本研究では, 2つの小学校の2人の教諭が指導した2単元の体育授業を対象として, 教師行動, 及び教師行動の形成的授業評価の関係を, 事例的に検討した。
その結果, 以下の諸点が明らかにされた。
1) 2教諭の教師行動は異なっていること, 2教諭の教師行動はともに単元を通して一貫して安定しているわけではなく, 変化していることが確認された。このことは, Gusthartの報告と一致していた。
2) 2教諭とも, 相互作用の値が高くマネージメントは低い値を示したこと, 演示がほとんどみられないこと, 相互作用の下位カテゴリーでは補助的相互作用, フィードバックの割合が発問, 受理, 励ましの割合と比べて高くなっていること, フィードバックの下位カテゴリーでは矯正的フィードバックの割合が高いことが示された。このような結果は, 高橋らの研究結果と一致していた。
3) 小学校の体育授業における教師の相互作用行動は, 介入を受けていない場合, 単元を通して, 発問はほとんどみられず, 励まし及び受理は中程度の量を保ちながら中程度のばらつきでみられ, フィードバック及び補助的相互作用は大きな量を保ちながら中程度より大きいばらつきでみられることが示唆された。
4) 学習形態と教師の指導対象との間に不一致がみられたことから, 学習形態が必ずしも教師行動を方向づけない可能性のあることが示唆された。
5) 教師行動と形成的評価の間には明確な関連性はみられなかった。これまで教師行動と形成的評価の間には, いくつかの相関関係のみられたことが報告されてきたが, 本研究ではそのような研究成果を支持する結果は得られなかった。しかし, 教師行動は, 形成的評価に即時的な影響を及ぼさないが, 徐々に影響を及ぼすのではないかという仮説が立てられた。
本研究は, 2人の教師による2単元の授業を対象とした事例研究であり, この結果から結論を示すことは早計である。しかし, 対象の特性を明確にしながらこのような研究を反復して実施することによって, 狭い範囲の一般化を図っていくことが可能になると考えられる。ただし, なぜそのような行動が生じたのかといった側面に関しては, ここで用いた手法によって明らかにすることは困難であるため, 他の研究手法によって明らかにしていくことが求められる。
本研究から, 教師行動は一貫して安定しているわけではないことが確認された。この結果は, 生徒行動も, 一貫して安定していないのではないかということを予想させる。生徒行動の実態, 生徒行動と形成的評価との関係, また, 技能レベルといった児童の特性からみた生徒行動に関して, 今後, 事例的に検討することが必要である。さらに, 介入を伴う事例的研究, あるいは長期にわたる事例的研究によって, 教師行動と形成的評価の関係を慎重に検討することが必要である。
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