19世紀アメリカは,助産の担い手が産婆から医者へ移行するという,出産の歴史における一大変動期にあった。医者(レギュラー・ドクター)の助産に反対して,オルタナティヴとしての「自然な出産」を提示したのが,イレギュラー・ドクターに率いられたトムソニアニズム(植物治療運動 1810-1830年代)とハイドロパシー(水治療運動 1840-1860年代)である。本稿は,これらの運動の出産に関する主張を比較分析し,その社会的背景を明確にして歴史的位置づけを試みることによって,出産の医学化(medicalization)プロセスにおける葛藤・変動過程のダイナミズムを解明しようとするものである。トムソニアニズムは「自然」の力を引き出す伝統的産婆術の継承を訴えたが,かつて出産を支えていた女たちのコミュニティが衰微する過程にあって,夫と妻による家族内出産を提示することになった。他方,産業化・都市化によって女性の身体の「自然」の力が衰弱しきっていると考えたハイドロパシーは,個々の女性が新たに「第二の自然」を構築して出産に臨むことを勧めたのである。
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