神経心理学
Online ISSN : 2189-9401
Print ISSN : 0911-1085
ISSN-L : 0911-1085
37 巻, 3 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
シンポジウムII 座長記
シンポジウムII 認知症の言語の症状 エッセンス
  • 小川 七世, 菅野 重範, 成田 渉, 鈴木 匡子
    2021 年 37 巻 3 号 p. 152-163
    発行日: 2021/09/25
    公開日: 2021/10/13
    ジャーナル フリー

    LPAの臨床診断基準が2011年に発表されてから約10年が経った.この間,LPAに関する英語論文は400本を越える.しかし中核症状に喚語困難と復唱障害という失語症ならば多くに認められる症状が挙げられていることもあり,臨床の現場においてLPAは,特徴的な言語症状を見出しづらく,いまだにわかりにくい概念であるといえよう.よって本論では,まず日本語話者の既報告からLPAの言語症状の特徴を整理して示す.また経過とともに出現してくる,言語症状および言語以外の症状についても言及する.最後に,最近の話題であるLPAとDLBの関係や,新たな診断基準に向けた動きについても紹介する.

  • 小森 憲治郎
    2021 年 37 巻 3 号 p. 164-170
    発行日: 2021/09/25
    公開日: 2021/10/13
    ジャーナル フリー

    語義失語は側頭葉前方部の神経変性に伴う意味記憶の選択的障害例,すなわち意味性認知症(semantic dementia:SD)において,最も際だつ言語症状である.SDに伴う語義失語のアセスメントの要点は,1)線画の呼称や指示にみられる単語の想起と理解の障害,2)漢字熟語の音読課題に現れる表層失読,3)諺の補完課題における補完現象の消失,4)慣用句の理解障害に象徴される言語性意味記憶障害である.早期から出現するSDの語義失語を見逃さないためには,概念知識の崩壊を示唆する会話中の独特な語用に着目することが肝要である.

  • 大槻 美佳
    2021 年 37 巻 3 号 p. 171-180
    発行日: 2021/09/25
    公開日: 2021/10/13
    ジャーナル フリー

    進行性非流暢性失語(nfvPPA)の診断に必要な要素的言語症候とその病巣,診断基準に準拠した診断手順を概説し,今日のトピックスを取り上げた.トピックスは以下である.1.発語失行のみを呈する群はPPAOS(primary progressive apraxia of speech)として,区分されるようになった.2.文産生障害が前景になる一群は,病状の進行とともに前頭前野の機能低下を示し,bvFTDに類似の病像になる可能性が高い.3.背景病理として,PPAOSは4リピートタウオパチーが多く,その他,TDP-43プロテイノパチー,3リピートタウオパチー(ピック病)などが報告されているが,出現頻度は報告により異なり,症候と疾患単位の関係はまだ十分確立していない.4.特殊型として,進行性前部弁蓋部症候群(進行性Foix-Chavaney-Marie症候群)を呈する一群があり,TDP-43プロテイノパチーを呈し,筋萎縮性側索硬化症と同様の疾患スペクトラムである可能性が示唆されている.

  • 石原 健司
    2021 年 37 巻 3 号 p. 181-190
    発行日: 2021/09/25
    公開日: 2021/10/13
    ジャーナル フリー

    進行性失語では病型により背景病理に一定の傾向がある.PNFAは左前頭葉後下部を中心とする病変でタウオパチーが過半数を占める.SDでは左側頭葉前端部を中心とする病変でTDP43タンパク異常症タイプCが多くを占める.LPAでは左側頭頭頂葉を中心とする病変でアルツハイマー病が多くを占める.神経病理所見を呈示する際は,肉眼所見(全体像,割面),組織所見の順に,診断の根拠となる所見を,病変分布とあわせて呈示する.病理診断で注意すべき点として,合併病理に注意する,初期症状と病理所見の間に時間差が存在することを理解する,白質病変(個々の神経線維束)の全長にわたる定量的な分析は困難,という3点が挙げられる.

ふしぎ発見!セミナー1
  • 福武 敏夫
    2021 年 37 巻 3 号 p. 191-200
    発行日: 2021/09/25
    公開日: 2021/10/13
    ジャーナル フリー

    ヒトは二足歩行により両手が自由になり,複雑な道具とジェスチャー,口頭言語を作り上げた.社会の発展と共に,書字がエジプト,中国,メソポタミアで独立に開始された.文字は経済と権威のために用いられ,情報の遠隔伝達を可能にした.日本に到った漢字は音と訓で読まれ,簡略形の平仮名と片仮名が造られた.現在までに漢字かな交じり文が標準的になり,複雑すぎるからと漢字廃止論が繰り返し叫ばれるも失敗した.それは,今の情報化社会では文字は打つものとなり,誰でも容易に文章を作成・拡散させうるからである.しかし,その容易さは「見かけだけの博識家」(プラトン)やフェイク政治家を生み出していることに注意が必要である.

ふしぎ発見!セミナー2
  • ―神経変性疾患の神経心理を画像診断から振り返る―
    川勝 忍, 小林 良太, 林 博史, 森岡 大智, 大谷 浩一
    2021 年 37 巻 3 号 p. 201-211
    発行日: 2021/09/25
    公開日: 2021/10/13
    ジャーナル フリー

    神経変性疾患に神経心理と画像診断との関係を理解するために,文の復唱障害を伴った意味性認知症で病理学的にアルツハイマー病と確認した症例を示した.症例は60歳代の右利き男性,6年前の発症で,呼称障害,単語の理解障害,表層失読ととも文の復唱障害を認め,画像診断では左側頭葉前部の萎縮,左側頭葉前部から左頭頂葉の血流低下がみられた.エピソード記憶や仕事や日常生活能力は保持されていた.言語症状は徐々に進行,7年の経過で死亡した.神経原線維変化は,左側頭葉前部,左中・下側頭回に多く,上側頭回後部,側頭頭頂接合部では少なく,ロゴペニック型よりも意味性認知症の病変分布であった.

原著
  • 小川 七世, 太田 祥子, 寺尾 心一, 鈴木 匡子
    2021 年 37 巻 3 号 p. 212-218
    発行日: 2021/09/25
    公開日: 2021/10/13
    [早期公開] 公開日: 2021/07/12
    ジャーナル フリー

    発語失行(AOS)は音韻障害とプロソディー障害に分けられ,どちらが主となるかで原発性進行性発語失行(PPAOS)をサブタイプに分けることが提唱されている.我々は音の途切れの目立つPPAOS 1例の発話をapraxia of speech rating scale-3を用いて分析した.その結果,音の歪み等の音韻障害を認めず,プロソディー障害のみを呈しており,純粋なプロソディー型PPAOSと考えられた.さらに,PPAOSのプロソディー障害の特徴とされてきた音の引き延ばしは目立たず,音の途切れが主となる点が特徴的だった.PPAOSにおけるAOSは,機能低下部位に応じて質的に異なる特徴を示すと考えられる.

feedback
Top