小学校英語教育学会誌
Online ISSN : 2424-1768
Print ISSN : 1348-9275
ISSN-L : 2188-5966
15 巻, 01 号
PART1
選択された号の論文の11件中1~11を表示しています
実践報告
  • -小中接続を視野に入れて-
    川村 一代, 北岡 美代子
    2015 年15 巻01 号 p. 4-17
    発行日: 2015/03/20
    公開日: 2018/08/02
    ジャーナル フリー

    本研究は,「既習語彙の想起・再生」をねらった外国語活動授業実践の報告である。昨年度は“Hi, friends! 2”のLesson 7「オリジナルの物語を作ろう」を二年間の外国語活動の総復習と捉え授業実践 を行った。今年度は外国語活動一年目である5 年生の復習がどの単元でできるかを考えた。5 年生は6 年生より語彙を多く学ぶことから語彙を中心に復習することにした。そこで,使用する語彙数が他単元に比べて多い“Hi, friends! 1”のLesson 7「クイズ大会をしよう」をアレンジすることにした。Lesson 7 のテーマは「クイズ」であり,クイズに答えるためのヒントを出すときに,既習語彙の想起・再生 が自然な流れの中でできると考えたのである。児童は“Hi, friends! 1”に掲載されている様々なクイズを体験しながら,“What's this?, Hint, please., That's right., Sorry. Try again.”などクイズで使う英語表現に慣れ親しみ,クイズのヒントを聞いたり言ったりすることを通して既習語彙を復習した。単元のゴールであるコミュニケーション活動として,自分たちで調べたクラスメートの好みを当てるクイズ大会「フレンズクエスト」を行い,既習語彙に加えて既習表現の想起・再生も行った。さらに,“What's this?”という表現が二つの文脈で使われることにも着目し,二種類の“What's this?”をバランスよく体験させるよう授業を構成し,小中の接続を視野に入れた指導を実践した。

  • -改訂した聴解力テストの試み-
    石濵 博之 , 渡邉 時夫 , 染谷 藤重
    2015 年15 巻01 号 p. 18-33
    発行日: 2015/03/20
    公開日: 2018/08/02
    ジャーナル フリー

    小学校学習指導要領外国語活動の三つの柱の一つは,「 ③ 外国語の音声や基本的な表現に慣れ親しませる」ことである。このことは「聞くこと」や「話すこと」と関連づけられる。『Hi, friends! 1』や『Hi, friends! 2』の話題や言語材料に関連して,児童が実際に聴く力をどのくらい身につけているかを測定する聴解力テストの開発が期待されている(石濵, 2014)。そこで,『Hi, friends!1』程度の教材を一年間学んだ児童の英語の音声面に関する理解度を評価するために,聴解力テスト開発を試みた。 具体的に,開発した聴解力テストは7種類の問題で構成されている。問題ごとに具体的な評価の観点を定め理解力の程度を評価した。同時に,その聴解力テストを用いて, 35時間の外国語活動を終了した時点で5年生の「聞く力」の成果を検証した。この分析結果から,『Hi, friends! 1』に準拠した聴解力テストは到達度テストとしての一端を担えるものになるであろう。また,公立小学校での1年後の評価を考慮する際に活用してもよいだろう。それは,聴解力の結果を基に次の外国語活動の指導方法を見直す機会となり,授業改善へとつながる。実際に測定した結果,留意すべき点は,児童がまとまりのある話の内容や会話の概要を聞いて理解することはむずかしいということである。それ故に,会話などの概要を捉えて「聞くこと」を考慮した指導をすることが必要であろうと提案した。

  • 町田 智久 , 内田 浩樹
    2015 年15 巻01 号 p. 34-49
    発行日: 2015/03/20
    公開日: 2018/08/02
    ジャーナル フリー

    国際教養大学が秋田県教育委員会と協働して,外国語不安の軽減を目指した小学校の教員研修を開発・実施した。既存の教員研修の形態を残しつつも,小学校教員の外国語活動指導の実態調査や研究成果を生かしながら,大学の持つ人的・物的な資源を十分に活用して研修開発を行った。研修は5日間の夏季集中研修として国際教養大学を会場に実施した。研修は4つの柱(①不安に対するサポート,②実践的な指導技術,③コミュニケーションの成功体験,④ティーム・ティーチングの模擬授業)を中心に構成し,全14 回のワークショップの中にそれぞれの要素を分散した。研修参加者は,秋田県内の公立小学校に勤務し外国語活動を指導する教員39 名(男性18 名,女性21 名:平均教員経験年数23.2 年)。研修の事前・事後で行ったアンケート及び外国語不安尺度(Teacher Foreign Language Anxiety Scale: TFLAS)を使い,教員の外国語不安の変化を調査した。その結果,事前と事 後の外国語不安尺度の平均の数値には有意差が認められた。研修前の段階で自らの英語能力に不安を感じていた教員は33 名(84.6%)であったが,研修後には16 名(41.0%)に減少していた。さら に,事後アンケートでは英語でのコミュニケーションに対する積極的な意見が多く見られ,研修が教員の外国語不安の軽減に効果的であったことが示された。

研究論文
  • Sean MAHONEY, Shin’ichi INOI
    2015 年15 巻01 号 p. 52-67
    発行日: 2015/03/20
    公開日: 2018/08/02
    ジャーナル フリー

    This paper offers data from a 2013 nationwide survey (n=1802) on the status of primary school based foreign language activity (FLA) classes in Japan, focussing on the influence of teacher backgrounds, beliefs, and situational variables on overall FLA goal achievement. While an observed decrease in the percentage of classes that homeroom teachers (HRTs) conduct alone may be considered an improvement, it may also lead to a dependency on ALTs and other assistants. Time for class planning remains inadequate for one-third of respondents, and only one-quarter of team-taught classes are being led by HRTs. However, over 80% of teachers indicate that FLA is important to their pupils and express a desire to learn English. These and other variables are measured against HRT perceptions of goal achievement. Results show the highest correlations with class achievement are pupil enthusiasm, HRT views on the importance of FLA, and the HRT’s own English abilities. Primary teachers with English teaching licences (9.6%) indicate a slightly higher perception of goal achievement than those without.

  • -言語知識と記憶理論の観点から-
    板垣 信哉 , 鈴木 渉
    2015 年15 巻01 号 p. 68-82
    発行日: 2015/03/20
    公開日: 2018/08/02
    ジャーナル フリー

    小学校外国語活動の目標を一言で述べれば,「外国語の教授・学習ではなく,外国語に慣れ親しむ」である(文部科学省, 2008a, 2008b)。しかしながら,現状として,この主旨の解釈が必ずしも一致しているとは言えない。小学校外国語活動と中学校外国語教育の連携・接続を議論する上で,「外国語に慣れ親しむ」と「外国語の教授・学習」が目指す言語知識を理解する必要がある。本稿では,小学校外国語活動と中学校外国語教育で培われる言語知識はどういったものであるか,小学校外国語活動で身につける言語知識の想起の手がかりの工夫はどうあるべきかなどの論点を,認知心理学と第二言語習得理論に基づいて考察する。 具体的には,「暗示的言語知識の心理的実在性」「記憶の処理水準説」「符号化特定性原理」の理論的枠組みに基づいて論考を進め,小学校外国語活動と中学校外国語教育の連携・接続に関する理解を深める。

  • ―小学校外国語活動の指導に関する講義の実態調査―
    内野 駿介
    2015 年15 巻01 号 p. 83-94
    発行日: 2015/03/20
    公開日: 2018/08/02
    ジャーナル フリー

    本稿は,全国の大学で開講されている外国語活動の指導に関する講義の開講形態及び授業内容に関する実態調査の報告である。小学校教員養成課程の設置されている全国の国公立大学及び東京都に所在する私立大学において,平成26年度(一部大学は平成25年度)に開講されている講義のカリキュラム及びシラバスを分析した。 対象とした大学の90%弱で少なくとも1つの講義が開講されており,大部分の学生に外国語活動の指導のあり方について学ぶ機会があることがわかった。開講講義数は小学校英語専攻を設置している大学で最も多く,英語専攻はあるが小中の区分の無い大学や英語専攻の設置されていない大学とは著しい差が見られた。また,最も多く扱われている内容は「模擬授業」(22.86%)で,次いで「指導法」(21.25%),「教材」(9.08%),「英語力向上」(6.93%)の順であった。「模擬授業」と「指導法」が各大学で扱われている回数とその大学で開講されている授業数との間に強い正の相関が見られ(それぞれr=.85, .71),実践的な内容はどの大学でも同程度の割合で扱われていることが明らかになった。 外国語活動は英語という言語を扱う領域であり,実践的な内容を教員養成段階で扱うことは有意義である。今後教科化・時数増へと向かっていく中,本研究の結果が教員養成のカリキュラムを考える 一助となることを願っている。

  • 松宮 奈賀子 , 森田 愛子
    2015 年15 巻01 号 p. 95-110
    発行日: 2015/03/20
    公開日: 2018/08/02
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は小学校教員養成課程に在籍する大学生を対象に,外国語活動指導への不安を軽減するための方策の一つとして「学級担任の役割を意識した英語スピーチ練習」を実施し,その効果を検討することである。スピーチ練習は2013 年度後期の外国語活動指導法に関する演習科目の中で4 回に渡って実施し,127 名の大学2 年生が参加した。本スピーチでは単に流暢に話すことを目指すのではなく,児童が分かるような工夫をしながら伝える,という「学級担任としての発話」を意識することを求めた。4 人グループで順番にスピーチを行い,スピーチはタブレットを用いて録画した。スピーチ後には録画された映像を見て,振り返りを行い,次回への課題を明確にさせた。本スピーチ練習を体験し,事後アンケートに回答した122 名の学生の本実践の効果に対する自己評価を調査した結果, 85%以上の学生が本実践は「学級担任としての英語力」の向上に役立ったと評価し,基本的には本実 践は英語力向上感に寄与するものと受け止められた。しかしながら「教壇に立って英語を話すことに自信がついた(不安が減った)」と回答した学生は全体の39.3%にとどまり,自信の向上(不安の減少)につながるとはいえない結果であった。ただし,履修後に残る不安・課題について調査したところ,英語力を最大の不安と回答した学生の割合が例年と比較して20%程度減少し,「自信がついた」とまではいえないものの,本実践が指導への不安軽減に功を奏した可能性があると考えられた。

  • ―タスク性と動機づけを高める要素を中心に―
    志村 昭暢 , 山下 純一 , 臼田 悦之 , 横山 吉樹 , 萬谷 隆一 , 中村 洋 , 竹内 典彦 , 河上 昌志
    2015 年15 巻01 号 p. 112-124
    発行日: 2015/03/20
    公開日: 2018/08/02
    ジャーナル フリー

    本稿では,小学校外国語活動で主に使用されている教材『Hi, friends!』(56 年生用)と中学校1 年生で使用されている英語教科書(4 社)に掲載されているコミュニケーション活動について,臼田他 (2009)で行ったタスク性分析を用いて調査した。さらに,教科書で用いられている活動が学習者の動 機づけを高めるのか調べるために,授業分析の手法として用いられるMotivation Orientation of Language Teaching (Guilloteaux & Dörnyei2008)を用いることにした。結果はタスク性分析のすべての 項目について,中学校英語教科書よりも『Hi, friends!』の方がタスク性が高く,動機づけを高める要素についても一部を除いて,『Hi, friends!』で扱われる活動の方に多く含まれていることが明らかになった。よって,『Hi, friends!』で扱われているコミュニケーション活動は,中学校の教科書に比べタスク性が高く,学習者の動機づけを高めるようなストラテジーを使用することが想定される。また,コミュニケーション活動におけるタスク性と動機づけを高める要素との関係について検証したところ,動機づけを高める要素を含む活動の方がタスク性が高くなった。

  • 岸本 映子
    2015 年15 巻01 号 p. 125-140
    発行日: 2015/03/20
    公開日: 2018/08/02
    ジャーナル フリー

    本研究は、英語の冠詞と「文法的な数」(以後<数>と表記する)の指導の枠組みを認知言語学の視点から体系的に提示し、さらにその動画教材の作成を目的とする。その有効性は小学校の実践授業で検証する。 冠詞や<数>は日本語話者の学習者にとっては、学習の困難点の一つとして指摘されている。理論的には認知心理学や脳科学や第2言語習得理論など学際的な先行研究の知見を活用して枠組みを構築する。学習者が中学生以上の場合、可算性は対象物の構成要素と境界を軸とした7段階のイメージ・スキーマを設けて(岸本2014)指導するが、学習者が小学生の場合、それを4段階に限定した動画教材を作成する。冠詞は不定冠詞とゼロ冠詞に焦点化し、定冠詞は本研究では扱わない。学習者が日本語話者の場合、対象物のカテゴリー分類の練習を、冠詞と可算性を軸とした4種類の指導順序で提示した。小学校で使われている教材のHi, friends!より語彙(名詞)を分析し、動画にする語彙を選定した。それぞれの名詞ごとに20~30秒程度の動画 を作成した。Hi, friends!(1)でも可算名詞の不可算化のような意味の拡張が出現していることを指摘し、意味拡張の指導の必要性を示した。また日本語との比較を通して、英語とのずれに気づかせ、日本語に対しても客観的に振り返る要素を指導に取り込んだ。動画を通して、人間が対象を捉える概念(対象を認識するイメージ)を可視化し、体系的にわかるように工夫した。小学校の実践授業を通して一定の成果が得られた。

課題研究
  • 加賀田 哲也 , 村上 加代子 , 伊藤 美幸, 川崎 育臣 , 森田 琢也, チェン 敦子
    2015 年15 巻01 号 p. 142-154
    発行日: 2015/03/20
    公開日: 2018/08/02
    ジャーナル フリー

    文部科学省(2012)によると,日本の公立の小・中学校等の通常学級に在籍する児童生徒の約 6.5%が特別な支援を必要としている。つまり,40 人学級であれば,2.6 人が該当することになる。 一方,平成19 年度より特別支援教育の対象となった発達障害のある児童生徒への教育的支援おび合理的配慮に関する英語教育からの関心と実践は,他教科に比べて乏しいと言える。しかしながら,昨今,特別支援教育の視点を取り入れた外国語教育における研究は,教育の権利としての児童生徒のニーズに加え,外国語学習を支援したいと願う教員からのニーズも高く,遅ればせながら,日本においてもようやくその必要性が意識されつつある。そこで,本稿では,発達障害である「自閉症スペクトラム障害」「注意欠如・多動性障害」「学習障害」の特性を概観した上で,2013年に小中教員を対象に実施した「英語学習に関する実態調査」に基づき,英語授業における「困難さ」を明らかにする。また,巻末の資料に,学びのユニバーサルデザイン (UDL) の視点を踏まえながら,特別な支援を要する児童が在籍する通常学級での授業づくりへの手がかりを示したい。

  • 吉田 晴世 , 加賀田 哲也, 衣笠 知子 , 鄭 京淑
    2015 年15 巻01 号 p. 155-166
    発行日: 2015/03/20
    公開日: 2018/08/02
    ジャーナル フリー

    現行の学習指導要領は,小学校,中学校,高等学校を通して,児童・生徒の「コミュニケーション能力」の育成を目ざしている。つまり,今後,益々英語による発信能力の育成が求められるわけであるが,そのためにはその発信手段となる英語の音声指導について,より一層充実させる必要がある。 一般に,教室における音声指導は,単語を構成する個々の音である音素 (phoneme) と発話レベルにおけるイントネーション,ストレス,テンポ,リズムなどの音声的な多様性を表す超分節音韻 (suprasegmental phonology) の指導に分けられる。本稿では,両者の視点から入門期における音声を軸 とした英語指導について概観し,実際の指導に活用していただくための手がかりを提供したい。 外国語学習の入門期では,音声を中心とする指導が望ましいことは確かであり,本稿では,この考えに基づき,1)外国語学習における「音韻認識」の重要性,2)中学校入学前にしておきたい音声を基軸とした英語指導として,音素認識を促す活動の具体例,および英語のリズム,イントネーションなどの音声的特徴に慣れ親しませるための活動の具体例の提示,3)中学校入門期における語彙指導として,新出語を活用したフォニックス指導による音素やその組み合わせの使われ方を帰納的に習得していく手法とその実践結果について述べる。

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