神経心理学
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39 巻, 2 号
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シンポジウム2 座長記
シンポジウム2 行為・動作機構の新たな視点
  • 近藤 正樹
    2023 年 39 巻 2 号 p. 90-97
    発行日: 2023/06/25
    公開日: 2023/07/07
    ジャーナル 認証あり

    動作制御モデルは20世紀初頭にLiepmannがaction control streamを提唱しているが,最近では道具使用障害のモデルとしてBuxbaumらの「Two Action Systems Plus」,Osiurakらの「Three Action-System model」が注目されている.道具使用のパントマイムは道具や対象に接触することなく動作のみ実行させるものであるが,道具の実使用より高い感度で道具使用障害が検出され,スクリーニング検査として利用されている.失行のリハビリテーションは総じて質の高い研究報告は少なく,複数システムから成る道具関連動作システムの考え方をリハビリテーションへ応用できないか期待される.

  • 花田 恵介
    2023 年 39 巻 2 号 p. 98-104
    発行日: 2023/06/25
    公開日: 2023/07/07
    ジャーナル 認証あり

    中川(2010)が名付けた「対側半球が担う『第1の行為・動作系』」の機構,障害について到達動作,把握動作を中心に論じた.対象に正しく手を伸ばして掴むという単純と思われる行為にも多くの機能が関わり,損なわれた機能に応じて異なる症状が生じる.サルの生理学的研究やヒトの局所損傷例に基づいて,解剖学的構造と症状の関係を概観した.海外の近年の論文は,到達・把握動作に関連する障害を一括りにして論じている傾向にあるが,適切に分解した機能について,障害されたもの,保たれたものを評価することが,リハビリテーションを提供するうえで不可欠であると考える.

  • 早川 裕子
    2023 年 39 巻 2 号 p. 105-112
    発行日: 2023/06/25
    公開日: 2023/07/07
    ジャーナル 認証あり

    前頭葉内側面損傷による行為障害は,不適切なときに行為をしてしまうことがないように抑制することが困難になる障害である.この行為障害は原始反射の抑制障害である把握反射の出現から,他者から見れば不合理と思われるものを集めてしまう収集行動まで,様々なレベルで現れる.本稿では前頭葉内側面損傷による行為障害について,①行動障害の単純・複雑さ,②保存された機能の活かしやすさ,③障害の気づき,という3つの視点での症候整理を試みた.これら3つの視点から,前頭葉内側面損傷による行為障害に対するリハビリテーションの糸口を考察した.

  • 山本 潤
    2023 年 39 巻 2 号 p. 113-123
    発行日: 2023/06/25
    公開日: 2023/07/07
    ジャーナル 認証あり

    着衣障害は,着衣失行をはじめ様々な神経心理学的症状によって生じる着衣の障害である.本稿では自験例と文献例を対象に,「行為・動作機構」と「空間認知機構」から着衣障害をまとめた.

    「行為・動作機構」は実際の衣服操作や操作時の確認・修正に関する誤り,「空間認知機構」は衣服や身体の各部認知や両者の関係理解に関する誤りとしてまとめられた.加えて2つの機構を要因とする自験例を紹介した.また合併する神経心理学的症状はUSN,構成障害が多く,右側頭頂葉を中心とした病巣が多かった.着衣障害の要因は様々で一定の結論を見出すには至らないものの,「症候群」として理解すべき障害であることはたしかである.

臨床・発表に役立つ初歩講座1
  • 高倉 祐樹, 大槻 美佳
    2023 年 39 巻 2 号 p. 124-132
    発行日: 2023/06/25
    公開日: 2023/07/07
    ジャーナル 認証あり

    失語症を学び始めてまだ日の浅い臨床家や,失語症を専門にしていない医療従事者・研究者を対象に,「失語症のみかた」の基本的事項を呈示した.失語症に対峙するにあたっては,病態を「失語症タイプ」に当てはめようとするよりも,コミュニケーションの困難さをかたちづくる「要素」を捉えるみかたが有用であることを指摘した.さらに,着目すべき要素的な症候として,1)単語理解障害,2)喚語障害,3)音韻性錯語,4)失構音/発語失行の四つを挙げた.加えて,それぞれの症候に関して①どのような症候か,②どのように評価するか,③区別すべき症候は何かを概説した.

  • ―半側空間無視症状の理解のために―
    太田 久晶
    2023 年 39 巻 2 号 p. 133-138
    発行日: 2023/06/25
    公開日: 2023/07/07
    ジャーナル 認証あり

    半側空間無視は,右大脳半球損傷後に認められる代表的な空間性注意障害であり,症状の程度や特徴は,患者ごとに異なる.さらに本症状は,日常生活動作にも大きな影響をもたらす.こうした理由から,症状理解のためには,机上検査と行動観察評価の実施が必要となる.机上検査では,BIT行動性無視検査日本版を用い,症状の把握を行う.その際,検査中の観察や,検査結果の詳細な分析は,症状理解の助けとなる.また,日常生活動作に対しては,日本語版Catherine Bergego Scaleを用いるが,必要に応じて,これに含まれない項目についても評価を行う.これらに加えて,半側空間無視症状が起こりうる病巣部位に関する知識も,症状を理解する手がかりになりうる.

  • 原 麻理子
    2023 年 39 巻 2 号 p. 139-149
    発行日: 2023/06/25
    公開日: 2023/07/07
    ジャーナル 認証あり

    意図した行為や目的動作ができない場合,その要因は複数存在する.要因を明らかにするためには,まず運動や動作に関わる心身機能,行為に関わる経験や環境を把握する.次に対象者の脳損傷部位にもとづき,神経心理学検査を行う.行為・動作障害の症状は条件によって変動するため,評価者は課題特性,教示方法,検査前後の文脈を把握し,これを使い分けることが求められる.このようにして,行為・動作の障害の本質を推察する.本稿では自験例をもとに,視覚性運動失調,肢節運動失行,観念失行,道具の使用失行,Action Disorganization Syndrome(ADS)について述べる.

総説
  • 乾 敏郎, 笹岡 貴史
    2023 年 39 巻 2 号 p. 150-164
    発行日: 2023/06/25
    公開日: 2023/07/07
    [早期公開] 公開日: 2023/06/16
    ジャーナル 認証あり

    視覚視点取得は,社会性機能の中で最も重要な機能であり,側頭頭頂接合部,下前頭回などが主要な役割を果たしていることが知られているが,いまだその神経機構は明らかではない.視覚視点取得が,自己・他者制御,前庭機能,内受容感覚の感度など多くの機能と関連していることがそのモデル化を難しくしている.しかし近年,新たな実験手法により膨大なデータが蓄積されつつある.本論文では,身体化による認知という観点から,自由エネルギー原理に基づき,視覚視点取得の脳内機構について考察する.

原著
  • 長谷川 千洋, 斎藤 朋子, 三和 千徳, 博野 信次
    2023 年 39 巻 2 号 p. 165-174
    発行日: 2023/06/25
    公開日: 2023/07/07
    [早期公開] 公開日: 2023/04/21
    ジャーナル 認証あり

    NINDS-NIMH Work Groupによるパーキンソン病(Parkinson's Disease;PD)患者における精神症状(Parkinson's Disease Psychosis;PDPsy)の基準では,妄想,幻覚,False sense of Presence,及び錯覚を特徴的症状としている.Feeling of Presence(FP)は聴覚や視覚,その他の知覚的要素の介入なしに,実際に存在しない誰かがいるというありありとした感覚である.本論文では病初期に出現した幻視とFPが異なる症状経過を辿った83歳女性の症例を報告し,PDPsyの幻視とFPには一部異なる神経基盤が関与する可能性を考えた.

  • ―nurturing症候群の病態機序をめぐって―
    松田 実
    2023 年 39 巻 2 号 p. 175-183
    発行日: 2023/06/25
    公開日: 2023/07/07
    [早期公開] 公開日: 2023/04/21
    ジャーナル 認証あり

    すでに亡くなった配偶者がまだ生きているという妄想を呈した2症例を報告する.症例1,2ともに最近死別した配偶者の捜索を警察に願い出るという行動によって異常に気付かれた.ともに近時記憶障害を主体とするアルツハイマー型認知症の病像を呈していたが,症例1では右半球脳梗塞が妄想形成の一要因となっていると推測された.2症例とも配偶者の死亡を認める発言をした同じ時期に「まだ生きている」という妄想やそれに伴う行動化を呈した点が特徴的であったが,症例2は遺影を生きている故人そのものと扱うような誤認が加わっていた.Nurturing症候群の定義には混乱がみられるので整理を試みるとともに,その病態機序を考察した.

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