Geographical review of Japan, Series B
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59 巻, 2 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
  • トレス海峡の生態的・文化的多様性,とくに水産資源の利用について
    大島 襄二
    1986 年 59 巻 2 号 p. 69-82
    発行日: 1986/12/30
    公開日: 2008/12/25
    ジャーナル フリー
    オーストラリアの北都,ニューキニア本土との間にあるトレス海峡は,いま,オーストラリア側に18島,パプァ・ニューギニア側に2島の有人の島がある.これらは一般的にいえぽ海に依存する人々,アイランダーズの生活空間として概括されるが,詳細にみればそれぞれの島の自然地理学的特性と,そこに住み着いた人の民族的・歴史的背景の相違を反映して,海への認識のしかたが微妙に喰違っている.それを,海面利用形態・伝統的漁法・資源利用状況・近代的漁業導入などの観点から比較分析し,その生態的・文化的多様性を明らかにする.
    結論として以下のような3点をその分類の基準とすることができた。
    (1) 両岸からの距離:当然のことながら本土から離れている海峡中央部では海への依存度が高い。東部諸島・中部諸島・西部諸島がそれである.他方,ニューギニア本土に近い北西部諸島・キワイ諸島や,ケープ・ヨーク半島に近いプリンス・オブ・ウェールズ諸島では本土との交易によって農産物を期待できる.
    (2)自然地理学的・生態学的要因:火山島は肥沃な土壌があり農業を営むことができる.クラン毎の土地区分はリーフ内の水面に及ぶ。サンゴ礁島では土地が狭くかつ痩せているので漁業に頼らざるを得ない.よい漁場は島民共有の財産と考えられる.
    (3) 歴史的条件:近世以降の外来者の定住によって混血が進んだ島では,伝統的な生活習慣は失われ,資本主義漁業たとえば真珠やエビに志向したし,近世以前でも交易が盛んだった沿岸部の島では対岸の影響を受けることが多かった.
  • 1970年頃以前を中心にして
    山下 清海
    1986 年 59 巻 2 号 p. 83-102
    発行日: 1986/12/30
    公開日: 2008/12/25
    ジャーナル フリー
    本稿は,シンガポールにおける華人方言集団のすみわけパターンとその形成要因について考察した.すみわけパターンを把握するために,華人会館や廟の分布,および華人会館会員の分布を,いくつかの時期ごとに地図化した.その結果,次のようなすみわけパターンが明らかになった。
    華人の居住はシンガポール川の南岸地区(大披)から始まり,福建人,潮州人,および広東人の三大方言集団が,そこを大きく3つの地区にすみわけた.一方,移住時期が遅れた海南人,福州人,興化人などの少数方言集団がおもに居住したのは,シンガポール川の北岸地区(小披)であった.そこには3大方言集団も多数居住し,少数方言集団と互いにモザイク状にすみわけた. このように,華人方言集団のすみわけパターンは,シンガポール川を挾み,その南岸と北岸で著しい対照をなした.これらのすみわけパターンは, 1968年頃においても大きな変化はなかった.
    以上のすみわけパターンの分析に基づいて,次にすみわけパターンの形成要因について考察した.華人移民は故郷を出発する時からシンガポールで生活を始めるまで,客頭,客桟,猪仔館などをとおして,7連の地縁的な鎖によって結ぼれていた.このような地縁的連鎖は,すみわけを促す要因の1つであった.
    華人方言集団の内部には,すみわけを形成する内的要因が認められた・華人は方言集団内部の相互扶助に期待して,また,言語,宗教,食事習慣をはIじめ,自己の伝統文化を保持したいという欲求を抱いて集中居住し,アーパン・ヴィレッジを形成した.このようなアーバン・ヴィレヅジを核として,華人方言集団のすみわけは拡大していった.
    華人の経済活動の特色について検討した結果,それぞれの華人方言集団は,特定の職業分野で卓越し,専門化する傾向が顕著に認められた.このことは,特定の華人方言集団の地域的集中を強める結果となり,すみわけを助長した。
  • 空間的相互作用モデルによる実証的研究
    伊藤 悟
    1986 年 59 巻 2 号 p. 103-118
    発行日: 1986/12/30
    公開日: 2008/12/25
    ジャーナル フリー
    本研究は,東京大都市圏を事例として距離の摩擦の側面を解明することを目的とした.そのために,発生制約型のエントロピー最大化モデルを,東京大都市圏内の自動車交通流に適用することによって,第1に,同モデルの距離パラメータの地域的パターンを抽出し,第2に,同パラメータに共存する行動・配置の各要素の効果を峻別し,さらに第3に,距離の摩擦の測度である行動要素に関連する地域的属性を追求した.以下は,本研究の成果を要約したものである.
    1. 一般化HYMAN法によって推定された距離パラメータは,東京大都市圏の中心部と縁辺地帯において低く,逆にそれらの中間地帯において高い.すなわち,距離パラメータの地域的パターンはドーナツ状の構造を示す.
    2. 指数型の距離逓減を示す仮想的流動を用いて配置要素のみを導出した結果,東京大都市圏の中心部から縁辺地帯に向けて,この要素は次第に増加する傾向を明確に示す.
    3. 距離パラメータから配置要素を減じた残差として行動要素を峻別した結果,その行動要素の地域的パターンは,距離パラメータの場合ほど明瞭ではないものの,同様にドーナツ状の構造を示す.
    4. 行動要素を規定する地域的属性は卸・小売業,不動産業および,農林水産業の特化であり,行動要素すなわち距離の摩擦と,これらの地域的属性の両者からみた東京大都市圏は, 8つの類型地区が織り成す同心円構造を呈する.
  • 高橋 重雄
    1986 年 59 巻 2 号 p. 119-127
    発行日: 1986/12/30
    公開日: 2008/12/25
    ジャーナル フリー
    消費者は,食料品の購入に際して, 2ヵ所以上のストップ(買物やその他の目的を果たすために立ち寄る場所)を訪れる場合が多い。このようなマルティプルストップ・トリップが行なわれる場合,従来,多くの研究で仮定されていたシングルストップ・トリヅプの場合に比べ,消費者は一般的に,トリップの始点である家からより遠距離の店舗に出かける傾向がある.マルティプル・ストップが買物距離にどのような影響を及ぼすかという問題は,消費者の目的地選択パターンを理解する上で重要である.カナダのハミルトンで得たデータに対する分析の結果,消費者の家から食料品店までの買物距離は,外出の際に立ち寄るストップの数,成し遂げるトリップ目的の数,および食料品店に立ち寄る時期(トリップの最初の段階で立ち寄るのか,それとも別の目的を果たした後に最後の段階で立ち寄るのか,あるいはトリップの途中段階で立ち寄るのか)という3要因に関係していることが明らかになった.
  • 篠田 雅人
    1986 年 59 巻 2 号 p. 128-136
    発行日: 1986/12/30
    公開日: 2008/12/25
    ジャーナル フリー
    本研究では, 1980年代前半のサヘル干ばつに伴う, 8月の風と水蒸気量の異常について調べた. 1980年代前半の干ばつの特徴は,グリニジ子午線において, 1982-83年の全緯度帯にわたる降水の減少と1984年の降水帯の南偏である. 1984年には,東経35度でも降水帯の南偏が認められる.
    ニアメ (13°N, 2°E) では, 1982-84年に中上層の東風が強化される。上層の東風の強化は, 1968-73年の干ばつ時には認められない。さ、らに, 1984年に露点差 (T-Td) が極大となるが,この原因としてギニア湾からめ水蒸気供給の減少が考えられる.一方,ハルッーム (16°N, 33°E) では,露点差が1983年に急増し,』1984年に極大となる.このとき,下層の降水をもたらす赤道西風が薄く850 mbに達しない.ハルツームにおいて,西風が1983年には300-500 mbに, 1984年には700 mbに出現するという異常も認められる.
  • スパイヤー R., 吉野 正敏
    1986 年 59 巻 2 号 p. 137-153
    発行日: 1986/12/30
    公開日: 2008/12/25
    ジャーナル フリー
    スリランカにおける気候要素と米作との関係を分析し,次のことを論じた.第1に最近の110年間について米の収量の長期傾向をみると1950年までは年々の変動は小さく,その後は大きい。第2に水稲栽培に関係する気温・降水量・放射・蒸発散などの気候要素との関係を論じ,最も強い制約を与えるのは降水量であることを示した.第3に米のは種および収穫面積,収量と降水量との関係を相関係数と傾向線の分析によって示した.その結果,これらの米作の諸量:は降水量偏差との2次式で表現される。第4には特にドライゾーンにおける潅漑の重要性について議論した.最後に,最近の米作における諸問題を展望した.種々の農業気候の問題のうち,米作を進展させ,干ばつ常習地域における減収を軽減するために2~3の提案を行なった.
  • Arthur GETIS, 石水 照雄
    1986 年 59 巻 2 号 p. 154-162
    発行日: 1986/12/30
    公開日: 2008/12/25
    ジャーナル フリー
    日本の3大都市圏のうち,名古屋は現代アメリカ都市に類似した街路パターンをもち,自動車保有率が高い。この名古屋大都市地域について, 1973年および1979年の石油ショックによるエネルギー費用の増大が,その機能的土地利用ないし居住・雇用のパターンにどのような影響を及ぼしたかを考察した.
    中心都市名古屋の中央部では,日本の他の大都市でも見られるように,人口が減少し,商業活動の増加および高地価によって,同市を直接とり囲む近郊地区への人口移動が行なわれ,それら近郊地帯は急速に成長しそいるが,なお人口増加に対する大きな潜在力をもっている.
    1973年の石油ショックに照らして,人口増加の緩慢化が予期されたが, 1969-75年間を通じて,名古屋の近郊地帯では,人口増加が見られた.
    エネルギー費用の増大は,日本人にとって顕著な支出となり,個人生計費の中でエネルギー費用が占める割合が拡大し,自動車のサイズ拡大の傾向が鈍化し,その使用頻度が減少するという形で対処が行なわれた。
    1975-79年期以降,愛知県では新規工場の設立が顕著に下降し,新しい工業用地の開発が減少し,鉄鋼・輸送用機械・繊維・衣服など主要部門での成長が鈍化ないし衰退している.
    名古屋市では,工業発展が鈍化しているが,繊維工業を除きその変化は顕著ではない.豊田市での工業発展はかなり減速した.名古屋から郊外への工業分散は,同大都市地域におけるかなり大きな人口の郊外化を十分説明するほど大きくはなく,近郊における工業発展は,その増加の上で顕著とはいえない.日本では,土地の供給不足および集約的利用から地価が高騰しているが,名古屋の中心地区でも,以前のちゅう密・低層の住宅地域が商業地域へと変容してきている.
    日本では,公共および民間の相当多くの雇用機関による従業者への住宅手当や通勤の実費支給,および政府による国鉄・私鉄両者に対する補助金がある。このような補助金供与は,通勤者が運賃距離よりも時間距離の方を重視させる傾向をもつ.
    電力供給の潜在的可能性から見て,工業発展の可能性のある地域は,愛知県では,とくに名古屋の近郊であると思われる.
    名古屋大都市地域では,エネルギー費用がいっそう高騰して初めて,エネルギー費用が人口および工業の郊外分散ないし他地域分散を誘導すると思われる.
  • 1986 年 59 巻 2 号 p. 163-167
    発行日: 1986/12/30
    公開日: 2008/12/25
    ジャーナル フリー
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