住宅総合研究財団研究論文集
Online ISSN : 2423-9887
Print ISSN : 1880-2702
ISSN-L : 1880-2702
36 巻
選択された号の論文の39件中1~39を表示しています
  • 田中 勝, 西山 久子, 早川 亜季
    2010 年 36 巻 p. 471-482
    発行日: 2010年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
    民家再生は,家族と暮らしの歴史を刻んできた民家を現代の生活にあわせて蘇らせることである。地域に根ざした豊かな暮らしや家族の対話を育み,地域住文化を継承する実践として重要である。本研究は全国9地域の民家再生事例について現地調査等を行い,住み手と建築家との対話・協働によって,快適な住生活の実現や生活文化の継承に向けた多様な実践が試みられていることを明らかにした。民家再生の今日的意義やこれからの住生活について,学校や地域で考えていくための住教育教材として,実際の民家再生事例をモデルにした折り紙模型キットと絵本を試作した。高等学校家庭科(リビングデザイン)において,民家再生折り紙模型キットを用いた授業実践を試みた。
  • 都市開発と土地取引の実態把握を通して
    大場 修, 陳 雲連
    2010 年 36 巻 p. 423-434
    発行日: 2010年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
    本論は,上海租界の都市形成過程を踏まえつつ,近代上海における日本人居住地の形成過程と空間的特徴を,英,米,中との国際関係の中で明らかにした。まず,日本が独自の居留地を諦め,租界全域に渉る都市開発権を得た過程を辿った。日本は英米施設との立地関係,交通条件や地価等に応じた都市施設配置を進めたが,結果として上海の日本人居住地の確保は後回しにされた実態を明確にした。一方,日本人居住地では,英米が供給ずる里弄住宅を主体とする借家居住に終始したことを,租界外の北四川路地区の住宅遺構等の調査を通して示した。その住宅形式は洋風ではあったが,畳を持ち込む等の動向もそこに読み取った。
  • 長岡市山古志地区を事例として
    水村 容子, 内田 雄造, 上杉 啓, 神吉 優美, 古賀 紀江, 小林 健一
    2010 年 36 巻 p. 435-446
    発行日: 2010年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究は,平成16年10月に発生した中越大震災の被災地である,新潟県長岡市山古志地区(旧山古志村)を研究のフィールドとし,被災前後の生活の再構築のプロセスを把握することによって,中山間地の振興に資する住環境づくりの方向性を検討するものである。研究の内容は,旧山古志村住民の対するアンケート調査,現山古志地区住民および山古志地区外移転者へのヒアリング調査によって構成される。これらの調査の結果から,山古志での居住は,高齢者等そこに長く住み続けてきた者にとって価値のあるものである一方,生活基盤などの不整備を理由として地区外へ転出している者がいる状況が明らかになった。そうした地区外移転ふせぐためにも,早急なるインフラストラクチャーの整備が求められる。
  • 乳幼児と学童期の子どもの成育環境から考察する
    大谷 由紀子, 中迫 由実, 梶木 典子, 中津 秀之, 丸山 美和子
    2010 年 36 巻 p. 447-458
    発行日: 2010年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究は,近年急増している超高層マンションに,これまで高層居住に適さないとされてきた子どものいる世帯の入居が増加していることに着目し,子どもを育てる・子どもが育つという視点から超高層居住を考察するものである。研究の第一段階では,過去11年間に大阪市で民間分譲された20階以上の高層マンションの情報分析から,コンパクトな敷地に高層棟がピンポイントで建設された都心部集中型の供給動向を示した。第二段階では,実際に超高層マンションに住む子育て世帯の居住実態と意識を探り,物的特徴と照合しながら都市部の子育て層の住宅として超高層マンションの住環境を考察した。
  • 河井 敏明, 小林 広英, 辻原 万規彦, 細井 昭憲
    2010 年 36 巻 p. 459-470
    発行日: 2010年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究は,亜熱帯気候を持つ沖縄に建てられた環境共生型の福祉・宿泊施設における生活環境を総合的に調査することにより,亜熱帯気候下でのパッシブな環境調整手法の有効性と今後のあり方,さらに高齢者の生活環境に与える影響との関係を明らかにしようとするものである。本研究では,まず設計者の設計時における環境調整に関する意図に対応した具体的な手法を各々抽出した上で,それら パッシブな環境調整の手法を対象施設内外の温熱環境を調査し,その有効性について検討する。また,同時に施設の利用者の主観申告調査も行い,最後に,これらの調査結果を総合し,亜熱帯気候下での環境共生型高齢者施設の今後のあり方について考察を行った。
  • 中山 徹, 武藤 康弘, 山本 直彦, 呼 日勒沙, 巴 根那
    2010 年 36 巻 p. 59-69
    発行日: 2010年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究では,牧畜民の定着化に伴い姿を消しつつあるゲルについて,特定地域における調査を実施し,その実態を把握した。調査地では,生活に使うゲルは減少しているものの,牧畜経営の多様化により,長期に渡る放牧や,冬季のゲルの需要が確認できた。また,1980年代後半以降に導入された固定家屋であるバイシンは,1990年代後半から2000年代にかけて急速に普及し,多機能で大規模な平面プランへの変遷が確認できた。しかし,今後は牧畜サイクルや使用人数,季節等に適応した住居の導入も検討課題である。
  • 過疎集落における文化的景観の継承手法の確立に向けて
    木方 十根, 福島 綾子, 高尾 忠志, 柴田 久
    2010 年 36 巻 p. 71-82
    発行日: 2010年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究では,九州離島(五島・奈留町,奄美大島・龍郷町)のキリスト教系集落を研究対象とし,カトリック信者,一般集落住民らによる集落維持管理活動の実態を解明し,その特質と課題を明らかにした。また,それらの比較考察を通じて,維持管理の持続可能性における課題は,1)維持管理活動の「主体」と「領域」の可変性の確保にあること,2)その可変性は維持管理の対象領域が公益性,共有性を帯びた場合に確認できること,3)教会の社会的意義が認識される場合にはその敷地も公益性,共有性を帯びる場合があること,といったキリスト教系集落の維持管理活動の課題を抽出し,それらを踏まえ集落景観の継承手法の確立に向けた展望を示した。
  • 田上 健一, David Timbol YAP, Maria Faith Varona, 大西 陽子
    2010 年 36 巻 p. 83-94
    発行日: 2010年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究では,フィリピンのメトロマニラに位置するデラコスタプロジェクトを調査対象として,事業と運営管理の特性,計画技術の変遷,居住者組織の運営と居住規約に関する協議録解読によるコミュニティの自立プロセス,居住者の居住実態とRCCの関連性についての分析を行うことにより,コミュニティ・エンパワーメントへと繋がる低所得者層用住宅地における協調的な住宅地マネジメントについて考察した。
  • 1964年東京五輪と2008年北京五輪の日中比較研究
    浜本 篤史, 吉冨 拓人, 中岡 深雪, 李 国慶, 譚 縦波, 真野 洋介, 于 建明
    2010 年 36 巻 p. 95-106
    発行日: 2010年
    公開日: 2022/10/14
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究では,1964年東京五輪と2008年北京五輪を対象に,開催決定から閉幕後までの期間を「五輪開催期」と定義した上で,この期間における都市計画,不動産市場の動向,さらに立ち退き問題について,五輪との関連で多面的に捉えようと試みた。文献研究および聞き取り調査の結果,都市計画では既存の道路建設計画の遂行という側面が強い東京に対し,北京の場合は会場計画の配置が既存のマスタープランとは必ずしも合致しないことなどが把握された。また,北京における持家化の速度が激しいこと,立ち退き問題では両都市において意外と類似した側面は多いが,北京においては住宅制度改革の進行と関連して問題構造がより複雑であることなどが確認された。
  • 創造的空間保全手法・住民との合意形成手法・歴史的変遷
    田中 暁子, 江口 久美, 楊 惠亘
    2010 年 36 巻 p. 107-118
    発行日: 2010年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究は,古きパリ委員会(CVP)による歴史的住環境保全手法の全容を明らかにし,日本に対する知見を得ることを目的とするCVPはパリ市により1897年に設立された歴史的建造物の記録及び保全の為の組織であり,歴史的建造物の目録を有し,現在は主に取り壊し許可の審査に対して助言している。保全に一貫的な立場を持つが多様な所属の専門家や住民代表メンバーからなる,アーカイブ機能を有する諮問機関が,アーカイブを参照しながら,都市更新の申請に対する勧告等を通じて更新の申請者と直接的に合意形成を行い,社会的状況を十分に考慮しながら各事例に応じた創造的空間保全を行っていく手法が日本へも有効であることが考えられる。
  • 阿部 大輔, 熊谷 亮平
    2010 年 36 巻 p. 119-130
    発行日: 2010年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究は,バルセロナの計画住宅市街地を対象に,その形成過程を跡づけ,市街地の維持更新の手法ならびに実態を把握することを目的とする。その結果,(1)低密度の市街地を計画した土木技師セルダの構想はほとんど実現されず様々な建築条例の変遷の結果約4倍の高密度市街地が形成されたこと,(2)現在の計画住宅市街地の保全手法はプランにおけるゾーニングならび地区全体を対象とする修復条例であり,住宅の修復に加えて街区内側の空間を公的なパティオ(中庭)として再整備することが重要な戦略となっていること,(3)街区における所有者の数や前面道路とのアクセスの関係性により様々な形態・使われ方があることが判明した。
  • 住宅間取りに関する一考察
    仲谷 剛史, 西出 和彦
    2010 年 36 巻 p. 143-152
    発行日: 2010年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究は,住宅を気配やコミュニケーションの観点からに捉えようとするものである。アンケート調査により住宅ニーズと生活との関連を調査し,母親がキッチンやリビングから家族の様子がわかることを重要視していることがわかった。また,実験により,気配及びコミュニケーション(会話)領域について分析を行い,呼びかけが方向や作業有無等に関係なくできる距離として4mの領域を導き出した。この領域を使用して,住宅を気配率・コミュニケーション率による表記を試みた。
  • 及川 清昭, 藤井 明, 槻橋 修, 橋本 憲一郎, タヌーソン ボンパスート
    2010 年 36 巻 p. 153-164
    発行日: 2010年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究の目的は,多民族国家ラオスにおける少数民族の伝統的な集落・住居を対象に現地調査を行い,居住空間構成の形態的な類似性と差異性に着目して,民族固有の空間特牲を明らかにすることである。集落・住居の調査結果を個別に記述するとともに,住居の屋根や床の形態,テラスや差掛けの位置,室の分化など,住居の形態的な特徴を説明変数とし,4つの民族群を目的関数として数量化II類を用いて判別分析を行う。レンジや相関比,カテゴリースコア,サンプルスコアの算出結果をもとに,同一民族群に属する住居間に類似する特徴と異民族の住居との示差的特徴を捉える。また,民族の分布状況から住居形態に与える地理的な影響について考察する。
  • ストック再生につながる新たな付加価値として
    徳尾野 徹, 横山 俊祐, 西野 雄一郎
    2010 年 36 巻 p. 165-176
    発行日: 2010年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
    大阪市住宅供給公社が,老朽団地の空き家を活用するために,新しい賃貸形式を採用した。初期投資を抑えるために,従前および新規居住者に対して,「原状回復義務なし」「裸貸し」「別宅賃貸」の方式で貸し出した。その事業内容や居住者の住まい方を分析した結果このシステムは経済的にも空間的にも住み手主体のアフォーダブルな住まいを提供する優れた仕組みであることがわかった。さらに,新旧居住者の共存をスムーズに誘導し,団地コミュニティの持続性を獲得する団地再生の原理もみられた。収支面からは,2年足らずで初期投資を回収している。このシステムは特殊解ではなく,団地再生の手法としての展開可能性を持つ。
  • 竹内 孝治, 小川 英明, 小田 達郎, 今村 太朗
    2010 年 36 巻 p. 177-188
    発行日: 2010年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究は,戦時期日本において活躍した建築家内田祥文の「國民主宅」構想を対象として,設計提案および,思想内容の読解を通して歴史的意義を明らかにするものである。まず,内田の経歴および建築活動を概観し,内田が建築競技設計において提案した「國民住宅」案の内容を整理した。次に,「國民住宅」案に関連して発表された諸論考の内容読解により,科学性・合理性と日本精神の称揚が併存した内田の思想内容を明らかにした。また,計画案の図面内容の検討およびCADによる3次元復元により,内田の「國民住宅」提案にみられる,モダニズムの手法と日本文化の融合がもたらした歴史的意義を明らかにした。
  • 福岡県住宅協会が建設した51C型住宅
    菊地 成朋, 山口 謙太郎, 柴田 建, 田島 喜美恵
    2010 年 36 巻 p. 189-200
    発行日: 2010年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
    公営住宅標準設計51Cは,日本の住宅計画史上におけるダイニングキッチン成立の契機として位置づけられ,さらに昨今ではnLDK蔓延の起源であるかのように語られることもある。ただし,51Cが実際にどう建設され,どのような住まいを実現させたのかについてはあまり知られていない。この研究は,福岡県内に現存する51Cを発掘し,実測調査によってそれらの記録を作成し,これに資料分析を加えて地方都市圏における51Cの展開を明らかにすることによって,51Cの実像への接近を試みたものである。
  • 明代家具を中心として
    藤原 美樹, 石丸 進, 松本 靜夫
    2010 年 36 巻 p. 201-212
    発行日: 2010年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究は,書院造の三要素である,床の間,付書院,違棚と中国古典様式家具との関連性を検証し,書院造の室内意匠の成立に起因する中国家具文化の受容と変容を探ることを目的としている。まず関連文献史料の収集,分析そして,中国寺院建築や伝統的民居,園林建築の室内意匠の実地調査を行い検証した。その結果日本では,留学僧(渡海僧)などによる文物交流により,請来された中国古典様式家具文化は家具として定着せず,独自の展開がみられ,建築の室内構成要素として日本的な家具文化を形成したものであることを明らかにすることができた。
  • 先進的取り組みの体系化と実現可能性の検討
    宮田 裕章, 大久保 豪, 望月 美栄子, 蓑輪 裕子
    2010 年 36 巻 p. 213-223
    発行日: 2010年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
    精神障害者グループホームの現状と開設・運営の困難とそれに対する取り組みを明らかにするため,インタビュー調査の結果を踏まえて,全国の運営法人に対する質問紙調査(N=453)を行った。全グループホームの87%が1人部屋である一方,77%が玄関を共有するタイプであった。グループホームの継続運営や新規開設に,大きな影響を与えていたのは,開設・運営資金の確保,入居者の確保,及び地域との友好的な関係作りであった。これらの課題に対して自治体の補助金を活用や,入居者募集の広報,地区の行事への参加など様々な取り組みが行われていた。今後は取り組みの有効性を確認するとともに,ノウハウを広く共有することが有用である。
  • 「いえ」型保育空間における子どもの集団形成について
    粟原 知子, 小山 逸子, 福地 真美
    2010 年 36 巻 p. 225-236
    発行日: 2010年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究は,「いえ」型保育空間(台所を有する食寝分離の空間)で「きょうだい保育(1~5歳児での異年齢保育)」を行うK保育園の子どもの生活実態を把握し,その有効性を検証するものである。「総括資料の分析」「保育室内での行動観察調査」「保護者に対するアンケート調査」を実施し,開設からの保育方針の変遷・保育士の意識変化,保育室内での子どもの居場所と集団構成,家庭での生活について分析を行った。その結果,(1)園の保育方針によって子どもの生活スタイルが変化すること,(2)生活行為に合わせて居室の使い分けがされること,(3)「生活行為」「活動」時に異年齢集団が多く発生すること,(4)家庭での食意識が高いことが確認できた。
  • 自主工事による改修住宅2事例での住み替え実態を通して
    阪田 弘一, 山本 晋輔, 中院 麻央
    2010 年 36 巻 p. 237-246
    発行日: 2010年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
    ALS(筋委縮性側索硬化症)は日常生活動作の障害が強く医療的ニーズの高い難病である。本研究は,あるALS患者の在宅独居生活移行を支援して患者のための住居改修を行い,整備の有効陛を検証するとともに,住居選択・住居整備の過程で浮かび上がった障害を明らかにした。ALSを取り巻く既存の社会状況や福祉制度では,患者の在宅独居生活を支えることは難しく,住居探しや改修資金調達など在宅移行時と在宅生活での建築的側面において様々な障害があること,患者と介助者双方にとって機能だけにとどまらない住居としての快適性を高めることが重要であることがわかった。
  • 居住施設空間における住宅らしさ・家庭的環境の実像について
    大原 一興, 佐藤 哲, 安藤 孝敏, 藤岡 泰寛
    2010 年 36 巻 p. 247-258
    発行日: 2010年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
    社会福祉施設とくに入所施設において,その集団管理的な環境の見直しが進んでいるが,それぞれの施設において「施設らしくない」「ふつうの暮らし」を求めている。しかしその実態は,それぞれの施設によってまちまちである。同様の言葉に「家庭的な環境」「その人らしく」など環境とケアの概念が定着している。職員がこれらの言葉に対してどのようにイメージを持っているのか,職員自ら言葉に対しての写真を撮影し,その写真を分析することで,概念の共通化をはかることを試みた。とくに高齢者施設においては,食事や家事作業などを居住者がおこなっている光景が取り上げられ,職種別にもそのとらえ方に特徴が見られた。
  • ロシア国家プロジェクト「ロシア国民に手の届く住宅を」の成否
    道上 真有, 田端 理一, 中村 勝之
    2010 年 36 巻 p. 259-268
    発行日: 2010年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究は,ロシア政府が2006年から実施した住宅政策の効果に関する中間的評価を行っている。ここでは,住宅政策が国民の住宅購入可能性(affordability)にどのような影響を与えたのかという問題を中心に,ロシア連邦と3つの主要都市,およびモスクワ市の9行政区におけるaffordabilityを計測した。その主要な結果は,2007年のロシアで住宅ローンを利用して住宅を購入できる人口割合は住宅政策実施の前後で2割程度とあまり変化しなかった。また,住宅ローン融資目標額や住宅弱者に対する補助受給世帯数も目標値を下回っていた。他方,モスクワ市行政区におけるaffordability値の計測,およびaffordabilityを規定する要素と人口流入との相関を推計した結果,行政区によっては価格高騰地域でも住宅政策実施後にaffordabilityの値が向上し,さらにドーナツ化現象の影響が加わっている可能性が示唆された。
  • 伝統的管理人の役割の評価とその再構築について
    関川 華, 安枝 英俊, 関川 千尋
    2010 年 36 巻 p. 269-280
    発行日: 2010年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
    民間共同住宅の歴史が長い欧州諸国のうち,フランス首都圏の伝統的管理主体である住宅管理人,ガルディアンを通して,民間共同住宅に適した管理思想を反映した管理体制の検討を行うことを前提としている。本研究では民間共同住宅に適した管理思想に裏付けられた伝統的管理主体の現代的評価と,今後の在り方を検討するために,ガルディアンの形成過程と居住者評価を通して,ガルディアンの本来の役割と現代的役割を把握した。さらに民間共同住宅の伝統的管理主体であるガルディアンが,社会住宅に導入されている現状を捉え,民間共同住宅のガルディアンと合わせて総合的に見ることで,民間共同住宅のガルディアンを現代的に再構築する知見を得た。
  • 伊藤 一秀, 林 徹夫, 瀧ヶ先 薫, 義江 龍一郎
    2010 年 36 巻 p. 281-292
    発行日: 2010年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究は住宅における真菌汚染問題,所謂カビ汚染問題の対策を行う上で過大な負荷無く適用可能な数値解析をベースとした真菌汚染予測法を提案することに主眼がある。研究は基礎実験データ収集と数理モデル開発・数値解析の大きく2段階で実施し,真菌による菌糸成長速度,コロニー形成速度の詳細測定とロジスティック成長モデル作成・検証用の基礎データの収集を行うと共に,流体数値解析による真菌胞子移流・拡散予測の壁面境界と連成して適用可能な壁面表面での真菌増殖を再現する反応一拡散モデルの開発と予測精度検証を行った。
  • 住環境と空調使用状況に関する調査・分析
    姜 燕, 龍 有二, 劉 青栄, 劉 文坤
    2010 年 36 巻 p. 293-304
    発行日: 2010年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
    高齢化が急速に進みつつある日本では,介護或は施設を利用する高齢者が増加し,高齢者の生活の質を高めるためにも住環境の改善は不可欠である。しかしながら,高齢者住宅あるいは高齢者入居施設の熱環境バリアフリーに関する研究はいままだ不十分であり,実践的な提案型研究が急務になっている。本研究では,高齢者が実際に生活している施設のうち福祉施設を対象に,その利用空問の温熱環境が高齢者に与える影響を明らかにすることを目的とするものである。また,中国大連の高齢者福祉施設における設備使用現状調査を行った。
  • 平手 小太郎, 宗方 淳, 吉澤 望, 江 欣宸, 李 東起
    2010 年 36 巻 p. 305-316
    発行日: 2010年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究はLED照明による色光環境下での作業において,適正照度を探り,疲労・疲労感,作業効率,快適性,可読性,明瞭性などの検討により,適切な光色を提案することを目的としている。実験1の適正照度実験では,調整法を用いて被験者に照度を調節させ,95%信頼空間を求め,各色光照明での作業に対する適正照度を導いた。実験2の疲労感実験では,疲労をフリッカー値,近点距離,視力で,疲労感を自覚症状調べで評価し,また各種作業の作業効率,さらに快適性と可読性,明瞭性を評定尺度法により評価させ,実験を行った。その結果,総合的に判断して,純度が高くなると否となるが,白色よりは多少色味(緑色を除く)がある淡い光色が良と評価されることが分かり,これらの光色を作業に適切な光色として提案した。
  • 松原 斎樹, 宮田 望, 大山 哲司, 澤島 智明, 合掌 顕, 大和 義昭, 藏澄 美仁, 飛田 国人
    2010 年 36 巻 p. 317-328
    発行日: 2010年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
    既存住宅の温暖化対策として,昔ながらの防暑などの暮らしの見直しも意義がある。岐阜,京都,広島,佐賀4地域において,夏期と冬期に昔ながらの防暑・防寒の実施状況を調査した。これらの防暑行為を積極的に行っている住戸は,冷房の使用が控えめであった。暖房・冷房の使用時間に基づいて,クラスター分析によって居住者3グループに分類し,熱負荷シミュレーションを行った結果,冷暖房の使用の仕方と年間のエネルギー消費量にも,かなりの差が見られた。最もエネルギー消費量の多いグループと少ないグループの比は,次世代基準の住宅の場合約1.5~2.4倍,無断熱住宅の場合約1.7~2.8倍であった。
  • 2007年スマトラ島南部沖地震による実被害建築を対象として
    真田 靖士, ジャフリル タンジュン, 崔 琥
    2010 年 36 巻 p. 329-338
    発行日: 2010年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
    2007年スマトラ島南部沖地震により被災した2棟の鉄筋コンクリート造(RC)建物を対象に,建 物の耐震性能に非構造のレンガ壁が与えた効果を実験,解析により検討した。被災した建物は1棟が倒壊し,1棟が中程度の損傷を受けた。本研究では後者建物で実際に用いられていたレンガ壁を切り出し,日本へ輸入した。同建物の1階を模擬したRC門型架構試験体を2体製作し,内1体にレンガ壁を設置した。両試験体の構造実験を行い,耐震性能を比較した結果,レンガ壁が架構の耐力増大に寄与することを定量的に明らかにした。また,2棟の被災建物の耐震性能をレンガ壁の有無をパラメータとする3次元解析により評価し,被災程度の違いと関連付けた。
  • クローズドな技術のオープンソースへの転換をめざして
    中村 政人, 佐藤 慎也, 新堀 学
    2010 年 36 巻 p. 339-350
    発行日: 2010年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
    リユースという言葉が単なるプロダクトの寿命の再延長で終わらない,新たな価直を生み出す射程を持っていることについて考える。題材として,ユニットという考え方を基本にしたメーカー住宅の再生,利活用を取り上げ リユースの射程とそれによって考えられる価値システム,また技術自体をクローズドなものからオープンなものへと転化するために考えるべき課題について考察する。
  • 徳田 光弘, 友清 貴和
    2010 年 36 巻 p. 351-362
    発行日: 2010年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究は,豪雨災害による浸水被害について,被災地における生活再建の要となる被災商店を対象に,統計データや罹災証明書などには表れない,錯雑とした復興過程を復興曲線図と直し方調査によって詳密に記述し,その特性を明らかにした。結果,復興過程は,復興進度として安定型・遅延型・二段階型に,復興進路として復元型・改良型・身の丈型にそれぞれ3分類できること,復興過程の動向は,概ね9つの内的・外的な要因が複合して決定されていることを導き出した。さらに,被災商店の復興に見られた利他的な行動が,被災地における生活再建を少なからず支えている現実がわかった。
  • 応急仮設住宅・復興公営住宅での「孤独死」の実態を通して
    田中 正人, 高橋 知香子, 上野 易弘
    2010 年 36 巻 p. 363-374
    発行日: 2010年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
    本稿は,阪神・淡路大震災における応急仮設住宅及び復興公営住宅で発生した「孤独死」の実態把握を通じ,被災市街地の住宅セイフティネットのあり方を検討するものである。兵庫県監察医務室の死体検案書等のデータに基づく実証分析を行い,主に以下の知見を得た。1)仮設住宅における「孤独死」の発生率は一貫して上昇してきた。また復興住宅では,発見されにくい「孤独死」が増加傾向にある。2)団地の物的な特性は,身体的・経済的に不利な状況に陥りやすいリスク欄寺者に強く作用し,遠隔地にある仮設住宅や,復興住宅の高層階への入居が近隣との関係形成を阻害し,社会的孤立の果ての「孤独死」を惹き起こしている。
  • 住文化体験学習プログラムの教材開発と実践・検証
    新谷 昭夫, 碓田 智子, 増田 亜樹, 毛呂 祐子, 服部 麻衣, 篠田 美紀
    2010 年 36 巻 p. 375-386
    発行日: 2010年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究は,歴史系博物館における住まい学習の課題を検討するとともに,そのモデルプログラムを提示し,よって住文化の継承に寄与することを目的とする。まず,博物館には住まい学習に関わる実物教材が豊富であるが十分に活用されておらず,また学習の内容が断片的であるという課題を明らかにした。つぎにこれらの課題を踏まえ,大阪市立住まいのミュージアムの常設展示室を活用し,さらに総合的な学習効果が得られるプログラムをモデル的に開発し,その効果や課題等を明らかにした。以上を通じて今後の歴史系博物館には,子どもから高齢者まであらゆる世代が共に住文化を学べる仕組みづくりが重要であることを指摘した。
  • 旧大阪三郷の借家経営者「井上平兵衛家文書」の分析に基づく考察
    深田 智恵子, 松岡 弘之
    2010 年 36 巻 p. 387-398
    発行日: 2010年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究は,近代大阪の貸家経営者が残した「井上平兵衛家文書」を素材として大阪都心部の居住空間について検討した。明治20年代前半の貸家には近世と変わらない伝統的な形態が継承されていた一方で,借家人の経済力や需要に基づいて,表家と裏家を合併して貸借する,裏貸家を2軒貸借するなど,多様な居住形態がみられた。明治30年代後半になると設備の専用化や水道栓の設置など,近代的変化の要素が表れてくる。地域レベルでも下水排水路や上水道など,近代的衛生設備の整備が図れていた。しかし,居住環境の近代化は大規模な施設整備によってのみ牽引されたのではなく,衛生組合主導による地域共同体の諸活動が重要な役割を果たした。
  • 東京都内の建築関係資料収集・管理・展示・活用を中心に
    早川 典子, 田中 裕二
    2010 年 36 巻 p. 399-410
    発行日: 2010年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
    資料収集業務は博物館活動の根幹である。東京都内の歴史系博物館では,歴史学や,考古学,民俗学に関する資料の収集・展示はすでに盛んに行われている。この研究では,博物館における建築関係資料の現状を把握し,それを踏まえて地域の建築物に関する資料収集がさらに行われることを目指し,住宅,建築物に関する資料の収集方法や,資料管理展示への活用などについて具体的な提案を行う。そして,東京都内の歴史系博物館に勤務する職員にとって,今後の建築関係資料の収集・管理・展示のための指針となるような取り扱い事例集をつくることを目指したものである。
  • 家庭科の可能性をひらく授業づくりの理論と実践
    妹尾 理子, 大矢 英世, 金子 京子, 冨田 道子, 野口 裕子
    2010 年 36 巻 p. 411-422
    発行日: 2010年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
    家庭科教師の多くは,住生活分野の授業づくりに対する苦手意識をもっており,現場で活かせるカリキュラム開発は重要な課題である。本研究では,大学教育学部に所属する住居・住環境学を専門とする研究者と,現場の家庭科教員が協同して研究会を開催し,住教育について学びあいながら,カリキュラム開発に取り組んだ。理論面を深めると同時に,学び考えたことを学校現場で授業実践することで,その効果や課題を明らかにすることができ,再びそれを検討しあうことで,実効性のあるカリキュラム開発が可能となった。教師が主体的に学ぶ機会を持つことは,苦手意識の克服につながり,住教育への意欲や自信につながることも確認することができた。本研究は,今後の家庭科における住教育の進展に資す るものと考えられよう。
  • 岡部 明子
    2010 年 36 巻 p. 5-17
    発行日: 2010年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
    日本の人口減少と欧州の疲弊地区は,移民を受け入れたか否かの違いであって本質的には同根の都市社会問題といえる。欧米では1960年代から機能主義批判の動きがあり,その路線で疲弊地区問題と取り組んでいる。他方,わが国では縮小局面に突入しても拡大を前提とした近代都市計画に無批判である。しかし,近代主義を踏襲し合理性と効率性を追求する集約化による市街地リストラでは,縮小する都市の未来を積極的に描き出すことは難しい。そこで,「空間の履歴」を援用し,歴史的町並み保存や景観遷動の展開で,世代を超えた地域の共通認識であるが近代に希薄化した空間イメージを,縮小過程で浮き立たせていくことの潜在力を示した。
  • 郊外とまちなかとの接合の可能性について
    角野 幸博
    2010 年 36 巻 p. 19-31
    発行日: 2010年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
    人口減少過程に入り,大都市圏において存続が危ぶまれる郊外住宅地が発生している。この小論は,関西における郊外住宅地の成立過程と変容のメカニズムを概観したうえで,収縮す る都市圏の将来像を示し,住宅地の再編の方向性及び課題を,主に郊外住宅地の立場から論 じる。再編の手段として,(1)周辺の資源を含めたストック活用とコミュニティ活性化支援策の実施,(2)住み替え支援システムの整備,(3)エリアマネジメントの仕組みづくりを提案するとともに,(4)都心,郊外,旧集落等とのネットワーク居住の可能性を探ることを提案している。
  • 明石 達生
    2010 年 36 巻 p. 33-43
    発行日: 2010年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
    人口減少下でも,都市は拡散を続ける。モータリゼーションが立地選択を平準化したからである。住宅需要が減っても,高層住宅の建築紛争は郊外・地方部へと拡がる。緩めに設定された容積率の規制値が,利益最大化を当然とする開発企業の達成目標値となるからである。 そうやって生じる都市空間の混乱と荒廃は,デュラビリティ(耐久性)という不動産の特性 によって長期に是正されず,時とともに助長される。だから,都市の空間形成の制御は人口減少時代であっても計画に基づく規制を手段とすることが不可欠 だ。しかし,「緩いが硬直的」なわが国の土地利用規制を「安定的だが柔軟」なものに変えるにはどうしたらよいか。この主題を考察する。
  • 合理的なコンパクトシティの形態と先導策としてのバスシステム
    大野 秀敏, 伊藤 智隆, 天野 裕
    2010 年 36 巻 p. 45-58
    発行日: 2010年
    公開日: 2018/01/31
    ジャーナル オープンアクセス
    本論は,近年注目を集めているコンパクトシティを,長岡市に適用し,ライフサイクル二酸化炭素排出量(LCCO2)で評価して環境的に合理的な形態を導きだす。引き続き,コンパクト化を先導する公共交通手段としてバスシステムのあり方を検討する。
feedback
Top