本研究はヂュラルミン系輕合金の硬度及び電氣抵抗並に振動の對數減衰率を測定して,復元現象の機構を究明せんとするもので,一方に於て同現象に對する本多博士と佳友元夫氏との理論的見解を實驗的に檢證すると共に,他方に於て同現象に及ぼす再溶解の影響を考究するを目的とする.從つて實驗は復元處理に基づく上記諸量の變化を測定するに重きを置き,復元條件及び復元状況を能ふる限り詳細に吟味せんと力めた.
本論文は便宣上これを3章に分かち,第I章に於ては時効硬化の本性に基づいて從來の復元理論を批判檢討し,第II章に於ては實驗方法と測定結果とを述べ,第III章に於ては實驗結果を詳細に吟味檢討して復元現象の眞因を明瞭ならしめんとした.
本研究に用ひたる試料は住友金屬工業株式會社製の普通ヂュラルミンD2,超ヂュラルミンSD,超々ヂュラルミンESD及び當研究室製のヂュラルミン系輕合金等であるが,これ等の合金は何れもそれぞれの實驗目的に應じて燒入状態と時効状態とを一定に保ち,復元温度を種々に變化してこれを復元せしめ,その際認めらるる復元状況より推して復元處理の物理的意義を明らかにした.即ち復元温度を高むるに從つて復元は顯著に生じ,更にその温度を上昇せしむれば燒鈍状態に近似する事實を指摘し,復元處理とは時効によつて粒界附近に移動し局部的に集合せる溶質原子をして分散せしめ,これを大體燒入直後の元の位置に復歸せしむる操作に外ならざることを確證し,本多博士と住友氏との理論的見解を實驗的に檢證した.而して粒界附近に存在せる一部の比較的不安定の原子は,復元處理の際復元せずして粒界より直ちに析出することを實證した.
本實驗に於ては復元温度を更に高むれば,前に析出せる溶質原子の一部も再溶解して電氣抵抗の増加として現はるることを指摘し,通常復元原子と稱ふるものの中にはかかる再溶解の原子も亦多少混在すべき事實を示した.この事實を詳細に吟味せんが爲に,上記の實驗の外に尚試料に反覆復元處理及び階段復元處理を施して,その際生ずる硬度と電氣抵抗との變化を比較檢討したが,更に試料を等速加熱せるとき現はるる復元状況を研究して,比熱曲線の意義をも考察した.
本研究に於ては以上の外に尚試料に特殊の方法で減衰振動をなさしめてその對數減衰率を求め,これが復元處理によつて如何に變化すべきを吟味檢討し,硬度及び電氣抵抗の變化と比較對照して,復元現象とは合金の状態が燒入直後の元の状態に近づくべき現象なることを確證した.又軟鋼及び銅合金の復元を實證し,復元現象は單にヂュラルミン系合金等の輕合金に於てのみ現はるるものに非らずして,他の時効性合金にも生ずべき現象なることの一例を示し,本多博士と住友氏との理論的見解の愈〓確實なることを檢證した.
以上は本研究の主體をなすものであるが,この外に尚時効停止現象に言及して同現象の復元現象と本質的に異なる所を明らかにした.又熱處理に基づく試料の振動數の變化を測定して彈性率の變化を計算し,ヂュラルミン系合金のヤング率は試料の燒入によつて減少するとの結果を得て,低温加工によりヤング率の減少する事實と能く符合することを示した.
抄録全体を表示