応用教育心理学研究
Online ISSN : 2436-6129
Print ISSN : 0910-8955
32 巻, 1 号
選択された号の論文の4件中1~4を表示しています
  • 山田 啓次
    2015 年32 巻1 号 p. 3-12
    発行日: 2015/08/31
    公開日: 2023/04/17
    ジャーナル フリー
     本研究は,創造物により評価した個人の創造性と性格との因果関係を明らかにすることにある。これまでの創造性研究において創造性と性格に連関があるとされる。しかし,それらは被験者の自己評価や行動パターンで創造性を評価したものであり,被験者の主観によるものや被験者自身の行動特性によるものである。これに対してものづくりにおける創造性の対象は創造物やアイデアであり,創造性を評価するのは基本的に他者である。それゆえ創造物の客観的評価が重要になる。本研究では創造物意味尺度(CPSS)を用いて工業高校生98 名が考案した針金ハンガーのアイデアシートの創造性を評価した。さらに主要5因子性格検査を実施し,「外向性」「協調性」「良識性」「情緒安定性」「知的好奇心」の5因子と創造物意味尺度の「新奇性」「精巧・統合」「問題解決」の3因子について因果モデルを構築し共分散構造分析を試みた。その結果,創造物により評価された「創造性」と「知的好奇心」「良識性」「外向性」の因果関係が確かめられた。
  • 北原 信子
    2015 年32 巻1 号 p. 13-29
    発行日: 2015/08/31
    公開日: 2023/04/17
    ジャーナル フリー
     本研究は,熟練教師のストレスの特徴とその要因を把握すること,熟練教師のストレスとバーンアウトおよびコーピングとの関係をストレスの予防的視点から検討を試みることが目的である。教職経験25 年以上の熟練教師151 名を対象に,ストレスについての質問紙調査を行った。その結果,熟練教師のストレスの特徴は「停滞感」「自己不全感」「余裕のなさ」「コンピュータの苦手感」に集約された。これらのストレスへは「性別」「配偶者の有無」「“ しんどい” と思う校務分掌の有無」「管理職志望の有無」がストレス要因となる可能性が示された。また,総じて熟練教師のストレスは,バーンアウトを生起させる可能性を配慮しなければならないことが示唆された。しかし,「達成感の後退」において, 男性教師は「自己不全感」を,女性教師は「余裕のなさ」をバーンアウト要因とはせず,バーンアウトにならないように働いていることが推察された。さらに,コーピングでは『対人依存型コーピング』『嗜好依存型コーピング』が熟練教師のストレス抑制に有効であること,それに対し「認知操作型コーピング」は,時にストレス促進に作用することが示唆された。以上から中学校熟練教師のストレスへの予防の方策について検討した。
  • 岩口 摂子
    2015 年32 巻1 号 p. 31-42
    発行日: 2015/08/31
    公開日: 2023/04/17
    ジャーナル フリー
     保育者・教員養成課程の時間的制約がある中,ピアノの練習効果をあげるための一つの方法として,練習報告書を試み,そのデータを使って,演奏成績への効果や,進度との関連について分析した。その結果,報告書の提出率,練習に対する全体の自己評価,練習方略全体の順守率は演奏点と有意な相関を示し,一定の効果が示唆された。さらに演奏点は,自己評価の全ての項目のほか,課題曲の習得目標を捉えること,分割練習,人前で演奏することを意識して弾くといった練習方略と正の相関があること,また同じ時間練習するならまとめてやるより,何日かに分割して練習する方がよいということも明らかになった。初級,中級,上級間では,演奏点,練習日数,練習総時間,複数の自己評価の項目,複数の練習方略項目の順守率において,有意な差が認められた。今後は初級者や上級者に比べて練習日数や練習総時間が少なく,練習の質が低かった中級者の教材編成の工夫や,個々の学生の特性を踏まえた練習報告書の運用が求められる。
  • 佐野 和規
    2015 年32 巻1 号 p. 43-59
    発行日: 2015/08/31
    公開日: 2023/04/17
    ジャーナル フリー
    本研究では,定時制高校の教育相談担当教員として,自傷をする生徒を支援する中で,12名から自傷の開始・維持・改善に関わるインタビュー記録を得,質的データ分析法を用いて分析した。その際,自傷行為をする生徒が語る「居場所」をWinnicott の「抱える環境」の問題と捉えた。その結果,18 の概念と3 つのカテゴリーを得た。そして,家庭・学校も含む外的環境に全く居場所がない絶望的な「絶対的居場所欠損状態」を経て,自己の身体や自傷行為のみを居場所とせざるをえない「自傷行為の居場所化」に至り,自傷行為が開始維持される。その後,「改善キーパーソンの継続的関わり」という概念を中心とする「居場所獲得による自傷改善」によって自傷から回復するという結論を得た。その分析を通じて,当事者の自傷をせざるをえない絶望的な心理を理解するための有効な概念やカテゴリーを得ることができたとともに,自傷改善のためには,学校職員や学校で出会う友人等が改善キーパーソンとなって「抱える環境」を長期的に提供することの重要性を指摘した。
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