このところ確実に継続している世界の人口増加や食糧生産基地の農地の劣化を考えると, 近い将来, 世界の食糧生産は最重要課題の一つになりそうである.一方, 水深数10mの真光層以深に存在する巨大な栄養塩類のストックは, 現状の海洋の生産を高める一大可能性を秘めており, それが実現すれば, 陸上での動物タンパク質生産を補うことが可能である.そこで魚や他の水産生物の増産を目指して, 現在, 日本で進められている海域生産性向上への3つのチャレンジを紹介する. 第1は, 大陸棚の底近くにある栄養塩類を多く含んだ海水を人工海底マウンドと流れの作用によって貧栄養の表層水と混合して肥沃化を図る.第2は, 富栄養の海洋深層水を陸上に汲み上げ, それによって発電所を冷却し, 温まった海洋深層水を浅海域に放水して藻場やプランクトン群集の生産を高める.第3は, 大陸棚以遠の深い海域で海洋深層水を揚水し, 暖かい貧栄養の表層水と混合して密度調整し, 真光層中に留まるように放水することにより海域を肥沃化する.
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