「クロス・リヴァー地方」のエジャガム社会では,死に「善悪」判断がくだされ,それに応じて異なる埋葬がおこなわれる。その際,特定の身体的症状を呈する死およびブッシュや川などの特定の空間における死が「悪い死」と判断され,遺体は舌を切られたうえ,集落の外に設けられた「邪悪な森(悪いブッシュ)」にうつぶせに埋葬される。本稿は,この慣行内容に関する記述をおこない,「悪い死」を決定する判断基準およびその論理を分析するとともに,このような慣行が社会において果たす役割について考察する。また,死の「善悪」判断とそれに応じた埋葬慣行が操作的になされていることを認めた上で,そのような意図を必要とさせる社会的背景にも注目する。とくに,個人の極端な成功や突出をめぐる相矛盾した価値観が併存するエジャガム社会において,「悪い死」概念を支える論理,いわば災因関する知の体系が自己抑制を社会的に達成していることを指摘する。
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