何有荘は旧南禅寺境内に位置し、江戸時代の塔頭跡地に築造されている。明治38年(1905)に稲畑勝太郎の所有となり、「和楽庵」と称した。
本論では、資料の収集と分析を通じて、何有荘の歴史的変遷を整理し、五つの時代性を考察した。すなわち、稲畑勝太郎による第1期(創成期)、第2期(確立期)、大宮庫吉による第3期(安定期)、地割りの改変のあった第4期(改変期)、平成22年(2010)現在の第5期(再生期)に区分して、各時代における庭園の特徴を明らかにした。
特に、大正9年(1920)5月に記された「和楽園記」の時期を、第2期(確立期)の中でも「黄金期」と位置付け、その完成度を評価した。まさに、今日の何有荘庭園の骨格となる情景が「和楽園記」に記載されていることから、「和楽園記」を詳細に分析し、復元図を作成して「黄金期」の庭園の復元的考察を試みた。その結果、「黄金期」の和楽庵と今日の何有荘との差異や特徴が明らかになった。
何有荘庭園の復元にあたっては、「黄金期」に形成された和楽庵庭園のもつ本質的な美を見極めながら、何を次代に伝えるべきかを判断した上で、現代にふさわしい美を追求し、保護しなければならないと考える。
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