動物の行動と管理学会誌
Online ISSN : 2435-0397
58 巻, 4 号
選択された号の論文の4件中1~4を表示しています
原著論文
  • 稲永 敏明, 松田 亮登, 雪吹 育海, 山﨑 公太, 寺田 昌弘, 白水 歩実, 山中 猛, 實田 正博, 村松 美根生, 伊藤 秀一
    2022 年 58 巻 4 号 p. 173-181
    発行日: 2022/12/25
    公開日: 2023/01/27
    ジャーナル フリー

    本研究では、日本で供用されているスローグローイングブロイラー鶏種(Slow種)に関する基礎的知見を得るために、Slow種を元にしたコマーシャル鶏を飼育し、体重、日増体重量に加え、脚の健全性や行動特性について評価した。さらに、解体成績を調査し、これらについて一般的なファストグローイングブロイラー品種(Fast種)と比較した。

    その結果、Slow種はFast種に比べて、体重や日増体重量は有意に低いものの、歩様スコアや飛節の外反角度などは有意に低く、行動特性においても、移動や佇立時間が有意に長かった。また解体成績では、Slow種はFast種に比べて、胸部骨格筋重量が有意に軽かったものの、大腿骨乾燥重量が有意に重かった。これらのことから、Slow種はFast種よりも脚の健全性が良好に保たれており、本鶏種を利用することで、動物福祉により配慮した鶏肉生産が可能になることが示唆された。

Original article
  • 岩田 惠理, 寺山 弘樹, 石川 創, 鈴木 沙都美, 坂口 亮子, 高橋 絵里加, 浅木 裕
    2022 年 58 巻 4 号 p. 182-193
    発行日: 2022/12/25
    公開日: 2023/01/27
    ジャーナル フリー

    イルカふれあい施設でふれあい活動に参加するイルカ類17頭を対象に、ふれあい活動に参加する飼育下イルカ類の行動特性とストレス評価を行った。スキャンサンプリング法を用いて営業日の各個体の行動データを収集し、主成分分析により各個体の主成分得点を算出したところ、各個体の行動特性は施設ごとに異なることが示唆された。観察個体のうち、無保定採血が可能な個体は営業開始前と終了後に採血を行い、血漿中コルチゾル濃度の測定を行った。血漿中コルチゾル濃度は、営業開始前と終了後の間に有意差を認めなかった(z = 0.918, P = 0.359)、血漿中コルチゾル濃度の営業終了後/開始前比は、トレーニング頻度と負の相関を示したが(r = −0.495, P = 0.012)、来館者数との相関は認められなかった(r = −0.226, P = 0.301)。以上の結果から、イルカのストレス状態や行動特性には、仕事量よりもトレーナーとの関わり方が影響している可能性が示唆された。

原著論文
  • 伴 和幸, 野上 大史, 高見 一利
    2022 年 58 巻 4 号 p. 194-203
    発行日: 2022/12/25
    公開日: 2023/01/27
    ジャーナル フリー

    動物園動物によるヒトの死傷事故は甚大な被害をもたらすが、正確な事故件数すら把握されていない。そこで本研究は安全対策に資するべく、国内の動物園で発生した動物によるヒトの死傷事故を定量的に評価した。5つの新聞記事データベースを用いて、約72年分の記事から加害動物、発生時の行為などを調査した。その結果、54園で発生した107件122人分(死亡25人、重傷50人、軽傷39人、不明8人)の事故を確認した。飼育員の事故原因はゾウ科の同室内作業やネコ科の扉操作が多く、近年も増加傾向にあった。来園者の事故原因はクマ科などの獣舎への侵入がほぼ全てを占めていたが、2000年代以降0件であった。ゾウ科の飼育管理は直接飼育から準間接飼育へと切り替えが行われており、事故の減少が予想される。以上より、今後動物園動物によるヒトの死傷事故を減少させるには、ネコ科の扉操作による事故の安全管理システムの再構築が必要である。

資料
  • 安江 健, 河上 花琳, 塚本 純子
    2022 年 58 巻 4 号 p. 204-211
    発行日: 2022/12/25
    公開日: 2023/01/27
    ジャーナル フリー

    地域ネコの適正な飼育管理技術に資するため、緑地空間を多く含む農業系大学キャンパス(約12 ha)で屋外飼育される、2匹の子ネコを含む10匹の地域ネコ個体群の生息地利用を個体ごとに比較した。2020年6月1日~12月31日までの期間中、キャンパス内に設定してある給餌場への訪問の有無を毎日記録したとともに、給餌場付近にキャリアボックスを積んで作成した雨風除けの避難小屋の利用を、小屋前に設置した赤外線センサーカメラを用いて9~12月の期間中毎月10日間程度、24時間連続で観察した。9~10月の期間中には、首輪に取り付けたGPSロガーを捕獲可能な個体に装着して1分間隔で位置データを収集し、24時間の行動圏を測定した。避難小屋は2匹の子ネコにはほぼ毎日利用され、成ネコにも雨天日(平均±SD:352.5±172.2分)にはそれ以外の日(110.8±66.3分)よりも長く利用された(P<0.05)ものの、利用は特定の2匹に限られた。給餌場への訪問では、最長で1週間近く訪問しない成ネコが4匹存在したもののこれらは調査開始直後の1ヵ月間に限られ、全期間を通して給餌場を訪問した日数割合は84~100%と、避難小屋を利用しない個体であっても訪問頻度は高かった。連続24時間の位置データが得られた5匹の行動圏の範囲とその大きさからは、調査開始時に去勢した雄個体では24時間行動圏面積が12.4~16.3 haと大きく、給餌場以外にもキャンパス外にコアエリアを複数有していたが、それ以外の個体は雌雄ならびに避難小屋の利用の有無にかかわらず0.8~5.5 haと、その行動圏はほぼキャンパス内に収まっていた。

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