熊本県下3,717名の農業従事者および農村在住者のアレルギー症状およびアレルギー疾患既往の実態をアンケート調査により把握し,農作業に伴うアレルギー疾患の背景因子について考察した.
調査対象者のアレルギー症状有訴率は44% (42~45%, 95%信頼限界)であり,症状別には,呼吸器症状, 8%,遅延型呼吸器症状, 5%,鼻症状, 10%,眼症状, 16%,蕁麻疹, 16%,湿疹かぶれ, 26%であった.また,アレルギー疾患既往率は21% (19~22%)で,疾患別には喘息, 3%,鼻アレルギー, 3%,接触皮膚炎, 9%,蕁麻疹, 6%などであった.アレルギー家族歴は15% (14~16%)にみられた.
有訴率,既往率は,農業および農業+農外群が農外および無職群に比し有意に高率であった.また,これらのアレルギー症状はアレルギー素因者(アレルギー疾患の既往または家族歴のある者)が非素因者に比し有意に高率であった.
作目別のアレルギー症状有訴率は,鶏(62%)に最も高く,ついで他花卉,煙草,椎茸,ハウス胡瓜,柑橘,他雑穀,ハウス西瓜などが高率で,それぞれ50%以上であった.症状別には,呼吸器症状は煙草,鶏,椎茸,遅延型呼吸器症状はハウス胡瓜,ハウスメロン,柑橘,鼻症状は鶏,豚,ハウス西瓜,眼症状はハウス胡瓜,ハウストマト,椎茸,蕁麻疹は他花卉,鶏,煙草,湿疹,かぶれは煙草,柑橘,豚の各作目においてそれぞれ高率であった.
作目の組み合わせ別にみたアレルギー症状有訴率は,米+牛+鶏(78%),米+鶏+柑橘/他果樹(72%),米+菌+他花卉(71%)が高く,その他露地野菜,豚,茶などで構成される組み合せが上位にあり,かつ単独の場合の有訴率より上昇する傾向を認めた.
各症状有訴者の12~38%は農作業との関連を認めているが,その77%は農薬散布であった.原因の農薬としてはダイホルタンが最も多いが,その他実験的,臨床的にその感作性が確かめられている農薬が多数あげられた.
また,原因の作目としては,菊,柑橘,煙草,酪農,畜産,ハウス作業が主にあげられた.
これらの成績より判断して,アレルギー疾患の発生が強く疑われる農作業として,柑橘栽培管理および収穫,菊芽つみおよび選別,出荷,煙草栽培管理および収穫,乾燥,ハウスメロン収穫および出荷,い草泥染,桑葉収穫(養蚕),牧草収穫(イタリアン)およびサイレイジ作業,椎茸栽培管理,農薬散布などがあげられる.
これらの成績は,農業従事集団にアレルギー疾患の発生する危険性が比較的強いことを示唆するものであるが,それらの障害はそれぞれの地域の農作業および生活関連因子に様々に修飾されて発現するものであることに留意しなければならない.とくに,複合される作目間のアレルゲンの相乗効果や交差感作性の実態を詳細に分析する必要があろう.
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