神経心理学
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38 巻, 1 号
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会長講演
  • 三村 將
    2022 年 38 巻 1 号 p. 2-10
    発行日: 2022/03/25
    公開日: 2022/05/06
    ジャーナル フリー

    人間の高次脳機能の中核にある記憶について,2つの視点から考察した.1つは健忘症候群の臨床的見地から,保たれている潜在記憶と記憶のリハビリテーションについて述べた.記憶のリハビリテーションにおいては,どのような技法を用いるにしても,誤りなし学習が基本になる.もう1つは過去―現在―未来という時間継起と記憶との関連である.過去の体験から未来を考える未来性思考にはBrodmann 10野(BA10)の関与が指摘されている.未来の事象をポジティブに捉えることが困難なうつ病患者ではBA10の活動に異常を認めるが,このようなうつ病における未来性思考のネガティブバイアスとBA10の機能異常は認知行動療法により改善すると考えられる.

教育講演I
  • 月浦 崇
    2022 年 38 巻 1 号 p. 11-17
    発行日: 2022/03/25
    公開日: 2022/05/06
    ジャーナル フリー

    ヒトの記憶とその基盤となる神経メカニズムは,社会的文脈の中で変化する.顔の魅力などの「社会的価値」は,社会の中で共有される価値であり,報酬や罰などの価値表象に関連する眼窩前頭皮質や島皮質と海馬の相互作用メカニズムを介して,ヒトの記憶に対して影響を与える.自己と他者の間の「社会的関係性」は,自己や他者の表象に関連する内側前頭前皮質や側頭頭頂接合部が海馬と相互作用することによって記憶を変化させる.さらに,社会的文脈における記憶の基盤となる神経メカニズムは,神経疾患や加齢などの神経系の構造的変化によって影響を受ける.神経心理学の臨床場面で記憶を評価する際にも,社会的文脈を考慮することは重要である.

教育講演II
  • 永井 知代子
    2022 年 38 巻 1 号 p. 18-27
    発行日: 2022/03/25
    公開日: 2022/05/06
    ジャーナル フリー

    頭頂葉は前頭葉,後頭葉,側頭葉に囲まれた大脳皮質中央上部に位置する領域で,他の領域と連携して様々な機能を営んでいる.本稿では,まず体性感覚野と触覚性認知障害について,次に後部頭頂皮質の構造的特徴や結合の特徴と神経心理学的症候の関係について述べ,最後に後部頭頂皮質が深く関わる共同注意のネットワークについて説明した.特に,後部頭頂皮質と頭頂間溝内に機能分化・体部位表現がみられることは重要である.すなわち,縁上回前部とVIPは口部顔面に,縁上回後部とAIPは手指に,角回とLIP,CIPは視覚や眼球運動に対応するという知見に基づいて,失行・失語をはじめとする神経心理学的症候について再考した.

教育講演V
  • 小林 俊輔
    2022 年 38 巻 1 号 p. 28-35
    発行日: 2022/03/25
    公開日: 2022/05/06
    ジャーナル フリー

    ドパミンは報酬に基づく行動を実現する神経機構の中核を担う.ドパミン細胞が報酬の期待と現実の乖離を反映する予測誤差信号を発信して報酬に基づく行動を制御していることが明らかにされている.本稿では,ドパミン系の機能について動物心理学と神経生理学の見地から基礎研究の成果を概説し,その知見をもとにヒトにおけるドパミン欠乏モデルとも考えられるパーキンソン病患者の衝動制御障害について最近の研究を紹介する.

教育講演VI
原著
  • ―眼鏡着用に関連する評価を含めた検討―
    山本 潤, 前田 眞治, 鈴木 北斗
    2022 年 38 巻 1 号 p. 44-53
    発行日: 2022/03/25
    公開日: 2022/05/06
    [早期公開] 公開日: 2022/03/25
    ジャーナル フリー

    右半球損傷で生じた眼鏡着用障害の要因を検討した.症例は40歳前半右利き男性で,右視床出血後に右頭頂葉梗塞を併発し,左片麻痺と感覚障害に加え,左USN,消去現象などを認めた.本障害は,左のテンプルと耳を合わせられない誤りであった.眼鏡着用の関連評価で顔・眼鏡の各部同定,他者への着用,鏡を利用した場合や一側ずつテンプルを耳に合わせることは可能であった.一方,左のテンプルが顔に当たると,その位置の誤りに気付き,複数回の修正で着用できた.

    以上より,本例の眼鏡着用障害は左右のテンプルと耳を合わせる両側同時処理が求められ,かつテンプルと耳の空間的位置関係を視覚的に確認できない時,左側特異に出現すると考えられた.

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