Anthropological Science (Japanese Series)
Online ISSN : 1348-8813
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ISSN-L : 1344-3992
123 巻, 2 号
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原著論文
  • 山田 博之, 濱田 穣, 國松 豊, 中務 真人, 石田 英實
    2015 年 123 巻 2 号 p. 93-109
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/16
    [早期公開] 公開日: 2015/11/05
    ジャーナル フリー
    大型類人猿における犬歯形態と性的二型を明らかにすることを目的に研究を行った。資料は各博物館・研究所に所蔵されている大型類人猿(オランウータン,ゴリラ,チンパンジー,ボノボ)の頭蓋骨に植立している犬歯の超硬石膏模型である。大型類人猿の犬歯の歯冠サイズはオスが大きく,メスは小さい。舌側面からみた歯冠概形は4種とも上顎がオスで底辺の広い二等辺三角形,メスで正三角形を,下顎は雌雄とも不正四辺形を呈す。雌雄とも近心shoulderの位置は上顎のほうが下顎よりも歯頸寄りに,また浮彫像では上顎犬歯で近心半部に近心舌側隆線が,下顎では遠心舌側へ遠心舌側面隆線が走行する。4種で比較すると,オランウータンはオスで歯表面に皺が多いこと,また歯冠と歯根がスムーズに移行し,歯頸部にくびれがないことが特徴的である。ゴリラではオスの上顎犬歯の歯頸隆線の発達が弱いこと,および下顎犬歯の近心舌側面窩にある切痕が強いことが特徴であり,Pan属の2種で雌雄とも上顎犬歯の遠心shoulderが近心shoulderの位置と同等か,それより尖頭寄りにあること,ボノボでは雌雄とも上顎犬歯の遠心舌側面隆線が歯頸隆線と合流してL字状の形態を呈すことが特徴的である。大型類人猿4種では犬歯の性差は大きさだけでなく,歯の形態や歯冠構造でも明らかである。メスの犬歯は以下の特徴でそれぞれの種のオスの犬歯と違いがみられた:1)全体的に小さい,2)表面の浮彫は発達が弱く,全体的に丸みを帯びた形態をしている,3)下顎犬歯の近心shoulderは相対的に尖頭寄りにある,4)歯頸隆線は発達が良い。歯冠の計測値ではゴリラが最も大きく,次いでオランウータン,チンパンジーが続き,ボノボが最も小さい。オスの方が歯冠高を含め歯冠サイズは大きい。とくに尖頭と近心shoulder間距離が最も性差が強い。一方,歯頸部エナメル質の膨らみ具合はメスの方が絶対的にも相対的にも値が高い。類人猿の社会構造との比較では,単独生活者のオランウータンと単雄複雌群のゴリラは強い性的二型を,複雄複雌群のチンパンジーやボノボではサイズはこれよりもやゝ弱い性的二型が認められた。
  • 田原 郁美, 海部 陽介
    2015 年 123 巻 2 号 p. 111-124
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/16
    [早期公開] 公開日: 2015/11/11
    ジャーナル フリー
    縄文時代人の四肢骨長さの遠位/近位比は,弥生時代以降の日本人集団に比べて大きく,世界の現代人集団と比較しても大きい部類であることが知られている。一方で,現代人におけるこの比はアレンの法則と関連づけられ,居住地の気温の指標になるとの考えがある。そうであれば,縄文時代人の四肢内プロポーションは熱代謝の上で熱帯的ということになり,温帯~亜寒帯に属する日本列島に1万年以上に渡って居住してきたこととの矛盾を説明しなければならない。本来,アレンの法則は四肢の遠位/近位比ではなく胴体サイズに対する突出部の大きさを問うもので,ヒトにおいてもこの指標の方が気候との対応がより明確である。そこで本研究では,日本の縄文・渡来系弥生・江戸時代集団を対象に,胴体サイズに対する相対的な上肢・下肢長を比較した。結果として縄文と弥生の間に有意差は認められず,それらの値は海外の温帯~亜寒帯地域集団と対比できることがわかった。従って縄文時代人の体形は,熱代謝の観点において,熱帯的であるとは言えない。この知見は縄文時代人が北東アジアに起源したという近年の仮説を排他的に支持するものではないが,これとも調和的である。ただし低身長の江戸時代人では四肢長:胴体サイズ比がさらに低下していたことから,この値には,身長のような気温以外の環境要因も影響する可能性を考慮しなければならない。一方で,四肢骨長と骨盤幅を変数とした身体の全体的プロポーションの多変量解析の結果は,縄文と渡来系弥生の間に,特に男性において明確な違いが認められた。これは両者の系譜的相違を反映していると考えられる。
雑報
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