本研究では, 江戸時代人の歯冠サイズの地理的変異を調査した。資料は, 東北地方, 関東地方, 近畿地方, 九州地方から出土した江戸時代人骨の永久歯歯冠である。すべて成人男性である。分析は, 一元配置の分散分析, 偏差折線, ペンローズのサイズ距離を用いた。その結果, いずれの分析でも地理的変異の存在が示唆された。近畿地方の江戸時代人は歯冠サイズがもっとも大きかったが, 東北地方の江戸時代人は歯冠サイズがもっとも小さく, 両地方の集団は対照的であった。九州地方と関東地方の集団は, 近畿地方と東北地方の集団の中間サイズであった。近畿地方の集団は大きな歯を持つ渡来人に近く, 東北地方の集団は小さな歯を持つ縄文時代人に近い。今回の結果は, 江戸時代人の歯冠サイズの地理的変異と渡来人の流入との関連性を示唆し, 興味深い。
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