体育授業では, 学習の素材として陸上運動をとりあげる。しかし, 児童にとって単なる遊戯や身体運動の延長であってはならな。陸上運動として, きちんと位置づけてやることが教師の指導であり役割である。
陸上運動はできるだけ速く走れる, できるだけ長く, そして高くとべる。また, できるだけ遠く投げることができる, などの技能的価値 (特性) が要求される。それだけに他のスポーツと比較して, 基礎的な運動に近い。しかも, 単純な運動形式であるだけに, 体力的, 技能的に優れていない児童は, 興味, 関心度が低い。このような要因を教師は認識して, 児童に対する興味づけや, 関心を持続させる努力が要求されよう。
一方, 教師は自己の陸上運動に対する好き嫌いによって, 学習内容を変えることがある。すなわち, 陸上運動の認識度によって, 指導目標の設定や教材の選択, 技能的内容, 指導方法や配当時間を変えることがある。具体的には, 走運動に多くの時間をさいて指導しても, 跳運動はわずかな時間で, 指導を終わることがある。また, 指導がむずかしい障害走は短時間で終り, 持久走に長時間あてることなど, 教師の陸上運動の種目による認識度, 指導力によって, 軽重をつける場合もみられる。そのため児童の陸上運動に対する興味や喜びを引き出せないまま学習を終了することが多いようである。
教師は児童の基礎的体力, 技能の程度, 教材に対する欲求度, 関心度などを事前により早く察知して, 学習指導計画を立案しなければならない。児童の実態や運動認識を無視して, 学習指導要領の学年目標や配当通りに, 形式的, 受動的に学習指導する教師は, 児童にとって決してよい教師ではない。
教師は陸上運動の授業をするに当り,
i. 学年や学級の標準をしっかり認識し把握する。ii. 児童一人ひとりの陸上運動の体力的, 技能的個性を経過的に把握し, 理解し認識するよう努力する。iii. 児童が日頃の学習で生成発展する姿勢や運動課題に取り組む学習課程をつぶさに理解し, 認識しておく。iv. 陸上運動は本格的陸上競技へ導入する初歩的段階ともいえるので, 遊戯的要素を学習課程に取り入れ, 遊戯のなかにある真の喜び, 楽しみ, 厳しさを味あわせる。v. 走ったり跳んだり仲間と切磋琢磨するなかで, 競争心を呼びおこす。vi. 学習課程で児童のなかにとけ込み, そのなかで児童と一緒に走り, 跳んだりして示範する。vii. 児童に気付かれないように, 常に児童一人ひとりを客観的に把握しその人間関係を認識しておく。viii. もし教師自身が示範できなければ, 児童を代理示範に仕立て, 手足をとりながら言葉で指導する。また, スライドやビデオテレビなどを活用して指導する。
以上8項目に整理したが, 要は児童の心や身体に共鳴できるような指導, 児童の琴線にふれるような指導, 教師と一人ひとりの児童との間に結びつく心と心のベルト (ラポート) があってこそ, りっぱな学習指導ができると考える。チームスポーツと比較して, 陸上運動は単純な形式での基礎的教材である。それだけに以上述べてきた指導方法を常に考慮しながら学習課程をすすめるべきであろう。
まとめると, 陸上運動の指導に当って, 教師の運動認識や児童の運動認識の深さが, 指導上いかに重要であるか, 論じたものである。陸上運動に対す教師の深い認識を, 児童に十分伝達し, 指導していくことは, 学習効果を高める大きな要因となろう。
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