高張力鋼板および溶接棒の有意義な割れ試験方法を求めるために,リーハイ型U開先および鉄研式y開先の2種類の突合せ拘束割れ試験の比較検討を行なった.両試験片とも,標準のものより小型の新しい試験片を用い,引張強さ40~90kg/mm
2の鋼材と低水素系および高酸化チタン系溶接棒の組合せについて割れ試験を行なった.
溶接割れの重要な諸因子,すなわち溶接入熱,予熱温度,冷却速度,割れの時期,割れ発生温度,開先形状,母材の化学組成,溶接棒の被覆系統および強さ,熱影響部の最高かたさ,溶接直後の後熱,等価炭素量等が割れの様相やルート,断面および表面における割れ率におよぼす影響について研究を行なった。
高張力鋼の溶接割れ感受性におよぼす熱的拘束(冷却速度)の影響を示すために,3種類の割れ率の値をボンドの300℃における冷却速度に対して求め,割れを生じない冷却速度から100%の割れをおこす冷却速度までの範囲で割れ率の遷移曲線をえた.そして割れ率が50%になる臨界冷却速度の値を割れ感受性指示数と名付け,割れ感受性判定の尺度として用いた.割れ発生の時期および温度を求めるために溶接部の横収縮の測定も行なった.
本研究の結果えられた結論をまとめると次のようになる.
(1)高張力鋼溶接部の割れの状態は試験片の開先形状により大きく影響され,特にリーハイ型の対称形をなすU開先と鉄研式の非対称なy開先とにおいて著しい差異がある.
(2)供試鋼材および溶接棒でみとめられた溶接割れはほとんど全部が溶接部のルートまたはビード底面から発生し,溶接金属や熱影響部に伝播した.
(3)このようなルート割れは25~200℃の予熱温度に無関係に,溶接終了後約3min以上経って,温度が90℃以下,室温近くまで冷却した後に発生した.
(4)リーハイ型U開先試験片では母材の強さや溶接棒種に無関係に割れはほとんど溶接金属に生ずる.ただし非常に延性に富む溶接金属では割れは熱影響部か溶接金属のいずれかに生ずる.
(5)鉄研式y開先試験片では低水素系溶接棒を用いたときには割れはルート(鈍角をなす側)から母材の熱影響部に沿って進んだ後,溶接金属中へ折れ曲がった.しかし熱影響部より延性の劣る溶接金属の場合には割れは溶接金属か熱影響部のいずれかに生じた、一方,高酸化チタン系溶接棒ではリーハイ型U開先の場合にみられるような溶接金属割れのみを生じた.
(6)リーハイ型U開先試験片は溶接棒の相違には非常に敏感であるけれども鋼材の相違に対しては必ずしもそうだとはいえない.鉄研式y開先試験片は鋼材の相違には非常に敏感であるけれども溶接棒の相違に対しては必ずしもそうだとはいえない.
(7)リーハイ型U開先試験片は溶接棒の割れ試験用として鉄研式y開先試験片より適している。これに対してy開先試験片は母材の割れ試験用としてU開先試験片より適している.これを誤用すれば高張力鋼板とその溶接棒の割れ感受性を正しく評価することができないであろう.
(8)対称形の60°V開先(Y開先)試験片は実用上U開先試験片と等価である.
(9)ビード表面まであらわれない割れが多いので,割れ試験ではビード表面のみではなく横断面やルートにおける割れを問題にする必要がある.
(10)予熱は割れ防止に非常に有効であり,特に引張張さのレベルが80kg/mm2級の高級高張力鋼についてその効果が著しい.
(11)80kg/mm
2級高張力鋼を予熱なしで溶接した場合,溶接終了直後(2min以内)に酸素アセチレン焔により溶接部を局部的に600℃に加熱することにより冷間割れを防止することができた.
(12)割れは熱影響部の最高のかたさがある限界値以上になると急激に増大する.y開先試験片についてはその限界値が50kg/mm
2級高張力鋼に対するHv310(荷重1kg)の値から80kg/mm2級高張力鋼に対するHv400の値まで変化した.U開先試験片では溶接金属のかたさの限界値は50~80kg/mm
2級の溶接金属に対してHv210~320であった.
(13)鉄研式y開先試験片により求められたルートにおける割れ感受性は母材の等価炭素量と良好な相関関係が求められた。
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