「関心・意欲・態度」という情意的学習の評価法が確立されていないため, 本研究では, 授業過程における子どもの人間関係や情意的行動を観察・評価する「集団的・情意的行動観察法」を開発しようとした。また, その方法の有効性を検討するために, 小学校の52の体育授業を観察・記録するとともに, それらの結果と子どもの形成的授業評価の結果との関係を分析した。その結果, 次の諸点が明らかになった。
(1) 行動観察研究に必要とされる観察の信頼性 (観察者間の一致率80%以上) は, すべての観察カテゴリーで確保することができた。「肯定的人間関係」「肯定的情意的行動」に関する一致率が他と比べ低くなったが, これは, 言語的コミュニケーションが成立しているかどうかということや, 子どもの情意的解放 (歓声, 笑いなど) が学習に関わって生じているかどうかということを外から観察して十分に判断しきれない部分が残るためである。
(2) 「集団的・情意的行動観察法」による結果と子どもの形成的授業評価との関係を分析した。その結果, 肯定的な人間関係は, 子どもの授業評価にプラスに関係し, 否定的な人間関係は授業評価にマイナスに関係する傾向が認められた。そのような傾向は, 運動種目別に見た場合に一層顕著であった。
(3) 肯定的な情意的行動は, それほど明確には形成的授業評価に関係するとはいえなかった。全体的に授業評価にプラスに作用していたが, 特に, 肯定的な情意的行動と授業評価との間には明確な傾向を見いだすことはできなかった。しかし, 否定的な情意的行動については, 形成的授業評価との間に負の相関が成り立っていた。また, 運動種目別にみると, 人間関係の結果と同様, 情意的行動と形成的授業評価との関係はより明確な関係を示し, 特に集団的種目の場合, 集団での肯定的な情意的行動と授業評価の意欲・関心次元との間に有意な関係が成り立っていた。
(4) 課題非従事と形成的授業評価との間には全体として負の相関が成立していた。また, 運動種目別に見た場合には, より明確な関係が見られた。特に, 集団的運動について見ると, 多くの項目との間で有意な関係が認められ, off task行動が授業評価にマイナスに影響することがわかった。
以上のような結果から, この観察法の, 体育授業中の集団的・情意的雰囲気を分析するうえでの有効であることが認められた。他方, いくつかの問題点も指摘できる。第1に, 全対象授業を平均化して見た場合, 肯定的な情意的行動と形成的授業評価との関係においてあまり明確な傾向が見られなかった。情意的行動のカテゴリーを関心・意欲に一対応させようとするなら, 「学習への取り組み回数」や「運動学習への直接的従事者の人数」(ALT) についても記録する必要があろう。第2に「話し合い場面」での会話の内容や「教え合い場面」での子どもたちのアドバイスの内容などの把握が困難で, この観察法の粗さが問題になった。具体的な会話の内容を把握するためには, 抽出児や特定集団に絞って観察するなど観察法の工夫が必要になる。第3に, 今回の観察では, 簡便さを期すために, 授業中のマネージメント場面の行動と体育的内容場面の行動を一括して記録した。しかし, これら2つの場面の行動は根本的に意義を異にしており, このことが行動観察と子どもの授業評価との関係を不鮮明にしたものと考える。このことから, マネージメント場面と体育的内容場面を明確に区分して観察するか, あるいはマネージメント場面の行動を削除して観察・記録した方が授業成果との関係は明確になると考える。以上のような問題点に改善をくわえて, さらに有効な観察法の開発に努めたい。
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