春まきコムギ (品種: 春よ恋) の初冬まき栽培における, 融雪直後の根の状態とその後の生存の関係を圃場試験と屋内試験で検討した. 圃場試験では北海道農業研究センター内の水田転換畑圃場に2003年と2004年の11月に春まきコムギを表面散播し, 散播と同時に除草レーキで土壌表面を攪乱した撹拌区と, 無撹拌区を設けた. 播種翌年の融雪直後に単位面積あたり個体数, 個体の発芽位置 (地中, 地表面), 地表面発芽個体の種子根数と地中貫入根数等を調査し, 春以降の生存率および子実生産量との関係を検討した. 屋内試験では地中に埋設する種子根数と土壌水分が生存率に及ぼす影響を調査した. 圃場試験において, 撹拌区では無撹拌区に比べて地中で発芽する個体の割合が高く多収であった. 地中で発芽した個体の生存率は両年共に90%以上と高く, 土壌表面で発芽した個体のうち, 融雪直後の地中貫入根数2本以上の個体も76~90%と比較的高い生存率を示した. また, 融雪直後の地中貫入根数2本以上の個体では, 1個体当たりの有効穂数, 1穂粒数, 千粒重が地中で発芽した個体とほぼ同等であった. 地中貫入根数は積雪下で伸長する種子根数が多いほど増える傾向が認められた. 屋内試験において, 個体が定着する前の乾燥により地中に貫入する根数とコムギの生存率が低下することが明らかとなった. これらから, 春まきコムギの初冬まき散播栽培では, 覆土により地中で発芽する個体を増やすこと, および積雪下で伸長する種子根数を増すことが, 越冬後の生存率と収量を高める結果につながることが示された.
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