神経心理学的検査は患者と検査者が対面して行う検査であり,紙と鉛筆を用いたり質問や会話をしたりして,回答や患者の行為の観察などから症状を評価することが特徴的である.しかしながら,COVID-19パンデミックが契機となり,遠隔神経心理検査の実用性が高まることに対する期待がある.本稿では,「遠隔での神経心理検査チェックリスト」を中心に,筆者らがこれまでの研究から得たビデオ会議システム等を用いて神経心理学的検査を行う際の環境設定を含む実施方法と留意点について述べた.
神経心理検査は,高次脳機能の十分な知識と熟達した検査技能を併せ持つ専門家が行う必要があるが,対象者の多さに比して数が不足している.このアンバランスを解決する一つの方法が遠隔技術を用いた検査の実施である.新型コロナウイルスの感染拡大により医療機関の受診に制限が生じている現状において,その意義はさらに高まったと言える.本稿では,①ビデオ会議システムを用いて高齢者に行う神経心理検査の信頼性のレビュー,②利用者満足度のレビュー,③自験例における具体的な実施方法と留意点,④私たちが現在行っている一般的なweb会議システムを用いた標準失語症検査の予備的検証を紹介し,今後の方向性と課題を述べた.
近年,認知神経科学の領域では,「未来に向けられた認知」の背景にある神経メカニズムに焦点が当てられている.具体的には,意図した行為をタイミングよく想起する機能である「展望記憶」,未来のエピソードについて思いを馳せる機能である「未来思考」,それと関連性の深い「マインドワンダリング」などがこの概念に含まれる.本稿では,これらの機能を実現する前頭葉のブロードマン10野の役割に着目しつつ,近年の研究成果について概観する.そして,脳機能画像研究(MRIおよび脳波),精神疾患研究,生理心理研究など,複数のアプローチを採用することの意義について触れる.
時間を理解することは生活において必要な知能基盤の一つである.正常な時間感覚を形成する神経心理学的メカニズムの解明への取り組みは,実験動物をモデルにした研究や,パーキンソン病などの神経病理学的な障害が明らかな疾患,自閉症スペクトラム(ASD)など特定の精神・行動・認知の障害がある疾患で行われてきた.時間推定や通時的思考,時間が流れる感覚の障害,見当識障害など,時間認知を支える神経基盤について,大脳基底核や海馬,前頭前野,デフォルトモードネットワークを中心に心を支える神経基盤を紹介する.
若年健常者121名を対象に日常生活上における主観的な相貌認識を測るThe 20-item prosopagnosia index(PI20),客観的相貌認知検査である標準高次視知覚検査熟知相貌検査第二版(VPTA-FFT)およびCambridge face memory test(CFMT)を実施し,各検査間の関連について検討した.その結果,3者で相互に有意な相関が認められた.一方,発達性相貌失認疑い例は3検査すべてで異常と判断されたわけではなく,基準値設定に影響されることが示唆された.発達性相貌失認の評価にはPI20,VPTA,CFMTを組み合わせて用いることでより精度の高い判断につながると考えられた.
すでにアカウントをお持ちの場合 サインインはこちら