貯蔵,養殖などの海洋資源開発や海中空間利用を目的として,海中に広く展張する比較的柔軟な海中構造物の一つとして薄肉シェル構造が考えられる。このような曲率をもつ構造では,水圧による変形のために曲率が変化して形態抵抗の変化を引き起こし,さらに変形に荷重が追従する非保存系の循環のために,擾乱による動的挙動は不安定状態となる前にカオス挙動となり,その安定性の判断には動的判別法が必要である。このため,薄肉シェルにおける非周期運動のカオス挙動から不安定状態に至るまでの動的挙動に関する現象を把握し,安定性指標を模索することは,種々の非保存力学系に対する統一的な安定性判別法の確立の礎となる可能性がある。
本研究では,大空間構造の基本的な構造である,水圧型の従動荷重を受ける薄肉シェルを対象として,負荷時の擾乱による動的挙動を解析し,さらに最大リアプノフ指数の安定性指標としての可能性を調べた。
先ず、水圧型の従動荷重により大変形を起こした薄肉シェルの擾乱により生じる動的挙動を解析するために,部分球形シェルを対象として,変形に追従する埋め込み(粒子)一般座標を用い,水圧型の従動荷重による大変形の場合の平衡方程式を求め,Galerkin法を適用して定式化を行い増分の式を導き,荷重増分法により大変形の様子を数値解析した。
次に,平衡方程式の微小変動分の式に慣性項と減衰項および擾乱としての脈動荷重を考慮して運動方程式を導き,これにGalerkin法を適用して定式化を行い,導かれた連立微分方程式にRunge-Kutta-Gill法を用いて動的挙動の数値解析を行った。
次に、水圧型の従動荷重の負荷時における擾乱による薄肉シェルの動的挙動を解析した結果をもとに,その不安定現象の安定限界の近傍で現出するカオス挙動に至る過程を調べた。これには,従動荷重の負荷時における擾乱による薄肉シェルの動的不安定に関して安定領域図を作成し,その共振域とその近傍における動的挙動について求めた応答変位のパワースペクトルおよびポアンカレ断面を分析した。その結果,動的挙動に関し、曲げ共振が主体となる協力現象型および曲げと面内の複雑な連成振動が主体となるセルフ・アセンブル型に分けられることがわかった。
さらに,カオス解析手法の一つである最大リアプノフ指数を用いて,協力現象型およびセルフ・アセンブル型両方の不安定移行の過程における状態判別を行い,最大リアプノフ指数の安定性指標としての有用性を調べた。その結果、「安定→遷移域→不安定」と状態が移行していく中の「安定→遷移域」の様相を、最大リアプノフ指数の変化を調べることにより捉えることが可能であり、さらに安定の度合いも相対的に判定することができることがわかった。これらより、最大リアプノフ指数の安定性指標としての有効性と、最大リアプノフ指数を主体とする安定性判別法の確立の可能性を示すことができた。
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