情報科学技術の研究開発分野である。超解像顕微鏡等の顕微鏡技術や、機械学習を含む画像認識技術の近年の急速な進歩により、生命科学研究における当分野の重要性が増大している。バイオイメージ・インフォマティクスが生命科学に与えているインパクトの最たるものは、生命現象の動態に関する時空間的な定量計測データの大規模な生産であると考えられる。細胞や器官、個体などの4次元の動画像データに画像認識技術を適用することにより、細胞の位置や形態の変化、細胞の遺伝子の発現量の変化などの生命現象の動態を定量的かつ高スループットに計測することができる。これらの大規模データを最大限に活用することにより、生命科学分野では今後、動的システムとしての生命の理解を中心としたデータ駆動型の研究が発展することが期待される。本講演では、バイオイメージ・インフォマティクスが可能にした新しい生命科学研究を我々の研究を例に紹介し、これらの毒性分野における応用の可能性について議論したい。

シンポジウム14
  • 阿久津 英憲
    セッションID: S14-1
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    わが国では,ヒト細胞を用いる再生医療の法的枠組みが整備されてきた.その細胞材料のソースとして生体組織由来の体性(幹)細胞が活用されている.世界的にも間葉系幹細胞などの体性幹細胞による再生医療が先行し進んできた.この際,間葉系幹細胞の細胞特性として,次の2点を考慮する必要がある.1)細胞移植に必要な細胞数を得るため,拡大培養し継代を重ねる必要がある.2)間葉系幹細胞は非均一性の集団であるため,細胞品質や治療の有効性を評価するための判断が難しい.今後さらに,体性幹細胞による再生医療への応用が進み,安全性と経済性を考慮した上で,より高品質な細胞原料を供給するために,幹細胞評価技術,自動培養技術,分離・精製技術および保存技術など再生医療周辺産業の開発がさらに必要であると思われる.再生医療が現実の医療として発展するなか,再生医療技術は創薬など分野を広げて応用が期待されている.今回,間葉系幹細胞の特性を理解しつつその応用の可能性について考えてみたい.

  • 倉田 隼人
    セッションID: S14-2
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

    本演題では、ロート製薬株式会社における再生医療の事業化の現状と非臨床安全性評価に関して紹介する。弊社は、2013年に再生医療研究企画部を新設し、体性幹細胞の中でも特にヒト(同種)脂肪組織由来間葉系幹細胞に着目し、事業化に着手した。現在に至るまで、薬事戦略の立案から製造および品質管理方法の確立、非臨床安全性、薬理および体内動態の検討等を進めてきた。さらに、不明な点の多い間葉系幹細胞の作用機序についても、一部、明らかとしてきた。そして、昨年7月より、非代償性肝硬変を対象とした企業治験(第I/II相試験)を開始した。その間、再生医療の産業化に関する法規制の整備が進んだ。例えば、臨床研究・自由診療に対する再生医療の新たな基準として「再生医療等安全性確保法」、医薬品や医療機器などに加えて新たに再生医療等製品を定義した「医薬品医療機器等法」が、これまでの薬事法に変わって施行され、次いで再生医療等製品のGLP省令も施行された。弊社における非臨床安全性評価戦略立案にあたっては、新たに公示されたヒト細胞加工製品の品質や安全性に関連する指針や技術的ガイダンスを参考に、また、PMDAによるRS戦略相談(旧薬事戦略相談)を活用した。安全性に関する具体的な内容としては、原料となる細胞・組織や製造工程におけるヒト又は動物由来成分のウイルス感染等の安全性に関わる品質管理と一般毒性や造腫瘍性試験等の非臨床安全性試験が求められている。特に非臨床安全性試験では、再生医療等製品の形態は多岐にわたるため、製品の特性に踏まえたケースバイケースでの評価が求められている。今回は、参考までに、我々が開発を進めている細胞製剤の特徴を紹介するとともに、必要とされる非臨床安全性試験の詳細な内容を述べさせて頂く。

  • 中島 美砂子, 庵原 耕一郎
    セッションID: S14-3
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    歯の健康は全身の健康に密接に関わっており、歯の延命化により高齢者のQOL向上に貢献できると考えられる。超高齢社会においては、深い虫歯による歯髄炎やさらに感染が歯根から歯槽骨まで及んだ根尖性歯周炎においても、歯髄を再生させることにより疾患進行を逆方向に戻し、歯喪失および骨吸収をできるだけ遅らせることが望まれる。したがって私どもは、「歯髄幹細胞移植による歯髄・象牙質再生治療法」の開発を行ってきた。まず、臨床グレードのヒト歯髄幹細胞を製造加工し、感染否定試験、品質試験、がん化試験および染色体・核型異常検査により、幹細胞の特性・安全性を確認した。次に、非臨床研究において、イヌ抜髄後の根管内に自家歯髄幹細胞をG-CSFおよびアテロコラーゲンとともに移植し、尿検査、血液学的検査、血液生化学的検査、剖検、病理学的検査により安全性に問題がないことを確認した。また、有効性を組織学的および分子生物学的に明らかにした。この歯髄再生のメカニズムは、G-CSFにより移植細胞が根管内に生着し分泌するtrophic因子とG-CSFの相加効果により、歯周囲組織から宿主の幹細胞の遊走・増殖が促進され、アポトーシスが抑制され、血管新生・神経伸長が促進されると考えられる。さらに、安全性確認を主要目的とする臨床研究を5症例行い、移植に関連した有害事象は全く認められなかった。また、4症例において、移植後4週以内に電気診による歯髄生活反応が陽性となり、MRIでの正常歯髄に近い信号強度、CBCTによる象牙質添加像により、有効性が示唆された。一方、同種移植に関しては、イヌにおいて、MHCが不一致の歯髄幹細胞を同種移植した場合でも免疫拒絶反応は生じず、しかも2回連続で同種移植しても自家移植と同様に歯髄が再生できることを明らかにした。今後実用化のためには、大量かつ安定的な細胞培養法と品質保証法を確立する必要がある。

  • 古江 美保
    セッションID: S14-4
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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     ヒト多能性幹細胞(hPSCs)や間葉系幹細胞(MSC)は、再生医療における細胞治療、薬効・毒性評価など創薬研究のスクリーニングツールとしての利用など産業面にも広く利用され始めている。しかし、ヒト幹細胞は、様々な理由で細胞の増殖、分化能、遺伝子発現は著しく変化する1,2)。一方、同じ結果を再現できないことも多い。こういった現象が発生する理由の一つに、実験者や研究施設が変わることによる細胞の品質変動が挙げられる。さらに、その品質変動を誘導する要因として培養技術が考えられる。幹細胞の使用にあたっては細胞の品質評価が必要となるが、従来の評価方法のほとんどは細胞を破壊して行う侵襲的検査であった。我々は、生きたhPSCsの培養経過を時系列で取得できる細胞培養観察装置のイメージング技術を利用した非侵襲的細胞倍加速度測定法を開発した3)。さらにMSCの倍加速度も測定できることを確認した。この手法を用いて、ピペッティング操作の誤りにより細胞の撒きムラが生じると、細胞増殖速度など品質に影響を与えることを確認した。培養細胞をリアルタイムで評価することにより、培養技術を客観的に評価することができ、技術者の育成にも利用できる。これまでに、ヒト幹細胞研究や細胞培養を専門とする有識者とともに連携し、「細胞培養の基本原則」をまとめ4)、さらに、「培養細胞の位相差顕微鏡観察の基本原則」、また、「ヒト多能性幹細胞培養の留意点」についても文書作成中である。現状では熟練した培養技術を持つ作業者や研究者が不足しており、培養細胞の取り扱いのノウハウなどの情報提供や技術者の育成が急務である。

    1) Stem Cells Dev. 25:1884- (2016). 2) Scientific reports. 2016;6:34009. doi:10.1038/srep34009. 3) Stem Cells Transl Med. 4:720-(2015). 4) Tiss Cult Res Comun. 36:13- (2017).

シンポジウム15
  • 星野 健二
    セッションID: S15-1
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    DNAワクチンは,抗原となるタンパク質やペプチドをコードする遺伝子を組み込んだプラスミドDNAで,免疫原となるタンパク質を投与された生体内の細胞で産生させるという特異なワクチンである。既存のタンパク性ワクチンや生ワクチンに比較した際の利点は,安定であること,病原体を使っていないこと,大規模な製造も容易であることであり,欠点はヒトにおける免疫原性が従来のワクチンより弱いことである。そのため,免疫原性を高める様々な工夫がされて来ているが,ヒトの医薬品として認可されたDNAワクチンはまだ存在しない。想定されるリスクは, DNAワクチンの性状(産生されるタンパク質の機能,アジュバント等添加物の有無),適用となる集団により様々である。臨床試験の開始や新薬申請の際に必要となる前臨床安全性試験のパッケージについては,WHOや行政当局による各種ガイドライン,過去の事例を参照して立案し,必要に応じてFDA,EMAやPMDAに相談・確認して決められている。今回は,これまでの行政対応などで得られた知見を踏まえ,前臨床安全性の評価戦略に関して紹介する。

  • 間 哲生
    セッションID: S15-2
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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     抗体薬物複合体(antibody drug conjugate: ADC)は、モノクローナル抗体に細胞毒性を有する低分子薬剤を結合させた創薬モダリティであり、その標的特異性から有効性と安全性に優れた抗腫瘍薬として期待されている。ADCの毒性は、それを構成する抗体または低分子薬剤が介在して引き起こされる。腫瘍以外の正常組織にも標的抗原が発現している場合は、ADCが正常細胞に取り込まれ毒性が発現することがある。また、ADCがFc受容体に結合することで毒性に関与する場合や、血漿中へ遊離した低分子薬剤が正常組織を障害する場合がある。毒性の回避や低減のため、これらの毒性機序を考慮したADCの最適化やスクリーニング戦略が議論されている。ADCの非臨床毒性試験の実施においてはICH S6(R1)及びICH S9ガイドラインが適用されるが、ADCに関する記述は限られている。また、新規の低分子薬剤をADCに使用する場合は、低分子薬剤単独の毒性評価も必要とされ、通常のバイオ医薬品とは異なる留意点がある。

     本演題では、規制ガイドライン及びADCの毒性学的特性を踏まえ、臨床開発のために必要とされる非臨床毒性試験について要約する。また、ADCで報告されている臨床での安全性プロファイルと非臨床結果との関連性や評価上の課題について考察する。

  • Thomas S. VIHTELIC
    セッションID: S15-3
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    Specialized methods for targeted delivery of therapeutics to organs and tissues are becoming more critical as new drug modalities are being developed. Surgical techniques form the basis for such delivery methods. This presentation will focus on the surgical methods used to target delivery of different therapeutic types to the central and peripheral nervous systems with an emphasis on spinal cord and ocular delivery techniques. Descriptions and case studies will be used to provide an overview of these methods, which can be technically demanding, but critical to the nonclinical safety assessment of many exciting new pharmaceutical products.

  • 平林 容子
    セッションID: S15-4
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    オリゴヌクレオチド製剤(核酸医薬品)は、アンチセンス、siRNA、miRNA、デコイ核酸など、リボ核酸ないしはデオキシリボ核酸を構成成分とし、その塩基配列に依存した生体分子との特異的な結合によって、新規の蛋白質の合成を介することなく生体反応を惹き起こす医薬品である。これらは天然型ないしは化学修飾された核酸分子を用いて、専ら化学合成によって製造されるが、これに限るものではない。非臨床安全性評価にあたっては、標的特異性が極めて高く、結果的に種特異性を示すことが多いという性質上、バイオテクノロジー応用医薬品(バイオ医薬品)に対するガイドライン(ICH S6(R1))のスコープにある通り、その考え方が適用されうる反面、化学修飾された核酸分子が使われることも多く、オフターゲット効果の評価が欠かせないなど、いわゆる低分子医薬品と同等の評価も必要とされる。現在このものに特化したガイドラインが存在しないため、既存のガイドラインを参照しながら、ケースバイケースで対応せざるを得ないのが実情である。一方、核酸医薬品の開発はめざましく、実例に基づく知見が蓄積し始めており、国内外でガイドライン化に向けた調査研究が進行中である。このうちICH S6対応研究班(「バイオ/核酸医薬品の安全性に関する研究」班:日本医療研究開発推進事業費補助金 医薬品等規制調和・評価研究事業「医薬品の安全性および品質確保のための医薬品規制に係る国際調和の推進に関する研究」班の分担研究班)では、既存の医薬品と比較した場合の核酸医薬品全般に共通する非臨床安全性評価における課題とその考え方を整理し、誌上発表してきた。ここではその概要を紹介する。更に、革新的医薬品・医療機器・再生医療製品実用化促進事業「核酸医薬の臨床有効性安全性の評価方法」研究班での取り組みを引き継ぎ、ICHガイドライン化を目指して作成中の安全性評価に関するガイドライン案についても紹介したい。

  • 内田 恵理子
    セッションID: S15-5
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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     ゲノム編集技術は、ゲノム上の目的配列をピンポイントで認識して改変することができる新しい遺伝子操作技術である。特定の遺伝子の破壊や疾患原因遺伝子の修復、挿入変異リスクのない染色体上の安全な部位への遺伝子導入など、従来の遺伝子治療では実現できない治療を提供できる可能性が期待されている。特に2012年に第3世代のゲノム編集技術であるCRISPR/Cas9が発表され、適切なガイドRNAを調製することにより極めて容易に改変が可能になったことから、急速に開発が進展している。海外ではこの数年で臨床試験が急増しており、ゲノム編集により遺伝子改変した細胞を投与するex vivoゲノム編集だけでなく、体内で直接ゲノム編集を行うin vivoゲノム編集の臨床試験も始まっている。しかし、ゲノム編集には目的外の類似塩基配列を編集してしまうオフターゲット変異のリスクや、染色体の切断による転座のリスクなど、従来の遺伝子治療とは異なる安全性の課題もある。また、ゲノム編集に用いるヌクレアーゼの導入法として、従来の遺伝子治療と同様のベクターを用いる方法の他に、mRNAやタンパク質そのものを導入する方法も用いられており、これまでの遺伝子治療の指針では想定されない遺伝子治療技術が用いられる可能性があり、遺伝子治療の規制上の課題も持ち上がってきている。日本ではまだ基礎研究段階だが、国内での臨床開発が始まる前にゲノム編集遺伝子治療に対応した規制の整備が求められている。このような背景のもと、現在、遺伝子治療の指針の見直しや、安全性評価ガイダンス作成に関する検討が行われている。本シンポジウムでは、ゲノム編集遺伝子治療の臨床開発の現状を紹介するとともに、安全性評価の在り方について考えてみたい。

シンポジウム16
  • 星 香里
    セッションID: S16-1
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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     ドーピングとは、スポーツの世界において競技能力の向上を目的として、世界統一のルールで禁止されている物質や方法を使用することであり、フェアプレーの精神に反してスポーツの価値を脅かす行為であるとともにアスリートの健康を害する行為で絶対に許されない。

     我が国のアンチ・ドーピングに関する状況としては、日本人アスリートのドーピング違反確定率が他国と比較して格段に低いことや、世界ドーピング防止機構(WADA:World Anti-Doping Agency)の創設時から文部科学副大臣が継続して常任理事を務め、国際的なアンチ・ドーピング活動に貢献してきていること、また、我が国唯一のアンチ・ドーピング機関である日本アンチ・ドーピング機構(JADA:Japan Anti-Doping Agency)を中心とした検査活動、教育・啓発活動等が安定して実施され、着実に成果を上げていることなどから国際的にも高い評価を受けている。

     一方、国際的な状況としては、昨今、ロシアで起こったとされる組織的ドーピングの問題がリオデジャネイロと平昌のオリンピック・パラリンピック競技大会におけるロシア選手の参加に影響し、両大会に影を落とす結果となったり、過去の大会時に採取・保管された検体から禁止物質が検出されて、後から記録やメダルが剥奪されるという事案もたびたび発生しており、WADAを中心としたアンチ・ドーピング活動のより一層の充実が求められているところである。

     2年後に迫った東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催国として、日本に対しては、国際オリンピック委員会(IOC:International Olympic Committee)やWADAからドーピングのないクリーンな大会にしてほしいと強い期待が寄せられている。

     その期待に応えて万全のアンチ・ドーピング体制を整えるべく、日本政府としては、まず文部科学省内に「アンチ・ドーピング体制構築・強化のためのタスクフォース」を設置し、現状と課題を明らかにするとともに、課題解決に必要な方策について取りまとめた。同タスクフォースの議論においては、喫緊に取り組むべき方策の中に法的措置が必要な事項もあると整理された。これを受けて、超党派のスポーツ議員連盟にアンチ・ドーピングワーキンググループが設置され、我が国初となるアンチ・ドーピングに関する法律の制定に向けた議論が重ねられて、2017年4月にスポーツ議員連盟総会で法律案が了承された。現在は、国会への提出に向けて諸々の手続きが進められているところである。

     本講演では、我が国におけるドーピング違反の具体的事例とドーピングを防止するための様々な取組を紹介するとともに、国内外のアンチ・ドーピング体制やアンチ・ドーピングに関する法案の内容、2020年東京大会に向けた取組等について、紹介したい。

  • 山澤 文裕
    セッションID: S16-2
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

     スポーツは社会を変え、世界を変え、世界平和をもたらす力を持っています。その力を損なうものとして、ドーピングは八百長、年齢詐称、セクハラなどとともに挙げられます。ドーピングはスポーツという人間がつくった文化を破壊し、スポーツにおけるインテグリティ(高潔さ)を貶めるため、厳しく禁止されています。1999年に設立された世界アンチ・ドーピング機構(WADA)は、世界アンチ・ドーピング規程(WADC)、および禁止表、治療使用特例、検査などに関する国際基準を策定しました。オリンピックへの参加には、各国政府、国際競技連盟がWADCに署名することが大前提で、各国政府、国際競技連盟はアンチ・ドーピング活動を積極的に行っています。

     WADAは、当該物質又は方法の使用が、1競技力を向上させ(向上させうるという)医学的その他の科学的証拠、薬理効果又は経験が存在すること、2 競技者に対して健康上の危険性を及ぼす(及ぼしうるという)医学的その他の科学的証拠、薬理効果又は経験が存在すること、3 スポーツ精神に反するとWADA が判断していること、の3 つの要件のうち、いずれか2 つの要件を充足すると判断した場合、その物質又は方法を禁止表に掲げることを検討します。また、当該物質又は方法によって他の禁止物質又は禁止方法の使用が隠蔽される可能性があるという医学的その他の科学的証拠、薬理効果又は経験が存在するとWADA が判断した場合には、その物質又は方法も禁止されます。禁止表に掲げられる禁止物質および禁止方法についてWADA の判断は終局的なものであり、異議を唱えることができません。一方、禁止物質又は禁止方法を使用しないと、健康被害がもたらされる場合があり、それらの使用を認める治療使用特例があります。このような国際基準についてご紹介いたします。

     ドーピング検査は尿検体だけではなく、血液検体も多く用いられています。世界では1年間に32万件程度の検査が行われ、わが国では6500件ほどのドーピング検査が行われています。蛋白同化薬や興奮薬によるアンチ・ドーピング規則違反(ADRV)が数多く報告されていますが、近年は検体分析では捕捉しえないADRVも報告されるようになりました。わが国では汚染されたサプリメント使用によるADRVも多く、日本アンチ・ドーピング機構(JADA)が中心となって、教育・啓発活動に取り組んでいます。東京2020に向けて国を挙げた体制が必要で、法整備が進められています。

  • 植木 眞琴
    セッションID: S16-3
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

     ロシアは地元開催のソチ冬季五輪で組織的ドーピング不正を行ったとして,リオ夏季五輪および先の平昌冬季五輪には国としての大会参加が認められず,ロシア国外に活動拠点を置きドーピングを行っていないことを第三国による検査で立証された選手の個人としての参加のみが認められた。不正行為の立証は検査記録の調査,内部告発者の証言のほか,過去の大会で採取され保管されていた試料の高感度法による再検査によって行われ,再検査で陽性となった選手には資格停止,永久追放などの厳しい追加処分が課された。

     世界アンチドーピング機構(WADA)の独立調査団の報告いわゆるマクラーレンレポートによれば,判明した組織的不正の主なものは,選手を管理する国内スポーツ団体,検査システムに熟知した国内アンチ・ドーピング機構(RUSADA),モスクワの公認機関検査機関責任者らによる,検査で検出されにくいステロイドカクテルの選手への提供,非公式検査による薬物痕跡消失の確認,自国選手の陽性尿すり替えによる薬物使用の隠蔽で,それらの不正はドーピングを強要され報酬の提供を要求された選手によるドイツマスコミARDへの内部告発によって発覚した。その時点で検査システムは不正防止に十分配慮して設計され,ソチ五輪期間中も外部科学者の監視の下に検査が行われたが,監視員が退出した後に別室で被験検体のすり替えが行われることまでは想定していなかったのである。

    東京五輪へ向けた再発防止策として,

    1.検査開封時まで試料の入れ替えを不可能とする,より確実な封印容器の開発

    2.再検証を可能とする被験検体および公式記録書の10年間保管(現状規則による)

    3.薬物使用を使用停止後も長期間検出でき,法的な取り扱いに対応できる検査方法の開発

    4.新規禁止物質分類検査法の拡充

    5.複数の外部専門家による検体採取から検査結果報告,処罰決定の全プロセスの監視

    6.不正通告のための内部告発の制度化

    7.ドーピング防止のための教育啓発

    などが実施され,または予定されている。

    発表では上記のうち,おもにドーピング分析の科学的内容について言及する。

シンポジウム17
  • 岡山 祐弥, 杉山 光, 武藤 朋子, 和久井 信
    セッションID: S17-1
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

    プラスチックの可塑剤や接着剤・医療器具等の原料として、現在でも広く使用されているdi(n-butyl) (DBP)は、ヒトおよびげっ歯類に発育障害・代謝障害・生殖障害等を誘起する内分泌撹乱化学物質であり、DBP胎生期暴露を受けた次世代ラットでは成獣期に低テストステロンを示すことが明らかとなっている。さらに、精巣Leydig細胞ではコレステロールがミトコンドリアでSR-B1, StAR, P450sccの修飾を受けた後、sERに移動して3beta-HSD, P450c17, 17beta-HSDの修飾を受けることが知られている。我々はDBP胎生期暴露を受けた次世代ラットの精巣におけるテストステロン合成関連酵素の発現変化について検討を行ってきた。実験群では思春期までStAR, P450sccの発現は有意に低値を示したが成獣期では対象群と同様を示した。これに対し、実験群の3beta-HSD, P450c17, 17beta-HSDの発現は思春期まで対照群と同様を示していたが、成獣期では有意に低値を示した。ラット胎生期DBP暴露の精巣Leydig細胞におけるテストステロン合成関連酵素の発現への影響は、若年期と成獣期で異なることが示唆された。

  • 峯島 浩
    セッションID: S17-2
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

    男性が薬を服用することで直接的な精子への影響の可能性はあっても,精子が受精に至るまでに選別されることや,影響を受けた精子と受精した卵が胚致死となることから,妊娠・出生には至らないことが多いと一般的には考えられている。一方で,精巣は次世代を産出するための精子形成だけではなく,雄性機能を司るホルモンであるアンドロゲンを分泌する内分泌器官でもあることから,医薬品による精巣への影響は,すなわち,精子形成の低下や性欲減退などによる男性不妊症の原因となる場合が考えられる。よって,精巣毒性の懸念がある医薬品開発では,これらを考慮した開発が求められる。

    医薬品の精巣に及ぼす影響は,非臨床試験では病理検査や妊娠率などから受胎能を評価するが,臨床試験では精液パラメーターやホルモン測定が主な評価項目となっており,精巣毒性を確実にモニターできるバイオマーカーに乏しいのが現状である。また,精子形成サイクル初期への影響をタイムリーにモニターできる確実なパラメーターがないため,影響が検出された時には,既に不可逆的な変化が生じてしまっている危険性がある。このような背景から,精巣毒性が示唆される薬剤開発をサポートする目的で,2015年にFDAよりドラフト・ガイダンス「Testicular Toxicity: Evaluation During Drug Development Guidance for Industry」が公示された。本発表ではドラフト・ガイダンスの概要を主なパブコメ内容と共に解説する。また,近年承認された精巣毒性を有する薬剤の非臨床試験成績と臨床試験内容についての調査結果を報告する。

  • 古川 賢, 黒田 雄介
    セッションID: S17-3
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

    魚類の精巣は哺乳類と同様、精子形成と雄性ホルモンなどの分泌を行う組織であり、形態学的には生殖細胞(精原細胞A、精原細胞B、1次精母細胞、2次精母細胞、精細胞及び精子)、セルトリ細胞及び間質細胞より構成される。しかし、魚類における精子形成プロセスは哺乳類と大きく異なり、精原細胞はセルトリ細胞内に1ケずつ包まれ、精子包嚢を形成し、包嚢内で完全に同調してクローナルな分裂、分化を繰り返して精子を形成する。さらに、精巣の正常組織形態は魚種によって異なり、非局在性吻合管状型(ニジマス、サケ)及び非局在性小葉型(コイ、ファットヘッドミノー、ゼブラフィッシュ)及び局在性小葉型(メダカ、グッピー)の3つに区分される。また、魚種によっては性転換することで精巣組織そのものが卵巣組織に変わってしまうものもあり、魚類の精巣毒性を評価する上で、魚種ごとに精巣の正常構造を理解しておく必要がある。

    魚類の精巣への影響は内分泌かく乱物質について多くの報告があり、OECDでは環境中の内分泌かく乱物質の検出系として、メダカを用いた魚類21日間スクリーニング試験(OECD TG230)及び魚類短期繁殖試験(OECD TG229)を制定している。特に、OECDの内分泌かく乱化学物質の試験と評価のための概念的枠組みでは魚類の生殖腺の病理学的検査は有用であるとされており、魚類短期繁殖試験では被験物質を21日間曝露した魚についてビテロジェニン測定と生殖腺の病理組織学的検査を検査項目として定めている。さらに、OECDガイダンス文書(OECD Guidance Document for the Diagnosis of Endocrine-Related Histopathology of Fish Gonads)では、魚類生殖腺の病理組織学的検査方法を示している。さらに、内分泌かく乱物質により誘発される組織学的変化として、精巣では精原細胞割合増加、精巣卵、精巣変性、ライディッヒ細胞過形成、精原細胞割合減少、精母細胞/精細胞比率変化、間質線維化及び精上皮萎縮/低形成などの診断基準についても定めている。本発表では魚類の精巣の正常構造と、これら内分泌かく乱物質により誘発される病変について説明する。

シンポジウム18
  • 金森 敏幸
    セッションID: S18-1
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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     米国NIHのNCATS(National Center for Advancing Translational Sciences)が主導して2012年に開始された、いわゆるHuman-on-a-chipの大型プロジェクトは、昨年秋からMicrophysiological System(Tissue Chips)Programとして新たなスタートを切った。世界中の、特に米国における細胞アッセイ(cell-based assay)に関する研究報告は、ここ1年で完全に様変わりし、医薬品メーカーと連携し、具体的な用途、目的を設定しているものが目立ってきている。すなわち、チップの上に人体を作り上げる、という途方も無い研究から、マイクロプロセスを用いて個々の臓器の機能を発現させ、必要に応じて臓器連関システムを再現させる、という実用的な研究開発に完全に転換した。

     我が国でも、昨年の夏、日本医療研究開発機構(AMED)が「再生医療技術を応用した創薬支援基盤技術の開発」を目的とした技術開発事業を開始したが、その目的と内容はNCATSの後継プロジェクトと全く同じである。また、米国ではNCATSの元、上述のプロジェクトと紐付けられた形でInternational Consortium for Innovation and Quality in Pharmaceutical Development (IQ Consortium)が設立され、その活用がプロジェクトの成否を左右するとされているが、AMEDの研究開発事業でも、アカデミア、MPSシステムのプロバイダー、ユーザー(主に医薬品メーカー)が一体となって研究開発を推進することが求められ、集中研究拠点が設置された。欧州についても、国際的なメガファーマを横串として上述のプロジェクトやIQ Consortiumに参画しており、この分野はバイオ分野のいつもの構図、欧米対日本となっている。

     MPSの「実用化」という観点から見れば、様々な技術要素を組み合わせた「物作り」のノウ・ハウが必須であり、我が国が得意とする分野である。我が国が欧米諸国に打ち勝つためには、ユーザーニーズの吸い上げ、すなわち、医薬品メーカーと技術開発者の間の密接な情報交換が必須である。

  • 井上 正宏, 近藤 純平, 辰己 久美子
    セッションID: S18-2
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

    患者個人に最適な治療を的確に判断して行う医療が求められる時代に入っている。これからの薬剤の開発、バイオマーカーの探索、耐性機構の解明などには、個人差を反映する患者組織が基本的な研究材料となる。また、がん細胞や正常細胞の初代培養は刺激や治療に対する応答性が観察できることから、非常に有用な情報を提供する。我々の開発したCTOS法は、腫瘍組織からがん細胞を調製・培養する方法のひとつで、がん組織からがん細胞を単細胞化することなく細胞塊として調製する方法である。CTOSは形態学的特徴、極性状態や休眠能など樹立癌細胞株では失われた特性を保持している。CTOSを用いた感受性試験は、初代培養で用量依存曲線を解析することを可能にした。マウス移植腫瘍からは膨大な数のCTOSが一度に取れるので、CTOSをハイスループットスクリーニングに応用できる。さらに多数の患者腫瘍に由来するCTOSパネルでCTOSライン間の感受性の多様性を検証できる。正常組織からの細胞調製・培養についても、肝臓組織幹細胞の新しい効率的な調製法の開発を行っている。このように広く細胞培養領域でイノベーションが進行している中で、研究開発を推進するためには強固なインフラを構築する必要がある。診療過程で生まれる残余検体が第一のバイオリソースとなる。残余検体とは、患者から診断・治療を目的として採取された臓器・体液で、検査終了後の検体の残存部分を指し、通常は医療廃棄物として廃棄される。残念ながら我が国のバイオリソース有効利用は、国際的に大きく後れを取っている。凍結・固定・抽出を経た検体の供給はある程度整備されつつあるが、培養に適した新鮮な検体の利用は各研究機関と各医療機関に任されている。臨床検体は本来オープンプラットフォームとして利用されるべきものである。本講演ではこのような問題を解決する戦略を提案したい。

  • 酒井 康行
    セッションID: S18-3
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
    会議録・要旨集 フリー

    細胞の三次元組織化を考える場合,最初に考えておくべきことは,酸素・栄養素・増殖因子・老廃物等の細胞・培養液間の交換である.人体では,階層的な血管ネットワークが当然のごとくこの役割を果たしているが,インビトロの培養系では,その配置は依然として極めて困難であり,それに代わる物質輸送の確保が細胞生存にとっての前提条件である.培養工学・生体組織工学においては,様々な物質のうちまずは酸素に着目をしてこの課題を解決する.これは,細胞当たりの酸素の消費速度が他の物質の代謝速度と比べて大きいこと,培養液には赤血球が存在しないことから酸素の溶解度が極めて小さいこと(血液の1/70)による.血管無しの組織については,表層からの酸素の拡散と消費とでスフェロイドの最大直径や重層化シートの厚さが決まる.

    このように構築された組織内の酸素の拡散と消費に加えて,実は通常のプレート静置培養における培養液中の酸素の拡散律速の問題もあり,底面で培養された細胞の酸素要求性がしばしば充足されず,細胞が生体内と大きく異なり,嫌気的な状態に置かれてしまう.この静置培養での酸素供給を抜本的に改善するために我々は,通常のプレートの底面をシリコーンゴムの一種のPolydimethylsiloxane(PDMS)に交換した酸素透過プレートを作成し,増殖性肝由来細胞からの層化組織の自発的形成や,好気的呼吸の培養条件下での再現など,従来のプレート培養では見られない現象を観測することができた.2種の細胞の共培養では,通常は2つの細胞が底面を取り合うが,PDMSプレート上では二種の細胞を時間差をもって播種するだけで,完全な重層化構造の形成が可能であった. また,肝実質細胞・星細胞・血管内皮細胞の三層の階層構造の再現も同様に可能であった.興味深いことに,このような階層的共培養肝組織では,炎症刺激に対して一種の頑強性を示すことを確かめており,インビボの平常時に相当する低炎症状態を再現できたと考えている.このように,肝細胞単独ではなく,共培養を行い生体に近い構造の組織を形成することで,細胞同士・液性因子やマトリックス経由の相互作用がインビボのように最大化され,生理的な状態が再現できることを示している.

  • 相場 節也, 木村 裕
    セッションID: S18-4
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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     環境汚染物質、食品添加物、薬剤などの化学物質のなかには免疫系を標的とし、アレルギー、自己免疫疾患、免疫抑制に基づく易感染性、発癌などの健康被害を及ぼすものが少なくない。したがって、化学物質による免疫毒性は、公衆衛生行政、薬品開発いずれの分野においても重要な課題である。しかし現在存在している化学物質の免疫毒性評価法は、極めて多岐にわたる免疫反応に及ぼす化学物質の影響を評価するには不十分であり、さらにその多くが動物実験に依存している。言うまでもなく、動物実験には得られた結果からどこまでヒトに対する影響を類推できるかという科学的問題に加えて費用面、倫理面など多くの問題が存在する。したがって、これらの問題を解決するためには多岐にわたる免疫反応を動物実験を用いずに評価する試験系の開発が不可欠である。

     我々は、平成18−22年NEDO「高機能簡易型有害性評価手法の開発」プロジェクトにおいて、産業総合研究所が開発した3色発光細胞の技術を応用し、Jurkat細胞におけるINF-γ、IL-2、G3PDHプロモーター活性、THP-1細胞におけるIL-8、IL-1β、G3PDHプロモーター活性をhigh throughputに評価できる長期細胞株を樹立し、化学物質の免疫毒性多項目評価システム(Multi-ImmunoTox assay;MITA)を構築し国内外の特許を取得している。本シンポジウムでは、MITAと皮膚感作性試験法IL-8 Luc assay (OECD442E)を組み合わせたmodified MITAによる合計60化学物質からなるdata setを作成し、さらにそれらを用いて化学物質の免疫毒性に関するcluster解析を行ったので報告する。またcluster解析に基づく、化学物質の免疫毒性予測法についても考察する (Arch Toxicol, in press)。

  • 南谷 賢一郎, 土居 正文, 藤田 卓也, 有江 裕子, 藤澤 希望
    セッションID: S18-5
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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     医薬品の非臨床安全性試験における動物を用いたin vivo毒性試験では、実験動物とヒト間の種差が原因となり薬剤のヒトにおける毒性学的なリスクを十分に把握できていないことが課題の一つとして挙げられる。このような背景の下、各種ヒト由来細胞を用いたin vitro試験が検討されているものの、一般的には単一の細胞や株化細胞が使用されていることから、細胞本来の機能や細胞間、組織間の複雑な機能連携を模倣することが困難なケースが多く、ヒトへの外挿性という側面において未だに課題がある。

     近年、臨床検体の利用環境の整備やヒトES細胞/iPS細胞からの分化誘導技術の革新とともに、三次元培養、オルガノイド培養、マイクロ流体デバイスを用いたOrgan-on-a-chipやBody-on-a-chip等の培養技術の開発が精力的に進められており、これらの新規技術を応用したin vitro毒性評価の期待が高まっている。

     本発表では、4名の先生による新規in vitro技術に関するご講演を受け、製薬企業の毒性研究者の立場から、これらの新規技術を医薬品の安全性評価へ利用する場合の課題や新しい試験法への期待についてパネルディスカッション形式で議論したい。

シンポジウム19
  • Leigh Ann BURNS NAAS
    セッションID: S19-1
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    Vaccines are an integral part of the strategy for improving public health. They are typically given to health individuals to prevent disease but may be given in a therapeutic setting as well. Antigens in vaccines may be weakly antigenic and therefore require the co-administration of adjuvants to enhance their immunogenicity. Historically alum has been used but because of an increased need for vaccines that elicit cell-mediated immunity, the search for novel adjuvants has significantly increased. Safety of vaccines and adjuvants is typically evaluated non-clinically and during clinical trials and additional safety evaluations are often conducted during batch release testing. While the vast majority of vaccinated individuals only experience mild symptoms following administration, occasionally there are unexpected adverse events noted in the broader population. This introductory presentation will discuss the regulatory expectations for safety evaluation of vaccines and adjuvants prior to registration and during batch testing and release and will offer thoughts on opportunities for improvement. Additionally, it will explore some recent examples of unanticipated adverse events and the challenges for predicting these de novo and will set the stage for further discussion of immune-related evaluations and systems biology approaches to improve both the efficacy and safety of future vaccines.

  • 水上 拓郎
    セッションID: S19-2
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/10
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    Vaccines are the most effective tool to prevent and control infectious diseases in humans and will remain a major tool for combatting unknown infectious diseases that emerge in the future. Recent advances in vaccinology, combined with molecular biology and immunology, enable us to develop well-designed vaccines to induce target-oriented immunity without using conventional vaccine production platforms, such as the inactivation of live pathogens and splitting their components. On the other hand, assessment of vaccine safety at the preclinical level and after the licensure have not changed since preclinical and lot release testing were introduced 50 years ago. Our laboratory has been committed to investigating the potential safety of newly developed vaccines and assuring the lot-to-lot consistency of vaccines as a national control laboratory. Herein, we introduced our new assessment tool for vaccine safety and quality control. Systems vaccinology approaches enable us to identify potent biomarkers (BMs) for evaluating the safety of influenza vaccines and adjuvants administered via any in vivo injection route in mouse models. Some parts of BMs could be applied or extrapolate for humans using in vitro human peripheral blood mononuclear cell models and in vivo humanized mouse models. Taken together, our findings could allow us to bring next-generation safety evaluations of vaccines and adjuvants.

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