新組織は新相ではないが特殊の熱處理即ち最高加熱温度が限定された條件に於て急熱急冷をうけた炭素鋼のパーライト部たりし部分こ現れる組織である.本多先生は組織内容よりベイナイトをFerrito-Marterisiteと稱すれば著者の新組織はAusteno-Martensiteと稱して明らかに組織内容を現示し得べく特殊熱處理による對照的組織として説明し得ることを提案されてゐる.著者は本多先生の提案に從ひ新組織をAusteno-Martensite組織と稱することにする.新組織は數年前著者の一人が短時間鉛浴加熱水焼入試片の試驗中發見せるもので,ナーステナイトを相當多量に含有し且つオーステナイト殘留の要因は擴散の途中に於ける炭素の下均一分布にある點が通常の加熟と焼入に因る試片のオーステナイト殘留に比し特異性を有する處である.本研究は先づ顯微鏡組織, X線迥折寫眞,顯微鏡硬度等を調査しその特性,生成の機構,生成の條件等を明確にした.
オーステナイトの存在はX線試獄により確認され,マルテソサイトの存在は顯微鏡硬度測定及び顯微鏡組織變化の連續性並に生成機構の理論的考察及び生成條件の實驗的研究から推定せるものである.
本研究に於ては更にこの新阻織を有する低炭素鋼の機械的性質を試驗し,實地に活用する爲の資料を與へた.新組織はパーライト中のセメンタイトが分解し,炭素がパーライト中の地鐵(Ac
1より或る温度以上に於てはオーステナイトになる)に擴散しつゝある途中より急冷することにより得られ,炭素量の不均一分布状態にあるオーステナイトの焼入により炭素量の多い部分が殘留オーステナイトとなり比較的炭素量の低い部分がマルテンサイトになる.生成の條件を實際方面から調査せるに温度と時間が適當であればよいのであるが,鉛浴或は錫浴加熟は最も簡單確實にして取扱ひも容易と思惟された.本實驗には特に試作の顯微鏡硬度試驗装置を利用した.この装置は構造が簡單で取扱ひも極めて容易であるが,測定値は相當信頼度高きものが得られる.この装置についても原理,機構,測定の要領を示した.
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