神経心理学
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34 巻, 1 号
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会長講演
  • 櫻井 靖久
    2018 年 34 巻 1 号 p. 2-8
    発行日: 2018/03/25
    公開日: 2018/04/28
    ジャーナル フリー

    近年の画像解析の進歩により,復唱・聴覚理解に従来の弓状束を経由し,音韻→構音変換を担当する背側路以外に,上側頭回から鉤状束を経由して音韻・意味処理を担当する腹側路が注目されている.読み・読解には別の2重回路が提唱されており,筆者らは視覚野から上側頭回後部に達し,書記素・音韻変換を行う背側路と視覚野から後下側頭皮質に達し,語形認知を行う腹側路を提唱した.また書き取りの2重回路として,聴覚野から出発し,弓状束を経由して前頭葉に向かい,文字列の音韻処理を行う音韻経路と後下側頭皮質から出発して,頭頂葉を経由して前頭葉の手の領域に入る形態路を想定した.これらの2重回路説は,神経画像解析技術の進歩とともに,その妥当性が検討されるべきであろう.

特別講演I
シンポジウムI 座長記
シンポジウムI 流暢性の失語症学
  • 伊澤 幸洋, 小嶋 知幸
    2018 年 34 巻 1 号 p. 16-28
    発行日: 2018/03/25
    公開日: 2018/04/28
    ジャーナル フリー

    まず,失語症候学における流暢/非流暢のdichotomyの源流に遡って,その概念成立の歴史的経緯を確認し,続いてBoston学派の諸家を中心に考案された「流暢性尺度」をめぐるいくつかの問題を論じた.また,流暢/非流暢の問題に関連する言語学からのコミットメントであるJakobson(1963)による選択/結合についても触れた.さらに,症例を提示しつつ,「流暢性尺度プロフィール」での評定と実際の障害構造の推定の間で齟齬をきたす事例を通していくつかの問題を提起した.最後に,失語学における流暢/非流暢のdichotomyが成立した歴史的意義は十分に理解しつつも,今日的視点に立つと,とりわけ訓練法立案という立場からみた場合,流暢/非流暢を参照枠として失語を捉えるアプローチはそろそろ収束すべき時期に来ているのではないかと述べた.

  • 松田 実
    2018 年 34 巻 1 号 p. 29-37
    発行日: 2018/03/25
    公開日: 2018/04/28
    ジャーナル フリー

    非流暢性発話の本質を探るため,前頭葉障害による超皮質性失語の自験例22例について病巣と言語症状を検討した.前頭葉内側面を主病巣とする群では発話衝動の低下を主症状とする超皮質性運動失語を呈した.前頭葉外側面の病巣が前方に進展し眼窩部や前頭極の近傍にまで及んでいる群は,注意障害や病識低下や多幸などを背景に,多弁で時にジャルゴンを呈する典型的な超皮質性感覚失語であった.前頭葉外側面に病巣が限局した群の中の一部の症例では中断と戸惑いの多い著明な非流暢性発話を呈した.その病態機序として後方領域で適切に想起された複数の概念や語彙から一つを選択する能力の低下や,複数の概念や語彙を系列化する機能の障害が示唆された.

  • 失構音の下位分類の精錬にむけて
    高倉 祐樹, 大槻 美佳, 中川 賀嗣
    2018 年 34 巻 1 号 p. 38-44
    発行日: 2018/03/25
    公開日: 2018/04/28
    ジャーナル フリー

    純粋失構音における病巣部位と発話症状との関係,定量的指標からみた発話特徴,脳血管疾患と変性疾患による症状の差異について解説した.脳血管疾患による失構音は,1)構音の歪み優位,2)音の途切れ優位,3)構音の歪みと音の途切れが同程度,4)音の途切れなし,の4タイプに分類できる可能性を指摘した.さらに,変性疾患による失構音においては,音の途切れが目立たないにも関わらず,発話所要時間の著明な延長が認められるタイプが存在する可能性が示唆された.最後に,失構音の評価・分類にあたっては,構音の歪み,音の途切れ,発話所要時間といった発話特徴に着目し,そのコントラストを検証することが有用である可能性を述べた.

  • 東山 雄一, 田中 章景
    2018 年 34 巻 1 号 p. 45-62
    発行日: 2018/03/25
    公開日: 2018/04/28
    ジャーナル フリー

    外国語様アクセント症候群(foreign accent syndrome:FAS)とは,同じ母国語を使用する第三者が“外国語のようだ”という違和感を持つような発話障害を特徴とした症候群である.比較的稀な症候ではあるが,これまで100例以上の報告がなされており,発話障害の特徴として,音の高低や強弱,リズム,音調などのイントネーションの異常といった超分節素の障害や,母音・子音変化などの分節素の障害が報告されている.脳卒中以外にも様々な原因疾患で生じることが知られており,その責任病巣については左中心前回など左半球による報告が多いが,右半球や脳幹,小脳病巣での報告もあり多様である.このように,FASは原因も病巣も様々であることから,そもそも“症候群”として扱うほどの一貫性や普遍性があるのか,発語失行(apraxia of speech:AOS)との異同についてなど未解決の問題が山積している.

    今回,FASを呈した自験例の紹介と既報告例を振り返ることで,FASの特徴や発現機序などについて考察を行った.特に日本人FAS例は,英語アクセント型と中国・韓国語アクセント型の2つに分類されることが多く,AOSの特徴が目立つ例では,母音や子音の長さの変化を特徴とした英語アクセント型に,AOSの特徴が目立たずピッチの障害が目立つ例は中国・韓国語アクセント型になる可能性が考えられた.

    また,失語症を伴わないFAS既報告例の病巣を用いたlesion network mapping解析を行った結果,喉頭の運動野(Larynx/Phonation area)として報告されている中心前回中部が,FASの神経基盤として重要である可能性が示唆された.

原著
  • 大石 如香, 永沢 光, 鈴木 匡子
    2018 年 34 巻 1 号 p. 63-73
    発行日: 2018/03/25
    公開日: 2018/04/28
    [早期公開] 公開日: 2017/12/01
    ジャーナル フリー

    仮名一文字と仮名単語の読みが乖離した左後大脳動脈領域梗塞による失読および失書例の読み書き障害について検討した.読みでは仮名・漢字とも単語では保たれていたが,仮名一文字と仮名非単語に選択的な失読を認め,なぞり読みは無効だった.音節に対応した仮名一文字の指示も低下していた.書取では仮名一文字と漢字単語で低下がみられた.仮名一文字の失読および失書を呈し,読めない文字と書けない文字が共通していたことから,仮名文字のイメージの脆弱性が示唆された.逐字読みを特徴とし,単語をまとめて読むことができない古典型純粋失読とは対照的に,本例では仮名一文字の読みの困難を単語全体の形態イメージで補う全体読みが可能と考えられた.

  • 近藤 正樹, 手塚 陽子, 水野 敏樹
    2018 年 34 巻 1 号 p. 74-82
    発行日: 2018/03/25
    公開日: 2018/04/28
    [早期公開] 公開日: 2018/01/24
    ジャーナル フリー

    アルツハイマー型認知症(AD)の症状は,早期は記憶障害が主体であるが,経過中に物品使用障害を認める.特に電化製品の使用障害が注目されている.本検討では,外来通院中のAD患者で電化製品を含めた日用物品の使用調査と簡易リモコンの使用課題を行った.日用物品の使用調査では電化製品,特にテレビのリモコンの使用障害が多い傾向がみられた.リモコン使用課題では,1/4の症例で誤反応が検出された.ボタン押し動作自体は可能であり,MMSEとの相関もみられたことから,認知症の重症度にかかわる失行以外の他の要因が関与している可能性も示唆された.

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